9年間経過をみた一卵生双生児のアトピー性皮膚炎の兄弟 (学会発表) 遠藤薫他:9年間経過をみた一卵性双生児のアトピー性皮膚炎の一例。第11回日本アレルギー学会春季臨床大会、1999。 |
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症例 患者:一卵生双生児、ちょうど5カ月の男児、1989年10月生まれ 初診:1990年3月27日 家族歴:父にアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎。母にアレルギー性鼻炎。4歳の姉は健常。 現病歴:生後1カ月ころ、まず兄の額部に発疹が出現した。 少し遅れて、弟にも同様な発疹が現れた。 近医で外用剤を処方され、外用すると軽くなるが、繰り返すため、大阪府立羽曳野病院皮膚科を受診した。 なお、生下時、兄49cm、2366g、弟48cm、2039g、いずれもApgar Score 9点。 弟は1週間長く入院した。 初診時、混合栄養であった。 その後、普通の人工乳栄養となった。 初診時、兄の方が少しだけ湿疹の程度が強かったが、大きな差違は見られなかった。 症状のレベルは、顔、間擦部、体幹、四肢の4つの部位に分けて、それぞれグローバル評価法で0〜5の点数をつけた。 なお、0はなし、1は微症、2は軽症、3は中等症、4は重症、5は超重症に相当する。 得られた点数を合計し、得られた点数を全身の湿疹のレベルとした。 表1に初診時(生後五カ月)と9歳3カ月のときの湿疹のレベルを示した。
表2に初診時の検査所見を示した。
経過:初診時、夏季になれば良くなることを説明し、保湿剤もステロイド外用剤も何も処方しなかった。 採血したところ、IgE抗体は、兄 6 IU/ml、弟 0 IU/ml、兄弟ともRAST値陽性はなかった。(表2) 4月17日の再診時も、皮内テストは施行したが、症状は軽くなる傾向があり、特に治療しなかった。 実際夏に近くなりよくなったが、兄弟ともその後秋から冬にかけて再び症状が悪化した。 しかし、近医皮膚科に通院し、当科を受診しなかった。 1992年5月26日(2歳1カ月)、連休すぎてもよくならないため、久しぶりに当科を受診した。 このとき、兄弟とも、全身に乾燥性、細かい落屑を伴った紅斑がみられた。 このときは、弟の方がやや症状が強かった。(表1) 近医で処方されたステロイド外用剤(容器)を用いていたが、内容や使用量ははっきりしなかった。 とりあえず、VW-4(リンデロンV軟膏と白色ワセリンを1:4の割合で混合、ステロイドレベルは最も弱いレベル)と白色ワセリンで経過を見ることにした。 1カ月後の再診時(1992.6.23)、兄弟ともかなり悪化していた。 ステロイド外用剤のレベルが近医で処方されていたものより弱かった可能性があるが、他の要因も否定できなかった。 また、体幹・四肢には、兄弟とも水いぼ(伝染性軟属腫)が多数認められた。 保育所やスイミングに行っていないことから、幼稚園に通園している姉から感染した可能性がある。 2年振りに採血すると、IgE抗体は、兄 411 IU/ml、弟 26 IU/mlと、特に症状の軽い兄の上昇が著明であった。 また、兄のRAST値は、卵白(1.78 PRU/ml)と牛乳(1.28)で軽度陽性になっていた。(表2) 兄弟とも、検査されていない項目でRAST値が陽性になっているが、主にウイルスや細菌などに対するものであり、検査の項目がないために証明する方法がないと、患者母に説明した。 再診時(1992.6.23)、患者母に兄弟とも卵を完全制限するように指示した。 8月まで制限を続けたが、特にはっきりした効果が確認されないため、食事が大変ということもあり、卵制限は中止した。 兄は7月を過ぎると少しずつよくなり、8月にはワセリンを少し外用するだけになった。 弟は、その後もステロイド外用剤を用いていた(VW4 20g/月程度)が、夏季には四肢外側に紅斑がみられるものの、9月にはほとんどワセリンだけを外用だけで十分な状態になった。 その後、10月ころから、弟の発疹が悪化し、特に12月に39.7℃の熱発があってからはさらにひどくなった。 