6.アトピー性皮膚炎の合併症 目次 *病巣感染 *川崎病(MCLS)診断の手引き (1).細菌感染症 とびひ、もうのう炎・せつ(おでき)、にきび(尋常性ざ瘡) (2).ウイルス感染症 単純ヘルペス・カポジ水痘様発疹症、水イボ、尋常性疣贅 (3).真菌感染症 白癬、炎症性白癬(ケルズス禿瘡、白癬性毛瘡、カンジダ性毛瘡)カンジダ、 癜風 *トンスランス感染症、尋常性毛瘡 (4).皮膚科合併症 光線過敏症、慢性蕁麻疹、コリン性蕁麻疹、 口唇炎、接触皮膚炎、アトピー性脱毛症、様々なタイプの薬疹 (5).眼科合併症 アレルギー性結膜炎、春季カタル、白内障、網膜剥離、 緑内障、水疱性角膜症、円錐角膜、角膜ヘルペス、ドライアイ他 (6).耳鼻咽喉科合併症 アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、扁桃炎、中耳炎 (7).内科合併症 気管支喘息、アナフィラキシーショック、アトピー性脊髄炎、 偏頭痛、高尿酸血症・痛風、高血圧 もともとアレルギー体質のある人は、細菌やウイルスに対して弱い(白血球の働きが弱い、抗体ができにくく、下がりやすい)傾向があります。 そのために、子供の頃よりいろんな感染症にかかりやすく、カゼばかりひいているという患者は少なくありません。 たとえば、アレルギーのある患児には、虫歯がよく見られます。 原因として食生活もありますが、これも感染症に弱い体質を表しています。 アレルギー患児にみられるう歯(虫歯)です。 歯並びがよくないこともアレルギー患者に多いかもしれません。 アレルギーがあると、扁桃腺が肥大している人も多くみられます。 少し疲れたり・睡眠不足になると、扁桃についている溶連菌が血中に入り、高熱が出ます。 扁桃組織は咽頭・喉頭壁に広がり、アデノイドとなって大きくなっていることもあります。 風邪をひくと、アデノイドがさらに肥大するために耳管が閉塞します。 そうなると、滲出性中耳炎をしばしばくりかえします。 扁桃腺が肥大し、溶連菌などが常在しているということは、口から肛門までの口腔・食道・胃・小腸・大腸・直腸の粘膜にも異常な微生物のフローラが存在する可能性を示しています。 粘膜系は、腸管以外にも、腎臓・膀胱・尿管、胆管・膵管、膣・卵管などにもあります。 体内に細菌やウイルスがひそんでいて、それがアレルギーの原因になっている状態を病巣感染といいます。 この現象は、体内にアレルギーの原因がいつも巣くっているということです。 ひどくなったり、よくなったりを繰り返したり、ストレスや疲れで悪化する説明にもなっています。 抗生剤は、確かに一時的に細菌などを減らす効果はあります。 しかし、感染症に対して弱い(易感染性)体質を、根本的に改善するものではありません。
抗生剤ばかりのんでいて、健常な腸内細菌が育たず、便秘や下痢便になったり、様々な耐性菌やカンジダのようなカビが増えていることがあります。 潰瘍性大腸炎もそんな腸管内の感染微生物のアレルギーと考えられ、アトピー性皮膚炎患者さんに多い傾向があります。 主に4歳以下の乳幼児でみられる川崎病(小児急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群 MCLS)は、溶連菌などの感染症のアレルギーが原因として疑われます。 症状としては、感染症に起因する多型滲出性紅斑・スチーブンスジョンソン症候群と手足の落屑性紅斑に、心血管系や消化器系の血管炎を合併しています。 川崎病でみられる膜様落屑に近い症状は、こ゜く軽いものが、様々なウイルス感染症や溶連菌感染症のアレルギー症状の一つとして、しばしば外来患者でみられます(感染症アレルギー性落屑性湿疹)。 この川崎病も、アレルギー疾患の患者でしばしば既往歴としてみられます。
黄色ブドウ球菌は本来キズが化膿したときに増える細菌です。 湿疹はひっかいていることも多く、アトピー性皮膚炎の湿疹にはたいていこの黄色ブドウ球菌がついています。 逆に黄色ブドウ球菌が培養されない湿疹はアトピー性皮膚炎らしくないともいえます。 疲れると、口の周りに単純ヘルペスを繰り返す人にも、多くはアレルギー体質があります。 合併症を考えるとき、単にアトピー性皮膚炎患者でしばしばみられるものと、合併した病気がさらにアレルギーを強くしたり、湿疹状態を悪くするものがあります。 一方で、合併したものが、アトピー性皮膚炎をむしろ軽くしたり、軽くなり始めた信号のようなものがあります。 20歳を過ぎてニキビ(尋常性ざそう)がなおりにくい人は、少なくとも鼻炎などのアレルギーをもっているのが普通です。 細菌感染症は確かにアトピー性皮膚炎のアレルギー要因・悪化要因になります。 ニキビのように、アトピー性皮膚炎さんの顔にニキビが出来はじめると、顔の湿疹がよくなる傾向があります。 同じことは単純ヘルペスについてもいえます。 ずっと湿疹の調子のよい患者にヘルペスがでるときは心配ですが、湿疹の調子のよくない患者に単純ヘルペスができるようになると、湿疹がよくなるのではと期待しています。 難しいところですが・・・ 他によくなる傾向を表すものに、いわゆるT型アレルギーの要素が表面に出てくることが上げられます。 つまり、皮膚では、湿疹に埋もれていて見えなかった又は湿疹のために抑制されていた蕁麻疹が、入浴後などに、はっきりとかゆみとともに現れることです。 気管支から肺については、あまり有り難くないことですが、アレルギー性の咳嗽や気管支喘息となって現れます。 耳鼻科的にはアレルギー性鼻炎や花粉症がひどくなります。 慢性化すると、慢性副鼻腔炎・蓄膿症となり、再び湿疹の悪化要因をかかえることになります。 ときに、食物アレルギーとして、モモなどを食べて口の周りや全身に蕁麻疹ができる口腔アレルギー症候群(OAS)が出現する患者もいます。 もちろん、湿疹がよくなって、他に何もないのが一番なのですが、成人になっても皮膚のドライスキンと花粉症くらいは残っているのが普通です。 下記の表は、アトピー性皮膚炎の合併症となっていますが、アレルギー体質に伴って見られる病気とした方がよいかもしれません。
1. 細菌感染症
@.伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん)(とびひ) 伝染性膿痂疹は、とびひとも呼ばれ、皮膚に細菌が繁殖し、ひっかいたり、触ったりすることで全身に広がる疾患です。 乳幼児や小児のアトピー性皮膚炎でしばしば見られます。 とびひは春から夏にかけて多く、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のほかに溶血性連鎖球菌(A群β溶連菌Streptococcus pyogenes)が原因となります。 小さな円形の噴火口のようなものがたくさんできたとき、黄色ブドウ球菌によるとびひを疑って下さい。 黄色ブドウ球菌のとびひには、ふつう発熱はありません。 溶連菌のとびひでは、膿が上についたような発疹が現れます。 ひどいとき、37℃〜39℃程度の発熱が見られることがあります。 とびひは、プールや入浴で感染する場合が多いようです。 兄弟や友達からの接触感染も少なくないと思われます。 虫刺されでひっかいているうちにとびひになることもあります。 けがしただけで、とびひになることもあります。 数が少なく、小さな範囲ならば、イソジン消毒(使いすぎると刺激になります)、抗生剤の外用剤(アクアチム軟膏・クリーム、テラマイシン軟膏(現在は市販のみ)・アクロマイシン軟膏、ゲンタシン軟膏、アイロタイシン軟膏など)がよいでしょう。 感染したところのびらんが強ければ、亜鉛華軟膏を重ねて外用し、ガーゼなどでおおって、触らせないようにすることで対処できます。 しかし、 ある程度以上広がったとき、 顔面などガーゼでおおうことができない露出部にできたとき、 原因細菌が溶連菌のときは、 抗生剤の内服が必要になります。 湿疹の上にとびひが広がったときは、湿疹がかゆいために引っ掻いてしまい、抗生剤の外用だけではよくならないことがあります。 とびひの原因となった湿疹を治すために、弱いステロイド外用剤含んだ抗生剤(たとえばテラコートリル軟膏)やALZ-1を用いて、そこにある湿疹も同時に治療する必要があります。 ステロイドを強くすると、免疫が下がり、かえって細菌が増えることがあります。 黄色ブドウ球菌にアレルギーがあると(現在黄色ブドウ球菌の毒素エンテロトキシンA (SEA)とB (SEB)について、RAST値を検査できます)、かゆみが強くてひっかきやすく、とびひがなかなか治らないことにもなります。 とびひをくり返し、抗生剤の内服を繰り返していると、黄色ブドウ球菌が抗生剤に効かない耐性菌タイプ(MRSA)に変化する場合があります。 とびひができたときは、細菌培養をして原因菌とそれの抗生剤の感受性(どんな抗生剤が効くかどうか)を確認した方がよいでしょう。 当科でも、とびひの患児を培養すると、おおよそ4〜5人に一人程度の割合で、MRSAが見つかります。 そんな患者は、それまで繰り返して、風邪などで抗生剤をもらっているということでもあります。 SSSS(Staphylococcal Scalded skin syndrome)は、黄色ブドウ球菌の毒素(exfoliative toxin)によって起きる、やけどに似た重症の感染症です。 とびひから始まることが多く、とびひとちがってしばしば発熱を伴い、やけどのようにズルッと皮膚がはがれます。 治療は、ひどいときは入院して、抗生剤の内服または点滴が必要です。 しばしばMRSAが原因になっています。 A群β溶連菌によるとびひは、膿をもったブツブツが多発します。 しばしば、発熱・倦怠感などの全身症状を伴います。 溶連菌は繰り返すと、ときに腎炎(尿を検査しますと、しばしば蛋白尿や血尿がみつかります)や心内膜炎などの原因になります。 しばしば学校健診で蛋白尿や血尿が見つかります。 腎炎などの合併症があるとき、頻繁に高熱を繰り返すとき、扁桃摘出(扁摘)の適応になります。 扁桃炎の発熱は、疲れやストレスがきっかけに繰り返します。 抗生剤なしで、1日でよくなることがあります。 しかし、A群β溶連菌が皮膚に広がったときは、消毒や抗生剤の外用剤のみでは対応できない場合が多く、抗生剤を内服又は点滴する必要があります。 溶連菌のとびひは時間単位であっというまに拡大する傾向があります。 夜間、休日は急いで近医を受診してください。 溶連菌は、扁桃に常在しているために、アトピー性皮膚炎の重症化の一因にもなります。 A群β溶連菌は、とびひの他に、猩紅熱(しょうこうねつ)(いちご舌がある)、丹毒、蜂窩織炎(ほうかしきえん)などの感染症を起こします。 A群β溶連菌に対しては、血液検査でASO値が参考になります。 溶連菌には、A群β溶連菌以外に他の型も多くみられます。 B群連鎖球菌(GBS)は産褥熱さんじょくねつ、新生児感染症の原因となります。 膣の培養で見つかったときは、出産前に抗生剤が投与されます。 B群が皮膚で見つかることもあります。 湿疹の悪化要因にもなります。 G群連鎖球菌も、アトピー性皮膚炎患者でしばしば見つかります。 厚い角層に、深い傷を伴ったところを培養するとよく見つかります。 抗生剤が必要になるような状態にはあまりなりません。 苔癬化の著明な重症のアトピー性皮膚炎に多く、悪化要因として重要です。 G群を調べるとき、ASOではなく、ASKの検査が必要ですが、ASKはA群β溶連菌でも上昇するため、G群の確定診断にはなりません。 ちなみに、1911年、作曲家のグスタフ・マーラーがA群溶連菌感染症で死去しています。 マーラーは溶連菌に起因する心内膜炎・弁膜症にも罹患していました。 マーラーの娘2人は、猩紅熱にかかり、長女はジフテリアを併発して 5歳で死んでいます。
