アトピー性皮膚炎の治療計画


Endou Allergy Clinic




目次
     *QOL(人生の質)
     *アレルギーとは何か

(1).アトピー性皮膚炎の予後と疫学
     *治癒の状態
(2).乳幼児の治療
 @乳幼児アトピー性皮膚炎の特徴
 A.乳幼児アトピー性皮膚炎の治療の原則
 B.乳幼児アトピー性皮膚炎の原因・悪化要因
 C.乳幼児アトピー性皮膚炎患者のスキンケア(生後0カ月〜6カ月)
     *発疹のできかた
 D.乳幼児アトピー性皮膚炎患者のスキンケア(生後8カ月〜)
     *乳幼児の掻かせない工夫
 E.乳幼児アトピー性皮膚炎のかゆみ止め
     *乳幼児のかゆみ止めの飲みクスリ
 F.乳幼児アトピー性皮膚炎のアレルギーについて
 G.乳幼児アトピー性皮膚炎の外用剤について
(3).学童期の治療
 @.学童(小児)期のアトピー性皮膚炎の特徴
     *特定の部位について
     *汗疹(あせも)

 A.学童(小児)期のアトピー性皮膚炎の原因・悪化要因とその対応
(4).成人期の治療
 @.成人期のアトピー性皮膚炎の原因・悪化要因
     *リバウンド(反兆)現象
 A.成人期のアトピー性皮膚炎の特徴
     *リンス
     *妊娠による湿疹
 B.成人期のアトピー性皮膚炎のステロイド外用剤
 C.成人期のアトピー性皮膚炎の抗アレルギー剤
    *抗アレルギー剤・抗ヒスタミン剤の飲み方、減らし方
    *抗アレルギー剤・抗ヒスタミン剤の代謝と併用注意
     *後発品について
     *受診の心得
 D.成人期のアトピー性皮膚炎の内服剤
     *プロバイオティクス、腸内細菌叢
     *よい医者のさがし方


 アトピー性皮膚炎を治療する場合、まずどのような異常が起きているか、じっくり客観的に観察し、理解する必要があります。
 敵を知らずして対応することはできません。
 アトピー性皮膚炎の湿疹と思っていても、他の症状が混じっていることも少なくありません。

 少なくとも、その皮膚症状が、

湿疹(すぐに治せといわれると、ステロイド外用剤)なのか、
じんま疹(止めろといわれると、抗アレルギー剤の内服)なのか、
単に皮膚がカサカサ(なんとかしろといわれると、保湿剤の外用)しているだけなのか、
引っ掻いたただのキズ跡(感染が心配なら、消毒か抗生剤入りの外用剤)なのか、
引っ掻いてできたキズが二次感染して、細菌が入ったものなのか、
伝染性膿痂疹(とびひ)のような細菌感染症なのか、
単純ヘルペス・帯状疱疹のようなウイルス感染症なのか、
水虫(カビですが、全身にできることがあります)やマラセチアのような真菌感染症なのか、

 見分ける眼が必要です。

 そんなことは医師の仕事だと簡単に片付ける意見はあるかもしれません。
 しかし、慢性の治りにくい病気にずっと付き合っているのは、患者自身です。
 症状は日々変化するものです。
 医師は、もしかすると、せいぜい1カ月に一度くらいしか、いい加減にみているだけかもしれません。

 アトピー性皮膚炎の治療は、
 ・年齢(乳児・小児・成人)、
 ・生まれつき持っているアレルギーの有無と程度、
 ・湿疹の原因や悪化要因、
 ・症状の程度や部位、
 ・生活や精神環境など、
様々な条件で異なります。

 たとえば、乳児と成人では、アトピー性皮膚炎に対する考え方や薬の使い方は全く違います。
 同じ年齢であっても、症状の強さや湿疹がどこにあるかで、対処の方法が違ってきます。

 女の人が顔に少し湿疹があり、ちょっとばかり色素沈着しているだけで、ひどく神経質になっていることもあります。

 患者の社会的位置、たとえば時間のある学生、乳児をかかえた主婦、休む暇もないサラリーマンとでは治療が異なりますし、医学的知識のある医師とあまり知識のない人でも違ってきます。

 患者の希望、たとえばすぐによくならないと気がすまない患者と、ゆっくり副作用の少ない治療でやりたい患者の間でも異なります。
 薬と名前のついたものは一切使いたくないひともいれば、どんなことをしてもよいから早く直したいというひともいます。

 患者の精神状態や祖父母の意見が治療に影響を及ぼすこともあります。
 父母の間で意見が違うこともあります。

 従って、全く同じ年齢で同じような症状の患者であっても、全く異なる治療法になる可能性があります。

 それでは、一体誰が治療法を選ぶのか、ということが問題になります。
 それは間違いなく患者自身です。
 医師は患者にいろんな知識を与える存在でしかないのです。

 


 

アトピー性皮膚炎のような慢性疾患においては、
医者は様々な情報を与える教師に過ぎず、
実際に治療するのは患者自身です。

 


 アトピー性皮膚炎などの慢性のなおりにくい病気の場合、治療の根底にあるものは、あくまで原因や悪化要因の除去です。

 こんなことをいうのは、とても簡単ですが、どうしてもそれらを除けない場合の方が多いのです。
 「とすれば、どうすればよいのか」、というのが、このマニュアルの存在理由です。
 「それぞれの患者さんにとって、治療について最善の選択は何か?」ということです。

 
これらのことは、アトピー性皮膚炎の治療がマニュアル化しにくい理由にもなっています。

 これまで日本皮膚科学会やアレルギー学会から治療指針が提示されています。
 しかし、それらは医師の立場から、治療の内容を表面的に羅列したものに過ぎず、患者の立場やQOL (Ouality of Life)を考慮して示されたものではありません。

 QOL (Ouality of Life、人生の質)
  病気とそれの治療が患者に及ぼす影響については、患者ごとに異なります。
 それは患者自身の感じ方や考え方、精神状態、社会的立場でも違ってきます。

 たとえば、ステロイドを使ってでも仕事を続けたいという患者もいれば、副作用は怖いから少しくらい湿疹がひどくてもステロイドをぬるのは我慢したいという患者もいます。
 QOLはその人 自身の感じ方や考え方を表したものであり、その基準は各自で異なっています。

 しかし、一般的には、社会通念から判断して、湿疹があるために通常の社会生活が送れない状態は好ましくないとされ、人生の質すなわちQOLが低くなっていると判定されます。
 また、患者のQOLを改善するのは医師の責任とも言えます。

 
ただ、治療法を選ぶとき、次のような原則があります。

@.より効果のあるものを選ぶ。
A.より副作用の少ないものを選ぶ。
B.より楽なものを選ぶ。
C.より安いものを選ぶ。
D.より気分がよい(不安のない)ものを選ぶ


 @〜Dのどれを優先させるかは、患者によって異なります。
 しかし、@からDまでのすべてで最良のものを選択することはできません。

 @・B・Cを優先すると、どうしてもAやDに問題が生じてきます。
 アトピー性皮膚炎で@・B・Cを最大限に優先させた治療は、ステロイドの注射やそれの内服になります。

 なお、私自身はあくまで患者の希望に従って治療しますが、患者の希望と私自身の治療法が合わないときは、極端な場合、治療を拒否することがあります。

 私は、ステロイドの筋注や点滴は、慢性のアトピー性皮膚炎では絶対にやりません。
 ステロイドの内服は、他医ですでに長期、大量に用いられているとき、中止すると何が起きるか分からないときは、量を少しずつ減らして、仕方なく処方することがあります。
 ただ、すべての外用剤に接触皮膚炎を起こしているとき、仕方なく内服に頼らざるを得ないことはあるかもしれません(まずは無外用の選択かもしれませんが)。

 そうはいうものの、患者の声を医師はじっと耳を傾けて、お互い納得するまで話し合うことも必要です。

 アレルギーとは何か
(とても重要、まずこれを理解すること)
 
 まず免疫の話から。
 
免疫とは、ヒトの体内に入ってくる自分以外のもの、異物いぶつから自分を守るメカニズムのことです。
 そんな防御反応が、異常に、過剰に働いて、ヒトにとって
不都合なことが生じたものをアレルギーと呼んでいます。

 自分でない異物で生体に危害を及ぼす可能性のあるものといえば、細菌やウイルスなどの
感染性の微生物です。
 早い話、風邪をひいたら、
「じんましんができた」、
「湿疹ができた」
「かさかさになった」
「喘息になった」
「熱性けいれんがでた」
「めまいをおこした」
というような症状はいずれもアレルギーということになります。
 アレルギーが
起きている部位によって、また、アレルギー反応の違いによって、症状が違ってくるということです。

 ところが、卵・牛乳のような食べ物、ダニや花粉などの吸い込むもの、化粧品やシャンプーなど皮膚に接触しているものも、自分でないもの・異物です。

 ということは、ヒトの体・免疫は、卵やダニはヒトの生存を脅かすようなものではないと、うまく判別していて、それらを受け入れているということになります。
 抗原をちゃんと認識して、大丈夫なものと危険なものを区別しているということです。
 食物の場合、腸管免疫が抗原認識に関与してますが、乳幼児の卵アレルギーはそんな抗原認識に異常があるということになります。

 卵や牛乳などの抗原を、ウイルス・細菌ではなく、危険なものではなく、体内から排除する必要はないと判断している状態、すなわち抗原認識のメカニズムが正常に機能している状態を、免疫寛容(トレランス)といいます。

 つまり、子供の食物アレルギーは、成長とともに、食べているうちに上手に抗原を認識できるようになると、自然に改善するということです(トレランスの獲得)。
 もちろん、少し食べただけでひどい症状ができるときは、食物制限を続ける以外に方法はありませんが。

 ところが、食物抗原が皮膚から体内に侵入すると、腸管を通過しないために、抗原認識が正常に働きません。
 このとき、体内に入った食物抗原が異物と判定され、体内から排除するメカニズムが働くことがあります。

 抗原(アレルゲン)が体内に侵入してアレルギーができることを感作(かんさ)といいます。
 皮膚から侵入したものでアレルギーが生じることを、接触感作(かんさ)といいます。
 接触感作の結果、化粧品や外用剤などで接触皮膚炎が起こり、加水分解小麦などでじんま疹が起こります。
 乳幼児の食物アレルギーは、しばしば湿疹のできた皮膚に食べこぼした食物がつくことで成立します。
 湿疹があると、皮膚のバリア機能が低下しているために抗原が体内に侵入しやすくなります。

 一方、前述しましたように、接触感作が生じた抗原を食べると、腸管免疫が働いて、その抗原に対してトレランスが成立することがあります。
 ダニや花粉などのアレルギーが一度起きてくると治りにくいのですが、これらを食べると改善する可能性を示しています。

 話は変わりますが、ヒト自身が体の中でつくっているもの(タンパク質など)を間違えて、異物と判定することがあります。
 自己という存在を異物と認識すると、自己を排除するメカニズムが現れます。
 これが自己免疫疾患、いわゆる膠原病です。

 最近分かったことですが、軟便・下痢・便秘など何らかの腸内細菌に異常が続いている患者に、それまでなかった卵白・牛乳・小麦などの食物アレルギーが出現したり、それまでよくなっていた食物アレルギーが復活することがあります。
 異常な腸内細菌が、食物アレルギーなどの免疫異常を誘発しているということです。

 免疫を担当しているのは白血球です。
 白血球には、好中球・リンパ球・好酸球・単球などいつもは血液中にあるもの、マクロファージ・組織球・ランゲルハンス細胞など組織の中にあるものに分けられます。
 リンパ球も、いろんな種類があります。

 免疫は、自然免疫と獲得免疫に分けられます。

 自然免疫は、異物の種類に関係なく、それまで接触した機会がなくても、異物に接触し、捕まえたり、食べたり、殺したりする作用です。
 異物が侵入したとき最初にかかわるものです。
 血液中の好中球や単球、組織内のマクロファージやナチュラルキラー(NK)細胞などが関与しています。
 これらの細胞は異物を捉えると、放出した物質が同時に獲得免疫系を誘導しているともいわれています。

 一方、獲得免疫は、特定の異物に対して、あとから作用を及ぼすもので、しばしば記憶されて、長期に残ります。
 獲得免疫で、免疫担当細胞として白血球が相互に働いているものを細胞性免疫といい、Bリンパ球などから作られる抗体やリンホカインが関与しているものを液性免疫といいます。

 アレルギーはIgE抗体だけの問題ではありません。

 それら免疫担当細胞のどこに異常があるか、制御を担当するT細胞やB細胞などが関与する相互のネットワーク・クロストークの問題もあり、アレルギーはいまでも謎が一杯です。


1.アトピー性皮膚炎の予後と疫学

 アトピー性皮膚炎を治療するとき、まず第一に、長い目で病気を見たときどのようになるか考える必要があります。

 アレルギー疾患は、子供の場合、成長によって自然治癒ちゆ(自然寛解かんかいする場合が多いと思われます。
 これは、一般にoutgrow(アウトグロー)と呼ばれています。
 outgrowは、成長することで、自分の持っている免疫的異常(アレルギー)を押さえ込んでしまうことを示しています。

 乳児の相当ひどい湿疹でも、かなりの割合で1歳を過ぎれば軽快(けいかい、症状が軽くなること)します。

 当科では、乳児期に発症した湿疹で1歳を過ぎて残っている割合は、10%以下と考えています。
 子供のアトピー性皮膚炎の治癒率は84%というWickersらの報告があります。

 乳児の湿疹の多くは、乳児期という免疫的に未熟な状態に加えて、たとえば感冒などの感染症が多いことが原因になっています。
 アレルギーはそのような状況で付随的に登場したものと考えることができます。

 この感染微生物(細菌、ウイルスなど)に対するアレルギーが主役を演じている場合、いろいろさがしても検査でアレルギーの見つからない患者が多数います。

 冬の間ずっと鼻水をたれているようなとき、その子供は体のなかにいる感染微生物を追い出す能力が低いということです。
 それは、子供であるために免疫がまだ完成されていないことによる場合もあれば、生まれつき他の子供に比べて白血球の働きが悪いか、うまく抗体ができないことが考えられます。
 さらに、子供であるために、皮膚の皮脂成分の分泌が不十分であるために、皮膚のバリア機能が未完成ということです。

 そこに感染微生物に対してアレルギーがあれば、湿疹、じんましん、かさかさした皮膚、喘息様気管支炎などできることになります。

 ということは、子供のアレルギーは、かなりの部分が、成長・発達することで免疫ができてくればよくなるということです。
 とすると、乳幼児のアレルギーに対する長期的な作戦は、いかにして子供を成長させるかということになります。
 成長するためには、いろんなものをバランスよく食べることが重要です。
 好き嫌いの多い子供は、アレルギー疾患の治りが悪いといわれています。

 というものの、多くの食物にアレルギーがあるとき、それらの食物をどうしても制限するしかない場合があります。
 また、成長することで獲得した免疫でも押さえきれないくらい強いアレルギーを持っていると、なかなか治りにくいということになります。

 その意味で、本来症状の軽くなる時期に初発したアトピー性皮膚炎は、なぜ症状が出現したのか考える必要があります。
 アレルギーが残っていれば、湿疹→鼻炎→喘息→湿疹というように、症状のでる部位が変化することもあります(アレルギーマーチ、Th2→Th1への変化)。
 いずれにせよ、気管支喘息やアレルギー性鼻炎がひどくなると、アトピー性皮膚炎の湿疹は軽くなります。
 喘息や鼻炎でステロイド内服や吸入を繰り返していると、それらを中止したとき、しばしば湿疹の悪化が誘発されます。

 
思春期は、子供の体質が少しずつ成人に変わる時期です。アトピー性皮膚炎の湿疹は、できれば小学校の低学年のうちに、ステロイド外用剤からサヨナラしたいものです。
 それでも、夏場に汗をかくと悪化するのは多少仕方がないかもしれません。

 生理が始まり、それまでの湿疹が急によくなることも珍しくありませんが、この時期に初めて症状が現れる患者も少なくありません。
 乳児期に湿疹があり、その後よくなっていた湿疹が、この時期に再発する場合もあります。

 受験・進学・友人関係などの精神的・肉体的ストレス、引っ越しなどの環境的変化、内科的疾患に伴うアレルギー的問題、その他いろんなことがアトピー性皮膚炎の初発・再発の要因になります。
 化粧品や毛染めやピアス・ネックレスを使い始めたり、汗を大量にかくスポーツをしたり、夜遅くまでアルバイトや遊んだり、炊事や洗濯・掃除などの家事を手伝うようになったり、お酒を飲んだりやたばこを吸ったりと、アトピー性皮膚炎を悪くしそうなものは数え切れないくらいたくさんあります。

 乳幼児の湿疹が、よくならないまま思春期以後も続く場合、原因悪化要因を明らかにしない限り成人になってもある程度湿疹が続くと考えられます。

     治癒ちゆの内容もまた年齢で異なります。
 
治癒(略治りゃくち)状態は次のように定義されます。
             一つの目標・目安です。
 
  乳児:ひっかいた湿疹が全くない状態だが、乾燥肌は残っていることもある。
  小児:夏にあせもができる程度で、冬は軽い乾燥肌。
  成人:肘窩などの汗部位に湿疹はあるが、ステロイドをつけなくても広がらない。

 ステロイド外用剤、食事制限など積極的な治療をやっていない状態ですが、患者さんの症状のレベルやアレルギーの数値が強ければ、ごくたまにステロイド外用剤を使うような状態も含まれます。

 成人
になると、年齢とともに徐々に症状が軽くなります。
 実際、大阪府立羽曳野病院、現在大阪府立呼吸器・アレルギーセンター皮膚科の入院患者で30歳以上はそれほど多くありません。
 しかし、成人になって初めて発症したアトピー性皮膚炎は、悪化要因が多種多様にわたり、なおりにくい傾向があります。

 東洋人(黄色人種)は、白人や黒人に比べてアトピー性皮膚炎にかかりやすいといわれています。
 白人では一生の間に湿疹が出る頻度は生まれた子供の大体15〜20%という報告が多いようですが、日本人では20〜30%にも達しています。

