4. アトピー性皮膚炎の症状 目次 *はコラムです *皮膚症状の分類 *アトピー性皮膚炎の成因による分類(アレルギー性、刺激性) *アトピー性皮膚炎の湿疹のできかた *湿疹の表現のあれこれ *アトピー性皮膚炎の皮疹の特殊な(非特異的)形態 1. 乳幼児アトピー性皮膚炎の症状 *ワクチンについて *アトピー性皮膚炎における相対性理論 2. 小児アトピー性皮膚炎の症状 3. 成人アトピー性皮膚炎の症状 *顔面の湿疹の原因 *炎症後色素沈着と肝斑(しみ) *アトピー性皮膚炎の重症度の表し方 *炎症後皮膚色素沈着と肝斑(しみ) *感染症はなおりかけの信号のことがある *アレルギーマーチ アトピー性皮膚炎の症状は、かゆみのある湿疹がずっとまたは繰り返して(大人では6ヶ月以上、乳幼児では2ヶ月以上)続くことが特徴です。(アトピー性皮膚炎の診断基準) そんな症状に、本人または父母兄弟にアレルギー体質やアレルギー疾患があれば、アトピー性皮膚炎と診断されます。 アトピー性皮膚炎の典型的な症状は年齢と共に変化します。 また、同じ年齢であっても、何が原因になっているかによってかなり違ってきます。 一般に、アトピー性皮膚炎は年齢で、 (1).乳幼児型アトピー性皮膚炎 (2).小児(学童)型アトピー性皮膚炎 (3).成人型アトピー性皮膚炎 に分けることができます。 症状は、主に じんま疹、 湿疹、 ひっかいてできたキズ、 感染症 に分けられます。 まず、これらを見分ける必要があります。 湿疹をひっかくと、キズになります。 キズが悪化すると、とびひなどの細菌感染症をひき起こすことがあります。 これらの所見はいくつも重なって現れます。 また、湿疹のひどいときは、じんま疹は見分けにくいようです。
かゆみは、 @.肥満細胞からヒスタミンなどが分泌されて起こっているもの(じんま疹型)、 A.炎症反応に伴って様々物質(サイトカイン)が分泌されて起こっているもの(湿疹型)、 B.炎症反応が知覚神経系に影響して起こっているもの(知覚神経性) などに分けられます。 かゆみを分けると、 ●外見的に何もなければ皮膚掻痒症(そうようしょう)であり、 ●紅斑や膨疹を伴っていればじんま疹、 ●炎症反応を伴って赤くなり、できた発疹がずっと続いていれば湿疹によるかゆみです。 かゆみを起こすものは湿疹やじんま疹だけではありません。 神経組織で増殖するヘルペス属のウイルス、たとえば水痘はかゆく、単純ヘルペスは痛がゆい感じがあります。 痛みとかゆみは、同じ知覚神経のC fiber で伝達されます。 帯状疱疹(水痘と同じウイルス)になるとかゆいこともありますが、ピリピリとした強い神経痛が普通です。 水痘、伝染性紅斑(リンゴ病)の発疹や様々なウイルスによるアレルギー反応であるジャノッティ症候群にはしばしばかゆみがあります。 麻疹や風疹や伝染性軟属腫(水イボ)にはかゆみはありません。 ちなみに水イボがアレルギー反応(モルスクム反応)を起こすと、かゆみを伴った炎症/湿疹が生じます。 細菌によるものは、アレルギー反応を伴っていなければ、毛包炎や蜂窩織炎やおできは圧痛(押すと痛い)や自発痛(放っておいても痛い)があります。 白癬菌(カビ)による水虫は、皮膚の最も上層の角層の中だけで増えているときは、皮はめくれても無症状です。 しかし、内部に広がって、炎症やアレルギー反応が起きてくると湿疹になってかゆみがでてきます。 さらに、細菌感染が加わると、腫れて痛くなります。 虫刺されのたぐいはかゆいことが多く、アレルギーがあるとさらにかゆみは強くなります。 幼児の虫刺されはアレルギーがあると、しばしば大きく腫れ上がることがあります。 かゆみの種類の分類は、治療の手段を選択する上で重要です。 じんま疹のかゆみのときは、抗アレルギー剤の内服がある程度有効です。 かゆみが湿疹よるものなら、かゆみを止めるためには湿疹を改善するしかなく、ステロイド外用剤を使わざるを得ないかもしれません。 発疹のない掻痒症のときは、抗アレルギー剤やステロイド外用剤の効果は少なく、内科的問題など併せて考えることが必要です。 同じかゆみでも、じんま疹は何もしなくても自然に消えますので、ステロイドを外用するのは考えものです。 湿疹は、患者の免疫状態に関係し、異常なリンパ球、好酸球、血小板、繊維芽細胞、マクロファージなど、それらの相互作用によって作られています。 アトピー性皮膚炎のアレルギーは、 ★IgE抗体の関係したもの(液性免疫、T型アレルギー、じんま疹型アレルギー)と ★リンパ球などに関係したもの(細胞性免疫、W型アレルギー、湿疹型アレルギー)に分けられます。 アトピー性皮膚炎は、両方の要素を併せ持っています。 ただ、しばしばどちらか一方が強く出ていることがあります。 T型アレルギーは他にじんま疹、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アナフィラキシーショックなどがありますが、これらも多少なりともW型アレルギーの要素を含んでいます。 しかし、免疫系は複雑なネットワークを形成し、互いに密接に関連し合っているために、単純にアレルゲンと抗体の結合だけで説明できません。 アトピー性皮膚炎は免疫担当細胞のネットワークの異常、すなわち免疫制御系の異常でもあります。 免疫系は、視床下部で自律神経系やホルモン系にもつながっています。 そこには、睡眠中枢もあり、しばしば不眠症を訴えます。 ここではもう少し簡略化して、アトピー性皮膚炎の症状を説明します。
症状を成因で分けると、アレルギー性と刺激性に分けられます。 アトピー性皮膚炎患者は乾燥肌があり、体質的にいろいろな刺激に弱い傾向があります。 下図の経路@がそれに相当します。 このことは、たとえば、乾燥肌の手で水仕事をすると、水の刺激で湿疹ができる現象を表しています。 つまり、皮脂の少ない乳幼児の顔をヨダレの刺激から守りたいとき、プロペトのようなべとべとした保湿剤が有効です。 刺激が原因のものは、保湿剤を用いて乾燥肌を保護すれば、ある程度対処できます。 水仕事を止めたり、二重の手袋をしたりと、刺激の原因になるものを減らすのも一つの方法です。
