17. アトピー性皮膚炎の民間療法

Endou Allergy Clinic                   


    目次
1.アトピー性皮膚炎における民間療法とは何か
2.調査した対象と方法について
3.アンケート調査の結果
    *温熱療法
4.民間療法についての考察
    *アトピー性皮膚炎治療効果の判定の難しさについて


 アトピー性皮膚炎の治療を考えるとき、医療に関係しないもの、すなわち民間療法について触れないわけにはいかないかもしれません。

 実際、書店を訪れると、「アトピー性皮膚炎に・・・が効いた」といった題目で実に様々な治療法がならんでいます。
 それらの多くは全く医学的根拠がなく、患者の弱みにつけ込んだ許し難いものが多いようです。
 湿疹の原因をすべてステロイド外用剤のせいにして、眼がとび出すくらいのお金をとって効果のないものを売りつけ、患者が生活できないくらいひどい状態に陥らせるのは決して許されることではありません。

 というものの、アトピー性皮膚炎は治りにくく、「医者にかかってもステロイド外用剤やかゆみ止めをくれるだけ」なら、何か効果があるものはないかという患者や家族の気持ちが分からないわけでもありません。
 多少のお金を使っても、効果がなくてもともと、副作用がなくて少しでも良いことがあればというのは、患者周囲の心理としては当然のことと思われます。
 塗り薬以外に何かやっていると安心感を覚え、少しずつ良くなっていくような気がするというのもいいことかもしれません。

 効果がないもので治療効果があることをプラセボ効果といいます。
 心理的要因が悪化に重大な影響を及ぼすアトピー性皮膚炎では、プラセボ効果も立派な治療法と考えられます。

 私自身、すべての民間療法がまやかしで単なる金儲けでしかないとは思っていません。
 医療に多少とも限界を感じるだけに、医学的根拠のない民間療法であっても、それぞれの患者に合ったものを選べば、幾ばくなりとも治療の手助けとなると考えています。
 そのためには、医師と患者の双方に、適当な民間療法を選択する根拠が必要となります。

 
以前、患者さんに、それまでやってきた民間療法について、アンケート調査を行ったことがあります。

 ここではそのデータに基づいて、アトピー性皮膚炎の民間療法の上手な選び方を考えてみたいと思います。

1.アトピー性皮膚炎における民間療法とは何か

 
アトピー性皮膚炎に対して医者がやっている治療がすべて医療かというと、決してそうではありません。
 医者が自分勝手な考え方を患者に押しつけているだけ、の場合も多いのです。
 もしかすると、私自身もそんな一人なのかもしれません。

 それでは、医学的根拠に基づいた治療が医療かといえば、それも違っているかもしれません。
 その医学的根拠には、多数決で決められたようなかなりの曖昧さが含まれているからです。
 同じものであっても、医者が行えば医療であり、それ以外のものが行えば民間療法というのもおかしな話です。

 従って、どこまでが医療でどこまでが民間療法なのか、厳密に区別するのは非常に困難であると言えます。

 しかし、医療と民間療法を区別する何らかの基準は必要です。

 議論の多いところかもしれませんが、ここでは、簡単に、民間療法を「主として民間で行われる健康保険外の治療法」と定義します。

 たとえば、漢方薬を健康保険を使って医者からもらうと医療ですが、薬局で買えば民間療法ということになります。
 同じように、食事療法を医者に指示されると医療の一部ですが、患者が勝手にやると民間療法に相当します。


2.調査した対象と方法について

 
アンケートは、1995年11月に大阪府立羽曳野病院皮膚科を受診したアトピー性皮膚炎患者で、3年以上継続して通院している766名(男358名、女408名、平均年齢 20.2歳)を選びました。
 調査した患者の内訳は、10歳未満150名、10〜19歳176名、20〜29歳313名、30歳以上127名でした。

 患者が行った民間療法の種類については、一般にどのようなものが行われているのか前もって調べ、比較的多く行われていると思われるもの75項目を選びました。
 そこに含まれない項目はそれぞれの患者ごとに別に書き加えました。

 調査方法は、主治医が直接患者または家族に質問する形式で行いました。

 また、それぞれの民間療法の評価は患者自身が判定しました。

 判定の基準は、1. よくなった、2. 変わらない、3. 悪くなった、4. わからない、の4項目としています。

 表1.患者重症度と民間療法項目数
重症度   患者数  民間療法 
未施行
患者数
 民間療法 
平均項目
   男  女  全体
 軽症  112  165  277  38  4.3
 中等症  149  186  335  21  6.7
 重症  97  57  154  6  8.3
 全体  358  408  766名  65 (8.5%)  6.1

