アトピー性皮膚炎と
下垂体・副腎皮質機能について
(3例の症例報告)

 
 報告した学会、時期(1991-92ころ)は不明です。
統計的データについては、こちらをどうぞ。

要旨

1. アトピー性皮膚炎の入院患者3名に対して、下垂体・副腎皮質機能を検討した。
2. ステロイドを内服・注射していた28歳主婦で、1年前よりそれらを中止して、全身に湿疹が広がった患者の場合、
 入院時のコーチゾルとACTHは低値であった。
 2週間後、ステロイド外用剤を用いて治療すると、コーチゾルとACTHとも正常以上に上昇していた。
3. ステロイド外用剤を続けていてよくならない25歳主婦の場合、
 入院時のコーチゾルとACTHは、正常以上に上昇していた。
 入院中ステロイド外用剤を用いて治療すると、2週間後コーチゾルは正常範囲であったが、ACTHは正常範囲以下に低下していた。
4. 3週間前よりステロイドを中止し、湿疹が全身に拡大した19歳女性の場合、
 入院時のコーチゾルの分泌は不十分であり、ACTHも正常範囲以下であった。
 入院後ステロイド外用剤を使用しないで治療した結果、2週間後のコーチゾルは分泌不十分であり、依然としてACTHも正常範囲以下であった。
5. ステロイド中止後のリバウンド状態では、コーチゾルとACTHの分泌は不十分で、下垂体・副腎皮質不全となっている。
6. 湿疹がよくなれば、その不全状態は改善する。
7. ステロイド外用剤を大量に用いると、まずACTHから低下する。

8. これらの状態は、すべてステロイド用いたことが原因である。

 

症例1
患者:28歳、主婦
初診:(個人情報であるため省略)
家族歴:母に手湿疹、母方祖父に気管支喘息
既往歴:気管支喘息(4〜12歳)、コリン性じんま疹
現病歴:幼小児期は湿疹はみられなかった。
15歳ころより、肘窩・膝窩に湿疹が出現してきた。
近医で外用剤?、内服剤(ステロイド?)を処方され、月1回静脈注射(ステロイド?)していた。
1年前より漢方のみにし、それまでの外用剤を中止した。
中止して1カ月後ころより、全身に紅斑が拡大した。
2カ月前よりさらに悪化してきたために、どうすることもできなくなり、大阪府立羽曳野病院皮膚科を受診した。

 
 症例1 入院時のアレルギー検査結果  
IgE  2504 IU/ml   
   RAST(PRU/ml) 皮内テスト 
 ハウスダスト  59.3   +
 ヤケヒョウヒダニ  160.7  
 コナヒョウヒダニ  155.9  
 卵白  0.49  −
 牛乳  0.36  −
 小麦  1.57  −
 カンジダ  6.45  +
 スギ  13.6  ±
 ネコ皮屑  17.5<  +
 
症例2
患者:25歳、主婦
初診:(個人情報であるため省略)
家族歴:父と姉にアトピー性皮膚炎
既往歴:アレルギー性結膜炎
現病歴:幼小児期は湿疹はみられなかった。
高校2年ころ、肘窩・膝窩、頸部などに湿疹が出現。
近医で外用剤を処方されていたが、そのころは湿疹は軽度であった。
その後、少しずつ広がり、就職後さらにひどくなった。
結婚後仕事を辞めてからは、最近ほとんど外出していない。
ステロイド外用剤を続けているが、悪化してよくならないため、家族に連れられて、大阪府立羽曳野病院皮膚科を受診した。

 
 症例2 入院時のアレルギー検査結果  
IgE  1765 IU/ml   
   RAST(PRU/ml) 皮内テスト 
 ハウスダスト   0.14   − 
 ヤケヒョウヒダニ  0.14  
 コナヒョウヒダニ  0.17  
 卵白  0.23  −
 牛乳  0.17  −
 小麦  0.35  −
 カンジダ  2.05  −
 スギ  0.11  −
 ネコ皮屑  0.15  −
 
