付1.ウイルス・細菌感染症、 真菌感染症、 動物性皮膚疾患、 寄生虫・原虫感染症について 目次 @.ウイルス感染症 手足口病、伝染性紅斑、ジャノッティ症候群、水痘、帯状疱疹 EBウイルス感染症(伝染性単核症、蚊過敏症、種痘様水疱症)、 サイトメガロウイルス(CMV)感染症、突発性発疹、麻疹、ムンプス、RSV A.細菌感染症 せつ(おでき)、梅毒、病原性大腸菌 *牛肉から感染する病気 B.真菌感染症 スポロトリコーシス C.動物性皮膚疾患 (虫刺症は他で説明しています) 海水浴皮膚炎、クラゲ刺症、 D.寄生虫・原虫感染症 クリーピングディジーズ(皮膚顎口虫症、旋尾線虫症、鉤虫症、イヌ回虫症)、 日本住血吸虫症、セルカリア皮膚炎、ビルハルツ住血吸虫症、 トキソプラズマ症、マラリア、膣トリコモナス、赤痢アメーバ *イヌからうつる病気 伝染性膿痂疹や単純ヘルペスなど、アトピー性皮膚炎でよく見られる他の病気については、合併症として他で並べています。 アトピー性皮膚炎でよくみられる症状、アトピー性皮膚炎と区別した方がよいもの、間違えやすいものについては、診断のところで述べています。 というものの、重なっているものもあります。 発疹がみられる疾患にはいろいなものがあります。 なかなか治りにくければ、アトピー性皮膚炎と診断されることはよくあります。 できた発疹の原因を考えなければ、原因不明のアトピー性皮膚炎と片付けられてしまうことになります。 ここでは、いろんな発疹ができるものの中で、主に感染症について説明しています。 @.ウイルス感染症
1. 手足口病(こちらに移動しました) 2. 伝染性紅斑(リンゴ病) ヒトパルボウイルス(HPV)B19感染症です。 このウイルスは、パルボウイルス科に属し、大きさ22nm程度の一本鎖DNAウイルスです。 このウイルスは後期赤芽球に感染します。 血液型の一つP抗原をレセプターとしています。 冬から春に多く、5年周期で流行するといわれます。 主に小児が感染します。成人女性が感染することもありますが、子供よりかなり症状が強くなります。 咳やツバなどによる飛沫(ひまつ)感染です。 潜伏期間は7〜11日。 感染しても症状が出ない不顕性(ふけんせい)感染もあります。 まず先に軽い風邪症状があり、それから数日後より発疹が出現します。 発疹は、両頬(ほお)に、たたかれたような赤み、熱感とかゆみがあり、そのためにリンゴ病という別名があります。 1、2日後、上肢・下肢の外側に網目状・レース状の紅斑がみられます。 リンゴ病による両頬の網目状紅斑です。 軽いかゆみと熱感がありました。 貧血、白血球減少、異型リンパ球の出現、血小板減少、肝障害が見られることがあります。 発疹は5〜10日後ころから四肢から少しずつ消えます。 顔面の発疹は、2週間程度で消失します。 落屑(らくせつ)や色素沈着は残らないようです。 数週間後、精神的興奮、気温上昇、入浴、日光などでもう一度発疹が現れることがあります。 成人の発疹は典型的ではなく、診断が難しいようです。 とにかく症状がひどく、よくなるまで時間がかかります。 しばしば発熱、頭痛、全身倦怠感(体がだるい)、関節炎、手指の朝のこわばり、筋肉痛など、まるで関節リウマチを思わせる所見がみられます。 異型リンパ球もあり、重症では肺炎や肝障害で入院になることもあります。 このウイルスは胎盤を通過し、胎児の赤芽球を傷つけ、胎児に貧血や心不全などを引き起こします。 とくに、妊娠20週までの妊婦がかかると、500例に1例の割合で胎児水腫(全身の浮腫、胸水・腹水の貯留など)が起きる可能性があります。 HPV-B19の感染は、免疫低下患者では、慢性骨髄不全の原因になります。 鎌形赤血球などの先天性溶血性貧血患者では、無形成発作の原因になります。 検査としては、末梢血・肝機能その他内科的なものに加えて、HPV-B19ウイルスIgM抗体の上昇が確定診断になります。 登校については、発疹が出た時点でウイルスの排出がないとされ、出席停止は不要です。 3. ジャノッティ症候群(小児丘疹性先端皮膚炎) 以前よりB型肝炎ウイルスのHBs抗原陽性で肝炎に伴って生じる皮膚炎をジャノッティ病と呼ばれています。 肝炎ウイルスの初感染で生じるアレルギー反応と考えられます。 同じような症状で、肝炎ウイルスが原因でないものをジャノッティ症候群と呼ばれています。 ジャノッティ症候群は、コクサッキーウイルスやエンテロウイルス、アデノウイルス、エコーウイルス、EBウイルスやサイトメガロウイルスなどのヘルペス属ウイルス、ロタウイルスなどいろんなウイルスで起きるといわれます。 三種混合ワクチンなどのワクチン接種後や細菌感染症でもできるといわれます。 感冒などの感染症後に生じる発疹にも、このタイプのアレルギー性発疹に分類されるものがあります。 いずれにせよ、発疹の出現する前に軽度の風邪症状があります。 ジャノッティ症候群の発疹は、小さなかゆみのある丘疹や紅斑で、手足の先の方から始まり、上の方に広がります。 一部に紫斑や水疱のようなものが混じることもあります。 ひっかくとそこに発疹ができる傾向があり、ひっかき傷にそって発疹が並びます。 顔面の紫外線の当たるところにはできることがありますが、服を着ている体にはあまりできないようです。 本来は乳幼児や小児に多いものですが、成人でも見られます。 1週間から1ヶ月程度でよくなりますが、ヘルペス属のウイルスのようなものが原因のとき、もっと長く続く可能性があります。 突発性発疹と同様に、これがきっかけでアトピー性皮膚炎として治りにくい湿疹ができることになるかもしれません。 治療は、かゆみがひどければ抗アレルギー剤の内服やステロイド外用剤を使うしかないかもしれません。 感染症の影響がとれればよくなると説明して、保湿剤だけで経過を見ることもあります。 なかなか風邪がよくならない子供は、このタイプの発疹は秋から冬にかけて長く続く可能性があります。 4. 水痘(すいとう、みずぼうそう)(こちらに移動) 5.帯状疱疹(こちらをクリック)(Herpes zoster HZ)
