(6).薬疹・中毒疹 風邪をひいて薬を飲んだあとに、湿疹や蕁麻疹ができたという話は少なくありません。 普通、薬剤を飲んで発疹(ほっしん)ができたときは、薬疹と定義されます。 薬剤以外の化学物質(農薬・添加物・細菌などの毒素など)などを摂取してできた発疹を、中毒疹と呼んでいます。 中毒疹・薬疹は外来性の異物又は体内で自分が作っているもので起きた異常な免疫反応であり、アレルギー疾患の一つと考えられます。 薬疹のできるメカニズムにはいろいろあります。 その薬剤がもっている薬理作用が関与しているもの、 薬剤成分のアレルギーによるもの、 ヘルペス属などのウイルスが活性化することで起きる薬剤誘発性過敏症症候群(DIHS)、 薬剤の組み合わせで起きるものなどに分けられます。
また薬疹の発疹のタイプもいろんなものがあります。 紅斑丘疹型、湿疹型、 紅皮症型、 多型滲出性紅斑型(多型紅斑型)、 スチーブンス・ジョンソン症候群(SJS)・中毒性表皮壊死症型(TEN)、 固定薬疹型、 扁平苔癬型、 じんま疹型、 紫斑型、 ざ瘡(ニキビ)型、 光線過敏型、 色素沈着型、 薬剤性ループス型、 GVHD型などです。 必ずしもクスリが原因とは言えないところはありますが、非ステロイド系抗炎症剤(解熱鎮痛剤(げねつちんつうざい/熱冷まし、痛み止め))、抗生物質、降圧剤、利尿剤、抗痛風剤、抗がん剤などいろいろな薬剤が、薬疹の原因になります。 薬用成分そのものが薬疹の原因のこともありますが、しばしば錠剤やカプセルになった薬剤に含まれる添加物や防腐剤で起きていたり、薬剤の純度が低く、含まれる不純物が原因になっていることもあります。 これらのことは、しばしば中国製の原末を含む後発品で薬疹が起きる原因になっています。 感冒で抗生剤を内服すると、じんま疹などの発疹ができることがあります。 同じ薬剤を感冒がよくなってから内服しても、症状が現れないことが結構あります。 何らかの感染症の状態があり、それに対して抗生剤を内服することで発疹ができると考えられます。 たとえば、マイコプラズマ感染症で抗生剤を内服すると、多型滲出性紅斑が起きることがあります。 また、梅毒治療で抗生剤の使い始めに高熱と発疹ができることがあります。 これは抗生剤で死滅した菌体から血中に放出された毒素によるものと考えられます。 菌体外毒素や菌体内毒素は、抗生剤を投与して菌が破壊されると大量に放出され、それがアレルギーの原因になります。 このことは、アトピー性皮膚炎の発疹の原因とも密接に関連しています。 これらの発疹は、いろんな種類のものがあり、必ずしもかゆみが伴っているとは限りません。 たとえば、結核の薬剤 INH(イソニアジド)のように、ニキビのような発疹ができることもあります。 薬剤によって、アトピー性皮膚炎のような発疹ができることもあります。 また、抗アレルギー剤も薬剤であり、これで薬疹を起こすこともあります。 添加物や農薬が原因ならば、現れた発疹は中毒疹です。 壁のクロスの糊の含まれる防腐剤、室内の芳香剤などの化学物質でも薬剤アレルギー(中毒疹)が生じている可能性があります。 いわゆるシックハウス症候群と呼ばれるものです。 アトピー性皮膚炎のなおりにくい原因が、食品に含まれる農薬、添加物という場合もあります。 現代人は添加物だけでも年間何キログラムも摂取しています。 同じ薬剤を飲むたびに同じところに湿疹ができるような薬疹(固定薬疹)もあります。 固定薬疹の原因薬剤としては、解熱鎮痛剤や抗精神科薬、抗生剤などが多いようです。 固定薬疹の発疹は、皮膚粘膜移行部(口囲・口唇・外陰部など)、四肢(手足・関節部)に好発します。 アトピー性皮膚炎も、全身性にアレルゲンを浴びると同じところがかゆくなったり、湿疹ができることから、固定薬疹に類似したところがあります。 一度湿疹ができると、そこが一見よくなっているように見えても湿疹を記憶している細胞(白血球など)が残っているために、結局同じところに症状を繰り返すことになります。 固定薬疹は、どこか一カ所だけというものから、全身に多発するものまで様々です。 しばしば、アトピー性皮膚炎として治療されていることがあります。 必ずしも医師が処方された薬剤を内服しているとは限りません。 農薬や添加物、サプリメントが原因のこともあります。 原因薬剤内服後、数分〜数時間後にかゆみ又は痛みの伴った発疹が現れます。 たいていは、境界のはっきりした円形紅斑で、中央が紅紫色に見えます。 1カ月程度で色素沈着を残して、固定薬疹は治癒します 薬剤を内服して日光・紫外線に当たると湿疹ができることがあります。 光線過敏型薬疹といわれます。 内服剤で多いものは、利尿剤(最近、ARB降圧剤と合剤になっているものがあります)、スタチン系抗高脂血症剤(メバロチン、リポバス、クレストールなど)、抗生剤(ニューキノロン系やテトラサイクリン系など)、抗ガン剤(5FU・TS1など)などが多いようですが、ほかにもいろんなものがあります。 抗アレルギー剤(ニポラジン・ゼスランはとくに多いようです)で起きることもあり、注意が必要です。 冬場に非ステロイド系抗炎症剤の貼り薬(モーラステープなど)を貼ったところに、暑くなって光が当たってひどい湿疹になる患者がいます。 このタイプの塗り薬も危険です。 貼り薬と同じ成分が内服にもありますが、必ず内服して光線過敏型の発疹ができるとは限りませんが、やはり内服して発疹が出ることが多いようです。 レスタミン軟膏、非ステロイド系外用剤、紫外線吸収剤入りのUV化粧品などは、光線過敏型の接触皮膚炎を起こすことがあります。 化粧品もそうですが、一度体の中に入ったものはなかなかなくならないもので、それが悪さをしているときは困りものです。 表皮はおよそ一ヶ月で新しくなりますが、真皮や脂肪組織にまで入り込んだ薬剤・化粧品成分は簡単には消失しません。 一日一回の薬剤は便利ですが、分解されにくくしたり、代謝を遅くして効果を長持ちさせているところもあり、そのせいか副作用も長持ちするようです。 近年、アナフィラキシーショックや牛肉アレルギーを合併した、抗ガン剤による奇妙な薬疹(手足症候群)が報告されています。
抗ガン剤ゼローダによる薬疹(手足症候群)です。 爪周囲の炎症が強く、著明な色素沈着がみられます。 足底周囲は色素沈着があり、足底はひどい角化がみられます。 しばしば末梢神経障害を伴っています。 薬疹の検査の中で、除去試験と誘発試験については、他でも述べています。 この中で、生命に影響するような強い症状が出るタイプの薬疹(たとえばアナフィラキシーショックやTENなど)は、危険なため、普通誘発試験はやりません。 また、誘発試験は何かあったときに対応できる体制が整っている大病院ならばともかく、一般開業医では施行しにくいところがあります。 それでも、固定薬疹などの部分的なところにのみ発疹ができるタイプは、外来でも可能ですし、患者本人にその薬剤を内服したとき発疹が出るか見るように説明しただけで十分かもしれません。 Copyright © 2003 Endou Allergy clinic All Rights Reserved |