9.アトピー性皮膚炎の皮膚清浄度の指標としての皮膚pHの研究

遠藤薫、檜澤孝之、吹角隆之、片岡葉子、青木敏之
(大阪府立羽曳野病院皮膚科)

日本皮膚科学会雑誌、110、19-25、2000。

要旨

(1). アトピー性皮膚炎患者38名と健常人18名に対して、踏み台昇降による発汗前後で肘窩及び前腕屈側中央の皮膚pHを測定し、さらに皮膚表面の黄色ブドウ球菌数を測定した。
 患者の皮膚pHは、健常人よりも高く、皮疹の悪化につれて上昇し、黄色ブドウ球菌数の増加とともに上昇していた。
 また発汗の少ない被験者で高い傾向が見られたが、発汗による有意な変化は認められなかった。

(2). アトピー性皮膚炎患者125名と健常人76名に対して、日常の発汗の程度について問診し、肘窩、前腕屈側中央、頬部の中央、額部の中央の皮膚pHを測定した。
 健常人に対してはアレルギー疾患の既往の有無についても問診した。
 皮膚pHは、患者は健常人よりも高く、皮疹の悪化とともに上昇していた。
 さらに患者及び健常人とも、女性は男性より高く、肘窩、前腕・額部、頬部の順に高く、汗が少ないほど高くなっていた。
 またアレルギーの既往がある健常人はそれがない健常人より高くなっていた。

 以上の結果と皮疹の悪化につれて黄色ブドウ球菌数が増加することから、皮膚の健常性を表すものとして、皮膚pHと皮膚表面の黄色ブドウ球菌数より成る「皮膚清浄度」の概念を提唱した。
 皮膚清浄度から見ると、肘窩は高く、顔面は低く、女性は低く、汗の少ない部位や対象は低いと考えられる。
 成人型アトピー性皮膚炎の皮疹は皮膚清浄度の低い部位に一致して好発している。


はじめに


 アトピー性皮膚炎患者の皮膚表面には黄色ブドウ球菌が多数存在し、皮疹の悪化の一因になっていると言われている(1)。
 実際、健常人の健常皮膚から黄色ブドウ球菌が検出されることはアトピー性皮膚炎に比べるとはるかに少ない。

 皮膚pHはこれまで健常人に対しては多数報告されているが(2)〜(8)、アトピー性皮膚炎を対象として発疹の程度や黄色ブドウ球菌数とともに解析したものは見あたらない。
 婦人科領域では、1926年、Schroderが「膣清浄度の分類」を提唱している。
 その分類によると、健常女性は膣pHが低く、Doderlein桿菌以外の雑菌や白血球がほとんど認められないとされている。
 われわれは、この膣清浄度の概念を皮膚、特にアトピー性皮膚炎に適用し、今回、「
皮膚清浄度」と命名した。
 すなわち、皮膚清浄度の指標として、皮膚のpH及び皮膚表面の黄色ブドウ球菌を測定することによって、患者皮膚の健常性の評価の可能性を検討した。
 なおこの研究は、前半で皮膚pHに対する発汗と細菌数の影響を扱い、後半では皮膚pH測定部と対象数を増やして検討を加え
た。

1.皮膚pHと発汗及び皮膚細菌数との関係

(1).対象

 無作為に抽出したHanifin & Rajkaの診断基準を満足するアトピー性皮膚炎患者38名(男20名、女18名、17〜36歳、平均年齢24.2歳)と健常人18名(男9名、女9名、22〜32歳、平均年齢25.3歳)を対象とした(表1)。
 年齢及び性別において両群間に統計的有意差はなかった。

 表1.対象の年齢及び性別の分布

 年齢 アトピー性皮膚炎    健常人  
   男  女  男  女
 15〜19  5  2  1  
 20〜24  6  8  3  2
 25〜29  7  5  4  7
 30〜34  2  2  1  
 35〜39歳  1      
 計  20  18  9  9


 患者の皮疹をグローバル評価で分類すると、軽症(色素沈着・落屑を除き、紅斑、丘疹など明らかな発疹が全身の10%未満のもの)4名、中等症(発疹が10〜50%のもの)11名、重症(発疹が50%以上のもの)23名より構成されていた(表2)。
 全身の重症度とは別に、pH測定部(肘窩及び前腕屈側中央)の皮疹レベルを以下の4段階に分類した。すなわち、@.なし、A.軽度(色素沈着又は落屑を示すもの)、B.中等度(発赤が強くなく、一部に皮疹のないところを残すもの)、C.重症(皮疹が全体に拡大し、苔癬化を含むもの)に分けた。