黄色ブドウ球菌による伝染性膿痂疹です。 このくらい広がると、抗生剤の内服はいくらか長めに必要です。 MRSAや溶連菌を合併していることもあります。 投薬前に細菌培養をして、細菌の感受性も調べておいた方が無難です。 溶連菌感染症を合併したアトピー性皮膚炎です。 乳児は免疫力が低い(白血球の働きが悪い、抗体が少ない)ために簡単に広がります。 胸部にもぷつぷつと溶連菌の発疹が見られます。 黄色ブドウ球菌も必ずついています。 カンジダもついていることがあります。 A.毛のう炎、せつ(おでき) 毛のう炎(毛包炎)は、毛穴から細菌が侵入してできた化膿疹です。 全身のどこにでもできます。 毛穴に一致したような小さいぶつぶつで、赤みはあまりありません。 大きくなると痛みを伴います。 ひどくなると、おでき(せつ)に発展することがあります。 原因菌は、黄色ブドウ球菌が多く、A群β溶連菌も見られます。 黄色ブドウ球菌は、しばしば抗生剤の効かない耐性菌MRSAです。 とりあえず、消毒(イソジン、ヒビテンなど)、抗生剤の軟膏(アクアチムクリーム・ローション、ダラシンTゲル・ローションなど)などで対処します。 拡大すると、抗生剤の内服が必要になることもあります。 湿疹と間違えて、ステロイドやワセリンなどの保湿剤を外用していると、かえって悪化しますので注意が必要です。 ステロイド外用剤を使いすぎると、毛のう炎を誘発することもあります。 ひっかいたり、触ったりすると、広がる可能性があります。 また、かゆみがあって引っ掻いていると、毛のう炎できることがあります。 特に、じんま疹に不必要にステロイド外用剤を用いると、毛のう炎ができやすいようです。 細菌に対してアレルギーがあると、かゆみが強く、湿疹に変化する可能性もあります。 溶連菌が原因の場合は、外用剤は効きにくいようです。 とくに、多発しているとき、腫れて熱感を伴っているときは、抗生剤の内服が必要です。 溶連菌には、セフェム系やペニシリン系抗生剤が有効です。 ペニシリン系は普通の黄色ブドウ球菌に効かないことがあり、どちらの菌かはっきりしないときは主にセフェム系が用いられます。 ニューキノロン系(クラビットなど)は、溶連菌には効き目が少ないことがあります。 黄色ブドウ球菌が原因菌であっても、せつ(おでき)になると、抗生剤の内服または点滴が必要です。 せつに対しては、内服剤はMRSAにも対応できるニューキノロン(フルオロキノロン)系抗生剤がファーストチョイスです。 最近は、クラビット(500mg)を1錠/日1回投与がよく用いられます。 しばしば、切開して、中にたまった膿を出す必要もあります(切開排膿)。 リバノールをひたしたガーゼなどのドレーンを留置して、排膿を促すこともあります。
B.尋常性ざ瘡(にきび) Acne vulgaris にきびをアトピー性皮膚炎の合併症とすることにはかなり異論があるかもしれません。 皮膚の脂(皮脂)は毛包に付属した皮脂腺でつくられ、毛穴から皮膚表面に分泌されます。 思春期になると、男性ホルモンの影響で皮脂腺の活動が活発になり、皮脂の分泌が増えたために毛包を中心に皮脂が皮膚内部でたまった状態ができます。 真皮上層〜表皮の皮膚の構造の模式図です。 毛の上部に皮脂腺がぶら下がっています。 皮脂は毛を通じて、毛孔から分泌されます 毛孔がアカや化粧品で詰まると、皮脂腺でつくられた皮脂が出にくくなり、表皮内で皮脂がたまって、ふくれあがります。 毛孔に詰まったものは、角栓と呼ばれています。 これを外から見ると、毛孔を中心に白く盛り上がった状態、いわゆる白いにきびになります。 毛孔を詰める化粧品は、皮膚に付くと二度ととれないようなタイプが多く、その代表がSPF50+のようなUV化粧品と、ジメチコンなどのシリコン入りあるいは結合させた化粧品です。 夏場できるにきびはたいてい化粧品が原因です。 白く見えるにきびに、アクネ菌などが繁殖すると、赤いにきびになります。 ひどくなると膿が出たり(膿疱性ざ瘡)、触ると痛み(圧痛)がみられます。 上手に膿を押し出して、ダラシンTゲルなどをつけて、触らないようにしましょう。 さらに悪化すると、抗生剤の内服が必要になりますが、抗生剤は一時的に細菌を減らすだけです。 細菌感染を悪化させている免疫低下、たとえば疲れや睡眠不足、栄養の偏りや量不足、たっぷりのストレス、便秘などがあると、なかなかよくなりません。 もちろん生まれつき細菌感染に弱い体質も関係しています。 皮膚の残渣(あか)やUV化粧品などで毛穴がふさがる(角栓)とそれがきっかけになりますし、さらにひどくなります。 夏場、一度つけると二度と取れないSPF50+のUV化粧品使い始めて、にきびだらけになった女の人は珍しくありません。 近年、頭髪化粧品・コンディショナーなどに二度と取れないようにするために、ジメチコンなどのシリコンが配合されています 最近は、ハンドクリーム、乳液、化粧クリーム、ファンデーションなどにも、落ちにくくするために、いろんなタイプのシリコンが配合されています。 シリコン入りの化粧品は毛孔をつめて、クレンジングでは簡単にとれません。 髪の毛はともかく、顔につける化粧品は、とれにくいタイプは皮脂の多い人は、月経前などは、にきびをつくるだけです。 ここまでは皮脂がつまっただけのいわゆる白いにきびですが、さらにアクネ菌などによって二次感染を起こすと、毛穴を中心に赤く盛り上がります。 細菌感染が進むと、触ると痛みが出たり、膿が出てきます(膿疱性ざ瘡)。 同時に体幹・四肢ににきびのようなもの、すなわち前述の毛包炎が多数できることも多いようです。 にきびを悪化させるものにはいろいろあります。 女性なら、ふつう生理直前から生理中にかけて悪化します。 にきびは、月経不順などの女性ホルモン系の異常で悪くなります。 副腎皮質系のホルモン異常や、ステロイド外用剤・内服でも誘発され、悪くなります。 細菌感染が関係しているために、感染防御を低下させるもの、免疫機能を低下させるものがあると悪化します。 これらの代表が、肉体的・精神的ストレスであり、睡眠不足やダイエットなどいろんなものがあります。 顔にステロイドやプロトピック軟膏を使っていると免疫が低下し、にきびができます。 アレルギー体質の患者さんは、子供の時から様々な感染症にかかりやすい傾向があり、にきびもできやすいようです。 ただ、アレルギー体質があるということは、一般に皮膚表面は乾燥しており、皮膚内部で皮脂が増えているということです。 つまり、皮脂を取ろうとして、ごしごし洗いすぎるのはよくないということです。 また、アクネ菌にアレルギーがあれば、それでかゆみや湿疹ができる可能性もあります。 かゆみがあって顔を手で触っていると、当然ながら、にきびは増えます。 にきびを悪くするものを他に上げますと、理由ははっきりしないもののチョコレートなどの食品、ニキビダニの存在とそれのアレルギー、そして、便秘です。 便通のよくないとき、にきびもひどいという女の人もたくさんいます。
緑黄色の野菜や果物をあまりとらないと、にきびができやすくなります。 野菜などのビタミン類は、痛めた皮膚の再生の材料になります。 繊維質は、腸内環境を向上し、便秘の改善にもつながります。 加熱されて破壊されたビタミン類では、十分な効果は期待できません。 中国製のサプリメントは、毒入りかも知れません。 アトピー性皮膚炎の顔面の湿疹は、よくなってくると、にきびに変化する傾向があります。 顔の湿疹にプロトピック軟膏をつけてにきびができても、軽くて少しくらいなら仕方ないかもしれません。 逆に、にきびをなんとか改善しようとしてだらだらと抗生剤を続けていると、アトピー性皮膚炎の発疹に変わることがあります。 にきびで来院した患者を採血すると、ほとんどの患者さんで、IgE値やRAST値の上昇がみられます。 それらがなければ、だいたいは何らかの免疫系・ホルモン系の異常がみられます。 白血球数、とくに好中球数が少なく、紫外線に過敏な患者さんも多くみられます。 抗核抗体などの自己抗体が陽性になっている場合もあります。 にきびのある患者の皮膚のpHを測定すると、ニキビのない人よりpHが高くなっています。 皮膚は表面のpHを下げることで、皮膚表面を清潔にしています。(学会報告) ちなみに、アトピー性皮膚炎の患者の皮膚も、健常人より皮膚pHが高くなっています。(論文報告) その意味で、弱酸性の化粧水はニキビにもよいことを報告しています。 にきびの治療は重症度やタイプに分けて、いろんなものがありますが、とりあえず上記に述べました悪化要因を除くことです。 ピーリング的治療(ケミカルピーリング、ディフェリンゲル外用)は、とてもよいところはあります。 が、アトピー性皮膚炎的要因が強ければ、炎症を起こすために向かないことがあります。 ディフエリンゲル(一般名アダパレン、レチノイド様作用により表皮角化を抑制し、角栓を減らして面ぽうの形成を抑制)はつけると、皮膚が炎症を起こして赤くなったり、かさかさになったり、かゆみが出たりと、問題点は避けられないところがあります。 かさかさするからと、保湿クリームをべったりつけるようにと指示されることがありますが、そんな保湿剤でかえってにきびができたり、運が悪いと保湿剤の接触皮膚炎が起きることもあります。 