一方様々なアレルギーが原因となってできた湿疹は、経路Aでみて分かりますように、刺激だけに対応する治療、つまり保湿剤だけでは治療効果がないかもしれません。 湿疹ができると、特にアレルギーが原因でできた湿疹は、かゆみが強い傾向があります。 かゆみがあると、ひっかいて、さらに湿疹が悪化し、どんどん範囲が広がります。 経路Bはそんな悪循環を表しています。 そんな悪循環を、(湿疹→かゆみ)の部分で止めるものとしてステロイド外用剤が用いられ、(かゆみ→ひっかいて)の部分で抑えるのが抗アレルギー剤ということになります。 ただどちらも原因治療になっていないのは、図を見れば明らかです。 ひっかくと、ひっかき傷に黄色ブドウ球菌などによる二次感染が加わり、湿疹にびらん、出血、浸出液が見られるようになります(経路C)。 そんな二次感染は、さらなる湿疹の悪化を招きます(経路D)。 ここを何とかしたいとなれば、消毒か抗生剤の内服又は外用ということになります。 黄色ブドウ球菌は蛋白質を分解するために、それの分解物が様々な臭気を発するようになり、浸出液(しんしゅつえき)や出血が衣類を汚染します。 ときに、浸出液が衣類と皮膚に固着して、離れにくいというようなことも起こります。 黄色ブドウ球菌の毒素(SEA、SEB)に対してアレルギーがあると、それのアレルギーによるかゆみが加わります。 そうなると、ひっかいて黄色ブドウ球菌が増え、それが一層かゆみを引き起こし、さらにひっかいて、湿疹がどんどん悪化します。 かゆみのある湿疹が長く続いていると、常にひっかく影響も加わって、真皮組織にコラーゲン線維が蓄積し、皮膚が堅くごわごわして厚くなった状態、すなわち苔癬化局面ができます。 ちなみに、苔癬化しやすい患者さんは、手術の傷跡が盛り上がりやすい体質(肥厚性瘢痕ひこうせいはんこん)をもっていることがあります。 経路Eはアレルギーマーチの状態を表しています。 アレルギーがT型が主体になると、経路@のコースを除いて湿疹はよくなります。 アレルギー鼻炎とドライスキンを残して、子供の時のアトピー性皮膚炎がすっかりよくなっている患者さんは、非常にたくさんいます。 アレルギー性の湿疹は、体の外からやってきたもので起きる外因性と、ずっと体の中にあるもので起きる内因性に分けられます。 内因性のアレルギーは、原因を除きにくく、成人型アトピー性皮膚炎に多く、直りにくい傾向があります。 外因性のアレルギーは、入ったところの周辺に発疹ができる場合と、体の中に入って全身に発疹ができる場合があります。 たとえば、乳児の頬部の湿疹は、ひどくなれば、乾燥肌に対する衣類・よだれなどの刺激に加えて、よだれの中の食物が直接顔について、あるいは口腔粘膜から吸収されて起こったアレルギーが原因になっています。 概して、刺激反応よりもアレルギー反応による発疹の方が、かゆみが強く、びらん・浸出液が加わり、皮膚表面の黄色ブドウ球菌の数も多く、症状が強くなります。 一方、外的な要因が湿疹を悪化させているとき、しばしば左右差がみられます。 たとえば、右手が利き腕の乳幼児は、一般に、右手で引っ掻くために、左肘窩と右膝窩、右頸部、右眼周囲がそれらの反対側より湿疹が悪くなります。 右手に鉛筆などを持っていると、空いた左手でひっかくために、右肘窩などが昼間の掻爬(そうは)で悪化します。 大人でも、夜間の掻爬は普通利き腕でやっています。 逆に、湿疹に何か左右差があるとき、外的要因を考慮することです。 外的要因として多いものは、ひっかくことの他に、外用剤を塗ることが悪くしていないかを忘れてはいけません。
たとえば、背中の中央に湿疹がないとき、そこをひっかきにくいことも考えられますが、塗り薬が塗りにくいためにかえって湿疹ができていない場合があります。 全身の特定部分が他より湿疹がひどいときは、その部分に何か湿疹を悪化させているものがないか検討すべきです。 そんなものとして、外用剤以外に、 露出部の日光を浴びやすい部分ならば紫外線の影響または何か浴びているもの、 衣類でおおわれているところなら衣類の接触皮膚炎、 汗のかきやすいところなら汗の影響ということになります。
アトピー性皮膚炎の湿疹はいろいろな形態をとり、その形態から原因を推測できることがあります。 たとえば、溶連菌性の扁桃炎や歯科金属によるアレルギーは、しばしば四肢などに貨幣状の湿疹を生じます。 掃除していないために起きるダニアレルギーの湿疹は、顔ではしばしば目の回りと鼻の下(鼻唇部)、汗の多い首、肘窩、膝窩などに多くできます。 湿疹は、紅斑・丘疹・結節など皮膚炎症の結果できた原発疹と、かゆみのためにひっかいたために修飾された続発疹(びらん、亀裂、痂皮)に分けられます。 丘疹・結節には、毛孔を中心としてできたもの、それとも汗孔周囲にできたもの、あるいはそれらに関係なくできたものに分けられます。 汗孔の周囲にできたものは、いわゆるあせも(汗疹)に相当します。 アトピー性皮膚炎の夏に悪化する湿疹はあせもと同じであるという説があります(アトピー性皮膚炎のあせも説)。
