12.アトピー性皮膚炎と化学物質


「環境の出生率に対する影響について」はこちらをクリックして下さい。


「水道水の危険性」についてはこちらを


目次
1. 原因物質の種類
 *免疫反応・アレルギーを強くするもの(スーパー抗原、アジュバント)
(1).
ホルマリン(ホルムアルデヒド)
 *日本の住宅基準(日本農林規格(JAS)、日本工業規格(JIS)、厚生労働省による室内濃度指針値)
(2). 揮発性有機化合物(Volatile organic chemicals, VOC)
 *ドイツ商品安全・表示協会(RAL)の壁紙安全品質基準
(3). 農薬類
(4).排気ガス、大気汚染
 
*微少粒子状物質(PM 2.5)について
(5). 細菌、カビ類、原虫類
(6). 電磁波
2. 対策
@.化学物質過敏症の診断と原因物質の解明
A.掃除、特に拭き掃除を徹底的に行う
B.できる限り室内から化学物質を排除する
C.十分換気を行う
D.Baked out、新築、改築後すぐに入居しない
E.化学物質の少ない材料で家を建てる
F.転居

 近年、室内に浮遊する何らかの化学物質が原因で、
様々な症状
(全身倦怠感、食思不振、頭痛、眠気、嘔気、下痢、腹痛、眼がちかちか、うつ状態、生理不順)
 を呈する患者が増加しています。

 これらの症状は、検査しても健常人と変わらないことも多く、いわゆる不定愁訴
ふていしゅうそと呼ばれるものに相当します。
 検査して正常であれば、医師がまず考えることは、それが精神的な問題で起きているのではないかということです。
 一方で、アレルギー疾患は精神的な影響を受けやすいということを示しています。

 このような臨床症状は、「化学物質過敏症」あるいは「シックハウス症候群」と呼ばれるものにみられます。
 その中で、湿疹などの発疹を主症状とするものが、しばしばみられます。
 これらの発疹が化学物質が原因であると証明は必要ですが、湿疹やじんま疹は、少なくとも医師が見て分かる他覚症状です。
 因果関係が証明されれば、ごく微量の化学物質による一種の薬疹、または中毒疹と考えられます。

 あるいは、化学物質が原因で、いろんな神経に対する免疫反応のために起きた神経障害・粘膜障害とも考えられます。
 子宮頸がんワクチンで生じたアレルギーも似たような話です。

 室内の化学物質が悪化要因として疑われる場合、まず引っ越しや改築・改装後に湿疹が悪化したということがあげられます。

 他に、下の表のような特徴があります。

 化学物質過敏症の特徴
 
@.気温が高く、蒸発量が増える
に多く、また悪化することが多い。
A.独身、又は共働きなど、室内を
閉め切る生活をしている患者に多く見られる。
B.自宅にいる時間の長い
女性や子供に多い。
C.新築の一戸建てやマンションだけでなく、古い住居にも見られることがある。
  また。改築後や内装を変えた後でも見られる。
D.時に、目が
チカチカしたり、頭痛や全身倦怠感、発熱などの全身症状を伴う。
E.自宅をある一定期間
離れると、症状が改善される。
F.検査でアレルギーが見られないことがある。



 皮膚症状は、成人型のアトピー性皮膚炎と全く区別できません。
 顔面を含めて、全身の落屑を伴った紅斑が多いようです。
 貨幣状型、痒疹型などの特殊な発疹も認められます。

 シックハウス症候群では、その建物に住んで、あるいはそこで仕事を始めて最初に現れる皮膚症状は、しばしば眼と眼の周りのかゆみと湿疹です。
 ひっかくにつれて眼囲の湿疹が悪化し、パンダ様に色素沈着やびらんを伴うようになります。

 鼻炎症状があるときと、ないときがあります。

 徐々に全身に広がるにつれて、むしろ、かゆみの強い湿疹に、体のだるさや頭痛などの全身症状を伴うことが多いようです。

1.原因物質の種類

 原因物質には、以下のような様々なものが考えられます。
 アトピー性皮膚炎との関連性については、今のところ実態が十分把握されていません。

 特に、化学物質がアレルギー状態を招いたとか、強くしたというようなエピソードを客観的に医学的に証明するのは困難です。

 アレルギーを強くする物質・誘発する物質を以前より、スーパー抗原super antigen とか、抗原性補強剤アジュバントadjuvant と呼ばれています。

 これらは、本来、免疫反応を活性化するものですが、自然免疫を介して正常免疫だけでなく、異常な・過剰な免疫反応であるアレルギーもまた強くします。

 免疫反応・アレルギーを強くするもの
スーパー抗原、アジュバント)

