(20).虫刺症ちゅうししょう(虫刺され)


 虫に刺されてできた発疹を、虫刺され、虫刺症、虫刺性皮膚炎などと呼んでいます。
 その発疹は、刺されたばかりのときは、じんま疹で、時間とともに炎症が加わると、湿疹に変化します。
 一般に、必ずしも湿疹になるとは限りません。

 虫刺されがきっかけで、いろんな病原体に感染する可能性があります。

 虫に繰り返して刺されていると、その虫にアレルギーができることがあります。
 実際、採血すると、ガやヤブカ、ゴキブリ、ユスリカ、ミツバチ、アシナガバチ、スズメバチなどの昆虫類などに対して、IgE抗体(RAST値)が上昇している患者さんがたくさんいます。
 とくに、ヤケヒョウヒダニなどのRAST値が陽性になっていると、昆虫のそれも陽性になりやすい傾向があります。
 ダニは8本足でクモの仲間、蚊やガは6本足で昆虫の仲間ですので、ガの
RASTだけが陽性になっている患者さんもいます。

 節足動物の分類
@昆虫類
 1.チョウ目・・チョウ、ガ(ドクガ、チャドクガ、イラガ)
 2.甲虫目・・アオバアリガタハネカクシ
 3.カメムシ目・・トコジラミ、カメムシ
 4.ハエ目・・ハエ、アブ、ブユ、ヤブカ、ハマダラカ、アカイエカ、ユスリカ
 5.ハチ目・・アシナガバチ、スズメバチ、ミツバチ、
        ヒメアリ、イエヒメアリ、シバンムシアリガタバチ
 6.ノミ目・・ネコノミ
 7.シラミ目・・ヒトジラミ、ケジラミ
A甲殻類・・エビ、カニ
Bクモ類
 1.クモ目・・セアカゴケグモ
 2.ダニ目・・チリダニ、ツツガムシ、マダニ、ワクモ
Cムカデ類

 虫にアレルギーができると、刺されたところが大きくかゆく腫れ上がるだけでなく、硬くしこりになって、痒疹として長く残ることになります。
 とすると、これを虫刺されのアレルギーが原因となったアトピー性皮膚炎と呼んだ方がよいかもしれません。


 
新しい畳の
ツメダニ、庭仕事で刺される毛虫やドクガ、イラガ、排水口から侵入するムカデ、その他家の内外でいろんな虫に刺されます。


@.蚊

 虫刺されで最も多いものは、やはり
によるものです。
 日本にはおよそ100種くらいが生息しています。
 成虫は花や樹液などを栄養としていますが、
成虫は産卵するために、人や動物の血液を吸って、栄養としています。
 蚊は血を吸うとき唾液成分を出して、血を固まりにくくしています。
 その唾液成分がまず即時型のアレルギー反応を起こし、かゆみのあるじんま疹型の紅斑をつくります。
 その後2、3日過ぎてから、遅延型のアレルギー反応として、炎症を伴ったかゆみのある湿疹があらわれます。
 ひどいときは、発熱や全身倦怠感も見られることがあります。
 また、蚊の種類によっては、マラリア、糸状虫症(フィラリア)、日本脳炎、デング熱などの感染症を媒介するものがあります。

 
ハマダラカ属の代表種シナハマダラカ(体長5mm程度)は、成虫のはねにまだら模様があります。
 日本全国に生息し、夜間、雌がウシやウマを刺し、人家に侵入してヒトを吸血します。
 以前は
マラリアを媒介しました。近年は、農薬の影響で少なくなっています。

 
ヒトスジシマカはヤブカ属に属し、東北以南に生息しています。
 ヤブカ属の雌成虫は、朝や夕方だけでなく、昼間も吸血します。
 お墓の水たまりのようなわずかな水たまりにぼうふらが生息します。

 東南アジアではデング熱を媒介します。
 デング熱は過去に日本でも流行したことがあります。日本も温暖化していて、要注意です。
 
トウゴウヤブカもまた日本全国に生息していますが、海岸の潮だまりにも生息し、海岸地帯で多く見られるといわれます。
 マレー糸状虫やイヌ糸状虫などの病原体を媒介します。
 
