7.アトピー性皮膚炎のスキンケア 目次 *湿疹のメカニズム 1.乾燥肌(ドライスキン)のひどいとき *衣服内気候 *界面活性剤 *ヤマイモの針状結晶 2.二次感染を伴っているときあるいはびらんのひどいとき 3.外用剤の使い方 *薬剤の変性について @.ステロイド外用剤 *プロトピック軟膏 *ステロイドの経皮吸収 A.非ステロイド系抗炎症剤の外用剤 B.保湿剤 (1).油脂性軟膏 (2).乳剤性(クリーム)軟膏 (3).ローション剤・液剤 4.入浴について (参考)外来でのステロイド外用剤の使用量と効果についての調査 アトピー性皮膚炎では、症状が強ければ、ステロイド外用剤を使う以外にないかもしれません。 湿疹がよくならなければ、もしかすると、何年、何十年もの間、ステロイドの厄介になる可能性もあります。 そのステロイド外用剤の使用量を減らすためにも、スキンケアは重要です。 もちろん、かゆみのコントロールも合わせて行う必要があります。 スキンケアの基本は、乾燥肌と二次感染をどうするかということです。 かゆみの強い湿疹に対しては、ステロイド外用剤(時に内服も)を使うか、それともそれを含まないもので経過をみるかの選択になります。 じんま疹型のかゆみのある発疹については、何もしないで自然に消えるのを待つか、さもなければ、抗アレルギー剤の内服です。 ほおって置いても消えるじんま疹に対して、ステロイド外用剤を使うのは、長い目で見ると好ましくありません。
T型アレルギーにアレルギーマーチをしたということです。 ひっかいて、細菌感染を起こしているとき、Fのところで止めることについては他で掻けない工夫として説明しています。 Gについての感染症対策も重要です。 乾燥肌に対して何らかの刺激が加わり、湿疹ができるのであれば、保湿剤でドライスキンを改善するだけで十分です(上図@に相当)。 また、湿疹が、ドライスキンに外的刺激が影響してつくられているのではなく、アレルギー反応で体の中から湿疹ができているときは(上図Dに相当)、保湿剤だけでは湿疹を改善できないかもしれません。 湿疹(上図Aに相当)にかゆみがあり(上図Bに相当)、ひっかくことで湿疹を悪化させたり、掻爬そうは自体が湿疹をつくっているとき(上図Cに相当)を悪循環といいます。 Aのところを何とかしろとなると、ステロイド外用剤でとめるしかないかもしれません。 また、Bのところを抑えるならば、抗アレルギー剤の内服ということになります。 Cの部位を止めたいときは、引っ掻けないように抑えたり、縛ったり、引っ掻くところを衣類やガーゼや包帯でおおうような作戦になります。 とくに,湿疹があることで他の部位に湿疹ができている場合(自家感作性皮膚炎)、ステロイドでないと広がりが止まらない可能性があります(上図Eに相当)。 いずれの場合も、ステロイドは原因治療にはなっていません。 もし仮にステロイド外用剤を使わないで治療するためには、少なくとも次のような条件が必要となります。 (1).アトピー性皮膚炎と治療法について十分な知識がある。 (2).いろんな外用剤を使い分けるだけの精神的・時間的・経済的余裕がある。 (3).原因対策を併行して行うことができる。 (4).いろんなことを冷静に客観的に判断できる能力と性格を有している。 スキンケアは単に軟膏や保湿剤を塗ることだけではありません。 石鹸の種類と使い方、衣類、化粧品、整髪料、装飾品の問題、汗、日光、睡眠、住居、仕事やそれらのストレスなど、いろんな日常生活の問題もそこに含まれます。 1.乾燥肌(ドライスキン)のひどいとき 冬になると、アレルギー体質があると、たいていドライスキンになります。 確かに冬は湿度が低く、皮膚の水分が蒸散して、さらに乾燥します。 しかし、ドライスキンのできるもともとの原因は洗いすぎのせいでもなければ、恐らく冬のせいでもありません。 ドライスキンには軽いながら炎症があり、湿疹というべきものてす。 ドライスキンの原因として最も多いものは、アレルギー体質に加えて、細菌やウイルスなどの感染症に対するアレルギー反応です。 ということで、風邪などが多い冬場に悪くなるのは当然の結果です。 風邪をひいてなかなかなおりにくい、冬の間ずっと鼻水が出ている子供には、ドライスキンが多いようです。 扁桃に住みついている溶連菌、腸内細菌、ピロリ菌、B型やC型肝炎ウイルスなど、体内に常在する細菌・ウイルスが原因になっていれば、一年通してドライスキンかもしれません。 ドライスキンは、当然ながら、寒くて呼吸器感染症が多く湿度が低い冬季に悪化します。 汗が出て、湿度が高い夏になると、軽くなります。 ドライスキンになると、皮膚表面の油分(皮脂)が少なくなり、セラミドも減少し、皮膚の水分保持能力が低下します。 そうなると、衣類などいろいろな外からの刺激に弱くなります。 少しの刺激で、ともすればかゆくなったり、赤くなりやすくなります。 ドライスキンに対していろんな刺激を繰り返してできた湿疹もまた、アトピー性皮膚炎の症状の一つです。 アレルギーが原因で起きた湿疹と比べて、かゆみは強くないことが多いようです。 そんなドライスキンも、いろいろアレルギーが合併していると、じんま疹型のかゆみがひどくなり、引っ掻いて悪化しやすくなります。 刺激性の湿疹でも、慢性化すると皮膚が硬くなり、引っ張られたり、伸びたりすると、ぱりっと割れて痛くなります。
ドライスキンの治療としては、まずは少なくなった自分の皮脂を大事にして、悪化の原因となる外的刺激を減らすことから始めるのがよいと思われます。 ドライスキンがひどければ、入浴やセッケンで洗う回数を減らしたり、セッケンを使わないほうがよいときもあります。 体の部位や湿疹の状態、汚れの程度におうじて洗い分けることも必要です。 細菌感染が湿疹を悪化させることもあります。 びらんのひどい湿疹の上には黄色ブドウ球菌が多数常在していますので、そんなところは手を使ってセッケンでやさしく洗う方がよいでしょう。 セッケンやシャンプーは、できれば無添加のものをすすめています。 無添加とは、天然のタンパク質がたくさん入ったものということではありません。 アレルギーのおこしにくい炭化水素に親水基が付加されたものということです。 無添加のものでも脱脂能力が強いものがあり、あくまで洗い方が重要です。 ナイロンタオルのようなものは論外です。 シャンプーをそのまま大量に頭にふりかけて、爪を立てて、地肌をごしごし洗うのはやめましょう。 衣類は、一般に、刺激やアレルギーの少ない綿製品がよいでしょう。 化繊のものや羊毛製品は、皮膚に直接触れるとしばしばかゆくなります。 あたたまるほどかゆみがひどくなるために、ヒートテックのような製品がかゆいという患者がいます。 どうしても寒いときは、一番下に綿のババシャツを着て、その上にヒートテックを重ね着しましょう。 しかし、綿であっても、織り方や染色によって、皮膚にやさしくないこともあります。 特に、防菌、防カビ、防臭効果のある製品は、柔軟剤や白く見せるための蛍光剤・漂白剤とともに、皮膚に好ましくないことがあります。 下肢に湿疹がひどいとき、子供の場合は、ステロイドを使いたくないときは、引っ掻けないようにつなぎ服とタイツををすすめています。 タイツもできれば綿製品の方がよいのですが、それが見つからなければ、綿以外の素材でも、ないよりはましです。 大人でも、寝間着代わりにつなぎ服がよいときがあります。 首の後ろについているラベルは、たいていは綿以外のものです。 外的刺激になったり、素材による接触皮膚炎を起こして、後頸部の湿疹の原因となります。 切り取るか、下着なら裏返して着るのもよいでしょう。
現在、アトピー用衣類としていろんな製品が販売されています。 それらの効果については明らかではありません。 素材に綿以外のものが含まれていても、汗をよく吸って乾燥しやすいタイプの衣類は、汗の刺激を減らすことがあります。 学生服は素材が綿ではないことが多く、首回りなどの湿疹の原因になります。 首に当たるところに綿を張り付けたり、首に何かを巻いたりすることもありますが、汗がたまると、どうしても湿疹が悪化します。 仕方なく開いたままにしておくか、首周りがゆるめの制服に替えるほかにないかもしれません。