化学物質
 DNCBなどの芳香族、農薬、薬剤、化粧品・整髪料。
 腸管から侵入することが多いが、特に吸入すると危険。

細菌・ウイルス
 体内にはいろんな細菌・ウイルスが住みついています。
 宿主に感染症や腫瘍などの病気を起こすものから、消化吸収を助けたり、必要なビタミンやアミノ酸を合成しているものもある。
 宿主の免疫が低下すると病気を起こすものも多い。
 細菌 溶連菌、腸内細菌・食中毒菌、ピロリ菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌、
    結核菌、非定型抗酸菌。
 ウイルス ヘルペス属ウイルス(水痘、単純ヘルペス、EBウイルス、HHV6、
       HHV7、サイトメガロウイルス)、HIV、肝炎ウイルス。

タンパク質の吸入 
 ペット(犬、猫、ハムスター、ウサギ)、小麦・米、化粧品

ステロイド内服・注射 
 ステロイドは生体の免疫を抑制しますが、それを補うメカニズムが働いて、ステロイドが影響していない免疫反応は代償的に強くなります。
 同じことは、妊娠/出産、ピル、免疫抑制剤についても当てはまります。

ストレス
 

 2009年に外国製の新型インフルエンザのワクチンにアジュバントが含まれ、ワクチンでアナフィラキシーショックを起こしたという報告がカナダでありました。
 ワクチンに含まれるアジュバントとして、アルミニウム塩がよく知られています。
 アルミニウム塩はTh2状態を誘導し、IgEアレルギーを誘発するといわれています。

 細菌・ウイルスなどいろんな物質がアジュバント(スーパー抗原)の作用を持っています。
 ペットを飼い始めてから、ダニなど他のアレルギーが強くなった患者さんもいます。
 婦人科でもらった女性ホルモン剤やピルを飲み始めて、湿疹がでやすくなった患者もいます。

 化学物質もそんな働き・アジュバント作用を持っています。
 すべての免疫担当細胞にそれを起こすものもあれば、個体によってかなり反応に違いがあるものもあります。
 注意しないと、化学物質の種類によって、免疫異常を誘発する作用が非常に強いものがあります。

 何年か前のことですが、和歌山市内の某スイミングスクールのプールに通っている子供に現れたじんま疹様紅斑を診察したことがあります。
 患者さんは元気で、発熱もなく、かゆみ以外自覚症状は見られませんでした。
 患者さんの母の話によりますと、最近までプールの塗装をしていて、それが終わって、再び水を入れて間もないとのことでした。
 患者さんには、やむなく抗アレルギー剤の内服と弱いステロイド外用剤を処方しましたが、数日で完全に発疹はなくなりました。
 同じスイミングスクールに通っている患者さんで、同じような症状で来られた患者さんが他にもいました。
 その後、毎年、数は多くないですが、同じような経歴で来られる患者さんがいます。
 おそらく、プールに用いられている塗料の成分が、プールの水に溶けて起きている現象と考えられますが、特定できていません。

 スイミングといえば、プールで長い時間泳いでいる水泳選手に甲状腺機能亢進症(バセドウ病)が多いという話があります。
 いろんな化学物質は、
内分泌攪乱かくらん物質(環境ホルモン)の作用を有しています。
 そんな物質が生体に影響を及ぼす部位はというと、免疫系と内分泌系と自律神経系なのです。
 これらの三者の中枢が視床下部に集まっており、それぞれが相互に影響し合っています。
 化学物質過敏症でみられるいわゆる不定愁訴は、これら三者の異常に由来するものです。

 これまで、化学物質が内分泌系に重大な影響を及ぼしていると、警告する書物は多数あります。(化学物質と不妊症や出生率の低下との関係はこちらに)
 レーチェル・カーソンの「沈黙の春」から始まり、シーア・コルボーンの「奪われし未来」やデボラ・キャドバリーの「メス化する自然」などがよく知られています。
 これらはいずれも、化学物質が内分泌攪乱物質としての危険性について警鐘を鳴らすもので、ワニのペニスが小さくなった話とか、精子の数が減少していることにスポットライトを当てて論議しています。