 気管支喘息やアレルギー性鼻炎、結膜炎、蕁麻疹を含めると、アトピー疾患全体で50%を越えている可能性もあります。
 人類の半分が持っているものを果たして異常と言えるか、疑問にも感じます。 
        (参考 乳幼児アトピー性皮膚炎と両親のアレルギー調査)(学会報告

 乳幼児のアトピー性皮膚炎は男性に多い傾向がありますが、成人になると、むしろ女性の比率が高くなります。
 全体としてみると、男女比はほぼ1:1となっています。
 乳幼児のアトピー性皮膚炎が男の子に多いのは、男の子が女の子に比べて風邪などの感染症にかかりやすいことが原因かもしれません。

 アトピー性皮膚炎の発症年齢(病気が最初にできた年齢)は、5歳以下が85%以上を占めています。
 20歳を越えて初めて発症した割合は、とても少ないようです。
 成人になって湿疹が現れたと思っている患者でも、患者の母親によく聞いてみると、子供の時湿疹があったという例が多いようです。

 成人型アトピー性皮膚炎では、概して男性はしばしばストレスを含めた仕事に原因があり、女性は化粧を含めた外用剤の接触皮膚炎・自宅の環境・精神的ストレス・婦人科系の内分泌異常などに原因を求めることができます。

 アトピー性皮膚炎の原因はしばしば単一ではなく、また患者ごとに異なっていると考えるべきです。
 アトピー性皮膚炎の予後、すなわち湿疹がなおるか、なおらないかについても、個々の症例で異なり、予測できない部分が多いのです。

 
アトピー性皮膚炎の場合目的地は同じであっても、必ずしも同じコースをたどるとは限りません。
 そのコースはステロイドを使うか使わないかでもかなり違ってきます。

 ステロイドの外用は、ごく一般的で最も楽なコースです。
 このコースを進んでも、おそらく多くの患者は最終目的地の治癒に到達すると考えられます。
 もちろん、一部の患者は目的地に着かない可能性はあります。
 行ったコースが正しかったかどうか、出発地では判断できないことも多いようです。

 ステロイド外用剤を使わないコースでも、多くは同じ最終目的地に到達します。
 そのコースはおそらく平坦な歩きやすいものではありません。
 このコースの方が目的地に着きやすいかどうかもわかりません。

 しかし、大量にステロイドを使用せざるを得ない状態は、アトピー性皮膚炎が重症であり、自然治癒に到達するのが難しいことを意味しています。

 従って、重症患者をどちらのコースを歩ませるべきか、ステロイドを使わないコースが難所の連続であるだけに選択に迷うところです。


2.乳幼児の治療

@
乳幼児アトピー性皮膚炎の特徴

 
乳幼児のアトピー性皮膚炎には次のような特徴があります。

   (1).母からの抗体の無くなる生後4〜5カ月に症状のピークがあること。
   (2).乳児の湿疹は、冬季に悪化し、夏になると良くなること。
   (3).年齢を重ねると共に、成長とともに、患者の多くは良くなること。
   (4).早期から顔に症状の強い患者ほど強いアレルギーを持っていること。
   (5).2、3歳以降、湿疹が悪化したときは、悪化要因がなくならない限り治りにくいこと。
   (6).感染症を繰り返しながらアレルギー状態が悪化するときは難治であること。

 前述しましたように、かなり症状の強いアトピー性皮膚炎の赤ちゃんでも、1歳過ぎると良くなることが多いようですが、必ずしも全員がそのようなコースをたどるわけではありません。
 (子供の症状や検査値の変化についてはこちらも参考にして下さい)

 とりあえず次の夏に良くなることを目標にします。
 それまでかなり症状が強かった患児でも、連休を過ぎて、6月ころになると急によくなります。

 そうはいうものの、感染微生物がしばしばアレルギーの要因になっているために、秋から冬になって、再び悪化することも少なくありません。
 とにかく乳幼児は、風邪をひいて、それがだらだらと鼻水程度で続いているとき、湿疹やじんま疹、乾燥肌、気管支喘息が悪くなります。
 感染微生物に対するアレルギーが主体の時は、それらに対する免疫力が低い間はなかなかよくなりません。

 1歳の夏によくならなければ、2歳の夏に湿疹がなくなるのを目標にします。

 なお、首が据わる4カ月ころまでは、かゆくても上手に引っかけません。
 体や四肢は少し厚めの衣類でおおっておけば、少しくらい湿疹があってもそれほど悪化しません。

 その意味で、首から下をすっぽりおおってしまうような着ぐるみは、引っ掻いて悪くしないのでよい治療になります。

 乳児は、下肢を引っ掻くことはできず、たいていは下腿と下腿をこすりつけているような患児が多いようです。

 かゆみは引っ掻いて軽くなる傾向があり、それだけにかゆみで泣いたり、目を覚ましたりします。

 ところが、顔面は首が据わる前ころからさかんに引っ掻くために、どんどん悪くなり、黄色ブドウ球菌の二次感染も加わり、簡単にはよくなりません。

              
よくなるときの自然経過
          
乳幼児の湿疹は、普通、秋から冬にかけて悪化し、夏が近づくにつれて少しずつよくなります。
夏によくなっても、秋から再び悪くなることが多いようです。
とはいえ、よくなるサイクルでは、前の年の冬ほど悪化しないようです。
ただし、小児期以降、悪化するときは、
のためにしばしば夏季に悪化し、ピークを夏季に、同じように階段状に悪化します。

A.乳幼児アトピー性皮膚炎の治療の原則

 
ステロイド外用剤は、特に乳幼児の場合、患者の副腎皮質機能に影響しない程度に留めておくのが望ましいと思われます。
 局所の副作用の問題も含めて、どの程度までなら大丈夫となるとはっきりしません。

 ステロイド外用剤を湿疹ができないような(予防的な)使い方は、決して好ましいものではありません。
 ステロイド外用剤は、あくまで症状をよくするだけの対症療法の薬です。
 抗炎症剤として、ひどい湿疹を改善させる目的(湿疹が湿疹をつくっているような悪循環を断つ)で使用すべきです。
 単なるかゆみやかさかさ程度で使うのは好ましくありません。
 特に、何もしなくても自然に消えるようなじんま疹には、ステロイド外用剤を使ってはいけません。

 一方、患者の成長がアトピー性皮膚炎を自然治癒に導くとするならば、ある程度ステロイドを外用して湿疹を少しでもよくして、十分睡眠をとりやすくする方がよい場合もあります。

 ただし、
   
 アトピー性皮膚炎の治療の原則は、
悪化要因・原因の除去です

 
そんな悪化要因や原因がすぐにはなくならないようなものであるときや、年齢や季節とともに改善されるときは、のんびり構えて患児の成長を待つといった気持ちが必要です。


B.乳幼児アトピー性皮膚炎の原因・悪化要因

 下記の@の子供の未完成は遅い早いはありますが、いつかそのうちに完成されます。
 ということは、その未完成がいつまでも続くとき、湿疹を成人まで持ち越すことになります。
 また、この未完成には、Dの栄養やEの発達異常が関係してきます。
 疫学的には、アトピー性皮膚炎患児には小さい子供が多く、気管支喘息の患児には太り気味の子供が多いということです。

 
乳幼児アトピー性皮膚炎の原因・悪化要因には、

 
@.免疫内分泌自律神経系皮膚のバリア機能の問題、すなわちそれらの未完成
 A.免疫が未完成であることによる細菌・ウイルスなどの全身性の
感染症に対する反応
      アジュバント:免疫・アレルギーを強くするもの。
 B.黄色ブドウ球菌・溶連菌などの皮膚の二次感染とそれらによる
アジュバント反応
 C.ペット・ダニなどの吸入アレルゲン、その他
腸管以外から進入する抗原に対する反応
 D.食物アレルギーと食べられないことによる
栄養・成長の問題
 
(好き嫌いが多いために足りない栄養成分があること、食べる量が少ないために必要量の栄養がとれていないこと。このような偏食・少食は、成長期には免疫系・ホルモン系・自律神経系に重大な影響を及ぼします。)
 E.発達異常 あるいは発達前の状態であること


などがあります。

 ある程度乳幼児であるためのいろんな未完成は多少仕方ないというものの、特に、Aの感染症は、冬季にアトピー性皮膚炎を悪化させる重要な要因になっています。
 感染症として最も多いものは、ライノウイルスやRSウイルスなどのウイルスかもしれませんが、いつも扁桃腺に居着いている溶血性連鎖球菌(溶連菌)や抗生剤の使いすぎによる腸内細菌の異常も重要です。
 乳幼児は粘膜系の防御機能がとても低くなっており、鼻から肺に至る気道粘膜だけでなく、口腔から大腸に至る腸管粘膜もまたしばしば異常になっています。
 それだけに、異常な溶連菌や腸内細菌が増えやすい状態になっています。
 (下記のプロバイオティクスと腸内細菌叢のコラム参照のこと)

 このような感染症は、胎盤を通じて母親からもらっていたIgG抗体が少なくなるにつれてかかりやすくなります。(学会報告
 このことは、前に述べました生後4,5カ月の症状のピークとも関連します。
 いろんな感染症については、兄姉や父母から感染する他に、保育所などに預けていると多くなります。(学会報告

 幼稚園や保育所に入って集団生活するようになると、急に感冒などが多くなり、湿疹が悪くなる例も少なくありません。

 風邪をひいて喘息様気管支炎や気管支喘息、アレルギー性咳嗽などの呼吸器のアレルギーも併発する患者さんも多数見られます。
 これらは、感染症のアレルギー反応が、皮膚だけでなく、呼吸器でも起きていると言うことになります。

 なお感染症については、衛生仮説として、ある程度かかった方がむしろアレルギーが少なくて済むという意見があります。
 このことについては、果たして日本人にも当てはまるかどうか疑問に感じています。

 冬季のかさつき(ドライスキン)や体幹の発疹環状貨幣状や円形の湿疹)はこの感染症がひとつの要因になっています。
 この体の環状疹・貨幣状湿疹は、一般にステロイドを塗ってもあまり効果はありません。

 かゆみが強くなければ、衣類を着ていれば引っ掻きにくいこともあり、積極的に治療するのはやめて、悪くならない程度で経過を見ながら、夏に良くなるのを待つ方がいい場合があります。
 体内に常在する細菌・ウイルスが原因になっているとき、このタイプの湿疹が何年も続くことがあります。

 アトピー性皮膚炎を心配するなら風邪をひかせるなということかもしれません。
 あるいは、風邪をひかない元気な体をつくれということです。
 もともと感染症に弱いからドライスキンやアトピー性皮膚炎ができるともいえます。
 成長とともに風邪をひかなくなれば、少しずつ湿疹はよくなります。

 いずれにせよ、感染症が原因と考えられるときは、やり過ぎない程度に治療しながら、感染症の少なくなる夏場を待つということになります。

 慢性の扁桃炎・溶連菌感染症なども湿疹の原因になることがあります。
 扁桃肥大は4、5歳ころ最大になります。
 アトピー性皮膚炎患者では、成人になっても肥大している扁桃をしばしば見かけます。

 ヘルペス属の水痘や単純ヘルペス(カポジ水痘様発疹症)にかかると、しばしばその後の湿疹が悪化する場合があります(大人では単純ヘルペスをくりかえすようになると、むしろ湿疹は軽くなります)。
 中には、新型インフルエンザにかかってから急に湿疹が悪くなった患者もいます。

 ただ、一般に高い熱が出ているときはほとんどかゆみがなく、重症の感染症などにかかってから、急に湿疹がよくなったという患者もすくなくありません。
 もちろん、その逆も多数います。

C.乳幼児アトピー性皮膚炎患者のスキンケア(生後0カ月〜6カ月)


 本来乳幼児は皮脂が少なく、風邪をひいたりすると、さらに乾燥肌(ドライスキン)になります。

 乾燥肌に様々な刺激が加わると簡単に湿疹になります。

 新生児期は比較的皮脂が多く顔面にニキビ様の新生児ざ瘡ができることがあります。
 1カ月検診でこの新生児ざ瘡に対してよく洗って下さいといわれて、セッケンをつけてごしごしやっていると、乳児の顔や頭に湿疹ができます。

 乳児は1カ月前ころを境にして急にドライスキンに変わります。
 頬部の皮脂を測定してもほとんど0に近い値になっています。

 父母が抱くとき、乳児のほおに自分の衣類でこすれていないか注意して下さい。

 寝返りする生後5カ月ころになると、よだれがついたり、シーツにこすれたりして、それらの刺激のために頬部の湿疹がひどくなります。

 こすれることなどが原因になっている刺激性の湿疹はかゆみはあまり強くなく、多くはまだステロイド外用剤を使う必要はありません。
 プロペト・ワセリン、アズノールなどよだれをはじくような保湿剤で十分対応できます。

 歯が生え始めると、さらによだれが多くなり、よだれの刺激で顎部(アゴ)や頸部(くび)に湿疹が広がります。
 特に、食物アレルギーがあると、離乳食の始まる前から、しばしばアゴや首、眼周囲、耳前周囲などにびらんを伴った湿疹が広がります。

 離乳食が始まり、よだれの中にアレルギーを起こす食事成分が加わると、かゆみがひどくなり、びらんや浸出液が出るようになります。
 そうなると、引っ掻くことに対して、かゆみ止めののみ薬などが必要になります。
 あまり湿疹がひどくなると、ステロイド外用剤も必要になります。

 びらんが強く浸出液の多いところにワセリンタイプのステロイドを含まない外用剤をつけると、黄色ブドウ球菌が増えてしまい、よくありません。
 ステロイド外用剤を使いたくなければ、亜鉛華軟膏に抗生剤の外用剤を併用するか、それでよくならなければ弱いステロイド外用剤を亜鉛華軟膏に混ぜて使うしかないかもしれません。

 浸出液がなくなれば亜鉛華軟膏は乾きすぎる傾向があり、ワセリンタイプに変更した方がよいでしょう。

 汗のシーズンになれば、体や四肢は、ヒルドイドソフトなどのクリームやローションに変更するのもよいでしょう。

 いずれにせよ、かゆみで患児が夜間何度も起きたり、泣いたりするために、家族全員睡眠を妨げられていらいらしているときは、抗アレルギー剤の内服とステロイド外用剤を使用するしかないかもしれません。


重症の乳児アトピー性皮膚炎(いずれも生後4カ月)。
強いかゆみでひっかいて、びらん・浸出液が大量に出ています。
IgEは非常に高く、多数の食物に対して強いアレルギーを持っています。
ガーゼをそのまますると、くっついてしまいます。
ステロイドを使わないときはしばしば用いられる外用剤は亜鉛華軟膏です。
ガーゼに亜鉛華軟膏をヘラ(平べったいものであれば何でも可)で広げて、びらん部にはりつけ、上から包帯やネットで取れないようにして下さい。



4カ月の重症のアトピー性皮膚炎(右は同じ患者3歳)です
乳児期の症状が悪いからといって、その後の経過とは必ずしも相関しません(治りにくいというわけでもありません)が、なおりにくい患者さんが多いのも確かです。

 
口の周りやヨダレの垂れるところに、びらん、浸出液のある湿疹がみられるときは、多くは食物アレルギーを伴っています。

 多くは卵白アレルギーを伴っていますが、多数の食物でアレルギーがある患者さんも少なくありません。
 アレルギーを伴った湿疹は、ドライスキンに刺激が加わっただけの湿疹に比べて、非常にかゆみが強いために、ひっかき傷が多数見られます。

 その食物アレルギーを調べるために、また、安全に離乳食を進めるためには、皮膚テストや血液検査が必要です。

 
 発疹のできかたには、次の2種類があります。

  1.
アレルギー反応
  2.
刺激反応・・・水仕事などによる手湿疹が代表的なものです。

 乳児の顔〜頬、胸の湿疹の原因は、よだれによる慢性の刺激とよだれの中に含まれる食物によるアレルギーの両方が考えられます。
 単なる刺激が湿疹の原因のときは、保湿剤で十分かもしれません。
 湿疹がアレルギーが原因で起きているときは、かゆみが強く、乾燥肌に対する保湿剤だけでは対処できないことも多いようです。
 アレルギーが見つかれば、単に食物だけでなく、
いろんなものに起きていると考えた方がよいでしょう。
 とくに感染症に対しては検査の項目がなく、見落としがちです。


D.乳幼児アトピー性皮膚炎患者のスキンケア(生後8カ月〜)

 
生後8カ月ころになり、ハイハイし始めると、這って手足のこすれるところに湿疹ができるようになります。
 手指を使うのが上手になり、ひっかいて悪化しやすくなります。

 一人歩きをし始めると、靴が当たる足首や足の裏に湿疹ができます。裸足で靴をはくとひどくなります。指をなめると、なめたところに湿疹ができます。
 これらはすべて皮膚刺激が原因となってできた湿疹です。
 衣類、靴下などを上手に併用すると効果があります。

 乳幼児の掻かせない工夫
 
1.よく掻いているところを衣類、ガーゼ、包帯などでおおう
  特に長袖・長ズボン・つなぎ服がおすすめ。
2.母が一緒にやさしく、無難な程度に掻いてやる。
3.夜間、ベッドや衣類に縛る(あまり勧めたくない最終手段です)。
4.昼間、かきはじめると両手におもちゃを持たせるなど注意をよそに向ける。
5.かゆいところを冷やす。シャワーを浴びる。



グー。
親指を中に入れて握り、日本手ぬぐい、ガーゼで上を覆います。
手指を使わせない工夫です。
患者が一人でやるのは難しいようです。
同様のものの市販品(かゆいっこ)があります。
指先を使うのも発達の上で重要ですので、あまりひっかかないときは、昼間は指を出してあげましょう。



全身、さらし巻きです。湿疹がひどく、ひっかき傷やびらんのある患者に向いています。
あまり暑いときはエアコンが必要です。
寒い時期は裏返して着た衣類の上から巻くのもよいようです。



赤ずきんちゃんです。
皮膚に何か当たっているとかゆみは軽減します。
右図は亜鉛華軟膏を一種の接着剤としても用い、皮膚をガーゼ保護し、掻破を抑制しています。
入院患者にやっていますが、自宅では難しいかもしれません。



