5. アトピー性皮膚炎の診断


目次
1. 診断基準
2. アトピー性皮膚炎と区別(鑑別)する必要がある疾患

以下は後半です
3. アトピー性皮膚炎でよく見られる症状



 まず、アレルギーのメカニズムをよく理解して下さい。

 「アトピー性皮膚炎はなおりにくい」ということで、湿疹がアトピー性皮膚炎かどうかと外来でよくたずねられます。

 アトピー性皮膚炎を簡単に言うと、
「アレルギーの体質をもった人にできたなおりにくいかゆい湿疹」ということになります。
 どのくらいなおりにくいかというと、大人では
6カ月以上、乳児では2カ月以上が大体の目安になっています。

 しかし、この基準では、他のいろんな病気も含まれる可能性があります。

 たとえば、虫刺されや化粧かぶれ(接触皮膚炎)でも、6カ月以上続くことが少なくありません。
 また、アトピー性皮膚炎に他の病気が一緒になっている(合併している)こともあります。

 アトピー性皮膚炎は一つの原因でできていることは少なく、症状を悪くする原因(悪化要因)も様々です。
 乳児と大人でもかなり違っています


1.診断基準

 
日本皮膚科学会でも診断基準が作られていますが、The simple is the best.ということで、昔からハニフィンとライカ(Hanifin & Rajka)の診断基準がよく知られています。
 それは、次の4項目からできています。

(1).慢性、再発性
 
なおりにくいということ、
 大人では6カ月以上乳児では2カ月以上続く、又は繰り返す

(2).かゆみ
(3).典型的な湿疹

 
成人では屈側の苔癬(たいせん)、幼児・小児では顔面・伸側(しんそく)の皮疹
(4).アトピー素因
 
 4項目のうち、3項目以上あれば、アトピー性皮膚炎とされています。

 ちなみに、ここで示された典型的な湿疹は、ステロイド外用剤が用いられていない時代のものです。
 ステロイド外用剤を肘窩などの屈側の湿疹に使用しますと、比較的簡単に改善します。
 ところが、成人期になると、屈側の湿疹と入れ替わるように、四肢の外側、体幹、顔面などに拡大し、ステロイドを外用しても軽快・増悪を繰り返します。

 ということで、現在はむしろ以下のように変更した方がよいと考えられます。

(3).典型的な湿疹

 乳幼児期は、顔面・伸側の皮疹、
 小児期は、屈側(肘窩・膝窩・首・鼠径部・腋の下の前後など)の皮疹、
 成人期は、顔面・伸側の苔癬化した皮疹

 一方で、様々なタイプの、いわゆる非典型的湿疹があり、これらをアトピー性皮膚炎の皮疹に含めるべきかどうか、議論になります。

 たとえば、乳幼児期には、感染症後にしばしば体幹に貨幣状型の皮疹がみられます。
 これはこれで、この時期に典型的な皮疹と考えられます。
 成人期になると、下腿や体幹伸側に貨幣状湿疹と診断される皮疹がみられます。
 これも、成人期のアトピー性皮膚炎の発疹としては典型的であり、これを別の疾患名として扱うのには無理があると考えられます。

 私は、かゆみがあれば、どんなタイプの湿疹であっても、アトピー性皮膚炎の湿疹に含めてかまわないと、考えています。
 そんなタイプの皮疹になるのは、あくまでアレルギーを起こしている内容と原因に関わる問題です。

 もう一度述べますが、アトピー性皮膚炎を簡単に言えば、
アレルギー体質の人にできたなおりにくいかゆみのある湿疹ということです。

 アトピー素因
 
 気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、じんま疹などのアレルギーの病気が、患者本人または家族にあるということです。
 現時点でなくても、過去に症状があれば、それも含まれます。
 遺伝的にIgE抗体を作りやすい体質を持っていることでもあります。
 あるいは、そんな遺伝子、染色体を持っているということです。



 
しかし、これだけでは、他のいろんな病気もアトピー性皮膚炎に含まれる可能性があります。
 まず、湿疹ではないものかどうか、検討する必要があります。

 
湿疹ではないものとして重要なものは、

1. 細胞が異常に増殖したもの、すなわち良性又は悪性の腫瘍
2. 感染症(細菌・ウイルス・真菌など)
3. 外からの異物の混入
   (虫刺され・入れ墨・接触皮膚炎・薬疹・中毒疹)
4. 皮膚科的に湿疹とはいえないもの
   (じんま疹、紫斑、凍瘡・リベドなどの循環障害、膿疱・水疱症、乾癬などの炎症性角化症、胼胝
べんち・タコ・鶏眼けいがん・ウオノメなど)、化学外傷・熱傷
5. 年齢(高齢、更年期)による皮膚機能の変化によるもの

などが上げられます。

 これらの皮膚変化には、感染症のようにアトピー性皮膚炎の湿疹と重なって出現したり、アトピー性皮膚炎にしばしば合併するものとして現れるものもあります。

2.アトピー性皮膚炎と区別(鑑別)する必要がある疾患

目次                    *はコラム
  *自家感作性皮膚炎
(1).接触皮膚炎、接触じんま疹
(2).じんま疹
    
   *アナフィラキシー・アナフィラキシーショック
   *仮性アレルゲン
   *サリチル酸誘導体
(3).クインケ浮腫(急性限局性皮膚浮腫、血管神経性浮腫)
(4).皮膚掻痒症

(5).皮脂欠乏性湿疹、乾皮症
(6).薬疹・中毒疹
(7).光線過敏症
(8).白癬
はくせん
(9).魚鱗癬ぎょりんせん

(10).脂漏しろう性皮膚炎
(11).新生児ざ瘡
(12).ジベルばら色粃糠疹ひこうしん
(13).尋常性乾癬かんせん
(14).掌蹠膿疱症しょうせきのうほうしょう
(15).汗疱かんぽう

(16).感染症アレルギー性落屑らくせつ性手足湿疹
(17).汗疹(あせも)
(18).多型滲出性紅斑たけいしんしゅつせいこうはん
(19).凍瘡とうそう(しもやけ)
(20).貨幣状湿疹かへいじょうしっしん
(21).痒疹
(22).色素性痒疹
ようしん
(23).酒さ
(24).
紫斑しはん、血小板減少性紫斑病、アナフィラクトイド紫斑、
    特発性慢性色素性紫斑

(25).疥癬かいせん
(26).虫刺症ちゅうししょう
    ディートの新聞記事
    
*ツツガムシ病、
     *日本紅斑熱、
     *ライム病、
     *ガラスウール皮膚炎

(27).悪性リンパ腫、ホジキン病、菌状息肉症(MF)、セザリー症候群、ATLL(成人T細胞性白血病/リンパ腫)



