13. 乳児アトピー性皮膚炎の重症度と兄姉の関係
遠藤薫他:乳児アトピー性皮膚炎の重症度と兄姉の関係。第12回日本アレルギー学会春季臨床大会、2000。
結果のまとめ
1.生後6カ月未満の患者114名と
生後6〜11カ月の患者120名について、
兄姉の有無がアトピー性皮膚炎に及ぼす影響を検討した。
2.対象は、男が多くなっていた。
3.生後6〜11カ月の患者において、兄姉がいると有意に重症化していた。
生後6カ月未満でも同様の傾向であったが、有意差はなかった。
4.感染症の既往は問診では不明が多く、兄姉の有無との関係は分からなかった。
なお、生後6カ月未満で感染症の既往があると重症が多くなる傾向が見られた。
5.血清IgEは、兄姉の有無で差がなかった。
血清IgGは、生後6〜11カ月の患者で、兄姉がいると有意に高くなっていた。
6.生後6〜11カ月の患者で、兄姉がいると、MRSAを検出する患者が多くなっていた。
はじめに
概して、乳児アトピー性皮膚炎は、冬季悪化し、夏季に軽減する傾向がある。
その原因が、単に冬季に乾燥することによるものなのか、それとも感冒などの感染症が原因なのかはっきりしない。
「乳児アトピー性皮膚炎は2人目の男児になるとさらに重症化しやすい」と、外来で説明することがある。
一般に、兄姉がいると、感冒、伝染性膿痂疹などの感染症が多くなる傾向がある。
これらの感染症がアトピー性皮膚炎の悪化の一因になっているのではないかと疑われる患者は少なくない。
しかし、アトピー性皮膚炎の悪化要因として、これら感染症の関与についてはこれまで十分統計的に検討されていない。
今回われわれは、兄姉の存在は弟妹に対して統計的に感染症の機会が増加すると仮定し、兄姉の有無と乳児アトピー性皮膚炎の関係を検討した。
対象
平成7年11月から平成11年7月までの間に大阪府立羽曳野病院皮膚科を初診した生後1歳未満の乳児アトピー性皮膚炎患者234名(男152名、女82名)を対象とした。
これらを生後6カ月未満114名(男76名、女38名、平均年齢3.7カ月)と生後6〜11カ月120名(男76名、女44名、平均年齢8.1カ月)の2群に分けて検討した。
なお対象はすべて同じ主治医を受診した患者である。
方法
問診により、兄姉数、発熱又は感染症の既往とその時期、保育所への預託の有無について調査した。
患者の全身及び各部位(顔面、体幹、上肢、下肢)ついて、それぞれの重症度をグローバル評価法を用いて5段階(0、1、2、3、4)で評価した。
なお、0は症状なし、1は微症、2は軽症、3は中等症、4は重症に相当する。
なお、ドライスキンのみの場合は、重症度0に分類した。
検査項目として、血清IgE値、ハウスダスト、卵白、牛乳、小麦、大豆、米、猫皮屑、犬皮屑の8項目に対するRAST値、IgG値、白血球数、好酸球数を選択した。
また、綿棒によるスクラブ法によって、顔面における細菌の種類と量(少数、+、++、+++)を調べた。
検出された細菌は、S.aureus、coagulase negative Staphylococcus、MRSA、Streptococcusの4種とこれらを検出しなかったものに分類した。
結果
血清IgE値、IgG値、白血球数、好酸球数の平均値、さらにハウスダスト、卵白、牛乳、小麦、大豆、米、猫皮屑、犬皮屑の8項目に対するRAST値について陽性(0.7Ua/ml以上)数を表1に示した。
表1.患者のまとめ |
|
例数 |
IgE |
RAST陽性数 |
IgG |
白血球数 |
好酸球数 |
生後6カ月未満 |
114 |
106.7 |
1.1 |
405.8 |
10571 |
1185 |
男 |
76 |
121.9 |
1.0 |
401.4 |
10627 |
1241 |
女 |
38 |
76.2 |
1.3 |
414.5 |
10435 |
1051 |
生後6〜11カ月 |
120 |
387.8 |
2.1 |
578.4 |
10814 |
758 |
男 |
76 |
481.6 |
2.1 |
596.4 |
11059 |
852 |
女 |
44 |
225.7 |
2.1 |
547.3 |
10390 |
595 |
患者数としては、国勢調査で示された数値と比較して、統計的に有意に男が女より多かった。
血清IgE値は、両群とも男の方が女より高かったが、有意差は認められなかった。
また、IgG、白血球数についても有意差は無かった。
好酸球数はいずれの群とも男に多い傾向が見られたが、統計的有意差は無かった。
RAST陽性数についても有意差はなかった。
表2に兄弟数と重症度を年齢と男女で分けて示した。
兄弟数は、各群間で差はなく、男女の間でも有意差は無かった。
全身の重症度は、男の方がより重症の傾向が見られたが、統計的有意差は認められなかった。
表2.兄姉数と重症度のまとめ |
|
兄姉数 |
重症度(全身) |
|
0人 |
1人 |
2人
以上 |
0 |
1 |
2 |
3 |
4 |
生後6カ月未満 |
63 |
39 |
12 |
0 |
18 |
37 |
33 |
26 |
男 |
42 |
26 |
8 |
0 |
9 |
25 |
25 |
17 |
女 |
21 |
13 |
4 |
0 |
9 |
12 |
8 |
9 |
生後6〜11カ月 |
63 |
44 |
13 |
2 |
17 |
47 |
39 |
15 |
男 |
41 |
25 |
10 |
2 |
9 |
29 |
25 |
11 |
男 |
22 |
19 |
3 |
0 |
8 |
18 |