1993年1月26日のときは、顔面や体幹にびまん性に落屑を伴った紅斑が広がっていた。(表3) 兄についても、12月に同様に熱発を起こすまでは軽い落屑のみであったが、その後発疹は悪化した。 1月26日再診時、兄弟とも、外用剤はワセリンのみで、ステロイド外用剤は用いていなかった。 このときの採血結果を表4に示した。 IgE抗体は、兄 693 IU/ml、弟 197 IU/mlと、特に症状の軽い兄の上昇が著明であった。 兄のRAST値は、ヤケヒョウヒダニ(Dp)で2.33 PRU/mlと軽度陽性、スギ花粉で0.53 PRU/mlと偽陽性になっていた。 弟のIgE抗体も上昇していたが、検査した範囲でRAST値の陽性はなかった。
弟の発疹はその後さらに悪化し、良くならないため、1993.4.13に兄弟ともにアンダーム軟膏とアタラックスドライシロップを処方した。 兄の発疹も1月以後さらに全身に悪化し、4月には兄弟でほぼ変わらない程度になっていた。 5月再診後経過をみていたが、さらに悪化するため6月15日再診時、アンダーム軟膏の接触皮膚炎の可能性も考え、ステロイド外用剤を再開した(VW-1とVW-4)。 ステロイド外用後、兄の発疹は少しずつ軽くなったが、全身に軽度の紅斑が残っていた。 それでも、10月以後は軽度落屑を残すだけになった。 しかし、弟の発疹はそれほどよくならず、9月になってもほとんど変化がなかったが、10月を過ぎた頃より、同様に軽度落屑を残すだけになった。 このころは、再びワセリン以外外用していない。 兄弟とも、この冬場は悪化はみられず、ワセリン以外用いていなかった。 1994.4.13の再診時、兄の発疹が弟よりいくらか強くなっていたが、いずれもごく軽いものであった。(表3) このときの採血結果を表4に示した。 この年より血球の検査を施行した。 兄弟とも、白血球数はやや上昇していた。 好酸球数も、ほとんど同じ程度で、軽度上昇していただけであった。 ヘモグロビンはやや少なく、成長期ということもあり、軽度の鉄欠乏性貧血であった。 (アトピー性皮膚炎患者に鉄欠乏性貧血が多いことは、学会報告したことがある) IgE抗体は、兄弟とも、前回と比べてほぼ横ばいで、相変わらず兄の方がかなり高かった。 兄のダニとスギ花粉に対するRAST値が陽性であったが、弟もやや上昇傾向がみられた。 その後、兄弟とも、乾燥肌がひどいところにワセリンを外用するだけで、ずっとステロイド外用剤は用いていなかった。 1995.3.6の再診時、兄弟ともずっと咳が続いている(気管支喘息とは診断されていない)せいか、全身のドライスキンがひどくなっていたが、紅斑はほとんどみられなかった。 1995.5.31(5歳2カ月)再診時、兄に背部、腰周囲、臀部、肘窩、膝窩などに汗疹がひどく、イソジンとカチリを処方した。 2カ月後の再診時(1995.7.26)、プールと海水浴に行っていたこともあり、ほとんど消失していた。 この間、弟に症状の悪化はみられなかった。(表3) このとき、再び採血した。(表4) IgE抗体は、兄 874 IU/ml、弟 465 IU/mlといずれもやや上昇し、兄弟ともダニとスギ花粉に対するRAST値が陽性であった。 白血球数は、感染症が少ない夏場にもかかわらず、兄弟とも相変わらず高かった。 好酸球数は、兄は正常であったが、弟は軽度上昇していた(512 /mm3)。 兄弟とも、その後ドライスキン程度であった。 1996年になり、感冒後に兄の発疹が悪化、1996.3.6の再診時には、下肢や上肢の外側、背部や腰周囲に一部びらんを伴って悪化していた。 このときも、イソジンとワセリン以外用いていない。 1996.5.15もまだ同じタイプの発疹が残っていたが、前回受診時よりもかなり軽くなっていた。 1996.7.31の再診時、外用剤は使ってなく、兄弟ともほとんど発疹は見られない状態になっていた。(表3) このとき採血したところ、IgE抗体は、兄 958 IU/ml、弟 438 IU/mlと、兄弟とも高い状態が続いていた。 