 どこまでアトピー性皮膚炎かとなると、皮膚科の中でも意見様々です。

 たとえば、アトピー性皮膚炎で外用剤で接触皮膚炎を起こしたとき、できた湿疹は、「アトピー性皮膚炎の湿疹」なのか「外用剤による湿疹」なのか区別できません。
 もともと、アトピー性皮膚炎患者は、外用剤に対して接触皮膚炎を起こしやすい傾向があります。
 となれば、接触皮膚炎もアトピー性皮膚炎の病態の一部と、結論してもよいのかもしれません。
 それでも、別に考えるのは、湿疹のでき方のメカニズムに違いがあるといわれるからです。

 同じことは、貨幣状湿疹や尋常性乾癬、慢性痒疹についてもあてはまります。

 貨幣状湿疹型のアトピー性皮膚炎、尋常性乾癬型のアトピー性皮膚炎、痒疹型のアトピー性皮膚炎と呼べばよいのかもしれません。
 少なくともこれらの疾患とアトピー性皮膚炎とは原因や病態など重なる部分があります。

 
自家感作性皮膚炎

 体の一部にできた湿疹が、別の部位に湿疹をつくる現象を自家感作性皮膚炎といいます。

 湿疹を起こした原因物質が血液・リンパ液を通じて他の部位に広がったため、
 あるいは、そこに生じたアレルギー状態が同様に他の部位広がったため、
と考えられます。

 問題となる最初の湿疹はいろいろあります。
 最も多いのは、金属、化粧品、外用剤、貼り薬などによる接触皮膚炎です。
 他に、下腿や腰周囲によくできる貨幣状湿疹、ノミや毛虫による虫刺性皮膚炎、いろんなタイプの痒疹、中高年者に多いうっ滞性皮膚炎なども自家感作性皮膚炎の原因となります。

 最初軽症であったアトピー性皮膚炎の湿疹が引っ掻いているうちにどんどん広がったというのも自家感作性皮膚炎的要因を含んでいます。

 それなら、広がる前に一気にステロイド外用剤で治してしまえという論理は正しいかもしれません。
 ただ、接触皮膚炎の原因は一時的なもので、時間と共に原因物質はなくなります。
 体内にある原因が湿疹をつくっている時、もちろん試みてみる価値はありますが、同じ方法が必ずしもいつもうまくいくとは限りません。

 貨幣状湿疹や痒疹による自家感作性皮膚炎がステロイド内服でうまくいかないのと同じです。
 原因が残っている間は、一時的に症状をよくしても、完治したことにはならないということです。



(1).接触皮膚炎接触じんま疹
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(2).じんま疹じんましん
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(3). クインケ浮腫(急性限局性皮膚浮腫、血管神経性浮腫)


(4).皮膚掻痒症

 
かゆいだけで、湿疹のない状態です。
 老齢期に、背中や腰回り、陰部、下腿などこすれるところに多くできます。
 普通、冬季になると、ひどくなります。

 かゆみが続くと、掻破をくりかえし、二次感染を起こしたり、いつもひっかいていると炎症が生じ、結果として湿疹ができることになります。

 しばしば夏場でも、
乾燥肌(ドライスキン)がみられます。
 高齢者、アレルギー体質のある人、慢性・急性の感染症が続いている人は、全身にドライスキンも続いています。
 しばしば、糖尿病、
肝疾患腎疾患、悪性腫瘍などの内科的要因が原因となることがあります。

 肝硬変や黄疸のある患者、透析患者などにも、しばしばみられます。

 皮脂腺・汗腺の
分泌機能に影響するような薬剤を内服している人は、皮膚はカサカサです。


 表皮近くまで侵入している知覚神経が、ドライスキンのために露出し、過敏性も加わった状態です。
 軽い皮膚の炎症が伴っていることがあり、そんな炎症には当然のことながら、ステロイド外用剤が効果があります。

 ヒスタミンの関与しているアレルギー反応ではありません。
 抗アレルギー剤の内服は、眠いだけで、効かないことが多いようです。
 前立腺肥大があれば、抗アレルギー剤の内服で悪化し、尿がさらに出にくくなることがあります。

 かゆみを、
中枢性のかゆみ:モルフィン(オピオイド)など神経伝達物質が関与しているもの。
・末梢性のかゆみ:ヒスタミン・カプサイシンなどによるもの。
 に分けることがあります。

 透析患者や肝硬変患者にみられる治りにくいかゆみに対して、オピオイド受容体κの作動薬といわれる薬剤レミッチがあります。
 レミッチはふつう2.5mg夜一回内服しますが、効果が少ないこともあります。
 

 少なくなった自分の皮脂を大事にするために、セッケンやシャンプーを大量につけて、ごしごし洗うのは止めましょう。

 湿疹になれば、ステロイド外用剤を用いるしかありませんが、湿疹ができていなければ、ステロイドを外用するのは止めましょう。
 皮膚をぺらぺらに薄くするだけです。
 それほど効かないかもしれませんが、保湿剤程度で様子を見る方が賢明です。

 同じ状態が鼻粘膜に起きていることがあります。
 そのとき、冷たい風や変な臭いなどちょっとした刺激で、滝のように鼻水が流れます。

(5).
皮脂欠乏性湿疹、乾皮症

 
年をとると、皮膚が乾燥するためにかゆみや湿疹ができます。
 この状態を、皮脂欠乏性湿疹または乾皮症と呼ばれています。

 高齢になり、皮脂分泌が低下したために、外的刺激に弱くなったことで起きた一種の刺激性皮膚炎です。
 しばしば円形の湿疹局面になり、貨幣状湿疹と鑑別が難しいことがあります。
 こすれやすい下腿部や腰周囲に好発します。
 冬季に、セッケンでごしごし洗いすぎるとひどくなります。

 頭部も同じで、閉経を過ぎた女性が、シャンプーをたくさんふりかけて、爪を立てて洗っていると湿疹になります。

 アレルギー体質があると、もともとドライスキンです。
 年を取ると、さらにドライになります。

 冬に子供にできるかさかさした肌を、
小児乾燥性湿疹はたけ)と呼ばれることがあります。
 これはアトピー性皮膚炎の症状のひとつに分類されています。
 日焼けすると、顔面などに不完全に白く抜けた局面ができて、夏になると目立ちます。
 過去の湿疹の名残りのようなものです。
 成人の顔面にも見られます。

 ドライスキンは風邪などの感染症のあとで悪化します。
 感染症に関連した免疫反応が、ドライスキンをつくっていると考えられます。


(6).薬疹・中毒疹(こちらをクリック)


