8. アトピー性皮膚炎の自然治癒


目次
1.成長、すなわちバランスよく食べること
 *
ヒトに栄養上必須と思われるビタミンについて
2.感染症を避けること
3.スポーツのすすめ
4.ストレスを避ける・ストレスを楽しむ
5.悪化の原因が自然になくなる

 
アトピー性皮膚炎は自然によくなっていく病気です。
 特に、子供のアトピー性皮膚炎は自然治癒がしばしば見られます。

 自然治癒といえなくても、症状には季節変化があります。

 一般に、乳幼児や小児のアトピー性皮膚炎の症状は夏季によくなり、冬季に悪化する傾向があります。
 汗は皮膚に対して刺激になりますが、一方で皮膚を洗い、水分補給にもなり、皮膚の乾燥を軽くします。
 この季節変化をうまく利用するのもうまい方法といえます。

 夏になると、汗をかきやすいところにあせも様の湿疹を繰り返す場合もあります。
 これは夏の汗に慣れてくるとむしろよくなり、ステロイド外用剤で押さえ込もうとすると、かえってその部分以外のところに広がる可能性があります。

 成人期になり湿疹が重症になると、汗をかく夏季に悪化する患者も少なくありません。
 そのときの湿疹は、汗をよくかくところよりも、むしろ汗の出にくいところが悪くなります。

 アトピー性皮膚炎の治癒は、アレルギーが完全に正常になることで症状がなくなるという意味ではありません。

 子供の場合、少しずつ成長することで、それまで働きが十分でなかった免疫が大人並みになり、それとともに持って生まれた免疫異常であるアレルギー体質を抑え込むようになります。
 成長を過ぎた大人でも、自分の体が自分の免疫的な異常を押さえることで症状が出なくなります。

 従って、何も症状がない健常人であっても、検査すると、アレルギーを持っている人はたくさんいます。
 検査異常がありながら、ずっと気がつかないままという例も少なくありません。

 症状を自然治癒に導くためには、自分自身が変わるか、自分の周囲が変わる必要があります。
 その変化は、自分で積極的に変える場合と、自然に変わる場合に分けられます。

 個別に分けると、次のようなものがあると考えられます。

1. 成長すなわちバランスよく食べること

 人は、生まれたときは、大人と比べると全くの未完成という状態です。

 目も見えず、歯もなく、授乳のとき以外はずっと眠っています。
 首も座ってなく、起き上がることもできず、ただ泣くだけで言葉を発することもできません。
 体の中といえば、肝臓や腎臓などいろんな臓器の働きも、まだ十分ではありません。
 消化機能の未完成ために、母乳のような液状のものしか受け付けません。

 免疫系も、同じように未完成です。
 白血球は、数を増やすことで、それらの機能が弱いところを補っています。
 母体から胎盤を通じてIgG抗体をもらっているために、ようやく感染症に対応できる状態です。
 その抗体が分解されて少なくなると、自分ではまだ十分作れないためにさらに感染症に弱い状態になります。

 皮膚はといえば、皮脂が十分作られていません。
 皮膚表面の皮脂の量を測定すると、顔面も体幹もゼロ近くになっています。
 そのために皮膚のバリア機能はほとんどなく、刺激に対してとても弱くなっています。

 しかし、これらの未完成も、年齢とともに少しずつ大人並みになります。

 さして、子供の成長のためには何が必要かということになります。

 まず第一に考えられることは、食事です。
 人の体は、食物に含まれるいろんな栄養素で作られています。



 食べないと大きくならない。
 好き嫌い
が多いと、アトピー性皮膚炎のなおりがよくないのです。

 子供のアトピー性皮膚炎患者を検査すると、半数以上に鉄欠乏性の貧血が見つかります。(学会報告)
 成長期に必要な量のが食事から取れていないということです。
 このことは、鉄だけでなく他の栄養素も不足している可能性も示しています。

 鉄は還元型のFe2+の方が吸収されやすい。
 胃液は鉄を溶かし、ビタミンCなどの還元剤でFe3+をFe2+に還元されています。
 鉄の吸収は、大部分十二指腸で行われています。
 果物・野菜の嫌いで胃酸の少ない子供、胃切除した患者、萎縮性胃炎がある女性は、鉄欠乏性貧血になります。

 なお健康男性でも、毎日0.6mgくらいの鉄が失われています。
 一方、健康な人でも、食物中の鉄のわずか3〜6%が吸収されるだけです。

 子供の入院患者の中に、主食のご飯以外ほとんど手をつけないような子供が何人もいました。
 乳幼児期から食物アレルギーがあるということで、卵その他をずっと制限してきた結果ですが、食べて大丈夫というものばかり食べてきたために、極端な偏食になったのです。