兄弟のダニとスギ花粉に対するRAST値が陽性は同じであったが、初めて検査した兄のアレテルナリアが30.19 PRU/mlと著明に陽性で、弟で検査したクラドスポリウムは正常範囲であった。 また、兄弟ともカモガヤ花粉のRAST値も軽度上昇していた。 1997.3.26の再診時、軽度のドライスキンのみであった。 兄に水いぼがあり、接子で水いぼを取った。 兄弟とも、感冒に罹患するすることも少なくなった。 体重は、兄が19.75kg、弟が18.85kgで、兄の方が我慢強く、弟は泣き虫とのことであった。 兄は甘いものが好きであったが、弟は甘いものは食べないとのことであった。 その後、ずっと発疹がほとんど見られない状態が続いたため、1997年夏は採血しなかった。 1998.4.1に兄弟ともほとんど発疹(表5)はなかったが、採血した。 IgE抗体は、兄 893 IU/ml、弟 589 IU/mlと相変わらず高く、前回より兄弟の差違は少なくなっていた。 RAST値もほぼ同じパターンであったが、弟の猫皮屑が陽性化していた。 なお猫はどこにも飼っていなかった。 白血球数は正常範囲になっていたが、好酸球数は兄弟ともやや高い状態が続いていた。 兄の右頸部に、無痛性のリンパ節腫大がみられた。
その後、夏場に兄弟とも少しひどくなった。 秋頃より、弟の発疹が悪化したが、ワセリンのみ外用していた。 1999.2.10、再診時、兄弟とも、体幹・四肢の伸側を中心として、落屑を伴った紅斑がみられた。(表5) 兄より弟の方が症状が強かったが、ステロイド外用剤が必要なほど著明なものではなかった。 これまで、アレルギー性鼻炎や気管支喘息の症状は経験したことはなかった。 兄は数日前に発熱したが、受診時は平熱になっていた。 このとき採血すると、IgE抗体は、兄 4700 IU/ml、弟 1230 IU/mlと著明に高くなっていた。 IgE抗体の上昇に相関するほど発疹は悪化していなかった。 RAST値はIgE抗体の増加に比べて、著明な上昇はみられなかった。 弟のアルテルナリアに対するRAST値の上昇はみられたが、以前より陽性であった可能性がある。 従って、何らかの感染症がIgE抗体の上昇を招いたと考えられるが、感染症は何か明らかではない。 兄の白血球数や好酸球数、血小板数の減少から、兄はこのとき何らかのウイルス感染症に罹患していたと思われる。 このときまでの検査で、CRPやASLOの陽性は得られていない。 私自身、兄弟を診察したのは1999年3月が最後である。 考察: 図1に、生まれてからの湿疹の経過を示した。 1995年から1996年にいくらか兄の症状が悪化していたことを除けば、兄弟の症状はほぼ同じ経過をたどったと考えられる。 兄弟は成長してからはほとんどワセリン程度を外用し、外見的にはドライスキン程度を推移していた。 IgE抗体の上昇と兄弟の症状の間に明らかに相関関係は見られない。 しかし、何らかの原因でIgE抗体が上昇していることは確かである。 RAST値については、猫皮屑で弟のみ陽性になったことを除けば、多少の時間的ずれはあるものの、検査したアレルゲンで兄弟の間で差違が認められなかった。 たまたまアルテルナリアで高値であることが判明したが、検査されていないアレルゲンの中に高値のものが隠れていると考えられる。 というものの、白血球数がずっと高値であることを考えると、そんなアレルゲンは感染症に関係したものである可能性が高い。 表には示さなかったが、兄弟ともいつも1〜2%の異型リンパ球が見られた。 EBウイルスやサイトメガロウイルスなどの関与も検討すべきであったかもしれない。 また、今になって考えると、兄にみられた痛みのないリンパ節腫大と関係しているかも知れない。 患児に自己負担があることもあり、それほど詳しく血液検査していないのが、とても悔やまれる。 1999年のIgE抗体の急激な上昇を考えると、その後の追跡調査をすべきかもしれない。 Copyright © 2003 Endou Allergy clinic All Rights Reserved |
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