16.アトピー性皮膚炎と遺伝 アトピー性皮膚炎と遺伝について、統計解析したものを報告したことがあります。 下記の学会報告を参考にして下さい。 遠藤薫、青木敏之他:アトピー性皮膚炎における両親のアレルギー調査。第91回日本皮膚科学会総会、1992。 双子のアトピー性皮膚炎についても何度も報告しています。下の学会報告はその中の症例報告です。 遠藤薫、吹角隆之、足立準、小島益子、青木敏之 : アトピー性皮膚炎の双子例。皮膚、34巻、212-216、1992 遠藤薫他:9年間経過をみた一卵性双生児のアトピー性皮膚炎の一例。第11回日本アレルギー学会春季臨床大会、1999。 (平成12年5月14日、ラジオ大阪「アレルギー診察室」より) (アトピー性皮膚炎は両親から子供に病気が伝わる、つまり遺伝する病気と言われています。今日は、アトピー性皮膚炎と遺伝についてお話しをうかがいたいと思います。) 現在いろんな病気で様々な遺伝相談が行われていますが、アトピー性皮膚炎でも遺伝するかどうか、外来でよくたずねられます。 (たとえばどんなケースがありますか?) いろんなことを尋ねられますが、中でもお父さんやお母さんがアトピー性皮膚炎のとき子供はどうなるか、お兄ちゃんやお姉ちゃんにアトピー性皮膚炎があるとき弟や妹はどうかという質問が多いようです。 ただし、アトピー疾患、つまりアレルギーの病気には、アトピー性皮膚炎の他に、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、蕁麻疹などがあって、これらをひとまとめにして遺伝するかどうか考える必要があります。 (わたしに花粉症があるとき、遺伝して子供にアトピー性皮膚炎が出てくるかもしれないということですか。) まあ、簡単に言えば、そういうことになりますか。 ある人は、両親の片方にアトピー疾患があると、子供がアトピー疾患になる確率は2倍になり、両親ともアトピー疾患があれば、子供がアトピー疾患になる確率は4倍になると報告しています。 また、アレルギーは子供の大体20%くらいといわれていますが、両親の片方にアトピー疾患があるとそれが50%くらいになり、両親ともアトピー疾患があると、子供にアレルギーがある割合は66%にもなるという報告もあります。 (ということは、お父さんやお母さんにアトピー性皮膚炎があっても、子供さんは全員アトピー性皮膚炎になるわけではないということですか?) そのとおりです。 両親ともアトピー性皮膚炎があっても、子供に湿疹がないことも結構よくあります。 (逆に、両親にアトピーの病気がなくても、子供がアトピー性皮膚炎になる場合があるということでしょうか。) アトピー性皮膚炎の子供からみると、大体3分の1に両親ともアレルギーがないといわれています。私たちも、10年くらい前に、赤ちゃんの両親のアトピー疾患があるかどうか調べたことがありますが、両親の大体30%程度は全くアトピー疾患がありませんでした。 (それでは、アトピー性皮膚炎は必ずしも遺伝が原因ではないということですか。) いいえ、そうとも言えません。 昔から病気が遺伝と関係があるか調べる場合、双子の研究がしばしば使われます。 デンマークでは双子の子供がすべて登録されています。 そこでの報告によりますと、一卵性の双子の場合は、両方ともアトピー性皮膚炎になるのは80%くらいですが、二卵性の双子では大体30%くらいといわれています。 (とすると、やっぱりアトピー性皮膚炎は遺伝が大事ということですか。) さあ、どうですかね。同じ遺伝子を持っていて、同じところで住んで、同じような食事をしていると、一卵性の双子の片方がアトピー性皮膚炎になると、もう一人もアトピー性皮膚炎にかかりやすいことは確かですが。 (一卵性の双子を別々に育てると、どちらか一方の子供がアトピー性皮膚炎にならないことがあるということですか?) 一致しないという報告もありますが、やっぱり二卵性の子供とくらべて、別々に育てても両方ともアトピー性皮膚炎になるのは一卵性の方が高くなると言われています。 (とすると、わたしにアトピー性皮膚炎があると、子供はやはりアトピー性皮膚炎にかかってしまうのでしょうか?) 子供の遺伝子は23対の染色体の上に乗っていますが、半分はお母さんからもらっていますが、もう半分はお父さんからもらったものです。 お母さんにアトピー性皮膚炎があるからと言って、子供が全員アトピー性皮膚炎になるわけではありません。 (それでは、アトピー性皮膚炎の遺伝の仕方はどんな風になっていますか。) アトピー性皮膚炎の遺伝形式は、優性遺伝という意見が多いようですが、劣性遺伝だというひともいます。 優性遺伝はアトピー性皮膚炎になる遺伝子を持っていると必ずアトピー性皮膚炎になるような遺伝です。 また、劣性遺伝は遺伝子を染色体の一方だけに持っていても、症状が現れないもので、2本の染色体の両方に遺伝子があると症状となって現れます。 しかし、アトピー性皮膚炎はこんな単純な1個の遺伝子によるものではなく、いろんな遺伝子が関係する多因子遺伝だという意見の方が多いようです。 