 内分泌系に対する影響についても、主に生殖・性腺に集中しており、それ以外の副腎系や甲状腺などについてはあまり腰を据えて研究されていません。

 もしかすると、化学物質のせいで、バセドウ病(甲状腺機能亢進症)の他に、子宮内膜症、自律神経障害、末梢神経炎、精神神経障害なども多い可能性があるかもしれません。
 いまのところ、はっきりしていないのが現状です。

 検査法としては、原因物質を用いたパッチテストがありますがほとんど行われていません。
 薬剤をヒトの皮膚に直接、長く接触させるのは危険なことであり、またその薬剤で感作される可能性もあります。

 化学物質に対して行われる血液検査としては、薬剤によるリンパ球幼弱化試験があります。
 高価で自己負担も多く、あらかじめ検査の予約が必要です。
 また薬剤をあらかじめ準備する必要もあり、なかなか外来では一般的には行われていません。
 また、False positive(偽陽性)も多く、検査の判定に困ることがあります。

 外来で行われている一般的な検査が参考になる場合があります。

 たとえば、抗がん剤などの薬剤は、しばしば骨髄での血球(赤血球、白血球、血小板など)の産生を抑えたり、阻害します(骨髄抑制)。
 結果として、抗がん剤を使うと、貧血になったり、白血球が減ることがあります。
 そんな貧血や白血球・血小板の減少が、化学物質の影響をうかがわせる患者にみられます。
 世の中の化学物質が、抗がん剤のような作用をヒトに及ぼしているということです。

 肝機能の検査に含まれるコリンエステラーゼ(ChE)は、有機リン中毒などの農薬中毒で低下することが知られています。
 ChEは、肝臓で合成されるもので、肝硬変などの重篤な肝障害で低下します。
 なお、ChEは、ひどいダイエットしているような低栄養患者、重症の感染症、甲状腺機能低下症でも低下します。

(1).ホルマリン(ホルムアルデヒド) 

 以前より、特に新築の住宅でホルマリンの濃度が高いと言われています。

 フローリングなどに使われる合板用接着剤、断熱材、フェノール樹脂などのプラスチックの他に、石油ストーブなどからも発生します。

 刺激臭があり、吸い込むと気道粘膜を傷害し、喘息の原因にもなります。
 ホルマリンが、湿疹やかゆみの原因になるかどうかははっきりしませんが、アレルギー患者にとって高濃度のホルマリンを浴びるのは決して好ましいことではありません。

 1997年6月に厚生省よりガイドラインが示され、室内濃度0.08ppm以下にするように指導されています。
 従って、それ以前に建てられた住宅は、かなり高濃度であった可能性があります。
 それでも、年月がたつとともに、かなり低下していると考えられます。

 最近は、複合フロア材や下地合板に対して日本農林規格(JAS)、繊維板やパーティクルボードに対して日本工業規格(JIS)が設定されています。

 ホルマリンに対してアレルギーがあるかどうかは、血液検査でRAST値を測定することができます。
 ただし、ほとんど陽性になりません。
 パッチテストによる検査も行われますが、陽性の頻度は低いようです。

 保健所などで室内のホルマリンを無料で測定してくれるところがあります。

<参考>日本の住宅基準
 日本農林規格(JAS)
表示の区分  ホルムアルデヒド放散量(mg/L) 
   平均量 最大量 
 F****  0.3 以下  0.4 以下
 F***  0.5 以下  0.7 以下
 F**  1.5 以下  2.1 以下
 F*  5.0 以下  7.0 以下
 表示なし  基準なし 
 デシケーター法による放散量区分 

 日本工業規格(JIS)
表示の区分   ホルムアルデヒド放散量(mg/m2h)
 F****  0.005以下
 F***  0.005以上、0.020以下
 F**  0.020以上、0.120以下
  小型チャンバー法による放散量区分
 
 厚生労働省による室内濃度指針値
   室内濃度指針値  材料の主な用途
 ホルムアルデヒド  ●★◎  0.08 ppm  パーティクルボード、壁紙などのユリア系、メラミン系、フェノール系などの合成樹脂、接着剤
 アセトアルデヒド    ★  0.03 ppm  上と同じ
 トルエン          ★ 0.07 ppm  内装材などの接着剤、 塗料
 キシレン          ★ 0.20 ppm 上と同じ 
 エチルベンゼン    ★ 0.88 ppm  上と同じ
 スチレン         ★ 0.05 ppm  ポリスチレンなどを原材料とした断熱材など
 パラジクロロベンゼン  0.04 ppm  家庭用防虫剤、トイレの芳香剤
 テトラデカン 0.04 ppm  灯油、塗料などの溶剤 
 クロルビリホス 0.07 ppb   シロアリ駆除剤
 フェノブカルブ  3.8 ppb  シロアリ駆除剤
 ダイアジン 0.02 ppb   殺虫剤 
 フタル酸nブチル     ◎ 0.02 ppb   塗料、接着剤 の可塑剤
 フタル酸ジ2エチルヘキシル ◎  7.6 ppb  壁紙、床材などの可塑剤 
建築基準法の規制対象物質
★住宅性能表示で濃度測定できる物質
◎血液検査でRAST値が測定できる物質(ただしフタル酸類は無水フタル酸として)