ネッタイシマカはヤブカの一種で、世界全体の熱帯地域に生息しています。
 黄熱病や
デング熱を媒介するものとしてよく知られています。

 
アカイエカやチカイエカはイエカ属に分類され、日本全国に分布し、夜間吸血します。
 バンクロフト糸状虫やイヌ糸状虫、日本脳炎などの病原体を媒介します。
 成虫で越冬します。


 
コガタアカイエカは日本だけでなく東南アジアにも生息し、日本脳炎を媒介する蚊として重要です。
 ブタやウシなどを好んで吸血します。
 日本脳炎ウイルスは
ブタの血液中で増殖します。
 豚小屋の近くで蚊に刺されたり、東南アジアでこれに刺されるのは危険です。
 日本脳炎ウイルスのワクチンをしておきましょう。


幼児の蚊に刺されてできた発疹です。
刺されたところが盛り上がり、浸出液も出ています。
全体が赤く腫脹しています。
刺されて3日目くらいです。


 
ブユ類は西日本ではブト、東日本ではブヨとも呼ばれています。
 川の上流の川幅の狭い地域や、低地の小川や用水路に生息しています。
 体長は2〜5mm程度と非常に小さく、雌成虫だけが吸血します。
 集団でヒトや家畜を襲います。
 渓流近くでキャンプしていると、よく刺されます。
 刺されると、その部分が出血し、小さな
出血点を残します。
 その後、非常に強いかゆみを伴った発疹が、2週間以上続きます。

 
ヌカカは、0.6〜5mm程度の非常に小さい昆虫です。
 雌成虫がヒトを吸血することがあり、家畜の寄生虫やウイルスを媒介するものがあります。
 小さいために、防虫網や蚊帳の目を通りぬけます。
 衣服の中に入り込んで刺されることがあります。
 刺されると、まず軽い
痛みがあり、その後刺されたところを中心に激しいかゆみを伴った紅斑ができます。
 ニワトリヌカカは、北海道以南に生息し4〜9月に出現します。
 クマヌカカは6〜7月に北海道の湿原や森林地帯、キモンヌカカは山岳地帯に出現します。

 
ユスリカ類は吸血しませんが、吸い込むと、気管支喘息やアレルギー性鼻炎の原因となります。
 汚濁した河川でしばしば大発生します。幼虫は泥の中の有機物を摂取していますが、このとき体を揺らすので揺すり蚊と呼ばれています。
 ユスリカの体液にあるエリトロクオリンがアレルギーの原因になるといわれています。
 採血でユスリカのRAST値を測定することができます。
 春から初冬まで群舞し、明かりに引き寄せられます。
 アレルギー患者さんが、夕方、汚い川の近くをランニングするのは危険なことがあります。


A.ノミ


 虫刺されは春から夏にかけて多く、猫や犬につく
ノミ(ネコノミ)もよく見られます。
 ノミは世界で1800種、日本に71種あるといわれます。
 そのうちヒトを刺すのは、ヒトノミ、イヌノミ、ネコノミ、ネズミノミなどです。
 ヒトノミは最近は見かけなくなりました。
 
ネコノミの被害が最も多く、ネコノミはネコだけでなく、イヌ、イタチ、ネズミ、タヌキ、リスなどにもつきます。

患者さんからいただいたネコノミです。

 ノミは下腿を刺されることが多く、かゆみでひっかいて、とびひにもなりやすいようです。
 ネコのいる部屋で横になっていると、上肢や顔面もさされることがあります。

 
スナノミは中南米やアフリカに分布し、土の上を裸足で歩くと、足から体内に侵入し、外陰部、肛門周囲、大腿、顔などにも寄生します。


ネコノミによる下腿の湿疹。
猫を飼っているピアノの先生宅のノミで発症しました。
しばしば水疱ができます。

B.シラミ


 
シラミは日本に40種おり、特定のほ乳類に寄生します(成虫体長2〜4mm)。
 雌雄成虫と幼虫とも吸血します。翅は退化しているために、成虫と幼虫とも同じ体型をしています。

