アトピー性皮膚炎のYG性格検査


遠藤薫:アトピー性皮膚炎のYG性格検査。日本皮膚科学会雑誌、113、945-959、2003

 要旨
 対象は、アトピー性皮膚炎患者504名(男202名、女302名)、健常人164名(男45名、女119名)を対象として、質問紙法で検査を行いました。
 性格検査は、谷田部−ギルフォード(YG性格テストを用いました。

 結果をみますと、男女でかなりの違いがありました。

 男性患者は、健常人男性と比べて、より抑うつ的であり、劣等感と神経質の程度が強くなっていました。
 健常人よりも、情緒が不安定で、閉じこもる傾向がありました。
 女性患者は、健常人女性と比べて、むしろ攻撃性が低く、のんきさが少なくなっていました。
 健常人よりも、優柔不断で、他人の意見に左右されやすく、特に、顔面が悪化すると、人間嫌いで閉じこもる傾向がありました。

 もともと、健常人女性は、健常人男性と比べて、抑うつ的・回帰的であり、劣等感が強く、情緒的に不安定でした。

 男性患者は、女性患者と比べて、より神経質であり、社会的外向性が低く、攻撃的でしたが、のんきさはまさっていました。
 男性患者は、重症になるほど、抑うつ的であり、回帰的となり、社会的外向性が低くなっていました。
 女性患者では、重症度で差違はみられませんでした。

 
血清コーチゾル値が低いほど、男性ではより主観的であり、女性では抑うつ的で神経質になっていました。

 結論として、皮膚症状が性格因子に影響する以上に、性格因子の問題点が臨床経過に重大な影響を及ぼしている可能性があると考えられます。

  はじめに

   「人とうまく付き合いたいのなら、まず相手の性格を知れ」と言われるが、外来でアトピー性皮膚炎を治療するときも同じことがいえる。
 確かに、性格(パーソナリティ)は個人差が大きく、統計的な分析が必ずしも個人の治療に反映できるとは限らない。
 しかし、初対面の患者に対して、どういう性格の患者が多いのかあらかじめ知っていると、時として、役に立つことも多い。
 もしかすると、患者に共通した性格があるかもしれないのだ。
 したがって、初診患者に対しては、接し方、話し方もそんな性格に合ったものから始めることになる。

 一方、患者の性格が症状を悪化させるのか、それとも、悪化した症状が患者の性格に影響を及ぼすのか、興味深いところである。
 これまで、アトピー性皮膚炎患者は健常人と比べて独特な性格を有し、神経質で劣等感や不穏、感受性が強く、攻撃的で抑うつ的と言われている。
 このような不安や抑うつ状態が発疹やかゆみの程度に相関するという報告も多い。
 患者自身も、発疹の悪化したときと軽減したときとではかなり心理状態が違うと述べることが多い。
 また、必ずしも、心理的因子が発疹の重症度と一致しないというという報告もある。
 臨床的に観察していると、第三者からみても発疹がかなり改善されているにもかかわらず、発疹が悪化したときの心理状態が相変わらず続いている患者も少なくない。
 まるでそれが、発疹の悪化する以前から続いていたのではと感じられることもある。
 となると、結局、そのような心理正体は、少しずつ形成されてきた患者の性格の一部に他ならないということになる。

 ただこのような議論は、ニワトリが先か卵が先かというようなもので意味がないといえるが、患者の持っている性格が皮疹の悪化の危険性に関係しているという結果があるなら、それは臨床的にも有意義なことと考えられる。

 これまでアトピー性皮膚炎の発疹形態、臨床経過、治療、検査と関連させて、性格検査を分析した報告は多くない。
 うつ病患者では脳内のCRHや血中コーチゾルが増加し、CRHに対するACTH、コーチゾルの反応性の低下を示すことがある。
 アトピー性皮膚炎患者も、同様な精神的障害と神経内分泌系の異常を示すことがあるという報告がある。
 ステロイドを内服すると、精神変調やうつ状態が誘発されることがあることはよく知られ、薬剤の副作用にも記載されている。

 大阪府羽曳野病院皮膚科では、以前よりアトピー性皮膚炎の入院患者に対して、患者の治療の一環として、報告者がYG性格検査を実施している。

 ここでは、患者と健常人と比較するとともに、重症度や発疹形態に加えて、患者の治療や検査結果(血清LDH、IgE、コーチゾル)とYG性格検査との関連についても検討を加えた。


 対象 

 対象は、1989年〜1998年に大阪府立羽曳野病院皮膚科に入院したアトピー性皮膚炎患者504名、男202名(平均年齢24.0歳、18〜38歳)、女302名(平均年齢23.9歳、18〜38歳)と、年齢を一致させた健常人164名、男45名(平均年齢25.2歳、18〜37歳)、女119名(平均年齢22.7歳、18〜37歳)である。
 アトピー性皮膚炎の診断は、Hanifin & Rajka の診断基準に従って行った。

 対象患者は入院患者より無作為に抽出し、検査趣旨を説明し、口頭で同意を得た。

 健常人は大部分病棟を訪れた見舞客より無作為に抽出したものであるが、女の一部に当院看護婦を含んでいる。
 健常人は、問診でアトピー性皮膚炎と気管支喘息および他の重大な内科疾患の既往のないものを選んだ。

 表1に対象の職業を示した。アトピー性皮膚炎患者では男女とも有意に無職が多くなっている。
 また、男女とも健常人で事務系以外の勤労者が少なく、女では看護婦と学生が多くなっている。
 
表1 対象の職業
 
  無職  主婦  看護婦  公務員  事務系  勤労者(その他)  学生  不明 
 アトピー性皮膚炎                
 男(202) 35  13  66  25  63  0 
 女(302) 55  39  15  16  78  13  72  14 
 健常人                
 男(202) 0  30  12 
 女(302名) 13  21  18  61  0名 
表2.治療経過を考慮した疾患重症度の判定基準
 
  入院2週間後のステロイド外用量(1カ月換算) 
入院2週間後の皮疹  0g/月 5g/月未満  5〜50g/月  50g/月以上  ステロイド内服 
 軽症  軽症  軽症 中等症  重症  中等症 
 中等症  中等症 中等症  重症  重症  重症 
 重症  重症 重症  重症  超重症  超重症 
 超重症  超重症  超重症 超重症 超重症 超重症