四肢の保護はガーゼ、包帯を用いますが、古くなった衣類で代用してもよいでしょう。
まくり上げ防止として袖口をくくったり、つなぎ、タイツも有効です。
伸縮包帯は注意しないと締め付けすぎる傾向がありますので、巻きすぎにご注意下さい。



チュビファーストという筒型の包帯で全身をおおった人形です。
何か当たっているとかゆみが少なくなります。
顔面の湿疹がひどいときは、このような形で湿疹のひどいところをおおいます。
顔面に用いる外用剤は、亜鉛華軟膏、ALZ-1、RPP-1などです。
二次感染があれば、抗生剤の外用剤や内服を併用することもあります。

四肢をおおうのにもよいようです。


マジックバンドを用いた肘の保護材患者の母親の製作です。
タオル地はガーゼ・包帯より軟らかく、汗もよく吸収してとてもよい素材です。
肘窩は伸縮しないタイプのガーゼを巻いて、皮膚につかない形でテープ固定し、上からさらにネットや包帯をするのもよい方法です。


手首、足首の袖口をひもでくくる。
上着のすそにボタンをつけて、ずぼんとつなぐ。
四肢・体幹をかけないようにする工夫です。



つなぎ・タイツです。
掻けないような工夫としてはとてもよい方法です。
素材は綿がなければ、かゆくなければ化学繊維でもよい。
母親のアイデア一つで結構よいものができます。
この患者さんはステロイド外用剤を用いていませんが、湿疹はありますが、ひっかき傷はなく、上手く対応していると言えます。


 
乳幼児はかゆみに対して我慢することが少なく、掻いて湿疹を悪化させたり、伝染性膿痂疹とびひ)や溶連菌感染症などの二次感染を起こすことが少なくありません。
 とくに、春から夏にかけて、汗のかいたところ、汗疹あせもができたところ、キズのできたところは、ひっかくととびひになりやすいようです。
 露出部はとくに注意が必要です。

 キズができたときは、上手に洗浄し、最初は、消毒(イソジンなど。使いすぎますと刺激になりますし、接触皮膚炎を起こしたり、大量に使うと甲状腺に影響があるかもしれません)やいろんな種類の抗生剤の外用剤、皮膚にやさしいバンドエイドやガーゼ保護で対処してください。

 セッケンで洗い流すことは消毒になりますが、ごしごしやりすぎると刺激になり、皮膚を痛めます。使うセッケンはあまり強くないものを選んで下さい。
 キズができると抗原が体内に入りやすくなりますので、できれば植物成分などの天然のタンパク質が入っていないものを選んで下さい。
 そんなものはアレルギーを引き起こす(感作かんさ)可能性があります。

 そのために日常ある程度掻かせない工夫も必要です。

 二次感染によってアトピー性皮膚炎が重症化し、IgE抗体が上昇し、アレルギーが強くなり、かゆみがさらに強くなることがあります。
 かゆみは、緊張しているときや昼間活動しているときは少なく、入浴後、汗をかいたとき、寝る前、いやなことがあったときなどにひどくなります。

 二次感染に対しては、当然のことながら抗生物質の内服が有効ですが、耐性菌(MRSA)の問題があります。
 実際のところ、乳幼児の湿疹についた黄色ブドウ球菌を培養すると、かなりの割合でMRSAが検出されます。
 また、抗生剤を使いすぎると、腸管の正常の細菌叢が死滅し、カンジダなどのカビが増え、カビのアレルギーや食物アレルギーが生じるという説があります(イーストコネクション)。

 それでもとびひが全身に広がったり、顔などのおおえないところできたときは、抗生剤を内服するしかありません。

 
患者のかゆみを減らしたり、掻かせない方法には次のようなものがあります。

(1).かゆみや湿疹の原因を除く。
(2).湿疹そのものをよくする(すなわち、ステロイドを外用する)。
(3).かゆみを減らす(抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤を内服する)。
(4).上記の掻かせない工夫。

E.乳幼児アトピー性皮膚炎のかゆみ止め

 乳幼児のアトピー性皮膚炎のかゆみは、成人に比べてかゆみ止め(抗ヒスタミン剤・抗アレルギー剤)がよく効くようです。
 かゆみ止めは主にじんましん型のT型アレルギーに対応するものであり、湿疹的要素が強いときはそれほど効果がないかもしれません。
 夜間、かゆみで何度も目を覚まして泣くような場合、本人と家族の心の平和を得るためにも、最低限、寝る前にかゆみ止めを飲ませるのもひとつの方法です。

 ただ、長期に使っていると多少とも「慣れ」があり、効き目が落ちることがあります。

 抗アレルギー剤を長く飲んでいると、それによってアトピー性皮膚炎が軽くなるという意見がありますが、本当かどうかわかりません(恐らく嘘です)。

 乳幼児のかゆみ止めの飲みクスリ
 
 抗アレルギー剤
(ザジテンドライシロップ・ジキリオンシロップ、アレロックドライシロップ、セルテクトドライシロップ、アレジオンドライシロップ、ジルテックドライシロップ、クラリチンドライシロップ、ザイザルシロップなど)
 抗ヒスタミン剤

(アタラックスPドライシロップ、アリメジンシロップ、ペリアクチンシロップ、ニポラジンシロップ、ポララミンシロップなど)

 これらの薬剤には、3歳(又は2歳)以上と条件がついたものもあります。

 小学生以降になるとアレグラ(30mg)やエバステルOD錠などの錠剤も用いられます。

 副作用として、眠気がありますが、その他目立ったものはないようです。

 ドライシロップは紙で分包されていることが多く、湿気に弱い傾向があり、そんなに長持ちしません。
 せいぜい3ヶ月といったところですが、液体よりは長持ちします。
 もともとプラスチックなどに分包されているものは、体重計算して用量さえ合えば、保存も利いて便利です。

 抗アレルギー剤は鼻水をとめるために小児科の風邪薬としても用いられていますので、重ならないように注意して下さい。

 容器に密封されたジキリオンシロップは、ザジテンの液体版ですが、患者さんの体重さえ合えば、消費期限が記載されていて、何かの時のために持っておくのにはよいクスリです。

 なお、セルテクトには肝障害の頻度が高く、子供に錐体外路症状の副作用の可能性があり、私はほとんど処方していません。
 アレジオンドライシロップはとても苦みが強いようです。
 ジルテックドライシロップを大人量の半量を朝夕に二度与えるのは多すぎる印象があります(大人は夜に一回)。

 大人量の半量を用いるときは、できれば体重20kg程度以上はあった方がよいと思われます。

 ザイザルシロップは平成26年4月にな登場した新しい液体の抗アレルギー剤で、生後6カ月から内服することができます。
 ただし、必要量(たとえば8カ月の乳児の場合1回2.5ml)をそのたびに測って飲ませる必要があります。

 ここに記載されていないリザベンドライシロップやインタールドライシロップも抗アレルギー剤ですが、かゆみ止めとしての作用(抗ヒスタミン作用)を有していません。
 その意味で、これらは純粋な本当の抗アレルギー剤とも言えるかもしれません。


F.乳幼児アトピー性皮膚炎のアレルギーについて

 食物アレルギーがある患者に対しては、食物抗原の吸収を抑制する目的でインタールの内服が行われています。
 それの効果については、患者の症状に食物アレルギーが関与しているかどうか、薬でそれが抑えられるかどうかが関係しています。
 わたしは食物アレルギーにインタール内服は用いていません。

 アトピー性皮膚炎の原因が食物アレルギーだけであれば、その食物を制限すれば問題は簡単に解決できます。
 しかし、原因が食物だけにある患者はむしろ少なく、単に検査所見のみで安易に制限するのは決して好ましいことではありません。
 制限するためには、まずその食物が湿疹やかゆみの原因になっていることを確かめる必要があります。

 患者本人が食べていない食物(たとえば卵)による食物アレルギーが、皮膚症状を起こしているということは決してありません。
 母乳から患者に入ると説明されることがあります。
 母乳に含まれる抗原としての卵の量は極微量で、多くは問題にならない程度のものです。
 もし心配なときは、母が問題となる食品を制限してみて、客観的に制限した効果を判定するのが良いでしょう。

 母が食事制限するとなると、母にかかるストレスは相当なものになります。
 母乳が出なくなることもあります。
 たとえば卵アレルギーの患児の母親が、毎日何個も卵を食べるのは好ましいとは思いませんが、普通に食べても子供の症状に差違はありません。

 どうしても気になるようなら、人工乳に変更するのもよいかもしれませんが、牛乳アレルギーがあるためにそれもできないことがあります。
 そのときはアレルギー用ミルクを使えばよいのかもしれませんが、おいしくないために飲むのを嫌がったり、飲むと下痢をすることもあります。
 患児の免疫を考えると、母乳の方がよいかもしれません。

 ただし、湿疹が良くなっても、検査が陽性になっている食物を患者自身がなかなか食べられない例はたくさんあります。

 日常卵を含んだ加工品を問題なく食べていても、それを手づかみで食べてたまたま顔に塗りたくるようなことがあると、特に眼に入ると、とてもひどい症状になります。
 卵だけでなく他の食物でも同じような現象がみられます(なお、食物アレルギーについては、他のところに詳しく説明しています)

 乳幼児は、ふだんから地上すれすれのところで這い回って生活しています。
 それだけ室内のダニ・カビなどの吸入アレルゲンの影響を強く受けます。

 子供が入り込みやすいテーブルや机の下はもちろんのこと、できる限りソファーの上や掛け布団、毛布にまで、毎日、いそがしいのならせめて週に一回くらいは掃除機をかけるようにしたいものです。
 特に衣替えして登場した冬布団や毛布は、夏場に押し入れの中でダニがたくさん増えています。

 ダニの死骸やフンでもアレルギーを起こしますので、掃除機に付属している布団用の先端を購入して、ていねいに掃除してください。
 特に気管支喘息のある患児には、防ダニ用の布団やシーツもよいかもしれません。
 ベランダに干しただけ、布団をたたいただけでは、アレルギーを起こすダニは減りません。
 バルサンのような農薬を部屋の中にばらまいてもヒトは死ぬかもしれませんが、最近のダニは農薬に強くなって死にません。

 乳幼児には、じゅうたんを敷いた洋室や寒くて風邪のひきそうなフローリングよりも、掃除のやりやすい畳の和室の方がよいかもしれません。
 プラスチック製の畳もありますが、それの有用性については明らかではありません。

 早い時期から吸入アレルゲンに対してRAST値が陽性になっている患者は、気管支喘息・花粉症などの気道アレルギーが合併したり、症状がそれに変化する(アレルギーマーチ)ことがあります。
 このような患者は蕁麻疹も出やすい傾向があります。
 また、強い食物アレルギーある割に湿疹が軽い患児は、気管支喘息が出やすい傾向があります。

 ペットは、ハムスターやウサギなどのケッシ目が最もアレルゲン性が強いようです。

 のアレルギーも相当強く、特に室内で飼うと間違いなくアトピー性皮膚炎の悪化要因となります。論文報告)(症例報告
 気管支喘息
や接触じんましんで症状が始まることも多いようです。

 直接触らなくても、飼っているところに出かけただけでも症状が現れます。
 いつもペットを抱いている人に接触しただけでもかゆくなることがあります。
 ペットになめられると真っ赤になりますし、ペットを触った手で眼を触ると、接触じんましんとして真っ赤に腫れ上がります。

 以前はマルチーズ・ヨークシャーテリア・シーズーの毛の長い室内犬御三家を飼っている例が多かったようですが、毛の短いパグやチワワでも同じ程度にアレルギーが現れます。
 最近はミニチュアダックスフントやゴールデンレトリバーなどを飼っている患者も多いようです。

 アレルギーの原因は、ペットの毛よりも、むしろペットのふけ(皮屑)にあります。

 ペットアレルギーは、吸入アレルゲンの中ではダニやカビよりもかなり早い時期から現れます。
 母実家
の室内犬のために、生後2カ月程度で、すでにRAST値が陽性になっている患児が何人もいました。
 母は実家で出産して、しばらく実家の犬や猫と生活している間に、子供のペットのアレルギーがつくられるということです。
 ということは、実家に行くだけで症状は悪化します。
 行ったときすぐに症状が出なくても、遅発型反応として、夜間、深夜から早朝にかけて症状が現れることがあります。

 ペットを風呂に入れて洗えばよいという人もいます。

 室外で飼うとアレルギーが起こる頻度はかなり低くなります。室内で飼っているペットを室外に移すだけで、症状がかなりよくなることもあります。
 抱いたときの影響を考えると、衣類に付いたペットの毛や皮屑にも注意が必要です。
 さらに、これらのアレルゲンは自宅ばかりでなく、実家や友達の家などのよく行くところのアレルゲンも問題となります。

 
室内犬をそのままにしておくと、湿疹がよくなっても気管支喘息や鼻アレルギーに変化する例も多く見られます。

 ただ、ペットを飼っている人が患者の祖父母であり、多くは患者が生まれる前から飼育されています。
 赤ちゃんはむしろその家の侵入者のようなもので、先住者のペットをなかなか排除できないようです。
 ペットに対するRAST値を示して説明するのですが、このことで嫁姑の間で諍いが起こることも少なくありません。 
 ペットを飼っている家族にアレルギーがないときは、アレルギー疾患に対して理解がなく、なおさらトラブルが起こりやすいようです。

G.乳幼児アトピー性皮膚炎の
外用剤について

 乳幼児のアトピー性皮膚炎の皮膚科的治療はといえば、かゆみを伴った湿疹があるならステロイドを外用すればよい、というのが最も単純な対処法です。

 乳児は皮膚の角層が薄く吸収が良いために、ステロイド外用剤は弱いものでもかなりよく利きます。
 また、ステロイドでなくても、うまく選べば、保湿剤だけでもかなり良い効果が期待できます。
 特に、刺激性の皮膚炎が主体のときは単なる保湿剤でも十分です。

 
外用剤は、簡単に

(1).かゆみを軽くするもの・・・レスタミン軟膏、カチリ(フェノール亜鉛華リニメント)、表面麻酔剤(リドカイン。主に市販の外用剤に入っています。接触皮膚炎や感作の可能性があります)

(2).かゆみで掻いたところの消毒(刺激・接触皮膚炎注意)・・・イソジン液、ヒビテン液、アクリノール液

(3).びらんがあり、二次感染に対するもの・・・抗生剤の外用剤(ゲンタシン軟膏、アクアチム軟膏・クリーム・ローション、アクロマイシン軟膏、ダラシンTゲル・ローションなど。耐性菌の問題があります。ただし、内服していないタイプはMRSAでも感受性があり、内服の効かない細菌に対応できます)、亜鉛華軟膏・カチリなど

(4).ドライスキンを改善し、皮膚刺激を軽減するもの、いわゆる保湿剤・・・ワセリン・プロペト、アズノール軟膏、ケラチナミン軟膏・ウレパール軟膏・パスタロンソフトなどの尿素軟膏、レスタミン軟膏、ヒルドイドソフト・ローション、ビーソフテンローション・スプレーや市販のクリーム、ユベラ軟膏、オリーブ油、椿油、ホホバ油、馬油、スクワランなど

 1. 乾燥肌のひどいところ、こすれるところにはべとべとしたもの、よだれから顔を守りたいときは、たとえばワセリン・プロペト、アズノール軟膏
 2. ドライスキンのひどくないところ、べとついたものをいやがるとき、頭皮などに、夏季でワセリンのように伸びの悪さを感じるときは、ヒルドイドソフト・ローション、ビーソフテンローション・スプレーや市販のクリーム・ローション
 3. 手のひらや足の裏のかさかさしたところ、肘の外側・膝の前のかさかさ、魚鱗癬のような発疹、びらん・きずのひどくないときは、尿素軟膏

(5).湿疹を改善するもの・・・ステロイド系外用剤、非ステロイド系外用剤

(6).汗、浸出液の水分を取り除いて、乾かすもの、あせもに・・・亜鉛華軟膏、カチリ、カラミンローション

などに分類できますが、それぞれいくつかの効果を合わせ持っています。

 たとえば、亜鉛を含む亜鉛華軟膏やカチリにも、多少とも消毒効果やかゆみを押さえる効果があります。
 亜鉛華軟膏をびらん部に対して抗生剤の外用剤やステロイド外用剤に重ねて用いることもあります。

 湿疹と細菌感染の重なったところには、たとえばとびひには、抗生剤の外用剤単独で用いられることもあります。
 湿疹状態ととびひが重なっていれば、ステロイド外用剤に抗生剤を混合した軟膏(たとえばテラコートリル軟膏、リンデロンA眼軟膏、リンデロンVG軟膏など)も用いられます。
 ただし、ステロイドが強くなると、感染症が悪化することが多く、私は、とびひにはリンデロンVG軟膏は用いていません。

 外用剤は、湿疹ができた原因を考えて、症状の程度に応じて、こまめに使い分ける心がけが必要です。
 外用剤は、擦り込まずに、うすく広げるように病変部にだけ塗ります。

 ステロイド外用剤は症状を改善しますが、決して原因治療ではありません。

 ただし、湿疹があるためにひっかいてさらに湿疹を悪化させる悪循環があるとき、湿疹が他のところに湿疹をつくっているようなとき(自家感作性皮膚炎)、ステロイドを外用するしかないかもしれません。
 湿疹があるためにひっかいてどんどん悪化させるような状態でなければ、悪化させている原因がなくなるまで保湿剤で経過を見るのもひとつの方法です。

 皮膚かさかさしているからと、たとえワセリンであっても、何も考えずにいつも全体に塗るのは考え物です。
 保湿剤の外用は、皮膚の乾燥が湿疹に変化するところだけで十分です。

 長期的には外用剤は化粧品と同じで、化粧でかぶれる・接触皮膚炎を起こす可能性のある人は、すべての外用剤が合わなくなる可能性を頭に置いておいた方がよいと思います。

 乾燥肌はもしかすると成人になっても残り、ずっと続く自分の肌かもしれません。
 少しはそれに慣れることも必要です。

3.学童(小児)期の治療

@.学童(小児)期のアトピー性皮膚炎の特徴

 
この時期はアトピー性皮膚炎がよくなる時期です。
 幼稚園ころまで全身に広がっていた湿疹も、小学校高学年になると、肘窩などに少し残しただけで、嘘のようによくなる例が多いようです。