 
ヒトジラミは世界全体に分布していて、アタマジラミとコロモジラミに分けられます。

 
コロモジラミは下着などに住みつき、一日に数回吸血します。
 DDTなどの殺虫剤で減りましたが、まだいます。
 シラミは吸血しながら糞をするために、糞とともに排泄された
発疹チフスに感染することがあります。

 
アタマジラミはコロモジラミよりやや小さく、保育園や幼稚園、小学校で蔓延しています。
 かゆみが強く、引っ掻くととびひになることがあります。
 子供だけでなく、父母にも感染します。
 子供の髪の毛に、簡単に取れないフケのようなものがあれば、たいていはシラミの
です。
 シラミの診断は、この卵を顕微鏡で見てもできます。
 シラミをみつけたときは、セロハンテープにくっつけて持ってきてもらって、顕微鏡で見ています。


セロハンテープについて、いくらかつぶれ気味のアタマジラミです。

 かゆみが強く、引っ掻くと、とびひになることがあります。

 シラミの退治は、最近は主に農薬の
スミスリンシャンプーが用いられます。
 スミスリンはシラミの卵には効果が少ないといわれます。
 そのために、どうしても卵から孵化した虫にしか効果がないために、何回か処置を繰り返す必要があります。
 付属の細かいクシで、髪についた卵をたんねんにそぎ落としてください。
 男の子は髪の毛を短くすると、スミスリンが少なく済んで効果的です。

 家族全員、同時に治療して下さい。
 家族の誰かに残っていると、また家族の他の人に広がります。
 最近、スミスリンが効かないシラミが増えています。

 
ケジラミは、アタマジラミより小さく、成虫で1.3mmくらいです。
 体型がカニに似ていて、crab louseとも呼ばれています。
 主に陰毛に寄生し、まつげや眉毛、ときに頭髪に寄生することもあります。
 ほとんど移動せず、発達した爪で毛ににしがみついています。
 口器を一日中突き刺して、間欠的に吸血します。
 接触で感染しますが、性行為感染症(STD)の一つです。
 治療は、毛を剃るのがよいのですが、スミスリンシャンプーも有効です。


C.線状皮膚炎

 虫の毒液がついて起きる皮膚炎を
線状皮膚炎といいます。

 ゴミムシ類やオサムシ類は毒液をおしりから噴射しますが、症状は軽く、一時的です。

 体液や分泌物がつくカミキリモドキ類、アリガタハネカクシ類、マメハンミョウ類、ゲンセイ類は、症状が現れるまで時間がかかり、水疱や線状皮膚炎となります。
 重症で、症状が長く続くことが多いようです。


恐らくアオバアリガタハネカクシによる線状皮膚炎です。
刺されて2日目ですが、非常に強い紅斑がみられ、一部水疱にもなっています。

 その中で、
アオバアリガタハネカクシは、ハネカクシ科でアリによく似ていて、線状皮膚炎をつくる虫としてよく知られています。
 4〜10月(6〜7月が特に多い)にみられ、照明に誘われて家の中にも入ってきます。
 払いのけると、分泌された体液(有毒成分はペデリン)がつきます。
 毒液のつくと、数時間後から赤く腫れ、その後水疱になります。
 つづいて、かゆみの強い線状の皮膚炎になります。
 毒液が眼に入ると、失明の危険性もあります。
 虫をつぶすと危険です。

 カミキリモドキ科の
アオカミキリモドキも同じような症状が生じます。
 5〜9月に多く、体液には有毒成分カンタリジンを含まれます。

 対策としては、体液がついたときは、できるだけ早く水で洗い流すこと。
 一度水疱になると、かなり強いステロイド治療が必要です。
 なおるまで2週間以上かかり、二次感染にも要注意です。


