15. IgEが高くなるとRAST値は実際より低い数値になることがある
(RAST値の希釈測定後の不一致について)
第12回日本アレルギー学会春季臨床大会、2000。
要約
1.患者34名のハウスダストのRAST値(50〜99 Ua/ml)は、33名で希釈後上昇し、30名は100 Ua/ml以上、5名は1000 Ua/ml以上、最大8115
Ua/mlとなっていた。
2.希釈前のHDのRAST値は血清IgE値と相関しなかったが、希釈すると有意な相関関係を示していた。
3.血清IgE値が2000 IU/ml程度を越える患者は、50 Ua/mlを 越える場合、HDのRAST値は希釈して再び測定するのが望 ましいと推測される。
4.血清IgG値とRAST値の間に有意な相関は認められなかった。
はじめに
当科では、アトピー性皮膚炎の血清RAST値が100 Ua/ml以上となった場合、同じ血清を用いて希釈測定を行っている。
たとえば、一例として、ある患者(13歳、女)の数値を下記に示すと、
IgE (IU/ml) 5100
RAST (Ua/ml) 希釈前 希釈後
HD 100< 643.6
Df 100< 526.4
Dp 100< 705.9
希釈測定することで、より的確に数値変化を把握でき、患者のアレルギー状態や治療効果の説明に有効である。
しかし、希釈測定をしているうちに、特に血清IgE値が高い患者において、下記の患者のような結果が見られることに気がついた(表1)。
このような結果は早期から認められ、決して特殊な患者に限らない。
今回われわれは、血清RAST値の希釈測定前後の食い違いとその意味を検討した。
表1.血清RAST値と希釈測定の食い違い
(37歳、女、乳児期よりアトピー性皮膚炎がある)
|
|
|
|
|
|
|
98.12.24 |
99.8.16 |
IgE (IU/ml) |
8440 |
|
13120 |
|
RAST (Ua/ml) |
希釈前 |
希釈後 |
希釈前 |
希釈後 |
HD |
83.66 |
|
67.56 |
678.4 |
Df |
100< |
1935.5 |
|
813.4 |
Dp |
100< |
1153.8 |
85.18 |
705.9 |
卵白 |
3.39 |
|
3.80 |
6.2 |
牛乳 |
71.94 |
|
49.40 |
262.9 |
カゼイン |
|
|
76.24 |
327.2 |
小麦 |
1.39 |
|
2.58 |
5.0 |
大豆 |
1.04 |
|
1.05 |
3.1 |
カンジダ |
2.21 |
|
6.85 |
9.8 |
対象と方法
HD(ハウスダスト)またはDf、DpのRAST値が50〜99 Ua/mlで、同じ血液を希釈測定したもの、またはほぼ同じ時期に希釈測定を施行したアトピー性皮膚炎患者を対象とした。
患者数は、HDで34名、Dfで10名、Dpで18名であった。
なお、患者数の違いは、Dfを測定した患者が少なく、HDを測定している患者が最も多いことによる。
血清RAST値の測定は、Pharmacia社のCAP-RAST法を用い、血清の希釈は、IgE-RISTの測定のために添付されている希釈剤を用いた。
また、患者の血清IgE値とIgG値も検討に加えた。
結果
図1(省略)に患者34名の希釈前と希釈後のHDのRAST値をいずれも対数で示した。
33名で希釈によりRAST値は上昇し、30名は100 Ua/ml以上となり、5名は1000 Ua/ml以上であり、最大8115 Ua/mlとなっていた。
図2(省略)は、同様に患者19名についてDpの結果を示したものである。
いずれの患者とも希釈後RAST値は上昇し、18名で100 Ua/ml以上であり、最大1635 Ua/mlであった。
図3(省略)に患者34名の血清IgE値と希釈前のHDのRAST値を対数で示した。
さらに、図4(省略)に血清IgE値と希釈後のHDのRAST値を示した。希釈前のHDのRAST値は血清IgE値と有意な相関を示さなかったのに対して、希釈すると有意な相関関係を示していた。
この結果はDpのRAST値についても当てはまる。
希釈後のDpのRAST値と血清IgE値の関係のみ図5(省略)に示した。
これらの結果から、血清IgE値が2000 IU/ml程度を越える患者については、HD及びDpのRAST値は、その数値が50 Ua/mlを越えると、血清を希釈して測定するのが望ましいと推測される。
なお、表1に見られるように、50 Ua/ml以下であっても、100 Ua/ml以上になる可能性がある。
図6に患者18名について、血清IgG値と希釈後のHDのRAST値を示したが、両者の間に有意な相関は認められなかった。
かんがえ
当科では、RAST値はDfやDpよりもHDを優先して測定される傾向にあり、上記の現象はHDに多く見られた。
しかし、数値では示すことはできなかったが、表1のようにHDのRAST値の方が低くなりやすい傾向がある。
また、この現象は、今回示したHD、Dp以外にも、様々な抗原においても確認されている。
表1に示したように、血清IgE値が高い患者では、希釈測定すると多くの場合数値が上昇する。
これまでRAST値の測定法としては様々な方法(表2)が開発されているが、CAP-RAST
法以外でも同様な現象が見られるかどうかは明らかではない。
CAP-RAST法は、図7のような自動化した測定過程でおこなわれ、図8のような標準曲線が用いられている。
標準曲線を見ると、50から100 Ua/mlの間の傾きが小さく、このことが上記の現象の一因になっている可能性がある。
一方、Pharmacia社の関係者の話によると、抗原は図9に示したような多数の蛋白の集合であり、ある特定のエピトープに対して大量にIgE抗体が作られている場合、希釈測定すると数値が上昇する可能性がある。
確かに、このことは、以下の患者の話を説明しているかもしれない。
・自宅で飼っている犬は触ってもかゆくないが、よその犬はかゆい。
・日本製の小麦で作られたパンは食べてもなんともないが、外国産の小麦はかゆい。
図7(省略) CAPシステムとその自動化過程
図8(省略) CAPシステムの標準曲線の一例
図9(省略) 特異的IgE抗体測定系における希釈直線性の限界について(Pharmacia社提供)
イムノブロッティング解析図
(ピーナツアレルギー患者)
表2(省略) IgE抗体測定法
追記
同じ抗原に対するIgE抗体であってもその内容には多様性があり、それが臨床症状と関連している可能性がある。その意味で、さらに抗原を詳細に分析することは、原因精査に有効と考えられる。
また、抗原を構成するものが多様であるがゆえに、同じジャンルの抗原に対するIgE抗体であっても陰性の結果となる可能性も否定できない。
Copyright © 2003 Endou Allergy clinic All Rights Reserved |