3.アンケート調査の結果

 
これまで民間療法に手を出したことがないと回答した患者は、わずか65名(8.5%)(男33名、女32名)に過ぎませんでした。
 重症患者ではほとんどの人が何らかの民間療法を経験していました(表1)。

 患者が記入した項目を含めた民間療法の項目数は、患者全体で平均 6.1項目でした。

 男女で比較すると、男性 5.7項目、女性 6.5項目であり、女性の方が多くなっていました。

 また、重症患者ほど多数の民間療法を試みていました。
 なお、最も多くの民間療法を行っていた患者は、10歳の女児で46項目でした。

 これらの民間療法は当科を定期的に受診しながら行われていましたが、多くは調査時点まで主治医がその事実を把握していませんでした。

 表2は施行数の多いもの(50以上)を選んで男女で分けてまとめたものです。
 治療に要する費用には多少ばらつきがあり、患者からの情報に従って一つの目安として示しています。


表2.アトピー性皮膚炎の民間療法の評価(施行数50以上、男女で比較)
分類    民間療法の種類   施行数       
  良化   悪化  施行数 
      
  良化   悪化  施行数 
 費用
 内服  1   漢方  190  23.1%  12.1%  91名  19.2% 21.2%  99名  ***
   2  ドクダミ茶  298 13.7    2.4   124  6.3    4.6   174  
   3   ルイボスティー  134 26.9    0    52  20.7   2.4    82  **
   4  ヨーグルトキノコ  164 9.6    15.1    73   7.7   7.7    91  
   5  クロレラ  160 9.7    6.9    72  12.5   9.1    88  ***
   6 アロエ   107 17.3    13.5    52 10.9   21.8    55  
   7 プルーン   89 2.6    7.9    38  11.8    5.9     51  ***
   8 野菜スープ・ジュース   81 36.4    6.1    33  8.3   12.5    48  **
   9 ビタミンC   61  38.5    0    26  25.7    0     35  
   10 カルシウム   73 11.1    2.8   36  16.2    2.7     37  
   11 食事療法   100  55.3     0    47 60.4   1.9   53  ***
   12 玄米食   56  34.6   7.7    26  20.0   13.3    30  **
   13 無農薬米・野菜  71 53.8     0    26  28.9   0     45  ***
   14 アルカリイオン水  207  15.8    3.2   95  25.9   3.6    112  ***
 入浴剤  15 酸性水  139   25.8    28.8    64  37.3   6.7    75  ***
   16 入浴剤(漢方)   56   21.4    10.7    28  35.7   10.7    28  ***
   17  入浴剤(ヨモギ)  113   21.4    19.6    56   22.8   14.0    57  **
   18 入浴剤(ニンニク)   175   20.6    19.1   68   25.2   15.0    107  **
   19 入浴剤(米ぬか)   59   21.7    17.4    23  25.0   19.4    36  **
   20  入浴剤(ビタミンC)  54   6.1     0     33  33.3   0    21  
   21  入浴剤(天然塩)  142   37.5   14.3    64  48.7   19.2   78  **
 外用剤他  22  馬油  159   25.8    28.8    66  26.1   30.1    93  **
   23 スクワラン   54   40.0    20.0    15  40.0   23.1   39  **
   24 シソの葉   57   23.8    9.5     21  16.7   13.9   36  **
   25 化粧品   75   43.8   18.8    16  49.2   15.3    59  
   26 シャンプー・セッケン   148   50.6    10.4    77 55.0    7.0    71  **
   27 オードレマン   66   38.1    0      21  33.3    20.0   45  **
 環境改善  28 フローリング  130  58.5   1.9     53  57.1    1.3    77  ****
   29 防ダニ関係  113   56.6   9.4     53  41.7    0    60  ***
   30 空気清浄機  119   35.4    0     65  33.3    0    54  ***
その他   31 温泉に行く  117   60.0  14.0     50 64.2   9.0   67  ****
   32 海水浴  148   71.6   12.2    74 71.6    9.5   74  ***
   33 針灸  51   26.7    0     15  50.0    8.3   36  ***
(注)費用:* 2000円/月以内、** 10000円/月以内、*** 50000円/月以内、**** 50000円/月以上