D.毛虫

 毛虫(ドクガ)皮膚炎も、5月後半〜6月初めころ、ひどくなって外来によく患者さんがやってきます。
 ツバキやサザンカによくついているのが
チャドクガです。
 サクラやバラその他いろんな葉につくのは
ドクガです。


5/20にキンモクセイについていたドクガの恐らく終齢幼虫です。
体長が40mmくらいあり、背部と側面に橙色の紋がありますが、全体が黒っぽい色をしています。
長い毒針毛が実に不気味です。

平成24年は毛虫の当たり年です。
5月に比較的雨が多いと毛虫が多くなりますが、今年は特に多くなっています。
虫を食べる小鳥がなんとなく少ないようです。
(平成24年5月20日(日)記載) 


和歌山県立図書館のサザンカに大量発生したチャドクガです(H24.9.13撮影)。


 ドクガの幼虫(毛虫)の
毒針毛が皮膚にささると、刺さったところが赤くなり、小さな湿疹が多数できます。
 チャドクガは6月と9月の2回出現します。
 ドクガは6〜7月だけです。
 
モンシロドクガも6〜10月に2〜3回出現します。


チャドクガに刺された患者さんです。

 毛虫の方が、毒針毛はたくさんついています。
 親になったチャドクガ・ドクガでも、毒針毛はついています。
 親ドクガに触っても、症状が出るまで気がつかないことが多いようです。
 毒針毛は、長さがせいぜい0.1mm程度であり、刺されたとき、痛くありません。

 かゆみでひっかくと、皮膚についた毒針毛がさらに刺さり、さらに広がります。

 ドクガがついたときは、すぐに流水でこすらないように洗い流すか、ガムテープかセロハンテープなどに毒針毛を貼り付けて除きます。
 すぐに、徹底的にシャワーで洗い流すのがよいようです。
 とにかく皮膚に付いた毒針毛をこすると皮膚の中に入り込みます。

 衣類に毒針毛が知らず知らずについていることがあります。
 それを触ったり、もう一度着たりして、さらに広がります。
 一緒に洗濯すると、他の衣類に毒針毛が移ることもあります。

 ドクガのいるツバキなどをそのままにしておくと、風に吹かれて飛んできた毒針毛が洗濯物につくことがあります。
 近くにもの干し場があると、危険です。
 毛虫の死骸に毒針毛が残っていて、それで冬に被害を受けることもあります。

 ドクガのアレルギーがあると、かゆみが強く、症状がさらに強くなります。
 ダニのRAST値が陽性になっていると、ガのRAST値も陽性になっている患児が多いようです。
 ガのRAST値だけが高値の患者さんもいます。

 毒針毛が皮膚の奥まで刺さっているために、それが自然にとれるまで治りません。
 よくなるまで多くは2週間くらい、中には1カ月以上かかるかもしれません。
 ステロイドを外用して、抗アレルギー剤を内服するしかないかもしれません。

 
ヒトヘリアオイラガ(6〜8月に発生)は緑色の毛虫です。
 刺されると最初チクッとした痛みがあり、続いてアレルギー反応が現れ、かゆみを伴った紅斑が出現します。
 このイラガは、ブロック塀や手すりにもついていることがあります。


ヒトヘリアオイラガにさされて、3日目のかゆみを伴った紅斑です。

 毛虫皮膚炎は、ときに、自家感作性皮膚炎を起こして全身に広がったり、引っ掻いて黄色ブドウ球菌が付着し、とびひになることもあります。

 
イラガやアオイラガに刺されると、ひどい痛みがありますが、3〜4日で簡単によくなります。
 イラガは6〜9月に、カキやサクラにつきます。


E.南京虫

 
トコジラミ南京虫)は、外国観光客が多い古い木造の旅館やホテルに出没します。

 カメムシの仲間で、5〜8mmと大きな楕円形の虫体をしています。
 かゆみで目が覚めて、布団をめくって探すと、簡単に見つかりますが、足は速く、すばやく逃げます。
 後脚の基部の臭腺から悪臭を放ちます。

