10. 食事制限のやりかたと再開の方法
論文報告(食物アレルギーを伴った乳幼児アトピー性皮膚炎の制限された食物の解除の方法と問題点)も参考にして下さい。 目次 1. 離乳食の始めかた 2. 食物制限の解除のやりかた *卵制限解除の注意事項 *卵制限解除のやり方 食物アレルギーは患児ごとにかなりの個人差があります。 卵アレルギーが最も多く見られますが、その他、牛乳、小麦、大豆、魚、肉類などにアレルギーがある場合もあります。 食物アレルギーが全くないアトピー性皮膚炎も、かなりたくさん認められます。 1歳児で卵白RAST値陽性(0.70 Ua/ml以上)は60%程度、全卵皮内テスト陽性は大体70%くらいです。 乳幼児では、卵白RASTが陰性で、他の食物のRAST値が陽性になる患者は5%以下です。 20%近い乳児アトピー性皮膚炎患者は食物アレルギーを持っていません。 その意味で、不必要な食事制限をやみくもに行うのは好ましいことではなく、患者のアレルギーの有無を検査して行うべきであると考えられます。 卵白に対するRAST値は、離乳食前の生後3〜4カ月ですでに60%が陽性(0.70Ua/ml以上)になっています。 7〜8カ月には最大となり、陽性は20%を越えますが、その後少しずつ減少します。 1歳以下の乳児では、月齢によって食物に対する陽性率が異なります。 卵白RAST値は、多くは離乳食が始まる前の生後3、4カ月ですでに陽性になっています。 生後7、8カ月まで陽性になる患者はさらに増えます。 しかし、それ以降に卵白RAST値が初めて陽性になる患者はそれほど多くありません。 卵白以外の食物は陽性になる月齢は、卵白よりもいくらか遅く、多くは生後4、5カ月を過ぎてから初めて陽性になります。 血清IgE値が高く、卵白以外のRAST値が陽性になる患者は、症状も強くなるようです。 また、重症患者ほど多数の抗原に陽性になり、数値も高くなります。 卵もそうですが、しばしば問題となる食物を食べる前に検査が陽性になっています。 離乳食を食べ始めると、陽性域にまで達しなくても、食べ始めた食物のRAST値が幾分上昇する傾向があります。 たまたま検査して、その食物のRAST値が陽性になっていることに気がつくことがあります。 ほとんどの患者はその食物を食べても症状が現れません。 多くは、食べ続けていると、その数値は次第に下がって来ます。 しかし、数値がかなり高いと、食べてほとんど症状がなくても、それを含んだよだれが顔につくと、赤くなったり、かゆくなることがあります。 加工品は問題なくても、現物や生のもので症状が現れることもあります。 感冒や下痢のとき、食べると症状が現れることもあります。 食物のアレルギーは、多くの場合、それに含まれるタンパク質が原因になっています。 タンパク質が胃腸で正常に消化、分解され、アミノ酸となって吸収されれば、アレルギー反応は起こりません。 消化が不十分で、タンパク質のまま吸収されるとき、アレルギーが起こります。 乳幼児は腸管の発達が未熟であるために、かなり多くの未消化のタンパク質が腸管を透過します。 その量は、下痢などで腸管の状態がよくないときには増加します。 また、タンパク質は口腔粘膜や皮膚からも体内に入り、顔が赤くなったり、目の周りが赤く腫れたりします。 かゆみを伴って全身に蕁麻疹様の紅斑が現れることがあります。 卵の加工品を手づかみで食べて、その触った手で眼を触ると、眼が腫れ上がります。 一般に、乳幼児アトピー性皮膚炎患児に対して、卵などの食物を制限をするのは簡単です。 むしろ制限した食物を食べさせる方が難しいと思われます。 患者の年齢によって、同じレベルの検査の数値でも、制限を解除できるときとできないときがあります。 たとえば、卵白RAST値が、 生後4ヶ月で 1.00 Ua/ml と 2歳で 1.00 Ua/ml を 同じように考えてはいけません。卵を食べた場合、乳児の方がはるかに強く症状がでる傾向があります。 また、IgE-RIST値が低いほど、RAST値が陽性の食物は、ほんの少し摂取しても強い症状を起こすことがあります。 また、乳幼児のRAST値は非常に短期間で上下する傾向があり、わずか1ヶ月以内で、10倍以上に増加することも珍しくありません。 検査値(RAST)が陽性というだけの理由で、いたずらに完全制限を続けるのは好ましいことではありません。 制限を続けると、その食物が嫌いになることもあります。 