下着の縫い目が皮膚を刺激するために、わざと裏返しに着ることも行われています。 ブラジャーはストラップの刺激が肩の湿疹を作ったり、留め金がアレルギーを起こすことがあります。 スポーツ用の綿ブラ(スポーツブラ)がよいのですが、あまり人気がないようです。 ブラが当たると皮膚がかゆいということで、綿の下着(ババシャツ)の上にブラジャーをする患者もいます。 パンストには綿製品がなく、刺激の少ないシンプルなものを選択する以外にないようです。 男の人の綿のパッチは結構暖かくてとてもクールですが。 絹はフィブロネクチンというタンパク質ですが、それがアレルギーを起こすことがあります。 ジーンズの腰回りには、裏面にしばしば金属が使われています。 これは刺激になるだけでなく、金属アレルギーを起こすことがあります。 はみ出したバックルも危険です。 女の患者さんが、下肢の脱毛をすると、そこの湿疹の原因になります。 男性のひげそりも、同じことが言えます。 ひげそりは電気カミソリで深ぞりしない程度かよいでしょう。 ひげそりクリームを使って、顔そりすると、顔面がむしろ清潔に保たれるために、よいときがあります。 キズがたくさんできて、毛包炎が多数できるときは、ハズレです。 頭に湿疹の少ない患者さんは、ヒゲを伸ばすのもよいかもしれません。 接着剤(ソックスタッチ)で靴下を止めたりすると、接触皮膚炎が起きて、湿疹になります。 キズができて、バンドエイドを長く使っていると、指が白く浸軟しんなんします。 白くふやけると、刺激に弱い状態です。 それで手の湿疹がひどくなることがあります。 下向きに寝る場合、顔に当たるシーツなどの寝具に注意しましょう。 特に乳幼児の場合、抱いたとき顔に当たる両親の衣類にも注意を払う必要があります。 洗剤(界面活性剤)は、洗濯すればするほど衣類に残る傾向があります。 界面活性剤は皮膚に対して刺激が強く、アレルギーの原因となる可能性もあり、使用量は少な目がよいと思われます。 洗濯セッケンのほうがよいかもしれません。 ただし、セッケンかすが残らないように注意を払う必要があります。 というものの、あちこちにセッケンかすが残って、使いにくいところがあります。 自分で洗うとき、特にタンパク質である酵素入り洗剤は、出来るだけ直接触らないようにしたいものです。 洗濯機の中でワイシャツの襟を素手で洗うようなことは、最悪です。 洗剤に含まれる酵素は、難治性の接触皮膚炎の原因となります。
ドライスキンに刺激が原因で起きる湿疹といえば、手湿疹、いわゆる主婦湿疹が代表的なものです。 ちなみに、主婦湿疹は主婦でなくても、コンビニで水仕事もさせられた高校生でもできます。 会社で事務仕事だけのはずが、いろんな雑用をして、手が荒れるのも、同じ原因で起きています。 バイトで手荒れが起きる人は、主婦になると確実に主婦湿疹ができるということです。 手が荒れやすいということは、アレルギー体質を持っているということです。 主婦になり、それまでほとんどやったことがない炊事・洗濯・拭き掃除・おむつ交換を毎日やっていると、生まれつきかさかさしたした皮膚があれば、間違いなく主婦の勲章としての手湿疹ができてきます。 ということは、そんな手湿疹を今すぐに何とかしたいとなると、主婦の仕事をやめるか、さもなくば、手を刺激から守るために何らかの手段を選ぶしかありません。 乾燥肌の手を保護するとなると、まず思い浮かぶのは、手袋とハンドクリームです。 炊事の時をふくめて、洗剤を触るときは、綿の下敷きをつけて二重の手袋をすすめています。 洗剤の中に手を突っ込むときは、必ず綿の下敷きは肘より長いものを選んで下さい。 短い手袋を重ねても、手袋の間に水や洗剤が入り込むだけです。 「そんな長いものはどこにもない」というのは当然です。 綿手袋に長袖の先を切って縫い付けるか、薄手のタオルか日本手ぬぐいを筒状に縫ってつないで下さい。 さらにその上に、長いゴム手袋かビニール手袋をはめてください。 ぶかぶかで使いにくいかもしれませんが、ポリエチレンなど共重合製の使い捨てのプラスチック手袋もアレルギーが少なく、有効です。 短くて洗剤が入り込むようでしたら、ハズレです。 ゴムの手袋をそのままつけていると、ゴム(ラテックス)アレルギーで手指の背側や手背に湿疹が生じることがあります。 ラテックスではなく、フタル酸エステルなどのゴムの可塑剤が湿疹の原因になっていることがあります。 塩ビ手袋をそのままつけると、残留した塩ビモノマーやホルマリンが、湿疹の原因になることがあります。 原因除去という観点から言えば、洗濯は全自動洗濯機(全自動洗濯乾燥機機)で行う方がよいですし、食器を洗うのも食器洗い機にまかせる方がよいでしょう。 洗剤を使わない洗濯機も、アレルギー患者さんにはおすすめです。 特に新婚の女性は手湿疹を悪化させないためにも、出来る範囲で男性にゆだねる方がよいかもしれません。 夕食後の食器洗いは男性の仕事。 とにかく、最初が大事です。 そういうものの調理は素手で行うよりほかなく、かゆみを起こしやすい食材を直接手で触るのはやめましょう。 おむつをかえるのも素手でやるしかないかもしれません。 化学物質がたくさん入ったおしりふきでごしごしやっていると、赤ちゃんにおむつ皮膚炎ができますが、お母さんの手にも湿疹ができます。 針状結晶のあるサトイモはすでに皮をむいたものを購入し、ヤマイモは誰か別の人にすりおろしてもらいましょう。 お米をとぐのは、お箸はしでやりましょう。 ぬかみそを素手でかきまわすのは止めましょう。 ヤマイモの針状結晶。 サトイモ、キーウィ、パイナップルにもあります。 この針状結晶が刺さってかゆみのある湿疹ができます。 ヤマイモが口囲についてできた丘疹です。 ドライスキンの治療としては、皮脂を補い、外的刺激を減らす目的で、 白色ワセリン・プロペト、アズノール軟膏、プラスチベース、 ケラチナミン軟膏・ウレパール軟膏、パスタロンソフトなどの尿素を含んだ外用剤、 ヒルドイド軟膏、ヒルドイドソフト・ヒルロイドローション、ビーソフテンローション ザーネ軟膏、ユベラ軟膏、オリーブ油、椿油 その他市販の外用剤、ハンドクリームなどの いろんな保湿剤が用いられています。 保湿剤を選ぶとき、まず年齢と、どこにドライスキンがあるのかということになります。 乳児の顔がかさかさしていれば、私はヨダレやシーツの刺激から皮膚を守るために、多少べとべとしたものとして、主にプロペトを用いています。 乳児の顔面の皮脂を測定すると、たいていはゼロに近い数値が得られます。 年齢が上がるにつれてべとつき感が現れますが、光らない程度に薄く使えばこれで十分です。 しかし、小学生高学年や中学生以上になると、顔面の乾燥肌につけるなら、アトピー用の化粧水か乳液です。 さもなければ、保湿剤は何もつけない方がよいかもしれません。 一般に、アトピー用のものは、他のものより保湿成分が多くなっています。 高校生以上の成人女性になると、アレルギー用の化粧水か乳液がよく、医療用には適当なものがありません。 ヒルロイドソフトやローション、ビーソフテンローションを化粧品の代わりに使われることも多いようですが、年齢が上がるにつれて接触皮膚炎には要注意です。 塗り心地を重要視するなら、これらヒルドイドタイプを使うしかないようです。 頭皮のドライスキンには、接触皮膚炎が起きていなければ、ビーソフテンローションかヒルドイドローションで、乳児ならオリーブ油や椿油も使えます。 体幹や四肢のこすれやすい伸側は、程度に応じて、どんなものでもよいでしょう。 乾燥肌が強ければ、乳幼児の場合は、アズノール軟膏やワセリン・プロペトが合っています。 べとつき感があるときや、汗のかくシーズンは、ヒルドイドソフトやローションの方がよいかもしれません。 成人になると、亀裂が少なく、角化がひどければ、尿素軟膏が向いています。 何も考えなければ、ヒルドイドやビーソフテンが使いやすいでしょう。 