11. アトピー性皮膚炎の検査の見方(1) 検査値の正常値については、こちらをどうぞ。 副腎皮質ホルモン以外の内分泌・ホルモンに関係した項目は、こちらをどうぞ。 (*はコラムです) 目次 前半です。 *検査はお金がかかるもの (1).血液検査 *アトピー性皮膚炎で異常になりやすい血液検査 *T型アレルギーとW型アレルギー IgE、RAST、 *血清IgEと月齢との関係 *RAST値陽性率の年齢変化(乳幼児、成人) *裸子植物の分類 *単子葉植物の分類 *イネ科の分類 *キク類の分類 *バラ類の分類 *真菌類の分類 *典型的な検査所見 IgG・IgA・IgM、総タンパク質、 *湿疹ができる免疫不全疾患 LD、ChE、尿酸、白血球数・分類、好酸球、赤血球数、血清鉄、 血小板、ASO・ASK、CRP、抗核抗体、コーチゾル・ACTH、 腫瘍マーカー、 *特異性(specificity)と敏感度(sensitivity) ヒトTARC、リンパ球芽球化(幼弱化)試験、 リンパ球刺激試験(lymphocyte stimulation test, LST)、 ウイルス感染症抗体価・ウイルス関連検査、その他 後半はこちら (2).皮膚テスト 皮内テスト、スクラッチテスト・プリックテスト、パッチテスト、 *P-K反応(プラウスニッツ・キュストナー反応) *現物スクラッチテスト *外用剤のパッチテストの陽性率 *吸入アレルゲンのパッチテスト陽性率 使用テスト、誘発試験、除去試験 (3).感染症に関係した検査 細菌に関係したもの、真菌(カビ)に関係したもの、 ウィルスに関係したもの、 寄生虫に関係したもの (4).患者の皮膚を切除(biopsy)して行う検査 (5).検査器具をもちいた検査 呼吸機能検査、ピークフロー、レントゲン・内視鏡に関係したもの、 光線過敏に関係したもの、発汗テスト、皮膚pH測定、サーモグラフィー、 皮膚の水分量・油分量の測定、かゆみの検査・かゆみ日記 アトピー性皮膚炎では、特に直りにくい時、原因を調べたり、治療のやり方を選ぶ上で検査は欠かせません。 検査は、採血して行うものの他に、患者の皮膚を使って反応を見るもの(皮膚テスト、パッチテスト)、使用テスト(誘発試験、塗り分け試験)、菌の培養、皮膚生検、検査の器具を用いた検査などに分けられます。 検査の結果は少なからず治療に反映されますが、冷静に客観的に捉えることが重要です。 その結果に悲観的に捕らわれるのは好ましいことではありません。 検査結果は、正規分布の範囲の中であっても、平均値(最頻値)に近いものと、上限や下限付近のものまで、正常もかなり広い分布に渡っています。 正常範囲内であれば全く問題ないものから、やはり高め・低めで多少心配といえるものまで様々です。 検査所見には、必ず偽りの陽性(偽陽性)false positiveと、偽りの陰性(偽陰性)false negativeがあります。 病気ではないのに検査陽性になるひと(偽陽性)、病気なのに陽性にならないひと(偽陰性)は、確かに検査の信用性に関わる問題です。 そういうものの、偽陽性の結果になったひとにも、しばしば何らかの問題点が隠れています。 本人が自分は健康と思っているだけで、まだ症状となって現れていないだけかもしれないのです。 一方、症状に見合うような検査結果にならなかった場合もまた、原因を考える上で重要な所見です。 なぜこんな程度のアレルギー状態で、なぜこれほど悪化しているのかというようなことはよくある話です。 また、検査結果は特定のものにとらわれず、全体をみて判断すべきものと考えられます。
1.血液検査 アトピー性皮膚炎の血液検査は、一般に、 1. アトピー性皮膚炎の原因に関係したもの、 2. 症状の程度に関係したもの、 3. 直接関係ないが、検査として異常なもの に分けられます。
正常値(あるいは正常範囲)は、病気がないと思っている健常人をはかって出てきた数値を平均したものです。 それには本人が正常と思っている人も混じっており、患者群と多少の重なりを持っています。 正常範囲であっても、全く正常の人と比べると高め・低めという表現が出てきます。 人の体には、生じてきた異常を調整して、症状となって現れないメカニズムが備わっています。 高め・低めの数値も種類・場合にもよりますが、異常ととらえた方がよいことがあります。 また、一般的に、健康診断では、検査の正常範囲は、白血球数などの治療に適さないものは広めに、コレステロールなど薬剤治療をやりたいものはより狭く設定されています。 開業医の正常値は広めで、大きな病院は狭く設定されています。 羽曳野病院にいたころ、アトピー性皮膚炎の乳児を連れてきた父母が、自分にはアレルギーはないと言い張るものだから、問題解決のために、ずいぶんそんな父母の採血や皮膚テストをしたことがあります。 それを学会発表したのが、「アトピー性皮膚炎における両親のアレルギー調査」第91回日本皮膚科学会総会、1992。 結論としては、「私にはアレルギーは何もない」と主張する父母の60%以上で、アレルギー検査異常がみつかりました。 異常値の父母については、子供の時の湿疹や喘息を忘れているのか、アレルギー性鼻炎などに気がついていないのか、異常な検査値が何らかのメカニズムで症状に表れていないのか、どちらかです。 アレルギーは遺伝するということを、自分には認めたくないということでしょうか・・・ このことは、まさに子供のときにアレルギー症状があっても、成長とともに自分自身の免疫の発達で押さえられるということです。 アレルギー検査の異常はあっても、本人の元気な免疫が症状が出ないようにがんばっているということです。 いずれにせよ、アレルギー的検査の異常が完全に正常になることで症状がなくなったというわけではないということです。 逆にいえば、がんばっている自分がストレスなどでおかしくなると、成人になって初めてアレルギー性鼻炎になったというようなことが起こるということです。 このことは、アレルギーマーチの説明にもなっています。
(1).IgE RIST アレルギー疾患(アトピー性皮膚炎、じんましん、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎)で上昇する抗体(こうたいantibody)です。 当然のことながら、正常の場合もあります。 このIgE値の全体量を、RISTと呼ばれます。 IgE-RISTとRASTは、主としてT型アレルギー(じんましん、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アナフィラキシーショックなど)の原因抗体を調べる検査です。 アトピー性皮膚炎はT型アレルギーに加えて、免疫担当細胞である白血球が直接関係したW型アレルギーも関与していて、W型の要因が強いときは、この検査はあまり重要な要素を占めていない可能性があります。 抗体は、外から来た抗原(こうげんantigen)と結合し、抗原−抗体反応で、IgEの場合はT型のアレルギー反応が起こります。 このタイプのアレルギー反応は、肥満細胞などから遊離したヒスタミンなどによるじんましんやかゆみ、アレルギー性鼻炎・花粉症などの症状です。 正常値は年齢とともに上昇し、平均すると大体乳児では0 IU/ml、成人では50 IU/ml程度です。 ただ、健常人でもばらつきがあります。 成人では20 IU/mlを越える場合、高くなっていると考えてよいと思われます。 健常人でも、数百の数値をもっていても、何も症状がない場合があります。 いずれにせよ、抗体は抗原がなければ反応しないと考えられます。 血清IgE値は患者のアレルギー状態を表し、高いほどIgEアレルギーが強いことを示しています。 IgEが高いほど、下記のRAST値は多数の抗原に陽性となり、高値を示すことになります。 IgEは年齢とともに増加します。 高いときほど症状が強く、湿疹のレベルとも相関しています。 湿疹がよくなる傾向があると、低下します。 乳幼児の初期から上昇しているほど重症です。 しかし、患者の中にはIgEが高いのにもかかわらず、RAST値が低いものがあります。 抗体は本来、外来性の異種抗原(異物)に対して作られるものです。 IgEもまた、本来正常に持っているIgGなどと同様に、むしろウィルスや細菌に対するものの方が多くを占めている可能性があります。 そんな細菌やウイルスに対するIgEの検査項目がないために、分からないだけです。 簡単に言えば、 よく風邪をひいて、湿疹やじんま疹や気管支喘息の出る子供のIgEは、感染微生物にアレルギーがあるために、高くなっている ということです。
IgEは湿疹がひどくなるほど上昇しますし、統計的にはIgEが高い患者の方が重症が多いと言えます。 しかし、IgEが正常だから症状は軽いとは言えないこともあります。 IgEが正常域のアトピー性皮膚炎はアトピーらしくなく、特殊な原因で湿疹が生じている患者と考えられます。 IgEが正常であるということも、貴重なデータです。 アトピー性皮膚炎的でないということですが、正常だからアトピー性皮膚炎でないともいえません。