 昼間は木造の柱のすき間、畳のすき間、ソファやベッドなどいろんなところのすき間に潜んでいます。
 ベッドカバーやカーテンの折り返したところも要注意です。
 夜間、出没して、吸血鬼のように吸血します。
 成虫も幼虫とも、吸血します。
 ヒトを吸血するとき、刺し直すことがあり、刺し口が二カ所できるともいわれます。
 できた発疹は刺したところを中心に、とてもかゆい紅斑と丘疹ができます。


南京虫は衣類の中に入りこんで刺します。
首の発疹ですが、同じ発疹が全身にみられました。

 症状が強く、引っ掻いて悪化しないために、強めのステロイド外用剤が必要です。
 よくなるまで1カ月くらいかかることがあります。
 ウイルスなどの病原体は媒介しないといわれています。


 殺虫剤の効かない南京虫が増えていて、社会問題化しています。
 一度家の中に広がると、駆除するのは大変です。


F.ダニの仲間

 節足動物は、昆虫類の他にクモ類が大きなグループを構成しています。
 クモ類には、クモ目、ダニ目、サソリ目などがあります。

 ダニ目は、世界で300科2000種以上あります。
 ダニは、刺すと、皮膚内部に頭を突っ込んで吸血します。
 アレルギーを起こすだけでなく、いろんな感染症を媒介します。

 ツツガムシ類はダニ目に属し、幼虫がヒトを刺して、ツツガムシ病を引き起こします。
 ツツガムシは、主にノネズミに寄生しますが、トリ、イヌ、ネコにも寄生します。
 幼虫の体長は0.2〜0.3mmで、刺されるまで気がつきません。

 古典ツツガムシ病は、6〜9月に東北〜北陸の河川地域にみられ、アカツツガムシによる風土病です。
 最近は、かなり減っています。
 新型ツツガムシ病は、北海道・沖縄を除いて日本全国でみられます。
 タテツツガムシ
は、伊豆七島や富士山麓、鹿児島・宮崎などに生息し、秋〜冬に刺されます。
 フトゲツツガムシは秋〜春にヒトを刺し、主に長野県以北に分布しています。

 
 ツツガムシ病

 野山で作業・ハイキング中に、
リケッチアの一種 Orientia tsutsugamushi を保有するツツガムシの幼虫に刺されたまま、6時間以上吸着すると、5〜14日間の潜伏期間の後、発症します。
 悪寒戦慄を伴った高熱、筋肉痛があらわれ、2〜3日後全身に紅斑が出現、紫斑、結膜充血、咽頭発赤、肝脾腫、リンパ節腫脹がみられ、重症になると、脳炎や肺炎の合併もあります。
 体など衣服の下に、黒色壊死を伴った浸潤性紅斑(
刺し口)がみられます。
 刺し口はしばしば無症状です。

 白血球・血小板減少、異型リンパ球の出現、肝機能異常、ツツガムシ抗体価の上昇がみられます。

 治療は、ミノマイシンを2週間くらい内服または点滴します。

 衣類で肌をおおうこと、袖口をきちんと縛ること、腰掛けたりするときは、脱いだ衣類を放置しないといった予防も大事です。


 
マダニ類は、幼虫も吸血しますが、ヒトには主に雌成虫が吸着します。
 幼虫は6本足、成虫は8本足です。
 吸血すると、何倍にも膨れあがります。
 吸着されても軽いかゆみ程度であり、痛みがないために気がつかないようです。
 逆方向に歯が生えているために、無理矢理引っ張ってもとれません。
 無理に引っ張ると、体の一部が体内に残ってしまい、感染症や潰瘍の原因となります。
 切除するか、接子で取り除きます。
 私は、液体窒素で凍らせた接子(ピンセット)、又はアルコールランプで熱く熱した接子を用いています。


和歌山市内の畑作業中に刺された女の人から取り除いたタネガタマダニです。
体長3mmくらいです。


 
ヤマトマダニタネガタマダニは全国の低山地に分布し、野山での作業中、ハイキングやトレッキングなどでよく刺されます。
 頭部や頸部などの露出部、特に眼瞼や耳周辺が多いようです。
 
