13. アトピー性皮膚炎におけるホルモン異常 目次 1.生理不順、女性ホルモン 2.乳汁分泌・乳頭湿疹 3.副腎皮質ホルモン(コーチゾル)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH) *ホルモンの生合成の経路 *コルチゾルを基準とした各種糖質コルチコイドの相対性活性の比較 4.副腎髄質ホルモン(アドレナリン、ノルアドレナリン) 5.甲状腺ホルモン(T3、T4)、甲状腺刺激ホルモン(TSH) 6.松果体ホルモン(メラトニン) 7.成長ホルモン(GH) 8.抗利尿ホルモン(ADH)(バソプレッシン)、オキシトシン ホルモンにはいろいろなものがあります。 アトピー性皮膚炎では病気そのものや治療に関係して、様々な内分泌異常が認められます。 ホルモンの分泌は、それぞれ微妙な調節機能が働いています。 たとえば、下垂体−副腎皮質系では、視床下部から分泌されるCRH (Corticotropin releasing hormone)は脳下垂体前葉からACTHの分泌を促し、ACTHによって副腎皮質からコーチゾル(副腎皮質ホルモン)が分泌されます。 分泌されたコーチゾルは、視床下部と脳下垂体に働き、それぞれCRHとACTHの分泌を抑制します(フィードバック抑制・阻害)。 視床下部には、内分泌系を調節する中枢がありますが、同時に自律神経系や免疫系を制御している中枢があります。 これらは相互に影響し合っており、たとえば、ストレスのために月経異常が起きるというようなことが生じます。
1. 生理不順、女性ホルモン アトピー素因があると生理不順が多いという説があります。 湿疹が悪化すると月経に異常が現れることが多いことから、アトピー性皮膚炎は女性ホルモンの分泌にも影響を及ぼしている可能性があります。 逆に、生理直前から半ばにかけて、湿疹が悪化する場合があることから、女性ホルモンの分泌の周期は症状に影響していると思われます。 また、アトピー性皮膚炎の生理不順が抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤などの薬剤で誘発されることがあります。 生理不順のタイプとしては、生理の回数が減ったり、生理が来なくなる型と、生理の回数が増えたり(月に2回以上)、生理がなかなか止まらない型があります。 一方、生理不順の治療のために、婦人科で女性ホルモンによる治療の結果、治療中湿疹がよくなったり、治療終了後に一種のリバウンドの形で湿疹が悪化する場合があります。 女性ホルモン剤やピルはステロイドの一種です。 また、プロゲステロン(黄体ホルモン)が上昇すると、湿疹が悪化することがあります。 黄体形成ホルモン(LH)は脳下垂体前葉から分泌されます。 女性では卵巣に働いてエストロゲンを分泌させ、男性では精巣に働いてテストステロンを分泌させます。 LHは視床下部から分泌されるLH-RHによって分泌刺激を受けています。 エストロゲンやテストステロンが上昇すると、ネガティブフィードバック阻害が働き、LHやLH-RHの分泌が抑制されます。 LHは子供は非常に少なくなっていますが、閉経後は高値の状態になります。 男性の老年期も高くなっています。 月経周期で変化し、排卵時にピークとなります。 妊娠中はとても低くなっています。 卵胞刺激ホルモン(FSH)もまた脳下垂体前葉から、LH-RHの刺激を受けて分泌されます。 FSHは、LHと共同で卵巣内の卵の発育を促し、男性では精子の形成に関与します。 閉経後や高齢男性では高くなっています。 FSHの血中濃度は、排卵時をピークとして、月経周期で変化します。 LHやFSH、TSHはいずれも糖蛋白ホルモンで、αとβのサブユニットから成り、αはこれらに共通しています。 ヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)は絨毛組織で産生される糖蛋白で、同じようにαとβのサブユニットから成っています。 妊娠反応はこのHCGの有無を測定しています。 卵胞ホルモンであるエストロゲンはLHとFSHにより分泌を促され、卵胞や黄体細胞や胎盤から分泌されます。 エストロゲンによって卵胞の成熟、子宮内膜の増生が促されます。 エストロゲンは排卵期にピークとなります。 また、妊娠中はとても高くなっていますが、妊娠週数とともに上昇します。 現在、エストロゲンは、30種以上見つかっており、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)、エストロン(E1)などが代表的なものです。 