 方法 入院患者は、入院時、全身の皮疹をグローバル判定法によって4段階(軽症、中等症、重症、超重症)に重症度を判定した。

 軽症は、顔面に皮疹がほとんどなく、明らかに活動性を示す皮疹が主として四肢間擦部に限局するもので、皮疹面積として全身のおおむね10%未満、
 中等症は、皮疹が間擦部を超えて見られるもので、皮疹面積としては全身の10〜30%、
 重症は、ほぼ全身に皮疹が拡大しているが、かなり健常部位が残っているもので、皮疹面積としては30〜70%、
 超重症は、ほぼ全身にびらん、苔癬化を伴った活動性の皮疹が広がっているもので、皮疹面積としては70%以上とした。

 さらに、入院2週間後に、治療と症状の経過を併せて考慮した疾患重症度を表2のように判定した。
 なお、ステロイド外用量は、判定時に使用している外用量を1カ月に換算したものである。

 顔面の発疹については、入院時、グローバル評価法にて4段階(なし、軽症、中等症、重症)で評価した。
 明らかに炎症を伴った活動性の皮疹の面積が、10%以下を軽症、10〜50%を中等症、50%以上を重症とした。

 入院時、患者の発疹形態で6群(紅斑型、丘疹型、紅斑+丘疹型、貨幣状型、肥厚・苔癬化型、痒疹型)に分類した。
 分類においては、それが主体となっていると考えられるものを採用し、たとえば、顔面が紅斑型、四肢が貨幣状型のときは、顔面は二次的なものと考え、貨幣状型に分類した。

 また、入院がきっかけとなった発疹が初発した時期を問診し、その時から入院までの持続期間を算定した。
 
 入院時、患者それぞれについて、入院直前1カ月のステロイド外用量と入院中のステロイド外用量を検討した。 
 入院前に使用していたステロイド外用量については、当科に通院していた患者はカルテと患者の問診から推測し、他医で治療していたときは、持参したものを確認するか、患者を問診することで推測した。
 外用量はいずれもチューブ剤に換算して計算し、外用剤の種類や強さは考慮しなかった。
 他医で処方されていた容器に入った外用剤については、内容が明らかでないときはステロイドの含有の有無を推測した上で、そのままの量を用いた。

 入院時の血液検査の中で血清IgE値、LDH、コーチゾル値について検討を加えた。

 谷田部・ギルフォード(YG)性格検査は、入院2日目〜1週間目に行い、報告者自身が各自に記入方法を直接説明したのち、自分で記入させた。
 YG性格検査の解釈については、八木敏夫「YGテストの実務の手引き」に従って行った。
 表3に各性格因子の性格特性を示した。

 
表3.性格因子の性格特性
          (八木敏夫YGテストの実務の手引き日本心理研究所より)
 
D  抑うつ的  陰気、悲観的気分、罪悪感の強い性質
d. 充実感、楽観的(自己満足)
D. 無気力、陰湿、虚脱感、(適度な問題意識) 
C 回帰的傾向  著しい気分の変化、驚きやすい性質
c. 冷静、理性的、(欠感情症、冷めている) 

C. 感情的、小心、お天気屋(情緒的)   .
劣等感  自信の欠乏、自己の過小評価、不適応感が強い
i.  自信家(自信過剰、反動形成)
I.  劣等感、優柔不断、自信欠如(向上心、謙虚さ) 
  神経質   心配性、神経質、ノイローゼ気味
n.  安定感、神経質でない(気配りができない、鈍感)
N.  心配性・不安定感、神経質、いらいら・くよくよ(よく気がつく、感受性が強い) 
 O 主観的  空想的、過敏症、主観性
o.  現実的、客観的、常識的(妥協しやすい、信念に乏しい)
O.  空想的、主観的、内閉的傾向、自己中心的(信念が強い) 
 Co 非協調的  不満が多い、人を信用しない性質
co.  人間信頼、開放的人間信頼、現状肯定的(警戒心欠如、主体性欠如)
Co.  対人不信感、警戒心、不満感、閉鎖的人間関係、現状否定的(適度な警戒心)
 
 Ag 攻撃的  愛想が悪いこと、攻撃的、社会的活動性
ag.  消極的、自己卑下、意欲欠如、怒れない(気が長い)
Ag.  積極的、自尊心、主体的、意欲的(攻撃的、短気直情傾向、怒りっぽい) 
 G 活動的  活発な性質、身体を動かすのが好き、
g.  鈍重、非能率的、陰気(温順、順応性)
G.  活動的、快活、敏速性、能率的(自分だけが動く、他人に任せきれない) 
 R のんき  気軽な、のんきな、活発、衝動的な性質
r.  優柔不断、腰が重い(慎重)
R.  気軽さ、行動的、身軽さ、決断力(軽率、衝動的) 
 T 思考的外向  対人的に外向的、社交的、社会的接触を好む傾向
t.   小さなことを考えすぎる、逡巡、懐疑的(几帳面、熟慮的、計画的)
T.  果断、明るい見方、小さなことを気にしない(非熟慮的、無計画、無頓着) 
 A 支配的   社会的指導性、リーダーシップのある性質
a.   追従的、妥協的
A.   指導者意識、集団的行動力(自己顕示、お山の大将) 
 S 社会的外向  対人的に外向的、社交的、社会的接触を好む傾向
s.  非社交的
人間嫌い(地味な人柄)
S.  社交的、人間好き(自己顕示、軽薄、派手好き) 

 統計処理は、Statview ver5.0を用いた。
 各性格因子のアトピー性皮膚炎と健常人の比較は、Mann-Whitnney のU検定を行い、アトピー性皮膚炎の各群間の比較は、分散分析または対応のないt検定を行った。

 結果

 1.対象患者について

 表4に対象としたアトピー性皮膚炎の重症度と発疹分類を示した。

 
 
 表4 アトピー性皮膚炎患者のまとめ

   なし 軽症  中等症  重症  超重症  計 
 入院時湿疹        
 **   31  95  74  202 
 女   10  74  145  73  302 
 疾患重症度            
 **   29  120  52  202 
 女   86  165  43  302 
 顔面重症度            
 男  0 13  85  104    202 
 女  2 37  119  143    301名 
 カイ2乗検定:** p<0.01
 
発疹分類   紅斑 丘疹  紅斑+丘疹  貨幣状  肥厚・苔癬化  痒疹  計 
 男 92  13  36  28  24  202 
 女 212  40  19  21  301名 
 
 入院時の湿疹は、男では、軽症2名、中等症31名、重症74名、超重症74名、女では、軽症10名、中等症74名、重症145名、超重症73名であった。
 治療経過や外用剤の使用レベルを考慮した疾患重症度は、男では、軽症1名、中等症29名、重症120名、超重症52名、女では、軽症8名、中等症86名、重症165名、超重症43名であった。