(2).RAST (Radioallergosorbent test) 正常値一覧表 RASTは、それぞれの抗原(アレルゲン)に対する特異的IgE抗体を調べる検査です。 簡単に言えば、IgE値が150 IU/mlと仮定すると、その150をいろんな抗原ごとに分けて調べたものです。 RAST値を合計するとIgE-RISTになる、と考えると分かりやすいかも知れません(単位が異なるためにそのまま比較はできませんが)。 ただし、RAST値はすべての抗原を検査しているわけではありません。 当科では、Pharmacia社(現ファデイア社)のCAP RAST を用いて測定しています。 他に、MAST法、FAST法、AlaSTAT法、QAS法、LUMIWARD法、viewアレルギー法などいろんな方法があります。 MAST法は一度に33種類程度のアレルゲンを少量の血液で測定できます。 13種類の自己負担でそれだけたくさん検査できるのはいいのですが、不必要な項目もたくさん混じっています。 また必要な項目を選択することもできません。 測定値のばらつきやfalse positive、false negative もあり、解釈に迷うときもあります。 採血しにくい自己負担のいらない乳児で、とりあえず検査するにはよいかもしれません。 viewアレルギー法は、MASTと同様13種類の抗原検査の費用で、一気に36項目の特異的IgE抗体をを検査できます。 MAST法と同様に、お金のかからない患者に向いたスクリーニング検査によいかもしれません。 ただ変なインデックス値で結果がかえってくるために、RAST値でもう一度数値の確認が必要です。 また、低値陽性をカットオフしているために、view法正常であっても、RAST法で低値陽性の場合があります。 逆に、view値陽性で、RAST値正常の場合があります。 AlaSTAT法は検査結果がlinearで、cap RASTの数値と相関するというよいところがあります。 しかし、cap RASTでできるアレルゲンの検査が、AlaSTATではできないという項目がかなりたくさんあります。 CAP RASTで使用される抗原は百種類以上あります。 というものの、とにかく検査したくてもできない項目もたくさんあります。 たとえば、ニッケル、コバルトなどの金属、室内の揮発性有機化合物や農薬・殺虫剤などの化学物質、薬剤、自分自身がつくっているいろんな生体成分、様々なウイルスや細菌など多数あります。 検査については、金属や化粧品が原因の可能性があるとき、それを血液では証明することはできないとあらかじめ説明しています。 また、異常値は直接原因につながるとは限らないとも説明しています。 そのことは単にその人に検査の異常があるだけで、単にアレルギー体質があるということを示しているだけ、ということかもしれませんといっています。 初診された自己負担のかからない患者さんには、それらのうちで特に陽性頻度の高いものを13項目程度選択して測定しています(健康保険では、月に13項目くらいしか認められていません)。 3割の自己負担のある患者さんについては、RAST検査は必要最小限にとどめています。 というのも、結構お金のかかる検査でもあるからです。 結果をみて、期間が過ぎてもう一度採血をするときに、やり残した項目を追加しています。 検査の結果がでるまでに、radio-isotope(RI)を使うこともあり、また希釈測定が必要な場合があり、2〜5日程度必要です。
CAP RASTの単位はUa/mlです。 0.10 Ua/ml未満を陰性と判定しています。 健常人を検査すると、0.10未満の数値がずらっと並ぶことが多いようです。 RAST値をスコアで簡便に表現することがあります。 100Ua/ml以上で検査を打ち切ることも多いようですが、当科では血清を希釈してさらに100以上のについても数値で表現しています。 ダニに対するRAST値には、しばしば1000Ua/mlを超えるものがみられます。 血清を希釈して測定すると、奇妙なことに、実際よりも高いものが見られることがあります。(学会報告)
卵白に対するRAST値は離乳食前の生後3〜4カ月ですでに60%が陽性(0.70Ua/ml以上)になっています。 7〜8カ月には最大となり、陽性は80%を越えますが、その後少しずつ減少します。 図は、特に1歳以後は、RAST値が上昇している患者が検査されているために実際よりかなり陽性率が高くなっています。 ハウスダストは、ダニも含まれ、生後5、6カ月ころから上昇しています。 2歳になると40%を超えています。 牛乳のRAST値は一度上昇すると陰性化しにくい傾向があります。 小麦のRAST値の陽性率は7〜8カ月がピーク(50%)となり、その後少しずつ減っています。 大豆のRAST値の陽性率も同様に7〜8カ月でピークになり、その後少し減っています。 米のRAST値の陽性率は7〜8カ月がピーク(約20%)となり、その後少しずつ減っていますが、0にはなっていません。 犬皮屑の陽性率は猫皮屑よりずっと高いようですが、2歳でほぼ同じ(25%)になっています。 検査値陽性は必ずしも食べて食物アレルギーが現れるということではありません。 他で述べていますが、それまで全く食べていなければ、低い数値でも強い症状が現れる可能性があります。 (乳幼児の検査の変動) 以前はペットについては、皮屑(ふけ)ではなく、犬毛や猫毛を主に測定していました。 犬毛より犬皮屑の方が陽性率が高く、感度が高いことを最初に報告したのは私です。 ハウスダストにはダニ、ペット、カビなどが含まれています。 スギ花粉は2歳を過ぎると急に陽性率が高くなります。 成人になっても小麦が高いのは重症患者が多いせいかもしれません。 卵白が食べていて低下していることから、小麦が皮膚や肺などから侵入しているためとも考えられます。 ダニは節足動物のクモ綱のダニ目に分類されます。 チリダニ科には、主としてコナヒョウヒダニ(Df)、ヤケヒョウヒダニ(Dp)の2種類があります。 湿気の多い日本では、後者の方が多いようです。 ヤケヒョウヒダニとコナヒョウヒダニは、0.3〜0.4mm程度の大きさで、脚が8本あって、クモの仲間です。 掃除機のゴミを取り出して、黒いものの上で動いているものがあれば、たいていはこのダニです。 冬季、部屋がかなり乾燥しているときは、欧米に多いコナヒョウヒダニが多くなっている場合もあります。 ダニはマンションでは、上方階になると少なくなるといわれています。 ダニアレルギーの患者さんには、10階以上がおすすめです。 スイスのような地では低地より少ないともいわれています。 チリダニはかみつくダニではありません。 鼻や口から吸入したり、皮膚表面から直接接触して、アレルゲンが体内に侵入します。 鼻が詰まっていると、大きな口を開いて呼吸しているために、肺に入りやすくなります。 室内で多いところは、じゅうたん、布団、毛布、カーテンなどで、他の小さな虫、人の食べこぼしやカビ、人やペットの皮屑・ふけをエサにして増えます。 ダニのアレルゲンは、虫そのものだけでなく、死骸や糞ふんの方がむしろ重要です。 布団や毛布をかぶって寝ているヒトは、ダニの死骸や糞を吸い込んで、目の結膜から入って、アレルギーが起きています。 ダニは吸入アレルゲンの代表です。 吸い込んで起きるアレルギーは、アレルギー性鼻炎と気管支喘息です。 幼小児期からダニRASTが上昇しているときは、これらの疾患に十分注意することが必要です。 気管支喘息にならなくても、しばしば成人になっても通年型のアレルギー性鼻炎として残ります。 鼻炎が慢性化すると、鼻閉になり、慢性副鼻腔炎や蓄膿症、鼻茸になることもあります。 吸入した抗原が、肺や気管支から血中に入って、全身にじんま疹やアトピー性皮膚炎の湿疹をつくります。(論文報告)(学会報告) 目の結膜から入ると、アレルギー性結膜炎やアレルギー性眼瞼炎ができて、目の周囲がパンダ型に紅くなります。 この現象は犬猫などのペット、花粉類、環境のカビ類でも起きます。 朝起きて、クシャミや鼻水がひどいとき、秋に衣替えしてからかゆみやアレルギー性鼻炎・気管支喘息がひどくなれば、掛け布団や毛布にまで、しっかり強力な掃除機を用いて掃除することが必要です。 それぞれの家電メーカーから布団掃除用の掃除機先端のキットが販売されています。 マスクやアレルギー用メガネをして寝るのもよいことがあります。 ダニ抗原は花粉よりも大きく、ふつうのマスクでも十分です。 肌にやさしく、マスクが当たったところに湿疹ができないものを選んで下さい。 まず、マスクをすると、朝起きたときのクシャミや鼻水、かゆみがよくなるか、判定して下さい。 ダニアレルギー用の布団やシーツもすすめています。 「ダニは死なずにヒトは死ぬ」ような農薬付きは購入しないように、とも説明しています。 死骸や糞を農薬で殺すことはできません。 IgE値がある程度高くなれば、ダニのRAST値が相当上昇し、100 Ua/ml以上という検査結果が多くなります。 当科では、100以上になったものを希釈測定して、正確な数値で表しています。 一方、上記しましたように、かなりIgE値が高いにもかかわらず、ダニのRAST値がそれほど高くない例も少なくありません。 いつもそこにいるアレルゲンに対してアレルギーが強くないことを、個々の例について、その理由を検討すべきかと思われます。 ダニアレルギーにはダニを食べるとよいという研究報告があります。 ペットのアレルギーと同様、きたないところでダニと濃厚に接触しているとある程度胃腸の中にも入り、そのことでアレルギーを抑制するメカニズム(トレランス、免疫寛容)がつくられるということです。 一方、コナヒョウヒダニが増えたお好み焼き粉を食べて、アナフィラキシーショックを起こしたという報告があります。 ダニ類は頭部・胸部・腹部が袋状に融合し、胴部を形成しています。 体の前部には、エサを食べる口器、エサを捉える鋏角、触角があります。 歩脚は幼虫が3対、成虫には4対あります。 ツメダニは新しい畳などにいて、ヒトを刺します。 アレルギー的には共通抗原性があり、ヒョウヒダニにRASTが陽性であれば、他のダニも陽性と考えた方がよいでしょう。
青字は花粉など、赤字は食物です。 緑字は注目抗原です(RASTはありません)。
青字は花粉など、赤字は食物です。 緑字は注目抗原です(RASTはありません)。
青字は花粉など、赤字は食物です。 緑字は注目抗原です(RASTはありません)。 コムギは食物と花粉の両方あります。 花粉は、イネ科の代表としてカモガヤ花粉、キク科の代表としてブタクサ花粉とヨモギ花粉、樹木の代表としてスギ花粉とヒノキ花粉をまず最初に測定しています。 イネ科は、イネ目に分類され、カモガヤ、スズメノテッポウ、オオアワガエリ、セイバンモロコシ、ハルガヤ、ナカハグサなど多数の雑草が含まれます。 上記に示しましたように、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、ススキ、シバなどもイネ科植物です。 イネ科植物は3月後半から秋までずっと、公園や田畑のいたるところに存在します。 検査は、カモガヤ花粉が代表として行われますが、これが陽性の時、共通抗原性があるために、他のイネ科植物の花粉がすべて陽性と考えます。 カモガヤ花粉のRAST値が陽性であれば、イネの花粉のRAST値も陽性ということです。 イネ科については、カモガヤなどの花粉類と、米やトウモロコシなどの可食部に分けられます。 コムギについては、花粉と可食部の両方についてRAST値が検査できます。 パイナップルもまたイネ目に分類されますが、イネ科植物と共通抗原性は確認されていません。 パイナップルの蛋白分解酵素パパインは、繰り返して接触していると、アレルギー反応を起こすことがあります。 雑草の草むしりすると、素手でやると、手がかゆくなり、手湿疹ができます。 草むしりのときはハサミを使うか、二重の手袋(下に綿手袋して上にプラ手またはゴム手)をするように説明しています。 イネ科の花粉症に対しては、イネ科の雑草を食べるとよいということで、胚芽米や玄米食をすすめています。