RAST値が多少陽性になっていても、食べて症状がなければ、精神・身体の発達、食事制限による日常生活の様々な不都合を考えて、無駄に食事制限はしないように指導しています。 また、日常、誤って制限しているものを摂取して(祖父母やよその子供が知らずに卵製品を与えたような場合)、アナフィラキシーショックや全身の蕁麻疹が起きることがあります。 そんなアクシデントを防止するためにも、できれば幼稚園などの集団生活の始まる前に、食事の制限は出来るだけ解除しておきたいものです。 再開の時期と方法については、できるだけ主治医に相談してください。 繰り返しますが、完全制限している食べ物、それまで食べたことがない食べ物をいきなり大量に食べさせるのは非常に危険です。 食物アレルギーがある場合、一般に完全に制限しているほど、誤って食べたとき強い症状が出る傾向があります。 従って、醤油などからごく微量をいつも食べている大豆などは症状が出にくいようです。 また、白身魚やシラスなども離乳食のはじめから比較的毎日食べているために、検査が陽性でも症状が出にくいようです。 いずれにせよ、食事制限は最小限に留め、「食べていないから食べられない」という状態にはしたくないと考えています。
1.離乳食の始めかた アトピー性皮膚炎で来られた患者に対しては、生後8〜12カ月程度までは、検査所見のレベルに関係なく、卵の完全制限を指示しています。 ソバは、症状がでたとき乳児期は対処が難しいために、完全に制限するように指導しています。 乳児アトピー性皮膚炎の離乳食は、湿疹の程度にもよりますが、生後5〜6カ月になると、タンパク質の少ないものから開始し、徐々に量と種類を増やしていきます。 原則として、初めて与える食品は、できれば加工品をごく少量まず食べさせ、2,3時間様子をみて、安全性を確かめた方がよいと思われます。 その後、時間間隔を置いて、徐々に増やしていくのがよいと考えられます。 特にタンパク質が多く、現物しかない食品(たとえば小麦や魚など)は、アレルギーの可能性があれば、細心の注意が必要です。 離乳食の順序としては、タンパク質が少なく、アレルギーが起こりにくいものから、 果汁→米・野菜・いも類→大豆→小麦→魚・肉→牛乳→卵 が、一般的です。 検査で陽性になっていれば、その食物を開始する時期は遅くなります。 当然順序も違ってきます。 現物は与えず、加工品までということもあります。 野菜や果物でも発疹が出やすいものと、そうでないものがあります。 たとえば、針状結晶をもった食物(ヤマイモ、サトイモ、パイナップル、キーウィ)、皮膚刺激の強いもの(塩辛いものなど)などは、口囲にかゆみや湿疹を生じやすいようです。 大豆はタンパク質だけでなく、油脂にもアレルゲンが含まれるといわれます。 普通は味噌汁の上澄みから始め、次に脱脂した原料で作られた豆腐へと進めます。 油脂を含んだ豆類をそのまま、たとえば、納豆、ピーナッツ、チョコレートを乳児期早期から与えるのは好ましいことではありません。 納豆は細菌アレルギーがあるとき、最初のころは要注意ですが、わざと細菌を体内にいれてアレルギーを押さえる免疫をつけさせるために、納豆やヨーグルトを与える場合があります。 ミソなどの発酵食品についても同じことがいえます。 小麦は、最初に与えるものとしては、薄力粉を原料としたうどんなどの方が無難なようです。 小麦は、アレルギー検査が陽性のとき、適当な加工品がないために制限解除が難しい食品です。 牛乳アレルギー患者には、牛乳を蛋白分解酵素で分解したアレルギー用ミルク(ニューMA-1、MA-1・mi、ミルフィーHP、他)、完全な合成製剤(エレメンタールフォーミュラ605Z)などがあります。 アレルギー用ミルクのために患者の便が軟らかくなることがあります。 慣れるまでやや薄めにして与えるのがよいと思われます。 飲んで下痢が続くときは、他の種類に変更した方がよいでしょう。 牛乳アレルギーは母乳栄養の患者に多く、生まれたときから普通の人工乳を飲んでいる患者には少ないという報告があります。 母乳に影響がないなら、最初から混合栄養(ミルクを多くすると母乳がでにくくなることがあります)で育てるのもよいかもしれません。 牛乳アレルギーがない患者にわざわざアレルギー用ミルクを与えるのは理屈に合いません。 母乳に比べて飲んでおいしいものではありませんし、余分な出費にもなります。 嫌がって頑固に飲まない子供もいます。 離乳食を食べ始めると、あまり間隔を開けて与えない方がよいと考えられます。 