 入院時湿疹および、経過からみた疾患重症度とも、有意に女より男の方が重症であった。
 発疹形態は、女で紅斑型が多く見られたが、有意なものではなかった。


2.YG性格検査の健常人との比較

 アトピー性皮膚炎と健常人の性格因子の平均値を男女に分けて表5に示した。
 
 表5 性格因子の比較(表内の数値は平均値)  
          
 (アトピー性皮膚炎と健常人の男女別比較)            
 D I  Co  Ag 
アトピー性皮膚炎  9.0 9.1  8.3 9.7** 8.0  6.6  10.6  10.3** 11.4  10.2  10.5  12.3 
健常人  7.0 7.7  6.5  7.1  7.0  6.3  10.8  12.5  12.2  10.1  10.2  13.7 
 女                        
アトピー性皮膚炎  8.6 8.8  7.8  8.4  7.6  5.6  9.3  11.0  10.9  11.5  11.1  13.9 
健常人  8.8 9.5  8.3  8.3  8.0  5.6  10.2  11.1  12.1  11.0  11.2  13.7 
 Mann-Whitney のU検定:p<0.05、** p<0.01

 (アトピー性皮膚炎と健常人のそれぞれの男女比較)            
 D Co  Ag 
アトピー性皮膚炎
9.0 9.1 8.3 9.7 8.0 6.6 10.6 10.3 11.4 10.2 10.5 12.3
8.6 8.8 7.8 8.4 7.6 5.6 9.3 11.0 10.9 11.5 11.1 13.7
 健常人
7.0 7.7 6.5 7.1 7.0 6.3 10.8 12.5 12.2 10.1 10.2 13.7
8.8 9.5 8.3 8.3 8.0 5.6 10.2 11.1 12.1 11.0 11.2 13.7
 Mann-Whitney のU検定:p<0.05、** p<0.01
 
 アトピー性皮膚炎の男は、健常人の男に比べて、情緒の不安定を示す性格因子D(抑うつ的)、I(劣等感)、N(神経質)が有意に高く、G(活動的)が低くなっていた。

 アトピー性皮膚炎の女は、健常人の女に比べて、Ag(攻撃的)とR(のんき)が低くなっていた。

 男女を比較した場合、健常人の女は健常人の男に比して、D、C(回帰的傾向)、Iで有意に高くなっていた。
 アトピー性皮膚炎では、男は女に比して、性格因子N、Ag、Rの数値が高く、S(社会的外向)で低くなっていた。

 表6にYG性格検査の系統樹の平均値を示した。

 
表6 YG性格検査の系統樹(表内の数値は平均値) 
   E系統   C系統   A系統   B系統   D系統 
男   
 アトピー性皮膚炎  2.9 3.6  4.3  4.1  4.9 
 健常人  2.1 4.0  4.0  4.0  5.9 
女           
 アトピー性皮膚炎  2.4 3.9  4.3  3.7  5.1 
 健常人  2.1 3.4  4.8  3.8  4.9 
Mann-Whitney のU検定:p<0.05 
 
 アトピー性皮膚炎の女において、A系統値が健常人の女より有意に低くなっていたが、両群で特に目立った差違は認められなかった。

 YG性格検査のプロフィール判定の結果を表7に示した。
 症例数が少ないこともあり、アトピー性皮膚炎と健常人の間で、男女とも統計的有意差は認められなかった。
 
 表7 YG性格検査のプロフィール判定
    E群   C群    A群    B群    D群  
   E  E'  AE  C'  AC  A'  A''  B'  AB  D  D'  AD 
 アトピー性皮膚炎
 男   8 14  10  12  10  14  13  14  14  31  30  13 
 女  6 17  14  13  25  11  32  12  15  24  50  51  16名 
 健常人
 男  1 13 
 女  1 10  16  17  17  7名 
 
   E群   C群 A群  B群  D群 
 アトピー性皮膚炎
 男  26名(12.9%) 25(12.4)  36(17.8)  41(20.3)  74(36.6) 
 女  30(9.9) 52(17.2)  52(17.2)  51(16.9)  117(38.7) 
 健常人
 男  1名(2.2%) 8(17.8)  6(13.3)  10(22.2)  20(44.4) 
 女  8(6.7) 19(16.0)  30(25.2)  21(17.6)  41(34.5) 
 
3.重症度による分類

 表8に入院時湿疹の重症度とYG性格検査の系統樹および性格因子との関係を示した。
 男の性格因子をみると、超重症群と中等症群がいずれも重症群に比べて情緒の不安定を示し、特にD(抑うつ的)とC(回帰的傾向)において統計的有意差を呈していた。
 さらに、S(社会的外向)も有意に低下し、全体として、D系統の低下と成っている。
 女においては、入院時の湿疹の重症度で有意差は認められなかった。
 
 表8 YG性格検査の系統樹及び性格因子の結果
入院時湿疹の重症度との関係
重症度  E系統  C系統  A系統  B系統  D系統  例数 
 男      
 軽症 症例数が少なく削除 
 中等症  3.0 3.5  4.5  4.0  4.5  31 
 重症  2.4 3.7  4.0  4.3  5.6  95 
 超重症  3.4 3.5  4.6  4.0  4.3  74 
 健常人  2.1 4.0  4.0  4.0  5.9  45名 
 女      
 軽症  1.6 4.8  3.4  3.8  6.9  10 
 中等症  2.5 3.8  4.4  3.7  4.9  74 
 重症  2.5 4.0  4.2  3.8  5.2  145 
 超重症  2.2 3.5  4.7  3.8  4.9  73 
 健常人  2.4 3.4  4.8  3.8  4.9  119名 
 
 D I  Co  Ag  G 
軽症 症例数が少なく削除
中等症 9.9 9.6 8.7 10.1 7.8 6.7 11.3 10.0 10.9 8.9 10.8 11.8
 重症 7.7  8.5  7.4  8.9  7.8  6.3  11.0  11.2  12.1  10.9  11.2  13.6 
 超重症 10.1  9.4  9.2  10.4  8.4  6.9  10.0  9.4  10.7  9.8  9.5  10.7 
 健常人 7.0  7.7  6.5  7.1  7.0  6.3  10.8  12.5  12.2  10.1  10.2  13.7 
 女            
軽症 6.6 6.8 5.9 6.9 6.1 5.3 9.0 12.1 11.5 11.9 12.3 14.0
 中等症 8.4 9.2 7.6 8.4 7.7 5.9 9.7 11.1 11.1 11.2 10.8 13.8
 重症 8.4 8.7 7.7 8.6 7.4 5.5 9.0 11.1 11.0 11.7 11.2 13.7
 超重症 9.4 8.7 8.4 8.3 8.2 5.6 9.7 10.7 10.4 11.5 11.2 14.5
健常人 8.8 9.5 8.3 8.3 8.0 5.6 10.2 11.1 12.1 11.0 11.2 13.7
 表内の数値は平均値、分散分析:p<0.05
 