(7).光線過敏症

 アトピー性皮膚炎の合併症の項を参照して下さい。

(8).白癬はくせん

 アトピー性皮膚炎の合併症の項も参照して下さい。

 水虫と言った方がわかりやすいかもしれません。

 足白癬や
頑癬(がんせん)(いんきんたむし)など真菌(カビ)が原因でできるとてもかゆい湿疹です。
 ちなみに、真菌が角層内部で増えている間は、表皮に知覚神経が達していないために、かゆみはありません。
 皮膚の皮がめくれているだけの足白癬というもあります。

 真菌は免疫力が落ちていると体のどこにでも増殖します。
 ステロイド剤を内服していたり、糖尿病や抗がん剤治療中の患者なら、顔面や体のあちこちにカビが生えます。

 真菌にステロイドを塗っていると、一時的によくなりますが、その後遠心状に中心治癒傾向にどんどん広がる傾向があります。

 ただ、足白癬も炎症を伴っており、一種の湿疹です。
 抗真菌剤の外用しても、カビがつくった湿疹はよくならず、水虫の薬で湿疹としてかえって悪化することがあります。
 この炎症を改善するために、短期でもステロイド外用剤が必要になることがあります。


 アトピー性皮膚炎患者の湿疹にカンジダなどの真菌(カビ)が合併したときは治療が非常に難しくなります。
 とくにカンジダなどに対してアレルギー反応があると、どうしても抗真菌剤(ラミシール、イトリゾールなど)の内服が必要ですが、再発も多く、治療に難渋します。

 腸管内部などには、抗生剤を内服していると、大量にカンジダが増えていることがあります。
 これがアレルギーを起こして、皮膚表面に様々なタイプのアトピー性皮膚炎の湿疹をつくることがあります。

 同じことは、皮膚表面の常在カビであるピティロスポルム(マラセチア)にもいえます。
 この真菌は汗の多い男性の体幹表面に増えて、癜風
(でんぷう)をつくります。

(9).魚鱗癬
ぎょりんせん

 
常染色体優性遺伝する尋常性魚鱗癬と、男性だけにできる伴性魚鱗癬があります。

 かさかさした鱗(
うろこ)のようなものが、下腿や腰周囲などこすれやすいところにできます。
 これだけではかゆみはありません。

 冬にひどく、夏によくなる傾向があります。

 治療としては、尿素軟膏がよく用いられます。
 刺激すると悪くなりますので、ごしごしこするのは止めましょう。

 アトピー性皮膚炎に合併することが多く、アトピー性皮膚炎が角化異常症の要素を持っていることの表れにもなっています。

 手のひらにできる細かい皺も魚鱗癬に関係したものと言われています。



下腿の尋常性魚鱗癬です。


下腿の尋常性魚鱗癬です。
冬季になりひどくなっています。


(10).脂漏
しろう性皮膚炎

 皮脂は主に毛髪に付属した皮脂腺から分泌されます。
 男性ホルモンで分泌量が増えたり減ったりします。

 皮脂腺の数が多いところを、脂漏部位(頭部、額部、鼻翼周囲などのTゾーン、前胸部中央、肩甲間部など)といいます。
 この脂漏部位にできる湿疹を脂漏性皮膚炎といいます。

 本来、皮脂腺から過剰に皮脂が分泌されている状態を脂漏といいます。
 これが続くために脂漏性皮膚炎、ざ瘡(にきび)、酒さ(
しゅさ)などが起きてきます。

 成人の脂漏性皮膚炎は男性ホルモンの活発な壮年期の
男性に多くできます。

 
秋から冬にかけて悪くなり、あまりかゆみのない湿疹です。
 老化するにつれて、皮脂が少なくなれば軽くなります。

 皮脂成分のトリグリセリドがにきび菌などによって酸化され、生じた遊離脂肪酸が他の過酸化物質とともに皮膚を刺激して炎症を引き起こし、湿疹をつくるといわれています。

 また
ピティロスポルム(マラセチア)という皮膚表面のカビ(真菌)が、原因という意見があります。
 抗真菌剤の外用や、抗真菌剤入りのシャンプーが有効なことがあります。
 このカビは、皮脂を好みます。
 常在カビで、誰でも多少は持っています。

 治療としては、皮脂の分泌を抑えるものとして、ビタミンB2やB6の内服があります。
 できた湿疹に対して、抗炎症剤の外用剤が用いられますが、非ステロイド系抗炎症剤はかぶれやすく、つけないほうがよいでしょう。

 ステロイド系抗炎症剤は、もし仕方なく用いるのならば、マイルドレベル以下のもの、できればウイークレベルのものを、できるだけ少なく使うように心がけたいものです。
 ステロイドをたくさん外用したところでそれほど効果はなく、長期にわたってステロイドを顔面に使用していると、いずれステロイド皮膚炎などの副作用ができてきます。

 顔面のステロイド皮膚炎を避けるものとして、免疫抑制剤のプロトピック軟膏の外用も行われます。
 プロトピック軟膏については、他で述べていますが、外用したときの違和感などいくつか問題点があります。

 脂漏性皮膚炎はなおりにくく、結局べとつかない程度の保湿剤くらいで経過を見ている患者さんもいます。
 活性酸素を減らすような、たとえば活性型ビタミンCを含んだ化粧品が有効のこともあります。
 油もの、甘いもの、飲酒、ストレスは症状を悪くします。

 新生児の頭部に、これが痂皮を伴ってできる場合があります(乳児脂漏性皮膚炎)。
 皮脂が多すぎるからと洗いすぎていると、そのうちに乳児湿疹がひどくなります。
 私は、最初はできるだけステロイド外用剤は使わず、オリーブ油やアズノール軟膏を用い、びらん部には亜鉛華軟膏、軽ければヒルドイドローションなどの保湿剤を併用しています。
 ガーゼや綿布などで赤ずきんちゃん風に保護するのもよいでしょう。

(11).新生児ざ瘡

 
新生児は皮脂の分泌が多く、顔にしばしばにきび(ざ瘡)ができることがあります。
 そっと洗っているだけで自然によくなる場合が多いようです。

 しかし、割合早い時期、生後1ヶ月ころを過ぎると、乾燥肌に変化し、つい洗いすぎると湿疹ができるようになります。

 
なお、一部、アトピー性皮膚炎に移行する場合があります。

 胎児副腎由来のデヒドロエピアンドロステロン(
DHA)の血中濃度が高いために皮脂分泌が亢進し、ニキビ様発疹ができるといわれています。

 ふつう、顔以外にはできないといわれています。


新生児ざ瘡。夏季であり、多少あせももあり、いくらかかゆみがあります。
乳児湿疹へ変化しつつあるようです。


(12).
ジベルばら色粃糠疹(ひこうしん)