野兎病日本紅斑熱、イヌのパペシア症を媒介します。

 
 日本紅斑熱

 
Rickettsia japonica に感染したマダニに刺されて起こるリケッチア感染症です。
 初夏から晩秋にかけて多いといわれます。
 ダニに刺されて、2〜10日後、2〜3日間原因不明の発熱があってから、悪寒戦慄を伴って高熱と頭痛が出現します。
 2〜3日後、四肢末端から始まり、体の中心に向かって広がる
紅斑が出現します。
 刺されたところには、黒色壊死を伴った浸潤性紅斑、
刺し口がみられます。
 肝機能障害やリンパ節腫脹を伴っています。
 脳炎や膵炎で死亡することがあります。
 白血球は減少し、異型リンパ球もみられます。

 1〜2カ月後、褐色の色素沈着を残してよくなります。

 治療は、ミノマイシンとニューキノロン系抗生剤の併用療法です。


 シュルツェマダニも、3mm程度の大きさで、北海道、東北地方、中部地方以北の1000m以上の地に生息しています。
 近年は、もっと低い低地でも見つかっています。
 ライム病や野兎病を媒介します。

 
 ライム病

 
ボレリアスピロヘータ Borrelia burgdorferi による感染症です。
 5〜9月に多いといわれます。

第一期(限局感染期)
 感染して数日〜数週間後、刺されたところを中心に、10cm以上ある環状紅斑(
慢性遊走性紅斑、軽いかゆみと灼熱感がある)と中央に硬結・壊死を伴った刺し口が現れます。
 軽度発熱、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛、リンパ節腫脹、血尿・蛋白尿を伴います。
 検査すると、白血球減少、軽度肝障害、CRP上昇がみられます。
 ペア血清で抗体価の上昇がみられますが、上昇までに1カ月以上かかったり、梅毒と交差反応することがあります。

第二期
 感染から数週〜数カ月後、遊走性紅斑が多発し、
皮膚良性リンパ腺腫症があらわれます。

第三期
 感染から数カ月〜数年後、慢性
萎縮性皮膚症としてモルフェア様皮疹が出現、倦怠感や関節炎が見られます。

 治療は、テトラサイクリン系またはペニシリン系抗生剤を内服しますが、発症した患者さんには3週間以上必要です。
 虫体を除いてから、症状がなくても、1週間程度予防内服しておいた方が無難です。


 トリサシダニ
スズメサシダニは、春から夏にかけて、スズメ、ムクドリ、ツバメなどの巣から家の中に侵入して、ヒトを刺します。
 体長は0.6mmくらいで、ダニの存在に気がつかないかもしれません。
 世界各地に分布していますが、日本では感染症の媒介は知られていません。

 
ワクモは体長0.6mm程度のニワトリの害虫で、世界中に生息しています。
 オウムやインコ、ツバメなどにも寄生します。
 ヒトにも寄生して、吸血します。
 ダニは普通顔面は刺しませんが、これは顔も刺します。
 刺されると、非常にかゆい紅色丘疹ができます。

 
イエダニは、昔は日本に生息していたものではなく、第二次世界大戦頃、日本に持ち込まれたものです。
 もともとネズミに寄生しており、
ネズミのいる家や建物では刺される可能性があります。
 食品を扱っている店や倉庫でも従業員が刺されることがあります。
 体長が
0.5mm〜1mmと小さく、ダニには気がつかないことの方が多いようです。
 幼虫や雌雄成虫が吸血し、かなりかゆい紅色丘疹ができます。
 ヒゼンダニと同様に、ヒトの皮膚の軟らかいところを好んで刺すようです。
 最近は自宅よりも、ビルなどの仕事場で一年中刺されることの方が多く、企業がネズミ駆除をやらないかぎり、繰り返して刺されるだけです。


 
ツメダニ科のクワガタツメダニは、日本中に生息しています。
 0.5mmくらいの体長で、新しい畳についていることがあります。
 湿度が高いと発生しやすいともいわれます。
 ほかのダニをエサにしています。
 ヒトを刺すと、非常にかゆい紅色丘疹ができます。