(2).方法

@.pHの測定


 ハンディpHメーターpE-2CN(セクサニクスジャパン社製)の接子の先端部を、あらかじめ30℃に暖めた蒸留水に浸し、被験者の肘窩及び前腕屈側中央(以下、単に前腕と略す)に当てる。
 接子を皮膚表面上でゆるやかに回転させながら、接子についた蒸留水で10秒間皮膚表面を洗って後、接子を皮膚に軽く当てて静止させ、数値が安定したところのpHを記録した。
 なおpHメーターのcalibrationは、温度を30℃として、pH 4.0とpH 7.0の標準液で毎日調整した。
 測定は発汗前と発汗後の2度行った。
 測定当日、被験者は測定部位に外用剤や化粧品などを使用していない。
 また、皮膚pHの季節差を考慮して、測定はすべて、平成7年8月27日から同9月20日までの間に行われた。


A.発汗の方法

 温度26〜28℃、湿度55〜60℃に設定した室内において、測定部位に発汗の見られない状態で皮膚pHを測定した後、15〜20回/分の速度で踏み台昇降を5分間行い、汗をかかせた。
 運動負荷後の発汗の程度によって、対象を3群に分けた。すなわち、@.触って明らかに皮膚表面が汗で濡れている状態を多汗、A.少し汗で濡れている状態を中等度発汗、B.全く汗の認められない状態を少汗とした。

B.細菌数の測定

 皮膚表面の細菌数は、皮膚pH測定後にpH測定部位の前後又は側方において、すでにわれわれが報告した方法に従って測定した(1)。
 すなわち、底面を熱切断した内面積5.0cm2の無菌の円筒(結核痰用、栄研器財社製DC2000)を皮膚表面に圧迫し、5.0mlの生理食塩水を注ぎ、小綿棒で10秒間皮膚表面を回転しながら軽く擦過し、混釈した。
 混釈液原液及び100倍希釈液のそれぞれ0.01mlを血液寒天培地に撹線し、37℃で48時間培養、菌数の測定及び同定を行った


C.統計分析

 統計分析はStat View(Albacus Concepts, Inc, Berkeley, CA, 1996)を用いて行った。各群間のpH値の比較は対応のないt検定を用い、対象数の比較はカイ自乗検定を用いた。
 また、pH値の変動については、対応のあるt検定を用いた。

D.研究の同意

 研究の実施に当たって、あらかじめ被験者に文書で研究趣旨と方法を説明し、文書で同意を得た。
 なお、この研究は、平成8年3月15日、発表前の承諾の形で、大阪府立羽曳野病院研究審査委員会で審査され、同日承認を受けている。

(3).結果

 対象とした患者を各測定部位の皮疹レベルで分けた人数を、全身の重症度で分類して表2に示した。
 肘窩及び前腕の皮疹のレベルは全身の重症度に相関していた。
 肘窩の皮疹レベルは、皮疹なしが4名、軽度9名、中等度12名、重症13名であり、前腕の皮疹レベルは、皮疹なしが11名、軽度13名、中等度8名、重症6名であった。

 表2 対象とした患者の全身の重症度と検査部位の皮疹レベルの関係

   全身の重症度  
 肘窩  軽症  中等症  重症  計
 なし  2  1  1  4
 軽度  2  4  3  9
 中等度    5  7  12
 重症    1  12  13
 計  4  11  23  38
         
 前腕        
 なし  3  8    11
 軽度  1  3  9  13
 中等度      8  8
 重症      6  6
 計  4  11  23  38名


 肘窩及び前腕の皮膚pHを健常人とアトピー性皮膚炎患者の皮疹レベルごとに図1(省略)にプロットした。

 肘窩のpHは、健常人で4.20±0.17(平均±標準偏差)であるのに対して、皮疹がない又は軽度(以下、軽度以下と略す)の患者では4.17±0.17、中等度で4.49±0.28、重症では4.86±0.43であり、皮疹レベルに相関して皮膚pHが上昇する傾向が認められた。
 統計的には、健常人と軽度以下の患者を除いて、相互に有意差が認められた。

 一方、前腕のpHについても、健常人4.41±0.31に対して、アトピー性皮膚炎患者はそれぞれ4.46±0.34、4.63±0.27、4.87±0.14であり、肘窩と同様な結果が得られた。
 前腕のpHは、健常人及び中等症以下の患者において、肘窩に比して高い傾向が認められた。