 良化とされたものは、その治療だけですっかりよくなったということではなく、多くは他の治療を併用しながら試みた結果、プラスの効果があったということを表しています。
 中にはそれまでの治療を止めてよくなったという例も含まれています。
 完全に中止してしまうと悪化しただけということも少なくないようです。

 この表にないものとしては、他に、
 キチンキトサン、プロポリス、ロイヤルゼリー、マコモ、プロテイン、レイシ、モロヘイア、シジュウム、超酸化水、クマササの水、パイウォーター、深層水、ウーロン茶の入浴剤、木酢液・竹酢液、備長炭の入浴剤、イオウ浴、ツキミソウ油、エイコサペタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、γ-リノレン酸、ベータカロチン、アガリスク、青汁、椿油、ヘチマ水、ヨモギローション、ビワの葉、シソの葉、気功、宗教、ライマーなどの装身具、スパイラルテープ、電気治療、カイロプラクティック・整体、サウナ、イーストコネクション、断食、温泉購入、オゾン発生器
などがありました。

 深層水については、以前当科で短期(2週間)の効果を検討しましたが、アトピー性皮膚炎に対して医学的な有用性はありませんでした。

 最も施行数が多かったのは、ドクダミ茶で298名でした。
 続いて多い順に、アルカリイオン水207名、漢方薬190名、ニンニク入浴剤175名でした。
 クロレラ(160名)、馬油(159名)、ヨーグルトキノコ(164名)、海水浴(148名)、シャンプー・石鹸(148名)、天然塩(134名)、酸性水(139名)、ルイボスティー(134名)、フローリング(130名)なども比較的多くなっていました。

 男女で比較すると、外用剤全般、針灸、無農薬などは、女性で多く行われていました。
 女性は外用剤の施行数が男性に比べて多く、普段から化粧品になじみがあり、通信販売で購入したり、薬局・化粧品店などで奨められる機会も多いようです。


 患者自身が評価した有効率で最も高かったのは、海水浴であり、71.6%(悪化率11.1%)でした。
 海水浴について、15歳以下(施行数73名)で有効72.6%、悪化9.6%であり、成人と差はありませんでした。
 また、男性で有効71.6%、悪化12.2%、女性でそれぞれ71.6%、9.5%であり、男女の間でも全く差がありませんでした。
 ただ海水浴がよくなかったという患者も10人に一人以上はいます。
 紫外線がよくない患者はやらない方がよいと思われます。
 21世紀になってから、海水浴でクラゲに刺されたという患者が増えています。
 以前は、和歌山ではクラゲはお盆を過ぎてから多くなるということでしたが、近年は、7月ころからも大小のクラゲによる被害が見られます。



 その他有効率の高いものとしては、「温泉に行く」62.4%、食事療法58.0%、フローリング57.7%、シャンプー・セッケン52.7%などでした。
 入浴剤、針灸などの四肢の循環改善に関係すると考えられるものは、手足が冷たいことが多い女性で有効率が高くなっていました。

 外食が多く、食生活が貧弱な男性では、玄米食、野菜スープ・ジュース、ビタミンC、無農薬などの栄養的な改善に関係したものが有効でした。

 一方、ドクダミの有効率9.4%に代表されるように、漢方薬をふくめて、内服剤に分類されるものには有効性が高いものは見あたりませんでした。
 ほとんどがせいぜい20%前後であり、アトピー性皮膚炎に対してはプラセボ効果以上のものを期待できないかもしれません。
 漢方薬は、しばしばそれまでの治療を中断してしまうために悪化の割合が多くなっています。

 ここでは示されていませんが、最近は様々な栄養補助食品も多く利用されています。

 γ-リノレン酸などの脂肪酸、トリプトファンなどのアミノ酸、アガリスクなどのキノコ製品などの有用性も医学的根拠に乏しく、一方で製造過程で混入する可能性がある不純物による副作用も心配です。