これらのタイプで物足りないときは、ワセリン・プロペトかアズノール軟膏です。 油脂性軟膏が必要なときは、湿疹がかなり残っています。 一番よいのは、もちろん自分が分泌した皮脂でおおうことです。 皮脂は汗と一緒に出てきますので、普段から少しずつ汗をかきましょう。 とはいうものの、成人患者が、体や四肢に保湿剤を必ず必要ということは決してありません。 保湿剤がどうしても必要というときは、 @ある程度湿疹があり、ステロイド外用剤のかわりに用いているとき、 A保湿剤を塗るのが習慣になっていたり、 B保湿剤に依存的になっているとき、 などが考えられます。 手のひらや足の裏のかさかさしたところは、尿素軟膏、ひどければ20%、軽ければ10%尿素を含むものを選びます。 下腿などのドライスキンにも、キズが少なければ尿素軟膏はよいかもしれません。 同じ尿素軟膏でも、ケラチナミンよりもパスタロンの方がねとっとしています。 あまりこすれない屈側はヒルドイドのようなクリーム・ローションの方がよいかもしれませんが、接触皮膚炎に要注意です。 ワセリンが合わない患者さんもおり、市販の化粧水やグリセリン入りの自家製化粧水、ビーソフテンローションやヒルドイドローション、温泉水や弱酸性水を外用してよいこともあります。 また、保湿剤が合っていない可能性があれば、ぬらないという選択をすべきです。 なお、保湿剤の外用によってドライスキンそのものが改善されるわけではありません。 ドライスキンはいわばその人の本来持っている肌とも言えます。 もしかすると、ずっと続く可能性もあり、多少はその肌に慣れることも必要です。 ドライスキンがあっても、そんなところに全部に保湿剤を塗るのではなく、かゆみがひどく、何もしないと悪くなるようなところや、保湿剤を塗れば症状がよくなるところを選んで塗る方がよいかもしれません。
2.二次感染を伴っているときあるいはびらんのひどいとき アトピー性皮膚炎の湿疹には、表面に多数の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)がついています。 黄色ブドウ球菌は、本来傷が化膿したときに見られる化膿菌です。 湿疹もまた、常に引っ掻くことで傷が付いている状態と言えます。 びらんのひどいところは、菌数を減らすために、ある程度セッケンを使って洗うことが必要です。 シャワーなどの流水で、そっと洗い流すのもよいでしょう。 イソジン液やヒビテン水で消毒するのも有効です。 しかし、使いすぎると、セッケンや消毒は、皮膚に対しては刺激の一因となります。 ときに、セッケンの植物成分やイソジンなどが、アレルギー性の接触皮膚炎を生じることもあります。 イソジン液はそのまま使用することもありますが、水でうすめたり、つけたあとでシャワーなどで洗い流すことも行われています。 超酸性水や酸性水も多少とも消毒効果があります。 びらんがひどくて、浸出液が出ているときは、たいていは黄色ブドウ球菌の二次感染を伴っています。 イソジンやヒビテンで消毒して、抗生剤入りの軟膏(ゲンタシン軟膏、アイロタイシン軟膏、アクアチム軟膏、アクアチムクリーム)をつけるのも良い方法です。 どの方法を選択するかについては、湿疹やびらんの状態、範囲で決定されます。
びらん・滲出液がひどければ、結局湿疹の症状が非常に強いということです。 消毒するか、抗生剤の外用剤を併用しながら、ステロイドを外用する以外にないかもしれません。 皮膚内部に感染症が広がっていれば、抗生剤の内服が必要かも知れません。 溶連菌感染症やせつ(おでき)のときは、少なくとも抗生剤を内服はした方がよいかも知れません。 外用剤だけでは対応できないくらい伝染性膿痂疹(とびひ)が広がったときも、抗生剤の内服は必要です。 とくに、感染症のために、発熱や全身倦怠感などの全身症状が伴っているときは、抗生剤が絶対に必要です。 ずっと受診していなくても、何も気にせずに受診すべきです。 ただ、抗生剤については、使用すると、たいていは一度よくなってそのあとで悪化します。 そんなものです。 抗生剤で死んだ細菌から漏れ出た毒素が、しばしばアレルギー反応を起こします。 このときは、抗生剤をもちいてすぐに発疹が悪化することがあります。 それでも、生命を維持することが優先されます。 感染症を放置していると、敗血症などの重篤な状態になることもあります。 もちろん、抗生剤による耐性菌の問題もあります。 どんな抗生剤を用いればよいか、という問題もあります。 確かに、抗生剤を用いたからといって、感染症に対して弱い体質は改善されません。 というものの、抗生剤をうまく用いると、湿疹そのものも、かなりよくなる場合があります。 ステロイド外用剤を使わないで経過を見る場合、その部分を掻かせない何らかの工夫が必要です。 四肢の場合は、ガーゼや包帯も有効です。 簡単に長い衣類やタイツで覆ってしまうのもよいようです。 体の湿疹も衣類が効果的で、つなぎのような乳児服を勧めています。 ただし、びらん・浸出液のひどいところにそのままガーゼや包帯を巻くと、ガーゼが浸出液でくっついて、はがすときにとても痛がります。 ガーゼがくっつかないようにするためには、湿疹のひどいびらん部に亜鉛華軟膏を厚めにつけて、その上からガーゼを巻くのがよいでしょう。 あらかじめガーゼに亜鉛華軟膏をヘラか綿棒か手で少し厚めに広げて、広げたガーゼをびらん部に貼り付けて、さらに上からガーゼや包帯を巻くのも良い方法です。 多少べったり亜鉛華軟膏がつきすぎていますが、あらかじめ亜鉛華軟膏がついたボチシートというものもあります。 乳幼児は心配ありませんが、亜鉛華軟膏による接触皮膚炎もあります。 亜鉛華軟膏は、びらん部の浸出液を乾かし、細菌の増殖を抑えます。 びらんや浸出液の少ないところに亜鉛華軟膏をつけると、乾きすぎることもあります。 亜鉛華軟膏が白く残れば、無理矢理にごしごしと洗い落とさない方がよいでしょう。 そのうちに自然に取れます。 浸出液の多いびらん部に、単にワセリンだけをつけるのはよくありません。 細菌の増えやすい状態をつくるだけです。
顔のびらん局面は掻かせないようにするのが難しく、入院患者にはデストロイヤー型の覆面ガーゼとネットを利用していますが、外来では慣れていないと簡単ではありません。 チュビファーストで軽く当たっているだけでも、かゆみは少なくなります。 服を着ていると引っ掻かない子供が、お風呂に入るからと裸にしただけでかゆくなるのと同じです。 とにかく、かゆいところを何かでおおうことです。 掻かせない方法としては、手を縛るようなものもありますが、非人間的な要素が強く、あまり勧められる手段ではありません。 夜間、手指を握らせて日本手ぬぐいのようなもので上から覆ってしまうのことも行われます。 市販のミトンのようなものを利用するのもよいでしょう。 中学生以上の場合、貨幣状型や痒疹型の湿疹については、使い捨てカイロを利用した温熱療法が効果があります。 衣類や手袋の上にカイロを昼間にはっておくと、湿疹が結構よくなります。 夜間睡眠中は低温熱傷(やけど)の心配があり、やらないで下さい。 びらん・滲出液を伴った湿疹に対して、ステロイド外用剤を使わないで治療するとき、ある程度客観的に湿疹の状態を見る目が必要です。 少なくとも発疹が、いつまでも同じような状態が続く湿疹なのか、時間が過ぎれば自然に消えるじんましんなのか、ひっかいた単なるきずあとなのか、ひっかいたことで細菌が入って細菌が増えた状態なのか、単なるドライスキンなのか、見きわめることができれば、治療にとても役立ちます。 自分が行っていることで湿疹が今はどんな状態なのか、どのように変化しているのか、今後どう変わる可能性があるのか客観的に判断できなければ、なかなかうまくいきません。 なお、黄色ブドウ球菌を抗生剤の内服や点滴で完全に消失させるのは不可能です。 それだけに黄色ブドウ球菌のアレルギーのある患者は治りにくいということになります。 