 健常人では、多汗が10名、中等度発汗6名、少汗2名であり、アトピー性皮膚炎患者では、それぞれ16名、17名、5名であった。

 図2(省略)に肘窩のpHと発汗の程度の関係を示した。
 肘窩のpHは、健常人で多汗4.12±0.16、中等度発汗4.29±0.16、少汗4.31±0.07、アトピー性皮膚炎でそれぞれ4.29±0.27、4.60±0.40、4.90±0.62であった。
 また、前腕のpHは、健常人で多汗4.23±0.21、中等度発汗4.54±0.27、少汗4.92±0.19、アトピー性皮膚炎でそれぞれ4.26±0.17、4.77±0.26、4.80±0.31であった。

 汗が多くなればpHは低くなる傾向が認められたが、症例数が少なくさらに検討が必要と思われる。
 踏み台昇降の発汗による皮膚pHの変化には一定の傾向がなく、統計的有意差は認められなかった。

 表3.肘窩及び前腕の細菌の種類と単位面積当たりの細菌数

   アトピー性皮膚炎(38名)  健常人(18名)
 細菌の種類と数   肘窩  前腕  肘窩  前腕
 検出せず   4  12  9  14
 S.aureus         
 102  5  7  1  
 103  7  3    
 104  12  8    
 105  5  2    
 106  2      
 coagulase negative staphylococci         
 102  8  5  2  2
 103  4    1  
 104  1      
 gram positive rod         
 102   1  2  2  1
 non fermentive group         
 102/cm2   1  2  1  1


 表3に肘窩及び前腕の細菌の種類と細菌数の関係を示した。黄色ブドウ球菌(S.aureus)の検出率は、アトピー性皮膚炎患者の肘窩あるいは前腕においてそれぞれ81.6%、52.6%であり、健常人ではそれぞれ5.6%、0.0%であり、いずれの部位においてもS.aureusの検出率はアトピー性皮膚炎の方が有意に高かった。
 また、S. coagulase negative の検出率は、患者ではそれぞれ34.2%、13.1%、健常人では16.7%、11.1%であった。

 アトピー性皮膚炎患者においてS.aureus数と肘窩のpHの関係をみると、S.aureus数が100 /cm2未満では4.14±0.22、100〜10000 /cm2で4.39±0.30、10000 /cm2以上で4.72±0.44であり、菌数の増加とともに有意に肘窩のpHが上昇する傾向が認められた(図3)。

.皮膚pHの測定部位による差違の検討

(1).対象


 Hanifin & Rajkaの診断基準を満足するアトピー性皮膚炎患者125名(男55名、女70名、11〜41歳、平均年齢24.2歳)と性、年齢を統計的に一致させた健常人76名(男33名、女9名、13〜34歳、平均年齢24.4歳)を無作為に選択し、研究対象とした。

 前述したグローバル評価で患者の皮疹を分類すると、軽症12名、中等症41名、重症72名であった。全身の重症度とは別に、pH測定部の皮疹レベルについても上記と同様に4段階に分類した。

(2).方法

@.pHの測定

 上記した方法で、患者及び健常人の肘窩、前腕屈側中央、頬部の中央、額部の中央の4カ所を測定した。測定は前回の測定時期に一致させ、すべて平成8年8月24から同9月27日の間に施行した。


A.発汗レベル及びアレルギー疾患の問診

 被験者に対して口頭で、日常生活における発汗の程度について問診し、(1).汗が多い、(2).発汗は普通、(3).汗が少ない、の3群に分類した。
 また、健常人に対しては、同様に口頭でアレルギー疾患の既往あるいは合併の有無、すなわち、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎があるかどうか問診した。

B.統計分析

 
上記の方法に従って行った。

C.研究の同意

 
研究の実施に当たって、あらかじめ被験者に文書で研究趣旨と方法を説明し、文書で同意を得た。なお、この研究は、平成8年3月15日、大阪府立羽曳野病院研究審査委員会で審査され、同日承認を受けた。

(3).結果

 患者125名の全身の重症度及びそれぞれの測定部位についての皮疹レベルを表4に示した(ただし、皮疹なしと軽度をあわせて、軽度以下とした)。全体として、前腕は軽度以下が多く、顔面は比較的重症が多かった。