(2).揮発性有機化合物(Volatile organic chemicals, VOC)

 
トルエン、キシレン、ベンゼンなどの揮発性有機化合物もシックハウス症候群の原因になります。
 ただこれらは脂溶性で、気道からだけでなく、直接皮膚からも吸収されます。

 これらは、塗料の溶剤などいろいろなところで相当多量に使用されています。
 接着剤、トイレの芳香剤などにも含まれます。

 有機溶媒は、それ自身がアレルギーの原因になります。
 スーパー抗原として、アレルギーを誘発・活性化していることも考えられます。
 いろんな有機化合物を溶かす溶媒として用いられています。
 それらに溶けている物質の方が問題となる場合もあります。

 これらの揮発性の化学物質は、融点が低く、気温が高くなると蒸発量が増えます。
 そのために、これが原因となっている湿疹やアレルギーは、閉め切ってエアコンをつけている気温の高い夏季に悪化する傾向があります。
 冬季に暖房して部屋を閉め切ると、夏季と同様、濃度が増加します。

 現在のところ、血液でVOCに対してアレルギーがあるかどうか検査することはできません。
 ましてや、スーパー抗原やアジュバントとしての作用がその患者さんにどの程度あるのか、測定したり、証明する方法がありません。

 日本ではVOCについては、法的には規制されていません。

 現在の厚生労働省の室内濃度指針値は、たとえばドイツのそれよりもかなりゆるくなっています。
 VOCの種類は何百、何千とあります。
 取り上げられた規制対象物質も少なく、特に反応を起こしやすいモノマー類の規制がありません。

 というものの、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレンなど6項目については、住宅性能表示で濃度測定できるようになっています。
 指針値内だからと安易に信用せず、測定された濃度の値をみて検討した方がよいでしょう。

 それでも、最近、ホルマリンやトルエン・キシレンを極力減らした建物で、シックハウスが発症したという報告があります。

 トルエン・キシレンの濃度が低くなっていても、揮発性有機化合物の総量TVOC(Total VOC)を測定すると、かなりの値になっている場合があります。
 恐らく、他のVOCでアレルギーを起こしたということです。
 規制されたものだけ建築基準をクリアしていれば、といったいい加減な業者が多く、大手メーカーだから大丈夫ということにはなりません。

 ドイツ商品安全・表示協会(RAL)の壁紙安全品質基準
 規制物質  基準
 ホルムアルデヒド  0.12mg/l以下(空間平衡濃度0.05ppm)
 安定剤・可塑剤  鉛・カドミウムを使用しない、難揮発性
 塩ピモノマー  0.2ppm以下で検出されないこと
 発泡剤  クロロフルオロカーボン(CFC)を使用しない
 VOC  VOC:100μg/g以下、TEX芳香族:10μg/g以下


集成材の接着部から接着剤がはみ出しています。
これをつくっている患者さんが持ってこられたものです。

(3).農薬類

 当科は和歌山市内にありますが、紀南地方では農家がミカンなどに農薬を空中散布するころに湿疹が悪化する患者さんがいます。

 農薬類は直接アレルギーの原因にもなり、皮膚症状としては薬疹・中毒疹を示します。
 薬剤が接着しやすい露出部に症状が強くなります。
 吸い込むと、肝障害・精神症状・神経症状などの全身症状を伴って、全身に発疹が見られます。
 日光に当たると症状が現れたり、強くなるタイプもあります。

 現在、農薬は、虫は死ななくても、人間は殺しかねないほど、家庭内で大量に用いられています。

 シロアリ駆除剤、木材保存剤、タンスの防虫剤、畳の防虫シート、ペットのノミ駆除剤、防菌・防黴加工した糊や内装品、携帯電話の防かび剤など、いろんなところに数多くの種類の農薬が使用されています。