青字は花粉など、赤字は食物です。 緑字は注目抗原です(RASTはありません)。 キク科には、ブタクサ、アキノキリンソウやヨモギ、タンポポ、コスモス、カミツレ、レタス、シュンギクなどが含まれます。 和歌山市では、ブタクサ花粉はお盆明けの8月後半ころに、ヨモギ花粉は9月初めころから飛散します。 ベニバナやヒマワリなどのオイルをとるものもあります。 ステビアは人工甘味料の原料です。 キク科のRAST値が陽性のときは、ゴボウ、レタスやシュンギクは素手で触らない方がよいかもしれません。 アキノキリンソウ(セイタカアワダチソウ)、キク科の代表的なもの。 ただし花粉の飛散は少なく、花粉症の原因としては多くないようです。 樹木花粉には、スギ(2〜3月)やヒノキ花粉(3〜4月)が重要です。 近年、紀伊半島ではヒノキ花粉が増えています。 他にスギに近いビャクシンや、阪神間で多いヤシャブシに近いハンノキ、リンゴなどと交差反応するシラカンバ、ブナやコナラなどの広葉樹、柳、カエデ、オリーブなども測定しています。
青字は花粉など、赤字は食物です。 緑字は注目抗原です(RASTはありません)。
青字は花粉など、赤字は食物です。 緑字は注目抗原です(RASTはありません)。 緑字がたくさんあるのが分かると思います。 本当はもっと検査できるものがたくさんあれば、と考えています。 たとえば、当科の前の公園に10月なるとキンモクセイが黄色い小さい花をたくさんつけます。 このころに鼻炎・結膜炎を訴える患者さんがいますが、その原因がキンモクセイかどうか証明できません。 ハーブ系や香辛料は、シソ科やモクレン亜綱にたくさんかたまっていますが、これらについてもRAST値の検査がありません。 私はとりあえず、シソ目についてはゴマで代用して検討しています。 モクレン亜綱については、唯一アボカドがクスノキ目クスノキ科の一つとして検査できますので、これで代用しています。 セリ科のハーブについては、パセリ、ニンジン、セロリを参考にしています。 ただし、それぞれについて、どの程度共通抗原性があるのか、はっきりしていません。 裸子植物のイチョウの実のギンナンと、被子植物バラ類ムクロジ目ウルシ科のウルシやハゼノキのどちらにも接触皮膚炎の原因となるウルシオールが含まれています。 遺伝的にはずいぶん離れているのにどうしてそうなったのか、よく分かりません。 イネ科やキク科、シソ目のゴマ、セリ科のニンジンやパセリ、ツツジ目のブラジルナッツやキーウィ、バラ科のモモやナシ、マメ科のダイズやピーナッツなどのRAST値が陽性のときは、化粧品・シャンプー・保湿クリームには植物成分(植物エキス)が入っていないものを選ぶように指導しています。 天然ものと歌った化粧品などには、キク科・セリ科・シソ科・ツツジ目・バラ科・マメ科の植物エキスが多数用いられています。 とにかく、良い香りのアロマ植物を皮膚につけたり、吸入するのは危険です。 ハーブ園で働くと、目の周りにかゆみや湿疹ができやすくなります。 花粉症は、雌花と雄花、雌株と雄株があり、風で花粉をとばせて受粉する風媒花で起こります。 風媒花には花が地味で目立たず、花弁が退化しているものもあります。 そのかわりに大量に花粉をつくり、とびやすいように袋をもっていたり、突起物で花粉がくっつきやすくなっています。 花については、花粉を吸い込むだけでなく、花、葉、茎、根・球根をさわることで発疹ができることがあります。 サクラソウ皮膚炎の原因物質プリミンは、パッチテストでしか原因究明ができませんが、それのRAST値が調べることができれば陽性が見つかる可能性があります。 チューリップなどの球根皮膚炎も同じことがいえます。 食物の検査値でその植物の吸入・接触アレルギーの代用にすることもあります。 可食部の検査陽性が、それの葉や茎、根などのアレルギーと必ずしも一致するとは限りません。 それでも、イネ科花粉症があれば、食べる小麦や米も陽性になっていることがあります。 犬の毛が短いとアレルギーが起こりにくいということはありません。 犬皮屑を検査しますが、これは犬のフケのことです。 ペット類は、主に、ネコ皮屑(ひせつ)とイヌ皮屑を測定しています。 イヌ皮屑はミニチュアダックスフントなど、イヌ上皮はドイツシェパードが抗原として用いられています。 イヌ皮屑の方が日本では陽性率が高いため、これを主に検査しています。 イヌ皮屑とイヌ上皮とも陰性のイヌアレルギー患者さんがいる可能性があります。 ちなみに、ペット皮膚テストに用いられる抗原液は、狂牛病が問題視されたときから、加熱などの処理がされています。 そのために、急に陽性率が低下しており、検査の信頼性が失われています。 当科では、ペットのアレルギーを調べるときは、できうる限り採血してRAST値で検査しています。 ハムスターとウサギはどちらも齧歯(げつし)目で、アレルギー的には交差反応します。 ハムスターにかまれてアナフィラキシーショックを起こした患者さんが報告されています。 ハムスター・モルモットやウサギなどを飼育している場合は、それらも測定しています。 普通、イヌやネコが陽性になると、他の接触している動物があれば、たいていそれらも検査陽性になっています。 ネズミ・ウサギなどの齧歯(げつし)目は、体毛がとても細かく、飼育はじめてせいぜい3カ月で気管支喘息を発症します。 6カ月もすれば湿疹の悪化が見られるようになります。 セキセイインコやハトの他に、馬皮屑や牛皮屑、ガチョウ・ニワトリなどの羽毛、羊毛(羊上皮)などの項目もあります。 羽毛が出ている羽毛布団は、ペットアレルギーがあれば、要注意です。 冬になり、タートルネックのセーターがかゆいのも、当然かもしれません。 最近は、検査項目にないペットが飼われていることがあります。 ムササビ、プレーリードッグ、シカ、ヘビの仲間、カブトムシ・クワガタなどです。 種族を考えて、たとえば、ほ乳類なら犬・猫で代用しています。 昆虫類としては、ハチ類、ガ、ヤブカ、ユスリカ、ゴキブリなどがあります。 節足動物では、ダニなどのクモ類、昆虫類、エビ・カニの甲殻類などは、多少抗原が類似しているために、交差反応があります。 ダニRAST陽性の患者は、たいてい虫のアレルギーを持っているために、虫刺症もひどくなります。 ガ、ヤブカなどの昆虫は刺されることも多く、ダニより先に陽性化していることがあります。 昆虫のRASTが陽性になると、虫さされで大きく腫れたり、虫さされの痕が痒疹になることがあります。 特に乳幼児は、虫さされの症状が強くでます。 アシナガバチやスズメバチは、林業関係者などハチに刺されやすい仕事をしていると、検査陽性がたくさん見つかります。 ハチに刺されると大きく腫れたり、ときにアナフィラキシーショックが起きることがあります。 ユスリカは吸入することも多く、気管支喘息の悪化要因になります。 食物は50種以上の項目について測定しています。 肉類、魚類、甲殻類、貝類、野菜、豆類、芋類、穀類、果物類などがあります。 食物のアレルギーは、多くの場合それに含まれるタンパク質がアレルゲンになっています。 それだけに同じ食品であっても、タンパク質を多く含むものの方がアレルギーを起こしやすいということになります。 たとえば、思いっきり精米した白米よりも、胚芽米や玄米の方がアレルゲン性が強いということです。(論文報告) 卵や牛乳などの食物については、食物アレルギーの項目に記載しました。 「検査陽性はその食物を制限する必要がある」と短絡的に考えるのは禁物です。 検査値の解釈は、年齢、その食物を摂取しているかどうか、IgE-RIST値、吸入・接触していないかなどでかなり違ってきます。 たとえば、それまで卵を食べたことがない生後3ヶ月の乳児と、普通に食べている10歳の子供では、卵白RAST値が同じでも、3ヶ月の乳児に卵を食べさせると真っ赤になります。 乳児の場合、RAST値が0.34 Ua/mlを超える前であっても、その食物を食べてアレルギー反応が起きることがあります。 この時期のアレルギーの有無を調べる感度(sensivity)ということからいえば、RAST値よりも皮膚テストの方が敏感です。 成人になり、初めて陽性になってきたときは、やはり卵を食べると全身にじんましんができる可能性があります。 乳幼児という免疫の未完成が抗原認識の異常や免疫寛容トレランスの未発達を招いているのとは違って、成人の場合はなぜそのような食物アレルギーが起きてきたか理由を検討する必要があります。 たとえば、ケーキ屋さんに勤め始めて小麦のRAST値が上昇し始めたときは、小麦粉の吸入でそうなったのですし、小麦製品を食べるとかゆくなる可能性を示しています。 小麦蛋白は主にグルテンですが、加水分解小麦についてはω-5グリアジンを検査することもあります。