血液が通っていない、いわば外の世界に常在している黄色ブドウ球菌の耐性菌のMRSAを、バンコマイシンなどで退治しようというような作戦はまさしく愚かな行為です。 同じことは、体内にあるカンジダや溶連菌についてもいえます。 3.外用剤の使い方 外用剤の使い方には大原則があります。 1.時間がたてばあとかたもなく消えてしまうじんま疹には、ステロイド外用剤はつけないこと。 症状がなくなったのは、ステロイド外用剤をつけたためではありません。 じんま疹に強いステロイド外用剤をつけていると、毛包炎などの皮膚感染症が現れます。 じんま疹の治療は抗アレルギー剤の内服するか、自然になくなるまで我慢するかです 2.炎症を伴った湿疹については、すぐに治したいのならステロイド外用剤、しばらく様子を見たいのなら、保湿剤です。 湿疹の上にじんま疹が合併している時は、抗アレルギー剤の内服を併用する場合があります。 引っ掻くと悪化するからです。 3.単なるひっかき傷は、イソジンなどで消毒するか、放置するか、アクアチムなどの抗生剤入りの外用剤をつけるかです。 とびひになりやすい患者さんは、判断に迷うかもしれません。 引っ掻けないように患部をおおってしまうのが良いでしょう。 4.皮膚の感染症なら、抗生剤の外用剤です。 消毒するかどうかは、刺激による悪影響もあり、皮膚状態を見て判断する必要があります。 湿疹が重なっている時は、ステロイド外用剤も用いるしかないかもしれません。 ただ強いステロイドは免疫を下げるために、抗生剤を使いながら、湿疹が悪化しない程度の弱いものがよいでしょう。
液剤の抗真菌剤です。 左は2年前に使用期限が切れています。 そのために、右の使用期限の切れていないものと比べて、液剤は茶色くなっているのが分かると思います 透明の容器に入った液剤だから、使用期限が切れるとどうなるか分かるということです。 チューブに入ったもの、薬剤が透明でないものはこんなふうに簡単には分かりません。 錠剤のようなものは、もっと見ただけでは分かりません。 @.ステロイド外用剤 ステロイド外用剤は、その強さによって5段階に分類されています。 近年、作用は強いが、副作用は少ないという製品が多数登場していますが、真偽のほどはわかりません。 同じ外用剤が、名前を変えて別のメーカーから販売されています。
ステロイド外用剤の一覧表です(2009年度版)。 左上のデルモベート軟膏が最強のステロイドで、下に順に弱くなるように並んでいます。 右下が最も弱いステロイド外用剤です。 右上にステロイドではないプロトピックが配置されていますが、ステロイド外用剤と比較するとこのくらいの強さということでここに並んでいます。 製薬会社の作ったステロイド外用剤の一覧表です(この図は92年度版で古いものです。容器が変わったものも多い)。 左上から左下まで、強い順に並んでいます。 中央下段はステロイド外用剤に抗生剤を混合したもの、右下は非ステロイド系外用剤。 現在はチューブに直接、製品名と内容を印刷表示するようになっています。 未開封時の使用期限もチューブ剤の一番下に記載されています。 当院では抗生剤外用剤以外の外用剤については、細菌感染の心配から、開封するとおよそ半年〜1年以内、容器に入れた混合剤については3ヶ月程度の使用期限を設定しています。 図(92年度版)の最上部の右から3番目のブデソン軟膏・クリームは、接触皮膚炎が多数報告され、発売中止になりました(2009年度版には載っていません)。 現在、同じブデソニドが気管支喘息の吸入剤(パルミコート、シムビコート)として使用されています。 接触皮膚炎を起こしやすい患者は、念のため用いない方が無難と説明しています。 気道内で接触皮膚炎を起こしたときは、それの診断も難しく、対応も非常に難しいと思われます。 ステロイドの吸入剤も効果がないということで、ステロイドの内服や他の免疫抑制剤が処方されるだけです。 ステロイド外用剤には、溶かしている基剤によって、 @.ワセリンタイプの軟膏、 A.油脂や保湿成分と水を界面活性剤で混ぜ合わせたクリーム剤(O/W剤、W/O剤)、 B.もっと水分が多い乳剤、 C.ほとんど透明の液剤・ローション剤・スプレー剤 に分類されます。 同じステロイドでも、経皮吸収、皮膚浸透性によって軟膏とクリームで強さの異なるものがあります。 軟膏がクリームより強いもの、クリームの方が強いもの、同じくらいのものなどいろいろあります。 普通、水溶性のものは吸収がよくない傾向があり、軟膏剤より弱いことが多いようです。 クリーム剤の方が強いタイプもあります。 ステロイド外用剤は、本来副腎皮質から分泌されているホルモン(コーチゾル)を原型として、少し形を変えてハロゲンを付加し、体内で分解されにくくして作用を強くしたものです。 コーチゾルが本来持っている作用が、直接副作用となる可能性があります。 コーチゾルは血糖値を上昇させ、水分を保持し、筋肉の異化を促進し、脂肪を分解、免疫機能を抑制し、ストレスを抑えます。 つまり、それぞれの作用が、糖尿病、高血圧、筋肉萎縮、高脂血症、感染症誘発、精神症状を誘発する可能性を持っています。 特に、もともとそんな体質があれば、出現する頻度は高くなります。 また、子供が内服すると、発育・成長障害があります。 成人が長期に内服すると、ムーンフェイス(満月様顔貌)、中心性肥満、バッファロー肩、体重増加、副腎萎縮などがしばしばみられます。 ステロイド外用剤は、皮膚から体内に吸収されます。 毎日大量に外用していると、副腎が萎縮し、自分の副腎皮質ホルモンの合成・分泌が抑制される危険性もあります。 これについては、これまであちこちの学会で何度も報告しています。(学会報告) ステロイドを外用していると、妊娠すると女の子ができやすいと報告したことがあります。 ただこのことは、もしかすると、湿疹の具合がよくないために、そんな結果になっている可能性もあります。(論文報告)
ステロイドには、全身性の副作用の他に、外用することで皮膚に起こる局所の副作用もあります。 強いステロイドを長期に外用すると、皮膚はぺらぺらに薄くなり、少し当たっただけで、内出血や紫斑ができます。 皮膚は角層が薄くなり、ちりめんしわのようになります。 多毛やにきび、毛包炎ができることもあります。 特に顔面に長期にわたって外用すると、ステロイドに依存した状態となり、ステロイド皮膚炎になります。 顔面は毛細血管が拡張して、赤ら顔になります。 ステロイドはその他にも様々な副作用がありますが、湿疹を改善するという目的からいえばこれにまさるものはありません。 ただし、これを使用する場合、原因対策を第一として、安易に長期にわたって常用するのは好ましいことではありません。 とにかく、ステロイド外用剤は症状を改善するだけで、原因治療になっていません。 急にステロイドの使用を中止した場合、湿疹ができる原因がなくなっていなければ、それまで湿疹がなかったところまで広がる可能性があります(リバウンド現象)。 リバウンド状態は、時に何ヶ月・何年も続き、患者の人生に重大な影響を及ぼすことがあります。 それだけに、ステロイドは使い始めるときも、止めるときも、それなりの覚悟が必要です。 また、ステロイドが怖いという理由だけで、それを安易に止めてしまうのは好ましいことではありません。 ステロイドを使わない治療については、短いものですが、下記のコラム「アトピー性皮膚炎におけるステロイド外用剤の中止の判断基準とその後の対策」を参照して下さい。 ステロイド中止後、リバウンド現象を起こした8歳の患者です。 強い紅斑に加えてひどいびらん局面とそこからにじみ出る浸出液がみられます。 浸出液にはタンパク質も含まれていますので、この状態が続くと血液中のタンパク質濃度も低くなります。 やけどやケガの一種と考えると、新しい皮膚ができるまでよくならないということです。 ステロイドの経皮吸収は、体の部位によってかなりの差があります。 粘膜部は最も吸収がよく、角層の厚い手掌・足底は吸収されにくいと考えられます。 顔面はステロイドの吸収が比較的よく、皮脂の分泌も多いため、ステロイド外用剤の使用する場合、注意が必要です。 