14 |
4 |
全体 |
126 |
83 |
25 |
2 |
35 |
84 |
72 |
41 |
男 |
83 |
51 |
18 |
2 |
18 |
54 |
50 |
28 |
女 |
43 |
32 |
7 |
0 |
17 |
30 |
22 |
13名 |
兄姉数と重症度の関係を表3と表4に示した。
生後6〜11カ月の乳児アトピー性皮膚炎患者の場合、兄姉数が多くなると重症化する傾向が認められ、患者を兄姉の有無と軽症以下と中等症以上で分析すると、兄姉がいると有意に中等症以上の患者が多くなっていた。
生後6カ月未満の乳児アトピー性皮膚炎患者の場合、同様に兄姉がいると重症化する傾向がみられたが、統計的有意差は見られなかった。
なお症例数が多くなれば、生後6カ月未満の患者においても、兄姉がいると有意に重症化するという結果が得られた可能性がある。
表3.生後6カ月未満の乳児アトピー性皮膚炎患者の
重症度と兄姉数の関係 |
|
兄姉数 |
|
兄姉 |
重症度 |
0人 |
1人 |
2人以上 |
|
なし |
あり |
1 |
9 |
7 |
2 |
軽症以下 |
34 |
21 |
2 |
25 |
8 |
4 |
中等症以上 |
29 |
30名 |
3 |
16 |
13 |
4 |
p=0.17 |
4 |
13 |
11 |
2名 |
|
|
|
表4.生後6〜11カ月の乳児アトピー性皮膚炎患者の
重症度と兄姉数の関係 |
|
兄姉数 |
|
兄姉 |
重症度 |
0人 |
1人 |
2人
以上 |
|
なし |
あり |
0 |
2 |
0 |
0 |
軽症以下 |
41 |
25 |
1 |
12 |
3 |
2 |
中等症以上 |
22 |
32名 |
2 |
27 |
17 |
3 |
p<0.05 |
3 |
15 |
18 |
6 |
|
|
|
4 |
7 |
6 |
2名 |
|
|
|
表5に対象患者が最初に発熱又は感染症に罹患した月齢と兄姉の有無の関係を示した。
いずれの年齢群でも既往の不明が多く、兄姉の有無で有意な差違は得られなかった。
表5 対象患者が最初に発熱又は
感冒に罹患した月齢と兄姉の有無の関係 |
|
6カ月未満の患者 |
6〜11カ月の患者 |
兄姉の有無 |
なし |
あり |
なし |
あり |
最初の発熱・感染症の月齢 |
|
|
|
|
0カ月 |
19 |
8 |
7 |
3 |
1〜2 |
8 |
12 |
2 |
7 |
3〜5 |
11 |
6 |
12 |
17 |
6〜11 |
|
|
12 |
6 |
既往なし |
15 |
13 |
5 |
2 |
不明 |
10 |
12 |
25 |
22 |
計 |
63 |
51 |
63 |
57名 |
生後6カ月未満の患者群をみると、早期に発熱又は感染症に罹患すると、中等症以上の患者が多くなる傾向が見られたが、有意差はなかった(表6)。
表6 発熱又は感染症の罹患と重症度の関係
(生後6カ月未満の患者群) |
|
重症度 |
|
軽症以下 |
中等症以上 |
最初の発熱・感染症の月齢 |
|
|
0カ月 |
11 |
16 |
1〜2 |
13 |
7 |
3〜5 |
9 |
8 |
既往なし |
20 |
8 |
不明 |
10 |
12名 |
表7に血清IgE値とIgG値と兄姉の有無との関係を示した。血清IgE値は、両群とも兄姉がいると高くなる傾向が見られたが、有意差はなかった。
血清IgG値は、生後6〜11カ月の乳児アトピー性皮膚炎患者において有意に高くなっていた。
表7.血清IgE値とIgG値と
兄姉の有無との関係 |
|
生後6カ月未満 |
生後6〜11カ月 |
|
兄姉 |
兄姉 |
|
なし |
あり |
なし |
あり |
IgE |
78.1 |
141.9 |
286.0 |
500.2 |
IgG |
395.8 |
418.0 |
530.5 |
631.4* |
* : p<0.01 |
また、感染症に罹患するとしばしば抗生剤が投与され、結果として皮疹からMRSAが検出される頻度が増大する。
表8に示したように、生後6〜11カ月の患者で兄姉がいると、MRSAの検出される患者が多く認められた。
表8.兄姉の有無と
皮疹より検出される細菌の関係 |
|
生後6カ月未満 |
生後6〜11カ月 |
|
兄姉 |
兄姉 |
|
なし |
あり |
なし |
あり |
S. aureus |
38 |
30 |
34 |
27 |
MRSA |
3 |
3 |
2 |
8 |
Streptococcus |
1 |
1 |
0 |
1 |
coa. neg. S. |
15 |
7 |
10 |
6 |
検出せず |
6 |
1 |
17 |
15 |
計 |
63 |
51 |
63 |
57 |
なお初診月と兄姉の関係をみると、生後6カ月未満は1〜3月と4〜6月が多くなっていたが、生後6〜11カ月は4〜6月が多い傾向はあるものの、全体として平均化していた(表9)。
表8.初診月と兄姉の関係 |
|
生後6カ月未満 |
生後6〜11カ月 |
|
兄姉 |
兄姉 |
初診月 |
なし |
あり |
なし |
あり |
1〜3 |
31 |
19 |
14 |
12 |
4〜6 |
15 |
17 |
20 |
20 |
7〜9 |
8 |
9 |
12 |
13 |
10〜12 |
9 |
6 |
17 |
12 |
計 |
63 |
51 |
63 |
57 |
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