 「サプリメントは安全か」という問題に一石を投げかけたものに、昭和電工によるトリプトファン事件がある。
昭和電工は、1988〜1989年にかけて必須アミノ酸のL-トリプトファンを米国で販売したところ、それに混入していた不純物で大規模な薬害を起こした。
1500件以上の被害と、36名の死者が発生した。
会社は不純物の存在を知りながら、そのまま製品を出荷したという。
昭和電工は阿賀野川にメチル水銀を垂れ流して新潟水俣病を起こしたことに、少しも懲りていなかったということだ。
同じことは、中国製/日本製の後発医薬品でも多数起きているが、会社側や厚生労働省とも知らんぷりしているのは、水俣病や新潟水俣病のときの対応と全く変わらない。
「税金を払わないやつは安物、まがい物で充分だ

 
そんな中にあって、食事療法、無農薬野菜・米、ビタミンCなどは比較的効果が高くなっています。




 食事療法には、アレルギーがある食物を制限している場合の他に、患者のアレルギーとは無関係に肉、脂、砂糖、パン、豆、添加物、インスタント食品などを制限したり、外食を控えたりと、実にいろいろなものがあります。

 口からはいるものが人の体を作るから、それがよくないと湿疹ができるという考え方があります。
 確かに、何人かの患者には当たっているかもしれません。
 しかし、食事療法はあまりやりすぎるとかえってストレスになり、また栄養学的に問題となる場合があります。
 「添加物だけでも年間何キログラムも食べている」現状は決して好ましいことではありませんが、それを減らすだけでも相当の苦労を要します。

 食事療法は、負担の少ないものからまず2、3週間試して、良い結果が得られなければ普通の食事に戻した方がよいと考えています。

 入浴剤は、水に含まれる塩素などの有害成分を除去する効果があります。
 それを入れると患者は湯に長く入るために表面の細菌が洗浄され、角層に十分な水分が補給されます。
 入浴すると、四肢の血液循環が改善される効果もあります。

 塩素については、一番湯は比較的多く検出されますが、誰か他の人が入ったあとのお湯にはほとんど残っていないとも言われています。

 都市の水道水は有害な成分が含まれているという意見があり、少なくとも浄水器のようなもので水道水を浄化するのはアレルギー患者には良いことかもしれません。
 備長炭をお風呂に入れるのもいいかもしれません。

 ヨモギ、ニンニク、米糠の入浴剤の悪化率は16〜18%になっており、自分には向かない入浴剤があることを心に留めておく必要があります。


 たとえば、ヨモギの入浴剤を使用した患者について、同じキク科のブタクサに対するRAST の陽性と入浴剤の効果との関係を比較検討しますと、悪化した患者はキク科にアレルギーがある割合がいくらか高くなっていました。
 米糠こめぬかの入浴剤はイネ科のアレルギーがある患者は使用しない方が賢明です。
 同様に、植物にアレルギーがあれば、ニンニクや漢方の入浴剤は危険かもしれません。

 天然塩は入浴剤の中では有効な割合が高い方ですが、一方で、悪化率16.9%もかなり高くなっています。
 湯船に入れて使うのではなく、濃い塩水を皮疹部に直接外用するためにそれが逆に刺激になっていることが原因と思われます。
 いきなり高い濃度のものを使わず、薄めのものから少しずつ増やして、自分に合ったものを研究して下さい。

 市販の外用剤の効果も、結果を見る限りそれほど捨てたものではないようです。
 外用剤の合わない患者は、それを変更するとよくなる可能性があることを示しています。

 しかし、民間療法の中で最も悪化率が高かったのも外用剤になっています。
 馬油29.6%、スクワラン22.2%、化粧品16.1%であり、これら外用剤の悪化率は、男女でほとんど差がなく、ほかのほとんどの外用剤も悪化率が10%を越えていました。

 このことは、外用剤が合わないために変更しても、なおも変更した外用剤で接触皮膚炎が生じている可能性を示唆しています。

 「温泉にいく」が他の入浴剤、温泉療法よりも有効であったこと、塩水よりも海水浴の方が有効であったことは、まさに患者の環境が悪化要因であり、それを離れることが症状の改善につながることをを示しています。
 フローリングや防ダニ関係の有効性が高いことも環境に問題があることを示しています。

 
民間療法の費用をみると、「温泉購入」のような年間数百万を要求されるものは例外としても、指示通りすれば相当高い金額の必要なものが多くありました。

 特に、内服剤にいわゆる「きかないくせに高い」ものが多く認められました。

 ただ、ある患者の弁を借りるならば、「有効ならばある程度の費用は仕方がない、医者に行っても、年間交通費を含めてゆうに十万以上はかかる」、という意見もあります。
 患者にすれば、ステロイドを除けば、アトピー性皮膚炎の治療レベルは医療も民間療法もそれほどかわらないということかもしれません。