 それだけに、女の子なら初潮があるまでに、ステロイドを使わないでもひどくならない状態になっていないと、成人型のアトピー性皮膚炎に移行することになります。

 
学童期になると、湿疹は肘窩・膝窩・頸部などの汗の多い部位に限られるようになり、顔や体幹には少なくなります。
 これが小児型のアトピー性皮膚炎の典型的な湿疹です。

 急に暑くなり、汗をかくようになって悪化する場合が多く、いわゆるアセモに類似した発疹です。
 湿疹は、汗の刺激(又はアレルギー)とかゆみのために掻いた結果と考えられます。

 小学生になり、長い時間座るようになったために、おしりや太股の後ろにできる湿疹もこれに相当します。
 座ることが刺激になっている場合、電車やバスなどではできるだけ座らないようにしたいものです。
 学校などでやむ得ず座るときは、厚めの座布団を敷いて、風通しをよくし、汗やそれの刺激を減らすのがよいときがあります。
 肥満のために起こっていることもあります。

 汗をかくことが原因になっているとき、ワセリンやヒルドイドソフトなどの保湿剤だけでは効果は不十分です。
 かゆみ止めの外用剤(たとえばレスタミン軟膏)を使ったり、汗を乾かすカラミンローション、消毒やかゆみ止めの作用があるアセモの外用剤(カチリ)や亜鉛華軟膏も利用されます。
 きずがあって二次感染やとびひが心配のときは、抗生剤の外用剤も用います。
 抗ヒスタミン剤などの内服も有効です。

 それでどうしても駄目なときは、ステロイド外用剤ということになります。

 特定の部位について
 
 
1.汗部位(間擦
かんさつ部)(屈側)
   肘窩、膝窩、頸部、手首、足首、腋窩(の前後)、鼠径部、額部など

  2
脂漏部位
   頭、額、鼻と鼻周囲、胸骨部、へそ周囲、外陰部、肩甲間部

  3.
日光(露光)部位
   頬部、鼻、鼻唇部、後頸部、耳後部、額の下部、手背


 
刺激部位(伸側)
  
上肢外側、下肢前側、腰回り、背中、肩、肩甲骨部、頸部



 
汗をかいてかゆくなり、そのために出来た湿疹にステロイドを塗っても、すぐに再発します。
 汗部位を越えて広がる傾向があるときは、ステロイドを外用する以外にないかもしれません。



皮膚の模式図です。
基底層のところどころにあるメラニン細胞でつくられるメラニン顆粒は、日焼けやしみなどの色素沈着を生じます。
皮脂は毛にぶらさがった皮脂腺から分泌され、毛孔から皮膚表面に広がります。
汗腺にはエクリン汗腺と、毛組織に付属したアポクリン汗腺(
この図には示していません)があります。


 
汗疹(あせも)は表皮内部に汗がもれてできます。

 アレルギー体質があり、皮膚がかさかさしていると、だいたいは皮膚に軽い炎症があります。
 その炎症のために汗を出す管(汗管)が狭くなっていたり、詰まっていたりすると、汗が外に出にくくなり、表皮内部にもれる結果となります。

 汗疹は汗のかきはじめのシーズンに多く、背中上部や腰の後ろなど、仰向けに寝て汗が乾きにくいところによくできます。
 アレルギー体質があると、汗をかくとかゆいことが多く、汗に溶けた成分がアレルギーを起こすことがあります。

 汗疹は汗が原因で起きたじんましん湿疹ひっかき傷細菌感染をひっくるめて汗疹ということになります。

 肘窩などにできると多分にアトピー性皮膚炎的です。
 湿疹的要素が強いほど、治療はステロイド外用剤に頼るしかない場合があります。
 じんましん的な症状には、抗アレルギー剤の内服です。
 二次感染には、消毒や抗生剤の外用剤ということになります。

 汗のかきはじめに多く、汗の通りがよくなると症状が出なくなることから、ステロイド外用剤に頼らずに、カラミンローション、カチリ、レスタミン軟膏で経過を見るのもよいことがあります。

 というものの、アトピーあせも説という言葉があり、汗疹ができるというのはやはり心配です。

 


 湿疹があるために、ひっかいてさらに湿疹を悪化させる悪循環が起きているときは、結局はステロイド外用剤でその悪循環を止めるしかないかもしれません。

 患者本人が精神的に湿疹をなおしたいという気持ちが強いときにも、やはりステロイドを塗った方がよいと思われます。

 夏場だけの湿疹ならば、ステロイド外用剤を用いても問題はないと思われます。
 必要以上に使って大丈夫ということにはなりませんが。

A.学童(小児)期のアトピー性皮膚炎の原因・悪化要因
とその対応

 汗部位を越えて刺激部位や顔面に発疹が広がっているときは、小児型のアトピー性皮膚炎というよりは、むしろ成人型のアトピー性皮膚炎に変化した、と考えた方がよいかもしれません。
 その場合、もともと強いアレルギー状態であったり、遺伝的にアレルギー体質が強いこともありますが、何か他に原因がないか探す必要があります。


1. 成人型アトピー性皮膚炎に変わる原因・悪化要因

 原因・悪化要因としては、

(1).感染症に対する免疫担当細胞の異常があり、感冒などの感染症を繰り返しながら悪化。
   
同時に皮膚の二次感染を繰り返し、慢性の扁桃炎、虫歯・歯槽膿漏、腸内細菌異常も悪化要因。
 (
特に繰り返して抗生剤を内服していると、正常な腸内細菌が失われ、大腸菌などの異常な腸内細菌が増え、様々なアレルギーの要因となります)

(2).
ストレス(入試、勉強、塾、いじめ、友人関係、失恋他)。
  
ストレスには精神的なものの他に、徹夜・クラブ活動などによる肉体的ス トレスもあります。

(3).肝炎、腎炎、胃・腸ポリープ、胃炎・腸炎などの内科的要因 。

(4).様々な異物(
自分以外のもの)に対する免疫担当細胞(白血球など)の異常
 
@.環境要因(ダニ、ペット、花粉、カビなどの他に住居の化学物質、排気ガス他)。しばしば引っ越し、改装・改築、転校・転職・職場異動で悪化。
 A.義歯あるいは食物から摂取される金属アレルギー(ニッケル、クロム、水銀、コ バルト他)
 B.水や食物に含まれる添加物・農薬などによる一種の薬疹(中毒疹)


(5). 自分自身に対する免疫担当細胞の異常(
自己免疫)。
 
@.皮膚を構成する成分・細胞に対するアレルギー。汗、皮脂、コラーゲン・エラスチンなどのアレルギー。
 A.全身の構成する成分に対するアレルギー。


(6).
治療の過ち(外用剤による接触皮膚炎など)、ステロイド内服・点滴 よる免疫状態の悪化。

があげられます。
 内容的には、ほとんど成人型でみられる悪化要因と同じです。


2. 成人型のアトピー性皮膚炎にならないためには、

 小児型のアトピー性皮膚炎のテーマは、まさにいかにして成人型のアトピー性皮膚炎に変化するのを止めるかということです。
 ステロイド外用剤で悪循環を止めるだけで問題の解決になればそれでよいのですが、そんな単純な解決方法で必ずしもよい結果が得られるとは限りません。

 上に掲げた原因・悪化要因の一覧の中で、小児期に最も扱いにくいのは(1)と(4)(5)の免疫担当細胞、すなわち白血球の機能異常です。

 とくに体内の感染微生物がアレルギーに関与しているとき、ステロイドなどの免疫抑制剤は正常免疫を抑制するために、それら原因物質を増やすだけということになる可能性があります。

 単にIgE抗体やRASTの問題ではないということです。
 ましてや、卵アレルギーなどの食物アレルギーは病気の原因・悪化要因と直接つながっていません。

 これらの異常反応を抑えているメカニズムがおかしくなっても、症状として現れます。
 それを起こす原因の一つが(2)のストレスです。
 (6)のステロイドの使いすぎもそれになるかもしれません。

 環境要因など外的問題は、積極的に対処することはできますが、それを起こした免疫担当細胞の異常については積極的に対処する方法はないかもしれません。
 成長によって免疫系の異常が改善されないとき、遺伝的要因が密接に関与しているときはさらに問題解決は難しくなります。

 それでも、まず、白血球の機能異常がどこに由来するものか、検討が必要です。


3. 免疫系(白血球)の異常はどこから来たのか

 白血球の機能を障害するものといえば、まず頭に浮かぶものは、化学物質や放射性物質、それからいろんな免疫抑制剤あるいは免疫状態を変化させるもの、次にストレスということになります。

 ちなみに、以前よりアトピー性皮膚炎やじんましんなどのアレルギーををテーマに選んでいる大学の皮膚科をあげよといわれると、広島大学と長崎大学がまず上げられます。
 いずれも原子爆弾を経験した都市ですが、それが今も、アレルギー、すなわち免疫担当細胞の異常を引き起こしている可能性があります。

 免疫を変化させるものとして、今の時代、添加物や農薬だけでも、年間何キロも摂取しています。
 ハマチなどの養殖魚、ブタやウシなど畜産業では、大量の抗生剤が投与されています。
 薬剤を含めて化学物質から逃れるのは不可能です。

 また、半減期の長いセシウム137やプルトニウムが大量にいろんな食品に含まれ、黒い雨となって空から降ってくる時代です。

 ある特定のものが機能異常を招き、アレルギーを誘発し、強くしている可能性もあります。
 いわゆるスーパー抗原とかアジュバントと呼ばれるものです。
 「風が吹けば、桶屋がもうかる」というようなところがあり、因果関係を証明するのはまことに困難という他ありません。
 そんなスーパー抗原の代表は、細菌・ウイルスなどの感染微生物、歯科金属や環境に存在する化学物質、食品とともに入ってくる化学物質(添加物や農薬)、生活環境に共存するタンパク質などの有機化合物(ペット、ダニ、香料など)、そして治療で用いられるいろんな物質です。


4. アトピー性皮膚炎をなおすのは成長

 成長で免疫系の機能異常が改善されないということは、そんな成長をもたらした食事に、もしかすると問題があるということにもなります。
 食事の中の農薬や添加物などの化学物質に問題があるのか、食事の内容、すなわち栄養の偏りや好き嫌いに問題があるかもしれません。

 以前、羽曳野病院でアトピー性皮膚炎の子供をずいぶんたくさん入院してもらいましたが、そんな子供たちにほぼ共通していえることは、

1). 体の小さい子供が多いこと。
 かゆみで夜十分睡眠がとれないために、十分量の成長ホルモン(GH)が放出されていないという可能性もあります。
 ちなみに、気管支喘息のある子供は太り気味のことが多いようです。

2). 非常に好き嫌いが多いこと。
 主食のごはん以外食べていない子供も多数いました。
 スナック菓子など間食が多く、野菜のようなものはほとんど手もつけません。

3). 便秘が多く、それもあって、食事量そのものが少ないこと。
 便秘については、繰り返す感染症のために、頻繁に抗生剤を処方され、正常な腸内細菌が育っていないことも関係しています。

 そして、悪化要因として疑われるのが免疫抑制剤、すなわちステロイドということになります。
 ただ、これも必要悪的なところがあり、政治家の有罪を証明するのは難しいのと同じで、本当のところはよく分かりません。

 いずれにせよ、食生活を改善することに加えて、何らかの方法で免疫系を鍛え、正常に戻すのがよいのかもしれません。

 アトピー性皮膚炎に対するステロイドを用いない治療、民間療法については他で説明しています。


5. 免疫を改善するはめに何かよい方法は

 喘息患者では、鍛錬たんれん療法として呼吸器によいスイミングがすすめられます。
 スイミングはアトピー性皮膚炎患者にとって、冬季にはドライスキンを悪化させ、とびひや水いぼをもらうことがあります。
 とびひに注意し、ドライスキンがステロイドを外用しなければならないほど悪化しなければ、スイミングもよいかもしれません。

 ランニング、サッカー、野球なども悪くないと思いますが、汗や日光でひどい悪化を招くようなら駄目かもしれません。
 集団スポーツは自分で練習をコントロールできない、つまり体調がよくないときも休めないという欠点があります。

 夏は海水浴が有効です。
 海水浴は、日光(紫外線)による免疫抑制作用と殺菌作用、海水による洗浄と消毒作用、一時的な転地による環境改善の効果、およびストレス解消などの精神的な効果を併せて持っています。

 一方、日光アレルギーがあれば悪化し、海水は多少とも刺激があります。
 びらんがあれば、ヒリヒリするために泳げないということも考えられます。
 日焼けすると、皮膚の乾燥が多少ともひどくなります。
 それまでほとんど日光を浴びていなかった患者が急に強い日焼けをすると、湿疹が悪化することも多いようです。

 海水浴を湿疹の治療として考えているときは、あらかじめ近くのプールで少しずつ日光に慣らしておいた方が賢明です。
 春にハワイやグァムでいきなり日焼けするのは危険です。

 海水は、プールのように塩素はなく、トビヒや水イボにかかることも少ないようです。
 海水はきれいな方がより効果的で、きたない海水でかゆくなることがあります。
 プールは塩素の刺激は強いのですが、びらんのある湿疹を塩素で消毒するのも悪くないこともあります。


6. 感染症に負けない元気な体をつくれ

 かゆみによる掻破は、アトピー性皮膚炎の悪化の重要な一因となります。(学会報告
 この引っ掻くことでできるとびひなどの二次感染は、小児期には非常に多く見られます。
 セッケンなどによる洗浄、イソジンなどの消毒剤の外用で減らせますが、やりすぎると刺激のためにかえって悪化することがあります。
 かゆみの強いときは、寝る前だけでもかゆみ止めを内服するのがよいと思われます。

 溶連菌を伴った慢性扁桃炎や虫歯は、下肢・体幹に貨幣状の湿疹を形成することがあります。
 扁桃摘出(扁摘)や齲歯(うし)(虫歯)や歯槽膿漏の治療で湿疹がよくなることがあります。
 うがいを励行するのもよいようです。

 歯科治療後、あるいは、以前より口腔内に大量の義歯を入れていることが、アトピー性皮膚炎の悪化の原因になることがあります。
 下腿などの貨幣状湿疹あるいは痒疹のタイプが多いようですが、全身の湿疹の原因になっていることもあります。

 肝炎、とくにウィルス性肝炎は、抗原が体内にあるために、難治性のアトピー性皮膚炎の原因になります。
 貨幣状型や痒疹型の湿疹が多く、日光で悪化するような湿疹ができることもあります。

 肥満は肝障害などの成人病の一因になりますが、アトピー性皮膚炎の湿疹の悪化につながります。
 甘いものや脂肪の多いものを大量に摂取した結果でもあり、これらはアレルギーの悪化の原因にもなります。


7. ストレスとは仲良くつきあうこと・あまり頑張るな

 アトピー性皮膚炎患者はいろんなストレスに対応するのが苦手で、変化に弱く、性格的には同じことを続けたがる傾向があります。
 小学校や中学校に進学したときも、環境変化のために悪化することが多いようです。
 湿疹が悪くなると、朝起きが悪くなり、遅刻を繰り返して学業が遅れたり、登校拒否にもつながります。

 受験期に悪化する患者も少なくありません。
 湿疹が悪化したために受験に失敗することもあります。
 このときは、ステロイド外用剤を使って、とりあえず湿疹を改善して受験を乗り切る方がよいと考えられます。
 できれば、湿疹に逃げ込むような精神状態にならないように注意したいものです。

 精神的ストレスに対しては、心理的アプローチが有効なことがあり、箱庭療法などが利用されています。
 心理療法は医師によるものもありますが、それ以上に患者に対する両親の接し方の方が重要です。
 何はともあれ、まず相手の気持ちになってじっくり話を聞いてやることが重要です。
 いじめや失恋や友人関係のストレスが悪化の原因になっていることもあるのです。
 勉強が負担になっているなっていることもあります。

 人生はなるようになるしかありません。
 結果を求めて、あまり頑張りすぎるのは、決してよいことではありません。
 周囲の人たちも患者さんに、実際以上にストレスをかけてはいけません。

 いたずらに、引っ掻いているところを指摘して、「掻くな」と言うのは好ましくありません。
 患者の気持ちを無視して、両親が自分たちの治療方針を押しつけるのも好ましくありません。

 とはいうものの、アトピー性皮膚炎患者さんの中には、精神的な問題があって、学校に行けず、自宅にずっとひきこもっている例が多数います。
 受診できずに、両親が薬をもらいにやってくることもあります。
 両親がさきに受診して、本人があとで訪れることもあります。

 当科では、患者さんとまず仲良くなるようにして、お互いの信頼関係を築きながら、まず患者さんの精神状態を改善するように心がけています。

 女の子は、に湿疹が出始めると、それによるストレスがひどくなります。

 その湿疹を髪の毛や化粧のようなもので隠そうとするのは、当然の成り行きです。
 顔に湿疹が出たとき、顔や髪の毛につけているもの、付いているものに注意する必要があります。
 中学生を過ぎると、外用剤や化粧品によるかぶれ(接触皮膚炎)も多くなります。


8. 接触皮膚炎に注意・かぶれやすいヒトは特に危険

 頭がかゆく、眼の周囲にかゆみのある湿疹ができたときは、頭に用いている毛染め・整髪料が原因のことがあります。

 頭についているものが手について、利き腕の方に(右利きのときは右顔面に)強い湿疹ができるようです。
 頭に使っているシャンプー・リンスがよくないこともあります。

 様々な花粉や植物に対してアレルギーを起こすようになると、セッケンやシャンプーに含まれるいろんな植物成分が、顔や眼の周囲のアレルギー性の発疹の原因となります。
 近年天然成分配合のものがはやっていますが、アレルギー体質の患者さんにはかえって危険です。
 花粉症の患者さんが、自分の顔に花粉と同じような成分を塗っている場合があります。

