14. アトピー性皮膚炎患者に合った職業はあるか?
目次
1.ストレスによる悪化
2.接触皮膚炎(かぶれ)や刺激性皮膚炎を起こしやすい仕事
3.吸入性のアレルゲンや化学物質の多い仕事
4.汗を大量にかく仕事
5.日光を浴びる仕事
*アトピー性皮膚炎における就職差別
*アトピー進化論
子供にアレルギーがあるのだが、将来どんな職業がよいかと思い悩んでいる両親がいます。
仕事は当然のことながら、本来本人に合ったもの、本人がやりたいことをするのがよいと思われます。
単にアレルギーの観点から言えば、事務的な仕事がよいのは確かです。
きれいな工場が、必ずしもアレルギー患者に向いていないというわけではありません。
体を動かした方がよいこともあります。
というものの、24時間体を動かすような仕事があっているヒトは、この世界にはいません。
私自身、どんな仕事がいいかと尋ねられると、思わず「公務員」と言ってしまいます。
しかし、性格的に事務仕事は合わないという人はたくさんいますし、現場の仕事の方が気楽で性に合っているという人もいます。
公務員は人間関係が難しく、ストレスの多いところかもしれません。
それでも、かなりアレルギーの強い患者が美容師になりたいと言えば、思わず止めることがあります。
美容の専門学校に行き、美容院で下っ端でこき使われて、間違いなく手湿疹がひどくなります。
毛染めやパーマ液で接触皮膚炎を起こし、挙げ句の果てには全身の湿疹でどうすることもできなくなるかもしれないからです。
しかし、頭からすべてを否定するのは好ましいことではなく、結局、その患者の性格・家庭環境などあれこれ考え、他に何か適当なものはないかと思いめぐらしながら、患者と将来を相談することになります。
アトピー性皮膚炎患者が職業を選択する場合、多少とも次のような悪化要因を考える必要があります。
ただ、個人差も大きく、実際やってみないと結果は分からないことも多いようです。
1. ストレスによる悪化
どんな仕事を選ぶにせよ、「ストレスのない仕事はない」と考えられます。実際、精神的なストレスがない仕事はないと言ってよいでしょう。
職場の人間関係は、実際に仕事をしてみないと分からないところがあります。
精神的ストレスは患者の性格に関係していることがあり、患者に向いた仕事の内容を選ぶ方がよいと思われます。
対人関係が好きでない患者が営業や販売の仕事を選んでも、長続きしないことが多いようです。
肉体的なストレス、たとえば十分な休養や睡眠がとれないための疲れなどは、アトピー性皮膚炎にはあまり好ましいものではありません。
夜勤があったり、深夜にまで及ぶ仕事や毎日夜遅くまで働かせられる仕事は、アトピー性皮膚炎に向いた職業とは言えません。
できれば気楽な仕事がよいと思いますが、今の時代、そんな仕事が果たしてあるのかと言われると、そうかもしれません。
2. 接触皮膚炎(かぶれ)や刺激性皮膚炎を起こしやすい仕事
アレルギー体質にドライスキンがあると、手に多少湿疹ができるのは仕方がありません。
これに当てはまるものとしては、まず美容師・理容師があります。
シャンプー作業による刺激性の手湿疹は、この仕事を始めるとすぐに現れます。
しばらくすると、毛染め液やパーマ液などによる接触皮膚炎が出現します。
調理師、コック、板前などでも手湿疹は避けられないようです。
朝食を作れば朝が早く、夜遅くまで店を開けていると、日曜日・祭日の休みもなく、睡眠不足でくたくたになっていることがあります。
手袋をつけていては調理はできず、素手で魚介類を触っていると、魚、貝、エビ・カニなどにアレルギーができてきます。
接触によって蕁麻疹を起こすもの、たとえば、すし職人の魚アレルギーなどは減感作を行うことができます。
食べているうちに自然によくなることもありますが、食べてじんましんがでるようにもなることがあります。