小学生でみられた線状型の湿疹です。 リンパ管に侵入した細菌やウイルスに対するアレルギーが考えられますが、虫刺症が原因の可能性もあります。 表皮母斑(列序性母斑)との鑑別は常に必要です。 ステロイド外用剤はあまり効果がありません。 湿疹として年余にわたって続くことがあります。 貨幣状型、環状型、痒疹型、線状型、乾癬型、斑状型などの特殊な発疹型は、アトピー性皮膚炎の特殊型です。 IgEアレルギーとは関係なく、内因性のことが多く、ステロイド外用剤に抵抗性であり、難治性です。 1.乳幼児アトピー性皮膚炎の症状 乳児のアトピー性皮膚炎は秋から冬に悪化し、夏には軽くなります。 生後4〜5ヶ月の母から胎盤を通じてもらったIgG抗体が少なくなる時期に、湿疹症状のピークがあります。(子供の症状・検査値の変化についてはこちらも参考にして下さい) 基本的作戦としては、症状が強くて睡眠に影響しない程度で経過をみながら、成長を待つ、夏季を待つということになります。 どんなにひどくても、たいていは、6月ころになればかなりよくなります。 秋から冬に悪化し、夏場に近くなってよくなるということは、あとでも述べますように、風邪など感染症が症状と密接に関係しているからです。 感染症にかかる機会は保育園や幼稚園に通っている兄姉がいると多くなります。(学会報告) 生まれたばかりの乳児(新生児、生後1カ月まで)は乾燥肌ではなく、特に顔面はむしろ脂が多い傾向があります。 そのために、頬部・額部に新生児ざ瘡、頭や顔に厚い痂皮かひ(かさぶた)におおわれた局面(脂漏性湿疹)ができます。 ほとんどかゆみはなく、石鹸で洗っているだけでよくなります。 これらはアトピー素因のある赤ちゃんに多く、しばしばアトピー性皮膚炎に移行します。 その後、顔や頭は急速に乾燥化し、時として洗いすぎたために湿疹ができていることに気がつかない場合があります。 一方、秋から冬にかけて、気候が寒くなり、乾燥してくると、体や手足のの皮膚が乾燥してきます。 特に風邪の後、発熱後、鼻水をいつまでも垂らしているときなどは、乾燥肌が悪くなります。 衣類でこすれやすいところ、肩、腕の外側、背中、腰の廻りの湿疹がひどくなります。 乾燥肌に対する刺激は、抱いたときに当たる衣類でも、よく起こります。 衣類で保護されたところはともかく、露出した顔面はほとんど皮脂がないために、外的な刺激に弱い状態です。 このときは、よだれや衣類の刺激から守るために、プロペトなどの少し油っぽい保湿剤が有効です。
生後4カ月の乳児アトピー性皮膚炎です。 よだれの範囲に湿疹がひどく、強い食物アレルギーを伴っています。 なお、まだ離乳食は始めていません。 びらん部を培養すると、黄色ブドウ球菌やA群溶連菌の他に、口腔内の常在菌やカンジダなどがみられます。 顔面の乾燥肌とこすれることで起きる刺激性皮膚炎です。 プロペト程度のステロイドを含まない外用剤で十分です。 光らない程度にうすく塗りましょう。 また生後3〜4カ月になると、かゆみがあると、ひっかくようになります。 ただし、頭の後ろ、背中、下肢などはまだうまくかけないために、衣類などにそこをこすったり、足と足でこするような掻破行動が見られます。 頭の後ろ(後頭部)をシーツにいつもこすりつけていると、ひどいときは脱毛が生じます。 乳児はかゆみがあると上手にかけないために、後頭部のかゆみには頭を左右に振って、シーツにこすりつけて掻きます。 そのためにしばしば脱毛局面が生じます。 この時期は、胎盤を通じて母親からもらったIgG抗体がなくなり、いろいろな病気にかかりやすくなるころです。 風邪などにかかってもなかなかなおりにくく、感染症のアレルギーがますます悪化することがあります。 後述します貨幣状型の発疹が、体全体にできてくるのもこのころです。
生まれてから5〜6カ月ころ、寝返りをするころになると、うつぶせで寝るために、頬部、耳周囲などは寝具からの刺激がさらに強くなります。 寝返りすると、肘の外側、膝の前がこすれるようにもなります。 6カ月ころから歯が生え始めると、とたんによだれが多くなります。 顔についたよだれの刺激とよだれに含まれる食物のアレルギーのためにかゆみがさらにひどくなります。 歯が気持ち悪いのか、いろんな不安を感じるようになってきたのか、いつも口の中に手を突っ込むようにも成ります。 この時期は人見知りもするようになり、ストレスで指をなめたりもします。 少しずつ手指で上手に引っ掻くようになります。 湿疹が悪化すると、かゆみが強くなり、ひっかいてびらんがひどくなり、黄色ブドウ球菌がつくとともに、浸出液が大量に出てきます。 皮膚の細菌培養をすると、黄色ブドウ球菌、MRSA、溶血性連鎖球菌(溶連菌)などの細菌が検出されたり、顔全体に単純ヘルペスが広がることがあります。 溶連菌による二次感染は比較的掻きやすいところ、顔に、年齢が進むと膝の前に多く見られます。
やがて、ひっかくのが、不器用ながらも。少しずつ上手になってきます。 それとともに、耳の上下の湿疹が亀裂になったり(耳切れ)、耳の前や後ろにもびらんを伴った湿疹ができます。 耳前にまで湿疹が広がった状態はかゆみが強く、かなり重症といえます。 とびひになる危険性もあります。 蕁麻疹を伴うようになると、入浴の時、服を脱がせたとたんにかきむしり、胸や腹、大腿にも掻破痕が広がります。 汗をかくとかゆくなり、汗の多いところ、肘窩、膝窩、脇の下の前後などにもひっかき傷のある湿疹ができます。 汗による刺激反応ですが、ダニ抗原など汗に含まれた成分によるアレルギーという意見もあります。 アセモ(汗疹)は、汗をかいて起きるアトピー性皮膚炎やじんましんの症状のひとつともいえます。夏の初めの汗のかきはじめに多く、ドライスキン程度の軽い炎症が汗孔や汗管をふさいでいるためという意見があります。 アセモは汗のたまりやすい背中や腰背部にもよくできます。ひっかくと、とびひになりやすく、要注意です。 耳切れと耳周囲の湿疹です。ひっかいて二次感染合併しています。 アクアチム軟膏の上に当科の混合調剤ALZ-1を重層しました。 頭部・顔面はガーゼや衣服で防護するのが難しく、引っ掻くのを止めるには、どうしてもステロイド外用剤を併用するしかありません。 とびぴにもなりやすく要注意です。 もし、ステロイドを外用したくないときは、亜鉛華軟膏を厚めにつけてガーゼ保護をするのがよいでしょう。 細菌培養すると、黄色ブドウ球菌が陽性でしたが、MRSAと溶連菌は幸い見つかりません(陰性)でした。 親指をなめてできた刺激性の湿疹です。 指をなめるのは様々なストレスが原因になっています。 最も多いものは、夫婦の不和、そして下にできた弟妹にばかり母がかかわって、自分を少しもかまってくれないことによる不満と不安です。 子供の前で夫婦けんかはやめましょう。 子育てには、いつも笑顔と明るい話し声が大事です。 