 植物エキスや米ヌカのような成分は入っていないものを選びましょう。

 アレルギー反応を起こす抗原は主にタンパク質です。
 そんなタンパク質が酵素などで加水分解されて分子量が小さくなると、毛孔や汗孔から皮膚内部に入りやすくなります。
 一般に、腸管以外のところから抗原が体内に入りますと、いろんなアレルギーの原因になります。

 加水分解された物質は100種類以上もあります。
 化粧品やセッケン・シャンプーに大量に用いられています。
 そんなものが入った製品は避けた方が無難です。

 加水分解コムギの入った茶のしずくセッケン・シャンプーで起きたアレルギーは学会やマスコミで評判になりました。
 このシャンプーで起きた症状で最も多く見られたものは、頭部や眼の周りのかゆみと湿疹です。


9. 体の変化はなおるチャンス・時々悪くなるきっかけにも

 女の子は生理が始まると、湿疹が悪化することがあります。
 もちろんそれまでの湿疹が急によくなることもあります。
 特にこのころからは、金属・化粧品・外用剤・衣類などの接触皮膚炎と精神的ストレス・紫外線による光線過敏に注意を払う必要があります。

 体質の変化は、それまでのアレルギー状態をよくすることもあれば、悪くすることもあります。
 同じことは男の子にもあてはまります。

 ただ、小学校高学年から高校2年生くらいまでの間は、全体として、最も湿疹のよくなる時期にも当たっています。

 一般に、クラブ活動しているときの方が調子がよいことが多いようですが、汗部位の湿疹は続くことが多いかもしれません。
 クラブを止めてから悪化したときは、日常何か運動することをすすめています。

 自己免疫的問題はさらに治療を難しくします。

 本来、自己免疫を起こしている免疫担当細胞は胸腺で除去されるといわれています。
 体内に共生する微生物のアレルギーさえ対応がむずかしいのに、自分の皮膚成分がアレルギーの抗原になっているとなると・・・。

 最終的には、今のところはいろんな免疫抑制剤(ステロイドなど)や分子標的薬を用いる以外にないかもしれません。
 難物です。
 生まれつきの体質もありますが、なぜそのような事態を招いたか検討が必要です。
 このタイプは女性に多く、光線過敏症あり、末梢循環が悪い傾向があります。

10. 免疫を高めて抵抗力をつけるには
 いつも抗生剤のお世話になって、腸内細菌がおかしくなっている患者さんに、なにかよいものはないかと、いろいろ試しています。

 漢方などもよいのですが、子供にはなかなか飲みにくく、涙を流しながら無理矢理に漢方を流し込んでいるのは、ちっとも賛成できません。

 そんな中で漢方のハトムギ、薬剤としてはヨクイニンの錠剤が免疫を高めるのにとてもよいところがあります。
 ヨクイニンは、もともとウイルスの尋常性疣贅(イボ)に用いられ、私は、水いぼの治療にも積極的に用いています。

 ヨクイニンを食べていると(子供は、錠剤を飲みこむのではなく、お菓子代わりに、かりかりとかんで食べるようにと指導しています)、風邪も少なくなります。
 珍しい変わった味のお菓子ということで、子供に人気があります。(ヨクイニンについては、成人のアトピー性皮膚炎の内服治療のところでも説明していますので、そちらも参考にして下さい)


4.成人期のアトピー性皮膚炎の治療

@.成人期のアトピー性皮膚炎の原因・悪化要因

1. ステロイドをやめただけではよくならない

 
成人にみられるアトピー性皮膚炎は、子供のような成長によるoutgrowがありません。
 悪化要因(症状を悪くしているもの)が分からないまま、だらだらとステロイド外用剤を塗っている患者が少なくありません。

 従って、ステロイド外用剤を中止しても、ステロイド外用剤そのものが悪化の原因になっていない限り、全身に皮疹が悪化しただけで、リバウンド状態がいつまでたってもよくならないという結果になります。

 リバウンド(反跳)現象
 
 ステロイド中止後、それまで出ていなかったところまで湿疹が急激に広がる現象をこのように呼んでいます。

 ごく一部に広がる程度から、全身が真っ赤になるくらいに拡大するものまで様々です。

 ステロイドを大量に長期使用していた患者ほど、ひどいリバウンドをきたしやすいと言えます。
 時に手に少し外用していただけの患者でも、全身に湿疹が広がることがあります。

 湿疹がどこまで広がるかは、その時のアレルギーの異常とそれを抑える力の釣り合いで決まります。


2. 悪化要因をさがせ

 前述しましたように、アトピー素因というもって生まれたアレルギー体質をうまく改善する手段がないとすれば、アトピー性皮膚炎の治療は、あくまで悪化要因の除去を考えるべきです。

 しかし、悪化要因の除去と言っても簡単なことではありません。
 まずそれが何か明らかにすることが必要です。
 たとえそれが分かっても、簡単に除けない場合の方が多いかもしれません。

 当科の外来で用いている問診票はA4で4ページありますが、それの内容の多くはアレルギーの原因や悪化要因をを探すためのものです。
 患者さんの性格をたずねる質問もあります。

 小児型のアトピー性皮膚炎は、乳幼児のアトピー性皮膚炎がよくならないまま続いていることが多いようです。
 成人型のアトピー性皮膚炎の場合、悪くなった時期やきっかけがとても重要です。
 もちろん小児型のアトピー性皮膚炎でも、ひどく悪くなったときは、同じように悪化時期やきっかけを考える必要があります。

 たとえば、時期やきっかけをあげれば、女性なら、
1.生理が始まった。
2.仕事や学校に行き始めた。
3.化粧や毛染めを始めた。
4.勉強や仕事が忙しくなった。
5.睡眠が十分とれていない。
6.夜間の仕事をもっぱらしている。
7.紫外線に当たることが多い。
8.スポーツや仕事で大量に汗をかく。
9.仕事で多量のほこり、ペットの毛、カビ、化学物質を浴びる。
10.人間関係、夫婦・嫁姑の関係がうまくいかない。
11.お金は貯まらないが、ストレスばかり貯まる。
12.食事が不規則で、栄養が偏っている。
13.自分の生活環境の掃除をしていない。
14.妊娠・出産・流産した。
15.ピルを飲んでいる。
16.月経が不順になった。
17.外科的手術して、縫合糸や金属・プラスチックが体内に入った。
17.輸血した。
18.なにかひどい又はひどくない感染症にかかった。
19.サプリメントを飲んでいる。
20.内科的・婦人科的病気がみつかった。
21.内科・婦人科・整形外科で薬剤を飲んでいる。
22.何をするにもやる気が出ない。
23.引っ越した。
24.ペットを飼った。
26.便秘や下痢(軟便)がある。
27.疲れると扁桃腺がよく腫れる。
28.虫歯や歯槽膿漏がひどい。
29.歯科金属がたくさん入っている。
30.突発性難聴・アレルギー性鼻炎などの他の病気でステロイドを内服した。

 以上、当科の問診の内容を簡単にまとめたものです。
 もちろん、このような質問にはなっていません。

 成人期のアトピー性皮膚炎の悪化の原因は、とりあえず学童期のところで述べたものの他に、

(8).外用剤・化粧・整髪料などによる接触皮膚炎特に女性で多いようです)、

(9).
仕事中、毎日浴びているもの、触っているもの、吸っているもの(特に男性で、仕事を変わるとよくなります)、

(10).日光アレルギー(湿疹、蕁麻疹)、ときに光線過敏型薬疹(
降圧剤・利尿剤・抗コレステロール剤などを内服して日光を浴びると露光部に発疹ができる)、

(11).不安神経症、うつ病、適応障害、統合失調症などの精神科疾患
(しばしば精神科の薬で治療がうまくいくと、湿疹がよくなります)、

(12).婦人科疾患(
妊娠、出産、卵巣嚢種、子宮内膜症、閉経など)、

(13). 糖尿病、肝臓・腎臓疾患、高血圧などの内科疾患、

(14). 内科・精神科・整形外科などで処方されている
薬剤

などがあります。

3. 塗り薬で湿疹がわるくなることがある

 上記の項目で、(8)の外用剤による接触皮膚炎は特に重要です。

 界面活性剤、防腐剤(パラベンなど)、香料などの添加物だけでなく、様々な保湿成分やステロイドでも接触皮膚炎は起こります。
 クリーム基剤のものに起こりやすい傾向はありますが、ワセリンでもかぶれることがあります。

 近年は、界面活性剤、防腐剤の入ったヒルドイドソフト・ヒルドイドローション、ビーソフテンクリーム・ビーソフテンローションなどが、塗りごこちがよいために頻用されています。
 これらの外用剤が合わないときは、このタイプの保湿剤が他にないこともあり、困った事態になります。

 私自身、できるだけこれらを顔面に用いないようにしているのは、これらで接触皮膚炎を顔面に起こしたとき、その後の対応に困るからです。
 顔の皮膚は角層が薄く、抗原が真皮の奥まで入りこみ、接触皮膚炎起こした時は長期にわたって治りにくいからという理由もあります。
 もちろん、他のものがこれらよりもっとよいといえないこともありますが・・

 検査所見からみれば、全身の症状のわりに、

@IgE、RASTが低い、
ALDHが高くない、
BヒトTARCが高くない、

ときは、外用剤による接触皮膚炎による悪化を疑う必要があります。

 他でも述べていますが、症状から見ると、当然のことながら、外用剤を用いているところの湿疹が他と比べてひどいということになります。

 ステロイド外用剤が接触皮膚炎を起こしているときは、もっとやっかいです。
 とりあえずの対応としては、まず使ったことがないタイプのステロイド外用剤に変更することです。
 変更しても、ステロイド骨格は同じですし、やはり合わない可能性はあります。

 となると、ステロイドを中止するか、ステロイド以外ものになります。
 ステロイドの内服というのもありますが、長期になるといろんな副作用がどうしても心配です。
 ステロイドを中止すると、リバウンドは必ず起こります。

 ステロイド以外のものとして、外用剤としてはプロトピック軟膏、内服剤としてはネオーラルということになります。
 いずれもステロイドとは違うタイプの免疫抑制剤です。

 プロトピック軟膏は毎日大量に体全体に使用すると免疫抑制の問題点が現れます。

 ネオーラルには血圧上昇や腎障害の副作用があり、止めるとリバウンドが起きやすいのはステロイドと同じです。
 また、薬剤の価格が高いのも問題となります。
 ステロイドが合わない患者さんにはよいかもしれません。

 保湿剤、たとえばワセリンで接触皮膚炎が起きているときさらに対応が難しくなります。
 ステロイド外用剤の中で、軟膏型のほとんど全部にワセリンが含まれています。
 クリームタイプにもかなりの製品でワセリンが入っています。

 ワセリンが入っていないのは、せいぜいローションタイプくらいです。
 化粧水は油分が少なくて多少かぶれにくいところはありますが、その分、保湿効果に欠けます。
 ローションやクリームは、パラベンなどの防腐剤、様々な界面活性剤の問題があります。

 最後は無外用ということになりますが、外用剤なしでは耐えられない例も多いようです。
 それでも、保湿剤の合わない患者さんには、下肢から少しずつ無外用のところを広げるようにすすめています。

A.成人期のアトピー性皮膚炎の
特徴

 成人型アトピー性皮膚炎は、湿疹の部位からみると、体幹、四肢の伸側(腰回りや背中、上下肢の外側・伸びるところ)と顔面に湿疹が広がります。
 小児期のアトピー性皮膚炎にひどくなる肘窩や膝窩の湿疹は、ステロイド外用剤をいつも使っていると、むしろ軽くなります。

 貨幣状型痒疹型アトピー性皮膚炎といった、特殊な発疹の形態がみられるようになります。
 年齢が進むと、糖尿病・肝障害・腎障害・高血圧などの内科疾患の影響が現れます。
 内科疾患で用いられる薬剤の副作用が加わることもあります。

 さらに年齢が進むと、少しずつ免疫状態が低下し、高齢になり死期が近くなると、免疫の過剰な反応は失われ、老人性の乾燥した肌だけが残ります。

 (1). 顔面の湿疹がわるくなる

 成人型のアトピー性皮膚炎では、特に顔面の湿疹が悪化しやすく、同時になおりにくい傾向があります。

 顔面は衣類による刺激の悪影響を受けないかわりに、露出しているために仕事などで何かを浴びたり、手指で掻いたりします。
 顔面の湿疹は他人から見えるために精神的なストレスとなり、化粧品でそれを隠そうとしてさらに悪化させることがあります。

 女性では、高校生ころよりの湿疹が多くなります。
 だいたいはおしゃれを始めて、顔に化粧品をつけたり、整髪料や毛染め剤のついた髪の毛が顔につくことで起こる接触皮膚炎が多いようです。

 整髪料・毛染めのついた髪の毛を手で触って、その手で眼を触ったときも同じ症状が起こります。
 化粧品による接触皮膚炎は、いいかげんな安物を使うせいか、高校生くらいの女の子によくできます。
 そこに紫外線の影響もプラスされて、ステロイド外用剤だけで何とかしようとしていてひどい状態になってやってきます。
 この年齢の女の子は、安物のピアスなどに含まれるニッケルやコバルトなどの金属アレルギーも多く、安易に顔にいろんなものをつけるのは危険です。

 小児期のアトピー性皮膚炎のところで述べましたが、眼の周囲に湿疹がひどくなれば、植物成分や加水分解されたタンパク質の入ったシャンプー・セッケンが原因のことがあります。

 引っ越したあと、改築・改装したあと、オフィスを変わったあとに眼の周囲から湿疹ができたときは、化学物質のアレルギー、すなわちシックハウス症候群の可能性もあります。

 眼の周囲から湿疹は、コンタクトレンズやその保存液による影響の可能性もあります。点眼剤で接触皮膚炎を起こしていることもあります。

 日光が直接の原因のこともあります。

 日光の場合は、紫外線がたくさん当たる頬部、鼻の上、額部、項部などに、強く紅斑ができます。
 眼の周囲には紅斑はできにくい傾向があります。
 単純に患者さんに光線過敏があるからという場合もありますが、顔面に外用したもの、たとえば紫外線遮断クリームなどが逆に紫外線を吸収して、光アレルギー性接触皮膚炎を起こしていることもあります。

 紫外線で悪化するときは、日光を避ける以外にないようです。
 SPF 50+のような強い遮光剤は、落ちにくいために、クレンジングで皮膚に刺激性の皮膚炎ができますし、毛穴が詰まるためにニキビができやすくなります。
 近年は、酸化チタンがナノテクノロジーによって微粉化したために、さらに付くと二度と取れないシリコンを重合しているために、どんどん紫外線散乱剤・吸収剤がとれにくくなっています。

 アレルギー患者さんが日常生活で用いるUVカットの製品は、SPFはせいぜい20〜30まで、PA++くらいまでということになります。
 紫外線遮光剤は、ある程度落ちにくく、落としやすいものが理想です。

 一度接触皮膚炎を起こすと、それを起こした物質が皮膚の奥まで入り込み、分解されないまま長期間残るために、その影響がその後ずっと続くことがあります。

 
顔にできた湿疹は、頸より下の湿疹としばしばタイプが異なり、顔全体にびまん性に広がった紅斑型が多く見られます。
 このことは顔につけていたものが悪化の要因になっていることを示しています。

 また、顔面は比較的皮脂が多く、ワセリンなどの油性外用剤でかゆくなったり、赤くなることがあります。
 仕方なくステロイド外用剤を使用することもありますが、使いすぎないように十分な注意が必要です。

 顔の発疹が、ステロイドの外用を長期に続けているためにできていることがあります。
 いわゆるステロイド皮膚炎・酒さ様皮膚炎と呼ばれるもので、顔面がステロイド依存の状態になっています。
 ステロイド外用剤をつけていると、徐々ににきびのようなものが増えてきます。
 そこでステロイドを中止すると、顔面全体が開眼できないくらい腫れ上がります。

 治療の理想は無外用ですが、そこに至るまでの過程として、化粧水のようなものがよいことがあります。それ以上に、ステロイド皮膚炎を起こさないことが大事です。

 顔面の湿疹の原因にステロイド外用が関係していると判断した場合、プロトピック軟膏がよく使われます。
 しかし、ステロイドを中止してプロトピック軟膏に変更したとき、ひどいリバウンド状態になってしまうことも多いようです。

 ステロイド皮膚炎を避けるために、顔面の湿疹にはプロトピック軟膏が最初から用いられます。
 しかし、プロトピック軟膏には、外用したときに奇妙な違和感(かゆみ、ほてる、熱い、赤くなるなど)があり、どうしてもそれに慣れなくて使えない患者さんがいます。
 また、この軟膏は、アトピー性皮膚炎患者さんよりもむしろ、接触皮膚炎患者さんや高齢者の顔の湿疹の方が使いやすいようです。

 また、今のところプロトピックを長期に使っていて、プロトピック皮膚炎に変化しないという保証はありません。

 プロトピック軟膏を使っていると、感染症が誘発されることがあります。
 にきび(尋常性ざ瘡)、毛包炎などの細菌感染症、単純ヘルペスなどのウイルス感染症が多くなります。
 単純ヘルペスが顔面全体に広がるようなカポジ水痘様発疹症を繰り返すときは、プロトピック軟膏は使えないかもしれません。

 というものの、アトピー性皮膚炎の顔面の湿疹は、にきびや単純ヘルペスができてくると、むしろなおりかけのことがあります。
 Th2→Th1への変化が起きているということです。
 
    
年齢が高くなればなるほど、湿疹は重症の割合が徐々に増えます。
 
子供の軽い湿疹はよくなって、重症のものだけが残ったと考えることもできます。
 羽曳野病院は主に重症患者ばかり集まってくる傾向がありましたので、30歳以上で重症以上が半数以上を占めているというのは当然かも知れません。

      

注:顔面の湿疹は乳児期を過ぎると軽くなります。
 
しかし、10歳ころから再び悪化する傾向があります。
 小学生のときは、顔面の湿疹が中等症以上の割合はせいぜい30%程度です。
 この割合は、成人に近づくと70%近くなります。