6. EBウイルス(EBV)感染症 EBウイルス(Epstein Barr virus エプスタイン バー ウイルス)は、ヘルペスウイルス科(HHV)γヘルペスウイルス亜科に分類されるウイルスでHHV-4とも呼ばれています。 EBVは、大きさ120〜200nmの二本鎖DNAウイルスです。 ふつうEBウイルスは、乳幼児期にリンパ球のB細胞に潜伏感染します。 ほとんどの場合、はっきりした症状がない不顕性感染で終わります。 その後、感染した宿主の免疫状態が低下すると、再活性化をくりかえし、いろんな症状を引き起こすといわれますが、はっきりしていません。 EBVは宿主の免疫反応に関連して、いろんな炎症反応や増殖性疾患を発症します。 慢性蕁麻疹やアトピー性皮膚炎などの原因の一部を占めている可能性もあります。 一方で、重症の感染症はアトピー性皮膚炎の湿疹を改善させることがあります。 私は以前伝染性単核症後に湿疹が一時的に急激に改善した症例を報告しています。 欧米では、思春期に初めて感染すると、しばしば伝染性単核症を発症するといわれます。 欧米では、Kissing diseaseともいわれます。 EBウイルスは腫瘍の原因にもなり、上咽頭癌、バーキットリンパ腫、免疫不全に合併するEBウイルス関連リンパ球増殖症、免疫不全のない患者にみられるEBウイルス関連腫瘍などがあります。 また、ジャノッティ症候群、ギラン−バレ症候群、蚊過敏症、種痘様水疱症などの要因になるともいわれています。 @.伝染性単核症 伝染性単核症は、小児から青年によくできる発熱、咽頭炎、リンパ節腫脹、肝脾腫がみられる急性の病気です。 血液検査では、白血球の増加と異型リンパ球がみられます。 小児の方が軽くて済むようです。 原因としては、EBVが最も多く、他に、サイトメガロウイルス(CMV)、ヒトヘルペスウイルス6(HHV6)、アデノウイルス、肝炎ウイルス、インフルエンザウイルスなど様々なウイルス、その他があります。 EBVは扁桃腺のB細胞に持続的に潜伏感染しており、唾液やキスで感染します。 伝染性単核症は、まず悪寒、発熱、全身倦怠感などの風邪症状から始まります。 発熱は38℃が1〜2週間続き、全身、特に頸部のリンパ節が腫脹します。 リンパ節腫脹はよくなるまで、2〜4週間かかります。 咽頭は発赤腫脹して咽頭痛がひどく、しばしば眼瞼浮腫を伴います。 これらの症状はおよそ2週間でよくなりますが、ウイルスの排出はその後何週間も続きます。 体や顔などに紅斑がみられ、日光に当たるところに強く現れる場合もあります。 またアンピシリンなどの抗生剤の内服で発疹が出る場合があります。 血液検査では、白血球数が増加し、しばしば異型リンパ球が多数認められます。血小板減少や貧血もみられます。 肝機能検査に異常があり、AST、ALTが上昇しています。 EBウイルスに対する抗体価の異常がみられます。 急性期は、VCA-IgG抗体、VCA-IgM抗体、EA-IgG抗体が陽性となり、EBNA抗体は陰性です。 治療は、EBVに効果がある抗生剤はなく、安静他、対症療法しかありません。 95%は予後良好で、1〜2ヶ月で治癒します。 妊婦の感染は胎児に影響がないといわれています。 A.蚊過敏症 蚊過敏症は、蚊やブヨ(ブト)に刺されたところが腫れ上がり、硬くなったり(硬結)や潰瘍ができ、同時に高熱や肝障害やリンパ節腫大など全身症状を伴う病気です。 刺されたところ以外にも、口唇・口腔の粘膜に発疹ができることがあります。 蚊に刺されなくても、発熱や肝障害が出ることがあります。 この症状は、EBウイルス関連リンパ腫、慢性活動性EBウイルス感染症、EBウイルス関連血球貪食症候群(VAHS)、EBウイルス関連NK/T細胞リンパ腫と関連することが明らかになっていますが、蚊に刺されたこととの関連性ははっきりしていません。 これまでの症例は日本に多く、多くは10歳未満の子供ですが、10歳以上でも報告されています。 10歳以上では死亡例が多くなります。 血液検査では、VAHSでは白血球減少や血小板減少がみられます。 肝障害、LDHやフェリチンの上昇がみられます。 詳細は、リンパ球表面形質(CD2,3,4,8,16,25,30,56など)の検査が必要です。 しばしばIgE抗体が高くなりますが、蚊のIgE抗体だけが高くなっているわけではありません。 治療として、対症的にステロイド外用剤が用いられますが、予後の改善につながるとは限りません。 蚊過敏症の発疹です。 中心がびらんになり、壊死を起こしています。 B.種痘様水疱症 種痘用水疱症は、小児にみられる光線過敏症の一つです。 EBウイルスの潜伏感染したNK/T細胞が露光部位に集まり、血管や表皮細胞に壊死を生じます。 頬部、鼻の頭、耳介、口唇、手背など日光に当たりやすいところにぽつぽつと丘疹や水疱ができ、中心部には壊死がみられます。 一部の患者は、重症型の種痘様水疱症に移行することがあります。 重症型では発熱や肝障害などがみられます。 検査は同じ部位に3-4日連続してUVAを照射し、発疹が誘発されるかどうかで判定します。 治療はとにかくUV化粧品で遮光して経過をみます。 ほとんどの患者は重症型にはならないで、自然治癒します。 7. サイトメガロウイルス(CMV)感染症 CMVは、ヘルペスウイルス科β-ヘルペスウイルス亜科で、HHV-5とも呼ばれています。 種特異性が強く、ヒトにしか感染しません。 チミジンキナーゼ(TK)遺伝子を持たないため、ウイルスTKでリン酸化されて抗ウイルス作用を示すアシクロビル(ゾビラックス)は効きません。 多くは小児期に感染し、普通は症状が出ない不顕性感染です。 近年、抗体保有率が低下しており、CMV感染症の発症率の増加、重症化が心配されています。 CMVは、妊娠中に胎児に起こる経胎盤感染、出産時に産道で新生児が感染する産道感染、出生後に唾液・尿・母乳と接触して起きる接触感染、臓器移植や輸血を通じて起きる感染に分けられます。 