できれば、ディフェリンゲルはにきびのないところはつけない方が無難です。 ディフェリンゲルは軽症から重症のにきびに用いられますが、むしろ重症患者にダラシンTゲルなど抗生剤を併用して使うのがよいようです。 平成27年4月より過酸化ベンゾイルを2.5%入った新しいにきびの治療剤(ベピオゲル)が発売されました。 欧米では、もっと高濃度のもの(5%、10%)もOTCとして、つまり薬局、スーパーでかなり以前より販売されています。 過酸化ベンゾイルは強い酸化剤であり、衣服に付くと白く色が抜ける(漂白作用)もあります。 皮膚につけると生じたフリーラジカルが活性酸素をつくり、アクネ菌に対して殺菌作用が働き、同時に皮膚の角層を化学的に剥がすピーリング作用があります。 要するに、ベピオゲルはディフェリンゲルとダラシンゲルを一緒にしたものかもしれません。 化学的な殺菌作用であるために抗生剤にも効かない耐性菌にも有効と、メーカーは説明しています。 ニキビダニにも効くかもしれません。 皮膚にピーリング作用があるということは、ディフェリンゲルと同じ問題点があります。 乾燥肌やアレルギー体質があると、これをつけると、乾燥したり・カサカサになったり、赤くなったり、かゆくなったり、もしかすると活性酸素でシミになる可能性もあります。 つけて紫外線は要注意です。 確かに、汗と皮脂の多い中高生の男子のにきびには向いているかもしれません。 なお、平成27年6月より、過酸化ベンゾイルに抗生剤クリンダマイシンを配合したデュアック配合ゲルも登場しました。 膿疱性ざ瘡など感染症的要素が強ければ、抗生剤の内服が必要かもしれません。 抗生剤は腸内細菌には逆効果で、使いすぎるとかえってにきびがひどくなる可能性もあります。 といものの、膿疱がひどいときは、ミノマイシンやビブラマイシンなどのテトラサイクリン系の抗生剤、ルリッドなどのマクロライド系抗生剤が処方されます。 テトラサイクリン系はとても有用ですが、めまい、光線過敏や色素沈着、肝障害などに注意が必要です。 便秘を改善するものは治療になりますが、刺激性の便秘薬(プルセニドなど)は効果があるかどうか分かりません。 水分や繊維の多い食品をたくさん取り、適度な運動につとめて、自然な形で便通がよくなることが必要です。 食生活に問題があれば、ビタミンB2、B6、Cなどもよいようです。 清上防風湯などの漢方も、長期的にはよいところがあります。
2. ウィルス感染症
@.単純ヘルペス、カポジ水痘様発疹症 カポジ水痘様発疹症は、溶連菌感染症によく似た発疹で、単純ヘルペス(Herpes simplex)というウィルスが原因です。 同時に、溶連菌(溶血性連鎖球菌)がいることもあります。
単純ヘルペスは、αヘルペスウイルス亜科、シンプレックスウイルス属の二本鎖DNAウイルスです。 単純ヘルペスには2種類あり、普通、口唇ヘルペス、ヘルペス性口内炎はT型(HHV-1)、陰部ヘルペスはU型(HHV-2)です。 上記の写真はいずれも子供の単純ヘルペスです。 どちらも明らかに水疱ができていますが、アレルギー反応を生じて湿疹ができてくると、診断に迷うことがあります。 どちらもゾビラックスの内服が必要です。 左の患者さんは細菌感染も伴っていて、抗生剤の外用剤を併用した方がよいでしょう。 単純ヘルペスは子供のころほとんどすべての人が感染し、初感染後、神経組織(たとえば三叉神経節)に潜伏します。 初感染後できた口内炎がよくなった後も、長期間ウイルスの排出が続くといわれています。 また、ウイルスを排出している健康キャリアもいます。 単純ヘルペスウイルスは水痘ウイルスより感染力が弱いともいわれています。 いろいろな原因で免疫が低下すると、単純ヘルペスT型は、口唇や口唇周囲、鼻周囲、眼周囲などに繰り返して現れます。 四肢や体幹にT型ができることがあります。 風邪のあとにも多く、熱の花とも呼ばれています。 ヘルペス性の口内炎として繰り返す患者さんもいます。 単純ヘルペスは、まず何となく違和感から始まります。 続いて、その部分に痛がゆい紅斑が現れます。 湿疹がたくさんあると気がつかないことも多いようですが、一度経験すると、何となくヘルペスと湿疹の違いが分かるようになります。 初期症状は患者さんのほうが、医師よりもするどいようです。 紅斑ができて、次の日ころから小水疱が出現します。 さらにひどくなると、浸出液もみられ、痂皮もつきます。 上口唇にできた単純ヘルペスです。 水疱が融合して、かなりひどくなっています。 抗ウイルス剤の内服が必要です。 皮膚にヘルペス性ひょう疽ができることがあります。 眼科領域では、ヘルペス性角膜炎(角膜ヘルペス)、虹彩毛様体炎、ブドウ膜炎などがみられます。 T型はヘルペス髄膜脳炎を起こすことがあります。 ウイルスが三叉神経節から脳に上行したために起きます。 発熱・頭痛・けいれん・意識障害が起き、よくなってもしばしば後遺症が残ります。 単純ヘルペスT型の水疱が、下口唇の下方に多数集族性に広がっています。 顔に湿疹もあります。 臀部にできた単純ヘルペスU型の発疹です。 炎症が強く、痛みとかゆみといやな不快感があります。 この程度になると抗ウイルス剤の内服が必要です。 毎月繰り返している患者さんには、補中益気湯を処方していることもあります。 治療としては、軽症ならば、抗ウィルス剤(アラセナA軟膏、ゾビラックス軟膏)の外用で対処できますが、ひどいときは抗ウィルス剤を内服します。 U型の方が抗ウィルス剤が効きにくいようです。 単純ヘルペスU型は性感染症の一つで、陰部やその周囲、おしりなどによくできます。 T型より難治で、再発も多く、抗ウイルス剤の予防投薬の保険適応にもなっています。 アレルギー体質の患者は、様々な種類の細菌やウイルスに対して免疫が弱く、単純ヘルペスもよくできます。 逆に言えば、単純ヘルペスを繰り返す患者さんは、たいていは何らかのアレルギーを持っています。 単純ヘルペスは痛がゆい感覚があり、しばしば湿疹やじんましんの原因になります。 口唇や顔面の湿疹が単純ヘルペスのアレルギーのことがあり、また口唇がタラコのように腫脹するクインケ浮腫も単純ヘルペスのアレルギーのことがあります。 これらに抗ウイルス剤の内服が用いられることがあります。 湿疹の内部に水疱が隠れてしまうと、単純ヘルペスの診断が難しくなります。 単純ヘルペスが原因になった湿疹に対してステロイド外用剤を用いるかどうか、しばしば判断に迷いますが、抗ウイルス剤を内服していればステロイドを外用してもよいと考えています。
単純ヘルペスは、広がると、しばしば38℃以上の発熱や全身倦怠感を伴います。 これをカポジ水痘様発疹症といい、たいていはアトピー性皮膚炎にできます。 アトピー性皮膚炎患者の顔面や頸部に多く見られます。 ただし、全身どこにでもできます。 多くは単純ヘルペスT型ですが、U型のこともあるかもしれません。 カポジ水痘様発疹症は、特定部位に固まって多数集まっていることもあります。 かなり広い範囲にちらばって分布していることもあります。 少しのときは帯状疱疹と区別できないこともあります。 子供の患者ではたいていは、ヘルペスの初感染です。 成人の場合は、以前から持っていた口唇ヘルペス(熱の花)が広がる場合もあります。 カポジ水痘様発疹症は、口唇ヘルペスと同様に、疲労やストレスたまったり、体調の悪いときなど、自分の免疫力が低下したときに現れます。 再発しやすく、何週間かおきに何度も繰り返した患者さんもいます。 図の患者のように、カポジ水痘様発疹症はしばしば溶連菌感染症を合併します。 そのときは、きたない浸出液・痂皮を伴います。 この場合は、抗ウイルス剤に加えて、抗生剤の内服または点滴が必要です。 カポジ水痘様発疹症の治療は、抗ウィルス剤の外用剤のみではよくならず、抗ウイルス剤の内服または点滴が必要です。 免疫力を回復させるためにも、合わせて十分な休養も必要です。 入院して、点滴が必要なこともあります。 顔面のにきびと同じように、単純ヘルペスもむしろアトピー性皮膚炎がよくなってきた患者にできやすい傾向があります。 単純ヘルペスを繰り返すのはあまり有り難くない話ですが、それまで湿疹のひどい患者さんには、見方を変えればよいことかもしれません。 Th2からTh1に変化して、たくさんγインターフェロンがでれば、それで湿疹もよくなるようです。 全く逆に、気管支喘息やアレルギー性鼻炎だけの患者さんに、繰り返して単純ヘルペスができるようになるというのは、湿疹に対して一種の危険信号かもしれません。
13歳女性の額にできたカポジ水痘様発疹症です。 ゾビラックス内服後ですので、発疹はなおりかけです。 水疱は残っていますが、ほとんどがびらん・痂皮になっています 単純ヘルペスには、かゆみと痛みがあります。 額の一部には、湿疹もみられます。 湿疹に対して、プロトピック軟膏(0.03%)を外用していました。 カポジ水痘様発疹症(成人アトピー性皮膚炎患者と乳児アトピー性皮膚炎患者) 近医で処方された抗生剤の内服でよくならないということで来られました。 抗生剤のおかげで溶連菌は見られません。 乳児は単純ヘルペスの初感染で広がることがあります。 しばしば父母のどちらかに口唇ヘルペスとアレルギーがあります。 溶連菌感染症を伴ったカポジ水痘様発疹症です。 A.伝染性軟属腫なんぞくしゅ(みずいぼ) 水いぼ(伝染性軟属腫)は、プールなどで感染するウィルス(伝染性軟属腫ウイルス)です。 伝染性軟属腫ウイルス(MCV)は、天然痘と同じポックスウイルス科に属するDNAウイルスで、ウイルスの中で最大です。 湿疹があまりなく、かさかさが主体で多少かゆみがあるような軽症のアトピー性皮膚炎に多いようです。 ひっかくと、当然体の他のところに拡大します。 お風呂でも感染します。 保育所や幼稚園で接触しても感染することがあります。 肘窩の水いぼです。 周囲に湿疹があります。 水いぼ周囲にも、水いぼのアレルギーによって紅斑が見られます 水イボは直径1mm以下の白い点のようなものから始まります。 少しずつ大きくなり、直径1〜5mmの中心がへこみのある小丘疹(ぶつぶつ)に変化します。 体やおしりによくできますが、顔面や陰部、四肢にもできます。 5歳男児の陰部にできた水いぼです。 当科では、ピンセットとつまんだり、液体窒素でこれを処置することはしません。 痛いだけで良い結果になりません。 ヨクイニンの内服とカチリでよくなりました。 アトピー性皮膚炎では、夏場のプールで感染し、冬季かさかさしたところをひっかいて広がるようです。 