 (2). 頭部に湿疹ができる

 
頭部の湿疹は、しばしば、

1. シャンプー・リンスなどで洗いすぎることによる刺激性皮膚炎と、   
2. 整髪料・毛染め剤を含めたいろいろな化学成分やいろんな天然の植物性成分・動物性成分によるアレルギー性の接触皮膚炎   
3. 足白癬が頭部に感染したものやスポーツ選手に多い真菌(カビ)の一種トンスランス菌の感染症、マラセチアなど常在真菌によるアレルギー   
4. かゆみで引っ掻いてできた発疹と、増えた黄色ブドウ球菌のアレルギー

 が原因になっています。

 皮脂の多い患者さんのときは、脂漏性皮膚炎のこともあります。
 肘外側、膝の前、腰回りに角化・苔癬化した湿疹があれば、頭の湿疹は尋常性乾癬の場合もあります。

 髪の毛の生えているところだけでなく、

1. 額の髪の毛の生え際
2. 耳たぶの後ろの髪の毛の生え際、
3. 後頭部の生え際に

 かゆみのある湿疹ができてくると、たいていは毛染めの成分による接触皮膚炎です。

 毛染めのついた髪の毛を、触った手で眼を触ると、眼の周囲にも湿疹ができます。
 利き手で触ったところいろんなところ、顔面や首にも湿疹ができます。
 髪の毛を指にはさんで触っていると、指の間にも湿疹ができます。

 
 リンスは、
花王(株)によると「髪の表面に皮膜をつくり、すべりをよくするもの」、
資生堂(株)によると「シャンプー後の髪になめらかさを与え、髪が乾いたあとも、そのなめらかさとつややかさが持続させるためのもの」、となっています。

 一方、コンディショナーはリンスとほぼ意味が同じで、
ユニリーバ(株)によると、「髪にうるおいを与え、なめらかでまとまりのよい状態にするためのもの、また、どちらもシャンプーの後、髪に適量をよくなじませてから洗い流すもの」、
P&G(株)によると「主に髪の表面をなめらかにしたり、コートすることによって、指/くし通りを良くし、ダメージから髪を守るためのもの」
となっています。

 一方、トリートメントとリンス、コンディショナーの違いもはっきりせず、トリートメントを、
資生堂(株)は「リンス(コンディショナー)よりも効果的に水分・油分を補うためのもので、特に髪の傷みが気になる方におすすめ」 と定義しています。
 従って、シャンプーだけでは髪の毛の油分が失われてバサバサになるという患者には、上記のリンス・コンディショナー・トリートメントを用いることになります。

 これらの製品については、保湿効果を高めているものほどいろんな種類の油分・保湿成分が添加されており、接触皮膚炎は要注意です。

 近年頭髪についてとれにくい成分に、ジメチコンなどのシリコンがよく用いられています。
 どれがシリコンなのか、一般人ではちっとも分からないかもしれません。

 以前より、自家製の安全なリンスとして、クエン酸、酢酸や酢、ビタミンC(アスコルビン酸)がよく用いられています。

 保湿剤として低分子アルコールであるグリセリンは問題ありませんが、それ以外の保湿成分を加えるのは止めた方が賢明です。


 
被髪頭部の湿疹を治療する時、発疹の出ている部位や悪化する時期、ステロイド外用剤の効果などを検討する必要があります。

 たとえば、頭頂部を中心にかゆみを伴った湿疹がある場合は、シャンプー・リンスの使いすぎ、爪を立ててごごし洗いすぎがまず考えられます。
 若い時の清潔習慣は、年齢を重ねてもなかなか止められないものです。
 このタイプの発疹には、シャンプーをできる限り控えて、髪の毛は指の腹でやさしくこするように洗うように指導しています。

 アトピー性皮膚炎患者では、後頭部によくびらんを伴ったかゆい湿疹ができます(横向いて寝る習慣があれば下になった頭、側頭部です)。
 就寝前に入浴し、十分乾かないまま、仰向けに寝ると、残ったシャンプー・リンスあるいは水でぬれていることが刺激になっています。
 頭部の汗が、後頭部で刺激になっていることもあります。
 汗がたまりやすいところに湿疹がひどいということは、肘の内側や膝の後ろにできる湿疹と同じタイプです。

 花粉などの植物にアレルギー(花粉症)がある患者さんは、植物性成分の入っていないシャンプー・リンスを用いた方がよいでしょう。
 界面活性剤の多いシャンプー・セッケンでごしごし洗いすぎるのは最悪です。
 ドライスキンのときは、界面活性剤の少ないシャンプー・リンスで毛髪を洗って、地肌はこすらない洗い方がよいでしょう。

 とはいうものの、原因をのぞきながら、頭部の湿疹には、とりあえずステロイドの入ったローション剤が用いられます。
 ローション剤には乳剤状のものとアルコール成分の入った少し刺激のあるものがあります。
 ひっかき傷が多いと多少しみるかもしれません。
 毛包炎やひっかき傷がひどいときは、抗生剤の外用剤を併用して下さい。
 髪の毛の生えたところにとびひや溶連菌感染症を伴っているときは、抗生剤の内服が必要です。

 頭部の湿疹の中に、一部の症状が強いことがあります。
 頭部の湿疹がとびとびの島状にみられるとき、角質が剥がれて紅斑がそれほど強くない時は、汗と皮脂の好きな真菌(カビ)であるマラセチアによる湿疹が疑われます。

 ひっかいてその部分の症状が悪化している可能性もありますが、そこだけが症状が強い原因を考える必要があります。
 ステロイド外用剤でなかなかよくならず、かえって湿疹の範囲が広がるときは、たいていはマラセチアが湿疹の原因になっていることが多いようです。
 もともとマラセチアは、頭部の脂漏性皮膚炎の原因の一つとして知られています。

 ふつうカビにステロイドを外用すると、免疫が低下するために、カビは増えます。
 カビがアレルギーを起こして湿疹をつくっている時、抗真菌剤(水虫の薬)を外用するとカビは減りますが、湿疹は悪化してひどい状態になることがあります。

 私は最初、弱いステロイドのローションと抗真菌剤のローションを同じ湿疹部位につけて、赤みやかゆみが軽くなれば、抗真菌剤の外用のみで経過を見るように指導しています。
 もちろん、最初から抗真菌剤の外用剤だけで経過を見ることもあります。

 マラセチアは皮膚の常在真菌ですので、再発悪化を繰り返します。

 結局のところ、湿疹の原因となっているものを排除しない限り、どれだけ強いステロイドを使っても、湿疹はよくなりません。

 男性の場合は、髪の毛短くするのもよいかもしれません。
 治療もやりやすくなります。
 特に毛染め剤などの接触皮膚炎が原因として考えられるときは、女性は難しいかもしれませんが、坊主に近い長さにするのがよいでしょう。

 髪の毛が当たって、眼の周囲や首の湿疹をつくっていることがあります。
 汗に問題がなければ、髪の毛は上でくくるのがよいかもしれません。
 女児ならば左右に横にくくって、髪の毛の先端が皮膚に当たらないアラレちゃん型がよいようです。
 というものの、顔面に湿疹が強く、頭部の湿疹がそれほどでないときは、頭髪が湿疹の悪化を防いでいる可能性があります(たとえば日光から、あるいは保護効果)。

 ちなみに、頭頂部に湿疹が強い時、春から夏にかけて症状が強い時は、紫外線が悪化要因になっている場合があります。

 (3).主婦の湿疹・水仕事をしている間はよくならない

 主婦や子供は自宅に長くいるために、住宅要因に強く影響されます。
 引っ越しで悪化したり、改善することがあり、原因として化学物質が最も多いと考えられます。
 シックハウスについては他のところで述べますが、対策としては、まず十分な換気です。

 主婦は、また妊娠・出産などホルモン的な影響で悪化する場合があります。
 この影響は出産してから何年間も続くことがあります。
 生理周期、特に生理前から生理中期にかけて皮疹が悪化することがあります。

 婦人科で処方される女性ホルモン剤は湿疹に対しても効果がありますが、それがなくなると軽いリバウンドを起こすことがあります。
 またステロイドの一種でもあり、患者さんの免疫状態を良くも悪くも変化させることがあります。

 妊娠による湿疹には次のようなタイプがあります。
 
  @.比較的妊娠初期から湿疹が現れ、中期ころ最もひどくなり、妊娠後期になるにつれて、妊娠の維持のために増えた女性ホルモンによって徐々に軽くなるもの。
 このタイプは、出産後、再び悪化することがあります。

  A.妊婦にとって異物である胎児がアレルギーの原因のとき、大きくなる妊娠中期に近くなってから始まり、出産前が最もひどくなるもの。
 このタイプは、出産後、良くなることが多いようです。

  B.妊娠中はごく軽い湿疹であったものが、出産後、全身にひろがるもの。
 このタイプは、引っ越しによる環境要因や子育てのストレスも悪化に関係しています。

 他に妊婦は、感染症に非常に弱く、単純ヘルペス、黄色ブドウ球菌による毛包炎、溶連菌感染症(A群やB群)、カンジダなどの真菌などに注意が必要です。
 風疹や伝染性紅斑(リンゴ病)、トキソプラズマなど妊娠中にかかると胎児に影響するものもあります。


もちろん、妊娠、出産で湿疹がよくなる場合もあります。

妊娠・出産によって体質が変わり、免疫状態が改善することがあります。
妊娠・出産ではなく、引っ越しでよくなった可能性もあります。
妊娠・出産で何も変化しないこともあります。

妊娠・出産による悪化と改善と変化なしは、だいたい1:1:1です。


 主婦のような仕事を始めてから、生まれて初めてに湿疹が出現したという患者は少なくありません。

 体質として刺激に弱いというアトピー体質・ドライスキンがあり、水仕事などで頻繁に手を使うことで生じた刺激性接触皮膚炎です。

 喫茶店やマクドナルドでアルバイトしたり、
 OLになりお茶くみをさせられたり、
 美容師・理容師になって洗髪ばかりさせられたり、
 子供が水遊びすることで、
手に湿疹ができるのと同じです。

 手湿疹ができると、そこからアレルゲンが入りやすくなり、毛染めや整髪料、ゴム手袋の成分で手にアレルギー性の接触皮膚炎ができたり、魚や肉や野菜でアレルギー性の接触じんま疹が起きることがあります。
 刺激性接触皮膚炎に比べてアレルギー性の接触皮膚炎はかゆみが強く、ひっかき傷や二次感染が多くなります。

 手湿疹が続いていると、指の間の水かき部分にカンジダというカビがふえることがあります(カンジダ性指間びらん)。
 手湿疹を治しながら、水虫の薬(抗真菌剤)が必要ですが、ステロイド外用剤でカビは増えるだけに対応は難しいときがあります。

 単純に手湿疹を改善させるものはステロイド外用剤ですが、それ以上に湿疹を作らない努力が重要です。
 手を外的刺激から守るために、ワセリン・アズノール・プラスチベースなどの油性基剤、ケラチナミン軟膏・ウレパールクリーム・パスタロンソフトなどの尿素軟膏、ヒルドイドソフト・ローションなどのクリーム剤、その他市販のハンドクリームなどが用いられます。
 
 ゴム手袋の成分、たとえばラテックス・可塑剤のフタル酸エステルなどで手背に湿疹ができることがあります。

 なお、手背にできた湿疹の患者さんの中に、ときどきすべての外用剤が合わないひとがいます。難物です。

 二重にした手袋(綿手袋の上にゴム手袋を重ねる)や使い捨てのプラスチック手袋を使うのがよいのですが、仕事で使えないことも多いようです。
 手袋が短いために、洗剤の液が入り込んで湿疹が悪化することも多いようです。
 短い綿手袋に長袖の下着を切ってつなぎ、長いゴム手袋や塩ビの手袋をその上につけるのもよい方法です。
 綿手袋を長くするのは、綿であれば、日本手ぬぐいでも、何でもかまいません。
 長い下ばきの綿手袋を探すのがよいのですが、そう簡単によいものは見つかりません。

 というものの、アレルギー性の接触皮膚炎のときは、何よりもまず原因を排除することが必要です。

 (4).仕事人の湿疹・何を触っているか浴びているか

 
勤労者においては、排気ガスを大量に吸い込むことを含めて、仕事が重要な悪化要因になっています。

 よくみられる化学物質(ハプテン)としては

 毛染めの原料にもなる芳香族のアミン
 ブフェキサマクなど芳香族アミド
 抗菌剤として頻用されるハロゲン化したピリジン
 高分子・プラスチック原料となるアルキル系アルデヒド・芳香族アルデヒド
 ハイドロキノンなどの芳香族キノン
 抗菌剤などのアミノグルコシド系(アミノ配糖体)
 芳香族に結合した四級アンモニウム塩
 セメントなどにあるクロムなどの金属
など、企業しか分からないいろんな化学物質があります。

 コクヨのデスクマット皮膚炎(2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルホニル)ピリジンが原因物質)ようなマスコミに取り上げられ、回収に至ったものもあります。
 が、化学物質の生産現場で働いている人に接触皮膚炎が起きても、たいていはまともに対応してくれません。
 その人の特殊な体質が原因とされると、どうすることもできません。

 職業性皮膚炎と診断されても、会社側は労災とすることはまずなく、アレルギーは本人の責任とされて、なかなか部署を変えてくれないものです。
 余計なことを言うと、公務員でなければ失業の危険もあります。
 また、不景気な時代でもあり、転職は容易ではなく、アレルギーに影響しない仕事はそれほど多くないかもしれません。

 できるだけ職場の換気につとめ、きたないエアコンの近くでは働かないようにしたいものです。
 湿疹の原因となっている可能性のあるものを扱うときは、活性炭入りのマスクやメガネを着用し、手や顔を頻繁に洗うのもよいかもしれません。

 大きな会社や官公庁なら、医師の診断書をもらって配置転換を希望するのもよいでしょう。

 ストレスは、どのような仕事でも必ず存在します。
 うまくストレスをこなしていく精神的安定も必要です。

 もちろん慣れていく必要はありますが、アトピー性皮膚炎患者さんにはしばしばどうしても向かない仕事があることも事実です。

  たとえば、

@.勤務時間が長すぎるもの、あるいは、夜勤が多いもの
A.手の刺激が強く、化学物質を触る職場(美容師、理容師など)
B.化学物質と接触したり、吸入する職場
C.顔に化粧品を使うことを要求されるところ

などが、それに相当します。

 成人型アトピー性皮膚炎は、しばしば環境が重要な悪化要因となっています。
 その意味で、それまでの環境をすっかり変えるようなもの、たとえば、何らかの転地療法は根本的な解決手段として非常に有効です。

 外国旅行したり、ホームステイすると、その間湿疹やかゆみがすっかりよくなる患者がいます。
 入院しただけで湿疹がなくなる患者もいます。
 そんな患者も自宅や仕事に戻ったとたんに症状が復活する例も少なくありません。

 狭いところに多すぎる人間がたむろする日本こそアトピー性皮膚炎の元凶といえます。

 東京などの大都市はアレルギー体質を持った人には住みにくく、特に大阪は緑が少なく劣悪な環境にあると思われます。
 地方出身者は地元に帰るべきですが、日本に住むくらいならアメリカや東南アジアに出向したほうがよいかもしれません。

B.成人期のアトピー性皮膚炎のステロイド外用剤

 ステロイド外用剤を使うことについては、様々な意見があります。(学会報告)(学会報告
 「湿疹がほとんどなくなっても、ステロイド外用剤を塗り続けた方がよい」と言っている論外な皮膚科医もいます。

 いろんなことをまとめると、以下のようになります。

@.現在存在する湿疹を多少とも軽減したいときは、ステロイドが最も簡便であり、かつ効果的であること、

A.湿疹があると、それによるかゆみから引っ掻いてさらに湿疹を悪くする、という悪循環があり、この悪循環を断つためにはステロイドが最も効果的であること。

B.ステロイドの治療は単に症状を軽くするだけの
対症療法に過ぎず、根本的な治療にはなっていないこと。
 しかし、中止すると悪化する可能性があること、

C.長期に使用していると、
副腎の抑制などの全身的な副作用の問題、皮膚が薄くなるなどの局所の副作用問題、ステロイド皮膚炎などの薬剤依存性の問題が避けられないこと、

D.ステロイドを使うことで、外用剤による接触皮膚炎が起きやすくなること、


 自分に成人型のアトピー性皮膚炎があって、ステロイドを外用している皮膚科医も多数います。
 以前、彼らにステロイドについてアンケート調査をしたことがあります。
 詳細は他でまとめていますので、そちらを見て下さい。(論文報告

 ステロイドを外用しているうちに偶然(?)原因が除かれて、湿疹がよくなってくることもあります。
 実際、時が物事を解決してくれるまで、のんびり待つのが良いこともあります。

 ただ、すべての患者がそんなに運が良いとは限りません。
 神経質にならない程度に、あまりやりすぎない程度にいろんなことを試みるのがよいと思われます。

 何か矛盾した表現になっているのは分かっています。
 こんなふうに言うのは、患者の中にはとりつかれたように徹底的にやらないと気が済まない人がいるからです。
 そんな人はこんなにやっているのにどうしてよくならないのかとついつい思いがちです。
 そうなると、絶望した気持ちになることもあります。

 ステロイド外用剤を急に中止するのはあまりおすすめではありませんが、それでうまくいく患者さんが確かにいます。

 ただ、そんな患者はイチローの打率よりも低く、せいぜい3割がいいところです。
 それも、私がうまくいくかもしれないと選択した患者さんでやっとその程度です。
 自己判断で単にステロイドが怖いというだけで止めた患者はもっと成績はよくありません。
 以前このことで雑誌に報告したことがあります。(遠藤薫:アトピー性皮膚炎におけるステロイド外用剤の中止の判断基準とその後の対策。アレルギーの臨床、15(13)、951、1995

 ステロイドの中止がうまくいくという判断基準として、いくつか項目を述べますと、

1.「患者本人がステロイド外用を望まない。」
 このことは、逆に言えば、患者がステロイドを使ってでも今すぐ何とかしたいと思っているときは、一時的に止めて悪化するだけで、ひどいリバウンドを残して挫折するだけです。
 回りの意見に左右されない強い決意が必要です。