スギ花粉のRAST値が1.00 Ua/ml程度のとき、IgE-RIST値が10 IU/mlの患者さんと1000 IU/mlの患者さんを比べると、10 IU/mlの患者さんでは強いスギ花粉症が出ることがあるのに対して、1000 IU/mlの患者さんではスギ花粉の症状は全くないことの方が多いようです。 IgE-RIST値に占める割合が高いほど、RAST陽性値は強い症状となって現れます。 その意味で検査陽性はそのまま症状にはつながりませんし、制限する必要もありません。 ただし、検査が正常で食べている場合と、検査が異常で食べているのは、必ずしも同じではありません。 検査の異常をなんらかの方法で抑えていることを意味しています。 症状を抑えているものがなくなれば、症状となって現れる可能性を示しています。 食物だけでなく、ダニなど他のものでも同じことがいえます。 年齢がすすんできて卵などを食べられるようになったとき、たとえば卵白RAST値の陽性が続いていると、卵を食べると口腔内でアレルギー反応が起きているためにおいしくありません。 食べこぼすと口の周辺が赤くなったり、口囲だけでなく眼囲もかゆくなることもあります。 子供がある食品を食べるのをいやがるとき、その食品にアレルギーがある可能性も念頭に置いておいた方がよいかもしれません。 ソバのように、RAST数値が低くても、あるいは全く正常でも、ショック症状が出るものがあります。 ある分子量のソバタンパク質に対してモノクローナル型にIgE抗体がつくられていて、それが検査で検出できないレベルということです。 つまり、ソバのRAST検査値はあてになりませんので、今は検査そのものを止めています。 同じ現象が、エビ・カニその他の食物・タンパク質でも見られることがあります ゼラチンはワクチンにも含まれ、ワクチンを接種する前にゼラチンのRAST値を測定しておいた方がよいことがあります。 同じ属または科の植物は、一種類のものが陽性になると、ほかの種類のものも陽性になる(交差反応)傾向があります。 たとえば、カモガヤ花粉が陽性の時、多少の高低はありますが、すべてのイネ科花粉で陽性になっています。 また、前述したバラ科(リンゴ、モモ、サクランボ、梅、ナシ、イチゴ、アーモンドなど)が交差反応する代表です。 ニンジン、セロリなどのセリ科、ジャガイモ、トマト、ピーマン、ナスなどのナス科、メロン、キュウリなどのウリ科、大豆、ピーナッツ、エンドウなどのマメ科、マンゴ、ピスタチオ、カシューナッツなどのウルシ科がなども交差反応します。 種族は異なりますが、エビ・カニ類(甲殻類)とイカ・タコ、昆虫類も交差することがあります。 サバやイワシを食べてじんましんがでる人には、魚介類・エビ・イカ・タコの寄生虫アニサキスを検査しています。 アニサキスは線虫類で、生きたものでは胃アニサキス症を起こすことがあります。 アレルギーは死んだものでも起こります。 イワシのアニサキスは2〜4月に多いという報告があります。 植物も食べたときよりも、それを吸い込んだときの方が感作されやすく、ハーブ園ようなところで働いている人は、強いハーブのアレルギーが作られます。 ラテックスに対する抗体は、手湿疹の患者において重要な項目で、ゴムアレルギーの有無に関係しています。 この抗体はバナナなどの熱帯果物と交差反応します。 ラテックスは接触蕁麻疹の原因ともなり、ゴム手袋やコンドームで全身に蕁麻疹がができることがあります。 なお、ラテックスを含まないポリウレタン製のコンドーム(相模ゴム)も販売されています。 他にゴムの可塑剤に用いられるものとして、無水フタル酸が検査できます。 現在、化学物質過敏症に関係したものとしては、ホルマリンが測定できます。 カビ類(真菌類)の代表として、体内に常在するカンジダを最初に測っています。 カンジダは抗生剤を頻繁に使っていると体内で増えてきます。 舌が白い苔のようになったりします。 カンジダは腸管や膣の中にも増殖し、全身のじんましんや湿疹の原因抗原になります。 感染症のアレルギーのアレルギーの一つです。 カンジダが増えると、食物アレルギーが誘発されるという説もあります。 カンジダのRAST陽性は重症のアトピー性皮膚炎で多く見られます。
風呂場や台所の壁、土壌などの環境に日常見られるカビ(アルテルナリア、クラドスポリウム、アスペルギルス、ペニシリウム他)を測定する場合もあります。 パンやモチに生えるアオカビはペニシリウムです。 有性生殖が知られていない真菌類を不完全菌という名前で分類されています。 大量に胞子を飛散させますので、胞子を吸入すると、肺で増えることもあり危険です。 胸部レントゲンで、肺がんと間違われることがあります。 肺の中でアレルギー反応を起こす危険性もあります。 カビは古い住居にあるシックハウスの原因アレルゲンの一つです。 カビが多くなると、それをエサとしてダニも多くなります。 ビール酵母はパン酵母(イースト)と同じ属に分類されます。 ちなみに、コウジカビはアスペルギルスの一種です。 これらは、同じ真菌の仲間として、カンジダが陽性になると交差反応としても上昇します。 皮膚表面に常在するピティロスポルム・マラセチア、水虫の原因真菌の一つであるトリコフィトンに対する抗体も測定できます。 水虫を外用剤で治療すると、治療初期に水虫の湿疹が悪化したり、体の他の所に発疹ができることがあります。 白癬疹と呼ばれていますが、トリコフィトンが陽性になるとそれが起こりやすくなります。 ピティロスポルム・マラセチアはアトピー性皮膚炎の顔の湿疹の原因という意見があり、抗真菌剤の長期内服が行われることがあります。 肘窩や膝窩など汗部位の湿疹は、ピティロスポルム・マラセチアのアレルギーによるものがあるという意見があります。 一般にカビにステロイドを外用すると、カビはかえって増えます。 カビがアレルギーを起こしているとき、そのアレルギーに対してステロイドは効果がありますが、アレルギーの原因であるカビはステロイドで増えるという事態が起こります。 カンジダだけでなく真菌類は、たいてい免疫機能の低下した患者(コンプロマイズドホスト)に罹患する日和見感染症です。 コンプロマイズドホストとは、乳幼児、妊婦、高齢者、糖尿病や悪性腫瘍にかかっている人、ステロイドや免疫抑制剤、抗がん剤の全身投与を用いている人のことです。 免疫的に正常ならば、ヒトの体内や皮膚表面では繁殖しない微生物であっても、免疫が低下すると増えるものがあるということです。 アレルギー体質は、感染症に対して免疫機能が低下しているということから考えると、コンプロマイズドホストの一つと考えられます。 カンジダのRAST値陽性はしばしばみられますが、それは、次項の黄色ブドウ球菌毒素が陽性と併せて、様々な感染症に対するアレルギーを持っているということを示しています。 感染微生物に対する免疫に問題があるということでもあります。 それだけに、体内に常在している感染微生物でアレルギーを起こしているということは、アトピー性皮膚炎の治りにくさ(難治性)も示しています。 溶連菌などによる慢性扁桃炎、腸内細菌の異常による慢性の便秘や下痢、歯槽膿漏やう歯や蓄膿症、感冒などの感染症でもアレルギー反応を有していることでもあります。 アルテルナリアやアスペルギルス、リゾプス、ムコール、ヒストプラズマ、クリプトコッカスなどは、日和見感染症を起こします。 それらのRAST値が単独で高い数値を示すときは、環境にそれらがたくさんあるからなのか、体内で増殖しているのか、見きわめる必要があります。 黄色ブドウ球菌は、SEAやSEBなどの毒素を分泌しています。 これらの毒素に対するIgE抗体の有無を、血液検査で測定することができます。 これらの抗体は、とびひを繰り返している患者や、アトピー性皮膚炎の重症患者で高くなります。 最も多く存在すると推測されるウィルスに対するIgE抗体は、溶連菌のそれとともに現在のところ測定できません。 感染症はアレルギーを強くし、IgEや他の抗原に対するRAST値を上昇させる傾向があります。 RAST値が陽性であっても、必ずしもそれで症状が出現するとは限りません。 IgE抗体が反応するためには、抗体と結合するもの(抗原)が必要です。 特に腸管で消化されてアミノ酸に分解される食物抗原は、食べても、反応しているのかいないのかわからない場合が多いようです。 重症患者の中には、非常に多くの抗原に対してRAST値が上昇していることがあります。 なぜこれらのIgE抗体は、ソバアレルギーのような症状がないのか、不思議な話です。 重症患者でなくとも、軽症患者を含めて70%程度でRAST値陽性になるハウスダストやダニでなぜ強い症状が現れないのか、疑問に思う患者は少なくありません。 検査陽性がそのまま症状に表れないことについては、いろんな説があります。 いつも同じ抗原を大量に浴びていると抗原が過量になり肥満細胞のヒスタミンがなくなる(枯渇する)とか、 抗原が腸管に入ると腸管免疫が働いてトレランスが誘導されるとか、 抗原と抗体は結合するが抗体として完全でない(Fab部分に欠陥)ために反応しないとか、 IgG4などの遮断抗体が存在するからだとか、 まさにいろいろです。
(3).IgG、IgA、IgM、総タンパク質(TP)、A/G比 正常値一覧表 IgG、IgA、IgMなどは、白血球の一つ、Bリンパ球でつくられます。 ウィルスや細菌などの異物を抗原として、主として、感染防御に関係した抗体です。 これらの抗体が少ないと、感染症に対して弱く、またよくなるまで時間がかかります。 抗体産生能力が低いときは、たとえばインフルエンザワクチンしてもインフルエンザにかかるといったことが起こります。 それでも、ワクチンしても意味がないということではなく、ワクチンしていて軽くてよかったと解釈すべきです。 IgG抗体は、生まれたときは、母親から胎盤を通じてもらっているために1000 mg/dl程度あります。 乳児は免疫系が未熟であるために徐々に減少し、4〜5カ月頃最も低くなります(平均すれば450 mg/dl程度)。 このころは病気にかかりやすく、湿疹が最も悪くなりやすい時期とも一致しています。 IgG抗体のレベルは、この時期の湿疹の重症度と関係しています。(学会報告)