とくに、単純ヘルペスと同じように、感冒などのあとで免疫力が低下したときに、拡大します。 水いぼがアレルギー反応を起こすと、かゆみが生じ、引っ掻いて数が増え、炎症を起こして湿疹になります(モルスクム反応)。 風邪などのウイルスでじんま疹や喘息になる患児は、とくに水いぼでもアレルギーを起こしやすいようです。 水いぼが湿疹化すると、そのままにしておいてもなかなかよくなりません。 かきむしってとびひになることもあり、仕方なくステロイドを外用することになります。 小さなものは消毒するか、尿素軟膏(ウレパール軟膏など、角層をうすくすると中のウイルスが外に露出して自然に脱落する)・カチリ(もともと水痘で使われます。手足口病などの他のウイルス疾患にも用いられます。消毒効果もあります)などの外用も行っています。 一般には行われていませんが、インターフェロンの局注やイミキモドクリーム(ベセルナクリーム)の外用が有効ともいわれています。 小さなものはピンセットでとってしまうか、大きいものは液体窒素で処置することもあります。 どちらの方法もかなり痛みを伴います。 私は、水いぼ処置でペンレスなどの麻酔剤の貼り薬は用いていません。 そんな貼り薬は、麻酔剤に対してアレルギーをつくる可能性があります。 いずれにせよ、水いぼはアレルギー体質の患者にできるものだからです。 とはいうものの、冬季の免疫が低下した状態で水いぼ処置をしても、ウイルスをドライスキンにばらまくだけということもあります。 暖かくなるのを待って、ある程度元気になってから水いぼ処置をやった方がいいでしょう。 イボで用いるヨクイニン(漢方、ハトムギ、ウイルスに対して免疫力を高めるといわれます)の内服も有効です。 当科では、わざとヨクイニンの錠剤を1歳の幼児から処方しています。 子供には、カリカリとかんでもよいから、ハトムギのお菓子として食べて下さいと説明しています。 子供は、ハトムギに、はまります。 水イボのウイルスは、ヘルペスやいぼのウイルスと同じようにヒトの免疫監視機構をうまくすり抜けて皮膚表面に存在しています。 いくつかつまんでとると、出血して白血球系と接触するため、ウイルスに対して抗体が作られやすくなります。 さらに、白血球も活性化され、それで他の水いぼがなくなることがあります。 かえってアレルギーを起こすこともあります。 正常な免疫状態であれば、放置していても自然によくなることも多いようです。 成人にもできることがあります。 成人にたくさんできれば、いろんな免疫異常、たとえばエイズ(AIDS)も考えられます。 B.尋常性疣贅(じんじょうせいゆうぜい)(いぼ) いぼ(尋常性疣贅)もまた、ウィルスが原因です。 いぼはヒト乳頭腫(パピローマ)ウイルス(HPV)によってできた一種の良性腫瘍です。 このウイルスはパピローマウイルス科に属し、およそ8000塩基対の環状2本鎖DNAウイルスです。 直径50−55nmのエンベロープのない正20面体のウイルスです。 多数の型に分けられ、これまで150以上のゲノム型に分けられています。 HPVはヒトの皮膚や粘膜の角化細胞に感染し、疣贅状の発疹をつくります。 種特異性や組織特異性が高いようです。 皮膚の疣贅は、尋常性疣贅(HPV2型、4型)、扁平疣贅(HPV3型、10型)、ミルメシア(HPV1型)などに分けられます。 この型のウイルスは悪性化することはないといわれます。 いぼは、手指や顔などの露出部に多いようです。 手のいぼはドーム状に盛り上がった角化性丘疹で黒色点の色素沈着を伴っています。 手のいぼは、他人の手のいぼを触って感染します。 子供の爪周囲にできた尋常性疣贅です。 液体窒素で凍結療法を行うとき、爪に影響しないように注意する必要があります。 足底のいぼは、手のいぼほど隆起が少なく、むしろ皮膚内部に増殖した角化性丘疹です。 足の裏にできる足底疣贅はなおりにくい傾向があります。 足のいぼは、プール、銭湯、よそのスリッパなどで感染します。 足指の間にできると、くっついた指にもうつります。 ひっかいたり、触ると他の部位に広がります。 アトピー性皮膚炎患者さんにできた右膝の後ろのいぼです。 一見水いぼを疑わせますが、ピンセットでつまむと、血が止まらないくらい出血します。 大小不同があり、軽度の炎症を伴っています。 一列に並んだところがあり、かゆみで引っ掻いて数が増えたと考えられます。 アレルギー体質があると、もらいやすく、なおりにくい傾向があります。 いぼがアレルギーを起こして、かゆみが生じることがあります。 ウイルスであるために、今のところ必ずよくなるような飲み薬や塗り薬はありません。 液体窒素による凍結療法がよく行われています。 マイナス200℃の液体窒素でウイルスにかかった皮膚を凍らせて、壊死を起こし、死んだ組織ともどもいぼを除いてしまおうという作戦です。 壊死したところがかさぶたになり、下に新しい皮膚ができれば、ぽろっととれます。 最初の一個を処置すると、免疫が高まり、他のいぼも消えることがあります。 かゆみがでると、免疫が賦活ふかつされたことを示し、なおりかけともいわれます。 他に、ヨクイニン(ハトムギ)の内服、スピール膏の貼付が一般的ですが、突然の自然治癒もあります。 どうしてもよくならないいぼに、いろんな治療が行われています。 外用剤では、尿素軟膏、サリチル酸ワセリン、活性型ビタミンD軟膏、抗がん剤のブレオ軟膏や5−FU軟膏など、硝酸銀やピーリング剤による腐食法も行われています。 陰部の尖型コンジローマには、Toll-like receptor7を活性化してインターフェロンを誘導するイミキモドクリーム(ベセルナクリーム)が保険適用になっています。 他のタイプのいぼに効果がある可能性もあります。 内服治療としては、他にシメチジンがあります。 高齢の妊娠・出産年齢を過ぎた重症患者にビタミンA誘導体のチガソンも用いらます。 外科的切除、電気焼却、レーザー治療も行われています。 多数の扁平疣贅が顔や手背にできることがあり、青年性扁平疣贅と呼ばれています。 手背にできた尋常性疣贅です。 ひっかいて増えることが多く、この患者のようにしばしば一列に並びます。 足底にできたミルメシア型の尋常性疣贅です。 圧迫すると痛みがあります。 前方に、足底の角化局面が見られます。 3. 真菌(カビ)感染症
カビに感染しても、感染した人が全員水虫を発症するわけではありません。 免疫防御能力が正常に働いていれば、そんなに簡単に水虫にはなりません。 逆に免疫防御に問題があれば、カビが繁殖しやすいということです。 免疫機能が低下した人に感染し、発症する感染症を、日和見(ひよりみ)感染症と呼ばれています。 そんな免疫防御能力が低下した人をコンプロマイズドホストといいます。 たとえば、乳児や高齢者はだいたいそれに含まれます。 他に、糖尿病、肝疾患、腎疾患、悪性腫瘍などの内科的異常、ステロイド剤や抗がん剤を用いているとき、真菌感染症を発症しやすいということです。 このことは、すべての感染症にあてはまります。 「かぜをひきやすくなった」「キズが化膿しやすい」「虫歯や歯槽膿漏がひどい」「中耳炎をくりかえす」など、感染症に弱い状態が現れたとき、糖尿病や肝臓などの病気がないか、疑った方がよいかもしれません。 抗生剤や真菌剤などは病原微生物を減らすだけで、病原微生物に抵抗力がないということ(易感染性)まで改善しません。 @.白癬はくせん(水虫) カビ(真菌)の一種です。(真菌の分類) Trichophyton (トリコフィトン) rubrum(最もよく見られる水虫の原因真菌)、 T.mentagrrophytes、 Microsporum canis (犬、猫からうつるカビの一つ)、 T.verrucrosum (牛) などの種類が分けられます。 カビは、人と人、ペットと人が接触して感染します。 スリッパ、お風呂マット、床、温泉・足湯、プールサイドなどいろんなところから感染する可能性があります。 第3趾間にみられた足白癬です。 白くふやけたところ全体にカビが広がっています。 かゆみで引っ掻いたところがびらんになり、細菌感染が心配です。 実際、びらん部から二次感染して、足背に細菌が広がり、赤く腫れることがあります。 足背の感染症が下腿に、ひどい時は大腿から鼠径リンパ節にまで広がる場合があります。 糖尿病やステロイド、放射線治療・抗ガン剤を用いている患者さんは危険です。 抗真菌剤だけでなく、外用剤の抗生剤を併用した方がよいでしょう。 足白癬に湿疹的要素が加わっている時はステロイド外用剤も併用する場合があります。 私は、テラコートリル軟膏やALZ-1+アクアチム軟膏を、抗真菌剤に重ねて治療しています。 ステロイド外用剤だけで治療しますと、最初はカビが作った湿疹はよくなります。 が、平行してステロイドは正常免疫を下げるために、カビは増えて水虫は悪化します。 汗の多い季節になると、顔を含めて全身のどこにでも広がる可能性を持っています。 足白癬がある場合は、特に注意が必要です。 へそ周囲にできた白癬局面です。 もともとバックルの金属アレルギーによる湿疹があり、それの治療でステロイド外用剤を使っているうちに、足の白癬がここについたようです。 ステロイド外用剤でさらに悪化・拡大しました。 アトピー性皮膚炎患者が水虫を合併すると、対処は難しくなります。 水虫に対してアレルギーがあると、かゆみが強く、さらに強い湿疹になるようです。 トリコフィトン、カンジダ、ピティロスポルムなど、ヒトの体に常在するカビに対してRAST値が陽性のアトピー性皮膚炎患者は多数います。 どちらかといえば、重症患者さんが多いようです。 同時にエンテロトキシンAやBに対するRAST値も陽性になっている場合が多く、検査の項目がないいろんな感染症に対するアレルギーを持っていることを疑わせます。 いつも説明するのですが、アレルギーを起こす原因物質が体内にあるとき、たいていはその反応を抑えるメカニズムも働いています。 それだけにストレスなどでその抑えるメカニズムに影響されると、湿疹は悪化します。 ステロイドを外用すると、白癬が広がることが多いのですが、気がつかないで外用している場合も多いと思われます。 抗真菌剤の内服をするしかないかもしれませんが、完全に白癬菌を除くのは不可能かもしれません。 ネコなどのペットを飼っていると、ペットのカビが顔に感染することがあります(M. canis感染症)。 頭部白癬は「しらくも」、股部白癬は「いんきんたむし」とも呼ばれています。 頭部の深いところまで広がり、膿が出て、脱毛や痛みやリンパ節が腫れるような白癬症もあります(ケルズス禿瘡とくそう)(下記参照)。 男性のひげの毛包に膿がみられるような白癬症(白癬性毛瘡(もうそう))もあります。 周辺が盛り上がったような環状の湿疹、普通の湿疹とは違った落屑が見られるときは、白癬が疑われます。 白癬とアトピー性皮膚炎の湿疹のどちらがよりかゆいかと言えば、患者にもよりますが、白癬はかゆみの質が異なり、白癬の方がかゆいと訴える患者の方が多いようです。 足白癬が悪化するとき、手に小さな水疱が多発することがあります。 白癬疹と呼ばれ、一種のアレルギー反応です。 白癬疹は、多型紅斑などの他のタイプの発疹型になることもあります。