間隔が開きすぎると、それで感作されてアレルギーが生じ、次に食べたとき症状が現れることがあります。 小児科でよくいわれる回転食は、ある程度の間隔で食物を食べるようにということも示しています。 米アレルギーが非常に少ないのは、いつも米飯を食べているからです。 2.食物制限の解除のやりかた 前述しましたように、アトピー性皮膚炎の食事は、制限するよりもむしろ食べさせる方がはるかに難しい傾向があります。 食べて症状がでるかどうかの誘発試験は、完全制限していれば多くの場合陽性になり、制限解除の参考にはなりません。 むしろいきなり大量に食べさせて強い症状が現れると、制限を解除するのが怖くなります。 そのために、解除する時期が遅れる結果になることがあります。 患者のアレルギーにはかなりの個人差があります。 ほとんど何を食べても発疹がでる患者から、単なる検査所見が陽性の患者まで様々です。 制限を解除する時期や方法は、 @.食物の種類、 A.検査値(RAST、皮内テスト、スクラッチテスト) B.それまでの制限レベル、 C.食べたとき、症状があるかないか、 D.患者の年齢 によって、かなり違ってきます。 制限解除の食物の種類は、上記した離乳食の順序とほぼ同じ順に解除します。 検査数値で多少順序が変わる場合もあります。 検査数値としては、RAST値がピークを過ぎて、ある程度低下してきた時期がよいと思われます。 卵白RAST値で言えば、10 Ua/ml以下になった頃が頃合いです。 年齢が進んでくれば、50 Ua/ml以上、ときに100 Ua/ml以上でもできないことはありません。 ただ、数値が高いほど解除が難しく、解除するときにより低い濃度から始める必要があります。 制限解除の難しいものと易しいものもあります。 乳幼児の卵制限解除は比較的易しく、牛乳の方が難しく、小麦制限の解除はさらに難しいようです。 もし魚や果物などのアレルギーがあるときは、解除するのはもっと難しい可能性があります。 青少年期以降に初めて登場したOASやFDEIAのような食物アレルギーは、制限する以外にないことも多いようです。 卵以外のもので(たとえばソバ)、ときにかなり低い数値でも、非常に強いアレルギーを示すことがあります。 このような食物は制限を解除するのが難しく、解除するときは相当慎重に行う必要があります。 たまたま偶然食べて、何も症状がでないようなことがあったとき、その食物は制限を解除できる時期が来ていることを意味します。 ただ、このようなアクシデントによる解除の方法は、あまり好ましいことではありません。というものの、それまで毎日微量でも食べていれば、比較的簡単に解除できる場合があります。
風邪などをひいていると、おなかの具合も悪く、消化機能がよくないこともあります。 タンパク質が消化酵素で分解されてアミノ酸になればアレルギー反応は起きませんが、タンパク質のまま吸収されると、アレルギー症状が起きることがあります。 その意味で、体調のよい夏場は食物制限解除を試みる上で絶好のシーズンです。 また多少湿疹がよくなってきた頃の方が無難です。 湿疹がひどいときは、食べたことによる反応がはっきりしません。 原則として、強く制限している食品については、検査の数値に関係なく、その食品の加工品をごく少量から始めて下さい。 たとえば、耳掻き1杯程度から始める方がよいと思われます。 市販の加工品は、含まれている量はいろいろあり、量を表示されていません。 できれば自分で量を決めて、加工品を作り、与える方がよいと考えられます。 加工品を作るためには、たとえば卵の加工品を作るなら、まず小麦の制限が解除されている必要があります。 やむえず小麦以外の物(おかゆなど)で加工品を作ることは可能です。 強く症状がでる可能性があるときは、出来るだけ少ない%、たとえば、0.1〜1%程度の加工品から始めるのがよいでしょう。 とにかく症状が全く現れない量から始めることが重要です。 起きる症状としては、 1. 30分以内に、口腔粘膜や咽頭粘膜から吸収されて、口囲、あご、首の周り、顔面、目の周囲のかゆみのある紅斑。 咳や呼吸困難もあるかもしれません。 2. 1〜2時間後に、消化されたものが吸収されて、おなかの周囲、全身のかゆみのある紅斑。 ひどければ、アナフィラキシーショックです。 3. 数時間後に、遅発型反応として、喘息症状やじんま疹症状です。 4. 2、3日後に、かゆみのある湿疹ができますが、はっきりしないかもしれません。 このなかで、1と2は注意すれば、気がつきます。 