2.「ステロイド外用剤による悪化」。
 つまり、ステロイド外用剤でかえって悪化したという経過があるときです。
 ステロイドを少し止めただけで悪化する状態というのは、あまりおすすめではないかもしれません。
 たしかに、ステロイドの使いすぎがそうさせているとも考えられますが・・・

3.「外用剤による接触皮膚炎の既往」。
 化粧品を含めたいろんなものでかぶれやすい患者さんは、ステロイドを含めて外用剤が合わない可能性があります。

4.「アトピー性皮膚炎の悪化要因が除かれている」。
 除ける範囲で原因・悪化要因がなくなっていることは、ステロイドを中止できる最低条件です。

5.「社会的適応」。
 ステロイドを中止すると、ひどいリバウンドで仕事に差し支えがある可能性があります。
 公務員のような仕事を休んでもクビにならない仕事をしている患者に限ります。
 主婦や大学生もよいかもしれません。

6.「患者や家族の性格と精神状態」。
 これも重要です。
 穏やかな、神経質でない患者さんほどよい結果が得られています。
 家族の誰かが非常に神経質で、しばしば患者さんの足を引っ張っていることがあります。

7.「検査所見から」。
 当然、IgEが低く、RAST値陽性が少なく、IgGも高くない患者さんの方がうまくいきます。


C.成人期のアトピー性皮膚炎の抗アレルギー剤


 
抗アレルギー剤

 (2回/日内服、抗ヒスタミン作用あり)
  ザジテン・ジキリオン、セルテクト(肝障害、子供は錐体外路症状に注意)、
  アゼプチン(ときに苦味の副作用)、アレロック、ダレン・レミカット、
  タリオン、アレグラ

 (1回/日内服、抗ヒスタミン作用あり)
  アレジオン、ジルテック、エバステル、クラリチン 、ザイザル

 (抗ヒスタミン作用のないもの)
  リザベン(出血性膀胱炎に注意)、
  アイピーディ(本当に効果があるのか不明)
  インタール

抗ヒスタミン剤
  ポララミン(6mg復効錠は発売中止、現在ネオマレルミンという後発品のみ)、
  アタラックス、アタラックスP、タベジール、ホモクロミン、ペリアクチン、
  ニポラジン(ゼスランと同じ、内服したとき日光過敏型の薬疹に注意)


 のみ薬はアトピー性皮膚炎にかゆみに効果があるかというと、抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤は多少効果がありますが、すっかりなくなるほどのものではありません。

 夜間睡眠中にかゆみで引っ掻いて悪化するのを止めるためであり、湿疹と同時に出ているじんま疹症状を抑えるためと考えて下さい。
 昼間あまりかゆくなければ、朝は飲む必要はありません。

 抗アレルギー剤を飲んでいるとアレルギーの原因が抑えられるかというと、そうでもないようです。

 抗ヒスタミン剤と抗アレルギー剤は実質的には同じものと考えられます。

 どちらも副作用として眠気、口渇・便秘、眼圧上昇(緑内障患者さんは要注意)、前立腺肥大の悪化(高齢者男性で尿が出にくい症状)などがあります。

 抗ヒスタミン剤は眠気が強いものが多く、抗コリン作用が強いために、口渇や便秘前立腺肥大の悪化の問題点が強く出る傾向があります。

 しかし、古い薬剤がほとんどで、薬価が安いという有り難いところもあります。
 運転その他要注意ですが、強力にかゆみや鼻炎を止めたいのであれば、ネオマレルミン(ポララミン)やアタラックスPはおすすめかもしれません。

 抗アレルギー剤の中には、かゆみ止めの作用(抗ヒスタミン作用)のないものもあります。

 作用が弱く、眠気が少なく、作用時間が長く、夜1回だけ内服する抗アレルギー剤もあります。 
 ただ作用時間が長いと、副作用が生じたとき、それが長く続くことにもなります。

 血中半減期(T1/2)の長いもの、たとえばエバステルで15時間、クラリチンで14.3時間、アレジオンで9.2時間というところですが、ジルテックが7時間、アゼプチンが16.5時間、ニポラジンが32.7時間というのはおかしなところです。

 抗アレルギー剤には、血中濃度がピークに達するまでの時間の短いものがあります。
 最高血中濃度までの時間(Tmax)が最も短いものは、アタラックスで30分、アレロックで約1時間、タリオンで1.2時間というところです。
 短いほど効果が出るのが早く、症状がでてから飲む薬としても向いているということでしょうか。

 どこから薬剤が処理・排泄されるかも重要です。
 たとえば、ほとんどが腎臓から排泄されるリザベンは、出血性膀胱炎を起こすことがあります。
 タリオン、ザジテン、アレロック、ジルテック・ザイザル、エバステルなどは、主に腎排泄の薬剤です。
 アレグラ、アレジオン、アタラックスなどは、肝臓から胆汁を通じて糞便中に排泄されます。
 腎臓のよくない患者には糞便排泄の薬剤、肝臓に問題のある患者には腎排泄の薬剤がよいということになりますが、そんな単純な問題ではないかもしれません。

 また併用注意の薬剤もあります。

 抗生剤のエリスロマイシンに対する併用注意の薬剤は、エバステル、クラリチン、アレグラ、
 向精神薬・睡眠剤に対しては、レミカット、セルテクト、ニポラジン、
 抗てんかん剤に対しては、クラリチン、ニポラジン、アタラックスなどです。

 向精神薬・睡眠剤や抗てんかん剤、アルコールについては、抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤すべてで併用注意となるかもしれません。
 また、ザジテンのようにてんかん患者さんやてんかんの既往がある患者には用いないようにという薬剤もあります。

 トリルダンやヒスマナール(現在どちらも発売中止)のように心疾患があると使えないものもあります。

 リザベンは、抗ヒスタミン作用はなく、眠気もありません。
 純粋に抗アレルギー剤と呼べる薬剤でもあります。
 肥厚性瘢痕の治療剤としても処方されます。
 ただし、ひどい出血性膀胱炎の副作用が出ることがあります。
 痒疹型や貨幣状型などの特殊なタイプのアトピー性皮膚炎によいことがあります。

 アレグラはトリルダンを改良したものです。
 アレロックはセルテクトと同じ製薬会社の薬剤です。
 セルテクトは肝障害がいくらか多く、子供には錐体外路症状という奇妙な副作用がでることがあります。

 またニポラジン・ゼスランは内服しているとき紫外線を浴びると赤く発疹ができる光線過敏性の薬疹ができる場合があります。
 ただし、このタイプの薬疹は、どの抗アレルギー剤でも起きる可能性があります。
 錠剤に色が付いているもの、包装が赤や黄色になっている薬剤は、もしかすると、紫外線・日光で分解されやすいことを示しています。


 ザイザルはジルテックからL型のみとりだして、効果を高めるとともに、眠気など副作用を減らしたものです(平成22年12月発売)。
 平成26年には、ザイザルシロップが6カ月の乳幼児から、かゆみ止めとして処方できます。

 口の中でラムネのように溶け、水なしで飲めるOD型もあり、大流行です。
 エバステルOD(5mg)は特にのみやすく、子供に人気です。
 タリオンのOD型のように本来のものよりかなり大きくなることがあります。
 OD錠なのに水で流し込むようにという指定があるアレロックOD錠もあります。

 喘息や鼻閉の薬剤キプレス・シングレアのチュアブル錠は口の中でかみつぶしてなめるタイプですが、大人用よりサイズが大きくなっています。

 OD錠は口の中で溶けるために、口の中で残って嫌な感じがある患者さんもいます。

 一方、口の中で溶けることで口腔粘膜・上部気道粘膜から吸収されて、アレルギー性鼻炎や気管支喘息に効果が高い可能性があります。

 アゼプチンは内服後、水も苦いというようなひどい苦みが続くことがあります。
 私は、この副作用をこれが頭部への移行がよいためと考え、顔面の湿疹やかゆみの強い患者さんに用いています。

 粉末は苦みがあると、子供に嫌われます。
 特にアレジオンドライシロップは苦すぎて子供には人気がありません。
 アレロックドライシロップの味が嫌いな患児もいます。
 同じことは漢方にも当てはまります。

 妊婦については、胎児に催奇形性の危険性があるためなど、ほぼすべての薬剤が用いない方がよい(禁忌)となっています。

 それでも、患者さんと合意の上、妊娠を維持するために、抗アレルギー剤の内服を続けたことがあります。
 どれが無難で、より安全性が高いとはいえません。

 古い抗ヒスタミン剤が使用経験長いためより安全性が高い、という意見があるかもしれませんが、はたしてそれが正しいのかよくわかりません。

 妊娠後期30週を過ぎれば安全性が高くなるという意見があります。
 その頃から乳児も内服している薬剤(ザジテン・ザイザルなど)を選んで処方することがあります。

 授乳婦についても、母乳を通じて乳児に移行し、乳児に対して安全性が確立していないとしているものがほとんどです。
 どうしてもというときは、授乳をやめなさいと指示することがあります。

 何かあったときの訴訟を回避するためと考えられますが、添加物や農薬を年間何キログラムも摂取している現代人にそこまで神経質になる必要があるのかという印象もあります。
 それでも薬剤の添付書に授乳婦は内服しないことと記載されると、どうしても使いづらくなります。
 上記しましたように、私の場合、乳児も内服している薬剤を授乳婦に対して、どうしても必要なときに用いています。


 抗アレルギー剤・抗ヒスタミン剤の飲み方、減らし方

まず、どんな症状に対して薬剤を用いているか、その薬剤が自分にはどのように効いているのか、常にチェックしておくことが大事です。

普通抗ヒスタミン作用のある抗アレルギー剤は、じんま疹、アトピー性皮膚炎のかゆみ、アレルギー性鼻炎のくしゃみ・鼻水に用いられます。
内服しても少しも効果がないと判断すれば、そんなものは止めた方が賢明です。

いずれにせよ、抗アレルギー剤はアトピー性皮膚炎に対してはかゆみでひっかいて悪化するのを止めているだけです。

一方、じんま疹に対しては、抗アレルギー剤の内服が有効です。
何もしなくても自然に消えるじんま疹症状に対して、ステロイド外用剤は使用しない方がよいでしょう。

じんま疹に対する抗アレルギー剤の飲み方としては、

@.内服してじんま疹症状が出ない状態になれば、少しずつ減らす

 減らし方としては、

 毎日朝夕1個ずつ、2錠/日内服しているときは、(2 2 2 2 2 2 2 2 2... )
 次は、毎日夜1個だけに減らす。 (1 1 1 1 1 1 1 1 1... )
 減らして、翌日の夕方までにかなり症状が現れる時は、2錠/日内服にもどす。

 毎日夜1個で続けていて、全く症状がない状態が続くときは、
 次に、1日おきに夜1個内服に減らす。(1 0 1 0 1 0 1 0 1 0...)
 減らして、内服しない日にじんま疹が出るときは、もとの毎日夜1個にもどす。

 1日おきに夜1個内服を続けていて、全く症状がない状態が続くときは、
 次に3日ごとに夜1個内服に減らす。(1 0 0 1 0 0 1 0 0 1 0 0 ...)
 減らして、内服しない日にじんま疹が出るときは、もとの1日おきに夜1個にもどす。

 3日ごとに夜1個内服を続けていて、全く症状がない状態が続くときは、
 たまにじんま疹が出たときだけ内服する飲み方でもよいかもしれません。

 同じように飲んでいて、たまに強い症状が出るときは、必ずその理由を考えて下さい。

A.じんま疹がアナフィラキシーショックなどの強い症状として現れるときは、あらかじめ抗アレルギー剤を予防内服して、H1受容体をブロックしておく必要があるかもしれません。

 

 漢方でも何でも飲み薬は飲んでいると直りそうな気分が大事で、いやでたまらないものを無理に飲ませるのはむしろ逆効果です。
 もちろん効果がないと判断すれば止めた方がよいのも確かです。

 抗アレルギー剤は結構価格が高く、それだけに発売が古いものにはたくさんの後発品があります。
 ポララミンのようにもうからないということで先発品がなくなったものもあります。

 ジルテックのように同じ先発品が複数の製薬会社から発売されているものもあります。
 同じ先発品が、発売メーカーそれぞれが違った名前つけているもの(たとえば、キプレス・シングレア)もあります。

 ということで、同じ先発品でも製造工場のレベルで純度などが異なる可能性があります。



抗アレルギー剤・抗ヒスタミン剤の代謝と併用注意
 
 製品名  一般名  尿中排泄率(%)  糞便排泄率(%)  Tmax(h)  T1/2(h)  併用注意
 タリオン  ベボタスチン  75-90    1.2  2.4  
 アレグラ フェキソフェナジン  11.5  80  2.2  9.6  エリスロマイシン、AL、Mg
 アレロック  オロバタジン  63-71.8    1.0  8.75  
 ザジテン  ケトチフェン  71.1  26.4  2.8  6.27  睡眠剤、アルコール
 セルテクト  オキサトミド  36.5  50.3  2.2  9.6  睡眠剤、アルコール
 アゼプチン  アゼラスチン  2.5  1.2  6  16.5  
 アタラックス  ヒドロキシジン  10  85-90  0.5  4  てんかん剤、向精神薬、
アルコール
 レミカット・ダレン  エメダスチン 44.1     3.1  7.0  向精神薬、アルコール
 ニポラジン メキタジン  20    5-8  32.7  向精神薬、てんかん剤、
アルコール 
 リザベン トラニラスト  100    ワーファリン 
 ジルテック セチリジン   50-70    1.4  7 テオフィリン、リトナビル、
アルコール 
 ザイザル  レボセチリジン  50-70    7.3  テオフィリン、リトナビル、
アルコール
 エバステル エバスチン  63  16  4-6  15   エリスロマイシン、抗不整脈剤
 クラリチン ロラタジン  40  41  1.6  14.3  エリスロマイシン、てんかん剤 
 アレジオン エピナスチン  25.4  70.4  1.9  9.2   

 基本的な考え方として、腎障害があれば、腎排泄、尿中に排泄される薬剤は投与量を減らした方がよいか、腎障害のある高齢者は避けた方がよいかもしれません。
 
アルコール性肝炎やウイルス性肝炎などの肝機能障害がひどければ、肝臓で処理されて胆汁に分泌されて、糞便から排泄される薬剤は好ましくないこともあります。
 いずれも障害の程度に関係します。
 Tmax(h)は内服してから血中濃度が最も高くなるまでの時間を表しています。
 短いほどすぐに効果が現れるということです。
 T1/2(h)は血中濃度が最高点から半分になる時間、半減期を示しています。
 長いほど効果が長く続くということですが、副作用も長く続くということになります。
 短いと、効果がすぐになくなりますが、眠気は少なくて済むかもしれません。
 タリオンのT1/2の短さは注目です。
 そのために、タリオンには併用注意がなく、薬疹が少なく、高齢者にも使いやすいようです。

 
*後発品(ジェネリック医薬品)について* 
 
 先発メーカーの独占販売時期が過ぎた薬剤を他のメーカーが特許にお金を払って販売している薬剤のことです。

 開発費用がなく、治験・安全性試験を行っていないぶん安価です。
 ただし、アメリカのジェネリック医薬品は、少なくとも治験は行われています。

 中味は先発品と同じといいますが、

1. 自社で製造・検査設備もない中小メーカーが多く、薬剤原末を買ってきてパックしているだけというメーカーが多い。

2. 薬剤原末はほとんどが中国・インド・イスラエル製
 安くするために製造特許を取得していないとき、製法が異なるためにかなりの不純物が含まれる場合があります。
 原材料の品質が悪いために、純度が低下することも多い。
 不純物が肝障害・腎障害・薬疹の原因となります。

3. 最近は薬価の下がった先発品を外国メーカーに作らせている場合があり、先発品だからといって安全とはいえません。
 平成22年に抗真菌剤のファンギゾンに10%を超える不純物が含まれていたために一時発売中止になったことがあります。
 オーストラリアのメーカーに作らせていたものをたまたま検査して発見したらしいが、自社開発製品でもこの程度です。

 ほとんどの後発品メーカーは原末の定期的な検査もしていません。
 不純物が多いと有効成分の濃度も低下し、それだけ薬剤がきかないということにもなります。
平成25年になって、サノフィ社がアレグラを日医工で製造させて、同じ製品を、自社の先発品、自社子会社の後発品(フェキソフェナジン)として販売しています。
先発品のディスカウント、他社の後発品を使わせない作戦とでも言うのでしょうか。
少なくとも、先発品と後発品は全く同じものという信頼感はあります。

4. 薬剤に用いられている添加物・基剤その他は、先発品と後発品ではかなり異なっています。 
 外用剤などはこれが同じものとはいえないものも多いようです。
 同じ錠剤でも、錠剤にしているいろんな成分や製造方法が異なると、薬剤の吸収の具合も違ってきます。
 実際、先発品と後発品で、内服後の血中濃度が全く異なるという報告があります。
 後発品の薬剤成分の吸収が少なく、分解量や排泄量が多ければ、その薬剤の効果は低下します。
 後発品の薬剤成分の吸収が先発品より多く、分解量や排泄量が少なければ、その薬剤の効果は実際以上高くなり、効き過ぎたり、副作用が出やすくなります。
 薬剤の血中有効濃度の範囲が狭いものや、副作用の起きる濃度域が近いときは、後発品は危険かもしれません。 

5. 少なくとも先発品と同じ工場・製法で作られた薬剤原末を使うか、ロットごとの詳しい成分分析の報告書を添付する義務と違反したときの刑事罰を設定すべきです。
 中国の富裕層は粉ミルクだけでなく、自国製の風邪薬も買わないという話です。
 嘘か真か分かりませんが、厚生労働省の役人に後発品を処方しようとすると、オレを殺す気かと激怒したという笑い話があります。

6. 先発品が発売されてかなり過ぎてから、新しい副作用が報告され、添付伝書に記載されることがあります。
 多くの場合、後発品の副作用です。
 恐らく、その後発品の不純物によるものと考えられます。

7. 天然のビタミンCと合成されたビタミンCは同じではありません。

 ビタミンC、すなわちL-アスコルビン酸は、合成されるとかなりのD-アスコルビン酸(エリソルビン酸)が不純物として含まれます。
 製法によっては、他の派生体も同居しています。
 