アトピー性皮膚炎患者さんの肘窩の湿疹に合併した白癬菌です。 周堤状に盛り上がったところが白癬菌です。 ステロイド外用剤を使っていますので、何となく湿疹と白癬は区別できます。 それでも体の他の部位の湿疹に白癬菌が同居していないという保証はありません。 この患者さんは、とりあえず抗真菌剤の外用でよくなりました。 湿疹と白癬の両方が存在する場合、どれがどれか区別が難しく、抗真菌剤(イトリゾール、ラミシールなど)の内服が必要です。 抗真菌剤を内服していても、ステロイドを外用していると、真菌感染症はよくならないことも多いようです。 内服している間、肝障害・白血球減少などの副作用にも注意する必要があります。 健常人でも重篤な副作用が起きることがあり、私は、内服前、内服後、少なくとも月に1回は採血して、副作用が起きていないかチェックしています。 皮膚表面の足白癬のようなものは、外用剤だけでも十分治療できます。 上記のケルズス禿瘡、白癬性毛瘡など皮膚内部の深いところにまで広がったものについては、抗真菌剤の内服が必要です。 爪白癬や足の裏の角化型の足白癬の場合は、水虫の薬の浸透性が悪く、抗真菌剤の内服を用いるしかないことがあります。 足白癬だけでなく他の真菌感染症もそうですが、治りにくく、再発しやすい傾向があります。 カビの胞子が靴下の裏やぞうりやスリッパに残っていたり、薬が真菌の胞子にあまり効かないためと考えられます。 皮膚の落屑程度のときから早めに、抗真菌剤の外用剤を使うのが賢明です。 広がると、かゆみが強くなり、炎症を起こして、浸出液でべとべとになります。 細菌感染がさらに加わった状態になると、市販の水虫のローション剤をつけてもさらに悪化するだけです。 水虫も、白癬菌がつくった炎症反応、つまり湿疹です。 抗真菌剤は真菌は減らしますが、湿疹に対しては効果はなく、むしろ湿疹が悪化することがあります。 そのために、治療の初期に、弱いステロイド外用剤や抗生剤の外用剤を併用する場合があります。 当然、ステロイドは免疫を低下させ、カビを増やします。 また足指の間の亀裂・びらんから細菌が入り、足背から下腿が発赤腫脹することがあります。 このようになると抗生剤の内服または点滴が必要です。 抗真菌剤でかぶれたために(接触皮膚炎)、さらに治療が難しくなることもあります。 水虫の薬は市販にもいろいろあります。 できれば薬用成分の種類の少ないものを選び、リドカインなどの麻酔剤は入っていないものの方が安全です。 真菌が、アトピー性皮膚炎のアレルギーの原因になっているとき、アトピー性皮膚炎の湿疹の治療として抗真菌剤の内服が使われることがあります。 A.カンジダ カンジダは、ヒトの腸管・口腔内に常在している真菌(カビ)の一種です。 *常在・・いつも、誰でも、少しはそこにいるということ 免疫が低下したときに増える、日和見(ひよりみ)感染微生物の代表です。 感染症を繰り返し、抗生物質を頻繁に使っていると、口腔内や膣内など体内で増える傾向があります。 口腔カンジダ症は鵞口瘡とも呼ばれます。 新生児や病気に弱い乳幼児、糖尿病など免疫が低下した病気のある大人にみられます。 口腔カンジダ症は舌、口腔粘膜、口唇に生じた、白い膜や白苔です。 白苔をこすり取って、顕微鏡で見るか、付着したものを培養して、診断します。 口角炎がカンジダ性口角びらん症である場合があります。 基礎疾患として慢性皮膚粘膜カンジダ症(chronic mucocutaneous candidiasis CMCC)が存在することがあります。 CMCCは、カンジダに対する細胞性免疫の異常によるものです。 免疫不全の他に、内分泌障害(下垂体・副腎・甲状腺など)、鉄欠乏性貧血、ビタミンA欠乏症も基礎にあるといわれます。 幼少期より、口腔カンジダ症や口角びらん症を繰り返し、爪カンジダ症もみられます。 体の皮膚には、角化傾向が強いカンジダ性肉芽腫ができます。 抗真菌剤の内服でよくなりますが、やめると再発します。 夏季憎悪し、慢性に経過します。 内臓を侵襲することは少なく、多くは、成長とともに軽快します。 女性が抗生剤を内服していると、膣カンジダ症ができることがあります。 これが外陰部に広がると、外陰膣カンジダ症になります。 外陰部には、かゆみのある発赤と腫脹がみられ、湿潤して表面に白い苔状のものが付着しています。 膣内にも同様なものがみられます。 ひっかいていると、びらんができて痛くなり、皮膚が肥厚してきます。 免疫が低下した妊婦にもみられます。 抗真菌剤の膣錠が用いられます。 相手方の男性に、カンジダ性亀頭・包皮炎ができることがあります。 舌カンジダ症(口腔カンジダ症)です。 私はファンギゾンのうがいを処方しています カンジダが腸管に増えると、食物アレルギーが起こしやすくなるという説(イーストコネクション)があります。 それの対策として、抗真菌剤(ファンギゾン、イトリゾールなど)の内服が用いられることがありますが、効果はよく分かりません。 高齢者のおしりのカンジダ性間擦疹です。 辺縁が落屑になっています。 ステロイド外用剤をつけると悪化します。 ウォッシュレットで肛囲の便を洗い流すのは、とてもよい予防になります。 水仕事をしていると、アレルギー体質があると手に湿疹がよくできます。 手指の間、とくに狭いV指とW指の間に、このカンジダが繁殖する場合があります(カンジダ性指間びらん症)。 カンジダ性間擦疹は、皮膚にはさまれた湿度の高いところにカンジダが繁殖して起こります。 少し太めの女性、太った汗の多い男性によくできます。 女性は乳房の下、脇の下、おなか周りが好発部位です。 当然、汗の多い夏場に多く見られます。 免疫が低下した患者に多く、高齢者、糖尿病やステロイドを内服している時には用心が必要です。 乳幼児では下痢などが続いている場合、オムツ部にもしばしばカンジダが見られます(乳児寄生菌性紅斑)。 しばしばおむつ皮膚炎に合併して、生じます。 乳幼児は、もともと免疫が低下した状態になっています。 水虫の外用剤(抗真菌剤)をぬると軽快しますが、肛囲を清潔にしておく必要があります。 おむつ皮膚炎にステロイド外用剤をつかっているうちにこれがついて広がると、治療が難しくなります。 予防が大事ですが、それでも下痢などで便の回数が多く、あまりお尻拭きなどを使いすぎると、おむつ部に湿疹(おむつ皮膚炎)ができるかもしれません。 B炎症性白癬 白癬菌が毛包内で増殖し、炎症が真皮にも及んでいる状態です。 真皮内では白癬菌は増殖していません。 以下のようないろんな疾患があります。 (1)ケルズス禿瘡(とくそう) 頭部の頭髪内に白癬が増殖したためにできた発疹です。 白癬に感染した頭髪部は、ブヨブヨし、膿が出て、扁平又は隆起した局面になります。 感染部は毛が抜けやすく、しばしば脱毛局面となります。 自発痛、圧痛があります。 頸部などの付属したリンパ節が腫れることもあります。 まれに発熱や頭痛がみられることがあります。 全身のどこかにかゆみのある湿疹(白癬疹)ができることがあります。 治療は外用剤だけでよくなることもありますが、どうしても抗真菌剤(ラミシール、イトリゾール)の内服が必要になります。 細菌感染を伴っているときは、抗生剤の内服や外用も併せて用います。 なおるまで、しばしば数週間を要することがあります。 (2)白癬性毛瘡(もうそう) あごひげ、くちひげ、ほおひげに白癬菌が繁殖したために起きる病気です。 紅斑・鱗屑が生じ、やがてかさぶたのかぶったジュクジュク局面になります。 毛を中心に化膿していて、押すと膿が出ます。 毛は抜けやすく、しばしば脱毛になります。 青年男性に多く、中年にもみられることがあります。 顔にステロイドを外用していると、発症のひきがねになり、悪化要因にもなります。 ひげそりは症状をしばしば悪化させます。 治療は、抗真菌剤外用でよくなることもありますが、しばしば抗真菌剤(ラミシール、イトリゾール)の内服が必要です。 しばしば患者さんに免疫低下(白血球機能・白血球数の低下、ステロイド内服、糖尿病、肝障害、抗がん剤内服など)がみられます(日和見(ひよりみ)感染症)。 再発しやすいようです。 (3)カンジダ性毛瘡 カンジダによる真菌性毛瘡です。 これも日和見感染症的要因があります。
C.癜風(でんぷう) 癜風(でんぷう)は、汗と脂分を好む真菌の一種ピティロスポルム(マラセチア)によるもので、汗の多い男性の体に多く見られます。 この真菌は、汗と皮脂が好きな常在真菌で、健常人でも多少はもっています。 主として、体幹にかゆみのない境界鮮明な地図状の黒褐色局面が生じます。 黒ナマズとも呼ばれています。 一般に、癜風は抗真菌剤の外用で治療します。 範囲がはっきりしないとき、湿疹に対してステロイド外用剤を使っているとき、抗真菌剤の内服を併用することもあります。 これがアレルギー、特に顔面の湿疹を起こしているという説があります。 また、顔面・頭部などの脂漏性湿疹の一因になっていることがあります。 このカビのRAST値を測定することができます。 常在カビということもあり、カンジダと同様に、アトピー性皮膚炎でも重症患者さんに検査陽性が多く見られます。 肘窩など汗の多いところにできたあせも型の湿疹に、このマラセチアが関与しているという意見もあります。 アトピー性皮膚炎の湿疹の中に埋もれてしまうと、しばしば気がつかないことも多いようです。 また常在真菌であるために、抗真菌剤を内服しても再発を繰り返します。 アトピー性皮膚炎に対してステロイドを外用していると知らないうちに数が増え、これがアレルギーを起こして湿疹の原因になっていると、話はややこしくなります。 ステロイド外用剤が効かない湿疹をみたとき、このカビの存在を考慮に入れておく必要があります。 ステロイドは免疫を低下させるためにアレルギーによる湿疹はよくなりますが、アレルギーの原因となっている真菌(カビ)はむしろ増えます。 癜風、背中の地図状の黒褐色の発疹です。 こすると皮膚がめくれます。