 温熱療法
 
 温熱療法は、以前より皮膚のリンパ腫などに用いられています。
 温熱がリンパ球の働きを抑えることが知られています。
 また、温熱が
Heat shock protein(HSP 熱ショックタンパク質)、いわゆる分子シャペロンを誘導し、このHSPが免疫に影響を及ぼしているといわれています。

 この免疫を抑える効果に、黄色ブドウ球菌や真菌(カビ)などの病原微生物を減らす効果が加わります。

 この温熱療法は、ステロイド外用剤を用いない治療として、アトピー性皮膚炎の湿疹に応用して、結構よい結果が得られています。

 そのやり方としては、繰り返し、長時間
使い捨てのカイロ衣類の上に貼る方法が簡単でよいようです。
 ただ、晩秋〜冬場の寒い時期にしかできません。
 暖まると、汗も出て、皮膚がしっとりします。

 湿疹のタイプとしては苔癬化したもの、痒疹型、貨幣状型によいようです。
 ある程度固定しやすい部位、たとえば手首背側、足首、下腿、臀部、腰回りなどに向いています。
 殺菌作用もあるために、引っ掻いてびらんの強いところに特に効果があります。


 低温熱傷
に十分注意し、必ず昼間行ったほうが無難です。
 使うカイロは、最高温度があまり高すぎないものから始めて下さい。
 背中などの密着するところに夜間貼ると、熱傷が起きやすいようです。




温熱療法です。
使い捨てのカイロを、綿手袋をはめて、手背の治りにくい湿疹の上に昼間貼っておきますと、少しずつよくなります。
暖めるとかゆくなると思い込んでいる患者さんがおられますが、それは入浴などで全身が暖められたときの話です。



アトピー性皮膚炎患者さん足首のひどい湿疹です。
びらんもあり、温熱療法にぴったりの発疹です。
昼間に、靴下の上にホカホカカイロをはります。
低温やけどには要注意です。

4.民間療法についての考察

 患者が民間療法を行う理由としては、

@.医療に対する不信、特にステロイドに対する不信・不安感。
A.治癒しないため、さらに有効な治療を求めて。
B.マスコミ等の無責任な情報の氾濫。

 などが考えられます。

 特に@の現代医療に対する不信感は抜き差しならないものがあります。
 まさに医療における説明責任、インフォームドコンセントの重要性も示しています。

 医者はというと、しばしばそれに近い治療をやりながら、民間療法については全く一方的に否定している場合も多いようです。
 医師の立場から言えば、確かに民間療法はすべて有効でないと否定するのは簡単なことです。
 必ずしもそうでない面もあり、患者指導の立場からも民間療法の有用性を客観的に評価すべき時期に至っていると考えられます。

 一方で、主治医に隠れてまでも、かなり多くの患者が民間療法に手を出しています。

 患者が、もし現在の治療に加えて何か民間療法を試してみたいと考えているなら、主治医と相談して適当な療法を選ぶのがよいと思われます。
 しかし、3分診療が主流の時代に医者にあれこれ言う患者は煙たがられる傾向があります。

 アトピー性皮膚炎に対する民間療法のメカニズムについては、ほとんど明らかではありません。
 特に内服するタイプは、医学的にはっきりしていないと言うほかありません。

 たとえば、ルイボスティーは活性酸素を分解するSOD(Superoxide dismutase)効果を有するとされています。
 活性酸素が人の体によくないのは確かですが、SOD作用を持つものは自然界に広く分布し、野菜など多数の食品に含まれています。
 普通の食事をしていれば相当量が摂取されていると考えられます。

 N-アセチルグルコサミンを主成分とするキチンキトサンは人工皮膚の原料となっています。
 これのアレルギーに対する医学的有効性は証明されていません。
 むしろ、余ったカニ殻をなんとか有効利用できないか、という商業的発想から生まれたものです。