症例3
患者:19歳、女性
初診:(個人情報であるため省略)
家族歴:父と兄にアトピー性皮膚炎
既往歴:特記すべきことなし
現病歴:幼小児期は湿疹はみられなかった。
5,6歳ころより、肘窩・膝窩、手指、頭部などに湿疹が出現。
中学生ころより顔面にも広がった。
湿疹に対しては、ずっとステロイド外用剤を使っていた。
3週間前よりステロイド外用剤を中止したところ、急速に全身に拡大した。
なおウサギをさわると湿疹がひどくなる。
ウサギは幼小児期から小学生ころまで飼っていた。

 
 症例3 入院時のアレルギー検査結果  
IgE  519 IU/ml   
   RAST(PRU/ml) 皮内テスト 
 ハウスダスト   0.05   −
 ヤケヒョウヒダニ  0.03  
 コナヒョウヒダニ  0.03  
 卵白  0.11   −
 牛乳  0.09  −
 小麦  0.09  −
 カンジダ  0.15  −
 スギ  0.02  −
 ネコ皮屑  0.06  −
ウサギ皮屑   2.26   
 
 表1に、入院時と入院2週間後のコーチゾルとACTHを示しました。

 なお、症例1と2は入院中ステロイド外用剤で治療されていますが、症例3はステロイド外用剤は用いていません。

 症例1と2はステロイド外用剤で湿疹は軽減していました、症例3の湿疹は多少よくなっていましたが、著明な改善は見られませんでした。

 症例1(リバウンド状態)のコーチゾルとACTHとも、入院時にはかなり低値を示していました。
 入院2週間後には、ステロイド外用剤(チューブ剤として21日間で85g使用)で湿疹が改善するとともに、いずれも正常域以上に上昇していました。

 症例2(大量とはいえないが、ステロイド外用剤は続けている患者)のコーチゾルとACTHとも、入院時にはいずれも正常域を超えて上昇していました。
 入院2週間後には、ステロイド外用剤(チューブ剤として23日間で77g使用)で湿疹は軽減していましたが、コーチゾルは7.4 μg/mlと低下し、ACTHもまた10 pg/ml未満に低下していました。

 症例3(リバウンド状態)のコーチゾルとACTHついては、コーチゾルは4.4μg/mlとかろうじて正常域以内でしたが、ACTHは10 pg/ml未満に低下していました。
 ステロイド外用剤を用いないで治療したのちの2週間後、コーチゾルは7.8 μg/mlとやや上昇していましたが、ACTHは相変わらず10 pg/ml未満に低下したままでした。
 
 表1 入院時と入院2週間後のコーチゾルとACTH
     入院時 入院2週間後 
 コーチゾル(μg/ml)    症例1   0.9   16.7
 症例2  17.1  7.4
 症例3  4.4  7.8
 ACTH (pg/ml)   症例1   10  52
 症例2  41  <10
 症例3  <10  <10

 
 表2に、入院2週間後に検査したコーチゾルとACTHの日内変動の結果を示しました。

 本来、下垂体・副腎皮質系には日内リズムがあり、早朝に分泌のピークとなり、夕方から夜間最も低くなります。

 症例3では、そんな日内リズムが失われていました。

 症例1は、同じリバウンドの状態をステロイド外用剤で治療していますが、正常な日内リズムは保たれていました。

 症例2では、ステロイド外用剤で治療していますが、日内リズムはコーチゾルにかろうじて残されていましたが、ACTHは低値のままでした。
 症例2の湿疹は、入院中ステロイド外用剤でとりあえず外見的には軽減していましたが、外用剤を減らすと悪化しました。

 
表2  コーチゾルとACTHの日内変動
    採血時間 
    6:00  12:00  18:00 
 コーチゾル(μg/ml)     症例1   16.7 12.5  5.7 
 症例2  7.4  4.6  2.7 
 症例3  7.8  7.7  9.9 
 ACTH (pg/ml)   症例1  52  30  12 
 症例2 <10   <10 <10 
 症例3 <10  <10  <10 
 
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