 まず体のどこかに
木の葉状の発疹(ヘラルドパッチ)が出現します。
 その後少しずつ、縁に
落屑(らくせつ)のある大小不同の円形・楕円形の発疹がたくさんできます。

 手掌・足底、頭部・顔面にはあまりできません。
 かゆみは軽く、全くないこともあります。

 これができる前に軽い
風邪症状、微熱や全身倦怠感があることがあります。

 20〜30歳代の若者に多く、春秋に多く見られます。
 しばしばアレルギー体質があることがあります。

 よくなるまで、
2〜3ヶ月又はそれ以上かかるといわれています。

 
原因としては、
溶連菌などの細菌感染症、
単純ヘルペスなどのウイルス感染症のアレルギー反応、
薬剤や化学物質によるもの、
ケラチノサイトに関係した自己免疫性のもの
 などが考えられています。

 治療は、湿疹ということでステロイド外用剤ということになりますが、それほど効かないことも多いようです。
 抗アレルギー剤もあまり効果がありません。

 自然な形で便通をよくして、たまったストレスは誰かにあげて、低下した免疫を改善しましょう。
 疲れない程度に、適度な運動・睡眠をとりましょう。
 カルシウムやビタミンDの多い食品はよいかもしれません。

(13).
尋常性乾癬(かんせん)

 
肘外側、膝前部、腰周囲、臀部などの刺激されやすいところや、被髪頭部などにできる表皮が堅く厚くなった乾燥した角化性の発疹です。

 紫外線の当たる露出部、顔面や手背にはできにくい傾向があります。
 もし、そんなところにも発疹があるときは、何か理由があります。

 こすれると、鱗屑
(りんせつ)がつぎつぎにはがれ落ちて、室内や衣類の肩周辺に大量のふけがつきます。


背中のこすれるところに広がった乾癬の角化局面です。
あまりかゆみがなく、そのためにひっかき傷は見られません。

 表皮のターンオーバーが非常に短くなり、一方で角層が角化が不十分なため落ちにくくなって分厚くなっています。
 角層をめくっていくと、紅斑が現れ、点状の出血点が現れます。

 発疹のないところをこすったりすると、乾癬の発疹ができてきます。

 がもろくなったり、点状のでこぼこがてきたり、爪がはがれたりすることもあります。


上記の写真の患者さんの手指の爪です。
爪は粗造化し、もろくなり、肥厚もしています。

 体全体に広がると、室内が落屑
(らくせつ)だらけになるくらい真っ赤になります(乾癬性紅皮症)。

 かゆいこともありますが、あまりかゆくない場合もあります。

 日光やカルシウムはよくなる方向に働きます。
 こすれたり、ごしごししたり、当たったりして刺激を加えるのはよくありません。
 飲酒、甘いもの、感染症、肥満、油もの、肝臓の病気、ストレスはこれを悪くします。

 アトピー性皮膚炎の伸側や刺激部位の発疹は、多分にこのタイプの状態に近いものです。
 それだけに、原因として、感染症のアレルギー反応は無視できません。

 治療として、ステロイド外用剤や活性型ビタミンD軟膏の外用、PUVA療法やナローバンド療法などの紫外線治療が用いられますが、非常に直りにくい傾向があります。

 重症の乾癬には、ビタミンAの誘導体チガソン(エトレチネート)やサンディミュン/ネオーラル(シクロスポリン)などの免疫抑制剤の内服が用いられます。
 どちらも結構高価な薬剤で、量が多いときは、1ヶ月の自己負担が1〜3万円は覚悟した方がよいでしょう。

 
チガソンには、子供に奇形児が生まれる可能性があり、出産年齢の男女には使えません。
 また、内服後、肝障害などの他に、乾燥症状や脱毛もあり、ときにかゆみが現れる場合もあります。
 高齢者にはチガソンの方が使いやすいかもしれませんが、長期に内服していると、脊柱が骨化し、曲がりにくくなるときもあります。
 チガソンが効いてくると、口唇がカサカサになります。
 私はこのカサカサ程度をみて、チカソンの内服量を調整しています。

 
サンディミュン/ネオーラルには、免疫抑制剤としての易感染性、高血圧(受診のときは必ず血圧を測ること)、腎障害(毎回採血でクレアチニンやシスタチンC、eGFRなどをチェックすること)などの副作用があります。
 用量依存性が強く、ある一定の血中濃度を維持しないと効果がなく、低下すると途端に再発する傾向があります。
 チガソンより即効性を期待し、何らかの悪循環で悪化しているときや一時的に症状を軽くしたいときは、ネオーラルの方がよいかもしれません。

 なお、ネオーラルは重症のアトピー性皮膚炎に対しても保険が通っています。
 ステロイド外用剤が合わないアトピー性皮膚炎によいかもしれませんが、私は用いていません。

 とても重症の尋常性乾癬や膿疱性乾癬に、TNFαの働きを抑える
分子標的薬レミケードがあります。
 毎月5万円程度の自己負担と使い方の難しさから、私はいまだ処方したことはありません。

(14).掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)

 手のひら(掌
しょう)と足の裏(蹠せき)に、無菌性膿疱がたくさん集まってできる病気です。

 膝の前や肘の外側、下腿などにもできることがありますが、このときは乾癬に似た発疹のこともあります。
 足の裏(足底)から始まり、手掌に拡大することが多いようです。

 手足には、母指球部、小指球部や土踏まずにできやすいようです。
 かゆみがあるときと、かゆみがないときがあります。
 ひどくなると皮膚が硬くなり、亀裂ができて痛みが現れます。
 亀裂が広がると、歩けなくなることもあります。

 しばしば春から夏にかけて悪化します。
 なおりにくく、慢性に経過します。

 ときどき、胸骨と鎖骨の間の関節、仙骨と腸骨の間の関節などに痛みを伴った
関節炎がみられることがあります。

 
膿疱性乾癬に近い疾患とも考えられます。

 原因は不明とされますが、体の中にある扁桃炎などによる病巣感染
(びょうそうかんせん)、歯科金属のアレルギー反応、内分泌異常などがいわれています。

 精神的・肉体的ストレス、飲酒、汗などで悪化します。

 治療は、外用剤としては、ステロイド外用剤やビタミンD3外用剤などが用いられます。
 かゆみの少ないタイプには、ステロイド外用剤はあまり効果がないようです。
 亀裂が少なければ尿素軟膏やヒルドイド軟膏・クリームなどの保湿剤、亀裂が多いときはサリチル酸ワセリンが日常外用するものとしてよいようです。

 細菌感染が原因のときは、抗生剤(ミノマイシンなど)の内服や
扁桃摘出術を検討します。
 異常な腸内細菌のアレルギーと考えられるときは、ビオスリーやビオフェルミン、ビオチン(ビタミンH)の内服、ヨーグルトなどのプロバイオティクスがよいことがあります。