CMVは感染後、顆粒球・マクロファージ前駆細胞に潜伏感染します。 CMVは宿主の免疫系から逃れる免疫逃避のメカニズムを有しています。 全身性CMV感染症は、免疫機能が低下したときに、CMVが再活性化して、全身の臓器に障害を起こします。 全身に丘疹、ニキビのような発疹、じんま疹、紫斑、単純ヘルペスに似た皮膚潰瘍などもできます。 約85%は6カ月以内に死亡します。 CMV型伝染性単核症は、EBVと類似した臨床症状や検査所見を示します。 CMVによるジャノッティ症候群もあります。 巨細胞封入体症は、先天性CMV感染症です。 母体のCMV初感染によって、胎児のCMV感染が生じることで発症します。 出生児に、肝脾腫、小頭症、知的障害、脳石灰化、感音性難聴などがあり、予後はよくありません。 出生時に無症状でも、その後聴覚障害や知能障害が見られることがあります。 妊婦に発熱、羊水異常、原因不明の発疹、胎児の発育不全、肝脾腫がみられたとき、この疾患を疑う必要があります。 妊娠21週以降、羊水からCMVを検出すれば、これと診断されます。 CMV感染臓器を病理検査をすると、「フクロウの目」と呼ばれるCoedry型好酸性核内又は細胞質内封入体をもった20-40μmの大型細胞がみられます。 免疫組織染色を行うとCMV特異抗原が観察されます。 CMV抗原血症では、白血球数増加(5万以上)があり、モノクロナール抗体を用いた酵素抗体法で染色し、10個以上陽性があれば、確定診断されます。 これは治療効果の診断にも用いられます。 採血でCMV特異IgM抗体があれば、CMV感染症が疑われます。 CMV初感染で、EBVの再活性化が起きるともいわれています。 治療は、ガンシクロビル(デノシン)を5mg/kgを点滴(2回/日)するか、1000mg/回を1日3回内服します。 他に、ホスカルネット(ホスカビル)やシドホビル(日本未承認)などがあります。 8. 突発性発疹 ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)またはヒトヘルペスウイルス7(HHV-7)に感染して、高熱がでたあと、熱が下がったころから現れる発疹です。 HHV-6とHHV-7は二本鎖DNAウイルスで、体内に潜伏感染します。 潜伏部位は、白血球の一種、単球やマクロファージ、唾液腺などです。 唾液に含まれるウイルスがとんで/接触して感染するといわれています。 潜伏期間はおよそ10日といわれます。 乳幼児、6〜18ヶ月の乳幼児によくできますが、2歳過ぎるとめったにみられません。 ふつうHHV-6が先に感染します。 HHV-6とHHV-7の両方にかかることもあります。 ウイルスの症状は、38℃を超える発熱が3〜4日続いてから、熱が下がったその日または翌日にまず体に小さな紅斑が現れます。 その後、顔や四肢に広がります。 紅斑は不規則にくっついて(融合し)、発疹のないところもできます。 熱が下がってから発疹が現れるということで、できた発疹は免疫反応によるもの、つまりアレルギー反応によるものです。 だいたい2〜4日で消えていきます。 ふつうかゆみはなく、よくなって色素沈着も残りません。 発疹が免疫反応に関係しているだけに、アレルギー体質があると、発疹がたくさんできることがあります。 突発性発疹がきっかけで、アトピー性皮膚炎が誘発された患者さんもいました。 なお、合併症として、このウイルスによる脳炎が年間150例以上あると、報告されています。 血液検査では白血球は減少します。 HHV-6または7の抗体価については、発症7日以内と10日以降の2度採血し、HHV-6または7のIgG抗体の4倍以上の上昇があれば陽性で、この病気にかかったという診断がなされます。 治療は経過観察です。 主に成人がかかる薬疹の一つ、薬剤誘発性過敏症症候群(Drug-induced Hypersensitivity Syndrome DIHS)は、HHV-6やHHV-7の再活性化が関係しているといわれています。 ヘルペス属のウイルスの再活性化は、アトピー性皮膚炎の重症化にも関与しています。
9. 麻疹(はしか) パラミクソウイルス科、モルビリウイルス属の一本鎖マイナス鎖RNAウイルスです。 100〜250nmの大きさで、二十膜のエンベロープをもっています。 極めて高い感染力があり、不顕性感染はなく、免疫がないと必ず発症します。 一度罹患すると終生免疫ができます。 経気道的に感染します。 潜伏期は10〜14日、鼻炎、結膜炎、上気道炎など風邪症状と高熱から始まります(カタル期)。 口腔内の頬粘膜に集簇性の白色丘疹(コプリック斑)がみられます。 熱は一時下がってから再び上昇し、顔面や首から浮腫性紅斑が出現します。 この紅斑は融合傾向が強く、全身に広がります。 眼球結膜や眼瞼結膜は充血し、咳や鼻水などの上気道症状、下痢や嘔吐などの消化器症状も続きます。 5〜6日続いて後、少しずつよくなります。 紅斑はきたない色素沈着を残して消えていきます。 ときに落屑がみられます。 発疹は感染細胞に対するT細胞の反応によるものです。 麻疹にかかると、一過性に強い免疫抑制が起こり、ツベルクリンの陰性化、中耳炎、肺炎、喉頭炎などに細菌による二次感染がしばしば合併します。 細菌性肺炎はしばしば小児の死亡の原因になります。 栄養状態が悪いと、これらの合併症が重篤化します。 麻疹にかかってから7〜10年後、数万人に1人の割合で、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)がみられます。 不活化ワクチンを接種された人に麻疹が感染すると、ふつうの麻疹と異なった症状が現れることがあります。 これを異型麻疹といいます。 軽度のカタル症状はありますが、コプリック斑がみられません。 頭痛、関節痛、高熱に加えて、四肢末梢から体幹へと広がる紅斑、丘疹、紫斑がみられ、ジャノッティ症候群の発疹に似ています。 あとに色素沈着はありませんが、最初から高い麻疹抗体価を示しています。 