 表4.患者(125名)の全身の重症度及び測定部位の皮疹レベルによる分類

 全身の重症度      皮疹レベル  肘窩  前腕  額部  頬部
 軽症  12    軽度以下  63  85  48  47
 中等症  41    中等度  31  24  87  47
 重症  72名    重症  31  16  40  31名


 表5.測定部位と皮膚pHの関係
   アトピー性皮膚炎   健常人
    全体    男    女    全体    男     女 
 肘窩  4.47  4.32  4.59  4.06  3.98  4.13
 前腕  4.68  4.45  4.86  4.33  4.16  4.46
 額部  4.77  4.66  4.86  4.36  4.27  4.42
 頬部  4.99  4.89  5.07  4.62  4.47  4.73
注)アトピー性皮膚炎患者は健常人に比して有意に皮膚pHが高かった。
前腕と額部の間を除いて各測定部位は相互に有意差が見られた。
いずれの部位においても、女性は男性に比して有意に高値を示した。
 

 
表5に男女で分けて測定部位と皮膚pHの関係を示した。
 アトピー性皮膚炎患者の皮膚pHは、肘窩4.47±0.47、前腕4.68±0.55、額部4.77±0.57、頬部4.99±0.54の順に高く、健常人はそれぞれ4.06±0.24、4.33±0.39、4.36±0.48、4.62±0.48であった。

 両群とも前腕と額部の間を除いて有意差があり、いずれの測定部位においても、アトピー性皮膚炎患者は健常人よりも有意に高い皮膚pHを示していた。
 皮膚pHは個人差が大きく、最低3.74、最大6.29にも及んでいた。
 また、女性は男性よりも、どの部位においても有意に皮膚pHが高くなっていた。


 表6.皮膚pHと重症度の関係

  アトピー性皮膚炎    健常人 
  重症度    軽度以下    中等度    重症   
 肘窩  4.23  4.46  4.91  4.06
 前腕  4.58  4.70  5.16  4.33
 額部  4.59  4.59  5.16  4.36
 頬部  4.82  4.90  5.39  4.62
注)皮膚pHは皮膚が悪化するとともに上昇する。
  各部位ごとに下線部の間を除き、すべて相互に
  統計的有意差がある。
 


 表6にアトピー性皮膚炎患者の皮膚pHと測定部位の皮疹レベルの関係を示した。
 軽度以下の患者においても、健常人よりも有意に高い皮膚pHを示していた。
 皮膚pHは、皮疹レベルに相関して有意に上昇していた。


 表7.発汗レベルによる分類
 汗  アトピー性皮膚炎   健常人 
 多い  44  39
 普通  45  24
 少ない  36  13
 計  125  76名
(注)アトピー性皮膚炎患者は健常人に比
 して汗が少ない傾向が見られたが、
統計的有意差はなかった(p=0.05)。 


 被験者を発汗レベルで分類したものを表7に示した。
 アトピー性皮膚炎患者と健常人の間で、前者に汗の少ない患者がやや多い傾向が認められたが、統計的有意差はなかった(p=0.053)。
 皮膚pHと発汗レベルの関係をみると、患者及び健常人のいずれにおいても、汗が少ないほど有意に高い皮膚pHを示していた(表8)。


 表8.皮膚pHと発汗レベルの関係
  アトピー性皮膚炎  健常人 
 発汗レベル  少ない  普通  多い  少ない  普通  多い
 肘窩  4.86  4.42  4.21  4.25  4.12  3.96
 前腕  5.16  4.62  4.35  4.73  4.44  4.13
 額部  5.20  4.72  4.48  4.63  4.57  4.13
 頬部  5.36  4.96  4.71  4.89  4.91  4.35
 (注)どの部位においても体質的に汗の少ない対象ほど皮膚pHが高い。
   下線部の間を除いてすべて統計的有意差がある。


 
さらに、健常人のアレルギー疾患の既往・合併の有無と皮膚pHの関係を検討した。
 アレルギー疾患のある健常人39名は、それがない健常人37名に比べて有意に高い皮膚pHを示していた(表9)。


 表9.健常人の皮膚pHとアレルギー疾患の関係

   アレルギー疾患の有無 
   ある(39名)  ない(37名)
 肘窩  4.12  4.00
 前腕  4.46  4.20
 額部  4.50  4.21
 頬部  4.74  4.50
 注)アレルギー疾患の既往のある健常人は
   有意に皮膚pHが高値を示した。

 