 さらに、表9に治療の経過も合わせた疾患重症度との関係を示した。
 入院時、患者の症状が不適切な治療のために悪化している場合があり、この疾患重症度でそれを是正している。
 ここでは、男において、Sで有意差がみられ、低かったが、性格因子DとC、D系統で統計的有意差は消失していた。
 
 表9 YG性格検査の系統樹及び性格因子の結果
経過から見た疾患重症度との関係
重症度  E系統  C系統  A系統  B系統  D系統  例数 
 男      
 軽症 症例数が少なく削除 
 中等症 2.6 3.7 4.7 3.6 4.6 29
 重症 2.8 3.6 4.1 4.3 5.1 120
 超重症 3.1 4.9 4.6 4.0 4.6 52
 健常人 2.1 4.0 4.0 4.0 5.9 45名
 女      
 軽症 1.8 4.9 3.4 3.8 6.8 8
 中等症 2.5 3.7 4.4 3.9 5.0 86
 重症 2.5 4.1 4.2 3.7 5.2 165
 超重症 2.2 3.4 4.7 3.9 5.1 43
 健常人 2.1 3.4 4.8 3.8 4.9 119名
 
 D Co  Ag 
軽症 症例数が少なく削除
中等症 9.2 9.1 8.1 10.3 6.9 7.0 11.1 10.3 10.6 8.4 10.0 11.2
 重症 8.7 8.8 8.1 9.4 8.0 6.5 10.7 10.6 11.7 10.4 11.1 13.1
 超重症 9.4 9.4 8.7 9.9 8.7 6.5 10.2 9.6 11.1 10.6 9.7 11.6
 健常人 7.0 7.7 6.5 7.21 7.0 6.3 10.8 12.5 12.2 10.1 10.2 13.7
 女            
軽症 7.0 7.5 6.1 7.4 6.0 5.4 8.4 12.1 11.9 11.4 12.4 13.9
 中等症 8.6 9.2 7.6 8.4 7.8 5.8 9.9 11.5 11.3 11.2 10.9 14.0
 重症 8.5 8.6 7.8 8.5 7.6 5.4 9.0 10.8 10.7 11.6 11.1 13.6
 超重症 9.0 8.9 8.0 8.3 7.6 6.0 9.9 11.0 10.6 11.7 11.4 14.7
健常人 8.8 9.5 8.3 8.3 8.0 5.6 10.2 11.1 12.1 11.0 11.2 13.7
 表内の数値は平均値、分散分析:p<0.05
 
 表10に、顔面の重症度とYG性格検査の系統樹および性格因子との関係を示した。
 男では、有意な相関は見られなかった。
 女では、G(活動的)とSで統計的有意差が認められた。
 両因子とも、中等症群に比して、軽症および重症群で低くなっていた。
 
 表10 YG性格検査の系統別及び性格因子の結果
顔面の重症度との関係
重症度  E系統  C系統  A系統  B系統  D系統  例数 
 男      
軽症 3.2 4.3 3.4 4.3 5.3 13
中等症 2.6 3.5 4.4 4.1 4.9 83
 重症 3.0 3.6 4.4 4.1 5.8 104
 健常人 2.1 4.0 4.0 4.0 5.9 45名
 女      
 なし 症例数が少なく削除 2
軽症 2.8 4.1 4.3 3.5 4.9 37
中等症 2.2 3.7 4.3 3.9 5.3 119
重症 2.6 3.9 4.4 3.7 4.9 143
 健常人 2.1 3.4 4.8 3.8 4.9 119名
 
 D Co  Ag  G
軽症 9.1 6.9 7.6 9.9 9.0 6.5 9.9 9.3 12.0 9.8 10.4 12.2
中等症 8.8 8.9 8.4 9.6 7.0 6.9 10.8 11.0 11.4 9.9 10.4 12.6
重症 9.1 9.5 8.4 9.8 8.3 6.5 10.5 9.9 11.3 10.4 10.6 12.0
 健常人 7.0 7.7 6.5 7.1 7.0 6.3 10.8 12.5 12.2 10.1 10.2 13.7
 女            
軽症 8.1 9.3 8.0 8.6 8.5 6.1 8.8 10.6 10.4 11.5 10.2 12.4
 中等症 8.4 8.6 7.4 8.3 7.3 5.5 9.6 12.1 11.1 11.5 11.7 14.7
 重症 8.8 8.7 8.1 8.6 7.8 5.6 9.2 10.2** 10.8 11.5 10.9 13.5
健常人 8.8 9.5 8.3 8.3 8.0 5.6 10.2 11.1 12.1 11.1 11.2 13.7
 表内の数値は平均値、分散分析:p<0.05、**p<0.01
 
 4.発疹型および発疹の悪化の持続期間による分析

 アトピー性皮膚炎を発疹型で分類した結果を表11に示した。
 男女とも、紅斑+丘疹型と貨幣状型、紅斑型と肥厚・苔癬化型の大きく2つの群に分けられる。

 系統別分類を見ると、男では、紅斑型と肥厚・苔癬化型は、紅斑+丘疹型と貨幣状型、及び丘疹型に比較して、D系統が低く、E系統が高い傾向にあり、精神的な不安定さと行動における積極性の欠如をうかがわせる。
 また、性格因子の分類においても、男では、紅斑型と肥厚・苔癬化型は、紅斑+丘疹型、貨幣状型、丘疹型に比較して、性格因子D(抑うつ的)、I(劣等感)、N(神経質)、Co(非協調的)が高く、Ag(攻撃的)、G(活動的)、A(支配的)、R(のんき)、S(社会的外向)が低くなっていた。

 女では、紅斑型と肥厚・苔癬化型は、紅斑+丘疹型、貨幣状型に比して、Gのみ低くなっていた。

 少なくとも男においては、紅斑+丘疹型、貨幣状型、丘疹型は、性格因子の傾向を見る限り、健常人の性格に近く、これらの皮疹型は成人発症が多いことを考え合わせると、健常人の性格の上に形成された発疹であることを示している。
 一方、紅斑型と肥厚・苔癬化型は健常人とは異なったアトピー的性格と考えることができる。
 すなわち、紅斑型と肥厚・苔癬化型は、性格因子D、I、N、Coが高く、陰気で劣等感が強く、神経質で精神的に不安定で、対人不信感が強く、性格因子Ag、G、A、R、Sが低いことから、人生の意欲に欠けて、他人の意見に左右されやすく、優柔不断で、人間嫌いで閉じこもりやすいといえる。
 