陰部などの粘膜部位、眼の周囲などは、ステロイドの吸収が非常によいところです。 下図は肘窩のステロイド吸収を1.0として、他の部位の吸収の割合を示しています。 外用剤をぬる場合、1日1回お風呂上がりの皮膚がしっとりした状態のときに、すり込まないようにして、できるだけ薄く皮膚の上に広げてください。 湿疹の程度に従って、あるいは、外用部位ごとに、外用剤の使用量や強さ、外用回数を変える配慮も必要です。 湿疹がひどいとき、ひどいところには、いくらか多く、1日2回つけた方がよいかもしれません。 それでも、キズの治り方を考えれば、原因を除くことができないのなら、慢性の治りにくい湿疹に外用剤を使うのは、せいぜい1日1回で十分です。 急性の湿疹に対しては、特にどんどん広がる傾向がある湿疹に対しては、多くぬった方がよいこともあります。 浸出液がひどければ、亜鉛華軟膏をステロイド外用剤の上に重ねるのもよいでしょう。 湿疹もケガと同じです。 重症のケガ(外傷)がすぐによくなるわけではありません。 ある程度自然によくなる治癒課程を考えながら、のんびり経過を見る気持ちも必要です。 慢性の湿疹に対しては自分の免疫力に期待し、それに影響しない程度に外用する方がよいかもしれません。 また、今は原因を除くのは困難であり、外用剤でおさえる以外にないと判断したときは、生活に困らない程度のレベルを設定して、塗り始めの最初はともかく、自分の正常免疫を大事にするために、せいぜい1日1回程度うすく外用するのがよいでしょう。 どれだけ外用しても少しもよくならない時期に、今すぐによくしょうと強いものを大量に用いるのは好ましくないことがあります。 湿疹のない正常部位にはつかないように注意したいものです。 効果を長持ちさせる目的で、ステロイド外用剤を塗った上から亜鉛華軟膏を重ねて塗ったり(重層療法)、サランラップを巻くことも行われます(密封療法)。 亜鉛華軟膏は、ステロイド外用剤の効果を長持ちさせ、ひっかいてキズになったびらん部の浸出液を吸収して乾燥させ、細菌感染を減らします。 亜鉛華軟膏に含まれるサラシミツロウなどで接触皮膚炎を起こすことがあり、要注意です。 亜鉛華軟膏を普通の乾燥した肌に使うと、さらに乾燥してよくありません。 亜鉛華軟膏は乾燥するまで衣類が汚れるのも欠点ですが、ガーゼや包帯を巻くのもよい作戦です。 サランラップを巻く密封療法は細菌感染に注意が必要です。 サランラップの下に汗をかいても蒸発しにくく、毛包炎やとびひなどが起きやすいことがあります。 汗が蒸発しにくいということは、肌がしっとりしてよいところもあります。 ステロイド外用剤には、軟膏、クリーム、ローション剤、スプレー、液などがあります。 だいたいの目安としては、乾燥が強くびらんが多ければ軟膏を使い、軟膏がべとべとする患者さんやべとつきやすい皮膚部位には、クリームタイプやときにローション剤を使います。 アトピー性皮膚炎らしくない患者さんほど、とにかくべたべたした外用剤を嫌がります。 べたべたしたものが嫌いになってくれば、アトピー性皮膚炎はなおりかけともいえます。 顔はべとつくことが多く、クリームやローションタイプが好まれることがありますが、接触皮膚炎には用心したいものです。 外用剤による接触皮膚炎を疑ったときは、わざとべとべとするワセリンタイプの強いステロイドにして、できるだけ外用量を減らしたり(いわゆるちょんぬり)、あるいは、わざと液剤を選ぶか、何もつけないこともあります。 眼囲の湿疹には、ステロイドの眼軟膏(プレドニン眼軟膏やリンデロンA軟膏など)やプロトピック軟膏を用いることが多いようです。 私はステロイドでなく、プロペトや防腐剤を含まない使い捨てタイプの点眼(目薬)で経過をみる場合があります。 とくに、接触じんま疹型の発疹には、ステロイド外用剤やプロトピック軟膏は用いない方がよいかも知れません。 ローション剤は主として被髪頭部に使用しますが、ワセリンが合わない患者には、体や顔に使うときもあります。 頭に使うときは、患部にのみつけるようにして、髪の毛に振りかけるようなつけかたは好ましくありません。 ステロイド外用剤に抗生物質を配合したものとして、テラコートリル軟膏、リンデロンVG軟膏などがあります。 テラコートリル軟膏は湿疹に細菌感染が重なったところ用いますが、とびひなどによく使われます。 ステロイドが強いと感染防御能力が妨げられるために、リンデロンVG軟膏では細菌が増える可能性があります。 ということは、G(ゲンタマイシン)という抗生剤の効果は期待できないということになります。 以前、大阪府立羽曳野病院皮膚科では、副作用を少なくするために、容器に入れて塗りやすくするために、ワセリン、アズノール軟膏、ケラチナミン軟膏、亜鉛華軟膏を混合して弱くしたステロイド外用剤を作っていました。 遠藤アレルギークリニックでは、羽曳野病院の処方に加えて、混合する基剤の種類を増やして(プロペト、ヒルドイド軟膏・ソフト、プラスチベース、パスタロンソフトを追加)、M-1、MP-1、RH-1、RH-4、RPP-1、AHS-1、FHO-1、FHO-3、NPB-1なども使用しています。 AHS-1はstrong(強い)レベル、VW1、RH1、M-1、MP-1、NK1、NPB-1はMild (おだやか)レベル、VW4、RH4、M-4、NK3、ALZはWeak(弱い)のレベルのステロイドに相当します。 薄めている基剤が、かえって接触皮膚炎を起こしている場合があります(ステロイドが接触皮膚炎を起こしていることもあります)。 以前よりくりかえしてステロイドを内服している患者さんは、外用剤で接触皮膚炎を起こしやすい傾向があります。 またステロイド外用そのものが、外用剤による接触皮膚炎を起こしやすいという説があります。 ステロイド成分それ自身が接触皮膚炎を起こしていることがあります。 最も接触皮膚炎が起こりやすいステロイド外用剤は、以前はブデソンでしたが、今は最強のデルモベートです。 アルメタ軟膏なども起こりやすいようですが、すべてのステロイド外用剤に接触皮膚炎は起きる可能性を持っています。 ステロイド外用剤で接触皮膚炎を起こしたとき、それが湿疹を改善しながら同時に湿疹を作っているだけに、非常に分かりにくいということになります。 外用剤が接触皮膚炎をおこしているかどうかみるときは、体や四肢に左右で異なる外用剤をつけて、時間をかけて比較するのがよいでしょう。 ステロイド外用剤の時は、左右比較でも分かりにくく、短期間の外用剤比較で結論を出さない方がよいと思います。 1カ月以上は必要かもしれません。 ステロイド外用剤あるいはワセリンなどの保湿剤が接触皮膚炎を起こしているときは、弱くしたステロイド外用剤を大量に使ったりするよりは、ある程度強いのレベルのステロイド外用剤を必要量を使って、保湿剤を止めた方がよいことがあります。 あるいは、アレルギーレベルがあまり高くないようなら、リバウンド状態にならなければ、外用剤そのものを中止するのがよいかもしれません。
ステロイドを外用すると黒くなりやすいという意見があります。 しかし、外用したところとしないところで差がないようです。 湿疹は日焼けのようなものであり、色素沈着の程度は、その人の体質や湿疹の程度、年齢が関係します。 とにもかくにも、日本人は皮膚に炎症反応を起こすと、あとが黒くなるのは避けられません。 しみ年齢に達した患者は、色素沈着を少なくするためには、ステロイドを外用してむしろ湿疹を長く続かせない方がよいかもしれません。 ただ、ステロイドを外用すると乾燥症状がひどくなると言う患者もいます。 ステロイド外用剤を使っていると、湿疹の形態が変化することがあります。 外用する前は小児型のアトピー性皮膚炎の分布、すなわち汗部位(間擦部)に湿疹が限局していたが、使っているうちに肘窩などの湿疹がなくなる一方で、体幹・四肢の伸側に湿疹が広がったり、痒疹型や貨幣状型の湿疹になることがあります。 この状態で外用を中止すると、間違いなくリバウンド状態になります。 間擦部の湿疹に対しては、ひどくならない程度に外用するのがよいと思われます。 外用しているうちに、だんだん効きにくくなるという現象があります。 使っているうちに、ステロイドに依存的な状態になり、常に塗っていないと悪化するという事態にもなることがあります。 ステロイドは、湿疹を改善する一方で、正常の免疫も抑えてしまうためと考えられます。 仕方なく、外用剤の量が増えたり、強いものに変えたりしますが、結局のところ、原因対策せずに対症療法をお座なりにやっていても問題は解決しないことを示しています。