予防法としては、2006年4月から2種混合ワクチン(MRワクチン)が行われています。 1歳と幼稚園年長児の2回にわたって接種されています。 10. ムンプス(流行性耳下腺炎、おたふく風邪) ムンプスウイルスは、パラミクソウイルス科、ルブラウイルス属の一本鎖マイナス鎖RNAウイルスです。 ウイルスは気道粘膜で増殖した後、所属リンパ節に広がります。 その後、血液中に入りウイルス血症を起こし、全身の臓器に広がります。 とくに、唾液腺、精巣、膵臓などの腺組織、内耳、髄膜などで増えます。 ウイルスを含んだ唾液に接触して、又は飛沫感染で、経気道的に感染します。 2〜3週間の潜伏期の後、発熱を伴って唾液腺(主に耳下腺)が痛みを伴って腫れます。 耳下腺腫脹は両側のこともあれば片側のこともあります。 感染してもはっきり症状が出ない不顕性感染が、30%程度あります。 思春期以降の男子に感染すると、20〜30%で精巣炎・睾丸炎が合併し、そのためにまれに不妊症になります。 ムンプスにかかると、半分くらいで髄液に異常がみられ、頭痛や吐き気がみられます。 明らかな無菌性髄膜炎は10%程度ですが、無菌性髄膜炎だけで他に症状がない患者さんもいます。 大部分は後遺症を残しません。 まれに、急性の難聴が起きることがあります。 予防については、現在1歳以上を対象に、弱毒生ワクチンを任意接種されています。 1988年から、3種混合生ワクチン(MMRワクチン)が行われていました。 1000〜2000人に1人くらいで無菌性髄膜炎が発症したために、中止になりました。 その後、2006年からMRワクチンになっています。 11. ヒトRSウイルス(Respiratory syncytial virus RSV) RSVは、パラミクソウイルス科ニューモウイルス属のウイルスです。 AとBのサブグループに分けられます。 乳幼児や小児の風邪症状の原因ウイルスとして重要です。 喘鳴や気管支喘息の発症・増悪因子としても注目されています。 RSVが直接アレルゲン感作や気管支喘息の発症を起こすかについてははっきりしていません。 不顕性感染はないといわれます。 成人では、感染しても重篤な呼吸器症状は出ません。 乳幼児が感染すると、しばしば呼吸困難を伴う重篤な細気管支炎や肺炎になります。 晩秋から早春にかけての冬場に流行します。 乳幼児は病気にかかっても免疫が不完全であるために、しばしば再感染します。 臨床所見だけでRSV感染症を診断するのは難しいようです。 今のところワクチンはありません。 かつて、開発されたワクチンで喘息症状を悪化させたという経歴があります。 RSVによく似たウイルスとして、2001年に新しく発見されたヒトメタニューモウイルスがあります。 A.細菌感染症 1. せつ(おでき) 真皮内に広がった急性の毛包炎です。 全体が発赤・腫脹し、痛みがあります。 進行すると、内部に膿がたまって膿瘍のうようになります。 膿栓ができ、開口部から膿が出ると、症状はよくなります。 原因菌は黄色ブドウ球菌が多く、しばしば黄色ブドウ球菌の耐性菌のMRSAが検出されます。 糖尿病、白血球機能機能不全などの免疫不全があると、起こりやすく、再発しやすく、治りにくい傾向があります。 アトピー性皮膚炎患者で起こりやすいようですが、必ずしもすべてのアトピー性皮膚炎患者に生じやすいとはいえません。 何らかの免疫状態に影響する特殊な要因が関与しています。 なぜなら、せつの発症する免疫状態はTh1であり、アトピー性皮膚炎のTh2状態ではありません。 アトピー性皮膚炎患者では、せつは臀部(おしり)によくできます。 ときに、慢性化して、多発したせつが内部でつながって、臀部慢性膿皮(のうひ)症の状態になります。 特に黄色ブドウ球菌に対してアレルギーがあると、かゆみや湿疹状態が加わり、さらに治りにくい経過をたどります。 せつの治療は、初期は抗生剤の内服と外用剤です。 近年はクラビットという大きなラグビーボールのような錠剤がよく処方されます。 いささか使いすぎではないか感じるほどです。 それだけ、抗生剤が効きにくくなっているということです。 セフェム系でもよいかもしれませんが、効果が少ないことも多いようです。 膿がたまってくると、さらに穿刺(せんし)や切開して膿を除く(排膿(はいのう))必要があります。 出る様なら自分で膿を押し出してもかまいません。 あとで消毒して、抗生剤の塗り薬をつけて、ガーゼでおおって下さい。 2. 梅毒 梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)Tp による感染症です。 Tpはスピロヘータの一種です。 スピロヘータは細菌と原虫の中間で、分類学的には細菌に分類されています。 Tpは熱や乾燥に弱く、殺菌剤やセッケンでも簡単に死滅します。 Tpは性交時、小さなキズから体内に侵入し、感染して3週後ころに侵入したところに病変をつくります(第1期梅毒)。 第1期梅毒は、男性ではペニスにできるので気付きやすいが、女性は気付きにくいようです。 ペニスに軟骨様に硬い硬結ができ、その後潰瘍になります(硬性下疳)。 痛みは少ないようです。 痛みのないリンパ節腫脹が鼠径部にみられます(無痛性横痃)。 これらは数週間でよくなりますが、あとかた(瘢痕)は残ります。 第2期梅毒は感染後3カ月ころから、Tpが全身に広がることで起こります。 梅毒性バラ疹はかゆみのない紅斑が全身にできますが、手のひらや足の裏にもみられます。 梅毒性丘疹や梅毒性膿疱もみられます。 扁平コンジローマが、陰嚢、陰唇、肛門周囲などにできます。 梅毒性粘膜疹が咽頭部などにみられます。 梅毒性脱毛は、不整形にバラバラに頭の毛が抜けて起こります。 これらは、数週から数カ月で消えます。 梅毒の治療しないで放置すると、およそ3分の1が3〜10数年で晩期梅毒(第3期梅毒、第4期梅毒)の症状が現れますが、最近はほとんどみられません。 ゴム腫、心血管梅毒(大動脈瘤など)、神経梅毒(脊髄ろう、進行麻痺など)がみられます。 