4. 皮膚科疾患合併症 @.光線過敏症 A.慢性蕁麻疹、コリン性蕁麻疹(こちらをクリック) B.口唇炎(こちらをクリック) C.接触皮膚炎(こちらをクリック) D.脱毛症 5. 眼科合併症
@.アレルギー性結膜炎、春季カタル アレルギー性結膜炎は、花粉類、ハウスダスト、ペットの毛、カビ、化学物質など空気中に飛んでいるアレルゲンが、眼瞼、眼球結膜から侵入して起こります。 じんましん型のT型アレルギーが結膜に起こったもので、上下の眼瞼結膜や眼球結膜にかゆみのある紅斑がみられます。 ひっかくと好酸球性の炎症が加わり、湿疹化して、悪化します。 ひっかいてキズができると抗原が入りやすくなり、細菌感染が伴うとそれのアレルギーも加わります。 ドライアイがあると、アレルゲンが結膜にくっついて離れず、涙で洗い流せないために、さらに悪化します。 結膜炎は上眼瞼結膜に症状が強い傾向があります。 ドライアイがあると、アレルゲンが結膜にくっついて離れず、涙で洗い流せないために、さらに悪化します。 近年、いわゆるPM2.5と呼ばれる微少粒子物質による被害が増えています。 PM2.5はそれ自身非常に小さいために粘膜にくっつくと、簡単には取れません。 これが上眼瞼結膜にくっつくと、涙で洗い流す効果が少ないこともあり、ひどいアレルギー性結膜炎が生じます。 PM2.5が花粉成分を分解し、分解された部分成分と結合すると、とてもひどい眼のアレルギー症状が現れます。 ペットの毛・イネ科植物など手で触ったものが眼について起こる場合もあります。この場合は一種の接触じんましんです。 利き手で起こりやすく、右利きのときは、赤く腫れるのはたいてい右の眼とその周囲です。 春季カタルは眼瞼結膜が慢性の炎症を起こし、非常にかゆみが強く、いわば眼の裏側にできた湿疹に近い状態です。 かゆみのために引っ掻くと、どんどん悪化し、二次感染して角膜びらんを生じることも多いようです。 診断の補助として、涙液中のIgE抗体量を測定する簡易キットがあります。 ただし、涙液中のスギ花粉などそれぞれの抗原に対するIgE抗体を測定しているわけではなく、検査としては不十分です。 とくに、もともと血液中のIgE-RIST値が高値の患者さんは、常に陽性結果がでる可能性があります。 流行性角結膜炎などの感染症との判別に有用かといえば、何ともいえません。 感染症の簡易キットについても陽性率はせいぜい半数くらいでで、メーカーがいうほど高くありません。 治療は、まず抗原を少しでも減らすことから始まります。 花粉が原因のときは、外出するときは、アレルギー用メガネを着用しましょう。 メガネをかけている患者さんは、大きめのトンボメガネのタイプにした方がよいでしょう。 メガネをすると、アレルギー用でなくても、眼周辺の湿度が上昇し、ドライアイの改善にもなります。 コンタクトレンズは、花粉などがレンズの裏に入り込みやすく、ドライアイがあるとキズにもなりやすく、さらに症状が悪化します。 どうしてもコンタクトでないと視力が出ない患者さんは、コンタクトしながらアレルギー用メガネをすればよいでしょう。 度の入っていないだてメガネをつけていると、眼や眼周囲を触るのが減ります。 毛染めした髪の毛、犬や猫などかぶれやすいものを触った手で、眼を触るのは止めましょう。 ひどいときは、どうしても抗アレルギー剤の内服が必要です。 セレスタミンなどのステロイドを内服すれば、確かによく効きます。 しかし、それの効果が切れるとさらに悪化したり、翌年の症状がさらに悪化することがあります。 ステロイドと知らずに内服していたり、短期くらいなら大丈夫と考えている患者さんも多いようです。 アレルギー性結膜炎には、できるだけインタール点眼液、リボスチン点眼剤、ザジテン点眼液などのステロイドの入っていない抗アレルギー剤の点眼を主に用いるべきです。 T型アレルギーにステロイドは好ましくありません。 鼻涙管に炎症がなければ、何も入っていない塩類だけの点眼剤で洗い流すのもよいでしょう。 湿疹型の春季カタルには、ステロイドの点眼(フルメトロン0.1%点眼液など)が治療に用いられます。 皮膚と同じで、湿疹にはステロイドの点眼を使うしかないこともあります。 皮膚科で用いられているタクロニムス(プロトピック)を眼科に用いた点眼もあります。 ステロイドの合わない患者さんにはよいかもしれません。 眼瞼結膜の湿疹型病変、春季カタルなどには、ステロイドより有効です。 ただし、単純ヘルペス、細菌感染症などには常に注意が必要です。 点眼液に含まれる防腐剤などによる接触皮膚炎(かぶれ)にも注意する必要があります。 かぶれやすい患者さんには、防腐剤を含まない1回使い捨てのインタールUD点眼剤を処方しています。 アレルギー性結膜炎がどうしてもよくならなければ、ステロイドを点眼するしかないかもしれません。 結局のところ、原因アレルゲンを排除するのが最も好ましいと考えられます。 スギ花粉の時期に目の回りや鼻唇部が特に悪化します。 アトピー性皮膚炎の顔面の湿疹と、アレルギー性結膜炎とアレルギー性鼻炎があります。 アレルギー性結膜炎は、眼の周囲の湿疹や色素沈着(パンダ徴候)の原因となります。 眼周囲の皮膚の肥厚、亀裂も少なくありません。 眼周囲の湿疹に対しては、ひどければステロイド含有の眼軟膏(リンデロンA眼軟膏、プレドニン眼軟膏など)が用いられます。 インタール点眼液などのステロイドを含まない点眼でアレルゲンを遮断して、経過をみるのもよい方法です。 効果が少なければ、プロトピック軟膏を眼の周囲に用いる以外にないようです。 ひっかくと悪化しますので、抗アレルギー剤の内服を併用した方がよいと思われます。 A.白内障(はくないしょう) 白内障は、入院患者では、軽症も含めると、4、5人に1人程度の割合で見られます。 そのうち5〜10人に1人くらいは、視力に影響しているために、手術が必要です。 白内障は、重症患者、特に顔の湿疹がひどい患者に多いと言われています。 若者のアトピー性皮膚炎患者に白内障が起きる原因として、顔に対するステロイド外用の影響や顔面の掻破などによる外傷を指摘する研究者もいます。 また、ステロイドを内服している患者に明らかに多く見られる傾向もあります。 アトピー性皮膚炎患者の白内障は、急速に進行し、初期より視力に影響を及ぼすことが多い傾向があります。 症状としては、明るいところでのまぶしさから始まることが多いようです。 急に視力が低下したときは、眼科を受診して下さい。
近年は、手術で眼内レンズを用いることが多いようです。 老人に眼内レンズを用いるのではなく、何十年も使わなければならない若者に素材が劣化しないか心配です。 白内障の手術は、たいていは1回しかできません。 なお、術後の虹彩・毛様体炎、あるいは、網膜剥離に注意を払う必要があります。 術後に眼周囲をひっかいたり、たたいたりするのは好ましくありません。 術後炎症を抑えるために、できれば使いたくないのですが、ステロイドの内服が必要になる場合があります。 それだけに、手術をする眼科の先生は上手な先生を選んで下さい。 左右白内障、右水疱性角膜症を合併、角膜移植しましたが、生着しませんでした。 顔全体に強い湿疹があります。 B.緑内障(りょくないしょう)、眼圧上昇 頻度は明らかではありませんが、ときどき眼圧が高くなっているアトピー性皮膚炎患者がいます。 実際、視野が欠損している患者は多くありませんが、緑内障として点眼剤を続けていることもあります。 顔面に湿疹があるときは、眼科を受診したときは、眼圧や視野の検査もした方がよいかもしれません。 眼圧の上昇には、湿疹という眼周囲の炎症以外に、ステロイドの内服、ステロイド外用剤や抗アレルギー剤の内服も関係している場合があります。 C.網膜剥離(もうまくはくり) 網膜剥離の合併は、入院患者では年間5例程度見られました。 以前より、患者が顔を引っ掻く代わりに、ボクシングのようにたたくことが原因であると指摘されています。 実際、知らず知らずに顔をパンパンと音を立ててたたいている患者さんがたくさんいます。 家族が引っ掻くくらいならたたいた方がよいと指導して、そんなふうになってしまったこともあるようです。 習慣になってしまっているために、なかなか止めるのは難しいようです。 白内障の術後に見られることもあります。 軽症の網膜裂孔程度には、レーザー治療が行われています。 飛蚊ひぶん症、すなわち、視野を何か飛び回るような症状から始まることが多いようです。 視力に直接関係しない周辺から剥離が始まる傾向があり、症状が出る前に発見するのが大事です。 D.水疱性角膜症 失明の原因になりますが、アトピー性皮膚炎で合併する頻度はきわめて低いようです。 角膜移植が必要です。 E.円錐角膜(えんすいかくまく) 角膜の中央が円錐状にとびでたものです。 思春期ころ始まり、少しずつ進行しますが、成人を過ぎると自然に止まることも多いと言われています。 視力低下があり、ひどくなるとコンタクトレンズがはめられなくなります。 Hanifin & Rajka の小基準に含まれますが、アトピー性皮膚炎での合併の頻度はかなり低い(1%以下)ようです。 F.角膜ヘルペス カポジ水痘様発疹症は、アトピー性皮膚炎の皮膚に単純ヘルペスが広がった疾患です。 顔全体にこれが広がっても、眼瞼結膜はともかく、眼球結膜にヘルペスが広がることは比較的少ないようです。 角膜ヘルペスは、むしろ眼単独で出現することが多いと思われます。 G.ドライアイ アトピー性皮膚炎の乾燥肌は目にも影響が及び、目も乾燥していることが多いようです。 液晶ディスプレイを一日中ずつと見つめていますと、まばたきするのを忘れることが多く、それでますます目が乾燥します。 ブラウン管ほどではないかもしれませんが、静電気で目にいろんなものが飛び込んできますと結膜に炎症がおきます。 炎症を繰り返していると、ますますドライになってくるのは皮膚の場合と同じです。 涙はいつも眼を洗い流して、クリーニングしています。 ドライアイになると、花粉やダニ・ハウスダストなどのアレルゲンが、眼の中に入りやすくなります。 そのために、アレルギー性結膜炎がしばしばひどくなります。 特に、PM2.5のような微粒子では、アレルギー性鼻炎がそれほど強くないのに、アレルギー性結膜炎がひどいというようなことが起こります。 ドライアイの眼にアレルギーが加わると、しきりに引っ掻くために、結膜や角膜にキズが多くなり、ますますアレルゲンが中に入りやすくなります。 細菌感染の加わった眼脂が接着剤のようになって、コンタクトレンズがますます使えなくなります。 ステロイド入りの点眼剤(フルメトロン0.1%など)を使っていると、眼の細菌感染がますます悪化し、気がつくと、アカントアメーバに侵されているというような事態になります。 ドライアイは、シェーグレン症候群という自己免疫疾患でもみられます。 このときは、目だけでなく、口の中や鼻の粘膜などにも乾燥症状がみられます。 眼は、涙の分泌が少なくなり、乾燥性の角結膜炎ができています。 ときに、眼脂が多くなり、眼の周囲に乾燥して張り付いて視力障害を起こしたり、涙道を閉塞して涙が眼周囲にあふれることもあります。 口腔は、唾液が出にくいために、水分の多いものでないと食べられなくなります。 歯は虫歯だらけになり、歯槽膿漏もみられます。 下腿の結節性紅斑などいろんなタイプの発疹が、全身にみられることがあります。 しばしば、他の自己免疫疾患、たとえば関節リウマチや橋本病などに合併することがあります。 この疾患は、中年女性に多い傾向があります。 メガネフレームに水を入れるところをつくり、それで乾燥した目を保湿するようなメガネもあります。 普通のアレルギー用メガネでも、ドライアイは軽くなります。 6. 耳鼻咽喉科合併症
