@.アレルギー性鼻炎・花粉症、 慢性副鼻腔炎・蓄膿(ちくのう)症 全体目次に戻る (花粉類の検査についてはこちら、植物の分類も詳述しています) (1). はじめに アレルギー性結膜炎と同様に、花粉、ダニ・ハウスダスト、ペット、カビなど吸入アレルゲンが原因となります。 花粉で起こったアレルギー性鼻炎を花粉症とよんでいます。 鼻炎症状(くしゃみ、鼻水、鼻づまり)のほかに、咳や咽頭不快感、頭痛や倦怠感、眠気などの全身症状、鼻周囲や副鼻腔周囲に湿疹も現れることがあります。 湿疹が重症、慢性化すると、鼻炎があっても鼻閉だけで、患者自身それに気がつかない場合もあります。 アレルギー性鼻炎は1年中ずっと症状がある通年性と、主に花粉で起こる季節性に分けられます。 (2). 通年性鼻炎 通年性の原因アレルゲンは、ダニやペット(イヌ、ネコ、ハムスター、ウサギなど)などが多いようですが、湿気の多いところではカビ(アスペルギルス、クラドスポリウム、アルテルナリア、ペニシリウムなど)も無視できません。 他に、ホルマリンその他、室内に気化している化学物質の存在を忘れてはいけません。 10月ころ、急に寒くなって鼻炎や咳、結膜炎がひどいときは、たいていはふとんのダニが原因です。 押し入れに入っているふとんにはダニが一杯です。 とくに、夏場押し入れに入っていて、そこでダニが繁殖している冬布団に衣替えするときが危険です。 ダニアレルギーはダニの死骸やフンでも起こります。 ダニが原因の鼻炎は、起床時にクシャミ・鼻水が出ます。 ダニアレルギーがあると、しばしば気管支喘息を伴っています。 喘息は気候の変わり目に、風邪気味の時、疲れてストレスのたまっているときにひどくなります。 ダニを排除するときは掛け布団や毛布まで、掃除機で布団用の掃除先端を用いてゆっくり掃除してください。 ふとんをたたいただけ、干しただけではダニ対策にはなりません。 財政を許せば、防ダニ用の布団を購入するのもひとつの方法です。 ただし、薬剤を用いた防ダニ布団は好ましくありません。 イヌやネコなどのペットについては、同居している間どうすることもできません。 家族同然の生き物を追い出すことはできません。 飼っている家を訪れただけで、くしゃみや鼻水が止まらないことも多いようです。 ペットを触った手で間違えて目を触ると、目がおもいきり腫れ上がります。 ペットと一緒に寝ていると、少しずつ慣れてきますが、そのうちに慢性副鼻腔炎や蓄膿症となり、その細菌のアレルギーのために湿疹が出るようにもなります。 介護サービスの仕事をしている人などは、ペットの飼っているところに行くときは、アレルギー用メガネやマスクを着用した方がよいでしょう。 日常食べている牛や豚ではアレルギーがおきないことから、イヌやネコ、ダニも食べるとよくなるかもしれません。 濃厚に接触していると、多少そのペットのフケなどを食べていることにもなり、結果としてトレランスが成立します。 ただし、それは今接触しているペットだけで、他の同種のペットと接触すると、しばしばひどい症状が現れます。 それまで飼っていたペットがお亡くなりになって、新しく購入したペットが登場すると、ひどい症状がでるということです。 実家を離れていた患者さんが、久しぶりに実家に帰ってひどい症状が・・というのも同じ論理です。 (3). 季節性鼻炎 季節性のアレルギー性鼻炎の原因といえば花粉です。 が、近年、春先中国から飛来する黄砂によるものがあります。 黄砂は、砂ぼこりに加えて、花粉類の他に動物の死骸、いろんな植物の残渣、生活からの廃棄物、工場の煤煙などが一緒になっています。 非常に細かい粉塵になっていて、花粉症マスクを通過するものもあります。 黄砂を吸い込んで喘息症状がひどくなる患者さんも少なくありません。 黄砂のときは、外出をひかえ、洗濯物を外に干さないことですが、どうしても外出するなら、マスクを3枚くらい重ねて出かけるくらいが安全かもしれません。 近年、黄砂の季節に、花粉やダニなどにアレルギーを持っていない患者さんに、アレルギー性鼻炎や結膜炎、なおりにくい咳嗽症状が増えています。 平成25年は1月初めから、そんな患者が登場しています。 1月後半になり、中国の大気汚染と黄砂が一緒になったもの、いわゆるPM2.5がマスコミで話題になっています。 近年、10月〜11月の寒くなる頃に、急に鼻炎症状がひどくなる患者さんがいます。 これは、寒くなって石炭を多量にたいたことでPM2.5が上昇し、ジェット気流に乗ってやってきたPM2.5による鼻炎です。 (4). スギ・ヒノキ花粉症 花粉類については、主に、風媒花が問題となります。 最も患者さんが多いのが、スギ花粉です。 スギは北海道と沖縄にはほぼ存在しません。(花粉類の検査についてはこちら) 特に関東や静岡など北西にスギ山がある地域で、2〜3月の北西の風に乗って、花粉がたくさんやってきます。 それだけに風向きが重要で、日本海側は比較的少なく、北西に海がある地域はスギ花粉は多くありません。 スギ花粉症の子供が3月にディズニーランドに行くのは危険です。 和歌山市のスギ花粉飛散量は、東京浦安の10分の1以下です。 スギ花粉の飛散量は前年の夏の気温が高いとき、翌年多いといわれます。 また、11月ころからも、ごく少量飛散している地域があります。 平成25年3月17日に撮影した奈良県吉野の金峯山寺近くのスギです。 まだかなり雄花がたくさんついています。 花粉をとばす雄花は上の方についていて集めるのに苦労しました。 雄花は先端にたくさんつき、ラグビーボール状で、トゲトゲがあります。 スギ花粉が花粉症として症状が強いのは、 大量に飛散する時期が短いこと、 スギ花粉に近い食材を食べていないこと、 上空・遠方まで飛ばすこと、 などが上げられます。 食物アレルギーもそうですが、初めて食べるものは、強い症状が出ます。 アレルゲンに慣れるほど長く飛散していないということです。 また、慣れるためには、花粉が胃腸に入る必要があります。 裸子植物を普段からもっと食べていれば、症状が出ていない可能性もあります。 さらに、スギ花粉は、イネ科花粉よりかなり高いところに舞い上がります。 公園などに行かなければ症状が出ないイネ科花粉症と違って、マンションの上方階でも症状が出ます。 (ちなみに、マンションの10階以上になると、著明にダニが少なくなります。スイスやヒマラヤの地にはダニはいません)。
ヒノキ花粉は4月初めころより飛散し、連休明けには終わります。 紀伊半島は、スギよりもヒノキが多く植えられています。 スギ花粉と比べて咳や咽頭不快が多いといわれています。
(5). イネ科花粉 イネ科は実に多数の種類がありますが、いわゆる春から夏にかけての雑草です。 カモガヤ、ハルガヤ、オオアワガエリ、セイバンモロコシなど、田畑のイネも含まれます。 互いに共通抗原性があり、カモガヤ花粉が陽性の時は、他のイネ科花粉も高低様々に陽性になっています。 米や小麦、トウモロコシなど、イネ科食物のRASTが陽性になっていることもあります。 花粉が小さく、花が濡れていると花粉が飛びにくいこともあり、雨が降ると、症状がなくなります。 4月初めから花粉が飛び始めて、種類を微妙に変えながら、秋の稲刈りの時期まで続きます。 大都市で生活していると、周辺に緑が少なく、マンションの上の方に住んでいると、イネ科花粉はやってきません。 が、都市住人は田舎に一戸建てを購入するまで気がつかないことが多いようです。 イネ科花粉はときに強い症状が出ることがあります。 河川敷で野球していた少年が、草むらに顔を突っ込んでアナフィラキシーショックを起こした例を経験しています。 小麦によるFDEIAと同様に、運動や抗炎症剤(痛み止め)の内服で、症状が強くなる可能性を示しています。 これもイネ科です。 (6). キク科花粉 キク科花粉には、8月後半からブタクサ、9月にヨモギ、10月過ぎるとアキノキリンソウなどです。 花屋さん、葬儀屋さん、お寺さんには、いつもたくさんのキク科の花があります。 それを触って手や顔がかゆくなり、花粉を吸い込んでアレルギー性鼻炎や気管支喘息が起きます。 生け花をするときも要注意です。 なお、アキノキリンソウはなぜか、あまり花粉を飛ばさないようです。 (7). その他の花粉 カバノキ科花粉は1月から2月のシラカンバやハンノキですが、関西では3月にヤシャブシが現れます。 カバノキ科花粉症に関係するものとして、口腔アレルギー症候群があります カバノキ科はブナ目に分類されます。 ブナ目は、ブナ・コナラなどドングリをつくるグループです。 ブナ花粉は4〜5月に飛散します。 クワ科花粉の代表は、9月のカナムグラです。 他に、ケアキ(4〜5月)、イチョウ(4月)、タデ科(ヒメスイバ、ギシギシ、5〜7月)、キンモクセイ(10月、RAST検査はありません)などが、アレルギー性鼻炎の原因になります。 キンモクセイ。 当院の前の公園で毎年10月になると花をさかせます。 (8). アレルギー性でない鼻炎 鼻炎にはアレルギー性でないものもしばしばあります。 