梅毒の血液検査は、カルジオリピンレシチンを非特異的抗原を用いた凝集反応と梅毒の原因菌を抗原として特異的抗体を調べるものに分けられます。 前者には、VDRL、RPRなどがあり、これは感染後3〜4週で陽性となります。 抗生剤で治療すると減少しますので、治療の判定にも用いられます。 ただし、これには、梅毒にかかっていないのに陽性になる生物学的偽陽性(Biological false positive BFP)がみられることがあります。 BFPはいろんな感染症でみられることがありますが、様々な自己免疫疾患や習慣性流産などでも認められることがあります。 後者には、TPHAが代表的なものですが、RPRより2〜3週遅れて陽性になり、一度陽性になると、治療後もずっと続きます。 治療は、ペニシリン系抗生剤(サワシリン1.5g分3など)を第1期梅毒や第2期梅毒の早期梅毒では、4週間内服します。 晩期梅毒では、8週間の内服が目安とされています。 早期梅毒の治療を開始した日に、しばしば一時的に発熱を伴って全身に発疹が現れることがあります(Jarisch-Herxheimer 反応)。 死滅した菌によるアレルギー反応と考えられます。 以上のことから、梅毒の発疹をアトピー性皮膚炎やじんま疹と間違える可能性があります。 また、早期梅毒のバラ疹や丘疹はアレルギー反応であり、感染症がこのような発疹をつくることを示しています。 抗生剤が発疹を悪化させたり、改善することの説明にもなっています。
3. 病原性大腸菌 大腸菌(Echerchia coli EC)は腸内の常在菌です。 牛など胃腸にもいます。 病原性大腸菌は感染型食中毒の原因となります。 感染型食中毒はごく少数(100個程度)の細菌が体内に入り、体内で増殖して発症します。 潜伏期間は、感染後12〜72時間(10数日後のこともあります)。 感染症に弱い乳幼児や高齢者、免疫の低下した患者さんに症状が出やすいようです。 しばしば、腸管外感染症(発熱、膀胱炎・腎炎、敗血症、髄膜炎)の原因となります。 病原性大腸菌は感染後、腸管内に長期に残ることがあります(保菌者(キャリア))。 ときに、保菌者が感染源になります。 病原性大腸菌はO抗原で分類される毒素(エンテロトキシン)をつくります。 症状との関連性については、いまだはっきりしない部分がたくさんあります。 ときに、毒素がアレルギーを起こし、原因不明のじんま疹や湿疹をつくります。 ただ、この毒素に対するRAST値は検査項目がなく、測定できません。 感染型食中毒は、主に以下の4種に分類されます。 @腸管出血性大腸菌(EHEC) しばしばベロ毒素(赤痢菌志賀毒素と同じ)を産生する大腸菌です。 感染して腸管に増殖すると、食中毒症状(血性下痢・腹痛・嘔気・嘔吐)を引き起こします。 ベロ毒素はときに溶血性尿毒症症候群(HUS)を併発し、死亡に至ることがあります。 特に、免疫が低い子供や高齢者は重症化しやすいようです。 抗生剤を投与することについては議論があり、整腸剤で経過を見ることもあります。 便培養で、O-1,26,91,103,111,113,117,121,128,145,157,172などが見られます。 これらの中で、O-157が問題となります。 A腸管病原性大腸菌(EPEC) サルモネラ食中毒に似た症状があり、下痢・腹痛・発熱・嘔吐などが見られます。 これも乳幼児は重症化します。 便培養で、O-1,18,20,26,44,56,86,111,114,119,125,126,146,151,158,166などが見られます。 この中で、O-1,26,111は上記のEHECと重なっています。 B腸管毒素源性大腸菌(ETEC) コレラ毒素に似たエンテロトキシンで水溶性下痢がみられます。 多くは外国旅行で感染します。 便培養で、O-6,7,8,9,11,15,20,25,27,29,63,73,78,85,114,115,126,128,139,148,149,153,158, 166,167,169,170などが見られます。 ここでも、EHECやEPECといくつか重複が見られます。 C腸管侵入性大腸菌(EIEC) 腸管上皮に侵入、腸管の炎症・壊死を起こします。 その結果、赤痢様の粘血便・下痢・腹痛がみられます。 便培養で、O-7,28,29,112,121,124,136,143,144,152,159,164,173などが見られます。 B.真菌感染症 (1). スポロトリコーシス Sporotrichosis 土壌真菌Sporothrix schenckii が、外傷などをきっかけに皮膚内部に侵入して起きる、深在性真菌症の一つです。 Sporothrix schenckiiは二形性の真菌で、菌糸型と酵母型の両方をとります。 晩秋から冬季に、多くみられます。 普通、露出部にキズができて、数週〜数カ月の潜伏期間のあとで発症します。 土遊びする子供にもよくできます。 子供はしばしば顔面にできます。 成人では、農業や建設関係者などに多く現れます。 特に、糖尿病、肝障害、抗がん剤を用いている患者など、免疫機能が低下していると、発症しやすい傾向にあります。 成人では、腕や手背によくできますが、夏場にキズができたときは下肢にもみられます。 症状は、固定型(限局型)とリンパ管型に分けられます。 固定型(限局型)は、他に広がらないものです。 皮下まで硬くなった結節で、びらん・潰瘍になります。 顔面は肉芽腫にもなります。 培養やスポロトリキン反応で確認していませんが、恐らく限局型のスポロトリコーシスです。 リンパ管型は、リンパ管に沿って広がるものをいいます。 真菌が侵入したところに結節が生じ、潰瘍になります。 やがて、リンパ管に沿って、飛び石状に皮下結節ができます。 全身に内臓まで広がる播種型もありますが、きわめてまれです。 サブロー培地に接種すると、室温培養で1〜2週後に、灰白色、続いて黒褐色の絨毛状のコロニーができます。 スポロトリキン抗原液0.1mlを患者前腕に皮内注射し、48時間後に10mm以上の硬結ができたとき、陽性です。