現物しかないような食物、たとえば小麦を解除する場合、小麦のRAST値が高いときは、水に均一に溶いた小麦(おかゆ全体重量で0.1〜1%位から開始)をおかゆに混ぜて、もう一度十分加熱し、ごく少量から与えて下さい。 食事制限の解除は次のように行います。 まず初回量(ごく少量、鼻くそ程度)を与えて2,3時間、症状がでないかどうか観察してください。 何もなければ、2倍の量を与えて、さらに2,3時間観察してください。 症状がないのを確かめて、さらに2倍ずつ、徐々に増やしてください。 1回量がかなりの量になったところで、加工品に含まれる%を増やして、また最初から同じように繰り返してください。 1日に何度も繰り返してもかまいませんが、あまり性急に解除しない方がよいと思います。 RAST値が高いときは、ある程度慣らしていく過程が必要になります。同じ量を繰り返して与えたり、増やす割合をもっと少なくする方がよいときもあります。 また食べさせるのは、何かあったときのために、病院が開いている平日の昼間に行うことをおすすめします。 非常に濃度が低く、与えた量も極めて少ない初回量で、口囲などに紅斑が出現し、かゆがるときは、制限解除が困難ということになります。 徐々に量を増やして、何となくかゆみがでてきたときは、少し量を減らして症状がでないところでしばらく繰り返して与えてください。 そうしたところで、数日から1,2週過ぎたところで、もう一度量を増やして症状がでないかどうか確かめてください。 食べてかゆくなったり、じんましんがでたときは、走り回るのを控えて、安静にしていれば、2-3時間以内に自然に消えます。 少しずつ増やしていたときは、それまでの量や濃度で何も起こらなくて、少し増やしただけで強い症状が現れることはありません。 かゆみやじんましんが多少強いときは、抗アレルギー剤(かゆみ止め)をのませるのもよいでしょう。 まずは、少しずつ濃度や量を増やしながら、どの程度のものでアレルギー反応が現れるのか、それとも現れないのか、見きわめることです。 食事制限を解除することで、どうしても湿疹が悪化するようなら、制限を続行する以外ないかもしれません。 アトピー性皮膚炎は、食事以外にも様々な要因で悪化します。 悪化した場合は、冷静に客観的に原因を判断してください。 (卵制限解除の注意事項) ・厳密に制限しているほど、少し食べただけでも強い症状が出る。 ・加工品でもある程度食べていると、いきなり現物を食べても症状がでないことがある。 ・患者の体調が悪いとき、それまで平気で食べていたものでも症状が現れる場合がある。 ・皮膚に卵がついても、赤くはれる。 ・卵のついた手で目を触ると、真っ赤に腫れ上がることが多い。 ・口やのどの粘膜から吸収されると、顔や首が赤くなるときがある(30分〜1時間以内)。 その後、おなかから吸収されると、全身のあちこちが赤くなることがある。 ・引っ掻かなければ、全身の湿疹は悪くならない。 ・年齢が小さいほど強い症状が現れる。 ・風邪気味などの体調が悪いときは、実際よりも症状が強くなる。 (卵制限解除のやり方) (1).制限解除は医師の指示に従うこと。 体調の良い時に行うこと。 (2).卵を初めて食べるとき、いきなり現物から始めるのは危険。 (3).加工品はできれば自分で作る(小麦に混ぜたホットケーキが作りやすい)。 (4).加工品に含まれる卵の%は0.1〜1%から始める。全卵でよいが、卵黄から始めてもよい。 (5).原則として、RAST値が高いときは、0.1%程度の加工品を鼻くそ程度のごく少量から始めること。 RAST値がヒトケタ程度なら1%程度から始めてよい。 (6).食べた後は2時間程度間隔を開けて、症状がなければ2倍の量をもう一度与える。 平日の昼間に行うこととし、倍々と増やしながら、1日に2〜4回くり返す。 (7).1回量が20〜30gになれば、卵の%を倍にして、再びごく少量から同じことをくり返す。 ただし、RAST値が高いときは、同じ量を何回か繰り返して与えたり、%を増やすのは倍ではなく、もっと少なくする。 (8).もし、30分〜1時間以内に口の回りや顔、首が赤くなれば、症状の出ない最大の量に戻して、2、3日間くり返してから、もう一度量を増やす。 (9).赤くなれば、かゆみ止めを飲ませ、できるだけ安静にする。 赤みは数時間以内に自然に消える。 Copyright © 2003 Endou Allergy clinic All Rights Reserved |