 カビの生えにくい壁は結構なことですが、ホルマリンが規制される傾向にある現在、ますますこのような規制のかからない薬剤が頻用されるようです。

 ダニは殺虫剤をばらまいて除くよりも、毎日掃除する方がはるかに健康的です。
 また、アレルギーの原因となるチリダニ類は、殺虫剤には比較的強く、健康被害が出ない程度の濃度で除くのは難しいと考えられます。

 有機塩素系の農薬は、現在ほんどのものが発売禁止になっています。
 そんな中でパラジクロロベンゼンは家庭用の殺虫剤として危険性を度外視して殺虫効果から生き残っています。

 ステロイド外用剤もそうですが、ベンゼン環にハロゲンがつくと、分解されにくく、組織や脂肪に対して親和性が強く、ダイオキシンのように長く残ります。
 また、ハロゲン化合物は、強いアジュバント作用を有している可能性があります。

 なお、クロルビリホスやフェノブカルプなどのシロアリ駆除剤は現在もなお用いられているもので、これまで多数の駆除剤がヒトに対する安全性から使用禁止になっています。
 そんな古い農薬が古い家の床下に多量に残っています。

 床下換気は床下の湿気を除いてカビなどを減らす効果はありますが、シロアリ駆除剤を室内に放散する危険性もあります。
 シロアリ駆除剤の中に揮発性の低いものがあるとのことですが、どの程度低いかよく分かりません。

 防菌・防黴加工は靴下などの衣類にも行われていますが、湿疹の原因になるだけでなく感作の危険性もあり、アレルギーの面から言えば好ましいことではありません。

 フタル酸エステルは可塑剤として、ゴム手袋やプラスチックなどいろんなところで用いられています。
 ゴム手袋の成分ラテックスで接触皮膚炎をよく起きますが、可塑剤のフタル酸類でも同じような症状が起きます。
 そんな患者さんは、室内のプラスチックから漏れ出るフタル酸エステルで湿疹ができたり、気分が悪くなる可能性があります。
 なお、無水フタル酸は採血でRAST値を求めることができます。

 これらの物質も当然のことながら気温が高くなると、室内の濃度が上昇します。

 ホルマリンは比較的簡単に測定できますが、これらの薬剤は種類も多く、室内濃度を測定するのは容易なことではありません。

(4).排気ガス、大気汚染

 
大気中に含まれる雑多な粒子の複合体は、浮遊粒子状物質(suspended particulate matter, SPM)と呼ばれます。
 これには、花粉類、ディーゼル排気中微粒子(Diesel exhausted particulate, DEP)などがあります。
 特に、近年、DEPがアレルギーの原因となると言われています。

 1984年、栃木県で行われた花粉症の疫学調査で、自動車交通量の多いところに花粉症が多いと報告されました。
 同じ様なことは、アトピー性皮膚炎でもみられ、交通量の多いところに引っ越してから湿疹が出現したという患者は数多く見られます。(大阪府調査)
 車に乗ると、咳やかゆみ、鼻水とともに、湿疹が悪化する場合があります。

 実験的には、DEPと卵白アルブミンを混ぜてマウスに投与すると、卵白に対するIgE抗体の産生が増大するという報告があります。

 工場の煤煙による大気汚染で、気管支喘息などのアレルギーが起きることがあります。
 工場周辺の患者さんを検査しますと、ダニアレルギーが他の区域よりも高い割合で見られます。
 このことは、大気汚染物質がアレルギー状態を誘発し、アレルギー疾患の増悪因子となることを示しています。

 一方、スイスでの報告によると、現在、環境汚染はすでに都市と農村の間で大きな差がなく、すでに汚染度は飽和状態に達しているとも言われています。

 東京や大阪などの大都市圏には膨大な数のアレルギー患者がいます。
 東京から和歌山に引っ越しただけでどんどんよくなったという患者もたくさんいます。 
 それだけに、都市環境がますますアレルギー患者を増加させていることは否定できません。 

 微少粒子状物質(PM 2.5)について

大気中に浮遊する粒子状物質で、粒径が2.5 μm未満のものをPM 2.5と呼んでいます。
(ちなみに、大腸菌の長径は大体1μm、インフルエンザウイルスで0.1〜0.2μm)