@.アレルギー性鼻炎・花粉症、慢性副鼻腔炎・蓄膿(ちくのう)症 (こちらをクリック) A.慢性扁桃炎、中耳炎 扁桃炎は、病巣感染として以前より様々な皮膚症状を生じると言われています。 細菌の種類としては、上述しましたA群β溶連菌(溶血性連鎖球菌)が多く検出されます。 扁桃腺はふだんから多少肥大していますが、疲れたり、ストレスがひどくなると、扁桃腺に常在した溶連菌が血中に入り、高い熱がしばしば出ます。 高熱が1日だけで、抗生剤なしで熱が下がることも多いようです。 もちろん、ペニシリン系・セフェム系の抗生剤の内服がよく効きます。 一般に、扁桃肥大は4、5歳をピークとして徐々に軽くなりますが、成人になっても続いている場合があります。 高熱を繰り返し、血尿・タンパク尿があり腎炎などの溶連菌の合併症が心配なとき、扁桃切除の適応になります。 ピンボケで申し訳ありません。 溶連菌が繁殖した扁桃肥大の患者さんです。 風邪をひくと、左右の口蓋扁桃がくっつくくらいに大きくなります。 今は感冒もなく、発熱も見られませんが、扁桃だけでなく扁桃周囲も炎症を起こして赤くなっています。 扁桃が肥大していると、アデノイドが肥大していることも多く、風邪をひくとこれが耳管を閉塞し、しばしば滲出性中耳炎を起こします。 中耳も副鼻腔と同じように空洞です。 中耳炎のために、抗生剤を長期にわたって繰り返すことがありますが、決して好ましいことではなく、かといって他に方法がないこともあります。 中耳炎を繰り返すため、やむなく鼓膜を切開したり、ドレーンで中耳の膿を出すこともあります。 慢性化した中耳炎の原因菌がアレルギーを起こし、蓄膿症と同じように顔面・頭部の湿疹の原因になります。 また、中耳炎が慢性化すると、炎症性の肉芽腫となり、真珠腫が形成され、耳が聞こえにくく(難聴)なります。 慢性扁桃炎の溶連菌は、下腿などに見られる貨幣状湿疹、手のひら(掌)や足の裏(蹠)に膿疱ができる掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)の原因にもなり、扁桃切除(扁摘)でこれらがよくなることがあります。 アトピー性皮膚炎の湿疹がよくならないとき、扁桃切除で湿疹が軽快することがあります。 ただし、扁桃切除したからといって、細菌に対して弱いという体質がよくなるわけではありません。 扁桃の炎症は喫煙で悪化します。 家族による間接的なものも含めて、タバコは吸わない方がよいと説明しています。 また、うがいによる扁桃洗浄もすすめています。 皮膚症状との関連性を証明する方法として、インプレトール打ち消し試験、扁桃洗浄による誘発試験などがあります。 B.メニエール病、突発性難聴 いずれも、耳のなかでアレルギー性の炎症反応が起きているために起きる場合があります。 突発性難聴の治療に対して、炎症反応を抑えるために、しばしば大量のステロイド内服が用いられます。 7. 内科合併症
@.気管支喘息(ぜんそく) 気管支喘息は、気道粘膜の持続性の炎症を伴って、気道が可逆性に細くなる現象で、発作性に笛性喘鳴を伴う呼吸困難を繰り返す病気です。 気道に炎症があり、いろんな刺激(タバコ、線香、花火など)や抗原(ダニ、花粉類、ペットなど)によるアレルギーで起きる慢性・再発性の咳を、アレルギー咳嗽がいそうと呼んでいます。 気管支喘息は、アトピー型と非アトピー型に分けられます。 アトピー型は、ダニやペット類などにRAST値が陽性で、様々な吸入アレルゲンが原因になっているタイプです。 子供や大人に多くみられます。 気道・肺胞の破壊は強くなく、ペットを排除するだけで、完全によくなることもあります。 非アトピー型(内因型)は50歳を過ぎた高齢者に多く、しばしば呼吸器の感染症が誘因となります。 呼吸器系の慢性炎症は、気道の破壊につながります。 破壊された気道の再構築(リモデリング)を繰り返していくうちに、しばしば肺気腫や肺線維症になります。 そうなると、肺の換気能・働きが低くなります。 在宅酸素療法(HOT)に頼るしかないこともあります。 乳幼児期もまた、しばしば呼吸器の感染症によって喘息発作が起きます。 その意味で高齢者の内因型の気管支喘息と似ています。 高齢者と異なり、乳幼児の気管支喘息は感染症に対して免疫力がついてくると、たいていはよくなります。 感染症が悪化要因になっているために、乳幼児期は、アトピー性皮膚炎の悪化とともに気管支喘息も悪くなります。 アトピー型と非アトピー型に分けられます。 乳幼児期は、アトピー性皮膚炎の悪化と一緒に気管支喘息も悪くなります。 成長するにつれて、喘息が悪化するときは、アトピー性皮膚炎はむしろ軽くなります。 悪化要因が同じ時は、両方とも一緒に悪くなることもあります。 喘息は、T型アレルギーだけでなく、もともと気道過敏性があり、感染症などで気道の炎症が起きると好酸球性の炎症が加わります。 炎症が起きると、アレルゲンが侵入しやすくなり、さらにアレルギー性の炎症が悪化します。 アレルギー性の炎症に遅発型反応が加わると、交感神経の働きが弱くなった夜間から早朝にかけて喘息発作が起きます。 喘息が慢性化すると、肺胞が破壊され、気道の再構築が加わり(リモデリング)、難治化します。 喘息発作は、 軽い喘鳴程度のものから、 小発作(苦しいが横になれる)、 中発作(苦しくて横になれない、やっと歩けて、会話しにくい状態です。 PEF 60−80%、SpO2 91−95%)、 大発作(苦しくて動けない、歩けない、話せない状態。チアノーゼを伴うこともあります。 PEF 60%以下、SpO2 90%以下) に分類されます。 中発作以上になれば、夜間・深夜でも急いで受診して下さい。 よくならなければ入院です。 大発作は即時入院です。 喘息治療の目標は、健常人と変わらない日常生活を送ることです。 普段、咳や発作がなく、夜間十分な睡眠がとれ、正常に発育することです。 PEFは自己最良値の70%以上を維持することを目標とします。 従って、喘息の治療は、喘息発作のときに用いるものと、重症の発作を起こさないための長期管理に使用するものに分けられます。 また、当然のことながら、患者さんの病気の強さ(重症度)によって治療内容が異なります。 喘息発作に対しては、小発作程度なら、β2アドレナリン受容体刺激薬の吸入・内服・貼付剤が用いられます。 交感神経の受容体にはα1、α2、β1、β2があります。 気管支にはβ2が主に分布しています。 交感神経を刺激すると、β2受容体に作用して、狭くなった気管支は広がります。 β1受容体に作用すると、血圧が上昇したり、脈が速くなったり、動悸が起こることがあります。 (自律神経系(副交感神経・交感神経)の応答についてはこちらを参考にして下さい) このタイプの薬剤でよく使われるものが、子供ではホクナリンテープの貼付、成人ではメプチン・セレベント・サルタノールの吸入です。 内服もありますが、血圧上昇や頻脈などの全身性の副作用は現れやすくなります。 内服は即効性がなく、高血圧患者さんには使いにくいのですが、吸入できない状態や吸入が嫌いな患者さんにはよいかもしれません。 テープ剤は、アトピー性皮膚炎患者はしばしばかゆくなったり、湿疹ができることがあります。 ホクナリンテープによる接触皮膚炎です。 ここまでひどくなるとステロイド外用剤が必要です。 貼る位置を毎回変更して湿疹ができないか、かゆみの具合はどうか様子を見ることになりますが、どうしてもダメな患者さんがいます。 そうなると、吸入するか、それができないときは、喘息発作がでているときは、内服しかないかもしれません。 メプチンなどの吸入剤は吸入できる程度の軽い発作に用いられ、中発作以上になると、吸入のみで対応するのは好ましくありません。 重症発作で入院すると、酸素投与、気管支拡張剤やステロイド剤の全身投与(点滴・内服)などが行われます。 ステロイドが全身投与されたとき、アトピー性皮膚炎の湿疹は一気に改善されます。 喘息がよくなり、そのステロイド(内服や吸入剤)が中止されたとき、しばしば、リバウンドの形で湿疹が悪化します。 喘息は命にかかわる問題でもあり、ステロイドの全身投与は仕方がないことです。 それだけに、重症発作を引き起こさない予防が重要です。 次に、長期管理に関係したものですが、近年は軽症の気管支喘息に対しても、ステロイド吸入剤(フルタイド、パルミコートなど)が処方される傾向にあります。 ステロイド吸入剤が登場して、重症の気管支喘息患者が減り、明らかに喘息で入院する患者数も減少したということです。 確かに、気道に炎症があるなら、ステロイド吸入は仕方がないともいえます。 ただし、発作の起こっていないアレルギー性咳嗽に対しても安易に用いられています。 もともと子供では冬季気道の感染症に続いて、喘息様気管支炎となり、ひどくなれば深夜から早朝にかけてヒューヒューと発作が起こるようになります。 どこまで感染症でどこまでが感染症のアレルギーか分けることができないのですが、そんな子供にもステロイドの吸入が処方されます。 ステロイドは感染症を悪化させるだけに、ある程度慢性化した中等症以上の喘息にステロイドの吸入を用いるべきと考えるのですが・・・。 