乳幼児期のIgG抗体の減少は、乳幼児であるために抗体産生の能力が低下していることによります。 感染症にかかってもこれらの抗体ができにくいために、いつまでもそんな感染症がよくならず、冬の間ずっと鼻水を垂らしているということにもなります。 たとえば、インフルエンザのワクチンをしても抗体ができにくいために、結局インフルエンザにかかるということにもなります。 そんな治りにくい感染症が、しばしば乳幼児期のアレルギーの原因になっていることがあります。 症状としては、全身のかさかさやじんま疹、環状・貨幣状の湿疹などがそれに相当します。 なお、乳幼児期は、抗体産生の能力だけでなく、白血球の機能(働き)も大人よりも低下しています。 ところが、小児期以降のIgG抗体の上昇は、白血球の機能が低下しているために感染症を繰り返し、なんとか感染症を抑えようとして、結果としてIgG抗体が上昇していると考えられます。 すなわち、成人になると、IgG抗体は、簡単に測定できない白血球の機能の異常も示しています。 一方、上昇したIgG抗体がいろんなものに対してつくられ、細菌やウイルスなどの外来の抗原だけでなく、自分自身を抗原とする自己免疫性のIgG抗体もつくられることがあります。 そんな自己免疫性の抗体が自己抗体であり、それの検査の一つが抗核抗体です。 従って、この時期のIgG値は、光線過敏などの自己免疫的要因を考えるとともに、白血球機能を評価するための目安となります。 ということで、IgG抗体の上昇した成人型のアトピー性皮膚炎はまさに難治の例が多いようです。 一方、成人期のIgG抗体の減少は、これらの抗体を減らす原因が患者にあることを表します。 そんな原因で最も多いものが、放射線の影響やもともとの体質もありますが、白血球の機能を低下させるステロイドの内服・点滴です。 IgG値の減少は、ステロイドの全身投与で難治化した、感染症が要因と考えられるじんま疹患者でもしばしば見られます。 IgGの低下したアトピー性皮膚炎やじんま疹患者は、ステロイドを内服しているとき、そのステロイドを止められない例が多いようです。 IgE抗体ではなく、IgG抗体が関与しているじんま疹やアナフィラキシーショックも報告されています。 この場合、抗原特異的IgG抗体結合した好塩基球から大量に血小板活性化因子(PAF)が放出されて起きるといわれます。 IgG抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4の4種のサブグループに分類されます。 ウイルスや細菌などの感染症の他に、ダニ、卵白、牛乳、小麦、大豆のIgG、IgG4も測定されています。 カビ(カンジダ、アルテルナリア他)に対するIgG抗体も測定できます。 アニサキスやピロリ菌に対するIgG抗体もあります。 ただ、これらがIgE抗体が関与しないじんま疹に関与しているかどうかとなると、私自身よくわかりません。 ちなみに、近年、IgG4関連疾患という概念があり、血清IgG4の上昇、IgG4陽性形質細胞の浸潤、繊維化を伴った腫瘤性・肥厚性病変をつくる慢性疾患です。 これには、シェーグレン症候群に似たミクリッツ病や自己免疫性膵炎などがふくまれます。 IgM抗体はウィルスなどの感染があり、比較的感染初期より上昇し、その後低下します。 中年以降のアレルギー患者で、しばしばかなり低値のことがあります。 このことは、免疫系に老化現象が起きて、IgM抗体の産生能力が低下していることを示しています。 子供では、正常範囲内でも高いところあるときは、症状に気がつかなくても何らかの感染症が続いている可能性があります。 IgA抗体は、気道・鼻・腸管粘膜などの粘膜防御に関係している分泌型の抗体です。 IgAが低いときはカゼなどの呼吸器の感染症が多く、喘息様気管支炎やそれに伴う湿疹・じんましん・乾燥肌が多く見られます。 IgA抗体が高いときは、扁桃や腸管粘膜などに慢性の感染症が続いている疑いがあります。 気道その他の粘膜に炎症があるときも上昇していることがあります。 保険は通っていませんが、唾液の中の分泌型のIgA(S-IgA)を測定することもできます。 S-IgAはストレスの指標になります。 ストレスの程度に相関して、上昇していることがあります。 IgAとIgMは、いずれも胎盤を通過しないために、生まれた直後は非常に低くなっています。 血清総タンパク質 (TP) は、皮疹が悪化すると、滲出液からタンパク質が失われるために低下する傾向があります。 特に、乳児は、皮疹がひどいと、皮屑はタンパク質からできているためにかなり低くなることがあります。 感染症を繰り返して食事がとれていないとき、腸管の吸収がよくないときも低下します。 総タンパク質(TP)はアルブミン分画(A)とグロブリン分画(G)から構成されています。 グロブリン分画はいろんな抗体を集めたものです。 乳児ではグロブリンが少ないために一般にA/G比は高く、感染症を繰り返している成人はIgGが多いためにA/G比は低くなっています。 A/G比をみれば、そのときのIgG抗体の量を推測できます。 タンパク質のアルブミンは肝臓で合成されるために、肝機能が低下するとTPは少なくなります。 腸管の炎症でタンパク質が腸管から漏出することがあり、このときもTPは低下します。 一方、肝炎や肝硬変がひどくなると、グロブリン分画が増加し、結果としてTPは上昇します。
(4).LDH、LD(乳酸脱水素酵素)、コリンエステラーゼ(ChE) アトピー性皮膚炎の皮疹のレベル(重症度)を表わすものとしては、LDH、LAP、白血球数、血小板数(Pl)、好酸球数、IgE、SCC抗原、ヒトTARCなどがあります。 その中でLDHは、代表的なアトピー性皮膚炎の重症度マーカーです。 LDHは最近LDとも表記されます。 LDH(Lactate dehydrogenase)は、すべての細胞に存在し、5種類のアイソザイムがあります。 肝炎、心筋梗塞・心不全、腎炎、悪性腫瘍、筋炎など様々な病態で上昇します。 とにかく何か異常があれば上昇します。 アトピー性皮膚炎では、皮疹の悪化とともに上昇し、皮疹がよくなると低下します。 接触皮膚炎のような皮膚表面の炎症では、湿疹の外見ほど上昇しません。 また、外見的にドライスキンだけのようにみえても、これが上昇しているときは、皮膚内部や体内にまだ炎症が残っているということです。 早い話、湿疹のレベルに応じて、面積と深さで積分しているということです。 LDH=Σ(湿疹のレベル)×(面積)×(深さ) 健常人は、平均160 U/L前後(230U/L以上で異常値)ですが、正常範囲内での上昇にも注意を払う必要があります。 正常範囲内であっても、上限に近いときは、湿疹がかなり存在すると解釈した方がよいでしょう。 LDHの利点の一つとして、湿疹を評価する手段としては、検査料が安いことが上げられます。 肝障害などがあるアトピー性皮膚炎では使えないのは欠点です。 コリンエステラーゼ(ChE)は肝細胞で産生される酵素・タンパク質です。 ChEの増加は、肝細胞での産生亢進を表し、脂肪肝、糖尿病、甲状腺機能亢進症、ネフローゼなどで起こります。 一方、ChEの低下は肝細胞の破壊または低栄養を表します。 すなわち、ChE活性の低下は、肝硬変、重症感染症、悪性腫瘍で起こり、さらに甲状腺機能低下症、有機リン中毒でも起こります。 メタミドホスなどの有機リン中毒患者さんではChEは低下しています。 肝障害や甲状腺異常のないアレルギー患者さんでChEが低下しているとき、化学物質過敏症やシックハウス症候群がアレルギーの原因として疑われます。 地方の生活者は貧しいせいか、満足に食事を取っていないためにChEが低下していることがあります。 貧血、UAやクレアチニン、総タンパク質などの低下、減少も併せて、患者の食事状態を評価することができます。 (5).尿酸 (UA) 尿酸 (UA) は、細胞の核酸が原料になっているために、湿疹のために皮膚の細胞が破壊されると増加することがあります。 アトピー性皮膚炎患者でも、皮膚の細胞が破壊されているために、高くなっていることがあります。 すなわち、アトピー性皮膚炎の湿疹が悪化すると、尿酸値は上昇し、湿疹が軽くなると低下します。 尿酸値の高い病気としては、痛風(つうふう)があります。 高尿酸血症もまた、多分に遺伝的要因があります。 尿酸値は美食家で上昇します。 近年、貧困やダイエットのために、あまり栄養が取れていないせいか、正常下限ぎりぎり、正常値以下の患者さんをしばしばみかけます。 もっとたくさんバランスよく食べて・食べさせて下さいとお願いするのですが、いずれにせよ、人の体は食べ物でつくられています。 しばしば高尿酸血症や痛風で処方される尿酸合成阻害剤アロプリノール(商品名ザイロリックなど)は、しばしば免疫異常を誘発し、体内のヘルペス属などのウイルスを再活性化すとともに、様々な薬疹を起こします。 アトピー性皮膚炎の悪化要因にもなります。 というものの、尿酸値を下げるものには、アロプリノールの他に適当なものがなく(尿酸排泄剤が一部使われていますが)、アトピー性皮膚炎と痛風が合併したときは、難しくなります。 最近、尿酸や尿酸結晶が粒子アジュバント作用を有しているという報告があります。 これらは、ダメージ関連分子パターンとして強い炎症反応、痛風を誘発し、また強いTh2型免疫反応を誘導します。 尿酸は湿疹の悪化の結果であると共に、悪化要因としても働いているということです。
(6).白血球数 (WBC)white blood cell、白血球分類(好中球、リンパ球、単球、好塩基球) アトピー性皮膚炎は本来皮疹の上に大量の黄色ブドウ球菌が増加しているために、しばしば白血球が増加しています。 白血球数は湿疹がよくなると、しばしば正常平均になります。 正常値は、4000〜8500 /mm3ですが、健常成人は平均6000 /mm3程度です。 乳児は、白血球機能が低いことを数を増やして対応しているせいか、健常でも10000 /mm3程度になっていることがあります。 白血球の役割は、ヒトの体内に侵入した異物を認識したり、細菌・ウイルスなどの病原体をつかまえて、食べて感染を防いだり、抗体を作ることです。 細菌感染症があれば増加します。 感冒などのウィルス感染症では低下することもあります。 また、ステロイドを内服・点滴すると増加します。
もともと白血球が少ない、あるいは正常範囲だが少なめの人がいます。 たとえば、4500は少なめです。 少ないと感染症に弱く、風邪が多いとか、扁桃腺がよく腫れるとか、キズが化膿しやすいなどといったエピソードがあるかもしれません。 他に、体質として、日光ですぐに赤くなるとか、冷え症で肩こりや頭痛が多いというようなことがあるかもしれません。 体内にウイルスが潜んでいるときも、白血球は少ないかもしれません。