外出するときは、少し重いかもしれませんが、上の子を母が抱いて、下の子はお父さんが抱くようにしましょう。 ストレスのために右手を口に入れる習慣がある幼児です。 指になめた刺激で湿疹ができています。 同時に頬部の右指の当たるところにも湿疹ができています。 指をなめる習慣を無理に怒って止めさせるのは好ましくありません。 まずストレスや不安がどこから来ているのか考えて下さい。 患者さんの精神的な発達を待つしかないかもしれません。 兄姉がいるとき、保育所などに預けているときは、生まれてすぐから風邪をひいたり、熱を出したり、時に水痘や麻疹にかかることがあります。 ウィルス性・細菌性の感染症にかかると、熱が下がってから、さらに乾燥肌がひどくなります。 とくに、だらだら鼻水が続いているときは、体幹・四肢に環状または貨幣状・円形の湿疹が散在性に現れます。これらの発疹は一つ一つがつながると、体全体の発疹になります。 これらの発疹は、ウイルスや細菌など感染症のアレルギー反応です。 体内に感染症が残っていると治りにくく、ステロイド外用剤に対しても効果が少ないようです。 個人差はありますが、湿疹がひどく見える割に、かゆみは余り強くないこともあります。 冬季の一時的な呼吸器の感染症によるものではなく、扁桃腺にしばしばついている溶連菌や腸内細菌などがアレルギーを起こしているときは、治りにくいのは当然です。 BCGやポリオ、ヒブ、肺炎球菌などの生ワクチンを接種してから、同じような発疹が体にできることがあります。(ワクチンについてはこちら) 三種混合ワクチン追加接種後にできた湿疹です。 どの成分か分かりませんが、ワクチン成分のアレルギー反応です。 ワクチン接種前の消毒によるアレルギー性接触皮膚炎を除外する必要がありますが、乳幼児はそのような例はとても少ないようです。 アルコールによる刺激性接触皮膚炎は、両親が全くアルコールが飲めなければ、このような発疹ができることがあります。 以前よりもワクチンの接種回数が多く、きわめて早い時期から接種していることもあり、集団で接種したり、感染症患者さんが集まっている小児科に出かけることもあり、一人っ子(一人目)でも感染症の機会が増えています。 また、重症の感染症にかかると、感染症に対応した免疫に転換し、アレルギーに関係した免疫状態ではなくなるために、一時的に湿疹が良くなることがあります。 なお、突発性発疹もまた、ウィルス感染後に起こる一種のアレルギー反応と考えられます。 なお突発性発疹を起こすウィルスは2種類あり、ヘルペス属のHHV-6、HHV-7と呼ばれています。 かぜをひくと、しばしば喘息様の気管支炎になります。 とくにRSウイルスやマイコプラズマ感染症は咳が強く、なかなかよくならないことも多いようです。 感染症が多少よくなって、熱が下がったあとは、全身かさかさになります。 免疫が低いために、乳幼児期に単純ヘルペスが広がった病態(カポジ水痘様発疹症)もしばしば認められます。 検査すると、異常に白血球が多く、IgG抗体やIgA抗体がとても低いアトピー性皮膚炎患児がいます。 非常に感染症に弱く、中耳炎その他でいつも抗生剤を内服しています。 そのような感染症を繰り返す乳幼児に、全身に著明な湿疹がみられることがあります。 このタイプのアトピー性皮膚炎患児は確かにアレルギーが強いことが多いのですが、IgEアレルギーが強くなければ、ステロイドを使わないでもすっかりよくなる場合が多いようです。 アレルギーが非常に強いときでも、成長とともに感染症に対する免疫ができるとともに、かなりよくなります。 三種混合(DPT)予防接種(追加接種)後、環状、貨幣状疹が悪化した患者さんです。 感染症のアレルギー反応でこのタイプの発疹ができています。 ステロイドを外用してもあまりよくなりません。 乳児でつなぎ服を着て、引っ掻けない時期のときは、アズノール軟膏程度で夏季を待つのもよいでしょう。 2歳児の感冒を繰り返す患者の背中の環状疹です。 水いぼの周囲にも、水いぼのアレルギーとして似たような発疹ができることがあります。 生後8カ月頃になりハイハイを始めると、ますます皮膚がこすれたり、汗をかくことが多くなります。 前腕の外側、膝や下腿の前面に刺激性の湿疹が広がり、手首や足首にも湿疹が現れます。 足首の湿疹は靴を履くようになるとさらに悪化します。 靴を履くところにできた湿疹、ひっかいて二次感染を起こしています。 抗生剤外用剤とステロイド外用剤に亜鉛華軟膏を重層してガーゼを巻いておくのがよいのですが、再発しやすいようです。 靴があたっていないか検討して下さい。 靴をはくときは必ず厚めの靴下をはくのがよいでしょう。 6カ月を過ぎると、歯が生え始め、よだれがますます多くなります。 それの刺激による湿疹が、頬部、あご、あごの下、首から胸に拡大します。 離乳食にアレルギーがあると、よだれの中の食物アレルゲンのためにさらに症状が悪化します。 離乳食を食べる前であっても、あごから首の前に湿疹がひどいときは、たいていは何らかの食物アレルギーを伴っています。 さらにひどくなると、顔全体にびらん・浸出液・痂を伴って、いわばキズだらけの状態で湿疹が拡大します。 びらん、浸出液を伴っているということは、アレルギー反応でかゆみが強く、ひっかいて黄色ブドウ球菌の感染が加わっているということです。 単に乾燥肌に対する刺激反応だけならば、このようにはなりません。 このときは、おかゆ(米)や野菜や果汁程度の蛋白質の少ないものは大丈夫ですが、ウドンやパンなどの小麦製品、豆腐などの大豆製品など蛋白質が多く含まれるものは、最初ごく少量与えて、かゆみやじんましんや湿疹がひひどくならないか注意深く観察した方がよいでしょう。 白身魚その他、母乳栄養のときの人工乳も要注意です。 ほとんど全員に卵白アレルギーがありますので、いきなりたくさん現物の卵製品を与えるのは危険です。 食物アレルギーを伴ってくると、上手に引っ掻く回数が多くなり、二次感染を伴い、外用剤でよくなってもすぐに悪化することを繰り返します。 それでも、夏場になると、結構よくなります。 子供特有の遊びでも悪化します。 砂場や粘土遊びでは手や下肢に湿疹が生じます。 母と一緒に風呂場で水遊びを毎日していると、母にできる主婦湿疹のような手湿疹ができることもあります。 手湿疹はボール、バット、積み木、その他いろいろなおもちゃでも作られます。 子供の精神的・肉体的発達を考えると、手の湿疹はある程度やむ得ないことと考えられます。 ウイルス感染症のアレルギーで、手指や足指の皮がむけることがあります。