しかし、湿疹型のアレルギーは原因を除去する以外に適当な治療はありません。
アトピー性皮膚炎患者さんは、他でも述べていますように、感染症に弱いところがあり、生肉を触っていると、肉についている細菌が感染することもあります。
水仕事で手に湿疹ができるといえば、主婦の仕事も同じようなものです。
疲れると、休むことができるのはよいところです。
もちろん、いやな姑や小姑がいないという条件はつきます。
手湿疹が刺激性皮膚炎の場合、何年間か後に老化とともに手が慣れてくれば、多少よくなってきます。
しかし、手湿疹がひどくて仕事が続けられないこともあります。
手湿疹に対して、特に毛染め液やパーマ液などの接触皮膚炎のときは、手袋で手を防護しなければなりません。
手袋のラテックスや可塑剤がアレルギーを起こしているときは、それを含まないタイプの手袋にするか、下ばきの綿手袋をつけて上にゴム手袋を重ねて使うしかないかもしれません。
そのほか、化学物質を浴びたり、吸い込んだり、手につく仕事は向いていないようです。
たとえば防腐剤を含んだ糊、ゴム原料、セメント、ペンキなど有機溶剤、強い界面活性剤、機械油などを扱う職業は、単に手湿疹だけでなく、職業性皮膚炎としてアトピー性皮膚炎を悪化させます。
職業性皮膚炎では、まず多いのが強い界面活性剤(業務用洗剤、セッケン)による刺激性皮膚炎です。
仕事で手がひどく汚れたり、機械油がべっとりついていると、強い洗剤は仕方がないかもしれませんが、ある程度そんなものがつかない工夫が必要です。
仕事で触っているものの接触皮膚炎については数え切れないくらいいろんなものがあります。
たとえば、金属アレルギーついていえば、なめし革やセメント、メッキ、ガラスなどに含まれるクロム、安物の金属、メッキ、印刷など用いられているニッケル、同じく安物の金属、レジン、染料、粘土、染料に用いられているコバルトなどがその代表です。
様々な化学物質が体内に入ったときのアレルギー反応については、一種の薬疹・中毒疹です。
高校卒業後、化粧を始めると、それまでなかった顔や頸に湿疹が現れることがあります。
接客業、たとえばステュワーデスや受付嬢などは、会社から化粧することを半ば仕事上の義務のように言われます。
できる限りアレルギー用の化粧品を用いて下さい。
アレルギー用の化粧品とは、
@パラベンなどの防腐剤は含まない、
A無香料、無着色、
B植物や動物由来の天然のものは含まない、
C紫外線吸収剤は使っていない、
D余計な成分は使っていない。
ということです。
化粧の他に、香水、ピアス・ネックレスなどの金属、毛染め・ムースなどの整髪料による接触皮膚炎も問題となります。
確かに、仕事でおしゃれを要求される場合がありますが、装飾品はできる限り自分に合ったものを選ぶことはできるはずです。
中高生以降になると、綿製品でないために、表面が硬いために、制服で直接接触する頸部などに湿疹ができることがあります。
主に衣服表面との刺激性皮膚炎ですが、発汗による刺激、汗で溶けだした染料、防腐剤、柔軟剤などの接触皮膚炎もあります。
OLになって、制服で綿素材のものはありません。
アトピー体質があれば、シャツからはみ出た部分が皮膚に当たれば刺激性の接触皮膚炎かアレルギー性の接触皮膚炎は起きることが多いようです。
そんなものとして対応するしかないかもしれません。
タグは切り取ってください。
ヒートテックはババシャツの上に着て下さい。
その上にブラジャーをつけてください。
3. 吸入性のアレルゲンや化学物質の多い仕事
ほこりの多いところで働くような仕事はアトピー性皮膚炎患者に向いた仕事とは言えません。
家の中のほこりをハウスダストといいますが、この中には、チリダニ(ヤケヒョウヒダニやコナヒョウヒダニ)、カビ、ヒトやペットのふけや皮屑や毛、綿屑、木くずなどいろんなものが含まれ、それぞれアレルギー反応を起こします。