 表11 YG性格検査の系統別及び性格因子の結果
発疹分類との関係

重症度  E系統  C系統  A系統  B系統  D系統  例数 
 男      
紅斑 3.2 3.5 4.6 3.8 4.1** 92
肥厚・苔癬化 3.0 3.0 5.3** 4.0 4.1** 24
紅斑+丘疹 2.4 3.9 3.6** 4.5 6.0** 36
貨幣状 2.0 3.2 4.2 4.6 5.8** 28
丘疹 2.5 4.5 3.4 4.1 6.1 13
痒疹 3.7 4.7 2.7** 4.7 5.4 9
 健常人 2.1 4.0 4. 4.0 5.9 45名
 女      
紅斑 2.5 3.9 4.3 3.8 5.1 212
肥厚・苔癬化 3.1 4.0 4.5 3.5 4.4 21
紅斑+丘疹 2.3 3.7 4.0 3.8 5.0 40
貨幣状  1.7 4.5  4.6  3.9   6.1   19 
丘疹 症例数が少なく削除
痒疹 症例数が少なく削除
 健常人 2.1 3.4 4.8 3.8 4.9 119名
 
 D Co  Ag 
紅斑 9.5 9.4 9.4 10.4 7.8 7.1 10.2 9.5 10.9 9.6 9.2** 11.4
肥厚・苔癬化 9.8 9.3 9.0 11.0 9.5 7.4 9.7 10.5 11.2 9.4 10.7 11.4
紅斑+丘疹 8.6 8.8 6.8 8.3 8.1 6.3 11.3 11.2 11.7 10.4 11.8** 13.4
貨幣状 8.0 9.3 6.8 9.3 7.9 5.8 11.9 11.6 13.0 11.4 12.6** 14.5
丘疹 6.6 7.4 6.9 8.0 7.2 5.7 11.4 9.5 10.9 11.4 11.3 12.0
痒疹 8.8 8.2 8.4 9.0 7.6 5.0 9.3 12.0 12.0 11.3 10.6 12.2
 健常人 7.0 7.7 6.5 7.1 7.0 6.3 10.8 12.5 11.1 10.1 10.2 13.7
 女            
紅斑 8.9 8.9 7.8 8.4 7.8 5.6 9.2 10.8 11.0 11.4 11.0 14.0
肥厚・苔癬化 9.1 8.3 8.7 9.5 8.0 6.4 9.2 9.4** 9.6 11.9 9.7 12.3
紅斑+丘疹  8.4 8.8 8.6 9.2 6.9 5.7 9.4 11.9 11.0 11.4 11.6 14.7
貨幣状 6.3 7.9 6.4 7.6 7.0 4.6 10.1 13.1** 11.1 12.3 11.9 14.4
丘疹 症例数が少なく削除
痒疹 症例数が少なく削除
健常人 8.8 9.5 8.3 8.3 8.0 5.6 10.2 11.1 12.1 11.0 11.2 13.7
 表内の数値は平均値、対応なしのt検定:p<0.05、**p<0.01
注:相互に有意差の見られたところに、
**、をつけたが、重複があり一部省略した。
 
 表12にアトピー性皮膚炎の発疹の持続期間とYG性格検査の結果との関係を示した。

 入院の契機となった発疹が初発してから現在まで持続していた、あるいは繰り返していたことを示す平均悪化期間は、男で11.4年(1〜34年)、女で11.6年(0〜34年)であった。
 この持続期間を5年未満と5年以上に分けると、男では、5年未満が57名、5年以上が139名、不明6名、女では、5年未満が87名、5年以上が211名、不明4名となっていた。
 発疹の持続期間とYG性格検査の関係については、男において、5年以上持続している群で性格因子Coが高く、やや人間不信に陥っていたことを除けば、両群で有意な差違は認められなかった。
 
 表12 現在の発疹の持続期間とYG性格検査との関係
(表内の数値は平均値)
 
  
         
 D Co  Ag 
5年未満 8.5 8.8 8.6 9.4 7.7 5.7 10.7 10.4 11.2 9.8 10.3 12.5
5年以上 9.2 9.1 8.2 9.9 8.2 7.1 10.4 10.3 11.5 10.3 10.5 12.2
 女
5年未満 9.1 9.3 8.0 8.8 7.7 6.0 9.5 10.8 10.6 11.7 11.1 13.7
5年以上 8.4 8.6 7.7 8.3 7.7 5.5 9.3 11.1 11.0 11.4 11.1 14.0
 Mann-Whitney のU検定:p<0.05
 
 表13に、入院直前1カ月のステロイド外用量と入院中のステロイド外用量について一覧した。

 男198名(不明4名除く)のうち、入院直前1カ月のステロイド外用量が0g/月が60名、5g未満/月が40名、5〜50g/月が66名、50g/月以上が16名、ステロイド内服・注射が16名であり、女297名(不明5名除く)のうち、同様にそれぞれ132名、70名、74名、7名、14名であった。

 入院中のステロイド外用量については、男198名のうち、0g/月が42名、5g/月未満が24名、5〜50g/月が69名、50g/以上が52名、ステロイド内服が11名であり、女297名のうち、同様にそれぞれ100名、40名、106名、39名、12名であった。

 いずれも、女の方がステロイドの外用量は少ない傾向が認められた。

 
表13 入院直前1カ月のステロイド外用量と入院後のステロイド外用量


入院直前1カ月の
ステロイド外用量  
 入院中のステロイド外用量
 @(42名) A(40)  B(69)  C(52)  D(11) 
 男 @(60) 39  10 
   A(40)  17  14 
   B(66)  42  20 
   C(16)  14 
   D(16名)  9名 
入院直前1カ月の
ステロイド外用量
 
入院中のステロイド外用量
 @(106名) A(40)  B(106)  C(39)  D(12) 
 女 @(132) 94 18 
   A(70)  29  27  10 
   B(74)  55  15 
   C(7) 
   D(14名)  8名 