2. 小児アトピー性皮膚炎の症状 小児期になると、日常遊びなどで汗をかいていることもあり、乳幼児より乾燥肌による影響が減ってきます。 冬季、ひどいときは全身粉が吹いたような乾燥肌(小児乾燥性湿疹)になることもあります。 かゆみは強くなく、むしろ夏季に汗部位に湿疹が悪化します。 汗をかく時期は感染症が多く、これを繰り返していると難治化します。 成人型のアトピー性皮膚炎に変化するきっかけになる場合があります。 というものの、汗は確かにこの時期の悪化の原因になっていますが、スポーツをやめて全身に悪化する例があるように、汗は皮膚に水分や油分を補い、ドライスキンを軽くしていることもあります。 汗が多いと、まず汗のたまりやすい所(肘窩、膝窩、手首、足首、腋窩(わきのした)の前後、首)に湿疹ができます。 勉強する前の幼児期には、右利きのとき、左肘窩・右手首と右膝窩と右のおしりが知らずにひっかいて悪化します。 これが逆のときは、潜在的に左利きのことが多いようです。 勉強するようになると、普段右手に鉛筆を握っているために、左手でひっかくようになります。 最初は、夏だけで冬にはよくなることもあります。 一年中症状が続くようになると、びらんがひどくなり、皮膚が厚く硬くなったり(苔癬化)、色素沈着を伴ってきます。 汗のたまるところが顔の場合、たとえば剣道などでは、顔全体に湿疹ができることがあります。 帽子をかぶるスポーツは、額に湿疹ができやすいようです。 頭の後ろは、汗がたまったり、入浴後の残ったシャンプーやリンス、水でぬれている状態が皮膚刺激となり、湿疹ができることがあります。 上肢内側の掻破痕(ひっかき傷)と紅斑、丘疹です。 いわゆるあせも型の発疹です。 ステロイド外用剤を使用しているために湿疹としては強くなく、引っ掻くのを止めるためには抗アレルギー剤の内服が必要かも知れません。 ステロイドを使いたくないときは、夏季にはカチリもよいようです。 肘窩の慢性化した湿疹です。 小児型アトピー性皮膚炎は、汗のたまりやすいところ(肘窩、膝窩、腋の下の前後、クビ周囲、鼠径部など)に湿疹ができやすいという特徴があります。 ひっかき傷とひっかいたことでできた湿疹があり、湿疹が長く続いているために少し苔癬化しています。 遊びやスポーツでも手湿疹はよくできます。 ボールを使う競技で手指に多少とも湿疹ができるのは仕方ないかもしれません。 テレビゲームは手指の他に、同じ姿勢を長く続けるために、臀部にもよく湿疹ができます。 裸足でゴム靴を履いていると、足底に湿疹ができることもあります(ズック皮膚炎)。 学校や幼稚園、塾などに行くようになると、長く座ることになれていないために、臀部や大腿後面に汗をかいて湿疹ができやすくなります。 この湿疹は、座ることが悪化要因になっているために、かなりなおりにくいようです。 正座すると、下腿の前面の乾燥肌がひどくなります。 座るところを中心にできた臀部の湿疹です。 ひっかいてびらんや浸出液を伴っていることもしばしばです。 スイミングに通うと、塩素入りの水が刺激になり、冬場はとくに全身の乾燥肌が悪化します。 さらにスイミングでは、とびひ(伝染性膿痂疹)や水いぼ(伝染性軟属腫)にしばしばかかります。 ゴーグルで眼囲に湿疹ができることがあります。 一般に、塩素の多いプール(学校のプール、市民プール)は感染症は少ないかわりに、乾燥肌はひどくなります。 一方、スイミングスクールのプールは塩素が少なくしていることがあり、感染症が多い傾向があります。 それでも、湿疹のあまりひどくないアトピー性皮膚炎のときは、スイミングスクールがむしろよいことがあります。 夏は、ドライスキンも比較的少なく、塩素の多い学校のプールや市民プールで游ぐのをすすめています。 もちろん、とびひには要注意ですが、全身を洗浄する効果があります。 ゴーグルによる刺激性皮膚炎です。 普通左右対称に、ゴーグルに一致してできます。 ひっかくとその部分の症状はさらに悪化します。 治療は、とりあえずゴーグルの素材をアレルギー用に変更し、プロペトなどの保湿剤の外用です。 どうしてもよくならなければ、ステロイドの眼軟膏かプロトピック軟膏(子供用)を使うしかないかもしれません。
吸入性のアレルギーの強い患者(つまりダニやペットなどのRAST値が高値)は、乳幼児期を過ぎると、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎に移行する場合があります(アレルギーマーチ)。 気管支喘息は、季節の変わり目に感冒にかかり、外出などで疲れたときに出やすくなります。 運動後、笑ったとき、花火などを吸い込んでも発症します。 発作が起こると、それの治療が湿疹に対しても効果があることがあり、湿疹が軽くなる場合があります。 たとえば、発作時に知らないまま点滴されたステロイドが、一気に湿疹を一時的に改善することがあります。 そのステロイドの効果がなくなると、正常免疫も低下しているために、点滴する前より湿疹が悪化します。 喘息発作が出なくなった頃から、湿疹が始まったり、再発する患者もいます。 ステロイドの吸入剤(フルタイド/アドエア、パルミコート/シンビコートなど)や点鼻剤や点眼剤(フルメトロン0.1)は、顔の湿疹に対しても効果があります。 ステロイドの吸入を止めたり、吸入量が減ると、とたんに顔面や前胸部の湿疹が悪化します。 とくに、ステロイドの点眼は、眼囲の湿疹を悪化させます。 アレルギー性鼻炎(花粉症)やアレルギー性結膜炎が始まると、鼻の周囲、特に鼻唇部、眼囲にかゆみが出現し、徐々に湿疹に変化します。 