 一方、食物アレルギーがあると、それを食べると口の中に違和感を感じるために、食べてもおいしくなく、それが嫌いになることがあります。
 周囲の食物アレルギーに対する接し方が、患者の食習慣での精神面に影響していることもあります。

 アレルギーを成長で抑え込みたいのなら、外来ではいつもいろんなものをバランスよく食べるように口酸っぱく言っています。

ヒトに栄養上必須と思われるビタミンについて 
 ビタミン  作用  欠乏症状  過剰症状  供給源
 A    視物質の成分
 上皮細胞の維持
 胎児の発育、
 
細胞の発育
 夜盲症
 皮膚の乾燥
 
易感染性    
 食思不振頭痛、
骨痛
肝脾腫、
脱毛
 
落屑性皮膚炎   
 緑黄色野菜果物
 レバー、乳製品、
卵黄
、うなぎ、
 味付けのり
   
 β-カロチン  小腸上皮でレチノ
ールに転換し、吸収 
 レチノール  
 レチノイン酸  レチノールの酸化型
 B複合体        
 B1(チアミン  脱炭酸の補助因子  脚気 神経炎
ウエルニッケ脳症
    きな粉、うなぎ、
 無精白穀類、豚肉
 B2
(リボフラビン
(アルカリ性では
特に光に弱い)
 補酵素(FMN,FAD)、
感染防御 
舌炎口唇炎
口角炎、角膜炎、
脂漏性皮膚炎
肛囲・陰部のびらん
 末梢神経障害   肝臓、牛乳
納豆、鶏卵、牛豚肉
ホウレンソウ
 ナイアシン
(B3)
(ニコチン酸アミド)
 
 
 補酵素( ニコチン酸
アミド、NAD+
 ペラグラ     たらこ、赤身肉、肝臓
コーヒー、魚
 B6
(ピリドキシン
 酵素の補助因子、
アミノ酸代謝の補酵素
ステロイドの作用発現 
痙攣刺激過敏、
皮膚炎、貧血、
高コレステロール
脂肪肝・肝硬変
抗体形性不全
   イースト、小麦肝臓
ゴマ、鶏肉
バナナ、魚
 パントテン酸
(B5)
   
 補酵素(CoA)
腸内細菌も合成   
 皮膚炎腸炎、
 
円形脱毛症
 副腎機能不全
   卵、肝臓イースト
納豆、魚、牛豚肉
  
 ビオチン   酵素の補酵素、
腸内細菌も合成 
 皮膚炎腸炎    卵黄、肝臓トマト
 葉酸    補酵素   スプルー貧血
胎児の神経管障害
   緑黄色野菜
 B12
(シアノコバラミン
 アミノ酸代謝の補酵素
 赤血球産生
 悪性貧血
末梢神経障害
 
   肝臓、肉、卵、
ミルク、魚、
 
 C
(アスコルビン酸) 
抗酸化作用
コラーゲン合成の補助、
神経伝達物質・ホルモン
合成の補因子
コレステロールからの
胆汁酸合成、
鉄の吸収促進、
免疫能の亢進
壊血病、
創傷治癒の遅延
高コレステロール
成長遅延
骨成長障害 
   柑橘類
緑黄色野菜
 D群  小腸でのカルシウムと
リンの吸収

コレステロールから
合成される7-デヒドロコ
レステロールは紫外線
で活性化されてD3
になる
  
 くる病骨軟化症    カルシウム過剰、
体重減少
  
 
 D2 (エルゴ
カルシフェノール)
 キノコ
 D3 (コレ
カルシフエノール)
 魚、卵黄、肝油
 E群(α-
トコフェロール
抗酸化作用
生体膜安定化作用 
 運動失調      ミルク、卵穀類
 肉、緑黄色野菜
 K群 血液凝固の補助因子
腸内細菌も合成する

  
 出血    消化器症状
骨粗鬆症
  
 
 K1
(フィロキノン)
緑黄色野菜、
緑茶、海草類
 K2
(メナキノン)
(K1より半減期長く、
効果大)
 納豆、バター、チーズ
 栄養機能化学(朝倉書店)、ギャノング生理学23版、ビタミンの新栄養学(講談社)を改変