 歩けないくらい重症化すると、子供を作らない高齢者にはチガソン(ビタミンA誘導体)の内服、もっと若い人にはネオーラルやメトトレキセートなどの免疫抑制剤の内服でしょうか(私は処方しませんが)。
 かゆみ止め(抗アレルギー剤)は、かゆみにはほとんど効果がありません。
 消風散や十味敗毒湯などの漢方もよいかもしれません。

 ごしごし洗いすぎて、皮膚をめくると亀裂ができますので、発疹はそっとしておきましょう。

(15).汗疱
(かんぽう)

 
手指の側縁などに多発する小水疱で、かゆみがあります。

 春から夏にかけて多くみられます。
 もともと軽い手湿疹があり、手足に汗の多い患者に多く見られます。
 軽い湿疹があるために、汗が出にくいために起こっていると考えられます。
 感冒などの感染症のアレルギーが合併している可能性があります。


 
アトピー性皮膚炎の手の症状の一つとも考えられます。

 ステロイド外用剤を使いたくない患者さんには、カチリ(フェノール亜鉛華リニメント)を処方していますが、効果が少なくてステロイドをぬるしかないかもしれません。

(16).
感染症アレルギー性落屑(らくせつ)性手足湿疹

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(17).汗疹(あせも)


 
汗をかくとかゆくなるのは、アトピー性皮膚炎患者では誰にでもみられます。
 夏のはじめ頃、汗をかいてかゆくなり、そのために湿疹ができることがあります。

 背中や、オムツの下の腰部など、汗の乾きにくい部位によくできます。
 汗を急に大量にかいたときにできやすいようです。
 夏季の初めころ、汗のかきはじめに多く、汗を普通にかくようになるとよくなることがあります。
 風邪などで熱を出したとき、風邪気味がずっとつづいているときなどは、特にあせもができやすい傾向があります。


背中にできた汗疹(あせも)です。
じんましん(平坦な紅斑として全体に広がっています)と湿疹(盛り上がった紅斑と丘疹としてたくさん見られます)の両方があります。
かゆみのためにひっかき傷もみられます。
湿疹は引っ掻いてできたものも混在しています。

 ドライスキンなど表皮の炎症のために、汗孔が
閉塞し、汗が出にくいという考え方があります。
 汗孔や汗管が詰まっていると、皮膚の内部に汗が漏れ出します。
 漏れ出す汗の量に加えて、そんな漏れ出す深さや部位によって症状が違ってきます。

 汗成分によるのアレルギーが関係しているともいわれます。

 特にコリン性じんま疹を合併していますと、汗のかきはじめにちくちく、びりびりしてじんま疹ができ、そのあとでしばしば湿疹ができてきます。

 あせもは、
@汗かいてできるじんま疹と湿疹、
Aかゆみでひっかいたキズと、
Bそれによる二次感染を
ひっくるめたものです。

 治療には、まず汗をかいて現れた発疹が、じんま疹か湿疹か、見分ける必要があります。

 じんま疹タイプの場合は、かゆみがひどければ抗アレルギー剤の内服が有効です。
 じんま疹型の発疹はひっかかなければ自然に消えますので、レスタミン軟膏のようなかゆみ止めの外用剤で経過を見るのもよい方法です。
 このタイプの発疹には、汗を乾かすためのカラミンローションカチリもよく使われます。
 カチリには消毒やかゆみ止めの効果もあります。
 ちなみにこれらのあせもの薬剤は、多分に子供向きです。
 というものの、ステロイド外用剤を使いたくないアトピー性皮膚炎の成人患者さんに、カチリを処方することもあります。

 当然のことながら、あせもが湿疹になれば、ステロイド外用剤を使うしかないかもしれません。
 ステロイド外用剤しか効果がないあせもほど、アトピー性皮膚炎的な要素が強いと考えられます。

 引っ掻いてできる伝染性膿痂疹(とびひ)にも注意が必要です。
 びらん部には、抗生剤の外用剤を併用するか、カチリか亜鉛華軟膏が用いられます。

 汗をかいてできるアトピー性皮膚炎の湿疹は、汗疹と同じものという意見があります。

(18).多型滲出性紅斑(たけいしんしゅつせいこうはん)(多型紅斑)

 最初、手背・肘外側・膝前・前腕などの四肢伸側に、左右対称性に小さな紅斑ができ、外側に向けて遠心性に大きくなり、辺縁が隆起し、中央はへこんで色がうすくなります。

 新しいもの、少し前にできたものが混在しているために多型と呼ばれ、炎症が強くやや盛り上がっているために滲出性と呼ばれています。 


35歳女性の体幹にできた多型滲出性紅斑です。
風邪気味の状態で、風邪薬を内服してから発疹が出てきたとのことです。
できるだけ疲れないように、ストレスをためないように指示し、体調が良くなれば自然に良くなると説明し、軽いステロイド外用剤で経過をみました。
数日後には色素沈着もなく、よくなっていました。


 かゆみは軽く、ないことも多いようです。

 2〜4週間くらいでよくなりますが、繰り返すことが多いようです。

 春から夏、女性によくできます。
 しばしば先に、発熱・関節痛・頭痛・全身倦怠感などの風邪症状があります。

 重症になると、発疹が全身に広がるとともに、粘膜症状と発熱・全身倦怠感などの全身症状を伴い、命にかかわることもあります。
 このような口唇・口腔粘膜、眼瞼粘膜などにもできた重症型を
スチーブンス・ジョンソン症候群(SJS)、中毒性表皮壊死症(TEN)といいます。
 SJSやTENは緊急入院が必要です。
 
 原因は、V型アレルギーが関係した
自己免疫、病巣感染や単純ヘルペスが関係するもの、薬剤性などが考えられ、アリや蚊に刺されてできることもあります。
 SJSはマイコプラズマ感染症などの感染症のあとで発症することもあります。
 いろんな自己免疫疾患に合併することがあります。

(19).凍瘡
(とうそう)(しもやけ)

 寒さにさらされて、手足などの末梢の血液の流れが悪くなって(末梢循環不全)できた炎症性の発疹です。
 冬の初めや冬の終わりの、
気温差の大きい頃に起こりやすいようです。




とちらもしもやけです。
かゆみが強く、利き腕の右手で左の指をひっかいて、びらんができています。
亀裂ができると痛みがあります。


 できるタイプの人は、たとえば、

1.寒いところで裸足で遊ぶ
汗かきの子供、
2.冷たい水仕事をする
冷え症・肩こり・頭痛があり、紫外線に弱い女の人
3.動脈硬化が進行して末梢循環のよくない高齢の女性

 などです。

 できる部位は、手指、足指、耳先・耳たぶ、鼻先などによくできます。
 頬、膝前、前腕などにできることもあります。

 真っ赤に腫れ上がり、ひどくなると水疱、びらんや潰瘍になります。
 様々な程度にかゆみがあり、かゆみでひっかくと破れて、細菌感染が心配になります。
 アレルギー体質があると、特にかゆみが強いようです。