ステロイド不応(耐性)は、ステロイドの作用が効かなくなった状態です。 先天的にそのようになっている場合もありますが、ステロイドを使用しているうちに効果が減るような場合が多いようです。 原因として、 @.グルココルチコイド受容体(GR)が変異し、ステロイドとの結合性やDNAとの結合性が低下している。 A.ヒストンのアセチル化活性の低下。 B.グルココルチコイド受容体(GR)にはαとβの2種類があり、主にステロイドはGRαに結合する。そのGRαの減少によるもの。 C.GRβの増加がGRαの働きを邪魔しているために起きる。 などが指摘されています。 ステロイド不応に対しては、湿疹をすぐに軽くしたいときはプロトピック軟膏に変更するのがよいかもしれません。 ただ、変更するとき、ステロイドを中止すると、しばしばリバウンド現象が発生します。
数字は1カ月あたりのステロイド外用剤の使用量を示しています。 1993年当時を見ると、大阪府立羽曳野病院では、初診のアトピー性皮膚炎患者さんは、いずれの年齢とも半数程度はステロイドなしで治療しています。 しかし、1カ月当たりのステロイド外用量は年齢とともに増加し、10歳を過ぎると20%以上は10g/月以上外用しています。 最近は外用剤を使用している割合が増加しています。 A.非ステロイド系抗炎症剤の外用剤 アンダーム軟膏・クリーム、スタデルム軟膏・クリーム、トパルジック軟膏、コンベック軟膏、ジルダザック軟膏、フェナゾール軟膏などがあります。 ステロイド外用剤ほどではありませんが、湿疹をある程度改善する作用があります。 ステロイド外用剤を用いるほどではないとき、ステロイド外用剤を用いたくないが、多少とも湿疹を改善したいときになどに使用します。 特に乳幼児に有効です。ただ、最近は下記のような理由で使用されることが少なくなっています。 免疫が低下した高齢者にはよいところがあります。 注意したいこととして、この種の外用剤には患者のなかに接触皮膚炎(かぶれ)を起こすことがあることです。 この外用剤による接触皮膚炎は、外用剤の中で最も起こりやすく、ひとたび接触皮膚炎が起きるとあまりにも症状が強いために、長期にわたって強いステロイドを使うしかないかもしれません。 接触皮膚炎の状態をそのままにしておくと、しばしば自家感作性皮膚炎を引き起こします。 そうなると、湿疹のできたことがないところまで湿疹が拡大します。 また、しばしば塗ったところが日光に反応して湿疹ができる光アレルギー性接触皮膚炎が起こることもあります。 そのために、顔面に使用してこれが起こると本当に悲惨です。 外用剤の成分は、化粧品もそうですが、しばしば何年も皮膚(真皮)や脂肪組織に残ります。 化粧品を中止しても、すぐにはよくならないということです。 少し使っただけでも、それの接触皮膚炎がかなり長く続くこともあるということです。 なおブフェキサマックを主成分とするアンダーム軟膏・クリームは、現在発売中止になっています。 ブフェキサマックを含む市販の外用剤、たとえばロバックS、エンチマックなどはまだ発売されています。 アンダーム軟膏・クリームの次に接触皮膚炎が多いのは、スタデルム軟膏・クリーム(ベシカムという名前のものもあります)です。 またモーラステープなど痛み止めで用いられる貼り薬も、このタイプに含まれます。 貼ったところがよくなっても、夏になり、紫外線が当たって再び貼ったところの湿疹が悪化するというのは、よくある話です。 それでは、非ステロイド系抗炎症剤の内服はどうかといえば、内服して同じ副作用が出る人もいれば、出ない人もいます。 アスピリンのんで喘息になったり、痛み止めのたぐいでじんましんが悪化するというのはよくある話です。 内服もできれば避けた方が無難というところですが、生理痛や頭痛がひどくてクスリをのまないと我慢できないといわれると、ケースバイケースかもしれません。 B.保湿剤 分類すれば、まず医院で処方されるものと市販のものに分けられます。 たとえば、ワセリンはどちらも同じものですが、製造メーカーが異なれば精製の程度によって内容が異なります。 さらに、たとえば市販の水虫の外用剤には、医療用では入っていない成分、たとえば麻酔剤のリドカインやジブカイン、スーとする成分メントール、かゆみ止めとしてのマレイン酸クロルフェニラミンやクロタミトン、その他香料などが加えられているものがあります。 これらの追加成分は接触皮膚炎を起こしやすく、毎日広い面積に保湿剤としてぬるときは余計な成分です。 また、薬局で、単なる保湿剤と思って購入したものにも、しばしばステロイド成分が入っていることがあります。 薬剤師の弁は信用せず、常に自分で成分をチェックして下さい。 たとえば・・・Sとか・・・Hという名前になっていれば、ステロイドが入っていると考えて下さい。 ムヒアルファSにはデキサメサゾンというステロイドが混合されています。 ステロイドが入っているものは、そんなものとして外用して下さい。 保湿剤は混合されている成分によって、 1. 油脂性軟膏 2. クリーム性軟膏 3. ローション剤・液剤 4. 粉末剤 (シッカロールやタルクや亜鉛末などですが、吸入すると問題ということで、最近はあまり用いられません) に大きく分類されます。 これらは構成される成分でさらに細かく分類されます。 それぞれ使用感・塗り心地が異なります。 使用される部位であるいは年齢によって使い分ける必要があります。 乳幼児はもともと皮脂の分泌が少なく、アレルギーがあるとさらに少なくなっています。 そのために、皮膚の保護を目的とするなら、クリーム・ローション剤より油脂タイプの外用剤の方が向いています。 しかし、油脂性軟膏はどうしてもべとつき感があります。 皮脂が分泌される年齢や部位、汗孔をふさいで汗が出にくいような部位には適していないようです。 一方、クリーム性のものにも多数の種類があります。 ワセリンを加えたべとべとタイプから、あまり油脂成分を含まないさらっとタイプまでいろいろあります。 市販のクリームは、ハンドクリームや化粧品を含めて、実に多数のものがあります。 医療用には種類が少なく、近年はヒルドイドソフトとそれの後発品が化粧品の代用品になっています。 しかし、ヒルドイドは単なる保湿剤ではなく、ヘパリン類似物質という医療用成分が含まれています。 尿素は生体成分でよいのですが、合成されたものには不純物が混合している可能性があり、それ自体いくらか刺激感があります。 角層が厚く、特に角化異常を伴ったような湿疹には尿素タイプが向いています。 四肢伸側や手足に、有用です。 以上、まとめると、乳児期の顔にはプロペト、体幹や四肢にはアズノール軟膏がよいようです。 かゆみが強く、びらん・浸出液が強ければ亜鉛華軟膏、それで駄目ならステロイド外用剤です。 年齢が上がると、顔は、何もつけないか、市販のクリーム・ローション・乳液・化粧水です。 体幹や四肢には、乾燥がひどければワセリンかアズノール軟膏、べとつくようならヒルドイドソフトやローションがよいでしょう。 四肢伸側、手のひら、足の裏などに乾燥が強ければ、ウレパールクリームかローション、パスタロンソフトなどの尿素タイプがよいと思われます。 また患者自身の好みや慣れもあります。 常に接触皮膚炎を起こす可能性に配慮すべきです。 保湿剤のみで治療するときは、あくまで自然治癒を期待するものです。 ある程度原因・悪化要因が除かれていることが絶対条件です。 