 食物中に含まれる有機物で、生命や健康維持などに必要不可欠なもので、エネルギー源となっていないものをビタミンといいます。
 ビタミンは、水溶性のものと脂溶性のものに分けられます。
 水溶性ビタミンには、B群とCがあり、小腸で容易に吸収されます。
 一方、脂溶性ビタミンには、A、D、E、Kがあり、吸収には胆汁酸やリパーゼが必要です。
 脂溶性ビタミンには、欠乏症状の他に、とりすぎによる過剰症状も問題となります。
 表では、皮膚や免疫作用に関係したものについては、赤字や緑字で示しました。
 ビタミンA群、B群、Cなどが、いかに重要か、納得できると思われます。

 ビタミンB12のように、動物性食品にしか含まれていないビタミンもあります。
 (ちなみに、ビタミンB12製剤(中国製?)を内服して、アトピー性皮膚炎が悪化した患者さんがいました)

 ビタミンを含まれている食物をみると、いかに好き嫌いせずに、バランスよく食べることが重要であることが分かります。

 ビオチン、パントテン酸やビタミンKのように、大腸に常在する腸内細菌が合成しているものもあります。
 アレルギー患者さんはもともと感染症に弱く、発熱するたびに抗生剤を何度ももらっています。
 その結果、正常な腸内細菌が育たず、いつも便秘か下痢気味ということになります。
 腸内細菌がちゃんとしていなければ、ビタミンの合成や吸収もよくないということです。

 また、便秘があると、どうしても食事の量が少なくなります。
 「アレルギーの病気はおなかから治せ」といわれます。
 
 ニンジンに含まれるβ-カロチンが小腸上皮でビタミンAに転換されるように、小腸の状態も重要です。

 野菜の嫌いな子供は、本当にたくさんいます。
 それならば、サプリメントや野菜ジュースで補えばよいということではありません。
 合成品には常に不純物が含まれ、それがまたアレルギーの原因になります。
 工場で作られたビタミンCよりも天然のものの方が安全なのです。
 野菜をジュースにすると、加熱処理の段階でかなりの割合で破壊されています。
 加熱変性しやすいものは残っていませんし、長期保存しているうちに変性することもあります。


 肉や魚が嫌いという子供もいます。
 植物蛋白質ばかり食べていると、チロシンやトリプトファンなどの必須アミノ酸が足りなくなります。

 食事の量も大事です。
 発育期は必要量のカロリーをとらないと、ちゃんとした免疫が作られません。

 乳児期のかなり悪化した症状でも1歳を過ぎると、急によくなることが多いようですが、その時期はやはり夏季が多いと思われます。

 1歳を過ぎて湿疹が続いている場合は、患児が風邪などをひかなくなる時が次の自然治癒の時期といえます。

 4、5歳ころを過ぎると発熱するのが少なくなります。
 そのころまでに、水痘(みずぼうそう)やインフルエンザなどの感染症をきっかけとして悪化することも少なくありません。
 新型インフルエンザで急に湿疹が悪化した患児さんがたくさんいます。

 感染症に対する免疫力をつけるために、いろいろな方法で患児の体力をつけたいものです。

 喘息患者で鍛錬
(たんれん)療法としてよく行われている寒風まさつやスイミングなどは、皮膚刺激が強いために、かえって悪化する場合があります。
 特に、スイミングはとびひなどの皮膚感染症が多く、十分な注意が必要です。

 積極的に外遊びをすすめています。アトピー性皮膚炎の子供は勉強ができて、読書や音楽が好きなのですが、スポーツが必ずしも得意とはいえません。
 集団の中に入るのも苦手で、ストレスをもらいやすい欠点もあります。
 汗で一時的に悪化する危険性もありますが、それでも体を動かすことも重要です。

 アレルギー患者は様々な変化に弱いようです。幼稚園や学校生活に慣れてくれば、精神的にも強くなったといえます。

 
成長によって症状が軽減することをアウトグロウ(outgrow)と呼ばれています。いわばアレルギーから育つことを意味しています。

 また、症状が、湿疹→喘息→鼻炎と変化することをアレルギーマーチと呼ばれることがあります。
 アレルギーマーチをする患者は、湿疹がよくなってもIgEやRASTがかなり高いままで、原因となっているアレルゲン(特にダニやペットなどの吸入アレルゲン)が除かれていない場合が多いようです。
 マーチしないためには、感冒などの呼吸器感染症を少なくなることも必要です。

 身長が伸び、声変わりや陰毛、生理が始まる時期になると、それまでの湿疹が急によくなることがあります。
 この時期になり、すっかりよくなっていた湿疹が再発することもあります。