@. 0g/月、A. 5g/未満、B. 5〜50g/月、C. 50g以上、D. ステロイド内服 
 
 YG性格検査の性格因子と入院直前1カ月のステロイド外用量との関係を表14に、同様に入院中のステロイド外用量との関係を表15に示した。

 入院直前1カ月のステロイド外用量との関係では、男では、外用量が5g/未満の群と5〜50g/月の群は、ステロイドを外用していない群とステロイドを内服している群に比して、性格因子Ag(攻撃的)が高くなっていた。
 他の因子に統計的有意差は認められなかった。

 
 表14 入院直前1カ月のステロイド外用量とYG性格因子の関係
(表内の数値は平均値)

  Co  Ag  例数 
 男             
 @  9.0 8.9  7.4  9.0  7.7  6.7  10.0  10.6  11.3  10.5  10.8  12.5  60名 
 A  8.8 10.0  8.7  10.5  8.3  7.0  11.8  10.6  12.1  9.8  10.8  12.1  40 
 B 9.0  9.2  8.6  9.9  8.2  6.7  11.1  10.8  11.9  10.1  10.7  13.1  66 
 C 9.1  8.1  8.8  8.9  8.8  6.0  10.3  8.8  11.1  8.9  10.0  11.1  16 
 D 8.6  8.5  8.6  10.4  7.3  6.1  8.6 9.4 10.0 11.6 9.3 11.3 16 
 健 7.0  7.7  6.5  7.1  7.0  6.3  10.8  12.5  12.2  10.1  10.2  13.7   
 女             
 @ 8.9  8.9  8.0  8.4  8.0  5.7  9.8  10.7  11.4  11.6  11.1  14.4  132名
 A 8.5  9.4  7.4  8.7  7.4  5.4  8.9  11.0  10.9  11.2  10.8  13.2  70 
 B 7.9  7.8  7.8  8.3  7.0  5.5  8.7  11.1  9.8  11.8  10.7  13.2  74 
 C 8.6  8.4  5.1  5.6  7.0  4.9  12.3  13.0  12.1  10.1  12.1  16.1 
 D 9.6  9.7  8.3  9.5  8.1  6.1  9.9  11.9  10.9  11.2  12.4  13.7  14 
 健 8.8  9.5  8.3  8.3  8.0  5.6  10.2  11.1  12.1  11.0  11.2  13.9   
 対応なしのt検定:p<0.05、健:健常人
入院直前1カ月のステロイド外用量
@. 0g/月、A. 5g/未満、B. 5〜50g/月、C. 50g以上、D. ステロイド内服
注:相互に有意差の見られたところに、をつけたが、重複があり一部省略した。
 
 入院中のステロイド外用量との関係では、男の場合、ステロイドを内服した群に有意差が見られ、D(抑うつ的)とI(劣等感)が高く、G(活動的)、R(のんき)、A(支配的)、S(社会的外向)において低くなっていた。

 一方、女では、ステロイドを中等量(5〜50g/月)外用している群でAgとSが低く、ステロイドが増えるとこれらの因子は低下している傾向が見られた。
 
 表15 入院中のステロイド外用量とYG性格因子の関係
(表内の数値は平均値)

  Co  Ag  例数 
 男             
 @ 8.4 8.5 7.2* 8.9 7.4 6.7 10.2 10.9* 11.4* 10.5 11.2** 12.3* 42名
 A 8.8 10.2 7.8* 10.5 7.7 6.5 10.5 10.7 11.5 9.0 11.3** 12.2* 24
 B 8.2* 8.6 8.0* 9.0 8.2 6.8 10.7 10.6* 11.4* 10.3 10.6** 13.3** 69
 C 9.8 9.8 9.0 10.6 8.7 6.5 11.4 10.4 12.5** 10.3 10.8** 12.6** 52
 D 12.1* 8.9 11.5* 11.5 7.7 6.7 8.7 7.3* 8.0** 10.5 5.5** 7.3** 11
 健 7.0  7.7  6.5  7.1  7.0  6.3  10.8  12.5  12.2  10.1  10.2  13.7   
 女             
 @ 8.9 9.2 7.9 8.3 8.2 5.9 10.0* 10.9 11.6 11.5 11.2 14.3* 100
 A 8.9 9.1 7.5 8.6 7.6 5.5 9.5 11.2 11.2 11.3 12.0 14.5 40
 B 7.8 8.5 7.6 8.5 7.2 5.3 8.8* 10.9 10.3 11.8 10.5 12.9* 106
 C 9.6 8.0 7.9 8.2 7.2 5.8 8.8 11.1 10.0 11.1 10.7 13.7 39
 D 9.0 8.8 8.9 9.6 7.8 5.2 10.0 11.3 10.7 10.8 12.5 15.8 12
 健 8.8  9.5  8.3  8.3  8.0  5.6  10.2  11.1  12.1  11.0  11.2  13.9   
 対応なしのt検定:p<0.05、** p<0.01、健:健常人
入院直前1カ月のステロイド外用量
@. 0g/月、A. 5g/未満、B. 5〜50g/月、C. 50g以上、D. ステロイド内服
注:相互に有意差の見られたところに、*、**、をつけたが、重複があり一部省略した。

 
 6.検査値による分析

 表16に血清LDH値(当院正常範囲250〜450 U/L)と性格因子との関係を示した。
 血清LDH値は、500 U/L以上を高値、350〜500 U/Lを中等値、350 U/L未満を低値として、分析に供した。

 血清LDH値は本来、発疹の重症度に相関することから、結果は入院時の湿疹との関係を示した表8に一致するものと考えられる。
 しかし、各性格因子との数値傾向はよく似ているものの、表8にみられたD(抑うつ的)、C(回帰的傾向)、S(社会的外向)の有意差は消失していた。
 別に、女において、LDH値が高くなると、有意にR(のんきさ)が低下していた。

 
 表16 性格因子と血清LDH値の関係
(表内の数値は平均値)

  Co  Ag  例数 
 男             
9.0 8.9 8.9 10.1 7.7 6.2 10.4 9.7 10.3 8.6 9.6 10.7 30名
8.1 8.5 7.9 8.8 7.3 6.7 10.5 10.8 11.5 11.0 10.6 13.1 76
9.7 9.7 8.4 10.3 8.8 6.8 10.7 10.1 11.6 9.9 10.7 12.1 95
 健 7.0  7.7  6.5  7.1  7.0  6.3  10.8  12.5  12.2  10.1  10.2  13.7   
 女             
8.2 8.9 7.4 8.2 7.1 5.8 9.5 11.2 11.2 11.6 11.5 13.5 68名
8.7 9.2 7.7 8.7 7.7 5.6 9.5 11.4 11.6 11.6 11.1 14.3 10.3
8.7 8.3 8.0 8.3 7.8 5.5 9.1 10.6 10.1 11.4 11.0 13.8 124
 健 8.8  9.5  8.3  8.3  8.0  5.6  10.2  11.1  12.1  11.0  11.2  13.9   
 血清LDH値:低:低値(350 U/L未満)、中:中等値(350〜500 U/L)、高:高値(500 U/L以上)
分散分析:p<0.05、健:健常人
 