湿疹があることがストレスになっている患者さんは、保湿剤のみで治療するのは難しいかもしれません。 (1). 油脂性軟膏 ドライスキンを改善し、皮膚を保護し、皮膚刺激を減らすのを目的として用いられます。 油脂性基剤は、鉱物性、動物性、植物性の3種のものに分類されます。 ワセリンは石油を精製して得られた保湿剤では最も一般的なものです。 融点が比較的高いためにワセリンを塗ると、直後に、赤くなったり、べとついたり、かゆくなることがあります。 外用部位をよく考えて、薄くすりこまないように広げるように、必要量を外用したいものです。 塗りすぎると、毛孔がふさがるために、毛包炎ができることがあります。 とびひなどの二次感染にワセリンだけを外用するのは好ましいことではありません。 市販のサンホワイトはワセリンの二重結合を減らした化粧品で、紫外線の影響を少なくしています。 プロペト軟膏は、眼科用ワセリンで、精製が進んでいます。 いくらか融点がさがって、べとつきが減り、ワセリンよりやわらかくなっています。 乳児の顔面に、光らない程度、うすくぬるのに向いています。 乳幼児のかさかさした顔面を、よだれやシーツ、父母の衣類などの刺激から保護するのに向いています。 同じワセリンでも、精製の具合が異なるために、製造メーカーによって微妙な違いがあります。 実際、合わないワセリンがあると訴える患者がいます。
サリチル酸ワセリンは角層を軟化させる効果が強く、分厚くなった足の裏などによく使われます。 また足の裏の水虫やタコにも有効です。 アズノール軟膏は、ワセリンとラノリン(羊油)とアズレン(カミツレと同じ)を含んでいます。 保湿効果が高く、融点が低い分、冬でも柔らかくてぬりやすく、使用感はワセリンよりよいようです。 私は乳幼児の体幹・四肢によく使っています。 成人ではラノリンの接触皮膚炎が見られることがあります。 馬油は使用感が非常によく、短期で使うのはよいです。 使っているうちに、馬アレルギーができて悪化することがあります。 スクワランは、サメの油を原料とした融点の低いサラサラの化粧品です。 すぐに乾いて、保湿効果が低いのですが、ヒトの脂肪にも同じものが含まれ、塗り心地が非常によい長所があります。 顔面に効果的で、化粧品としても非常によいところがありますが、かなり高価なものです。 サメの絶滅がいわれて手に入りにくくなっています。 メーカーによって精製の具合が異なる上に、別のものを入れて水増ししているといううわさもあります。 亜鉛華軟膏は、ワセリン、亜鉛、サラシミツロウ、豚油を含み、炎症を抑える効果があります。 保護効果が強く、ステロイド外用剤に重ねて使用することもあります。 びらん・滲出液のひどいところに塗って、湿疹を乾燥させる効果もあります。 とびひのような細菌感染が合併したところにも使うと、よいことがあります。 びらん・浸出液がなくなれば軟膏が白く残りますが、ごしごしこすって無理に落とさない方がよいでしょう。 びらんのないところにつけると、皮膚が乾燥します。 サラシミツロウはミツバチの巣の成分ですが、接触皮膚炎をおこすことがあります。 紫雲膏しうんこうや神仙太一膏しんせんたいつこうは漢方で用いられる軟膏です。 やけどなどに用いられ、亜鉛華軟膏に似たところがあります。 オリーブ油は、椿油などとともに植物性の代表です。 融点が低く、保湿効果にとぼしい欠点があります。 しかし、ワセリンほどのべとつき感はありません。 乳児の脂漏性湿疹の痂皮につけて、少しずつ痂皮を取り除いていくのに用いています。 全身の湿疹の保湿剤としても有効です。 グリセリンを使った自家製化粧水にオリーブ油を混ぜることもあります。 単一成分の外用剤のよいところは、かゆみなどが現れたときは原因がわかりやすいということです。 オリーブ油は、主にエクストラバージンオイルとして植物油のものを用いることができますが、皮膚科で治療用として処方箋でもらうこともできます。 近年、オリーブ油のエクストラバージンオイルには、オリーブ油以外の偽物が混じったものが大量に出回っています。 高いからといって、純粋なエクストラバージンオイルとは限りません。 カシューナッツオイル(カシューナッツはウルシ科です)や綿実油などいろんな植物油が混入している可能性があります。 もちろん医療用のオリーブ油が大丈夫という保証もありません。 またオリーブ油は新鮮野菜と同じです。 長期に置いていると、酸化変性します。 一方、いくらか精製したものの方がよいかもしれません。 (2). 乳剤性(クリーム)軟膏 クリーム基剤は、油脂性基剤よりも接触皮膚炎の頻度が高くなりますが、塗り心地は優れています。 びらんがあると、しみることがあり、皮膚刺激があるものがあります。 油の量で、水Wの中に油Oが混じったO/Wと、油の中に水が混じったW/Oの2種類があります。 後者の方は油が多く、刺激性は低いですが、多少べとついた感じがあります。 水と油を結合させているのが、いわゆる界面活性剤です。 界面活性剤には、洗剤のような化学物質もありますが、たとえばマヨネーズの卵のようなタンパク質も界面活性剤として働きます。 医科用としては、ケラチナミン軟膏、ウレパール軟膏、パスタロンソフト、ヒルドイド軟膏・ローション、ヒルドイドクリーム、レスタミン軟膏、ザーネ軟膏、ザーネクリーム、ユベラ軟膏、オイラックス軟膏、カチリ(フェノール亜鉛華リニメント)などがよく用いられています。 近年、クリームタイプで最もよく使われるものは、恐らくヒルドイドソフト軟膏・ローションです。 ヘパリン類似物質という血流を改善するものが入っていますが、皮膚科医師は使いやすいクリームタイプの保湿剤として用いています。 もともと高齢者の血液循環のよくない下腿の乾皮症の外用剤として登場したものです。 内科や外科では、ヘパリンは本来血液凝固を妨げる物質として用いられています。 実際、顔面の保湿剤として化粧品のようなものがないかとして用いられています。 顔面の化粧品にヘパリン類似物質が有効かといえば全くそうでなく、むしろない方がよいかもしれません。 何か有用成分がなければ、厚生労働省は医療品として認可しないということです。 それだけに、保湿剤としては、かなり高価です。 また、どうせ化粧品ならと、ヘパリン類似物質をそのままにして、全く中味を変更した後発品にもよいところがあります。 ヒルドイドの後発品のビーソフテンクリーム・ローションは、後発品としてではなく、全く別の保湿剤としてよく使用されています。 他の化粧品メーカーに、もっと良いものが出てくる可能性があり、資生堂や花王がそんなものをつくらないかと期待しています。 ケラチナミン軟膏やウレパール軟膏、パスタロンソフトは、尿素を含み、皮膚のかさつきに効果があります。 びらん部位につけると刺激があり、しみるようです。 肘窩や膝窩よりも、伸側(下肢なら前面、上肢なら外側、体幹なら背中)の方が向いています。 掌(てのひら)や足底の保湿剤としても使われます。 顔面につけると、いくらか刺激感があります。 レスタミン軟膏は、抗ヒスタミン剤(かゆみどめ)のレスタミンを含んでいます。 あまり強い湿疹がなく、かゆいだけのところやじんましんの発疹に使います。 虫刺されの刺されたばかりの塗り薬としてはよい薬です。 単なる保湿剤としても有用ですが、長期に用いるときは、光線過敏症を起こす可能性があります。 長い目で見れば、保湿剤としては抗ヒスタミン剤は入っていない方がよいでしょう。 ザーネ軟膏はビタミンA、ユベラ軟膏はビタミンEを含む軟膏で、保湿剤として用いられます。 ユベラ軟膏は、それほどひどくないしもやけ(凍瘡)や冷え症の手足につけるとよいでしょう。 オイラックス軟膏には、ステロイドを少し混合したもの(オイラックスH)もあります。 オイラックスの成分クロタミトンは疥癬かいせんに効果がありますが、かゆみ止めとしても使用されます。 クロタミトンの接触皮膚炎に注意して下さい。 カチリ(フェノール亜鉛華リニメント)は、あせもの他に水痘にも用いられます。 私は他のウイルス性の発疹、手足口病や水いぼにも用いています。 