E2が最も強いエストロゲン作用を持っています。 黄体ホルモンであるプロゲステロン(P4)は、女性では黄体細胞や胎盤で合成、分泌されます。 一部副腎皮質でも合成され、男性では精巣でも合成、分泌されています。 プロゲステロンは、卵胞期は低く、排卵後の黄体期に上昇し、黄体期の中期をピークとして減少します。 エストロゲンとプロゲステロンにより子宮内膜は増殖相から分泌相となります。 黄体が退化するとともに子宮内膜を維持できなくなり、子宮内膜から分泌されるプロスタグランディンにより内膜の壊死・脱落、出血がおこります(月経)。 プロゲステロンもまた、妊娠週数が進むにつれて上昇します。 コーチゾルと同じように、エストロゲンとプロゲステロンともにコレステロールを原料に合成され、どちらもステロイド骨格を持っています。 妊娠中、エストロゲンとプロゲステロンが上昇しているために、湿疹がよくなることがあります。 といことは、このときは出産後、急速に悪化します。 経口避妊薬は、黄体ホルモンと卵胞ホルモンの合剤です。 血栓の危険性の他に、湿疹に対しては上記と同じことが起きる可能性があります。 2. 乳汁分泌、乳頭湿疹 アトピー性皮膚炎患者の中で、妊娠中、授乳中ではないのに乳頭から乳汁が分泌していることがあります。 乳汁分泌のために、乳頭に湿疹ができることがあります。 このような患者では、しばしば乳汁分泌ホルモンであるプロラクチン(PRL)が高くなっていることを、以前学会報告したことがあります。(学会報告) 女性では、同時にACTHも上昇していることから、ストレスなどが視床下部に影響を及ぼし、視床下部から分泌されるホルモンでいずれのホルモンも増加していると考えられます。 PRLは脳下垂体前葉から分泌されています。 PRLは、視床下部から分泌されるプロラクチン放出因子(PRF)によって分泌が促され、ドーパミン(プロラクチン抑制因子(PIF))により抑制性に制御されています。 高プロラクチン血症の原因は、脳下垂体にできたプロラクチノーマや薬剤があります。 薬剤としては、抗ドパミン作用のある精神科用薬が多いといわれます。 PRLが高いときは、生理不順や不妊の原因にもなります。 拒食症(神経性食思不振症)の患者ではこのホルモンがしばしば高くなっています。 過度にダイエットをするとこれが上昇して、乳頭に湿疹ができることがあります。 授乳婦でない患者にみられた乳汁分泌です。 この患者さんは幸い乳頭に湿疹はみられません。 3. 副腎皮質ホルモン(コーチゾル)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH) ストレス刺激を受けると、視床下部からCRH(コルチコトロピン放出ホルモン)が分泌されます。 CRHは、視床下部の視索上部の室傍核で産生され、視床下部の底部の正中隆起を経由し、下垂体門脈を通じて下垂体前葉に到達します。 室傍核では、TRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)も産生されています。 CRHは脳下垂体前葉に働いて、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が分泌されます。 ACTHは副腎皮質に働いて、副腎皮質ホルモン(コーチゾル)が放出されます。 ACTHはペプチドホルモンで、39個のアミノ酸から構成されています。 ACTHの分泌は、コーチゾルによってネガティブフィードバック阻害を受けています。 コーチゾルはコレステロールを原料にして合成されます。 コレステロールが低下していると、必要な量が合成されていない可能性があります。 中高生や若い女性の治りにくいアトピー性皮膚炎患者のコレステロール値を測定すると、しばしば正常値よりも低下しています。 現在の医療では、コレステロール値は高くなっているものばかりが問題とされて、低値には見向きもしません。 コレステロールを下げる薬剤は、内服すると原料のコレステロールが減るために、女性ホルモン異常やコーチゾルの低下を招く可能性があります。
エストラジオールは前述の女性ホルモンです。 (ギャノング生理学23版より) C21-ステロイドは、大きく電解質(ミネラル)コルチコイドと糖質コルチコイドに分けられます。 C21-ステロイドはすべて、電解質コルチコイド作用と糖質コルチコイド作用を持っています。 電解質コルチコイドはNa+、K+の排泄に対する作用の強いもの、糖質コルチコイドはグルコースやタンパク質の代謝に対する作用の強いものに相当します。 アルドステロンは、電解質コルチコイドです。 このコーチゾルを原型として、糖質コルチコイド受容体に対する親和性を上昇させ、クロールなどのハロゲンを付加して分解されにくくして医療用に合成されたのが、いわゆるステロイドです。 ステロイドはコーチゾルの有している作用と副作用をもっていますが、いずれももとのコーチゾルより強くなっています。