白血球の働きについては、健康保険でできるよい検査がありません。 白血球機能低下は、IgGなどの抗体の増加を招く傾向があります。 普段から白血球の増加している人は、ずっとどこかに感染病巣があるか、ステロイドを内服しているか、白血球の働きの悪いのを数を増やしてカバーしているか、どちらかです。 白血球には、分葉核球(Seg)あるいは好中球(Neu)、リンパ球(Ly)、単球(Mo)、好塩基球(Ba)、好酸球(Eo)などいろいろな種類のものがあります。 白血球が増えたり減ったりしているとき、どの種類の白血球が変化してそうなっているのか確認する必要があります。 好中球Neutrophil(Neu)は、細菌などを貪食どんしょくしたり、殺したりする白血球です。 細菌感染症やステロイド内服で増加します。 乳幼児はしばしば低くなっています。 リンパ球lymphocyte(Ly)は免疫に関係する白血球で、Bリンパ球(主に抗体産生を担当している)やTリンパ球(免疫制御に関係し、いろんな種類に分かれる)など多数の種類があります。 Tリンパ球はヘルパー/インデューサーT細胞やキラー/サプレッサーT細胞などいろんな種類に分けられます。 さらにヘルパーT細胞はTh1とTh2など分けられ、アトピー性皮膚炎はTh2が優位になっていると言われています。 異型リンパ球は形のおかしなリンパ球で、感冒などのウイルス感染症でも1〜2%は出現することがあります。 たくさんあれば白血病も疑いますが、EBウイルス(ヘルペス属ウイルス)による伝染性単核症やサラゾピリンなどによる薬疹などで、しばしば多数の異型リンパ球が出現します。 伝染性単核症はアレルギー体質に多い傾向があります。 単球monocyte(Mo)もまた、感染防御・免疫に関係する白血球です。 細菌・ウイルス・原虫などの感染症、血液疾患、肝疾患で増加します。 アレルギー疾患でいつも増加しているときは、何らかの持続した感染症が隠れている(たとえば、C型肝炎ウイルスなど)可能性があります。 (7).好酸球 (Eosinophil エオジノフィル) 白血球の一種、好酸球はアレルギー状態で増える白血球です。 好酸球性顆粒から分泌されるMBPmajor basic protein、ECPなどによって皮疹が悪化させる傾向があります。 アトピー性皮膚炎が重症化すると著明に増加します。 喘息などのアレルギー疾患、薬疹、寄生虫疾患などでも増えます。 アレルギー性鼻炎では、鼻汁の中で好酸球が増えています。 アレルギー性結膜炎では、涙の中で好酸球が増えています。 気管支喘息患者では、気道で好酸球性の炎症が起きていて、気道の分泌物の中で好酸球が増えています。 アトピー性皮膚炎では、湿疹を生じた皮膚の中で(真皮内で)、好酸球が増えています。 健常人は、せいぜい白血球全体の2〜3%、200 /mm3程度です。 好酸球はステロイドを内服すると急速に減少します。 好酸球の減少は、さまざまな感染症があるときにも見られます。 好酸球数の増加は、体の中で実際にアレルギー反応が起こっていることを表し、かゆみの強さとも一致します。 そのアレルギー状態が、じんましんより、むしろ炎症を伴った湿疹型であることを示しています。 (8).赤血球数(RBC)、ヘモグロビン(Hb)、MCV、血清鉄(Fe)、総鉄結合能(TIBC) 貧血に関係したものとして、赤血球数(RBC)、ヘモグロビン(Hb)、MCV、血清鉄(Fe)などがあります。 赤血球数が正常でも、酸素を結合する血色素量(ヘモグロビン)が低ければ貧血です。 MCVは赤血球の1個の体積を表します。 人体内の鉄の2/3は赤血球にあり、残りの1/3は肝細胞などの貯蔵鉄になっています。 およそ0.1%が血液中にあり、血清鉄と呼ばれています。 感染症や自己免疫疾患は貯蔵鉄をうまく利用できていない状態であり、このときの血清鉄は低下しています。 TIBCはトランスフェリン(鉄結合性糖タンパク質)が結合する鉄量を表し、鉄欠乏性貧血では鉄を求めてむしろ増加しています。 貧血は末梢の酸素不足を生じ、湿疹が直りにくい一因にもなります。 全身、特に末梢の乾燥肌の悪化要因にもなります。 爪の変形(スプーンネイル)、足のタコの原因にもなります。 アトピー性皮膚炎ではしばしば鉄欠乏性貧血が見られます。 貧血の原因としては、 食事から鉄分をとっていないもの、 萎縮性胃炎などがあり鉄の吸収がよくないもの、 子宮筋腫・子宮内膜症があり月経による出血量が多いこと、 胃潰瘍・十二指腸潰瘍・腸管の炎症性疾患や腫瘍があり下血をくりかえす 赤血球の製造工場である骨髄の働きが低下、 脾臓が大きくなり(脾腫)赤血球が破壊、 運動過多で赤血球が足でつぶされている 赤血球に対して抗体ができて溶血している マラリア・アメーバなどの原虫・寄生虫に感染している 伝染性紅斑などのウイルスが赤血球に感染している お風呂などで自分にキズをつけて出血させている などが上げられます。 子供で鉄欠乏性貧血があるときは、母乳栄養の乳児なら母の貧血・鉄不足、幼児期以降なら食事のバランスがよくないための鉄不足が多いようです。 子供の鉄不足は、しばしば食事のバランスが悪いことを示しています。 ということは、他の栄養素に不足したものがある可能性を示しています。 (9).血小板platelet 血小板は血液凝固に関与します。 何らかの原因で血小板凝集が起きると血小板数は低下します。 白血病・再生不良性貧血・血小板減少性紫斑病、肝硬変、自己免疫疾患、風疹などのウイルス感染症で低下します。 一方、貧血、感染症、白血病、多血症などで増加します。 私の意見ですが、感染症がアレルギーの原因になっているとき、血小板は増加すると説明しています。
IgM (-)0.80未満、(±)0.80〜1.20、(+)1.21以上 CF法、NT法:(-)4未満 FA法:(-):10未満 HI法:(-):4未満、8未満又は10未満 (10).ASO、ASK 溶血性連鎖球菌(A群溶連菌)は、扁桃に常在し、しばしば扁桃炎を起こし、腎炎や心内膜炎の原因にもなります。 この菌は、単純ヘルペスによるカポジ水痘様発疹症とともに、アトピー性皮膚炎の重症化の要因として重要です。 連鎖球菌(Streptococcus)には様々な種類がありますが、アトピー性皮膚炎では、A群とG群が重要です。 抗ストレプトリジンO抗体(ASO)はA群β溶連菌から産生される外毒素で、ASOが高値のときは、体内のどこかにA群β溶連菌がいることを示しています。 扁桃腺の大きな人が、疲れたり、ストレスがたまって、溶連菌は血中に入って、増えると、高熱が出ます。 その毒素がアレルギーを起こしている可能性がありますが、外来の保険範囲内でそれを証明する方法がありません。 抗ストレプトキナーゼ抗体(ASK)は溶連菌のA、C、G群から分泌されますので、ASO陰性でもASKが陽性のことがあります。 ASOは乳幼児では上昇しにくいようです。 当院では、ASOの正常値は検出限界以下、すなわち0 IU/mlと考えています。 ASOの数値が少しでも現れるということは、溶連菌がどこかにいるために、毒素を出しているということです。 B群は産道から検出されると、出産のとき子供に感染すると重症の敗血症・髄膜炎を起こすことがあり、出産前あらかじめ抗生剤投与が行われています。 G群は高熱を出すことは少ないですが、手指・足などの深い亀裂からしばしば検出されます。 扁桃や皮膚についている溶連菌は、血液の中に入れば抗生剤の投与で退治できますが、少し抗生剤を飲んだくらいでは完全に追い出すことはできません。 なぜなら、扁桃は洞窟のようになった血液の通わないいわばヒトの体の外の世界で、抗生剤はそこまで十分届かないからです。 同じことは、皮膚の上にある細菌、溶連菌や黄色ブドウ球菌についてもいえ、腸内細菌にもあてはまります。 ASOは扁桃・咽頭など粘膜系に常在する溶連菌の存在を示すものです。 ということは、腸管粘膜、胃粘膜、腎臓や胆管などの粘膜にも、いろんな病原菌が常在している可能性も示しています。 実際、ASOの陽性の患者さんは、軟便・下痢・便秘などの腸管系の異常も持っていることが多いようです。 実際のところ、腸管粘膜に常在する大腸菌などの細菌やカンジダなどの真菌が、治りにくいじんま疹やアトピー性皮膚炎の原因になっていることがあります。 正常な腸内細菌が減り、異常な腸内細菌などが増える原因として、以前より、子供の時から、抗生剤の使いすぎが指摘されています。
(11).CRP(C反応性蛋白) CRP(C反応性蛋白)や血沈は、炎症所見を表し、感染症、関節炎、悪性腫瘍などがあると上昇します。 CRPは溶連菌などの細菌感染症では上昇しますが、ウイルス感染では正常範囲内であることが多いようです。 アレルギー患者さんは正常値を少し超える程度の例が多くみられます。 このことは、アレルギーの原因・悪化要因として、何らかの慢性の感染症が隠れていることが疑わせます。 正常範囲内の上昇にも注目すべきと考えています。 中高年になると、原因不明のCRPの上昇は、体内に腫瘍などが隠れている可能性も、頭の片隅に置いておくべきと考えます。 当科では、上記のASOとともに、CRPは必ず検査しています。 (12).抗核抗体(こうかくこうたい) 抗体は、本来外から入ってきた異物(自分でないもの)、たとえばウイルスや細菌に対して作られ、それらから自分を守るために進化の過程で登場したものです。 ダニや卵・牛乳などの抗原を、細菌・ウイルスのような危険な異物と誤解し(抗原認識の異常)、自分にとって危険なものと判断したとき、免疫反応は暴走を起こし、アレルギー状態となります。 そんなときに作られるのが、ダニや卵白に対するIgE抗体であり、患者さんによってはそれらのIgG、IgA、IgMなども作られます。 一方、自分自身の一部を異物と認識すると、ヒトは自分を攻撃・排除するような異常反応を起こします。 このような病態を自己免疫疾患と呼ばれ、免疫担当細胞がそれを起こしている場合(細胞性免疫)と抗体が関与している場合(液性免疫)に分かれます。 後者の場合つくられる抗体を自己抗体と呼ばれ、抗体のタイプとしてはIgG、IgA、IgM、IgE抗体が関係しています。 この自己抗体があるかどうかを最初に調べる検査(スクリーニング検査)が抗核抗体です。 抗核抗体は細胞の核に対するIgG抗体で、自己免疫疾患(膠原病)でしばしば高くなります。 難治性のアトピー性皮膚炎でも、特に女性で陽性になりやすく、20%程度で陽性なっています。 健常人でも10%程度で、あまり高くありませんが、陽性がみられます。 抗核抗体の陽性のアトピー性皮膚炎患者は、多くは白血球が少なめで、四肢が冷たく、日光が合わない(光線過敏)傾向があります。 抗核抗体がかなり高値のとき、他の自己抗体を検査することがあります。 IgEタイプの自己抗体も存在すると考えられますが、今のところ証明されていません。 (アトピー性皮膚炎と抗核抗体の陽性率との関連についてはこちらをどうぞ) (13).副腎皮質ホルモン(コーチゾル)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH) 副腎皮質から分泌される副腎皮質ホルモン(コーチゾル)(正常範囲3.9〜20.6 μg/dl)は、ストレスがあると分泌されるホルモンです。 抗炎症作用や免疫抑制作用があり、湿疹を抑える働きがあります。 湿疹がひどくなるとともに上昇します。 