かんがえ

 これまで健常人の皮膚pHについては、表10に示したように数多く報告されている(2)〜(8)。
 それらの報告されたデータを見る限り、われわれの結果と同様に弱酸性域にあり、四肢よりも顔面においてやや高い傾向を示している。
 ただ今回、われわれが得た測定値は、表10に報告された数値に比べて、やや低い値であった。
 この原因が、測定器具、測定方法、測定時期によるものなのか、それとも欧米人に比べて日本人の皮膚pHがもともと低いのか明らかではない。

 表10.皮膚pHの報告のまとめ(flat glass electrodeで測定されたもの)

 Author  age  N.of pts.  pH
 Korting(1987)  21〜38  10  forehead 4.5〜5.6、forearm 4.2〜5.4
 Zlotogorski(1987)  18〜95  574  forehead 4.0〜5.5、cheek 4.2〜5.9
 Korting(1990)  23〜34  10  forehead 4.4〜5.7、forearm 4.3〜5.8
 Wilhelm(1991)  27±3  14  forehead 4.8、volar forearm 5.4
 Yosipovisch(1993)   27〜70   40   forehead 5.04±0.07、forearm 5.13±0.10、 
axilla 6.14±0.10
 Berg(1994)  infants  1601  thigh 5.3、suprapubic area 5.3
 Seidenari(1995)    3〜12   21   forehead 4.67±0.39、cheek 5.43±0.42、
 antecubital fossa 4.70±0.49、
volar forearm 4.86±0.45


 今回、発汗による皮膚pHの低下は証明できなかったが、皮膚pHは汗の多い対象に低く、また汗の多い部位に低く、成人型アトピー性皮膚炎において汗の多い肘窩・膝窩にしばしば皮疹が見られないことから、皮膚pHが発汗の程度と関係していることが示唆された。
 ただ、アレルギー疾患の既往がある健常人が既往のない健常人に比して皮膚pHが高いことは、アトピー性皮膚炎における皮膚pHの上昇は本来の体質も関係している可能性も考えられる。

 以前より、皮膚表面を酸性に保つことによって、二次感染を防止しているという考えがあり、Schmidらは、Acid mantle of the skin という概念を報告している(9)。
 彼らの報告によると、Propionibacterium acnes の至適pHは6.0〜6.5にあり、pH5.5では増殖速度がかなり低くなる。
 ただ、S. aureus の至適pHは7.5にあるが、pH5.5とpH7.0ではその増殖速度はそれほど変わらないとも述べている。

 われわれは、アトピー性皮膚炎の単位面積当たりのS. aureus 数が増加するとともに皮膚pHが上昇すること、さらに、皮疹の重症化とともに皮膚pHが上昇することを示した。
 また、われわれは、皮疹が重症になるとともにS. aureus が増加することを報告している(1)。
 これらの事実から、アトピー性皮膚炎の皮疹と皮膚表面のS. aureus数と皮膚pHは相互に密接に関連していることが推測される。

 以上の結果から、皮膚の状態を評価するあたって、われわれは、婦人科領域におけるSchroderらの膣清浄度の概念を導入し、皮膚表面の黄色ブドウ球菌と皮膚pHよりなる「皮膚清浄度」の考え方を提唱する。
 部位ごとに差があるために同じ数値で統一するのは難しいが、これまで得られた結果を元にして、表11に皮膚清浄度の私案を示した。



 表11.皮膚清浄度の分類
 皮膚清浄度  判断基準
 T  皮膚表面にS. aureus数は102/cm2未満。
 皮膚pHは、4.6未満。
 U  皮膚表面のS. aureus数は102/cm2以上、104/cm2未満。
 皮膚pHは、4.4〜4.8。
 V  皮膚表面のS. aureus数は104/cm2以上。
 皮膚pHは、4.6以上。

 皮膚清浄度は皮膚表面の健常性を表すとわれわれは考えている。
 本来、同じヒトにおいても全身の各部位で皮膚pHは異なっており、今回示したように汗の多い部位に低く、顔面は高くなっている。
 その意味で、前者の皮膚清浄度は高く、顔面のそれは低い。
 女性の皮膚pHが男性より高値であることから、女性の方が皮膚清浄度が低い。
 アトピー性皮膚炎患者は、皮疹のない部位においても健常人に比して皮膚pHが高く、黄色ブドウ球菌数が多いことから、皮膚清浄度が低いことを示している。