ステロイド(副腎皮質ホルモン剤)は最初、注射剤や内服剤として登場しました。 この薬剤を全身投与するとどうしても全身性の副作用が避けられないということで、皮膚疾患にために登場したのがステロイド外用剤です。 アトピー性皮膚炎に対するステロイド外用剤の下垂体・副腎皮質系への影響については、あちこちの学会で何度も報告しています。(学会報告) コーチゾルはストレスホルモンとして、以下のような作用を持っています。 作用はそれ自体副作用になります。 すなわち、血糖値を上昇させる作用があるということは、ステロイドを内服すると、糖尿病が誘発される可能性があるということです。 ステロイドには、全身に対する副作用の他に、皮膚に外用することで起こる局所の副作用(たとえば多毛、皮膚が薄くなる、毛のう炎・にきび、色素沈着、接触皮膚炎が起きやすくなる、ステロイド皮膚炎(顔におこる依存症状)、白内障など)があります。 ステロイドの問題点で最も大きなものは、 正常免疫まで抑制されること 湿疹をよくするだけ・悪循環を軽減するだけの対症療法であること、 原因治療になっていないこと、 です。
血糖値を上昇させるということは、使っていると糖尿病になりやすいということです。 強いステロイド外用剤のために皮膚はちりめん状に薄くなり、毛細血管の拡張が認められます。 ACTHやコーチゾルの分泌には、日内リズム(変動)があります。 明け方近くになると、分泌量が最大になります。 その後、徐々に減少して、夜寝る前ころに最も少なくなります。 十分睡眠をとっていると分泌が増加しますが、かゆみのために寝られないと、正常に分泌されていないことがあります。 毎日深夜まで起きていたり、夜勤を不規則に繰り返していますと、日内リズムに変調をきたすことがあります。 湿疹があり、それほど大量にステロイドを用いていなければ、血中のACTHやコーチゾルは上昇しています。 うつ病や拒食症の患者でも上昇していることがあります。 ステロイド外用剤を大量に外用しても、糖尿病や高血圧などの全身的な副作用を起こすことは少ないと考えられます。 それでも、ステロイドが皮膚から吸収されると、視床下部のCRH、脳下垂体のACTH、副腎皮質のコーチゾルの分泌が抑制されることがあります。 ステロイドを長く使っていると、これらのホルモン臓器の働きが低下し、たとえば副腎が抑制され、副腎の萎縮を招くことがあります。 外用量を減らすか、中止すれば元に戻ると考えられますが、いったん萎縮したものは元に戻らないことがあります。 ステロイド外用剤は、子供の方が影響を受けやすく、外用剤によって成長障害が起こる可能性もあります。 ステロイドは、点滴や内服の方が効果が強く、それだけ副作用も起こりやすくなります。 アレルギー性鼻炎でも、しばしばセレスタミンなどのステロイドの内服が安易に処方されています。 それの内服を止めてから湿疹が現れたとか、ひどくなったという患者は少なくありません。
ステロイドを使っていると、正常免疫も抑制されるために、ステロイドしか効かない状態になります。 また、ステロイドの全身投与は、いろんなものに対して接触皮膚炎を起こしやすい状態をつくります。 つまり、外用剤や化粧品がどれも合わないといった状態です。 外用剤の接触皮膚炎は、ステロイドの外用剤でも誘発されることがあります。 気管支喘息に対して、ステロイドを内服あるいは点滴していると湿疹の調子はよいが、喘息がよくなり、そんな治療がなくなると途端に湿疹が悪くなる患者がいます。 フルタイド・アドエアやパルミコート・シムビコートなどのステロイドの吸入剤は、気管や気管支からステロイドが吸収され、首、顔面、体幹の湿疹にも効果があります。 吸入を中止すると、これらの湿疹はしばしば悪化します。 ステロイドの吸入によって全身性の副作用が生じている可能性がありますが、気管支喘息は生命に危険を及ぼすこともあり、安易に中止しにくい面があります。 それでも、風邪などの感染症がきっかけでひどくなった咳に対しては、咳だけで呼吸困難が伴っていないのなら、ステロイド吸入は好ましくないと考えられます。 なお、ACTHを分泌する下垂体腺腫でも、ACTHやコーチゾルは上昇しています。 コーチゾルを分泌する副腎腫瘍では、コーチゾルは上昇していますが、ACTHは低下しています。 