セレスタミンなどのステロイドを鼻炎で内服すると、途端に湿疹もよくなり、一方それを止めると、たちまち湿疹が内服前よりも悪化することがあります。 短期間なら大丈夫ということはありません。 ステロイドは子供には、成長障害もあります。 鼻アレルギー(アレルギー性鼻炎)による鼻唇部の苔癬化した局面と口唇炎・口角炎です。 頻繁に鼻をかんだり、かゆみでこするために慢性化し、苔癬局面になっています。 鼻炎の治療、つまり抗アレルギー剤の内服を併用する必要があります。 単純ヘルペスのアレルギーによるものではないか、確認して下さい。 アレルギー患者は、概してストレスに対して抵抗性がありません。 幼稚園に入学し、母親から離れたというだけで精神的な不安に陥り、それほどかゆくないのに実際以上に引っ掻いてしまう例があります。 患者の多くは、きまじめで、融通が利かず、変化が苦手で、同じことをやりたがる傾向があります。 アトピー性皮膚炎があるために、学校で「アトピーいじめ」を受けることがあります。 低学年に多く、「バイキン」「きたない」などの言葉のいじめ、手をつないでくれない、仲間はずれにするなどといった態度によるいじめがあります。 中学生くらいになると、「メール村八分」もあります。 先生の対応が何よりも重要です。他人にうつる病気ではないこと、相手に対する思いやりの気持ちなど、クラスの中で十分話し合っておく必要があります。 いじめられると、ひきこもりや登校拒否にしばしば発展します。 患児の性格も重要な要素です。そんな性格は家族や日常生活がつくるものです。 以前より肉体的には様々な鍛錬療法、たとえば水かぶりやスイミングが気管支喘息で行われています。 軽いドライスキン程度ならともかく、重症のアトピー性皮膚炎にはスイミングは向いていないことがあり、野球、サッカー、陸上などの屋外のスポーツをすすめています。 とくに、冬場のスイミングは、アレルギー体質があると、ドライスキンをさらにひどくして、湿疹を誘発する可能性があります。 とびひやみずいぼに感染して湿疹を悪化させることもあります。 というものの、軽症〜中等症のアトピー性皮膚炎にはスイミングはよいことも多いようです。 また、体育館のスポーツはほこりが多く、鼻炎・喘息など呼吸器にアレルギーがあると好ましくありません。 一方、屋外のスポーツは、当然のことながら花粉や日光の影響も受けます。 また、汗の影響も無視できません。 それならどんなスポーツがよいのかとなります。 湿疹が軽症なら、スイミングがよく、汗や日光でそれほど悪くならないなら野球やサッカーも悪くありません。 ただ、集団スポーツは本人が調子悪いときに休みを取りにくく、単に疲れるだけで、免疫の活性化に役に立つとは限りません。 やはり、個人スポーツの方がよいかもしれません。 日本の事情を考えると、陸上やテニスが休みやすいということにはならないかもしれませんが・・・ 湿疹が汗部位を超えて広がっているような重症患者さんには、汗をかくスポーツは向いていません。 日光は毎日浴びていると影響が少ないことが多く、むしろ室内に閉じこもっている患者がたまに外に出たとき強い影響を受けます。 子供は大人と違って、普段から日光を浴びています。 小児期は、顔に湿疹が少ないことから、かえってそれで湿疹が押さえられていると考えることもできます。 それでも秋の運動会のシーズンに悪化する患者は少なくありません。 この時期、汗やほこり、キク科の花粉の影響が大きいようですが、夏休みの間ずっと冷房の中に閉じこもっていて、日光でひどくなったという女の子もいます。 健全な体の成長がアレルギーを押さえていくことから、発達障害、心臓の病気や脳性麻痺など他に内科的な病気があると湿疹が出やすく、また直りにくい傾向があります。 脳は運動・知覚神経の中枢ですが、同時にホルモンの分泌の制御や免疫系の制御、自律神経の制御もつかさどっています。 それだけに、ADHD、てんかんや脳性麻痺がある患者のアトピー性皮膚炎はなおりにくいと言えます。 3. 成人アトピー性皮膚炎の症状 まず成人とはいくつからということになりますが、私は、女の子なら初潮が始まった頃、男の子なら声変わりして陰毛が生え始めた頃と考えています。 早ければ、小学校高学年にも相当します。 それでも、小学校高学年から中学生にかけては、精神的・肉体的ストレスが少ないせいか、最も症状がよくなる時期です。 小児型のアトピー性皮膚炎の特徴は汗部位(間擦部)の湿疹ですが、成人型のアトピー性皮膚炎の特徴は顔面と体幹・四肢伸側の湿疹です。 成人のアトピー性皮膚炎は多分に感染症が原因となっています。 慢性扁桃炎の溶連菌など病巣感染がしばしば湿疹の原因となっているために、ステロイドを外用してもなかなかよくなりません。 近年、腸内細菌が正常でないために、異常な腸内細菌・カンジダなどが湿疹の原因になっているといわれています。 腸内細菌にはビフィズス菌などいろいろありますが、正常な腸内環境を作るために、ヨーグルトなどを摂取して、アトピー性皮膚炎を改善させる試みが行われています(プロバイオティクス)。 結局のところ、アトピー性皮膚炎患者さんは、白血球の機能に異常があるために、感染症に非常に弱いところが、湿疹ができる根本原因となっていることがあります。 となると、何らかの方法で白血球の機能を改善すればよいということです。 それに対して現在行われていることといえば、漢方やヨクイニン、ビタミン剤、ビオスリーなどの乳酸菌製剤、ビオチン(ビタミンH)などの内服です。 抗生剤は一時的に感染症は改善しますが、白血球の機能を改善することはありません。 成人男性の肘外側の苔癬化した湿疹です。 彼は慢性の扁桃炎があり、時々疲れると発熱します。 常に便が軟らかく、下痢になることもあります。 なお、成人型アトピー性皮膚炎は女性と男性の比率は、2:1で女性に多く、そこにもまた原因・悪化要因が隠れています(乳幼児のアトピー性皮膚炎の比率は大体1:2)。 