 病型としては、
紫藍色に腫れてうっ血したもの(
樽柿型、T型)と、
小さい紅斑や丘疹が主体の
多型滲出性紅斑型(M型)に分けられます。

 できる原因としては、
・遺伝的体質、
・交感神経の働きが低下した自律神経失調症、
・多汗症、
・無力性体質、
・湿気の多い寒いところで住んでいたり、仕事をしているような環境因子、
・末梢循環のよくない体質、あるいは状態
・肝炎ウイルスキャリア、
・風邪・気管支炎後のウイルス・細菌のアレルギー(とくにM型)、
・自己免疫的要因、
・好中球やマクロファージが関与する
自己炎症症候群の一つとして、
などが考えられます。

 対策としては、
 まず寒さ対策。寒いところで、裸足にならないこと、耳を出さないこと、帽子やマフラーや手袋すること。
 水仕事の時は、綿手袋の下敷きをつけて、上にゴム手袋などを使うこと(二重の手袋)。
 
五本指の靴下をはいて、さらに上に普通の長めの靴下をはくこと。
 暖かい格好で上手に体を動かすこと。コタツでじっと丸くなっていても、いいことはありません。

 治療は、
 普段の保湿剤として、ビタミンEやAを含むユベラ軟膏がよく、ヒルドイドソフト、アズノール軟膏、ワセリンも使えます。
 かゆみや炎症が強くなれば、ステロイド外用剤を使用するしかありませんが、びらんがあれば、抗生剤の外用剤や亜鉛華軟膏を併用するのもよいでしょう。
 内服剤としては、ビタミンE(ユベラ)や漢方(四物湯
しもつとう、温経湯うんけいとう、当帰四逆加呉茱萸生姜湯とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとうなど)が用いられています。

(20).貨幣状湿疹
(かへいじょうしっしん)

 下腿や腰回り、上肢外側などにできるかゆみのある、なおりにくい慢性の湿疹です。

 百円玉から五百円玉程度の円形・楕円形をしているために貨幣状湿疹という病名がついています。


体幹にできた成人男性の貨幣状湿疹です。
下腿にも同じような発疹があります。
ステロイドを外用しますとよくなりますが、繰り返して、なかなか改善しません。
結局のところ、体内にある何かが湿疹の原因になっているために、完治しないということです。

 ひどくなると、五百円玉よりも大きくなることもあれば、他の湿疹とつながって(融合して)、全体が湿疹局面になることもあります。
 顔面はできにくいようですが、全身どこにでもできます。
 ひっかくと、どんどん悪化して、浸出液がでて、血液・リンパ系を通じて全身に拡大することがあります(自家感作性皮膚炎)。

 アレルギーの検査をしますと、たいていはアトピー性皮膚炎患者と同じような所見(IgE、RAST陽性、好酸球数増加など)が得られます。

 アトピー性皮膚炎の一型とも考えられます。

 他のところでも説明していますが、乳幼児・子供が、冬季風邪などの感染症のあとで、ワクチンを接種したあとで、同じ貨幣状型の湿疹が、主に体にみられることがあります。
 ということは、この貨幣状湿疹の原因として、何らかの感染症(細菌、ウイルスなど)のアレルギーが関与しているということです。

 そんな感染症もずっと体内に入りこんだまま居着いてしまったものが原因となっているために、慢性・再発性でなおりにくいということです。
 そんな居着いた微生物を病巣感染といいます。
 細菌の菌体成分や毒素が免疫系に影響しているということです。
 ウイルスが免疫系・神経系に潜伏感染することでも免疫系の異常を招いています。

 細菌では、
扁桃腺などに常在する溶血性連鎖球菌(溶連菌)、
胃のピロリ菌、食中毒菌を含めたいろんな腸内細菌
呼吸器系に入りこんだ肺炎球菌・マイコプラズマなど、
繰り返す胆嚢炎・膀胱炎・腎盂腎炎・卵巣卵管炎などがあります。
 ウイルスでは、
ヘルペスウイルス科の仲間(単純ヘルペス、水痘・帯状疱疹、EBウイルス、サイトメガロウイルス、HHV-6,7)、
肝炎ウイルス(B型、C型)などが代表的です。

 なかなか証明できていないのですが、
トキソプラズマ、アメーバなどの原虫
吸虫類などの寄生虫、
ダニに刺されて侵入したリケッチア類も、
 原因になっている可能性があります。

 感染症以外の原因として、歯科金属、食物中、飲料水の金属も念頭に置いておく必要があります。

 この疾患は、比較的中年〜高齢者にもよくできます。
 その意味で、患者さんの内科的問題(肝障害、腎障害、肺疾患、甲状腺などのホルモン系異常、糖尿病、良性・悪性腫瘍など)と日常内服している薬剤による薬疹の可能性を忘れてはいけません。

 患者さん自身がアレルギーの原因となっている自己免疫性のこともあります。

 治療はアトピー性皮膚炎の一つとして同じです。

 それでも、まず原因除去、悪化要因を排除することが重要です。

 環境が原因の時は、引っ越し、室内の徹底的な換気・拭き掃除、転職・部署転換(早まった結論を出さないこと)が有効です。
 歯科金属をやり変えてよくなる患者さんもいますが、すでに蓄積している金属を除けないこともあり、かならずよくなるという保証はありません。

 簡単に薬剤と指摘しにくいところもあります。
 薬剤が原因の時は、一定期間その薬剤を中止して湿疹が改善されるか、薬剤を内服すると悪化するか、という除去誘発試験が確かに有用です。
 しかし、内科的に簡単にその薬剤を止められないことも多く、他に代わる薬剤がないこともあります。
 また、内科医は、薬剤が原因と言われるのを嫌う傾向があり、患者さんにできた薬疹にはあまり興味がないことも多いようです。

 排除できない原因が関与している時、時期を待てば原因が減ると考えられる時は、すぐに完全に湿疹をよくしょうと考えない方が賢明です。

 それでもどんどん悪化している時は、強めのステロイドで止めるしかないかもしれません。
 症状が強く、びらん・浸出液がひどければ、ステロイド外用剤をつけて、その上に亜鉛華軟膏を重層し、ガーゼ保護しておくとよいでしょう。

 ステロイド内服は感染症に対して抵抗力を下げるためにかえって原因を増やして、慢性化するきっかけになります。
 それでも他医ですでに長期にわたってステロイドを内服してよくならないという患者さんが、多数当科に来られます。
 一度ステロイドを内服するとなかなかやめられず、他の治療では効果なく、外用剤に対して接触皮膚炎を起こしていることもあり、治療が難しいのは普通の成人型アトピー性皮膚炎と同じです。