以前より、うつ病患者などで、視床下部−下垂体−副腎皮質(HPA)系に異常が見られ、CRFやコーチゾルが増加していると言われます。 一方、強いストレスにさらされたPTSD患者では、コーチゾルによるnegative feedbackが亢進しているために、コーチゾルはむしろ低下しています。 アトピー性皮膚炎患者もまた軽いうつ状態になりやすく、CRFに対するACTHやコーチゾル分泌の反応性が低下しているという報告があります。 視床下部−下垂体−副腎皮質(HPA)系の変化は、アトピー性皮膚炎患者の心理的傾向や性格にも影響を及ぼします。 私は以前アトピー性皮膚炎患者さんを対象にして、質問紙法による性格テスト(YG性格検査)を行ったことがあります(論文報告)。 そこでの報告では、コーチゾルが低くなっていると、男性患者では回帰的傾向(気分が変わりやすく、感情的)が強くなっていました。 また、女性患者では、抑うつ的(悲観的で無気力)で劣等感(優柔不断で自信欠如)が強くなるというような情緒の不安定性が見られました。 (参照 アトピー性皮膚炎と下垂体・副腎皮質機能について(3例の症例報告)) 4.副腎髄質ホルモン(アドレナリン、ノルアドレナリン) 乳幼児の悪性腫瘍の5%程度を占める神経芽細胞腫の検査(マススクリーニング)として、生後6カ月の乳児を対象に尿中のバニリルマンデル酸(VMA)の測定が行われています。 神経芽細胞腫は副腎髄質などから発生します。 VMAはカテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン)の最終代謝産物です。 重症のアトピー性皮膚炎患者は、副腎髄質から分泌されるホルモンも上昇しているために、VMAが高い数値になっている場合があり、神経芽細胞腫と間違われることがあります。 VMAは、ストレスなどで交感神経が亢進していると、増加していることがあります。 カテコールアミンは、ドーパミン(DA)、ノルアドレナリン(NA)、アドレナリン(A)の総称です。 チロシンからドーパに、ドーパからドーパミンが合成されます。 DAは中枢神経系の伝導物質として働き、その他腎臓、循環器系、消化器系でもいろんな作用を有しています。 アドレナリンは、副腎髄質から副腎髄質ホルモンとして分泌されていますが、視床下部や脊髄でも神経接合部のシナプス伝達物質として働いています。 NAは、交感神経節後線維終末や大脳皮質、視床下部、小脳、脊髄などでシナプス伝達物質として働いています。 NAとAは、交感神経系を刺激するものとしてよく似た作用をもっています。 すなわち、NAとAには多少の差違がありますが、心臓の拍出量増加、心拍増加、血圧上昇、気管支拡張、胃腸の運動抑制、排尿筋の弛緩、立毛筋の収縮、手掌の発汗、肝臓でのグリコーゲンの分解と血糖値の上昇・熱産生の増加、脂肪の分解、レニンの分泌、メラトニンの合成と分泌がみられます。 なお血中のNAやAを測定してもばらつきが大きく、臨床的にもあまり意味がないといわれています。 5.甲状腺ホルモン(T3、T4)、甲状腺刺激ホルモン(TSH) 甲状腺刺激ホルモン(TSH)は脳下垂体前葉から分泌され、甲状腺に働いて、甲状腺ホルモン(T3、T4)の分泌を促します。 アトピー性皮膚炎患者は重症化すると、TSHがやや上昇していることがあります。 甲状腺ホルモンは、甲状腺ろ胞から分泌され、主にサイロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)です。 T4よりもT3の方が、甲状腺ホルモンとしての活性が強い。 甲状腺ホルモンは分泌されるまで、サイログロブリン(Tg)というタンパク質に結合しています。 分泌されるときに加水分解されて、遊離のT3(FT3)、遊離のT4(FT4)として血液中に放出されます。 血液中では、甲状腺ホルモンの99%以上は、サイロキシン結合グロブリン(TBG)、プレアルブミン、アルブミンに結合しています。 ごく微量の甲状腺ホルモンが遊離型として存在し、これらが甲状腺ホルモンの機能に関与しています。 血液検査するときは、普通まず最初にFT3かFT4とTSHが測定されます。 甲状腺ホルモンには、以下のような働きがあります。 1. 酸素消費を刺激する作用(熱量産生作用)。 これによって脂肪代謝や炭水化物の吸収が増大します。 ヒトの成長や成熟に重要です。 2. 肝臓内でカロチンからビタミンAへの変化に関与しています。 甲状腺機能低下症では体内にカロチンが蓄積して、肌が黄色くなります。 3. 