たとえば、刺激のある食べ物を食べたとき、冷たい空気を吸い込んだとき、鼻粘膜を刺激するような化学物質を浴びたときなど、鼻水が止まらないことがあります。 こんな症状はアレルギーではなく、検査してもRAST値の上昇はたいていはみられません。 血管運動性鼻炎とも呼ばれます。 老人に多いようですが、妊婦、中年女性その他いろんな人に現れ、アレルギー性鼻炎と区別する必要があります。 なぜなら、このタイプに抗アレルギー剤はあまり効かないからです。 このタイプの鼻炎は、感染症やPM2.5などのきたない空気によって、鼻粘膜に炎症が生じています。 炎症を起こしている赤い粘膜に刺激が加わって起きています。 ということは、炎症を改善するしか、鼻炎症状はよくなりません。 このタイプの炎症は、抗ロイコトリエン剤の内服は効果が少ないようです。 ひどいときは、仕方なくステロイド点鼻剤を用いるしかないかもしれません。 トーク点鼻のような交感神経刺激剤は、血流を遮断しを一時的に鼻水を止めます。 が、下記にも述べていますように、2週間以上は連用しない方がよいということになっています。 (9). 鼻炎の合併症 アレルギー性鼻炎が慢性化すると、鼻閉(鼻づまり)が出現します。 鼻閉が続いて、炎症が副鼻腔に広がると、しばしば慢性副鼻腔炎(蓄膿症)を合併します。 さらに細菌感染を合併すると、きたない膿が出てきます。 蓄膿症には、風邪のあとに現れる急性蓄膿症もあります。 副鼻腔は体内の空間であり、抗生剤を少しばかり内服したところで細菌を完全に排除することはできません。 抗生剤をだらだら長期にわたって内服すると、細菌が耐性化し、抗生剤内服の悪影響が現れるだけです。 体内の正常細菌も、抗生剤を内服すると死滅します。 いいことをしている腸内細菌が死んで、大腸菌やバクテロイデスなどの異常な腸内細菌が増えるきっかけにもなります。 蓄膿症を起こしている細菌は、しばしば顔面の湿疹の原因になります。 それだけに、鼻炎の慢性化は長い目で見て好ましくありません。 また、その細菌が全身の湿疹の原因になっていることもあります。 (10). 鼻炎の治療(抗アレルギー剤) 治療としては、抗アレルギー剤やステロイド剤の点鼻、抗アレルギー剤の内服などですが、効きにくいことも多いようです。 抗アレルギー剤は、主に抗ヒスタミン作用のあるものが用いられます。 しかし、作用が強いと眠気の副作用も強くなります。 古い抗ヒスタミン剤にはどうしても抗コリン作用が強いために、口が渇いたり(口渇)、便秘の悪化、眼圧の上昇、前立腺肥大の悪化による尿閉などの副作用の危険性があります。 アレルギー性鼻炎・花粉症は昼間に症状があるために、普通1日2回内服する薬剤が用いられます。 が、症状が軽いとき、眠気の問題が回避できないときは、1日1回の薬剤が用いられます。 鼻炎症状がひどいとき、しばしばステロイドの内服剤(セレスタミンなど)が処方されます。 ステロイドを内服すると、その間だけ湿疹もよくなります。 ステロイドを中止すると、湿疹がさらに悪化します。 すっかりよくなっていた湿疹が、もう一度復活することもあり、一時的でもステロイド内服はできれば避けたいものです。 自身の正常免疫まで抑制されるために、鼻炎症状もステロイドの内服でないとよくならない事態も招かれます。 近年、抗アレルギー剤の中で、口の中で溶けるOD錠が販売されています。 OD錠は口の中で溶けるために、よい意味でも悪い意味でも長く口の中ら残る傾向があります。 そんな苦みが嫌で、急いで水を飲んで流し込む患者もいます。 あまり苦みのないOD錠は、むしろ口腔内に長くとどめた方がアレルギー性鼻炎・花粉症による効果があると説明しています。 なぜなら、それをすることで口腔粘膜から直接薬剤が吸収され、近いところにある鼻粘膜・気道粘膜にとても有効だからです。 口腔粘膜から吸収されると、鼻粘膜・気道粘膜の薬剤濃度が上昇し、腸管から吸収された時より、効果が上がります。 鼻閉(鼻づまり)に対しては、ロイコトリエン拮抗剤(オノン、キプレス/シングレア)や漢方が有効です。 なお、ロイコトリエン拮抗剤は気道の炎症を改善するものとして、気管支喘息の予防によく用いられています。 鼻閉のひどいアレルギー性鼻炎に、ディレグラという内服剤が平成25年2月から保険適用になっています。 ディレグラは、アレグラ(フェキソフェナジン)に交感神経の刺激剤(塩酸プソイドエフェドリン)を配合したものです。 