 細菌などの感染症が原因になっているときは、抗生剤の内服が有効ですが、どうしても長期内服が必要になります。
 抗生剤内服している時はよくて、止めると悪化するという患者さんもいます。

 抗アレルギー剤などかゆみ止めの内服は、じんま疹が合併していなければ効果がありません。

 腸内細菌が原因になっているときは、ヨーグルトなどの乳酸菌(プロバイオティクス)、ビオフェルミン・ビオスリーなどの乳酸菌製剤、ビオチン(ビタミンH)の内服がよいことがあります。

 扁桃炎が原因のときは、掌蹠膿疱症のように扁桃摘出(扁摘)が効果がある場合があります。
 禁煙、うがいも扁桃の溶連菌に対して有効です。

 感染症のアレルギーに関係した漢方製剤(消風散、十味敗毒湯、黄連解毒湯など)を処方することもあります。
 尋常性乾癬に近い発疹のときは、ビタミンDやカルシウムを摂取、海水浴・日光浴などの紫外線療法、温泉療養がよいことがあります。
 局所的にひどい発疹に対しては、温熱療法もよい治療法です。

 貨幣状湿疹はアトピー性皮膚炎の貨幣状型に過ぎないという意見があります。
 私自身もそのように考えています。
 しかし、貨幣状湿疹には、アトピー素因がベースにあるものの、薬疹・中毒疹の貨幣状型や内科的要因による発疹の可能性も含まれています。

(21).痒疹(ようしん)

 痒疹とは、
かゆみの強い丘疹、結節
けっせつのことです。

 たいていは、ある程度離れて存在し、多発します。
 四肢や体幹の伸側、こすれるところによくできます。


23歳男性の下腿にできた慢性痒疹です。
しばしばひっかいてびらんになります。
アトピー性皮膚炎の痒疹型と考えられます。
抗生剤内服で一時的に改善されますが、すぐに悪化します。
この患者さんは
引っ越してから著明に改善しました。

 顔面などの露出部は発疹が少ない傾向がありますが、光線過敏症を合併した患者さんの場合は、むしろ露出部の症状が強いことがあります。
 ひっかいていると、他の部位に拡大することがあります(自家感作性皮膚炎)。

 アトピー性皮膚炎の一型と考えられることがあります。

 しかし、リンパ球分類の検査では、しばしばCD4/CD8の比が1未満になっており、アトピー性皮膚炎がたいていは1.5を越えていることから考えると、アトピー性皮膚炎らしくない所見です。
 同様の結果は貨幣状湿疹でも見られることがあります。

 しばしば好酸球数、LD(LDH)、ヒトTARCが上昇していないことも、アトピー性皮膚炎と異なっています。

 
急性痒疹虫刺されがきっかけで起きる痒疹で、慢性痒疹とは別の病気です。
 それでも、急性痒疹が一カ月以上続けば、慢性痒疹に分類されます。

 急性痒疹は小児に多く、いろんな蚊、ネコノミ、ブユなどの虫刺されが原因となります。
 そんな虫のアレルギー・過敏症があれば症状が強くなり、ひっかくためにいつまでもよくならない状態になります。

 そんな悪循環に陥れば、仕方なくステロイド外用剤を用いる以外にないようです。
 そんな患者さんはたいてい、昆虫類のアレルギーの他に、クモ類のダニアレルギーも持っています。
 子供はひっかくと、
とびひ(伝染性膿痂疹)になりやすく、要注意です。
 よくなれば、赤み・かゆみ・盛り上がりがなくなり平坦化し、色素沈着を残します。

 
亜急性痒疹は、成人の主に四肢伸側に小丘疹を繰り返すもので、原因不明のことが多いようです。

 
結節性痒疹もまた、中高年者の四肢に多発する原因不明のかゆみの強い発疹です。
 虫刺されのような小丘疹から始まり、慢性化するにつれて、びらん、痂皮を伴った硬い結節となります。
 
 ときに、ベーチェット病でみられるような
針反応陽性(たとえば採血部位に一致して発疹ができる)があります。
 白血球の機能異常、自己炎症、自己免疫的要因、内科疾患と薬剤による皮膚症状などが原因として言われています。
 貨幣状湿疹と同様に、病巣感染による場合があります。

 
多型慢性痒疹は、中高年者の腰回りや四肢に多発してみられるかゆみの強い丘疹・結節です。
 いろんな皮膚症状がみられるために多型と呼ばれています。
 皮脂欠乏性に起因しているようですが、これも原因がはっきりしません。

 
アトピー性痒疹は、いわゆる痒疹型のアトピー性皮膚炎です。
 結節性痒疹との区別は難しいのですが、強いステロイド外用剤の使いすぎ、ときに毛孔一致性・汗孔一致性であり、皮脂や汗成分、マラセチアのアレルギーの可能性もあります。
 ステロイド外用剤の使いすぎのとき、外用剤のレベルを下げたり、外用剤の量を減らすと、痒疹のないところが全部紅斑となることがあります。

 
妊娠静痒疹は、妊娠3-4カ月のころから、四肢伸側や体幹にできる発疹です。
 妊娠中毒症の皮膚反応と考えられます。

 痒疹の治療は貨幣状湿疹の場合と重なります。
 原因・悪化要因を除くとともに、強いステロイド外用剤を使う以外に、抗生剤内服、抗アレルギー剤のリザベン内服(出血性膀胱炎に注意)などがあります。
 いずれにせよ、原因がはっきりしなければ、慢性に経過し、治りにくいようです(
難治)。

(22).色素性痒疹(しきそせいようしん)

 背中上部・うなじ・胸上部などにできた太めの網目模様の色素斑です。
 強いかゆみがあります。
 最初蕁麻疹のような紅斑と丘疹があり、繰り返しているうちに痒疹となります。

 思春期の女性に春から夏によくできます。

 アトピー性皮膚炎の一つとも考えられます。

 原因や悪化要因は、いろいろあります。

@衣類・ブラジャー・髪の毛などの刺激又はアレルギー。
A汗の刺激又はアレルギー。
B糖尿病・貧血、妊娠・出産・子宮内膜症など内科・婦人科疾患。
C断食・ダイエットなどによる急激な体重減少。
D扁桃炎・腸内細菌などの病巣感染。
Eマラセチアのアレルギー性湿疹

などが考えられます。

 治療は、原因・悪化要因除去ですが、よく用いられるステロイド外用剤は、ないよりましな程度で、あまり効きません。
 ミノマイシンなどの抗生剤、レクチゾール(DDS症候群などの薬疹の副作用に注意)、抗アレルギー剤のリザベンなどの内服も用いられています。