 血清IgE値とYG性格検査の性格因子との関係を表17に、プロフィール判定基準との関係を表18に示した。

 表17では、血清IgE値(当院正常範囲300 IU/ml未満)を300 IU/ml未満、300〜3000 IU/ml、3000 IU/ml以上に分けて分析した。

 IgEが高くなると、男において有意にDが増加し、女では、Rが低下していた。
 
 表17 性格因子と血清IgE値の関係
(表内の数値は平均値)

  Co  Ag  例数 
 男             
9.2 9.1 8.6 9.8 8.1 6.7 10.7 10.2 11.2 10.0 10.4 12.3 142名
8.8 9.5 7.6 9.6 8.2 6.6 10.8 10.5 12.0 10.7 11.1 12.2 46
7.2 7.5 7.4 9.2 7.1 6.0 9.5 11.2 12.3 10.3 10.3 12.2 13
 健 7.0 7.7 6.5 7.1 7.0 6.3 10.8 12.5 12.2 10.1 10.2 13.7
 女             
8.1 8.2 8.0 8.6 7.3 5.7 8.8 10.5 10.1 11.5 10.7 13.2 136名
8.9 9.0 7.4 8.2 7.8 5.3 9.6 11.6 11.4 11.5 11.5 14.6 123
8.9 8.9 8.0 8.5 8.2 6.2 10.1 11.3 12.0 11.6 11.5 14.1 43
 健 8.8 9.5 8.3 8.3 8.0 5.6 10.2 11.1 12.1 11.0 11.2 13.7
 血清IgE値:高:高値(3000 IU/ml以上)、中:中等値(300〜3000 IU/ml)、低:低値(300 IU/mL未満)
分散分析:p<0.05、健:健常人
 
 表19に血清コーチゾル値と性格因子との関係を、表20にプロフィール判定との関係を示した。

 血清コーチゾル値(当院正常範囲4〜16μg/dl)は、6μg/dl未満、6〜16μg/dl、16μg/dl以上の3つの領域に分けて検討した。

 男では、コーチゾル値が低くなると有意にO(主観的)が高くなっていた。

 
女では、コーチゾル値が低くなるとDとI(劣等感)が増加していた。
 
 表18 性格因子と血清コーチゾル値の関係
(表内の数値は平均値)

  Co  Ag  例数 
 男             
8.5 8.7 7.5 9.7 6.6 5.9 11.0 11.2 10.6 9.8 10.6 12.2 33名
9.0 9.2 8.5 9.5 8.0 6.9 10.4 10.0 11.3 10.3 10.3 12.1 89
9.3 9.4 8.4 10.1 8.9 6.7 10.8 10.3 11.7 9.9 10.7 12.5 75
 健 7.0 7.7 6.5 7.1 7.0 6.3 10.8 12.5 12.2 10.1 10.2 13.7
 女             
7.7 8.7 7.6 8.4 7.0 6.4 10.1 10.9 10.5 11.4 11.1 14.2 40名
8.3 9.3 7.4 8.2 7.4 5.1 8.9 11.1 10.7 11.7 11.2 13.7 176
9.6 9.4 8.8 9.0 8.3 6.3 9.8 10.8 11.2 11.0 11.0 14.2 82
 健 8.8 9.5 8.3 8.3 8.0 5.6 10.2 11.1 12.1 11.0 11.2 13.7
 血清コーチゾル値:高:高値(16μg/dl以上)、中:中等値(6〜16μg/dl)、低:低値(6μg/dl未満
分散分析:p<0.05、健:健常人
 
 7.結果のまとめ

 以上の結果をわかりやすいように表21にまとめた。

 アトピー性皮膚炎の男は、健常人より情緒が不安定で、日常生活の活動性に欠け、自分の中に閉じこもったり、人間嫌いとなる傾向がある。

 アトピー性皮膚炎の女は、もともと男より情緒的に不安定であり、アトピー性皮膚炎があるなしにかかわらず、情緒的には健常人の女と変わらない。
 アトピー性皮膚炎の女は、情緒の不安定さに加えて、健常人の女に比べて優柔不断で他人の意見に左右されやすく、他人の意見が治療に反映される可能性がある。
 さらに、女はのんきさに欠け、決断力の低下や物事に慎重すぎる傾向も示している。

 発疹の重症化は、男では抑うつ的で気分が変わりやすく、人間嫌いの傾向を招くと考えられるが、中等症で入院を希望するような患者もまた情緒的に安定していない。
 臨床経過を考えた疾患重症度をみると、女では、全身の重症度では性格因子に差違はなく、顔面が悪化すると人間嫌いで閉じこもる傾向が出現する。
 ただ、男の入院時の重症度と同様に、顔面が軽症群でも低くなっていた。

 貨幣状や丘疹型のアトピー性皮膚炎は、おそらく成人期、性格が形成されてから皮疹が出現したために健常人の性格に近いものを持っている。
 一方、紅斑型と肥厚・苔癬化型の男は、ある意味で典型的なアトピー性皮膚炎の性格を持ち、精神的に不安定で、対人不信感が強く、人生の意欲に欠け、他人の意見に左右されやすく、優柔不断で、人間嫌いで閉じこもりやすい。
 ただ、これらのことは、女では活動的でないことを除けば健常人と差がない。
 
 表21 YG性格検査の結果のまとめ
     男  女  
     高い 低い  高い  低い 
アトピー性皮膚炎  健常人より   DIN   AgR 
 健常人女  健常人男と比べて      DCI  
 アトピー性皮膚炎男  女より  NAgR    
 入院時、超重症、中等症 重症より  DC  SD系統     
 疾患重症度、超重症、中等症  重症より    S    
 顔面軽症重症  中等症より        GS
 紅斑型、肥厚・苔癬化型  他の発疹型より DINCoE系統  AgGRASD系統     
 臨床経過  長い  Co      
 入院前ステロイド  なし   Ag     
   ごく少量  Ag      
   大量      Ag  
   内服    Ag    
 入院中ステロイド  中等量        AgS
   内服  DI GRAS     
 LDH高値 低値、中等値より         R
 IgE高値  低値、中等値より    D    R
 コーチゾル低値  高値、中等値より  O   DI   
 