(スポロトリキン反応) 治療は、ヨードカリ内服(0.5〜1.5 g/日、1〜3カ月)、イトリゾール内服(100〜200mg/日)、ラミシール内服(1錠/日)です。 低温熱傷に注意して、使い捨てカイロによる温熱療法を併用するとよいといわれます。 C.動物性皮膚疾患 1.海水浴皮膚炎(プランクトン皮膚炎) 主に動物性プランクトン(エビ・カニなどの幼生)に刺されて起こります。 多くは、エビ・カニの幼生ゾエア(0.3-0.5mmの大きさ)の棘とげによるものです。 海水浴のとき、幼生が水着の下に入り込んで刺されます。 お盆を過ぎて、海藻の多いところでよく刺されるようです。 刺されると、まずちくちくした痛みがあり、その後かゆみのある紅色丘疹があらわれます。 エビ・カニでアレルギーがあると症状が強くなります。 特にウール地の水着のときは、水着の下にできやすく、水着の形に一致して発疹があらわれます。 治療は、ひどければステロイド外用剤と抗アレルギー剤の内服です。
2.クラゲ刺症 クラゲ触手の刺胞内の有毒刺糸が皮膚に刺入・注入されて皮膚炎ができます。 刺されると、まず強い痛みと灼熱感があり、点状から線状に紅斑やじんま疹、さらに出血や皮膚の壊死も生じます。 ひどければ、寒け、発熱、全身の筋肉痛、嘔吐や腹痛、ときにアナフィラキシーショックもみられます。 原因となるクラゲは、カツオノエボシやアンドンクラゲが多く、沖縄ではハブクラゲです。 2011年の夏は、例年になくクラゲ刺症が多く、まるで海の放射性物質から逃れて和歌山の海にやってきたのではと思うほどです。 お盆過ぎてからの海水浴でよく刺されます。 刺されたとき、触手をはずすときは真水をかけると刺胞がさらに放出されます。 海水をかけながらはずし、毒は熱に弱いので熱い砂をかけ、アルコールや酢をかけて無毒化するのがよいとされています。 治療としては、初期にはカチリ(フェノール亜鉛華リニメント)を外用し、炎症があればステロイド外用剤も用いられます。 何日か過ぎてから悪化して、受診される患者さんもいます。 アナフィラキシーショックの前兆があれば、当然救急車です。 以前にクラゲに刺されたことがあれば、クラゲの毒に対するIgE抗体ができている可能性があり、再び刺されると強いアレルギー反応が起きる可能性があります。 クラゲに刺された成人が納豆アレルギーによるアナフィラキシーショックを起こした症例が報告されています。 クラゲに含まれるポリガンマグルタミン酸(PGA)による経皮感作が原因とのことです。 このPGAによる納豆アレルギーは多くは遅発型アレルギーで、時間がたってから発症しています。 運動その他増悪因子が介在している可能性があり、PGAによるFDEIAの可能性があります。 D.寄生虫・原虫感染症 寄生虫感染症では、アレルギー疾患と同じようにしばしば好酸球が増加し、IgE抗体の上昇が見られます。 このことは、普通のアレルギーの病気と間違えやすいことを示しています。 1. クリーピング・ディジーズ Creeping Disease (CP) (皮膚幼虫移行症) 人を終宿主としない寄生虫の幼虫が、皮内や皮下を這い回ることで起きる皮膚症状です。 不規則な線状の盛り上がった紅斑がみられ、先端を掘り出すと虫体が見つかることがあります。 しばしばアレルギー反応を伴っており、寄生虫のアレルギーによる湿疹、じんま疹、消化器症状、呼吸器症状がみられます。 好酸球の増加やIgE抗体の上昇がみられるために、普通のじんま疹やアトピー性皮膚炎と間違える可能性があります。 (1).皮膚顎口虫症 皮膚顎口虫症は、日本で最も多いCPです。 顎口虫は、袋形動物の線虫類に分類され、雷魚・ボラ・フナ・コイ・ドジョウ・マス・ヤマメなどの淡水魚にすみついており、それらを生で食べて感染します。 ケンミジンコが第一中間宿主、 淡水魚や両生類(カエルなど)が第二中間宿主、 イヌやネコ(有棘顎口虫)、ブタやイノシシ(ドロレス顎口虫、剛棘顎口虫)、イタチ(日本顎口虫)が終宿主になっています。 ブタやイノシシの肉を生で食べても感染します。 ヒトは終宿主でないために、体内に侵入した幼虫は成虫になることができず、幼虫のまま死ぬまで体内を移動します。 幼虫の寿命は数カ月〜数年あります。 最近はフナやコイの生食の他に、ドジョウのおどり食いで剛棘顎口虫に感染する患者さんが多いといわれています。 症状は第二中間宿主を生食後、数週から数カ月後、発赤腫脹があらわれます。 有棘顎口虫症は、主に移動する限局性の浮腫で、顔面によくできます。 剛棘顎口虫症は皮膚内部を這ったような線状の盛り上がった発疹で、あちこち移動します。 脳の中に入れば、けいれんなどの中枢神経症状を示します。 肺に入り込むと、肺炎症状を示します。 日本顎口虫やドロレス顎口虫は腹部に線状疹がよくできます。 血液検査では好酸球が増加し、IgE抗体が上昇します。 幼虫を抗原として皮内反応もありますが、皮膚を生検し、寄生虫の存在を確認します。 治療は、外科的に寄生虫を切除する他に、エスカゾール、イベルメクチン(ストロメクトール)、スパトニンなどの抗虫剤の内服があります。 (2).旋尾線虫症 皮膚に寄生する線虫類の一種、旋尾線虫X型幼虫によるヒト寄生虫感染症です。 ホタルイカの内臓を生で食べて感染する患者さんが多いようです。 ホタルイカの他にも、ハタハタ、スルメイカ、スケソウダラなどを生で食べても感染します。 生食後数時間〜2日後からひどい腹痛とともに便が出なくなります。 2週間後ころから腹部などに線状の幼虫が這ったような発疹がみられ、少しずつ線状が伸びていきます。 治療は、外科的に寄生虫を切除するか、イベルメクチン(ストロメクトール)などの抗虫剤の内服です。 (3).鉤虫症 鉤虫こうちゅうは消化管に寄生する線虫類の一種です。 ズビニ鉤虫とアメリカ鉤虫、イヌ鉤虫などがあります。 ズビニ鉤虫はもともと北方種で、ヨーロッパや北アフリカ、アジア西部、中国北部などに分布していたが、現在は温暖な地方にも広がっています。 