このホルモンを改良して薬剤にしたのが、いわゆるステロイドです。 コーチゾルは脳下垂体前葉から分泌される副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)によって分泌が促されます。 ACTHは視床下部から分泌されるCRHで分泌が促されます。 これらのホルモンには日内変動があり、早朝が高く、夕方になると低くなります。 夜間十分な睡眠がとられていないと、朝に高くならない可能性があります。 日内変動があるために、外来で、特に夕方採血された数値は、異常低値を示していても信用できないことがあります。 長期にわたって大量にステロイドを使っていると、副腎皮質が萎縮し、コーチゾルが低くなっていることがあります。 同時に、ACTHも低下しています。 ステロイドを中止してリバウンド状態が続いていつまでも湿疹がよくならない患者さんは、本来高くなっているはずのコーチゾルとACTHが異常低値を示していることがあります。 アトピー性皮膚炎患者のコーチゾル・ACTHについては、こちらを参考にして下さい。(学会報告)(症例報告) (14).腫瘍マーカー 正常細胞では作られませんが、腫瘍細胞で特異的に産生される物質を腫瘍マーカーといいます。 腫瘍マーカーの中には初期から上昇するものもありますが、かなり進行しないと異常域に達しないものも、たくさんあります。 腫瘍があるかどうか、いわゆるスクリーニング検査として向いていないものも多いようです。 手術後の経過観察などにはよいようです。 というものの、健常人でもときに上昇していることもありますし、腫瘍以外の原因で高くなっていることもあります。 しばしば、検査キットの種類によっては、偽陽性というのもあります。 近年実に多数の物質が測定されていますが、化学物質やタンパク質そのものを検出・測定するよりも、その物質の抗体を作って、抗体が結合したものを測定する場合の方が多いようです。 それだけに、そんな抗体が思いがけないものに結合したり、交差反応を示すことがあります。 悪性腫瘍の検査で用いられる腫瘍マーカーの中に、アトピー性皮膚炎でも上昇するものがあります。 癌胎児性抗原(CEA)は、胎児消化管粘膜を抗原蛋白として、大腸癌、肺癌、膵臓癌、食道癌などいろんな悪性腫瘍で上昇します。 消化管や気道などの粘膜に炎症があると上昇し、気管支炎、炎症性腸疾患、喫煙、アトピー性皮膚炎でも上がります。 SCC抗原は子宮頸部扁平上皮から精製された蛋白です。 様々な扁平上皮癌(子宮、肺、皮膚など)の他に、肺炎・肺結核、アトピー性皮膚炎や尋常性乾癬などでも高くなります。 シフラ21-1は細胞骨格のフィラメントを形成するケラチン蛋白ですが、肺・食道の扁平上皮癌などで上昇します。 重症のアトピー性皮膚炎で高くなる可能性があります。 近年いろんな新しい検査が登場しています。 他にも、アトピー性皮膚炎で上昇する腫瘍マーカーがあるかもしれません。 腫瘍マーカーが陽性になったとき、悪性腫瘍以外の病気でもそれらがしばしば上昇することを覚えておいてください。
(15).ヒトTARC ヒトTARC(Thymus and activation regulated chemokain)は胸腺で産生されるTh2特異的炎症性ケモカインです。 Th2状態のアトピー性皮膚炎で重症度に相関して上昇しますが、皮膚T細胞性リンパ腫、ATL、類天疱瘡などでも増加します。 アトピー性皮膚炎のTh2状態を評価するものとして、興味深いところもあります。 つまり、「どの程度アトピー性皮膚炎か」というようなところを数値で表したものです。 もしヒトTARCが正常域で、湿疹がひどければ、その湿疹はアトピー性皮膚炎によるものではないということです。 アトピー性皮膚炎以外のなおりにくい湿疹となれば、まず考えられるものは、接触皮膚炎、特に外用剤による接触皮膚炎です。 他に、真菌・水虫の広がったものも考えられます。 正常値は子供の方が高く、年少ほど高くなりますが平均350くらい、成人で平均250くらいです。 LDHなどと比べて検査費用が高いのは多少問題です。 (16).リンパ球芽球化(幼弱化)試験、リンパ球刺激試験(lymphocyte stimulation test, LST) 血液からリンパ球を取りだして、PHA(フィトヘマグルチニン)やConA(コンカナバリンA)をリンパ球に加えて培養し、H3−チミジンの取り込み能力をみることで、芽球化(幼弱化)の程度をみる検査です。 リンパ球の免疫能を非特異的に評価する方法の一つです。 様々な原発性免疫不全症で低下しています。 他の病気があり、それによって免疫が低下した続発性免疫不全症でも低下しています。 続発性免疫不全症には、 SLE、関節リウマチなどの膠原病、 悪性腫瘍、白血病、悪性リンパ腫、 麻疹、水痘、ウイルス性肝炎、エイズなどのウイルス感染症、 結核、ハンセン病、梅毒、真菌症、 ステロイドの全身投与、免疫抑制剤、抗がん剤、 腎不全、ネフローゼ症候群、 栄養障害、放射線照射後、 乳児、妊婦、高齢者、 様々な先天異常など いろんなケースがあります。 薬剤による(drug-induced)リンパ球刺激試験(DLST)は、薬疹を疑う患者のリンパ球を取りだして、疑わしい薬剤を加えて培養し、同じようにH3−チミジンの取り込み能力をみることで、芽球化(幼弱化)の程度をみる検査です。 アレルギー患者のリンパ球は非常に過敏になっていることもあり、どんな薬剤でも反応することがあります。 すなわち、偽陽性になりやすいということです。 それでも、薬疹の判定に有用であることもあります。 薬剤の代わりに、卵・牛乳などの食物を用いて行うこともありますが、薬剤以上に偽陽性になりやすい傾向があります。 検査のために、1薬剤について5ml程度の血液が必要です。 たくさんの血液をとられて、結構な費用をかけて、たったこれだけの結果ということもあります。 検査で陽性、だからどうするの、というのは、アレルギーの検査での患者さんの意見でもあります。 (17).ウイルス感染症抗体価・ウイルス関連検査 ウイルスに対する抗体の測定法には、補体結合反応(CF)、赤血球凝集抑制反応(HI)、中和反応(NT)、蛍光抗体法(FA)、酵素抗体法(EIA)などがあります。 特定のウイルスに対してIgGやIgM抗体に分けて測定するときは、FAやEIAが用いられます。 IgGやIgMを区別せずに測定するときは、CF、HI、FAが実施されますが、普通CFよりもNTの方が陽性率が高くなっています。 上記しましたように、感染初期はまずそのウイルスに対するIgM抗体が上昇し、その後IgG抗体が高くなります。 たとえば、風疹に対してIgM抗体が高いときは、最近風疹に感染したことを示しています。 抗体が上昇しているからといって、必ずしもはっきりした症状があるとは限りません。 感染しただけで症状がない場合(不顕性感染)でも抗体価は上昇します。 その感染症の症状はなくても、しばしばそれのアレルギー症状だけというのもあります。 前述しましたように、感染症に対するIgE抗体は黄色ブドウ球菌毒素やカンジダなどの真菌の他はありません。 ウイルスについては、ウイルスという抗原とそのウイルスに対する抗体ができているとき、またはそのウイルスと反応する免疫担当細胞が存在するとき、アレルギーが起きます。 感染症に対する免疫担当細胞の異常については、外来では良い測定法はありません。 仕方なく、これら感染症に対する抗体価をアレルギーの診断の一つとして用いています。 少なくとも、ある特定の抗体価が高いときは、白血球系の異常に加えて、それのアレルギーが起きている可能性を示唆しています。 肝炎ウイルスには、A型肝炎ウイルス(HAV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、D(デルタ)型肝炎ウイルス(HDV)、E型肝炎ウイルス(HEV)、G型肝炎ウイルス(HGV)などがあります。 たとえば、HAVに対するIgM抗体は、発症直後から陽性になり、陽性が数カ月続きます。 HAVに対するIgG抗体は発症4週以降に陽性になります。 HBVに対しては、ウイルスに感染しているにもかかわらず、抗体ができないまま発症していない保菌者(キャリア)が存在します。 キャリアは、HIVなど他のウイルスにもありますし、病原性大腸菌などの細菌でもみられます。 HBVについては、ウイルスの存在を示すものとしてウイルス抗原(antigen、Ag)の検査が行われます。 HBVの外被蛋白を示すHBsAgが陽性のとき、現在HBVに感染していることを示しています。 この外被蛋白の中和抗体(antibody、Ab)であるHBsAbが陽性になると、HBV感染症がよくなってきたことですし、過去にHBVの感染があったことを示しています。 HAsAgが陽性で、HBeAgが陽性の時は、血中に大量にウイルスが存在し、他の人への感染力が強い状態です。 HBsAgが陽性でも、HBeAgが陰性となり、HBeAbが陽性になると、感染力が低下してきたことを表します。 HBcAbはHBVのコア蛋白に対する抗体で、これが高いときは昔から感染していることを示しています。 ただし、IgMタイプのHBcAbのときは、HBVの初感染かHBVキャリアの急性発症です。 HBV-DNAはHBVの遺伝子を検査するもので最も確実です。 実際、HBeAgが陰性でも高くなっていることがあり、この場合は重症の肝炎が起きやすいといわれています。 HCVについては、まずHCV抗体価を測定しますが、これはいわゆるHCVに感染したことがあるかどうかのスクリーニング検査で、血中のウイルス量とは一致していません。 HCVは一本鎖RNAウイルスで、HCV-RNAを定量すると、ウイルス血症の程度が分かります。 HCVコア抗体はHCVのコア領域に対する抗体価で、HCVのウイルス血症と関係し、治療効果の判定に用いられています。 HCVセロタイプは、HCVを群別に分けるもので、インターフェロン治療に反応するかどうかの判別に用いられます。 HDVはHBV感染に伴ってみられます。 HBVの急性増悪や重症化に関与しています。 HDV抗体が検査されています。 HEVはいわゆる人畜共通感染症の一つです。 イノシシ、シカ、ブタなども感染しており、これらを加熱不十分で食べると感染します。 インドやアフリカなどで感染する輸入感染症の一つでもあります。 