住居の建設・解体、木工所や鋳物工場などは、ほこりの中にいろんな化学物質も含まれています。
一日中排気ガスを浴びるタクシーの運転手、高速道路の料金所職員も避けたいものです。
ほこりだらけのエアコンも要注意です。
ペットの毛を吸い込むトリマー、化学物質を常に吸い込んでいるようなペンキ職人や、金属や樹脂の粉末を吸い込む歯科技工士などは、アトピー性皮膚炎患者にとってあまり望ましくない仕事と言えます。
花粉を大量に吸う可能性がある農業・林業はどうかというと、少し判断に迷うところがあります。
新しく住んでいる環境がよくて、引っ越すことで症状がよくなることもありますが、都会から移り住んだばかりの時は、耐えられないくらいのスギ花粉症を発症したというのもあります。
ビニールハウスの中で大量に農薬や肥料をまいている仕事は、アレルギーだけでなく、内科的にも好ましくないかもしれません。
ただ、必ずしも農業はアトピー性皮膚炎患者に向かない仕事とはいえません。
農薬の空中散布で周辺住民にアレルギー症状が現れることがあります。
アトピー性皮膚炎の他に気管支喘息や鼻炎をもっている患者は、吸入性のアレルギーが問題となる仕事には向いていません。
吸入アレルゲンに対しては、タンパク質などの比較的大きな粒子のときは花粉症患者用のマスクである程度抑えることが出来ます。
しかし、脂溶性の化学物質の場合は簡単にマスクを通過します。ゴムやビニール手袋も通過するかもしれません。
4.汗を大量にかく仕事
一般にアトピー性皮膚炎は、汗をかくとかゆくなります。
そのために、肘窩、膝窩、頸部、腋の下の前後、鼠径そけい部あるいは額部などの汗の多いところの湿疹が悪化します。
特に、汗と皮脂が大好きなカビ(マラセチア・ピティロスポルム)にアレルギーがあるときは、汗をかきはじめるから夏場にかけて、汗のたまるところに湿疹が悪化します。
マラセチアはカンジダなどと同様に、誰にでも多少は持っている常在のカビ(真菌)です。
ステロイド外用剤をカビにつけると、ガビが原因となっている湿疹は一時的に軽くなりますが、免疫が低下するために、その後かえって湿疹の原因となっているマラセチアが増えてしまいます。
汗をかいて、汗部位以外のところに、たとえば背中や四肢外側などに湿疹ができたときはさらに問題です。
汗になれてきてよくならなければ、結局その汗を長く残さない方法を考えるしかないかもしれません。
工事現場監督のヘルメットの下は、常に汗をかいているために湿疹ができやすいようです。
汗部位に湿疹ができやすい小中学生は、いつも汗をかいている仕事をしているようなものです。
しかし、汗をかくことで、皮膚に水分が補給され、皮脂も出て、皮膚がしっとりして逆に湿疹が軽くなることもあります。
ストレスをためてデスクにじっとしている仕事よりは、体を動かして汗をかいている仕事の方がよいようです。
エアコンもなく暑い職場環境は、汗がむしろ皮膚についたアレルゲンを洗い流している可能性もあります。
5. 日光を浴びる仕事
患者の中には、日光で露光部の湿疹が悪化する場合があります。露光部とは、鼻、頬部、鼻唇部の口唇に近いところ、髪の毛がおおっていない額部、耳介上部、首の後ろ、首のVネック部、手背などです。
この中で、特定の露光部にだけ発疹ができるときは、単に日光だけの問題ではないと考えて下さい。
たとえば、紫外線による日焼けを避けるために、遮光クリームを使っていて接触皮膚炎を起こすことも多いと思われます。
このとき遮光剤をつけたところにだけ発疹ができています。
日光過敏が無いときは、日焼けを気にせずに仕事する方がよいかもしれません。保母、幼稚園や小学校の先生などが恐らくこれにあてはまります
。
日光も毎日ある程度当たっていると、多少の日焼けを除けばほとんど症状が現れません。
急に大量に日光に浴びると、日焼けを通り越して強い症状ができる場合があります。