 小学校低学年までにステロイド外用剤をほとんど用いていない状態になっていないと、成人型のアトピー性皮膚炎に移行することが多いようです。
 ステロイド外用剤は自然に使わなくなるのがよく、毎日外用しているときに急にやめてもリバウンド状態になり、重症化するだけです。

 アトピー性皮膚炎は、免疫が過剰に働いている状態です。
 それだけに、免疫が元気すぎる若い成人に強く出る傾向があります。
 このことは、入院患者の平均年齢が大体20歳であることからも分かります。

 年齢を重ねるにつれて、すなわち、身体が成熟・老化するにつれて、湿疹は徐々に軽くなっていきます。
 30歳を過ぎてもよくならない場合、なぜそうなのか、じっくり考えてみる必要があります。

2. 感染症を避けること 

 アレルギーは、異物に対する免疫反応が異常に、過剰に働いている状態です。
 そんな状態を招くものを、スーパー抗原あるいはアジュバントと呼ばれています。
 スーパー抗原の代表は、様々な化学物質です。
 細菌やウイルスの感染症も、そんな免疫異常を招くスーパー抗原として重要です。

 感染症は、全身的なもの、たとえば水痘、麻疹、風疹、おたふく風邪、インフルエンザ、肺炎その他日常の感冒を含めて、ウィルス性でも細菌性であっても、湿疹を悪化させることが多いようです。
 感染症にかかったときは、十分な安静、休養をとり、生活上無理をしないことが重要です。
 細菌性の感染症では、扁桃や皮膚の溶連菌感染症が悪化要因として特に問題です。
 溶連菌性の扁桃炎は、たいていは疲れたり、ストレスがたまったときに突然高熱がでて、1日で下がることが多いようです。
 腎炎を起こすことがあり、学校検診などで血尿や蛋白尿を指摘されることがあります。

 水痘、単純ヘルペスなどのヘルペス属のウイルスもまた、病気の重症度を上げる一因となります。

 ただ、高い熱が出ている感染症の急性期は、アレルギーの免疫状態が感染症に対応した免疫状態に変化するために、一時的に湿疹がほとんどなくなることがあります。
 麻疹、感冒などでは、高熱のために一時的に良くなった状態がその後ずっと持続する場合があります。

 アトピー性皮膚炎で受診した小児科で、別の感染症をもらわないように極力注意しましょう。
 病院では、他の子供と遊ばせない配慮が必要です。軽い風邪で受診して、インフルエンザをもらっては元の子もありません。

 感染症は、しばしば、それまでのアレルギーを強くします。
 感染症がよくなってからIgE値を測ってみると、何十倍、何百倍にもなっていることがあります。

 扁桃炎の溶血性連鎖球菌(溶連菌)で発熱を繰り返す患者は、十分うがいをし、父母の間接喫煙や疲れを避けることも必要です。
 本人がタバコを吸っているというのは論外です。
 喫煙することで咽頭や喉頭に炎症を引き起こし、溶連菌を増やすだけです。
 とにかく、患者本人も、家族も、禁煙したほうが賢明です。

 扁桃炎を繰り返すことで腎炎や心内膜炎などの合併症があるとき、扁桃切除が行われることがあります。
 皮膚科疾患でも、掌蹠膿疱症に対して、扁桃切除が行われて、よい結果が得られる場合があります。
 アトピー性皮膚炎に対して、扁桃切除は効果があることもありますが、必ずしもよい結果が得られるとは限りません。
 また、扁桃切除をしても、溶連菌で発熱を繰り返すのは減りますが、感染症に対して免疫力が弱い状態は変わりません。

 乳児を保育所に預けていると、互いに感染症をうつし合っていることが多く、自宅で育児しているよりも感冒やとびひが多いようです。
 生活のために子供を預けざるを得ないのは分かりますが、せめて1歳までは自宅におく方がよいと考えます。

 子供の病気に対して母が付き添う必要性を証明すれば、母が育児休暇をとれるということで、そんな診断書を書いたことがあります。

 そんな感染症について全く反対の説、衛生仮説というのがあります。
 感染症を繰り返すことで免疫力がつき、そのことがアレルギーの発症を抑えるということです。
 この説はある意味で正しいところがあります。
 ただ、それはアレルギー体質のそれほど強くない患児に限ります。
 実際、感染症に対する免疫異常があるとき、感染症を繰り返すことでアレルギーの異常がますます亢進し、対処できないくらい重症化する例も多いのです。