交感神経受容体α1、α2は刺激されると、皮膚や粘膜の血管を収縮させる働きがあります。 エフェドリンは鼻粘膜にそんな作用があり、炎症を起こして腫脹した粘膜を、一時的に収縮させ、鼻閉を改善します。 しかし、心臓の冠状血管のα1、α2を刺激すると、血管は収縮し、狭心症や心筋梗塞の悪化の危険性があります。 胃腸の運動が低下し、便秘がひどくなります。 同じタイプの点鼻剤もありますが、いずれも2週間以上続けない方がよいとされています。 鼻粘膜の慢性炎症に対して、鼻粘膜の焼却術などの外科的処置が有効なことがあります。 (11). 鼻炎の治療(抗アレルギー剤以外のもの) 治療の基本は、やはり原因アレルゲンを避けることです。 花粉が原因のときは、花粉の多いときはマスクを着用しましょう。 花粉を室内ににもちこまないために、外出時の衣類の花粉に注意して下さい。 花粉のシーズンには洗濯物は室内で干し、ふとんは布団乾燥機を用いてください。 スギ花粉症に対しては、スギ抗原の希釈液を用いて減感作療法がおこなわれています。 抗原を体内に入れると普通アレルギーがつくられます(感作)が、それを繰り返していると、反応しなくなります。 この現象を免疫寛容・トレランスといいます。 減感作療法は、スギ花粉の他にハウスダスト、ダニなどでも行われています。 この治療の問題点は、わざと抗原を体内に注射することによるアナフィラキシーショックの危険性があります。 また、最初週に3回くらい通院する必要があります。 よくなっても、ある程度定期的に注射を続ける必要があることなどが上げられます。 また、減感作療法でアトピー性皮膚炎の湿疹が悪化した患者もいました。 この治療に近いものとして、現在、スギ花粉の舌下免疫療法が治療に用いられています。 (平成26年6月ころより、シダトレンという製品名で処方されています。 ただし、講習会を受けた医師のみが処方できるとのことです)(スギを英語ではcedar) これは、経口減感作療法の一つです。 ショックのときの対応として、高価な注射薬エピペンを買わされます。 平成27年5月になり、ダニについても舌下免疫療法の薬剤(塩野義製薬アシテアダニ舌下錠(100単位、300単位)、フランスのスタラジン社が開発したものをライセンス契約して日本で発売)が登場しました。 この薬剤の使い方は、シダトレンよりはるかにアバウトです。 ダニは普段から吸入して慣れているからということでしょうが、もしそれならすでにダニに対してトレランスが成立しているということです。 むしろダニに対してトレランスが成立してじんま疹・喘息症状が出なくなると、ダニによって湿疹が出やすくなります。 実際、ダニの減感作療法をしていると、湿疹が現れた患者さんがいました。 また、お好み焼き(フランスにはお好み焼きはない)のダニを食べて、じんま疹やアナフィラキシーショックを起きたという例から考えると、トレランスが成立していない患者さんに安易に処方すると、アナフィラキシーショックが起きる可能性があります。 ということは、もっと少ない量、たとえばダニエキス1単位や10単位の錠剤も必要ということです。 イネ科の花粉症に対して、普段からイネ科花粉に近いものを食べていると、起こりにくいようです。 ということで、経口減感作療法として、玄米食(胚芽米でもよい)を勧めています。 キク科の花粉症には、レタスや菊菜をたくさん食べるように言っています。 もともと花粉のアレルギーは、子供の時から野菜の嫌いな食生活からつくられる傾向があります。 子供の時から野菜や果物をたくさんとることが、花粉アレルギーの予防になります。 漢方治療もよいところがあります。 小青竜湯はくしゃみ・鼻水の多いアレルギー性鼻炎や気管支喘息に向いています。 ステロイド内服ばかり内服していた鼻炎患者さんが、小青竜湯だけで十分ということもありました。 慢性化して鼻閉がくわわると、ケイガイレンギョ湯、辛夷清肺湯、葛根湯加川セン辛夷もよいようです。 漢方は、植物による経口減感作療法の意味合いもあるようです。 それだけに、スギ・ヒノキ、イネ科、キク科の花粉症の方に、より効果があります。 また、感染症に対する免疫対応の効果もあり、風邪ばかりひいている扁桃腺の大きい患者さんにも向いています。 ちなみに、私は、漢方は、昼は飲み忘れることも多く、原則として2/3量、1日2回の処方にしています。 Copyright © 2003 Endou Allergy clinic All Rights Reserved |