高校生になったころより、乳幼児期にみられた顔面、体幹・四肢の伸側の湿疹が、再び同じところに広がってきます。 早ければ、小学生・中学生でも同じ様な湿疹が見られます。 ステロイド外用剤で多少よくなっても、原因や悪化要因の治療でないために、ひどくなれば、毎日塗っていないとすぐに悪化します。 少しずつ湿疹の範囲が拡大し、どうしてもステロイド外用剤を止められない状態になります。 頭部の湿疹については、「治療計画」の章で述べていますので、そちらを参考にして下さい。 ただ、頭部も顔面の一部で、髪の毛が生えているだけです。 髪の毛がなくなれば、顔面の延長みたいなものです。 といことは、顔面の湿疹が強いのにもかかわらず、頭部の湿疹がそれほどひどくないときは、何か理由があるはずです。 被髪頭部と顔面の湿疹が同じくらいひどいときは、頭部の湿疹の原因が顔面にも及んでいる可能性があります。 一方、髪の毛は皮膚の保護になり、紫外線もカットします。 顔面の湿疹はなおりにくく、成人型で特徴的です。 乳幼児の顔面の湿疹は色素沈着を残さずよくなりますが、成人の場合は完全に元の肌に戻るのは難しいかもしれません。 顔面の湿疹の原因として、
などが考えられます。 パンダ徴候です。 この場合は、上記のCに相当するものです。 鼻炎があるために鼻孔周囲に湿疹ができています。 耳周囲にも湿疹がある場合があります。 いわゆる逆パンダ徴候です。 上記の紫外線が関係したHによるものです。 成人型のアトピー性皮膚炎では、しばしば顔全体に湿疹が広がります。 額部はしばしば汗をかいて悪化します。 パンダ型の湿疹が、上記の@、D、Gが重なって、さらに悪化します。 特にDの問題は難物です。 それでも鼻は皮脂が多いために、湿疹が軽いことが多いようです。 顔面の湿疹の治療はとにかく出来はじめの最初が重要です。 外用剤で直してしまうことを考える前に、まず顔に湿疹が出来た理由をじっくり考えてみて下さい。 ステロイド外用剤やプロトピック軟膏でとりあえずよくしようなどと考えていると、なおらないまま薬剤の副作用が加わるだけです。 顔面の湿疹は外から見えるために精神的影響が大きく、それを化粧で隠そうとすると、かえって悪化したり、ステロイド治療によって悪循環を招くことがあります。 ステロイド外用剤を長期に顔面に使用していると、徐々にニキビ様の発疹が出来てくることがあります。 ステロイドの外用をやめると、顔が真っ赤に腫れることがあり、ステロイド皮膚炎(酒さ様皮膚炎)と呼ばれています。 成人型のアトピー性皮膚炎の顔面の湿疹はこのステロイドざ瘡によく似た状態です。 成人になると、個人差もありますが、湿疹のために色素沈着が避けられず、ステロイド外用剤の使用の有無に関係なく、皮膚が黒ずむ傾向があります。 特に、首の回りは、衣類による皮膚刺激と汗の影響が強く、しばしば線状、さざ波状の色素沈着が見られます(ダーティネック症状)。
かゆみの程度を数値化する試みとしてVisual Analogue Scale (VAS)があります。 ステロイド外用剤を使っていると、小児型アトピー性皮膚炎でみられた肘窩などの間擦部の湿疹はなくなり、四肢の伸側、体幹に湿疹が広がることがあります。 たとえば、肘窩の湿疹はステロイド外用剤で簡単によくなるのに対して、四肢伸側や体幹の湿疹はステロイド外用剤だけでは改善されないということを表しています。 このことは、ステロイド外用剤以外の治療も検討する必要があることを示しています。 症状が重症化すると、湿疹は治りにくく、そのうちに慢性化して、背中や肘外側などは苔癬化して、皮膚が硬くなります。 苔癬化局面は吸収が悪く、ステロイド外用剤は効きにくいようです。 ケガをしたところや手術の傷跡が盛り上がりやすい(肥厚性瘢痕)患者さんが、苔癬化しやすい傾向があります。 強いステロイド外用剤を使っていると、痒疹になったり、皮膚が薄くなります。 痒疹はいわばステロイド外用剤が作ったものですが、ステロイド外用剤のレベルを下げると、痒疹の間に紅斑が現れることがあります。 最初から痒疹型を示していることもありますが、ステロイドのつくった二次的なものである方が多いと思われます。 なお、痒疹型や貨幣状型の場合は、普通間擦部に発疹は認められません。 ひっかいていると皮下にアミロイドが沈着し、かゆみの強い黒い点状丘疹がおろし金のように多数できることがあります。 アミロイドは表皮下、真皮乳頭突起部に沈着した蛋白質ですが、全身性のアミロイドーシスとは病気が異なります。 ナイロンタオルでごしごしこすると黒色局面ができ、ナイロンタオル皮膚炎(摩擦皮膚炎)と呼ばれますが、これに近い病態です。 成人期は特に仕事の内容が症状に関係しています。 主婦は家事・育児のために手湿疹が多く、使ったゴム手袋の接触皮膚炎のために手背にも湿疹が広がる場合があります。 指輪・ネックレス・ピアスなどの金属でも接触皮膚炎を生じます。 そんな患者は、歯科金属で下腿などに貨幣状型の湿疹ができる場合があります。 金属は一度体内にはいると外に排出されにくく、穀類などの食物や飲料水にもかなり含まれており、それだけ難治性です。 また他のタイプの湿疹や蕁麻疹を作ることもあります。 なお、手背に湿疹がある女性で、ワセリンを含めてすべての外用剤に対して接触皮膚炎を起こすために、外用剤が何一つ使えない例があります。 手背は最も感作されやすい部位ということになります。 手湿疹は、美容師、理容師、調理師などの従事者でもよく起こります。 事務職のOLでも、会社でやったちょっとした水仕事でできることもあります。 手湿疹は、それまでよくなっていたアトピー性皮膚炎の再発の引き金ともなります。 ちなみに、体のどこかに湿疹があって、その湿疹がよくならないために、体の他の部位に湿疹ができることを自家感作性皮膚炎といいます。 手湿疹のために、それまでよくなっていた肘窩の湿疹が悪化することがあります。 手に使っていたステロイドをやめたとたんに、全身に湿疹が拡大した患者もいます。 手湿疹の症状が続いていると、しばしばカンジダなどの真菌(カビ)が湿疹の上に乗っかることがあります。 