PM 2.5は、
・発生源から直接排出される一次粒子
・大気中の光化学反応などで生成されるもの(VOC、NOx、SOxなど)
に分けられます。

PM 2.5は、発生源として
・自然起源のもの(黄砂、火山灰、など)
・人為起源のもの(工場の煤煙、排気ガス、家庭内で燃やしたもの・暖房)
に分けられます。

PM 2.5は、非常に小さいために、細気管支など呼吸器の奥深くまで入り込みます。
そのため、アレルギー性鼻炎や結膜炎だけでなく、気管支喘息を悪化させる重要な原因物質です。
粒子が非常に小さいために粘膜に付着すると、くっついて簡単には取れません。
そのために、ドライアイについたPM 2.5で、鼻炎はそれほどひどくないのに、ひどいアレルギー性結膜炎がみられます。 

以前より、欧米諸国で環境目標値が設定されています。
日本でも、平成21年9月より、中央環境審議会から以下のような環境基準が告示されています。
PM 2.5は、1年平均値が15μg/m3以下であること、かつ、1日平均値が35μg/m3以下であること。
ただし、この環境基準は、工業専用区域、車道その他一般公衆が通常生活していない地域又は場所については適用しない
PM 2.5とは、大気中に浮遊する粒子状物質であって、粒径が2.5 μmの粒子を50%の割合で分離できる分流装置を用いて、より粒径の大きい粒子を除去した後に採取される粒子をいう。
(1μmマイクロメーター=0.001mmミリメーター=1000nmナノメーター)
環境省は、平成25年2月27日、暫定指針として、1日平均値が70μg/m3以上のとき、外出自粛などの注意を喚起するとしました。

PM 2.5は、普通の花粉症マスクは通過します。
ウイルスから防護するN95マスクでも、化学物質は素通りします。
洗濯物や布団を外に干すと、それらに一杯付きます。

現在(平成25年1月末)、中国で深刻化していますが、大気汚染物質としては、上記のように昔からあったものです。

バックグラウンド地域のPM 2.5濃度
(国設酸性雨局など、2008年度年間平均濃度) 
 地域  調査地点  濃度(μg/m3)
 海浜  青森県竜飛岬  9.0
   和歌山県潮岬  10.9
 離島  小笠原父島  6.0
   長崎県対馬  11.8
 山地  釧路湿原  7.2
*こんな工場や道路のないところでこれほど高い数値になっているということは、都市部の数値は、環境基準15μg/m3の範囲内どころか、恐ろしいほど高くなっている可能性があります。


 かつて、旧東ドイツには気管支喘息が多く、旧西ドイツにはアトピー性皮膚炎が多いという疫学調査が報告されました。
 その差違は一体全体どこからきたものか。
 生活レベル(食べ物の内容など)、住環境レベル(きれいすぎることなど)など様々な要因がいわれました。
 そのなかに、大気汚染などの呼吸器に対する生活環境がその差違をつくっているという意見があります。

(5).細菌、カビ類、原虫類

 レジオネラ菌は、エアコンの冷却水から室内に広がり、以前アメリカで在郷軍人病として原因不明の肺炎の原因になったことがあります。
 我が国でも、循環式のお風呂や温泉ランドなどで繁殖し、新聞だねになったことがあります。

 エアコンのフィルターには様々な化学物質が濃縮されます。
 掃除・交換せずにそのままにしておくと、それらの化学物質をかえって室内にばらまく結果となります。

 油で汚れたフィルターの上で、有害な細菌類・カビ類が増殖していることもあります。

 カビは室内の湿度が高くなると増えやすく、バスルームやキッチンの壁に多く付着しています。
 気密性の高い家屋では、夏季には湿度は非常に高くなり、バスルームなどを除湿するのはカビを防ぐためにも効果的です。
 ただ冬季にはエアコンをつけると、湿度が20%程度の乾燥した状態になり、インフルエンザなどの呼吸器の感染症が多くなります。
 加湿器を使いすぎると、マンションなどの気密性が高いところは結露することがあります。

 難しいかもしれませんが、湿度は年間通じて40〜50%であれば最適な環境です。
 とりあえずスーパーで湿度計を買って、自宅の湿度を測ってみるのがよいでしょう。

 原虫としては、畜産農家の排水に含まれるクロストロスポリジウムが水道水に含まれることがあり、問題となります。

(6). 電磁波

 電磁波、すなわち磁場による免疫系への影響については、いまのところはっきりしていません。
 一般に電流が流れると、レンツの法則により周囲に磁場ができます。
 電子レンジやテレビなどからも電磁波は発生していますが、最大で0.01ミリテスラ程度といわれます。
 ただ、最近オール電化の家があり、電磁調理器を使っていますと、0.1ミリテスラ以上になっていることもあります。
 浴びる磁力線の量は、当然のことですが、距離の2乗に反比例、時間に比例します。
 長く電磁調理器を使っていますと、免疫系・ホルモン系・自律神経系に影響する可能性があります。
 以前より、高圧電線の近くに住んでいると、白血病が多いという報告があります。