 成人型アトピー性皮膚炎において、皮膚清浄度の低い顔面に皮疹が多く、皮膚清浄度の高い肘窩などに皮疹を欠くことがあるのも当然の結果と思われる。
 また、アレルギー疾患の既往がある健常人も今回の結果から皮膚清浄度が低いと言える。
 皮膚清浄度の低い顔面を有す健常人が将来皮疹を生じる可能性があるかどうか明らかではないが、われわれはその危険性があると考えている。
 この皮膚清浄度がacne や毛のう炎の発症に関連しているかどうか現在検討中である。
 ただ、皮膚pHと黄色ブドウ球菌数が乖離し、皮膚清浄度の分類から外れることもあり、分類に用いた数値についてはさらに検討が必要である。

参考文献


1). 遠藤薫、檜澤孝之、吹角隆之、片岡葉子、青木敏之、簡易スクラブ法によるアトピー性皮膚炎における細菌数の検討、皮膚、40:9-14、1988

2) Korting HC, Kober M, Mueller M, Braun-Falco O : Influence of repeated washing with soap and synthetic detergents on pH and resident flora of the skin of forehead and forearm. Acta Derm Venereol (Stockh), 67:41-47,1987.
3) Zlotogorski A : Distribution of skin surface pH on the forehead and cheek of adults. Arch Derm Res, 276:398-401,1987.
4) Korting HC, Hubner K, Greiner K, Hamm G, Braun-Falco O : Differences in the skin surface pH and bacterial microflora due to the long-term application of synthetic detergent preparations of pH 5.5 and pH 7.0. Acta Derm Venereol(Stockh), 70:429-457,1990.
5) Wilhelm KP, Cua AB, Maibach HI : Skin aging. Arch Dermatol, 127:1806-1809,1991
6) Yosipovitch G, Tur E, Morduchowicz G, Boner G : Skin sueface pH, moisture, and pruritus in haemodialysis patients. Nephrol Dial Transplant, 8:1129-1132,1993.
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8) Seidenari S, Glusti G : Objective assessment of the skin of children affected by atopic dermatitis: A study of pH,capacitance and TEWL in eczematous and clinically uninvolved skin. Acta Derm Venereol(Stockh), 75:429-433,1995.
9) Schmid MH, Korting HC : The concept of the acid mantle of the skin: Its relevance for the choice of skin cleansers. Dermatology, 191:276-280,1995.



Skin Surface pH as an Index of Skin Cleanness in Atopic Dermatitis

Kaoru Endo, Takayuki Hizawa, Takayuki Fukuzumi, Yoko Kataoka, Toshiyuki Aoki

Department of Dermatology, Habikino Hospital of Osaka Prefecture,
Habikino 3-7-1, Habikino city, Osaka, Japan

Nipponhihukagakkaishi, 110 : 19-25, 2000.

We have reported the increase of S. aureus in atopic dermatitis in the previous paper. In this paper, we investigated the relation of skin surface pH, S. aureus and skin condition in atopic dermatitis
.
(1). In 38 patients with atopic dermatitis and 18 healthy controls, skin surface pH of the cubital fossa and the anterior forearm was examined twice, namely before and after sweating caused by exercise. Then the number of skin surface bacteria on each area was also examined.
The skin surface pH showed significantly higher in patients with atopic dermatitis than in healthy controls. It was increased significantly with correlation to the aggravation of eczema and also to the increase of number of S. aureus in patients with atopic dermatitis. The subjects with fewer sweating tended to have higher skin surface pH, which showed no significant change by sweating
.

(2). In 125 patients with atopic dermatitis and 76 healthy controls, skin surface pH of the cubital fossa, the anterior forearm, the cheek and the forehead was examined. In advance, we asked their perspiration levels in the daily life. We also asked healthy controls about the anamnesis of allergic diseases. Skin surface pH showed 4.47 on the cubital fossa, 4.68 on the forearm, 4.77 on the forehead and 4.99 on the cheek in atopic dermatitis, while it showed 4.06, 4.33, 4.36 and 4.62 respectively in healthy controls.
There were significant differences between them except between on the forearm and on the forehead. Skin surface pH showed significantly higher in the female than the male, higher in subjects with lower perspiration level, and also higher in healthy controls with anamnesis of allergic diseases.

It seems to be considered that there are close correlations among eczema, skin surface pH and S. aureus. Therefore, as the expression of normality of skin, we advocate the notion of " Skin Cleanness ", which consists of skin surface pH and number of S. aureus.

Key words : pH, atopic dermatitis, S. aureus, sweat


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