皮膚組織では多糖類、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸がタンパク質と結合して複合体を形成しています。 低下症ではこれらの複合体が増加し、水分が貯留するために皮膚の腫脹が起こります(粘液水腫)。 4. 甲状腺ホルモンが増えると、熱の放散が高まり、心臓の心拍出量が増え、心拍数が増えます。 5. 甲状腺ホルモンは脳の発達にも必要です。 先天性の低下症(クレチン病)では知的発達の遅れがみられます。 首がすわるのが遅い赤ちゃんは、甲状腺ホルモンを調べた方がよいでしょう。 6. 甲状腺ホルモンはアドレナリンやノルアドレナリンなどの作用と似たところがあります。 降圧剤のβ−ブロッカーは甲状腺ホルモンの作用を低下させます。 7. 甲状腺ホルモンが低下すると、毛髪はまばらになり、皮膚はかさかさになり、寒がりになります。 しわがれ声になり、話す速度も遅くなります。 精神活動や記憶力が衰えます。 8. 甲状腺ホルモンが多くなると、神経が過敏になり、体重が減少したり過食になり、指先が震えるようになります。 基礎代謝が亢進し、汗が大量に出ます。 慢性化すると、眼球が突出します。 TSHが非常に高くなり、T3、T4が低くなった病態は甲状腺機能低下症に相当します。 橋本病とも呼ばれています。 橋本病は、しばしば関節リウマチなどの他の自己免疫疾患が合併します。 また、甲状腺機能低下症のときは皮膚が乾燥し、湿疹ができやすくなります。 逆に、T3、T4が高値となり、脳下垂体前葉にネガティブフィードバック阻害が働いて、TSHが非常に低くなった状態が、甲状腺機能亢進症です。 バセドウ病、グレープス病とも呼ばれています。 男性では、カリウムが低下し、周期性四肢麻痺があらわれることがあります。 橋本病とバセドウ病ともに臓器特異的自己免疫異常で、しばしば甲状腺に関係したタンパク質に対して抗体をつくります。 抗サイログロブリン抗体(以前はサイロイドテストと呼ばれたもの)、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(以前はマイクロゾームテストと呼ばれたもの)、甲状腺刺激ホルモンレセプター抗体(TRAb)などが陽性になります。 特に、TRAbは、ホルモンレセプターに対して、TSHに似た作用を示したり、TSHの作用を阻害する作用を示したりして、抗甲状腺薬が効かない患者さんで高くなっています。 サイログロブリン(Tg)は、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)でも上昇しますが、甲状腺ガンでも高くなります。 サイロキシン結合グロブリン(TBG)は、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)でも上昇しますが、妊娠やピルを飲んでいても上昇します。 BUN、ChE、ALPなどの検査は、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)でも上昇することがあり、甲状腺機能低下症では低下することがあります。 治療として、バセドウ病に対しては、メルカゾールやチウラジールの内服です。 これらが効果ないとき、薬疹や薬剤性肝障害で使えないときは、放射線治療や手術になりますが、このときはいずれそのうちにしばしば甲状腺低下症に移行します。 橋本病については、甲状腺ホルモンを補充することで対応します。 チラージンSを内服します。 甲状腺ホルモンはヨードを含んでおり、イソジンを使いすぎると影響を受ける可能性があります。 6.松果体ホルモン(メラトニン) 松果体は脳内の第三脳室の屋根にあります。 松果体から分泌されるホルモンは、N-アセチル-5-メトキシトリブタミンというインドールの一種です。 このホルモンは、オタマジャクシのメラノフォアに作用して、皮膚を白くする作用があり、メラトニンと呼ばれています。 臨床的には、血液内のメラトニンを測定することはできません。 メラトニンの分泌は明るいところでは低下し、暗いところで多くなります。 メラトニンの日内リズムは交感神経によって調節されています。 夜眠れないアトピー性皮膚炎患者は、交感神経系の働きが低下しているために、メラトニンの分泌が低下している可能性があります。 7.成長ホルモン(GH) GHは、肝臓その他の組織からソマトメジンの分泌を促し、身体の成長を促進します。 GHの分泌は、夜間規則正しい睡眠状態になると、スパイク状に起こり、また運動によって増大します。 GHは、視床下部から分泌されるGH-RHで分泌が促され、ソマトスタチンによって抑制的に制御されています。 