アトピー性皮膚炎の乳頭湿疹と
プロラクチン(PRL)


学会報告しましたが、論文になっていません。
遠藤薫他:アトピー性皮膚炎の乳頭湿疹とプロラクチン。第97回日本皮膚科学会総会、1998。


 要旨
1. 入院患者171名(男63名、女108名)について、湿疹の重症度、乳頭湿疹と乳汁分泌の有無、血清PRL、ACTH、コーチゾルなどを調べた。
2. 乳頭湿疹は、男25.4%、女42.6%にみられ、有意に女に多かった。
3. 乳汁分泌は、女10.2%にみられた。
4. 男女とも、乳頭湿疹のある患者で有意にPRLが高くなっていた。
5. 乳汁分泌のあると、有意にPRLが高くなっていた。
6. ACTH、コーチゾル、IgE、LDH、好酸球数と乳頭湿疹の有無の間には有意な相関はなかった。
7. PRLとACTHは、女では有意な相関がみられたが、男ではなかった。
8. 乳頭湿疹は、女では有意に重症患者で多かった。
9. 患者の重症度とPRLには相関はなかった。

目的

 アトピー性皮膚炎の乳頭湿疹の原因としてプロラクチン(PRL)が関与しているかどうか検討した。

対象
 平成3年9月平成10年2月まで大阪府立羽曳野病院皮膚科に入院した15歳以上のアトピー性皮膚炎患者171名(男63名、女108名、平均年齢23.4歳)。

方法

 1. 入院時、患者の顔及び全身の皮疹をグローバル評価法で5段階(0〜4)に評価した。
 2. 診察と患者への問診により乳頭湿疹と乳汁分泌の有無を確認した。
 3. 入院翌朝採血し、PRL、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)、コーチゾルを測定した。
  なおこれらの検査は検査メーカー(三菱化学BCL(株))に外注して行った。
 
 健常人のPRL範囲(ng/ml)
 男 1.5〜9.7、女1.4〜14.6
   
 4. さらに、アトピー性皮膚炎に関係したものとして、IgE、RAST(HD、DPその他)、LDH、白血球数、好酸球数などを院内にて測定した。

結果

 対象患者を表1にまとめた。

表1 対象患者のまとめ
 
     患者数  乳頭湿疹あり  乳汁分泌あり
 男    63名  16名 (25.4%)  0
   中等症以下  6  1  0
   重症  57  15  0
 女    108  46 (42.6%)  11(10.2%)
   中等症以下  27  5  2
   重症  81  41  9
 計    171  62  11

 男の25.4%、女の42.6%に乳頭湿疹がみられた。
 乳頭湿疹はいずれも重症患者に統計的に有意に多くみられた。
 しかし、中等症以下の患者にも乳頭湿疹がみられた。
 乳汁分泌は女のみみられ、10.2%であった。

 
 図1に乳頭湿疹とPRLの関係を示した。



 女は男よりも、統計的に有意に(p<0.001)PRLの分泌量が多くなっていた。
 男女とも、統計的有意に(男p<0.05、女p<0.001)乳頭湿疹のある患者のPRLが高くなっていた。

 図2に女の患者について、乳頭湿疹と乳汁分泌の有無とPRLとの関係を検討した。



 乳汁分泌があれば、乳汁分泌のない群に比して統計的に有意に(p<0.01)PRLが高くなっていた。
 乳汁分泌がない乳頭湿疹のある群でも、有意に(p<0.01)乳頭湿疹のない群に比してPRLが高くなっていた。
 
 図3に入院時の重症度とPRLの関係を示した。



 男女とも、重症度によってPRLの分泌量に有意な差違はみられなかった。
 
 図4に乳頭湿疹の有無とコーチゾルの関係を示した。



 男女とも、乳頭湿疹の有無でコーチゾルに有意な差違はみられなかった。
 
 図5に乳頭湿疹の有無とACTHの関係を示した。



 男女とも、乳頭湿疹のある群がやや高値を示していたが、乳頭湿疹の有無でACTHに有意な差違はみられなかった。
 
 図6に乳頭湿疹の有無と血清IgEとの関係を示した。



 男女とも、乳頭湿疹の有無でIgE値に有意な差違はみられなかった。
 
 図7に乳頭湿疹の有無と好酸球数との関係を示した。



 乳頭湿疹の有無と好酸球数に有意な差違はみられなかった。

 
 図8(省略)に、男女に分けて患者それぞれについて、PRLとACTHをプロットした。
 男の相関係数は0.186で有意な相関は見られなかった。
 女の相関係数は0.320であり、弱い相関がみられ、ACTHが高いと、PRLも高くなっている傾向が見られた。