消毒、かゆみ止め、抗炎症の作用を合わせて持っており、表面のウイルスを減らし、二次感染の予防にもなります。 綿棒で皮膚につけると、まもなく乾燥固着します。 あまり湿疹がひどくないあせもには、汗を乾燥させる効果があるカラミンローションの方がよいようです。 ステロイド外用剤を使いたくないアトピー性皮膚炎に、カチリを用いるときがあります。 全身に保湿剤として塗るのではなく、主にびらんの多いところです。 びまん性に紅斑が広がっているところには向いていません。 クリームや液状タイプの外用剤は、市販にはハンドクリーム、化粧品など非常に多数のものがあります。 価格を無視すれば、医科用のものよりよくできたものもあります。 加水分解小麦などの植物成分、香料、パラベンなどの保存料など、用いられている成分に注意して、上手に選択すればこれで十分という市販のものもたくさんあります。 (3). ローション剤・液剤 油脂が水の中に分散したO/W型の外用剤が、ローション剤や液剤です。 比較的皮脂が分泌されている顔面や、夏季に汗が出てワセリンなどがべとついた感じを与えるときは、油成分が少ない外用剤の方が合っている場合があります。 ワセリンなどの油脂性軟膏で接触皮膚炎を起こしているときは、このタイプの保湿剤を用いるのがよいことがあります。 ローション剤は、保湿効果に乏しく、塗るところを慎重に選択する必要があります。 あまりドライスキンが強くない軽症患者、あるいは軽症部位に向いています。 当院でも、他に選択するものがないために、ヒルドイドローションやビーソフテンローションは結構使っています。 乾燥肌が軽く、クリームタイプでべたつき感が強いときは、ビーソフテンローションやビーソフテンスプレー(特殊容器のために後発品としては価格が高くなっています)もいいところがあります。 女の人は塗るのが好きで、ヘパリン類似物質を含んでいるだけに、化粧品のつもりで使いすぎるのは多少心配しています。 クリームタイプやローションには、水と油脂をつなぐ界面活性剤やパラベン類などの防腐剤が含まれ、これらが接触皮膚炎を起こすことがあります。 顔に長く使う場合は、アレルギーメーカーの化粧水や乳液の方がよいと考えています。 角化の強い、たとえば魚鱗癬様の皮膚にはウレパールローションなどの尿素タイプが向いています。 自家製化粧水もよいところがあります。 市販の化粧水として販売されていますが、グリセリンと尿素を入れて自分で作ることもできます。 ただ尿素はびらんのあるところに塗るとしみる感じがあり、顔にはあまり向きません。 保湿が物足りないときは、自分でつくった化粧水に、市販のヒアルロン酸、スクワラン、オリーブ油などを加えることもあります。 グリセリンは化学構造がエタノールに近く、アルコールで赤くなる患者さんは使えないことがあります。 自家製の化粧水には、ヨモギなどの植物成分は入れない方が無難です。
市販で多糖類の化粧水がありますが、ブドウ糖が重合した糖類はアレルギーを起こすことはないようです。 アミノ酸も化粧水原料として外用しても大丈夫です。 アミノ酸が結合してペプチドになると、アレルギーを引き起こす可能性があります。 羽曳野病院で用いていた酸性化粧水は、主として外用剤の合わない患者に有効です。 今は、化粧品会社のアクセーヌからシールドウオーターとして市販されています。 酸性水の評価は何ともいえませんが、少なくとも多少とも黄色ブドウ球菌に対する消毒になり、いろんな外用剤で接触皮膚炎を起こしている患者さんには確かに効果があります。 ただし、ステロイド外用剤を中止して、これを用いるということはかなりのリバウンド状態を経験するということでもあります。 アルカリイオン水を飲む治療はアトピー性皮膚炎に効果があるとは考えられません。 4. 入浴について アトピー性皮膚炎患者さんは、たいていは乾燥肌で、皮脂が少なくなっています。 このことは、皮膚のバリア機能が低下しているということです。 それだけに、少ない皮脂をごしごしセッケンやシャンプーで洗い流すのはいいことではありません。 冬場、ドライスキンがひどいときは、セッケンは使わず、ゆっくりお湯につかるだけというのもよいようです。 もちろん、きたなく汚れているところは、上手にセッケンを使って洗って下さい。 湿疹がひどく、びらん・浸出液がひどいときは、セッケンで洗わない場合もあります。 患者の中には、セッケンを使って、びらん部の細菌をそっと、上手に洗い落とす方がよいこともあります。 夏場はセッケンで洗い流し、冬場は使わないこともあります。 皮膚の乾燥状態、湿疹の程度でも洗い方は異なってきます。 用いるセッケンのタイプは固形の方がよいようです。 液体セッケンは合わないことがあります。 食物アレルギーや花粉症などがあれば、植物エキスの入っていないものを選んで下さい。 シャンプーについては、界面活性剤の種類や濃度も重要です。 イオン系は界面活性剤としては強すぎるようで、非イオン系の方がよいようです。 セッケン・シャンプーの界面活性剤成分にも、植物や動物由来のタンパク質を含まないものを選んで下さい。 アトピー性皮膚炎患者さんに、シャワーと入浴とどちらがよいと聞かれると、たいていはゆっくり入浴する方がよいと答えます。 シャワーは、長い時間浴びていると、ドライスキンにはかなりの刺激になります。 塩素の影響も強く受けます。 塩素除去のヘッドがついたシャワーヘッドも販売されています。 子供がとびひ(伝染性膿痂疹)にかかっているときは、シャワーの方がよいでしょう。 入浴すると、お湯に広がった細菌があちこちの皮膚にに接着して、とびひが広がります。 入浴剤については、論議のあるところです。 大阪府立羽曳野病院皮膚科ではかつてカミツレを入浴剤として用いていました。 カミツレは保湿や皮膚保護作用、免疫調節作用がありますが、キク科の植物で、合わない場合があります。 塩素を除くために、入浴剤がよいことも多いようです。 ただ、一番風呂に入らなければ、お湯の塩素は少なくなっているという意見があります。 ビタミンC(アスコルビン酸)をひとつまみ入れると、塩素はなくなります。 重曹をいれるのもよいことがあります。 アスコルビン酸や重曹は薬局で簡単に手に入ります。 入浴は全身の循環を改善し、日々の疲れをとります。 ストレスが悪化原因になっているときは、のんびりした入浴療法は、アトピー性皮膚炎患者さんには絶好の治療になります。 「参考」 外来でのステロイド外用剤の使用量と効果についての調査 当科初診時、それまで他医でステロイドをもらっていたか質問すると、乳児は30%程度、その他の年代は大体70%程度がすでにステロイドを外用しています。 左側の棒グラフは、0歳の初診時、ステロイド外用剤を用いていない患者さんが、ステロイド外用剤を使わないで経過をみたとき、1年後には、全体の40%はほぼ治癒していますが、20%は初診時よりも悪化しているということです。 ステロイド外用剤を用いて治療すれば、症状が悪化する割合は減りますが、治癒の割合については何ともいえません。 右側の棒グラフは、0歳初診時、すでにステロイド外用剤を用いていた患者さんです。 0g/月ということは、それまで使用していたステロイド外用剤を止めたということを表しますが、1年後60%で改善、15%くらいがさらに悪化したということです。 5g/月以上用いた比較的ステロイド外用剤の多いグループは、50%が治癒しましたが、20%はさらに悪化しています。 このグループには重症患者さんの割合が多いということです。 0歳児、10〜19歳のいずれの年代とも、すでにステロイドを外用しているグループは、それを全く中止してしまうより、少量使う方がよい結果になっています。 しかし、それまで外用していないグループは、ステロイドの外用でかえって悪化する患者もいます。乳児は外用する方がよいようですが、外用剤を使わないでもよくなった患者はいます。 Copyright © 2003 Endou Allergy clinic All Rights Reserved |