指間の間に多いようですが、手のどこにでもカビはつきます。 また、庭仕事で土の中の土壌カビが手に付くことがあります。 真菌にステロイドを外用すると、免疫が低下するために、カビは増えます。 湿疹に抗真菌剤を外用すると、たいていは湿疹が悪化します。 このときは、弱いステロイド外用剤で湿疹を軽減しながら、主に抗真菌剤を外用するしかないようです。 なお、土壌カビに足の水虫の抗真菌剤が効くとは限りません。 皮膚の奥にカビが入りこむと、外用剤だけでは治らないことも多いようです。 単なる手湿疹であれば、このように正常皮膚との境界がはっきりするということはありません。 何かが繁殖しているために、このように境界がはっきりしているのです。 この患者さんは、近医でずっとステロイド外用剤を処方されていて、よくならないということで、当科受診されました。 検鏡で真菌がみられました。 抗真菌剤の外用でよくなりました。 接触皮膚炎は、他にストッキングや化学繊維などの衣類でも多く見られます。 衣類は刺激の少ない綿が望ましいと言われますが、近年は様々な染料、蛍光剤、抗菌剤、防かび剤、形状記憶剤で加工処理され、残留した洗剤の影響も無視できません。 これらの衣類は、乾燥肌に対しては刺激性皮膚炎の原因にもなります。 頸周囲、肩、背部、上腕伸側、腰周囲、大腿や下腿の伸側は、衣類が密着するために、湿疹の出来やすいところです。 男子中高生の制服で首回りの湿疹が悪化するのは多少仕方がないことかもしれません。 男性の場合は、日常従事している仕事で湿疹ができます。 いつも排気ガスを吸っている運転手、ほこりを全身に浴びている建設業者、機械油や金属屑でまみれている旋盤工、油などの有機化合物で一杯のガソリンスタンドなど、事務仕事を除けばアトピー性皮膚炎の悪化要因にならない仕事はないといった状況です。 事務屋であっても、朝早くから深夜まで働かされ、エアコンや壁から放出された化学物質の影響をこうむり、上司や同僚からいろんなストレスにさらされ、結局はアレルギーを含めて様々な内科疾患で倒れることになります。
内科的要因がアトピー性皮膚炎と診断される湿疹を作っていることがあります。 すなわち、 C型肝炎やB型肝炎などのウィルス性肝炎、自己免疫性肝炎、その他慢性肝炎、肝硬変などの肝臓の病気、 いろいろな慢性腎炎、ネフローゼなどの腎臓の病気、 子宮内膜症、卵巣嚢腫などの婦人科の病気、 橋本病、下垂体機能不全などの内分泌の病気、と きに肝臓・胃・肺などの腫瘍でも アトピー性皮膚炎によく似た湿疹が現れることがあります。 たとえば、胆嚢炎や卵巣嚢腫(チョコレート嚢胞)の手術後にアトピー性皮膚炎がよくなった例があります。 肝臓の腫瘍を手術して湿疹がよくなった患者もいます。 大腸ポリープの術後に湿疹が軽快した患者もいます。 ちなみに、それらの腫瘍の多くは良性ですが、悪性のものもあります。
ただし、内科的要因がアトピー性皮膚炎に似た湿疹を作っているとき、多くは肘窩などの間擦部には皮疹はなく、痒疹、貨幣状その他の典型的でない形状の発疹形態をとります。 検査すると、IgE抗体、RAST値が陽性のこともありますが、たいていは陰性です。 中年以降になると、しばしば内科疾患のために薬剤を内服しています。 日頃薬を飲んでいなくても、私たちの周りは薬のようなものであふれています。 食品には、農薬や添加物、養殖ものなら抗生物質が含まれ、外の出ると排気ガスや殺虫剤、家の中でも防腐剤、芳香剤、防虫剤などいろんな薬剤に似た物質で一杯です。 これらの化学物質は一種の薬疹・中毒疹として全身に発疹を作ります。 特殊な形態の発疹もありますが、全身にびまん性に紅斑が広がっていることも多く、肘窩に発疹あるような典型的なアトピー性皮膚炎もみられます。 起きる症状が一気に全身に現れるのではなく、年月をかけて少しずつ広がるときは、そんなものが原因と考えることもないようです。 原因を特定するときは、湿疹が出来はじめの最初が大事です。 つまり、詳細な問診が重要ということになります。 ヒトは忘れっぽいものです。原因がよく分からなければ、毎日の症状の変化と日常生活のエピソードを記載したアレルギー日記をつけるのもよいかもしれません。
成人になり初めて発症したアトピー性皮膚炎は、何らかの原因があって発疹が出現していると考えられます。 しかし、その原因はしばしば内科的なものであり、止めるに止められない仕事ということもあります。 結局は、症状をコントロールするために、ステロイド外用剤に頼ることになります。 それは時として外用剤による接触皮膚炎や、ステロイドを塗っても良くならない状態(不応症)などを招きます。 ステロイド外用剤がきかないと感じると、患者はしばしば外用を中断しがちです。 そうなると、時としてリバウンドのために湿疹が全身に拡大し、家から一歩も出られないようになります。 湿疹は一度広がると、ステロイドを再開してもなかなか元には戻らず、外から見えるために精神的にも影響を受けます。 ステロイドなしでじっと耐えているとそのうちに少しずつよくなることもありますが、少しもよくならないままギブアップとなる例もあります。 それだけに、ステロイドをやめるときはそれなりの覚悟は必要です。 まず自分の症状がステロイドを中止することでよくなる可能性があるか、客観的に判断する必要があります。 アトピー疾患は様々なストレスで悪化します。 たとえば、仕事が忙しくなり、初めてアレルギー性鼻炎が出たというような患者は少なくありません。 アレルギーは生まれつき持っているものです。 それまで何とか発症せずに過ごしていただけかもしれないのです。 「人類、皆、アトピー」という説があります(アトピー進化論)。 アレルギーを持つことで現代人は生き残ってきた可能性があり、何かの拍子にアトピー疾患にかかる危険性は誰でも持ち合わせています。 Copyright © 2003 Endou Allergy clinic All Rights Reserved |