少なくとも、夜間に喘息発作がなく、単になおりにくい咳が続いているだけでステロイドの吸入剤がよいとは思いません。 ステロイド吸入剤は長期に連用していると、気道にカンジダやアスペルギルスのようなカビ(真菌)が繁殖することがあります。 カビが気道に付くととても厄介です。 とくに、ついたガビにアレルギーあると、さらに対応が難しくなります。 たいていは、ステロイドを大量に吸入しても少しも効かないという事態に陥ります。 皮膚なら抗真菌剤をぬればある程度効果がありますが、気道に塗り薬を使うわけにはいきません。 仕方なく、抗真菌剤の内服ということになりますが、肝障害や白血球数の減少などの副作用に注意が必要であり、内服してもステロイドを吸入していると、カビはなかなかとれません。 アスペルギルスには水虫の抗真菌剤は効果が少なく、もっと副作用の強いジフルカンのような抗真菌剤が投与されます。 ステロイドを吸入すると、吸入剤が吸収されて、体幹や顔面の湿疹を改善します。ということは、ステロイド吸入量に相関して、その部分の湿疹が変化します。 すなわち、喘息が調子が悪いときは、アトピー性皮膚炎がましになるという結果になります。 ステロイドの吸入剤は、長期的にはステロイド外用剤と同じ問題点が起きる可能性がありますが、皮膚とは違って、気管支内部の状態は目には見えません。 いずれ、ステロイド依存あるいはステロイド不応症が生じてくるかもしれません。 接触皮膚炎の副作用が多すぎて発売中止になったブデソニドが、ステロイド吸入剤パルミコートとして用いて大丈夫なのかも心配です。 また、近年、重症患者さんに対して、発作のときに用いられる吸入剤をあらかじめ混ぜたステロイド吸入剤(アドエア、シムビコートなど)も安易に処方されています。 重症患者には便利ということですが、発作が出ていないときにそんな吸入剤が必要なのかという疑念を感じています。 吸入剤には、粉状のもの(パウダー)と液状のもの(エアゾール)があります。 どちらも多少気道に対して刺激があり、炎症が強い時期に一時的にはかえって発作がでやすくなることもあります。 パウダーの方が刺激が強く、一方炎症が落ち着いてくると、パウダーの方がよいかもしれません。 以上、少し長すぎるくらい、ステロイド吸入剤について述べました。 近年、長期管理に最も用いられるようになったものが、ロイコトリエン拮抗剤(オノン、キプレス/シングレア)です。 キプレス/シングレアは、夜1回で使いやすいのですが、幼児に用いられるドライシロップ(4mg)が大人量の2/5、子供量のチュアブル(5mg)が大人の半分量しかないというのは、体重換算でいくらか多いのではと思うときがあります。 実際のところ、私自身も、ステロイド吸入剤を使いたくない気管支喘息に対しては、まずこれらを処方しています。 午前中受診されて、かなり症状があれば1日2回のオノンを用い、それほど発作が強くなく、その日すぐに抑える必要がない程度と考えればキプレス/シングレアをあげています。 ただし、長期的な効果は、キプレス/シングレアの方がオノンより優れています。 ただ、毎日発作を起こす重症患者には、キサンチン誘導体(テオドールなど)の内服やステロイド吸入剤を併用せざるをえません。 さらに重症のときは、生命維持を優先して、ステロイドを内服していることもあります。 また、長期内服の問題点は、どんな薬剤にもついてきます。 定期的に採血して検査しておいた方が無難です。 アレルギー疾患に共通していえることですが、患者の持っているアレルギーの強さ、そのアレルギーの異常を引き起こす様々な抗原の存在、そして、起こっているアレルギーを抑える自分の免疫状態と、用いられている治療の効果などを、足し算引き算して、症状の程度が決まります。 持っているアレルギーが強く、それに反応する抗原が多量にあるなら、よくならなくて当然です。 室内にいる犬猫やダニが問題なら、ゼロにするのは難しくても、少しでもそれらを少なくしたり、排除することを考えるべきです。 疲れていたり、睡眠不足のとき、仕事のストレスが一杯で、アレルギーを抑える自分に問題があるなら、できる限り休養を取り、しっかり食事をとって免疫状態を改善すべきです。 薬剤ばかりに頼るのは、長い目で見てよいこととは思えません。 というものの、気管支喘息は、アトピー性皮膚炎以上に精神的要因に影響されやすいようです。 アレルギー疾患の国別分布としてよくいわれることに、歴史的にアトピー性皮膚炎は西ドイツに多く、気管支喘息は東ドイツに多かったということがあります。 アトピー性皮膚炎は日本や東洋人に多く、アメリカ合衆国ではむしろ気管支喘息が多いということです。 これらは一体全体どういうことなのでしょう。
A.アナフィラキシーショック アトピー性皮膚炎がよくなってくると、T型アレルギーとして最も強い症状、アナフィラキシーショックが起こることがあります。 強いアレルギーが全身に起こると、呼吸困難、チアノーゼ、血圧低下、意識消失などのショック症状が生じることがあります。 蕁麻疹や気管支喘息と同じT型アレルギー反応です。 起こり始めに、咳やのどのかゆみ、冷汗や不安感、めまいや頭痛などの予知(前兆)症状が、しばしばみられます。 原因としては、蜂に刺されたり、食物ではソバが多いようですが、卵や牛乳などでも起こる可能性があります。 食物依存性運動誘発性アナフィラキシー(FDEIA)は、食後2、3時間後、運動すると現れるアレルギー反応です。 小麦や果物で多く見られます。 アナフィラキシーショックは、お好み焼き粉のダニを食べて起きることもあります。 ショックが起こったときは、頭を低くして寝かせ、安静にして、急いで救急車を呼んでください。 近くに病院がないところで仕事しているひと(林業関係者など)、予知症状がありショックを繰り返しているひとには、交感神経刺激剤エピネフリン(ボスミン)0.3mlを皮下注射する道具、エピペンがあります。 エピペンは平成23年9月より、保険適用になっています。
B.アトピー性脊髄炎 最近、アトピー性皮膚炎で力が入りにくい患者や、力を入れると手足が震える患者が見られることがあります。 ひどいときは過緊張症状や痙性麻痺の症状になり、歩行困難を訴えることもあります。 皮膚で起きているアレルギー性の炎症が何らかの原因で脊髄にまで及んでいるためと考えられますが、詳細は不明です。 運動神経やその下行神経系に付随した症状をよく見ます。 ただ、便秘など自律神経失調症もまた、アトピー性炎症の結果と考えることもできます。 インフルエンザ脳症やその他ウイルス疾患の脳症も、脳脊髄系に起きた異常な免疫反応すなわちアレルギーと考えられます。 熱性けいれんやライ症候群もまた、脳の中に起きた同じ様な反応と解釈されます。 熱性けいれんはアレルギー体質の患者さんに多い傾向があります。 ライ症候群は、乳幼児の熱発に対して非ステロイド系抗炎症剤を投与すると生じるといわれます。 じんま疹などのアレルギー反応も同じで、実際、じんま疹は痛み止めや熱冷ましを内服すると悪化すると説明しています。 積極的に治療するとなると、ステロイドの内服以外にないかもしれません。 C.偏頭痛 冷え症や肩こりがあれば、血行がよくないために頭痛が起きていると考えられます。 一方、頭の中で炎症反応・アレルギー反応が起きて、頭痛を起こしている場合があります。 その炎症・アレルギーの原因はやはりウイルスや細菌に対するものが多いようです。 つまり、風邪をひいたり、扁桃腺をはらしたり、お腹の具合が悪くなると、偏頭痛の症状が現れたり、悪化するということです。 同時に、関節の炎症・アレルギーもしばしばみられます。 こんな頭痛に抗アレルギー剤が効果ある場合があります。 非ステロイド系の抗炎症剤、いわゆる痛み止めは、一時的に頭痛に効果があるかもしれませんが、じんま疹などをしばしば悪化させますように、頭痛を悪化させることがあります。 特に前兆現象があるとき、抗アレルギー剤が効果があるようです。 アレルギー性の炎症が原因で頭痛が起きているときは、このタイプの薬剤は悪循環をつくるだけで、内服しない方が無難かもしれません。 ライ症候群でこれが禁忌になっているのと同じです。 アレルギーの場合は、しばしば閃輝暗点などの前兆現象がみられます。 D.高尿酸血症、痛風(つうふう) 体の細胞の核酸成分を代謝して、体外に排出するとき、尿酸に変えて腎臓から排泄されます。 ヒトの体は常に分解、再生されています。 湿疹があると、皮膚細胞が破壊されているために、尿酸値が上昇していることがあります。 そんな尿酸値の上昇は、 ・尿酸が産生される量が増えている場合と、 ・腎臓から排泄される量が少なくなっている場合 に分けられます。 アトピー性皮膚炎患者の尿酸値の上昇は、主に、そんな産生の増加によるものです。 しばしば、父母に同じ体質のヒトがいて、遺伝的要因も加わっています。 尿酸値の上昇で起きる病気が、痛みとして目に見えるものが痛風であり、目に見えないものが腎機能の低下です。 尿酸値の産生を抑える薬剤アロプリノール(ザイロリック)は、しばしば薬疹の原因になります。 特に、薬剤誘発性過敏症症候群(DIHS)の原因薬剤としても知られています。 これを内服して、アトピー性皮膚炎が悪化する例も見られます。 現在、痛風に対しては、他に適当な薬剤がなく、皮疹の状態をみながら、アロプリノールの内服を続けるしかないようです。 尿酸排泄剤もありますが、痛風に対しては、効果は不十分です。 尿酸値は、美食家で上昇している傾向があります。 ということは、肉や魚など動物性食品を食べていない患者さんで、尿酸値が低くなっていることがあります。 充分な栄養が取れていないと、感染症やアレルギーなどに対して抑える力が低下します。 私は、尿酸値を、患者さん栄養状態の目安にしています。 E.高血圧 アトピー性皮膚炎患者さんに高血圧が多いというのは、あくまで私自身の印象です。 その血圧も、収縮期よりも、拡張期の血圧が上昇しているようです。 大阪府立羽曳野病院皮膚科のときの検査から、レニン・アンジオテンシン系の数値、ASOなどの溶連菌に関係したものに異常が見られました。 ということは、若年性の腎性高血圧ということになりますが、さらに詳細な分析が必要です。 女性の場合、更年期になると、突然高血圧になるアレルギーの患者さんがいます。 必ずしも高脂血症あるとは限りません。 Copyright © 2003 Endou Allergy clinic All Rights Reserved |