内服している薬剤が紫外線を吸収していることがあります。
使っている外用剤が紫外線で湿疹を作っていることもあります。
朝太陽が上る前に職場に行き、暗くなってから帰宅する現代人は、日常紫外線を浴びることが少なく、たまに紫外線を浴びると、それだけ強く影響を受けます。
ゴルフに行くなら、むしろ毎週行くくらいの方がよいかもしれません。
都市の紫外線は田舎ほど強くなく、どこで紫外線を浴びるかでかなり症状も違います。
紫外線は、諸刃の刃もろはのやいばです。
当たってよくないこともありますが、紫外線はビタミンDを活性化し、夜間のメラトニンの分泌を促して睡眠リズムをつくり、いろんなホルモンの日内リズムに影響を及ぼしています。
アトピー性皮膚炎は海水浴でよくなることもあるのです。
〈参考〉
アトピー性皮膚炎における就職差別
以前より、接客に関係した仕事などで、外に見えるところに湿疹があると、上司あるいは経営者からいろいろな形で差別を受ける傾向があります。
湿疹を完全に治るまで会社には来るなと言われた患者もいました。
顔に湿疹があるのに化粧を強要された患者のために、化粧免除の診断書を書いたこともあります。
同じことは、リクルートの時にも見られます。
不景気で就職困難な時代にあって、アトピー性皮膚炎患者はさらに不利な条件を負っていると考えられます。
本来、病気を理由に差別するのは、法律上または倫理上許されることではありません。
しかし、しばしばアトピー以外の理由に変えて、採用を拒否されることがあります。
アトピー性皮膚炎がひどくて動けない状態になる患者もあり、それがますますアトピー性皮膚炎患者の採用を渋らせているようです。
アトピー性皮膚炎で仕事を休んで通院することに対しても、企業は正しい理解を示していません。
生命に関係のない病気で仕事を休むとは何事かという人事課の対応には、ときどきひとこと言ってみたくなることもあります。
患者には、履歴書にはアトピー性皮膚炎とは書くなと忠告しています。
どうせ生命に関係なければ病気とは考えてないのなら、わざわざ書く必要はないと思います。
顔に湿疹があれば分かるかもしれないと心配するようですが、単なる赤ら顔と言えば、それで通ります。
人事担当者でも、アトピー性皮膚炎をよく知らなければ簡単にはばれないものです。
どうしてもアトピー性皮膚炎と書くしかなく、病気について質問されたら、プラスの回答をする方がよいと思います。
アレルギーを持っているということは人類の中では進化していること、タイガーウッズや元巨人・元ヤンキースの松井秀樹、元サッカー選手の中田英寿だってアレルギーがあること、アレルギーは一種のセンサーとして働き、危険を敏感に察知できること、感受性が強く、他人に対して思いやりがあり、アレルギーがあると腫瘍になりにくく、むしろ長生きすることなどです。
アレルギーがあるということは一種の特殊技能であり、人類の中では進化していることをさりげなく強調しましょう。
アトピー進化論 |
人類は免疫のメカニズムを獲得することで、寄生虫などの感染から自分の体を防御してきたと考えられます。
少しばかり余分なものにまで過剰に反応し、いろんなアレルギー症状が現れているということです。
しかし、それは危険を教える合図でもあります。
早いうちに危険から逃れるために、生き残る確率も高くなっています。
アレルギー患者は、他と比べて感受性が高く、鋭い耳や眼を持ち合わせています。
言語的才能に優れ、語学に極めて秀でています。
音楽や美術的才能についても、突出したものを持っています。
勉強はまじめにやれば必ずできます。
ゲームや携帯ばかりしていてやらなければ、結局ただの人です。
アレルギーは、まさに人類の進化の結果です。
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