 また、衛生仮説はアレルギー体質の少ない欧米人に当てはまるのであって、欧米人よりアレルギーの強い黄色人種には当てはまらないかもしれません。

3. スポーツのすすめ

 
子供の場合は成長が体質を自然に変えていくと言えます。
 そんな成長には食事が重要であると説明しましたが、それ以外の免疫的成長にかかわる要素を上げるとなれば、運動やスポーツということになります。

 また、成長期の子供ではなく、成人において免疫的な体質を変えるにはどうすればよいかということになると、やはり運動やスポーツということになります。

 体を動かすと新陳代謝が活発になり、体を構成している成分の更新が進行します。
 すなわち古いものが処理され、新しいものに交換されるということです。
 それまでの異常な細胞が破壊され、新しく健常なものに置き換わるように体を作り替えるということです。



 アトピー性皮膚炎は精神的ストレスで悪化します。
 スポーツはそんなストレス解消にもなります。

 本来、アトピー性皮膚炎患者はをかくとかゆくなることが多く、汗をかくのをいやがるようになります。
 そうなると、ますます普段は汗をかかなくなり、湿疹があると、汗管にも炎症が及びます。
 炎症があると、汗孔や汗管がふさがるために、たまに汗をかくと非常にかゆくなります。
 これが慢性化すると湿疹となります。
 いわゆるアトピー性皮膚炎のあせも説です。

 ところが、この状態であっても、いつも汗をかいていると、だんだんかゆみが少なくなることがあります。
 汗は皮膚に水分と油分を補い、皮膚の乾燥状態を改善もします。

 となれば、翌日に疲れを残さない程度の健康な汗は、湿疹を改善させる一つの手段となります。

 ただ、運動すると、気管支喘息やじんま疹が誘発される場合、注意が必要です。
 また、ほこりの多いところで行う室内競技についても、自分の症状の変化を見ながら続けるかどうか見極める必要があります。

 屋外競技では日光の影響を、道路沿いをジョッキングするときは排気ガスの影響を、ゴルフ場を歩き回るときは農薬や花粉の影響を考慮する必要があります。

 現代人は少し暑くなると冷房、少し寒いと暖房というようになりがちです。
 アトピー性皮膚炎患者は、末梢循環がよくないために冷え症が多く、少し暑いだけで、顔が真っ赤になることも少なくありません。
 自律神経による調節がうまくなされていないためですが、外的な刺激に対してうまく反応できるように少しずつ鍛えてみるのも必要です。

 マンションなどの気密性の高いところは無理な注文かもしれませんが、夏の冷房はひかえめにして、多少汗をかいてみるとよい場合があります。

4. ストレスを避ける・ストレスを楽しむ

 勉学や仕事のストレスは、アトピー性皮膚炎の悪化の原因にもなります。
 ストレスには、精神的なものと、睡眠が十分にとれていないなどの肉体的なものがあります。

 睡眠が不規則になりやすい夜勤があるような仕事は、できれば昼間の仕事に変えましょう。
 コンビニなどで、深夜にバイトするのは好ましいことではありません。
 少なくとも、深夜勤務の翌日は十分睡眠を取りましょう。

 脳下垂体・副腎皮質系などのホルモン分泌は体内時計の支配下にあり、日内リズムがあります。
 それらのホルモンは、さらに上部の視床下部などから指示をうけて分泌されます。
 そんな視床下部のホルモン分泌は、さらにストレスなど外的刺激に強い影響を受けています。

 外に出て日光を浴びると、松果体ホルモンが分泌され、健全な睡眠のリズムがつくられます。

 副腎皮質のホルモンであるコーチゾルは、いわゆるストレスホルモンです。
 湿疹というストレスがあると、それの炎症を取り除くために大量に分泌されています。
 その分泌には、日内リズムがあります。
 早朝が最も多く、夕方から夜にかけて最も少なくなります。
 この分泌はぐっすり睡眠を取ったときに多くなります。
 夜寝ていないと、実際よりも少なくなってしまいます。
 夜昼逆転した仕事を続けていると、ホルモンの日内リズムがほとんど失われます。
 そうなると、分泌のグラフが一日中低値のまま、フラットに近くなります。

 子供のときの成長ホルモンの分泌は、副腎皮質系のホルモンよりもさらに睡眠の影響を強く受けます。
 ぐっすり眠ることで、夜間間隔を置いて、一時的な大量分泌が起こります。