一方、アメリカ鉤虫はもともと熱帯地方に見られたものですが、現在は世界各地に広がり、日本にも蔓延しています。 イヌ鉤虫は、東南アジアを旅行中に、公園や海岸で横になったり、裸足で歩いたりすると足から侵入します。 太さ0.5mm程度、長さは10mmくらいで、雌の方が少し長い。 鉤虫は土壌表面から1〜2cmのところに生息し、日陰や涼しくなると土壌表面や野菜の表面に移動します。 ズビニ鉤虫は主にそんな野菜などを食べて口から感染します。 アメリカ鉤虫やイヌ鉤虫は、主に足から侵入します。 リンパ管や静脈を経由して心臓から肺に到達します。 その後気管、咽頭、食道、小腸に達します。 感染して6週後より産卵するようになります。 幼虫が侵入した皮膚は湿疹となりますが、しばしばアレルギー症状を伴っています。 肺に侵入すると、咳嗽や痰など喘息様の症状を示します。 間引き菜などの一夜漬けを食べた後で腹痛・下痢・嘔吐などの消化器症状が呼吸器症状を伴って見られることがあります(若菜病)。 これらは、一種のアレルギー症状です。 腸管に寄生していると、貧血や栄養素の吸収障害があります。 頭痛、耳鳴り、神経痛などの神経症状がみられることもあります。 血液検査では、貧血と好酸球の増加が認められます。 糞便の虫卵を検出するか、糞便を培養して幼虫の有無を検査します。 線虫類に対するRAST検査は、回虫とアニサキスがあります。 他の線虫類に交差反応で陽性になる可能性がありますが、私自身確認していません。 (4).イヌ回虫症 イヌ回虫は消化管に寄生する線虫類に分類されます。 子犬に寄生している頻度が高いといわれます。 雄虫で5cm、雌虫で7〜10cmくらいの体長です。 幼虫(体長0.4mm程度)が体内に侵入すると、体内のあちこちを移行します(内蔵幼虫移行症)。 子供に多いといわれます。 幼児では、犬猫の糞便に汚染された土壌を口に入れたり、成人では、感染動物の肉や肝臓を生食して体内に入ります。 幼虫は小腸壁を破って、全身(肝臓、心臓、肺、脳、眼など)に迷入し、好酸球性肉芽腫や膿瘍をつくります。 血液検査では、好酸球の増加、高グロブリン血症、肝機能異常がみられます。 2. 日本住血吸虫症、セルカリア皮膚炎 日本住血吸虫は血管寄生性で、扁形動物の吸虫類・住血吸虫科に分類されます。 長さが20mm程度で、口吸盤と腹吸盤を持っています。普通、雄虫が糸状に長い雌虫を抱きかかえています。 以前より、広島・岡山・山梨・福岡・佐賀・静岡・千葉などに分布していましたが、近年は農薬の影響で少なくなっています。 中国や東南アジアには今も生息しています。 虫卵から孵化した幼生(miracidium)が宮入貝に侵入し、発育、変態します。 セルカリアcercariaになると水中に游ぎ出て、次の宿主(第二中間宿主)に侵入します。 第二中間宿主は主に魚介類ですが、このときヒトの体内に侵入します。 セルカリアは0.2〜0.3mmくらいでフォーク形をしています。 梅雨の時期に水田に入った農家の人の足から入り込み、入ったところにかゆみのある発疹が生じます。 発疹は、慢性化すると硬くなり、潰瘍になることもあります。 体内に侵入すると、血液・リンパ液に入って、心臓、肺を通過して、全身に広がります。 セルカリアが肝臓に寄生すると肝障害、頭の血管に入ると脳血管障害、腸管の血管に居着くと血便や腹痛、肺血管に居着くと呼吸困難などの呼吸器症状が現れます。 また、虫卵による血栓症状も見られます。 産卵は主に門脈の末梢部、すなわち肝臓、直腸下部や大腸で行われます。 腸壁は虫卵栓塞で肉芽腫を生じます。 脳血管に塞栓すると、けいれん症状がみられます。 中国や東南アジアで水田に下腿をつけるのは危険です。 洪水の中を歩くときは、必ず水が入らないように長靴を履きましょう。 (セルカリア皮膚炎) 鳥類寄生性住血吸虫のセルカリアが人体に侵入して起きる皮膚炎です。 宍道湖西岸の報告が多い。 ムクドリ住血吸虫の中間宿主はヒラマキモドキで、カモ類住血吸虫の中間宿主はモノアラガイです。 水田皮膚炎とも呼ばれています。 水田作業中に下肢などに蕁麻疹様発疹が現れ、その後浮腫丘疹となりますが、1週間程度でよくなります。 セルカリアに対するアレルギー反応です。 (ビルハルツ住血吸虫症) ビルハルツ住血吸虫はアフリカ、特にナイル川流域に多く生息していますが、ヨーロッパやアジア西部にの一部にもいます。 ナイル川や上流のビクトリア湖で水浴するのは危険です。 寄生虫が皮膚から浸入すると、主に膀胱や肛門静脈に居着きます。 血尿がしばしばみられます。 卵が肺血管に梗塞すると、肺症状が見られます。 3. トキソプラズマ症 トキソプラズマ Toxoplasmaは胞子虫類に属する細胞内寄生性の原虫です。 原虫は単一細胞で構成され、細胞質と普通1個の核からできています。 外側には、運動、栄養摂取、排泄のための小器官があり、内側には食胞や収縮胞があります。 トキソプラズマは、ネコの小腸上皮細胞内で無性生殖と有性生殖が行われます。 雌雄生殖体は卵嚢子としてネコの糞便に混じって排泄されます。 ヒトへの感染は、ブタ肉などに含まれる胞子によるもの(生で食べて、又は肉を触って)、ネコの糞便中の卵嚢子によるもの、妊娠中に母から胎盤を通じて胎児に移行したもの、に分けられます。 市販のブタ肉の5〜10%に胞子があり、ネコの1%程度で卵嚢子を排出しています。 ネズミを漁っているネコに陽性率が高いといわれ、キャツトフードから栄養を取っているネコの陽性率は低いといわれます。 牛肉にも含まれ、生肉の好きな人の陽性率が高いといわれます。 トキソプラズマを感染しても、多くは症状が出ない不顕性感染です。 成人の10%くらいで、トキソプラズマの抗体を保有しているといわれます。 トキソプラズマ症は、先天性トキソプラズマ症と後天性トキソプラズマ症に分けられます。 妊娠前半に初感染し、胎盤を通じて胎児に感染すると、多くは流産や死産となります。 妊娠後半に初感染すると、胎児に先天性トキソプラズマ症が起きる可能性があります。 