 なおりにくく、慢性に経過することが多いようです。

(23).
酒さ(しゅさ)

 中年以降の女性や男性の主として顔面にできるびまん性の潮紅、落屑らくせつ、紅色丘疹で、かゆみはほとんどありません。
 タイプによって以下の3種に分けられます。

T度(紅斑性酒さ)・・中年女性に多く、鼻・ほお・ひたいの発赤、毛細血管拡張を伴う潮紅。
U度(酒さ性ざ瘡)・・中年女性に多く、T度の症状にニキビ様の発疹を伴ったもの。
V度(鼻瘤びりゅう)・・欧米の男性に多く、日本人は少ない。鼻が肥厚し、腫瘤状になったもの。

 これができる原因として、

1. 皮脂分泌異常があり、細菌などで皮脂が分解した産物(遊離脂肪酸など)による発疹。
2. 三叉神経領域の血管運動神経の異常。
3. 内分泌要因が関係するもの。
 女性ホルモン異常、子宮内膜症、ピル、下垂体系ホルモン異常、妊娠。
4. 内科系異常が関係するもの。
 胃腸障害、ビタミンB2欠乏症、肝障害。
5. ニキビダニ。ヒト、特に中年女性の毛包や皮脂腺に常在しています。

などが上げられます。

 また日光、ストレスなどの精神的要因、寒冷、飲酒、香辛料、コーヒー、皮膚刺激で悪化することがあります。

 ときに、眼科的異常、たとえば、びまん性表層角膜炎、角膜潰瘍、眼瞼炎などを合併することがあります。

 妊娠をきっかけでできたものは自然治癒することがありますが、全体として治りにくいようです。

 治療は、原因・悪化要因を除くことから始まります。

 顔面をごしごしセッケンを使って洗いすぎるのはよくありません。
 鏡を見ながら顔を触るのは止めましょう。

 内服剤としてはあまり有効なものはありませんが、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンC、ハイチオール、抗生剤(ミノマイシンなど)、ニコチン酸アミド、漢方、インダシンなどがあります。
 外用剤としては、イオウカンフルローション、ディフェリンゲル、オイラックス(ニキビダニに)などです。
 ケミカルピーリング、UV化粧品による遮光、レーザー、ビタミンCを用いたイオントフォレーシスなどが効果があることがあります。

酒さ様皮膚炎(こちらをクリック)口囲皮膚炎)は、ステロイド外用剤を顔面に長期・大量に使ったためにできた副作用です。
 ステロイドを中止すると眼が開かないくらい顔全体がぱんぱんに腫れ上がります。
 ステロイド外用剤の副作用として、他で説明しています。

(24).紫斑しはん(こちらをクリック)


(25).疥癬
(かいせん)

 ヒトヒゼンダニというダニが原因となって起こるとてもかゆい皮膚疾患です。

 性感染症(STD)に分類されることもあります。
 最近は老人病院施設や寝たきりの高齢者などで蔓延
(まんえん)することも多いようです。

 0.2〜0.4mmの大きさで、雌成虫は皮膚の角層にトンネルを掘って産卵します。
 トンネルの先端に、顔を出しています。
 その姿をダーモスコピーで探すか、トンネルをメスやハサミで掘り出して、顕微鏡で虫体や虫卵がいないか確認して診断します。

 なお、ネコに寄生するネコショウセンコウヒゼンダニ、イヌに寄生するイヌミミヒゼンダニもヒトに寄生し、同様の被害を及ぼしています。

 かゆがっている寝たきりの老人を介護していて湿疹ができたとき、陰部や手指の間、手のひら、肘の内側、膝の裏側、脇の下、乳房下部など、全身の皮膚の軟らかいところに湿疹ができたときは、疥癬の可能性を考える必要があります。

 顔面にはできにくいといわれています。

 かゆみのある湿疹ということで、湿疹ができる部位も重なっていて、アトピー性皮膚炎と症状が似ています。

 一般に、ステロイド外用剤は疥癬の症状を悪化させます。

 介護施設などで働いている人、かゆがっているねたきりの老人を介護している人が、アトピー性皮膚炎のような湿疹ができてきたとき、ステロイド外用剤でかえって広がったときは、常にこれを疑った方がよいでしょう。

 家族の誰かがこのダニに感染したときは、家族全員がこれに感染していると考えた方が無難です。
 つまり、誰か一人が治療されずにそのままにしておくと、せっかくよくなった他の家族にもう一度広がります。

 アトピー性皮膚炎の湿疹にこれが合併したときは、治療はとても難しくなります。

 肝障害などに注意しながら、最近は、ヒゼンダニの退治に、イベルメクチンストロメクトール)という線虫類に用いられる内服剤が使用されています。
 ただし、この薬剤は子供には使えません。
 また、虫卵には効かないため、卵が孵化して幼虫が出る頃をみて、1週間の間を開けて、2回内服する必要があります

 平成26年8月より、スミスリンローションという外用剤が疥癬の治療に認可されました。
 これには、フェノトリンというピレスロイド系農薬が5%含まれています。
 スミスリンは外来では、シラミ(アタマジラミ、ケジラミ)の薬剤として、0.5%ローションが市販されています。
 あくまでMRの話ですが、スミスリンは外用すると3%程度しか皮膚から吸収されないとのことです。
 そのために、乳幼児や妊婦・授乳婦にも使用可能とのことです。
 この薬剤も虫卵には効果がないために、1週間後にもう一度使用する必要があります。
 スミスリンローションは、クビから下、足底までまんべんなくつけた後、12時間以上過ぎた後に、シャワー・入浴で洗い流すことになっています。

 これまで、オイラックスの外用剤が疥癬によく用いられてきましたが、成人はともかく、免疫の低下した高齢者などには、オイラックスだけでは治療が困難であることが多いようです。
 オイラックスの成分クロタミトンは市販の外用剤にも入っていますが、ときに接触皮膚炎を起こすことがあります。
 それでも外来で何か外用剤を希望されたときは、ステロイド外用剤はよくないのでオイラックスを処方しています。

 子供にはイオウカンフルローションを用いることがあります。


(26). 虫刺症ちゅうししょう(虫刺され)
こちらをクリック

(27).悪性リンパ腫、ホジキン病、菌状息肉症(MF)、
セザリー症候群、ATLL(成人T細胞性白血病/リンパ腫)

 これら皮膚の腫瘍性疾患については、常に頭に置いておく必要があります。
 しばしば、かゆみのある湿疹によく似た発疹です。

 これらの中にステロイド外用剤や内服も一時的には効果があるものもありますし、初期はそれで経過を見ることもあります。

 正確に診断するには、皮膚の生検を行って、病理組織検査を行う必要があります。


以下は後半です

3. アトピー性皮膚炎でよく見られる症状



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