 精神的な成長が湿疹をよくすることがあります。
 湿疹が余り気にならなくなるのは、長い目で見た治療効果から非常に望ましいことです。

 何かあると、知らず知らずに自分の湿疹の中に逃げ込んでしまうことがあります。

 いろんなことを湿疹のせいにして、湿疹があるために何もできないと思いがちです。
 湿疹が出始めた頃は、もしこんな湿疹がなかったらという気持ちが、しばしば負の行動を起こさせます。
 人生に絶望し、人と会うのがイヤになり、何もかも投げ出したくなることもあります。
 そんな気持ちを解決するものは、結局患者の精神的な成長です。

 精神を鍛錬する方法には以前より様々な方法があります。

 座禅のような修行的なもの、自律訓練法などの心理学を応用したもの、水かぶりなどの鍛錬を目的としたものなど、その他患者の年齢や症状・性格に合わせていろいろなものがあります。
 文化サークル、福祉活動、ボランティアなどの社会活動に加わるのも、精神発達にはよいことです。

 アトピー性皮膚炎患者は、しばしば自宅に閉じこもりがちになりがちです。
 あちこち連れ回してくれるような家族以外の友人がいれば、精神的にも改善すると思われます。
 話し合える友人がいると精神的な支えにもなります。

 
子供の場合は、いろいろなことを禁止するよりも、むしろけがをしないように患者の好きなことを自由にやらせてみる方が結果としてよいことがあります。

 わざと少しずつ精神的な負荷をかけて、慣らしていくのもよいかもしれません。
 いわゆる、かわいい子には旅をさせよということです。
 変化を嫌がるからと、いつまでも患者の言いなりになって、同じことを繰り返しているのは好ましいことではありません。

 一日中テレビゲームにどっぷり浸かっているような現状から離れて、患者にそれほど精神的な負担とならない程度に、いろんなことをやらせる方がよいでしょう。

 精神的に成長してくると、初めはいろんなストレスを避けようとしていた患者が、上手にストレスを楽しむようになります。
 そうなると湿疹というストレスもほとんど気にならなくなります。
 湿疹がどんなときに悪くなり、そんなときどうすればよいか的確に判断できるようにもなります。

 そうはいうものの、患者に特有な性格の問題もあります。(論文報告)

5. 悪化の原因が自然になくなる

 
原因が自然になくなると、自然治癒が導かれるということです。
 これには、様々な積極的な行動の結果そうなることも含まれています。
 何もしないでよくなるということではありません。

 ただ、アレルギー患者に共通して言えることは、何かやり始めると、徹底的にやらないと気が済まないところがあります。
 それでいて、やっていることはいい加減で中途半端なこともあります。

 あまり結果を考えずに気楽にやるようにと言っても、なかなかできないのが、何事にもこだわりや思い込みの強いのがアレルギー患者です。

 アトピー性皮膚炎の悪化の原因には様々なものがあります。

 その悪化要因が分からない場合は、とにかく現在の状況を変化させて、それによって湿疹がどうなるか冷静に観察してみるのも悪くありません。

 今の環境が合わない可能性があるなら、どこか外国でしばらく暮らしてみるくらいの気持ちがあっても良いかもしれません。
 ただし、仕事については、こんな不景気な時代でもあり、簡単に止めない方が賢明です。
 ストレスは、どんな仕事にもあります。
 必ずしも、他の仕事の方が環境がよくなるとも限りません。
 
 そんな中でよく勧めるものとして、結婚があります。
 住居が変わるきっかけになり、確かに男性の場合は、健康的な食生活と生活のリズムが導かれます。
 話し相手が登場することで、ストレスの解消や生きることの励みにもなり、効果としては最高です。

 ただし、女性の場合は、相手の男性にもよりますが、いろいろな家事も加わり、手湿疹などは悪くなることもあります。
 それでも、環境改善と精神的安定が得られたときは、すばらしい結果が得られます。

 
妊娠・出産は、女性の場合、積極的に体質を変える絶好の機会です。
 妊娠・出産で湿疹がよくなる患者、変わらない患者、悪くなる患者の割合は、大体1:1:1くらいです。
 もしかすると、悪化がやや多いかもしれません。
 ある程度湿疹がある患者については、もうこれ以上悪くなることはないと気楽に考えるようにと、積極的に妊娠・出産を勧めることもあります。

 ただ、悪化の原因は、時とともに自然になくなる場合も多いようです。
 毎日の生活を楽しみながら、それまでのんびり待つのも一つの方法です。

 もちろん、やりすぎている患者の気分を落ち着かせるのは、容易なことではないかもしれません。


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