肝脾腫、リンパ腺炎、発熱、様々な脳炎症状が見られます。 妊娠前からの感染した母から胎児感染が起きるのはまれとされています。 後天性トキソプラズマ症の症状は、感染した患者の免疫状態で異なります。 感染後、発熱を伴った発疹がみられ、その後脳炎、リンパ節炎、肝炎、心筋炎、眼の黄斑部など眼底の萎縮などが見られます。 近年、トキソプラズマ症が統合失調症や認知症の原因になっている可能性があるという報告があります。 これらの患者の抗体陽性率がかなり高くなっています。 統合失調症の患者の血液を輸血すると、一時的に統合失調症の症状が現れることがあります。 トキソプラズマがアレルギーの原因となるかどうかについては、これまではっきりした報告はありません。 しかし、アニサキスなど寄生虫と同じように、難治性じんま疹や湿疹の原因になっている可能性があります。 トキソプラズマはもともとネコの腸管寄生性です。 腸炎を合併したアレルギー患者は、多少原因の一つとして考慮した方がよいかもしれません。 4. マラリア マラリアは昔から「おこり」として知られ、日本国内に広く見られました。 国内での発症は明治以降激減しましたが、東南アジアやアフリカに日本人の居住範囲が広がるとともに、輸入感染症として問題となります。 マラリアの原因になるマラリア原虫 Plasmodium は胞子虫類に分類されます。 Plasmodiumは血液細胞や組織細胞に寄生し、有性生殖と無性生殖で増えます。 終宿主ハマダラカの体内では、有性生殖で増えます。 中間宿主のヒトの体内では無性生殖で増殖します。 人体寄生性のマラリア原虫は、 @三日熱マラリア原虫、 A四日熱マラリア原虫、 B熱帯熱マラリア原虫、 C卵型マラリア原虫 に分けられます。 マラリア原虫は蚊に刺されてヒトの体内に入ると、まず肝臓などの網内系でで増殖します。 ここで何回か分裂した後、赤血球に入ります。 その後、肝臓などの組織にもう一度取り込まれるものもあります。 三日熱マラリア原虫は最も広く分布し、以前の日本に土着していたのはこれです。 赤血球内で発育分裂に要する時間は48時間で、そのたびに赤血球型分裂体を血中に放出し、マラリアの症状が現れます。 悪寒、灼熱感、発汗の順に変化する発熱、貧血、脾腫がみられます。 発作を繰り返していると、脾臓はますます大きくなり、感染した赤血球が血管に詰まってけいれんなどの脳血管症状も現れます。 熱帯熱マラリアはしばしば熱型が不規則で、赤血球を凝集させて血管を閉塞し、血色素尿・黄疸などが見られる黒水熱などの重症症状も見られることがあります。 マラリアに感染すると、抗マラリア抗体が上昇します。 完全によくなると、抗体は陰性になります。 マラリア原虫に対するIgE抗体の有無については、今のところ検査できません。 マラリア原虫がじんま疹の原因になる可能性はあります。 5. 膣トリコモナス 原虫の一種、鞭毛虫類には、消化管寄生性のもの(ランブル鞭毛虫など)、性器や尿路寄生性のもの(膣トリコモナス)、血液や組織寄生性のもの(トリパノソーマやリーシュマニア)などがあります。 0.01〜0.02mmの大きさで、前鞭毛や波動膜を持っています。 膣トリコモナスは膣内部や分泌物に検出されますが、尿中や男性の尿道や膀胱にみることもあります。 健康女性の4〜5%にみられます。 膣トリコモナスが生育するの至適pHは5.5〜6.0で、膣のpHが正常であれば増えにくいようです。 成人女性の膣炎や尿道炎の原因となります。 膣炎は、白濁した分泌液と陰唇部にひどいかゆみと熱感がみられます。 アレルギー体質があると、トリコモナスのアレルギーを伴っている可能性がありますが、今のところそれを証明する検査がありません。 ステロイドを外用すると、トリコモナスは増えます。 6. 赤痢アメーバ アメーバは原虫類のアメーバ(根足虫)類に分類されます。 赤痢アメーバEntamoeba histolyticaは熱帯・亜熱帯に広く分布しています。 日本人では、症状が出たことがなく、cyst(嚢子)を排泄している接触保菌者contact carrierは5%程度存在するといわれます。 ちなみに、発症して後よくなってからもcystを排泄している回復期保菌者もいます。 アメーバには多数の種類があるといわれますが、アレルギー性はともかく、病原性があるのは赤痢アメーバだけです。 赤痢アメーバの栄養型は0.02〜0.03mmの大きさで、仮足を出して移動します。 栄養型は顆粒や核の他に赤血球を入れています。 栄養型のアメーバは腸管の中で細菌を貪食し、増殖します。 腸管粘膜に侵入すると潰瘍が形成され、腸管壁が破壊されると腸管穿孔が起きて、腹膜炎になります。 腹痛と何十回もの水溶便で脱水にもなります。 肝臓や肺にアメーバが侵入すると、肝膿瘍や肺膿瘍となり、同時に細菌の二次感染もみられます。 肛門周囲に潰瘍をつくることもあります。 エイズ患者など免疫が低下しているヒトには、症状が現れやすい傾向があります。 腸管内部に出て、栄養型がcystに変化すると、cystが糞便中に排泄されます。 cystは30日ほどは生存可能で、通常の塩素濃度では死滅しません。 プールや温泉で便が口に入って感染しますが、ハエなどを通じて感染することもあります。 赤痢アメーバを診断するときは、数日間連続して便の中のアメーバやcystの有無を調べる必要があります。 アメーバがアレルギーの原因になるかどうかははっきりしませんが、腸炎を伴ったアレルギー疾患についてはそれの原因の一つになっている可能性があります。 なお、アメーバには他にも、大腸アメーバ、二核アメーバ、小形アメーバ、ヨードアメーバ、アカントアメーバ、歯肉アメーバ、ネグレリア属アメーバなどがあります。 アカントアメーバは、コンタクトレンズを不潔に使用していると増殖し、結膜炎や潰瘍を起こすことがあります。 歯肉アメーバは歯槽膿漏の原因の一つになっています。
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