 電磁波によってTNF-αが低下するという報告があります。
 精子数の減少、甲状腺異常、NK細胞の活性低下、肥満細胞からの脱顆粒の増加、生体内でのアポトーシスの増加なども言われています。

 磁場が何らかの免疫異常を招くということを考えると、アレルギー的な異常も誘発される可能性があります。
 もしかすると、逆に、アレルギーという免疫の過剰反応が磁場によって抑制される可能性もあります。


2.対策

 化学物質が原因と考えられたとき、対策としては、次のようなことが考えられます。

@.化学物質過敏症の診断と原因物質の解明

 アレルギーの証明
1.ある特定の物質が存在する。
2.その人がそれにアレルギーがある。

 
まず住環境に存在する化学物質が原因かどうか、客観的診断する必要があります。
 今日マスコミなどで頻繁に取り上げられ、そんな話を聞いているうちに、知らぬ間にそうだと思いこんでしまうケースもあります。

 確かに新築の家に入居して、眼がちかちかしたり、頭痛や全身の倦怠感が起きたり、不眠やいらいら感に悩まされたりと様々な不定愁訴があると、どうしても引っ越しが原因と考えがちです。
 なんとなくその家の臭気が嫌と感じただけで、いろんな症状が現れることもあります。
 そんな思いこみを除外し、客観的に診断するのは重要ですが、それほど簡単なことではありません。

 たとえば、眼科的な診断法は、化学物質による一種の中毒を診断する方法です。
 しばしば健常人でも陽性となり、必ずしもアレルギーを診断するものではありません。
 たとえば、ごく低濃度であっても、防腐剤を眼球・眼瞼粘膜に作用させると、正常の人でも何らかの反応が現れるものです。

 おまけに、原因となる化学物質を特定するのは容易なことではありません。
 どれもこれも粘膜を使って検査していくと、それらの物質で感作する危険性もあります。

 また、化学物質が人間に中毒を起こす量に比べて、アレルギーを起こす量は非常に少ないと考えられます。
 ダイオキシンのような毒性の強い物質であっても、さらに相当低い濃度でアレルギーを起こす可能性があり、通常の測定法では検出できないことも考えられます。

 さらに、生体におけるアレルギー反応は、それぞれ個人の持っている特殊な過敏性であり、すべての人間に共通して見られる現象でないところに証明の難しさがあります。
 逆にある人にアレルギー反応が証明されれば、その人は化学物質の存在を証明する一種のセンサーとも言える存在となります。

 現在のところ、化学物質で湿疹ができていると推測される場合、客観的な方法としては、住んでいるところのゴミや空気を集めてパッチテストまたはスクラッチテストを行うのが比較的安全で、確実であると考えられます。
 しかし、この方法は、含まれる物質の濃度が低いために、陽性になる頻度はそれほど高いものではありません。


化学物質過敏症を疑われたアトピー性皮膚炎患者のゴミパッチテストです。
2階和室、1階洋室は陽性に見えますが、はっきりしません。


 可能性のある物質を推測して行うこともできますが、単なるメクラ撃ちでしかなく、必ずしも正解に行き当たるとは限りません。
 実際は、ある程度交差反応を期待して、市販のパッチテストのスタンダードを用いて行っています。

 問題となる化学物質の存在は、せいぜいホルマリンなど6項目が測定できる程度です。
 その他のものはできないのが現状です。
 おまけに化学物質が多く存在しているかといって、その多いものがアレルギーを起こしているとは限らないのです。

 従って、化学物質過敏症を証明するためには、今のところ、現在の環境を避けることで湿疹がよくなり、再びそこに帰ると悪化することで診断する以上によい方法はありません。

 しばらくヨーロッパかどこか温泉にでも旅行して、湿疹やかゆみが変化するかどうか観察するのが簡単かもしれません。

A.掃除、特に拭き掃除を徹底的に行う

 掃除機でタンスの上やカーテン、壁まで掃除するのはよい方法です。

 さらに家全体を洗うつもりで、徹底的に拭き掃除するのも効果的です。
 特に、タンスや引き出しの中まで拭いて乾かせばこの上なしです。
 水に溶けにくい物質の場合もあり、さらにアルコールで拭くのもよいかもしれません。