 臨床経過が長くなると、男では、対人不信感、すなわち医師不信感が強くなる。
 しかし、ステロイドの外用を中止した患者及びステロイドの内服・注射をしていた患者では、男では、むしろ消極的で意欲に乏しく、ここでも他人の意見に影響をうけやすいことが示唆される。

 また、入院中のステロイドとの関係をみると、女では外用量が多いほど、自己を卑下して意欲に欠け(すなわち主治医の意見に従順)、人間嫌いの傾向がみられたが、男では、外用量との関連は認められなかった。

 また、男において、入院中ステロイドの内服した患者は、そうでない患者に比べて、情緒が不安定で、優柔不断で活動性に欠け、妥協的で人間嫌いであった。
 女では、ステロイド内服による差違は認められなかった。

 検査値との関連では、血清LDH値、IgEとも、それらが高いと、女では、のんきさに欠ける傾向があり、男では、IgE高値の患者で抑うつ的傾向が見られた。

 コーチゾルが低値になると、男では、空想的でささいなことで精神的に影響を受けやすくなり、女では、抑うつ的で劣等感が強くなっていた。

 
かんがえ

  アトピー性皮膚炎の性格を見ると、情緒的な不安定さが健常人より強いのは男であり、一方、女はもともと男より情緒的に不安定であり、健常人と差違はない。
 このことは、少なくとも、女では、アトピー性皮膚炎があるからといって情緒の不安定になるわけではないことを意味している。
 とすれば、男で見られた情緒の不安定さは、アトピー性皮膚炎が悪化したからではなく、女と同様に、もともと情緒が安定していないために湿疹が悪化したとも考えることができる。
 男で見られる活動性の低下、女の主体性の欠如や優柔不断さについても同じことがいえる。

 男において、超重症と中等症でそれらの中間の重症患者に比して、性格因子に有意差がみられたものの、臨床経過を考えた疾患重症度において情緒の安定性に関係した因子に有意差が見られなくなったことから、逆に情緒の不安定性がより一層の皮疹の重症化を招いていた可能性が推測される。

 また、性格因子の違いが、発疹の重症度以上に発疹の形態でみられたということは、アトピー性皮膚炎患者の性格(パーソナリティ)が疾患特有の本来持ち合わせているものと解釈される。

 そうはいうものの、性格が先か、症状が先かの議論に決着がついたかといえば、決してそうでもない。
 たとえば、入院前までステロイドの外用を中止していた患者やステロイド内服・注射をしていた患者は、他の患者と比べて、積極性や意欲に欠け、他人の意見に影響されやすいところが見られた。
 とすれば、そのような治療を選択させたのは患者自身ではなく、患者家族かマスコミ、それまで治療していた医師ということになる。
 しかし、入院中ステロイドの内服をした患者で現れた性格因子の変位をみると、発疹の悪化とそれに続く治療が、たとえ外用剤といえども、患者の性格に影響を及ぼした可能性は完全に否定できない。

 パーソナリティは、人の行動は時、場所、状況に関係なく、一貫性と独自性が認められるものと規定されている。
 その意味でパーソナリティは簡単に変化するものではないが、その安定性が加齢によって損なわれるような性格特性もあると言われている。
 社会的学習理論の立場から、パーソナリティは特殊な刺激状況に結びつけられた反応傾向の集積結果であるとする意見もある。
 このことは、アトピー性皮膚炎という病態が生下時より患者の人生につきまとっていれば、患者の性格を形成する重要な要素になりうることを示している。
 一方、一卵性双生児における類似性から、パーソナリティの遺伝的要因を重要視する意見がある。
 日常診療において、アトピー性皮膚炎患者に共通した性格を感じることも多く、アレルギーの遺伝的要因に関係したパーソナリティ(いわゆるアトピー性格)が存在する可能性もある。

 以前より、うつ病患者などで、視床下部−下垂体−副腎皮質(HPA)系に異常が見られ、CRHやコーチゾルが増加していると言われる。
 一方、強いストレスにさらされたPTSD患者では、コーチゾルによるnegative feedback が亢進しているために、コーチゾルはむしろ低下している。
 アトピー性皮膚炎患者もまた軽いうつ状態になりやすく、CRHに対するACTHやコーチゾル分泌の反応性が低下しているという報告もある。
 今回の報告では、コーチゾルが低くなっていると、男では回帰的傾向が強くなり、女では、抑うつ的で劣等感が強くなるというような情緒の不安定性が見られた。

 IgE高値の患者で、男において抑うつ的傾向が女ではのんきさの欠如が見られたことについては、免疫系と神経系が連繋していることを示していると考えられるが、詳細は明らかでない。

 前述したように、今回のYG性格検査は入院患者に対して行われるルーティン検査であり、本来研究を目的として実施されたものではない。
 むしろ、患者の性格を医師や患者自身が捉えることで、患者の治療に反映され、患者の精神面のフォローとなり、患者とのコンプライアンスが向上することを目的としたものである。

 ロールシャッハテストやTATテストなどとは異なり、YG性格検査は分かりやすく、患者自身でも理解できる性格検査である。
 実際、この検査は会社の人事課などで広く用いられ、皮膚科医が日常診療で患者の性格を把握し、患者の精神的要素を患者と話し合う上で非常に使いやすい検査である。
 多数の被験者をごく短時間で検査することが可能であり、そのデータを統計処理することもできる。
 確かに、質問紙法では検査の意図が分かってしまうために、患者が虚偽の解答をする可能性はあるが、結果を直接患者に説明することをあらかじめ患者が知っていると、偽りの解答は少ない傾向はある。
 むしろ、同じように後で結果を説明するとしながらも、自分をよく見せたいという気持ちから、対象で用いた健常人のデータの方が信用できない可能性がある。
 また、投影法と異なり、被験者の意識下のものや、意図的に隠されたものを明らかにすることはできないが、投影法における信頼性や妥当性の問題はない。

 アトピー性皮膚炎に対してYG性格検査を施行した報告はいくつか見られる。
 しかし、いずれも対象数が少なく、十分な統計分析を行うまでに至っていない。
 今回の報告でも、患者と健常人の仕事や知的レベルが一致せず、また患者数が少ないためにプロフィール判定、突出因子、矛盾因子なども検討することができなかった。
 ただ、統計的に平均してしまうとあまり大きな差がないことが明らかになった。
 このことは、性格検査を臨床で生かす場合、結局個人差の方を重要視する以外にないことを示している。

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