 
シラミダニは0.2mm程度の大きさで、とても小さく、淡い黄色をしていて、なかなか気がつきません。
 卵胎生で、雌は成熟した成虫を産みます。
 ガ、とくにカイコガの幼虫やさなぎに寄生していますが、ガがいないとヒトも刺します。
 もちろん養蚕農家にみられますが、穀類倉庫や牧草を扱う農家などでも見られることがあります。
 さされると、非常にかゆいじんま疹様の発疹ができます。

 
ニキビダニ(Dermodex folliculorum)は、0.2〜0.3mmの長細い形をした、ヒトの毛包に寄生するダニです。
 
を中心とした脂漏部位に常在しています。
 皮脂の多い人や中年女性に数が多いといわれます。
 寄生していてもほとんどかゆみはなく、ニキビに似た発疹ができます。
 皮脂腺に寄生しているDermodex brevisも、同じような症状ができます。
 ステロイド外用剤でダニは増えるために、ステロイドで誘発されたニキビの原因にもなっています。
 中年女性が鼻にニキビがひどいときは、ニキビダニを疑った方がよいでしょう。
 オイラックスを外用していますが、常在菌でもあり、完全には取れません。
 イベルメクチンは効果があるかもしれませんが、使っていません。

赤いダニ(タカラダニ)の虫刺され?(平成26年5月20日記載)

4月後半ころから、主に上肢にかゆみのある小丘疹を何個かできたと、子供がやってきます。
外見的には虫刺されですが、蚊にしては小さく、ダニアレルギーがある患者さんに症状が強く出ています。
同時に蚊に刺されたところは、もっと大きなしこりになっています。
近年、この時期になると、当院の前の公園でも、石垣やブロックに1mmくらいの赤い虫がたくさん歩き回っています。
調べてみますと、タカラダニ科のタカラダニというダニで、これまでこのダニに刺されたという報告はないということですが、うちの嫁さんは刺されてかゆいと言っています。
上記の虫刺されは、このタカラダニによるものと考えています


当科前の公園のタカラダニです。


G.ハチの仲間

 平成26年7月後半になり、アリガタバチによる虫刺されの患者さんが何人かやってきます。

 アリはハチ目に分類されます。
 アリガタバチはハチ目アリガタバチ科に分類され、羽の退化したハチです。
 クロアリガタバチは、体長2.5-3.5mm、シバンムシやカミキリムシに寄生し、主に湿気の多い木造住宅に発生します。
 6月〜7月にかけて被害が多く見られます。
 シバンムシアリガタバチは、1.5-2mm程度で、シバンムシに寄生します。
 鉄筋コンクリートの2階以上の湿気の多い住居に発生し、天井・壁・畳・家具などにみられます。
 産卵管が毒針となり、6月〜9月に被害が多い。

 アリガタバチは、畳の上で横になっているとき、夜間寝ているときに刺されます。
 主にクビ・四肢などの露出部に刺され、体などにも刺されることがあります。
 刺されると直後に軽い痛みがあり、1〜2時間で痛みは消えます。
 1〜2日後にかゆみを伴う紅斑・丘疹(中央に刺した小丘疹がある)があらわれます。
 なおるまで10日以上かかることがあります。

 ハチの仲間ですので、刺されたハチ毒のアレルギーでアナフィラキシーショックを起こすことがあります。
 ハチアレルギーのあるヒトは要注意です。
 なお、アリガタバチのRAST検査はありません。
 治療には、ステロイド外用剤が用いられます。
 シバンムシの退治も重要です。


右はクロアリガタバチ(少し大きめで、雄は羽が残っているのは気に入りませんが)。
左はタバコシバンムシ。
いずれも虫に刺された患者にいただいたものです。


H.アトピー性皮膚炎と虫刺され

 一般に、アトピー性皮膚炎患者の虫刺症は、虫や毒液に対してアレルギーがあるために大きく腫れあがることがあります。
 ヒョウヒダニやエビ・カニ、ガなどのRAST値が陽性になっていると、他の節足動物にもアレルギーがあると考えた方がよいようです。
 とくに、刺されて2、3日過ぎてから発疹がひどくなったときは、遅延型のアレルギー反応が起きていると考えられます。