 ただ毎日微量ずつ空気中に放出されている可能性もあり、1度だけでは済まないことも考えられます。

 確かに拭き掃除はたいへんです。天井をどうやって拭くのといわれて、答えに窮したことがあります。

B.できる限り室内から化学物質を排除する

 トイレ、バスルームや室内の香水をやめてみるのもよいと考えられます。
 防虫剤を使わずに、虫干しで代用できればよいかもしれません。

 車の中も一種の室内環境です。
 新車の空気にも注意を払って下さい。

C.十分換気を行う

 
室内を閉め切ると、いろんな化学物質の濃度が上昇します。
 できるだけ窓を開けて、換気につとめることが必要です。
 特に、気温が高い夏、暖房で室温を高くしている冬に増えることが考えられ、注意が必要です。
 防犯上問題がなければ、出かけるときに小窓を開けておくことを勧めています。
 24時間換気扇を回しておくのもよい方法です。

 しかし、窓を開けると、近くに交通量の多い道路がある場合、排気ガスが室内に入ってくることになります。
 窓を開けたところのカーテンが排気ガスですぐに汚れるようなところは住環境として好ましくありません。

 空気清浄機はある程度有効ですが、化学物質を除くには十分でないことも多く、換気することの補助的手段にしかなりません。
 また、性能に問題が多く、パンフレットに述べられているほど効果がない機種もあります。


D.Baked out、新築、改築後すぐに入居しない

 
新築後、入居前に暖房をつけたままにして、揮発性の物質をある程度追い出す方法をベイクドアウト(Baked out)といいます。
 業者に頼めば、やってくれることがあります。

 できたばかりの家にすぐに入居するのは、アレルギーの立場から言えば好ましいことではありません。
 十分に換気してから入居するか、あるいは化学物質がある程度なくなるまで十分換気しながら生活するのがよいと思われます。


E.化学物質の少ない材料で家を建てる

 業者と相談すれば、ある程度配慮してくれる場合がありますが、費用がかかります。
 また、それにかわる適当なものがないと言われることも少なくありません。

 たとえば、シロアリ駆除剤は揮発しにくいものを選択することは可能ですが、全く大丈夫というわけではありません。
 木材保存剤は現場で表面処理するものを選ばない方が賢明です。

 断熱材に用いられるガラスウールやアスベストなどは、表面に出ないように注意する必要があります。
 特に、ガラスウールやロックウールは皮膚にささると、分解されず長く残り、ひどいかゆみと湿疹が現れることがあります。

 ノンホルマリンの糊を使ったクロスがありますが、ホルマリン以外の保存料が使われていることがあります。
 ホルマリンだけを減らしても、問題の解決にならないかもしれません。

 当院は床にワックスを用いていません。
 定期的に、水で床を拭いています。

 VOCについては、TVOCの少ない室内環境をめざしたいものです。

 合板や集成材は木材を接着剤で組み合わせたものです。
 その接着剤に残存したモノマーがアレルギーを起こすことがあります。
 できれば表面加工もしていないそのままの木材を用いるのがよいと思われますが、相当高価になってしまう可能性があります。

 壁は昔風の土壁がよいのかもしれません。
 防黴剤を使わないと、湿気が多いとカビが生えやすく、そのままでは壁土が落ちて住みにくいようです。
 珪藻土がよいという意見があります。

 塗料は有機溶媒の入っていない、水性の方がよいでしょう。


我が家の自宅の壁です。
子供部屋も廊下も全部これになっています。



我が家の床です。
(詳細は小池組におたずね下さい)


F.転居

 最終的には家をかわる以外にないことがありますが、転居したところが大丈夫という保証はありません。

 海外に引っ越しすると、湿疹が軽快することが多いようです。
 ハワイやオーストラリアはおすすめです。
 中東やアメリカ西海岸もよいようです。
 沖縄や東南アジアではスギ花粉症にはなりません。
 沖縄は日本でも最もアトピー性皮膚炎の少ない地域です。

 引っ越して住居をかわるなら、汚れた空気の溜まりにくい丘の上にあり、交通量の多い道路から100 m以上離れた、マンションならできるだけ上の階(高い階になるとダニも減ります)がよいと言われています。


 大阪府東部のように、東側に山があり、すこしへこんだ盆地になっている地域は、西からいろんなものが風で運ばれてきて、どっとたまります。
 東側が山ではなく、高層ビル群でも同じです。
 スギ花粉症が心配なときは、北西方向にスギの生えた山地が広がったところは避けた方が賢明です。



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