 シジュウムのように医師の名前を出して、いかにも効果があるように見せかけているものもたくさんあります。

 今回の調査を分析すると、アトピー性皮膚炎に有効な民間療法として、次のような項目があげられます。

@.環境を改善するもの
A.適当な皮膚消毒、洗浄となるもの
B.皮膚刺激の減らすもの
C.外用剤の変更・中止となるもの

 患者の悪化要因を検討し、それに見合った民間療法を試してみるのがよいということです。

 高いお金を出すものだけが民間療法ではありません。
 朝早く起きて、空気のよい公園で軽いジョッキングすることだって立派な民間療法です。

<参考>
 アトピー性皮膚炎の治療効果の判定の難しさについて(論文報告)

 一般にある薬が病気に効果があるかどうか調べるとき、二重盲検法が用いられます。

 二重盲検法とは、調べたい薬と効果のないもの(プラセボ)を医師も患者もどちらか分からないようにして患者に投与して、その効果をみるものです。


 アトピー性皮膚炎の場合、この二重盲検法をうまく使えないことが多いのです。
 ステロイドのように、すぐにはっきりした効果が現れるものなら簡単なのです。
 しかし、短期的にはっきりした効果の現れないものや、ある程度長期に使用しないと効果がないものについてはこの方法を利用できないのです。
 治療の内容が医師や患者に分かってしまうことも多く、プラセボを作れないこともあります。

 また、ステロイドのように短期的に効果があっても、長い目で見ると果たしてどうかとなると、簡単に医学的に判定するのは困難という他ありません。

 比較するプラセボ(コントロールともいいます)をとらないで、その効果をうたっているものがほとんどです。
 「ある健康食品がアトピー性皮膚炎に効いた」というようなものがそれです。
 アトピー性皮膚炎は他の治療を併用していればよくなりますし、季節変化、成長、環境変化などいろんなことで自然に良くなることも多いのです。
 何もしなくても、かなりの患者が自然によくなります。
 そんなことを無視して、いかにもそれが効いたように思わせるものが非常にたくさんあります。

 以前、オゾン発生器について、アトピー性皮膚炎に対する効果を検討したことがあります。
 オゾンはダニを追い出すことで、アトピー性皮膚炎に有効であるとされていました。
 ダニアレルギーのある患者さんだけを選んで行ったのですが、実際にオゾンの出ないものと比較すると全然差がないのです。
 少しは効果があるのかもしれませんが、医師が客観的に判定できるほどの差が出てこない
のです。
 当科では、他にもアトピー用の下着(シャツ)や深層水で同じ様な結果が出ています。
 

かつて、気管支喘息が公害認定され、医療費その他が免除されていました。
それに対して、同じアトピー性疾患であるアトピー性皮膚炎患者が、なおりにくい湿疹に悩み、仕事その他で差別されながら、何故高い医療費を支払わなければならないのか、と疑問に感じたことがあります。

近年、保険財政が逼迫ひっぱく化するにつれて、アトピー性皮膚炎のような生命に関係しない病気に対して、入院しても生命保険会社の保険料が支払われなかったり、健康保険から傷病手当が支払われない例が増えています。
特に財政状態が厳しい会社や自治体で多いようです。
どんなにひどくても、アトピー性皮膚炎で自宅療養しても傷病手当は出さないという会社がありました。

 保険に入るときは、ほとんどよくなっていても、アトピー性皮膚炎があると、小児喘息があると、告知しておいた方が無難です。
 保険会社は、何十年も前にさかのぼって、過去の疾病を調査します。
 「ほら、昔、湿疹があって、**皮膚科にかかっていたでしょ。」と難癖をつけて、アトピー性皮膚炎については保険がおりません。


 {問題1}
  抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤はアトピー性皮膚炎の湿疹に有効か?
  かゆみに対してはどうか?

 {答え}
 抗ヒスタミン剤・抗アレルギー剤(かゆみ止め)は基本的にはじんま疹・アレルギー性鼻炎などT型アレルギーの薬です。
 湿疹は白血球が関与した炎症反応であり、ステロイドのような抗炎症剤は効きますが、抗ヒスタミン剤・抗アレルギー剤は本来は効きません。
 ただ、湿疹とじんま疹型のアレルギーが同じところにできている時、じんま疹があるために湿疹が悪化している時は、いわゆるかゆみ止めを併用します。
 じんま疹にステロイド外用剤をつけて、良くなったと勝手に思い込んでいる患者さんがたくさんいます。
 じんま疹は時間がたてば、とてもかゆいですが、何もしなくても自然に消えます
 結局のところ、できている発疹が、湿疹なのか、じんま疹なのか
区別することが重要です
 

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