また、遺伝子を持っていても、必ずしも症状となって現れるとは限りません。 (それはどういうことですか?) アトピー性皮膚炎の遺伝子を持っていても、必ずアトピー性皮膚炎になって現れるとは限らないと言うことです。 遺伝子があっても、その後どんな風な症状が現れるかは、いろんな意味で本人の問題が結構関係しているということです。 つまり、たとえば、生まれてからどんな病気にかかったのか、どんなところに住んでいるのか、どんなものを食べているのか、どんな生活をしているのかなど、いろんなことが、発症に関係しています。 アトピー性皮膚炎になりやすいという体質は確かに遺伝しているかもしれませんが、本来乳幼児期を過ぎると、成長することで自然に症状はよくなるものです。 もしかすると、ほとんど気がつかないくらいの症状が出ただけで、おしまいということもあります。 (わたしにアトピー性皮膚炎があっても、あまり心配することはないのかもしれませんね。) うちの皮膚科にずいぶんたくさんのアトピー性皮膚炎の赤ちゃんがやってきますが、1歳を過ぎてクスリをぬらなければならないような患者さんは、せいぜい10人に一人くらいです。 赤ん坊の湿疹は、病気にかかりやすいとか、よだれが多いとかいった、結局子供という免疫がまだできあがっていない年齢が原因である場合が多いようです。 ただ、乳幼児期を過ぎてもアトピー性皮膚炎がよくならない場合は、なぜよくならないのか調べることも必要です。 (アトピー性皮膚炎は卵が原因といわれていますが・・・) 確かに、生後4,5カ月の患者さんを検査すると半数以上に卵アレルギーが見つかります。 しかし、まだ卵を食べたことがなく、ミルクを飲んでいる子供の湿疹を、卵が原因とはいえません。 その意味で、赤ちゃんにアトピー性皮膚炎の症状が現れるということと、卵アレルギーがあるということは、必ずしも一致するとは限りません。 (どうもよくわかりませんね。わたし自身、アトピーという言葉とアレルギーという言葉で混乱しています。) 1920年ころドイツのザルツバーガーという偉い人が、アレルギーがあって直りにくいかゆい病気をアトピー性皮膚炎という名前をつけたのですが、このアトピーというのは、ギリシア語で正常の位置にないということです。 その後、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎などをひとまとめにしてアトピー疾患と呼んでいます。 アレルギーは、簡単に言えば、いろいろなものに対してIgEという抗体ができたりすること、また何かを吸い込んだり、食べたり、接触したりすると、喘息や蕁麻疹や湿疹ができることを表しています。 (つまり、アレルギーとアトピーが同じ言葉ではないとすると、アレルギーのないアトピー性皮膚炎もあるということですか。) 全くそのとおりです。 アレルギーをIgEという抗体があるかどうかで言えば、4人に一人くらいはアレルギーのないアトピー性皮膚炎です。 もしかすると、湿疹ができやすいというアトピー体質と、いろいろなものにアレルギーあるということは、別々に考えた方がよいかもしれません。 (それじゃあ、アレルギーも遺伝するということでしょうか?) それはよい質問です。 本当のことをいうと、このIgEというアレルギーを起こす抗体に関係したことが、一番よく研究されています。 たとえば、11番の染色体にアトピー遺伝子が見つかったという報告がありますが、それはこのIgEに関係した遺伝子らしいものが発見されたということです。 IgEという抗体は、アレルギーの原因として、アトピー性皮膚炎だけでなく気管支喘息やアレルギー性鼻炎などでも高くなります。 その意味で、IgEの遺伝子はアトピー性皮膚炎の遺伝子というよりも、IgEという抗体が関係したアレルギーの遺伝子に過ぎないのかもしれません。 (それでは、アトピー性皮膚炎の症状に関係したことでの遺伝となると、いまのところ、あまりよくわかっていないということでしょうか。) アトピー性皮膚炎は遺伝する病気というのは確かですが、アトピー性皮膚炎場合、一体何が遺伝するのかと言う問題があります。 アトピー性皮膚炎の体質、つまり、油分の少ない乾燥したかさかさした肌なのか、汗をかいたり暖まったりするとかゆくなるところなのか、全身のあちこちにかゆい湿疹ができるところなのか、それとも、IgEというアレルギーの原因になる抗体を作りやすいところなのか、今ひとつはっきりしていません。 ところで、話は変わりますが、現在、ごく軽いものを含めると、生まれてくる子供の大体30%くらいに湿疹ができてきます。 気管支喘息なども含めると、50%にもなるといわれています。 成長してでてくるアレルギー性鼻炎などを含めると、かなりの割合になります。 そういうわけで、もしかすると、人類全体がアトピーの遺伝子を持っている可能性もあります。 (そうすると、わたしにアトピー性皮膚炎があっても、そう深刻に考えることはないのかもしれませんね。) Copyright © 2003 Endou Allergy clinic All Rights Reserved |