コーチゾル、すなわちステロイド外用剤は、GHの分泌を抑制します。 アトピー性皮膚炎患者は、成長期に夜間の睡眠が妨げられると、GHが十分分泌されていないために、成長に問題が起こる可能性があります。 ステロイド外用剤を使いすぎたり、ステロイドを内服することで同じ問題が起こることも考えられます。 アトピー性皮膚炎の子供は、食事制限していることもあり、しばしば身長が低く、体重が少ないようです。 背が高い成人型アトピー性皮膚炎患者は、成長してから悪化した例が多いようです。 喘息患児にはむしろ肥満児が多いと言われています。 GHは睡眠中スパイク状に分泌されるために測定しにくく、GHで分泌を促されるインスリン様成長因子−T(ソマトメジンC)が測定されます。 身長の増加の状態は、肝機能検査の中のアルカリフォスファターゼ(ALP)である程度推測することができます。 身長が伸びているときは、ALPは高くなっていますが、身長が伸びなくなるとALPは正常域になります。 12歳の子供でALPが正常範囲にあるときは、何らかの理由でGHが分泌されていないと考えられます。 8.抗利尿ホルモン(ADH)(バソプレッシン)、オキシトシン 抗利尿ホルモン(ADH)(バソプレッシン)は、腎臓に働いて腎尿細管での水分の再吸収を促進させることで血圧を上昇させます。 このホルモンは、9個のアミノ酸から形成されるペプチドホルモンです。 視床下部と視索上核で合成され、軸索輸送によって下垂体後葉に運ばれ、分泌されます 抗利尿ホルモン(ADH)は, 体液調節機構の中で, レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系とともに重要な働きを担っています。 抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が多くなると、患者は多量に水分を取るために一種の水中毒になります。 手術などの出血で血液量が減少すると、抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が増え、水分貯留による浮腫や低ナトリウム血症が起きることがあります。 抗利尿ホルモン(ADH)の分泌の増加は、細胞外液量・血液量が減少したとき、血漿の浸透圧が増加したとき、痛みやストレス、身体の運動、モルヒネやニコチンなどの薬剤によって起こります。 様々な原因で抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が増加した病態を、ADH分泌異常症候群(Syndrome of inappropriate hypersecretion of antidiuretic hormone)(SIADH)と呼ばれています。 アルコールは抗利尿ホルモン(ADH)の分泌を減らすといわれます。 抗利尿ホルモン(ADH)が十分分泌されなくなると、尿崩症がみられます。 尿崩症の症状は、希薄な尿を多量に排泄し(多尿)、水分を失うためにひどくのどが渇き、多量の水分を摂取します(多飲)。 喘息発作重積状態時にADHの上昇やSIADH例が認められたという報告があります。 アトピー性皮膚炎では、皮疹増悪時に尿量減少や低アルブミン血症を伴う著明な下腿浮腫がみられたという報告があります。 このとき、抗利尿ホルモン(ADH), レニン, アンギオテンシン1, アルドステロンの高値がみられています。 私自身も、20代からの高血圧を伴ったアトピー性皮膚炎を何人か経験しています。 オキシトシンは、視床下部と視索上核で合成され、下垂体後葉や大脳などに働いて、様々な作用の調節を行っています。 オキシトシンは、平滑筋の収縮に関与し、分娩時の子宮収縮や乳腺の筋線維を収縮させて乳汁分泌を促すなどの働きを持っています。 近年、これが、特に社会行動を調節する神経伝達物質として注目されるようになりました。 (追記) アレルギー患者さんでは、乳幼児期に熱性けいれんがしばしばみられます。 子供のアトピー性皮膚炎には、しばしば自閉症、学習障害、アスペルガー症候群、ADHDなどが合併しています。 大人になると、アレルギー患者にうつ病やうつ状態が見られることがあります。 これらのことが起きた原因の一つとして、脳の中でアレルギー反応が起きた結果が考えられます。 そんな脳内のアレルギー反応の結果として、脳の中の様々な神経伝達物質やホルモンの異常が誘発されたと思われます。 Copyright © 2003 Endou Allergy clinic All Rights Reserved |