HEVの発症までの潜伏期間は40日くらいですので、原因食物を食べたことさえ覚えていないこともあります。 感染すると、1〜2%で重症の劇症肝炎になり、特に妊婦などの免疫低下している患者では20〜30%が劇症化するといわれます。 今のところ、HGV抗体の検査は保険適応になっていません。 ヒト免疫不全ウイルス(HIV human immunodeficiency virus)は発症すると、後天性免疫不全症候群(AIDS)エイズです。 HIVはレトロウイルス科に属し、白血球のヘルパーTcellに感染して、それを破壊します。 HIV増殖するにつれてヘルパーTcellが減少し、免疫不全の状態になります。 そうなると、健常人では発症しないいろんな感染症が現れます。 HIVは以前は同性愛者に多いものでしたが、近年は男女間での感染の方が多くなっています。 HIVは感染してもすぐには症状が現れず、何年もの間無症候期が続きます。 また、HIVに感染しても、スクリーニング検査で陽性になるまで約2カ月程度かかります(ウインドウ期)。 検査が陽性にならなくても、他人に感染する時期は、感染してから約1カ月ころから始まり、スクリーニング検査陽性になるまでの約1カ月間を感染性ウインドウ期と呼ばれています。 スクリーニング検査は、HIVの抗原と抗体をまとめて検査されています。 これで陽性になると、HIV関連の遺伝子検査が行われ、さらに薬剤を選ぶための薬剤耐性検査やTcell・Bcell百分率が行われます。 アトピー性皮膚炎患者さんもしばしば少しばかり免疫不全状態があり、伝染性膿痂疹や単純ヘルペスなどの感染症を繰り返すことがあります。 HIV陽性患者さんやエイズ患者さんも、いろんなタイプの湿疹やじんま疹、様々な皮膚感染症がみられます。 そんな患者さんがアトピー性皮膚炎などと診断されている場合はしばしばあります。 そうはいうものの、医師は勝手にHIVの検査をすることはできません。 検査するときは、必ず患者の同意が必要です。 HIV陽性の可能性を疑ったときでも、患者さんにそれを伝えてよいか、とても悩むこともあり、そのまま経過をみることもしばしばです。 成人T細胞白血病・リンパ腫(ATLL)(adult T-cell leukemia/lymphoma)はヒトT細胞白血病ウイルスT型(HTLV-1)(human T-cell leukemia virus type I)によって起きる病気です。 HTLV-1はHIVと同様にレトロウイルス科に属します。 宿主細胞のDNA内にプロウイルスの形で組み込まれています。 ATLLには、急性型(57%)、慢性型(19%)、くすぶり型(6%)、リンパ腫型(19%)など様々な病型があります。 発疹ができるATLLは男性に多く、またくすぶり型が多くみられます。 約半数に皮膚症状がみられ、結節や腫瘤、丘疹、浸潤局面、皮下硬結、紅皮症、乾癬様角化性紅斑、さらに病巣感染が原因といわれる掌蹠膿疱症や汗疱などいろんなタイプの発疹がみられます。 そこには、アトピー性皮膚炎と診断されそうな湿疹もあります。 HTLV-1は、痙性脊髄麻痺、ブドウ膜炎、関節炎、シェーグレン症候群・多発性筋炎などの自己免疫疾患など様々な疾患の原因の一つとなっています。 HTLV-1陽性のキャリアは、九州地方では6%、南紀・南四国で3%に存在し、全国的には0.5〜1.5%に存在します。 国内総数120万人と推計され、年間700例がATLLを発症しています。 ATLLの年間発症危険率は、1000〜2000人に一人(0.1〜0.05%)とされ、70歳までに発症するのは2〜5%程度です。 検査としては、スクリーニング検査として、HTLV-1抗体の有無を調べます。 感染経路の90%は母乳感染によるものといわれます。 妊婦が陽性の時、母乳を遮断するために、ふつう妊娠すると産婦人科で検査されています。 HTLV-1についても、検査することについては、HIVと同じことがいえます。
(18).その他 AST(GOT)、ALT(GPT)、ALP、LAP、γ-GTP、TB(総ビリルビン値)、Amyなどは肝胆膵機能検査です。 UN(尿素窒素)、CRN(クレアチニン)、Na(ナトリウム)、Cl(クロール)、K(カリウム)などは腎機能検査に関係したものです。 シスタチンCは腎不全など腎機能が低下すると上昇します。 eGFR(推算糸球体濾過量)は、0.741×175×Age-0.203×Cr-1.154×(女性では0.742)で求めたもので、腎機能を反映します。 溶連菌感染症・扁桃炎などで腎炎を起こしていると、しばしば低下しています。 肝障害や腎障害は血中に老廃物その他の物質が蓄積ちくせきし、これらの物質がアレルギーの原因となります。 これらの検査は内科でいつもやっている(ルーティーン)検査です。 それらの中でアレルギーの参考になるものもあります。 内科的問題がアレルギー疾患の悪化に関係していることもあります。 薬剤がアレルギーの原因になっているときは、しばしば肝障害や腎障害を伴っています。 AST(GOT)は、肝・筋細胞や赤血球にある酵素で、これらの細胞が壊れると血中に漏れ出てきます。 肝炎、心筋梗塞、筋疾患、溶血などで上昇します。 ALT(GPT)は、主に肝細胞にある酵素です。 この酵素の上昇は、肝細胞の破壊を意味します。 普通はASTの方がALTよりいくらか高い数値になっています。 肝障害が現れると、ALTの方が高くなってきます。 ALP(アルカリフォスファターゼ)は、肝胆道系の酵素で、閉塞性黄疸へいそくせいおうだん、胆汁うっ滞などで上昇します。 骨由来のものもあり、骨疾患や子供の成長期にも上昇します。 また、甲状腺機能亢進症でも上昇しています。 成長期の子供がALPが正常のときは、成長ホルモンが出ていないか、ステロイドによる成長障害が疑われることがあります。 LAP(ロイシンアミノペプチダーゼ)は、肝・腎・小腸・脾臓ひぞうなどに分布する胆道系酵素です。 胆石などで上昇しますが、LDHと同様にアトピー性皮膚炎の重症度に相関します。 γ-GTPは、毛細胆管、腎尿細管、小腸などに分布する酵素で、アルコール性肝障害で上昇することでよく知られています。 他に黄疸、脂肪肝などでも上昇しますが、肝胆系に問題がなければ、腎臓疾患や小腸の炎症でも増加します。 Amy(アミラーゼ)は、膵臓すいぞうや唾液腺由来の酵素で、膵炎などで上昇します。 総胆管が膵臓の内部を走って、十二指腸に達しています。 胆石がそれのどこかで詰まると、胆汁が膵臓の中に漏れて膵炎を起こし、アミラーゼが上昇します。 UN(尿素窒素)は、タンパク質の分解産物です。 腎障害、脱水、心不全、消化管出血などで上昇します。 CRN(クレアチニン)は腎機能を反映します。 クレアチニンはタンパク質をあまり取っていないと低くなっています。 シスタチンCは、腎不全など腎機能が低下すると上昇します。 eGFR(推算糸球体ろ過量)は、0.741×175×Age-0.203×Cr-1.154×(女性では0.742)で求めたもので、簡易の腎機能の評価に用いられています。 溶連菌感染症・扁桃炎などで腎炎を起こしていると、しばしば低下しています。 たとえば、eGFRが25以下になると、腎透析が必要な状態であることを示しています。 糸球体ろ過量は、水分を充分取っていないときにも低下します。 また、B型肝炎ウィルス(HBsAg、HBsAb)、C型肝炎ウィルス(HCV)などの肝炎ウイルスは肝機能障害の原因となります。 これらのウィルスがアレルギーを起こす抗原になっている場合があります。 このときしばしばIgG抗体と単球が上昇しています。 ただし、肝炎ウイルスに対するIgE抗体の有無を検査することはでません。 血糖値(GF)やHbA1Cの上昇、尿糖は、糖尿病の患者で見られます。 アトピー性皮膚炎患者は細菌に感染しやすい体質を持っていますが、糖尿病があるとさらに細菌の感染が多くなります。 HbA1C(ヘモグロビンA1C、糖化ヘモグロビン)は、ヘモグロビンが血中の糖と非酵素的に結合したものです。 ある一定期間の間のグルコース濃度に比例してつくられるために、長期の血糖値のコントロールの指標としてさかんに用いられています。 似たようなメカニズムで長期の血糖値のコントロールを表すものとして、他に、グリコアルブミン(GA、糖化アルブミン)やフルクトサミンがあります。 インスリンは膵臓のβ細胞から分泌されて、血糖値を下げる働きがあります。 インスリンの分泌量が低下すると、T型糖尿病やU型糖尿病になります。 肥満患者はふつうインスリン濃度はいくらか上昇しています。 肝硬変や腎不全のときはインスリン代謝が低下するために、血中インスリンは上昇します。 リウマチ因子(RF)はヒトIgGのFcレセプターに対する自己抗体です。 主にIgM型ですが、IgG型やIgA型もあります。 RFは関節リウマチ、シェーグレン症候群などの自己免疫疾患の患者で、しばしば高くなります。また慢性肝炎、肝硬変、SLEなどの膠原病、中性脂肪が高いときにも陽性になることがあります。 RF陽性の患者では薬疹、ドライアイ、口腔乾燥が多く見られます。 アトピー性皮膚炎でもRFが陽性になっている患者さんがいます。 関節リウマチの患者さんでもRFが陰性のことがあります。 そんなとき、抗ガラクトース欠損IgG抗体、抗シトルリン化ペプチド抗体(抗CCP抗体)、マトリックスメタロプロティナーゼ-3(MMP-3)などが測定されています。 抗CCP抗体は、RFよりも早期より陽性になります。 MMP-3もまた早期診断のマーカーとなり、関節破壊の指標として関節リウマチの予後をみるのに役に立つといわれます。 MMP-3は治療効果の評価にも用いられます。 抗ガラクトース欠損IgG抗体は変形性関節症などでも陽性になることがありますが、関節リウマチの活動性の指標になります。 リンパ球分類は白血病などで調べられますが、アトピー性皮膚炎でもかなりの患者で異常が見られます。 一般的な汗部位に症状が強いアトピー性皮膚炎は、CD19(B cell)が高値、CD4/CD8比がやや高めになっています。 特殊な原因による患者は、この比がむしろ低くなっていることがあります。 AIDS患者さんは、CD4陽性のT細胞が減少し、CD4/CD8比はとても低くなっています。 後半はこちら Copyright © 2003 Endou Allergy clinic All Rights Reserved |