 乳幼児は、蚊に刺されると、大きく腫れ上がり、なかなかよくなりません。
 刺されているうちに、アレルギーができてくると、かゆみも強くなります。
 しばしば、引っ掻いて、伝染性膿痂疹(とびひ)になります。
 とくに、刺され初めの乳幼児が大きく腫れ上がります。

 刺された部位が眼の近くの時は、眼が開かない状態にもなります。
 このときは、仕方なくステロイド入りの眼軟膏をぬって、ひっかかないように抗アレルギー剤の内服をもらうしかないかもしれません。


眼の近くの虫刺され。大きく腫れ上がっています。

 まれに、蚊過敏症として、大きく腫れるとともに、刺されたところに黒色壊死を伴うような発疹ができることがあります。
 この状態にヘルペス属のEBウイルスが関与しているといわれています。
 このときはさらに強いステロイドが必要になります。

 またなおりにくく、痒疹(
ようしん)となって年余にわたって続くことがあります。
 また、虫さされをきっかけにして、アトピー性皮膚炎が悪化することがあります。

 虫さされの治療は、刺されたばかりの初期や、軽ければ、レスタミン軟膏などのかゆみどめの軟膏、カチリなどをぬって、経過観察です。
 ひどいときは、ある程度のレベルのステロイド外用剤が必要です。
 自家感作性皮膚炎のために全身に広がるようなときは、あまりやりたくないステロイドの内服も行われています。

 というわけで、虫さされの治療は、まず虫に刺されないことです。

 
ヤブカなどは、皮膚が軟らかく刺しやすい子供や女の人に、二酸化炭素に引き寄せられてやってくるといわれます。
 七夕祭りや花火などで夜間外に長い時間出るときは、長ズボン、長袖などで完全に武装して出かけるとよいでしょう。
 真っ昼間はあまり刺されませんので、森林草原に入るのでなければ半袖半ズボンでも大丈夫です。

 虫除け剤
ディートについては、環境ホルモンでもあり、乳幼児に用いるのを控えた方がよいと、厚生労働省から通達されています。(ディートの新聞記事はこちら)
 とはいうものの、刺されるとあまりにもひどいときは、四肢は衣類でできるだけ防護してから、どうしても露出するところだけにディートを使うようにしたいものです。
 蚊過敏症があれば、刺されないように完全防護をした方がよいでしょう。

 
 虫除け剤(忌避剤)の未来

 外来で患者さんをみていますと、虫に刺されやすい人と、刺されにくい人がいます。
 子供や女の人は刺されにくく、男の人や高齢者は刺されにくい傾向があります。
 また、薬を飲んでいると、刺されにくい人がいます。
 たとえば、抗がん剤のTS1を内服していると、家族は虫に一杯刺されるのに、本人はちっとも刺されないという症例がありました。
 代謝拮抗剤TS1が虫忌避剤としても作用しているということです。
 老人ホームによく蔓延するの疥癬でも、内服している薬剤の種類で疥癬の発症に差があるように思われます。
 現在、疥癬の治療はストロメクトールの内服、スミスリンローション(5%)(ピレスロイド系農薬)の外用が主体となっています。
 虫忌避剤としては、市販のディートの外用はありますが、内服するとすべての虫に対して忌避効果があるものは今のところありません。
 そんなものがあれば、疥癬はともかく、マラリアやデング熱など虫が媒介する感染症を絶滅させることができるかもしれません。



ガラスウール皮膚炎
 
  断熱材に用いられるガラスウールは、皮膚にささると、健常人でも非常にかゆく、それで湿疹もできることがあります。
 石綿やロックウールでも同様な症状が現れる可能性があります。
 症状的には、毛虫皮膚炎に近いものです。
 炎症はつよくありませんが、かゆみはかなり強いようです。


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