 光学異性体は構造が異なり、同じ作用・副作用を有していません。
 実際、エリソルビン酸にはビタミンCの作用はありません。

8. 近年、後発品の名前を一般名(販売会社の略称)になっています(たとえばフェキソフェナジン(日医工)というように)。
 薬局で変更しやすくするための厚生労働省の作戦です。
 ただ、昔の後発品はそれぞれ独自の名前がついています。
 というわけで、先発メーカーは、できるだけ複雑で長い一般名を使っています。
 平成25年、アレグラの後発品が発売されしたが、一般名はフェキソフェナジンで、舌をかみそうです。
 エメダスチン(ダレン・レミカット)、エピナスチン(アレジオン)、エバスチン(エバステル)は何となく名前が似ていて、薬局も間違えそうです。

 後発品を販売しているメーカーは、単価を安くしているためにどうしても1回最小購入量を高く設定しています。
 医院や薬局は、同じ薬剤を一度に大量に買ってしまうと、それを頻繁に用いないと、あっという間に消費期限が過ぎてしまいます。

 ということは、消費期限が書いていなければ、古い酸化変性したものを内服している可能性があります。
 後発品を用いるときは、薬剤の入っている箱に記載された消費期限を必ず確認しましょう(消費期限は購入した日から約2年はあります)。
 処方するドクターも、患者さんに合ったものを選ぶというよりも、とにかく安く購入したものをできるだけ早く使ってしまいたいという気持ちになるようです。


 ロイコトリエン拮抗剤(たとえばオノン、キプレス・シングレア)は、気管支喘息の予防効果やアレルギー性鼻炎の鼻閉に効果があります。
 眼囲などの粘膜に近いところにできた湿疹にも効果があるかもしれません。
 粘膜の炎症に起因する慢性じんま疹にも、このタイプの薬剤が効果があることがあります。

 
ステロイドの内服は、当然のことながら、湿疹やかゆみの両方に極めて有効です。
 それだけに、安易に手を出したり、安易に処方されています。

 ステロイドの全身投与は、長く使うといろんな副作用があります。

 正常免疫も抑えられるためにだんだん効かなくなる傾向があり、また止めたときのリバウンドも大きいといえます。
 原因除去のできないとき、使い始めてやめられなくなり、結局ステロイドを内服する前より悪化し、それでいてステロイド内服を中止できない患者さんがたくさんやってきます。

 もらっている内服剤がステロイドとは知らずに飲んでいる患者さんも多いようです。

 またステロイドを内服していると、いろんな外用剤に対して接触皮膚炎を起こすようになります。
 ステロイドの外用剤でも起きることがありますが、何をつけても湿疹ができるというのは実に困った状態といえます。
 しかし、外用剤が合わない患者に対して、仕方なくステロイドの内服を使わざるを得ないこともあります。

 ステロイドの全身投与は短期だから大丈夫ということにはなりません。
 一度問題点が生じると、何年何十年もその副作用を引きずる可能性があります。
 それは、他の免疫抑制剤も同じです。

 受診の心得
 
 *必ず薬局で小さいノート型のお薬手帳を作って貼っておきましょう。
 お薬手帳に
検査結果と保険証をはさんで受診しましょう。

(採血した結果は必ず
文書でもらいましょう。
高いお金を払っているのですから、検査結果は自分のものです。
検査結果は必ず結果をみながら説明してもらいましょう。
医者の大丈夫という言葉にごまかされないようにしましょう。
説明しても分からないだけというときは、分かるまで説明してもらいましょう。

お薬手帳は患者さんの病気の歴史にもなります。
人は時間が過ぎれば、いつごろどんな病気をしたか簡単に忘れてしまいます。
その時にかかった病気や用いられた薬剤が、その後の他の病気を誘発した例はたくさんあります。)


 院内処方で薬が分からないときは、
詳細な明細書にそれが記載されていますので、院内処方のお医者さんでは必ずこれをもらいましょう。*


D.成人期のアトピー性皮膚炎の内服剤

(1). ビタミン剤

 ビタミンB2、B6、C、パントシンなどのビタミン剤も湿疹に有効です。
 (「ヒトに栄養上必須と思われるビタミンについて」はこちら)

 ビオチンビタミンH)が効果があるという報告もあります。

 ビオチンはもともと腸内細菌がつくっている水溶性ビタミンです。
 ここでつくられるビオチンは遊離型で、この形で大腸から吸収されます。
 以前は、腸内細菌が正常なら外から補充する必要はないと言われていましたが、近年の研究から、腸内細菌叢からだけでは生命維持には不十分ということがわかりました。

 ビオチンは、幅広く様々な食品に含まれていますが、普通タンパク質中のリシンと共有結合(結合型ビオチン、ビオシチン)して存在します。
 結合型ビオチンはそのままの形では腸管から吸収できません。
 膵液中の消化酵素でタンパク質が分解された後、さらにビチオニダーゼbiotionidaseで加水分解されて遊離型ビオチンが生成されて吸収されます。 

 子供の頃から風邪をひくたびに抗生剤を繰り返し内服していると、正常な腸内細菌が殺され、大腸菌・カンジダなどの異常な病原微生物が腸管内で増えてきます。
 そうなると、結果として、便秘や軟便・下痢などの慢性の腸症状がみられるようになります。
 つまり、子供が便秘なのは抗生剤の使いすぎということです。

 ビオチンは、子供の時から抗生物質を頻繁に内服している患者さんにはよいかもしれません。
 掌蹠膿疱症
(しょうせきのうほうしょう)の患者さんが、ビオチンを大量に内服してよくなったという話題がありました。
 ビオチンは内服量に上限はないということにはなっていますが・・・

 実際、便秘があると湿疹が悪くなることがあり、酸化マグネシウムなどの便秘の薬も用いられます。
 腸管のアレルギーを考えて整腸剤(ビオフェルミン、ビオスリーなど)も用いられます。
 水分や繊維の多い野菜などの食品を多めに取りましょう。

 センナ・プルセニドのような刺激性の便秘剤に頼るようなことはしたくないものです。
 自然な形で便通が改善されれば、それだけで湿疹やアレルギーがよくなることがあります。

 ヨーグルトなどのプロバイオティクスもよいところがあります。
 砂糖はできれば入れない方がよいかもしれません。

 プロバイオティクス(probiotics)

(定義)
腸内細菌の異常が免疫異常・発がん・神経精神障害などの原因になっている。
ヒトなどの宿主に良好な保健効果を示す生きた微生物(Bifidobacterium(ビフィズス菌)など)、またはそれを含む食品(ヨーグルトなど)が、異常な腸内環境を改善し、上記疾患の治療や予防に役立つこと。

(有用微生物の条件)
胃酸・胆汁酸などにさらされる上部消化管(胃・十二指腸・小腸)のバリア内でも生存・増殖できるもの、下部消化管(大腸)で増殖できるもの

(有用微生物の効果)
整腸作用:下痢・便秘の改善、腸内環境の改善(腸内常在菌叢のバランス維持)、消化吸収の改善効果
免疫調整作用:アレルギー軽減作用、インフルエンザ感染予防、胃ピロリ菌低減作用
●腸疾患予防効果:潰瘍性大腸炎・クローン病・偽膜性腸炎などに対して
●発がんリスク低減:大腸ガン・乳ガン・肝臓ガン・膵臓ガンなど
●血圧降下作用

(問題点)
医学的な検証(エビデンス)が必要

 腸内常在細菌叢

 ほとんどが絶対嫌気性菌で、酸素があると増殖できません。大腸菌などは通性嫌気性で酸素があっても増えます。
 腸内細菌は良いことも悪いこともやっています(Bifidobacteriumはよいことだけ)。

★良いこと(有用)としては、ビオチンなどのビタミン合成・タンパク質合成・感染防御・有害菌抑制・免疫調節などです。

★悪いこと(有害)としては、腸内腐敗・食中毒毒素産生・発がん物質産生・感染症発症(病原性)などいろいろあります。
 結果として、便秘下痢・肝障害・動脈硬化・脳神経障害・発育障害・大腸ガンなどガンの発症・免疫低下・老化などを招いています。

★これらの有害作用は、抗生剤の頻回投与、ステロイド内服・注射、免疫抑制剤内服、放射線(食物からも)、大手術などがきっかけや悪化要因になります。

 腸内細菌の種類と数については、
◆糞便1gあたり109〜1011あるものとしては、
 Bacteroides(バクテロイデス)、Eubacterium、Peptostreptococcus、Bifidobacteriumです。
◆糞便1gあたり105〜108あるものとしては、
 Echerchia coli(大腸菌)、Streptococcus(連鎖球菌)、Lactobacillus、Veillonellaなどです。
◆糞便1gあたり104以下程度存在するものとしては、
 Clostridium perfrigens(偽膜性腸炎の原因菌)、Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌、毒素型食中毒を起こします)、Proteus、Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌、たいていは耐性菌)など病原性があるものばかりです。

 腸内常在菌叢のバランスが重要です。

 近年、正常人の糞便を生理食塩水に溶かして、肛門からファイバーを大腸に入れて、大腸粘膜を洗浄し、糞便移植する治療が行われています。
 腸管のアレルギー疾患の一つともいわれる潰瘍性大腸炎・クローン病などに特に有効という結果が出ています。
 難治性のアトピー性皮膚炎やじんま疹にも効果がある可能性があります。
 確かに、他人のウンコをおしりから入れられるというのは、まるで昔のガキデカの漫画を思い出して、気持ちが悪いところがありますが・・・


 食中毒をきっかけに湿疹が悪化した患者もいます。
 入院患者の便を培養して病原性大腸菌がみつかった患者さんもいました。

 それでなくてもアレルギー体質の患者さん細菌・ウイルスに弱いところがあります。
 できれば生のものは注意した方が賢明なのですが・・・

(2). 抗真菌剤

 抗真菌剤は、白癬菌(水虫)などの真菌(カビ)の薬です。
 抗生剤の内服を繰り返し、腸管内にカンジダが増殖している患者に対して、ときに効果があります。

 ピティロスポルムマラセチアは皮膚表面の常在カビです。

 このタイプの真菌は、汗と皮脂が大好きで、暑くなって汗のかく季節にどんどん増えます。
 この真菌のアレルギーが原因になっている顔面や体幹の湿疹に、抗真菌剤の内服が有効という報告があります。

 特に、顔面全体がびまん性に紅斑が見られる患者、体幹・四肢がびまん性に赤くなり、ステロイド外用剤が効きにくいとき、真菌のアレルギーが悪化要因になっている可能性があります。

 というものの、ラミシールやイトリゾールなど抗真菌剤の内服は、肝障害や白血球減少などの副作用が起きる可能性があります。
 長期に続けるときは、定期的に採血した方が無難です。
 肝臓に問題のある患者さんは、最初から用いない方がよいときもありますが、やむ得ず用いるときはとくに要注意です。
 患者に糖尿病があったり、ステロイドや抗がん剤を内服していると、白癬菌(水虫)が湿疹に混じっていると、抗真菌剤の内服を用いないとどちらもよくならないかもしれません。

 いずれにせよ、真菌(カビ)にステロイド外用剤をつけると、一次的に少しよくなって、それから悪化します。
 ステロイドは免疫を低下させ、感染症に対して弱い状態をつくります。

 全身の湿疹がひどいとき、体に真菌(カビ)が広がったとき、湿疹とカビを見分けて塗り薬を使うのは不可能ですし、湿疹とカビが同じところにいることもあります。
 そうなると、どうしても抗真菌剤の内服が必要ですし、ステロイド外用剤のレベルは下げた方がよいと考えられます。

(3). 精神科用薬

 夜眠れないとかゆみのために引っ掻くことがあり、また十分な睡眠とって体を回復するために、睡眠剤、特に短時間型の入眠剤が有用です。
 いらいらした気持ちの強い患者には、精神安定剤も用いられます。

 しかし、これらの薬剤は習慣性・依存性になりやすく、安易に手を出さない方がよいかもしれません。

(4). 抗生剤とその問題点

 乳幼児のところで繰り返して述べましたが、細菌やウイルス、真菌などの感染症は様々な免疫異常(アレルギー)を引き起こします。
 大人の場合は、子供以上に慢性化した感染病巣が体内に存在し、アレルギーの原因になっています。

 たとえば、慢性扁桃炎などの溶連菌感染症があると、抗生剤の内服もよいかもしれません。
 ただし、繰り返し使っていると、または長く使っていると、薬剤が効かなくなる耐性菌の問題があります。
 内服したからといって、洞窟のようなところに免疫を回避して潜んでいる溶連菌や食中毒菌を退治できるはずはありません。

 また、抗生剤は一時的に細菌を減らすだけで、細菌に弱いという免疫状態を改善するわけではありません。
 おなじことは、にきび(尋常性ざ瘡)にもいえます。

 抗生剤にはいろんなタイプがあります。

 黄色ブドウ球菌に対してはニューキノロン系(フルオロキノロン系)抗菌剤が最も効果があります。
 内服したときは、光線過敏症や肝障害には注意が必要です。

 とびひのように全身に広がって内服が必要なとき、この種類の内服剤は子供では許可されていないために、どうしてもセフゾンなどのセフェム系抗生剤になります。

 黄色ブドウ球菌のとびひには、ペニシリン系やマクロライド系抗生剤は耐性があって効かないことが多いようです。

 テトラサイクリン系抗生剤の内服は、歯が黄色くなるとかめまいその他の副作用から、子供にはMRSA以外では使えません。
 また、ニューキノロン系(フルオロキノロン系)抗菌剤やテトラサイクリン系抗生剤についても、耐性菌が増えています。

 貨幣状型や痒疹型など、感染症が原因と考えられるアトピー性皮膚炎の場合、抗生剤の内服がとてもよく効くことがあります。
 しかし、内在する細菌については一時的に減らしただけですぐに元に戻ることもあります。

 というものの、中止すると悪化すると言うことで、かなり長期にわたって抗生剤を処方したこともありますが・・・。

 あれこれ言いながらも、ミノマイシンなどのテトラサイクリン系がとてもよいことがあります。
 テトラサイクリン系抗生剤には、単なる抗生剤としての作用に加えて、細菌が関与した免疫異常を改善する効果があります。

 が、成人が長く内服するときは、めまい、肝障害、光線過敏症、真っ黒な色素沈着に注意する必要があります。

 溶連菌が悪化要因になっているアトピー性皮膚炎患者さんには、サワシリンなどのペニシリン系抗生剤、セフゾンなどのセフェム系抗生剤の内服を用いています。
 体幹・四肢の伸側に苔癬化した湿疹がひどい患者さんには、しばしばルリッドなどのマクロライド系抗生剤を処方しています。

 抗生剤は結局のところ、一時的に細菌減らすだけで、患者さんが細菌に対して弱いという免疫異常に対して、根本的な問題解決になっていません。
 免疫が低いと言うことに対して、ならばどうすればよいかとなれば、免疫を下げるようなこと、
@睡眠不足、
Aストレスの蓄積、
Bダイエットのような食事・栄養の問題
を改善しなさいといことです。

(5). ヨクイニンなどの漢方製剤

 それでも何か免疫を高めるものはありませんかといわれて近年よく処方しているものに、尋常性疣贅(イボ)に用いているヨクイニン(成分はハトムギのエキス、漢方です)があります。

 ハトムギということで、小麦アレルギーがある患者さんには使えませんが、これといった副作用はありません。

 私は、主に錠剤を処方しています。
 幼児にも処方していますが、患者さんには、薬でなくて、お菓子のつもりでぽりぽりかじって食べるのがよいと説明しています。
 少し変わった味のお菓子ということで、結構、はまる患者がいます。

 ヨクイニンを食べていると、免疫が改善されると共に、感染症による影響が少なくなり、それとともに湿疹が少しずつ良くなります。
 まさにアトピー性皮膚炎の特効薬です。
 ハトムギ茶でもという患者さんもいますが、処方量とおなじくらいお茶を飲むとなると、毎日何リットルも飲む必要があります。

 婦人科的な問題が重なっている時、漢方の桂枝茯苓丸加よく苡仁
(けいしぶくりょうがんかよくいにん)を処方することがあります。

 漢方薬が効果がある患者もいます。
 用いられる漢方の種類は患者のタイプあるいは湿疹の原因・悪化要因でかなり異なります。
 漢方が患者のアレルギー体質まで変えてしまうかどうか、はっきりしません。

 当科では、

1.感染症が湿疹・じんましんの発症に関係していると診断したとき、
 消風散、十味敗毒湯、黄連解毒湯、温清飲など、
2.紅斑が強く、精神的・婦人科的要因が関与していると判断したとき、
 柴朴湯、加味消遙散など、
3.四肢の循環が悪く、紫外線があわないと考えられるとき、
 四物湯など
4.体に元気がなく、胃腸の具合が悪く、単純ヘルペスや扁桃炎を繰り返すとき、
 補中益気湯、加味消遙散など
5.花粉症(特にスギ・ヒノキ)に対して予防もかねて
 小青竜湯
6.婦人科的要因(更年期障害など)に免疫の低下が重なっている時
 桂枝茯苓丸加よく苡仁など

 などを処方しています。

 気管支喘息や蓄膿などの耳鼻科疾患にも漢方を併用しています。

 
よい医者を見つけるのも大事なことです。

 
話も聞かず、症状も見ないで薬だけをくれる医者、相手かまわずに自分の治療を押しつける医者、質問すると嫌がる医者もよい医者とは言えません。
 大学教授は、薬品会社から治験を依頼されたり、研究費の援助をしてもらっている関係から、患者の立場で治療することはできないようです。
 何でも相談できる医者、患者を一人の人間として接してくれる医者を探すことですが、なかなかいないものです。

〈参考〉.
よい医者の探し方
1.出版物・・・内容と人物は一致しないことが多いかもしれません。
2.インターネット・・・患者の情報の方が信頼が置けるかもしれませんが、あてにはなりません。
3.医師の紹介・・・紹介してくれる医師によります。
4.口コミ・・・紹介者の信頼度次第です。
5.電話・・・あらかじめ治療方針などの情報を得るのはよい方法ですが、尋ねられた方は迷惑に感じるかもしれません。


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