付2.食物アレルギーにおける経口減感作について 人の体にはいろんな自分以外のもの(異物)が入ってきます。 食物や水は、生きるために必要なものとして口から体の中に取り入れています。 一方、体の中に入ってくると危険なものも、口や皮膚やあちこちから体の中に入ってきます。 自分以外のものの中でそんな危険なものには、いろいろありますが、細菌やウイルスなどの感染微生物がそれの代表です。 そんなものから、人の体を守るメカニズムが免疫です。 人は体に侵入してきた感染微生物の存在を認識し、白血球が集まり、敵を捕まえ、殺したり・食べたりします。 また、感染微生物に対して抗体をつくり、抗原−抗体反応で敵を破壊します。 ところが、アレルギー体質があると、感染微生物だけでなく、本来排除したり、守る必要がないものに対しても、白血球の反応が起きたり、抗体が作られたりします。 その反応は、白血球の異常反応、過剰反応を伴い、IgEタイプの異常な抗体もつくられます。 そんなことが起きる原因は、人の体に入ってきた自分以外のもの(異物)を、危険なものと間違えているからです。 すなわち、抗原を認識するメカニズムに異常が起きているのです。 卵アレルギーは、卵を細菌・ウイルスと間違えている、いわば抗原認識の異常がつくりだしたものです。 腸管に分布する免疫細胞が、体内に入ってきた異物(抗原)の認識を担当しています。 すなわち、食物アレルギーは、腸管免疫の異常によるものです。 あるいは、乳児であるために腸管免疫の未完成がつくったものです。 このことは、乳児の食物アレルギーは、成長が問題を解決する可能性を示しています。 抗原が体内に入ってアレルギーが作られることを感作(かんさ)と言います。 一方、ある程度以上食べていると、腸管免疫が正常に働いて、正しい抗原認識ができるようになり、アレルギーが抑えられることがあります。 この現象を経口減感作あるいは経口トレランスと言います。 アトピー性皮膚炎患者は、食物の場合、検査(RAST値や皮内テスト)で陽性になっていても、それを食べてもしばしば症状がないことがあります。 乳児のアトピー性皮膚炎でも、離乳食として食品を与え始めると、最初少しRAST値が高くなり、その後食べ続けていると、そのRAST値が下がってきます。 この現象を表す具体的な例として、次のようなことが上げられます。 (1).ミルクを飲んでいない母乳栄養の患者に牛乳アレルギーが多い。 逆に、人工乳の患者には牛乳アレルギーが少ない。 (2).離乳食の初期から食べている米のRAST値が高くなる患者は少ない。 また、米を食べてアレルギーを起こす患者は少ない。 (3).離乳食で食べているものについては、RAST値は下がりやすい。 食べていないものは、かえってその値が上昇したり、いつまでも食べられないことが多い。 (4).成人のアトピー性皮膚炎は、穀類のRAST値は陽性でも、それを食べて症状が出る患者はほとんどいない。 (5).RAST値陽性の食品をある一定期間(たとえば2週間以上)、完全に制限すると、次にそれを食べたとき強い症状が出ることがある。 (6).食物アレルギーは、ごくたまに食べる食品ほど起こりやすい。 たとえば、日常食べているエビよりも、たまにしか食べないカニの方がアレルギーが多い。 (7).野菜や果物の嫌いな子供に、植物のアレルギー、すなわち花粉症が多い。 これらのことは、いたずらに食事を制限するのは、かえって逆効果になる可能性も示しています。 そうはいうものの、食べているうちに、RAST値が下がりやすい食品と下がりにくいものがあります。 食品の種類でもかなり差があります。 食べて簡単に下がる患者と下がりにくい患者もいて、個人差もあります。 ソバや果物、魚のアレルギーはどちらかと言えば、トレランスに誘導するのが難しい食品です。 牛乳も食べて症状が出るとき、むしろ食べさせるのが難しい食品と言えます。 経口減感作はアレルギーを下げる有効な方法ですが、アレルギーが非常に強くて初めて食べるものについては、かなり危険な方法と考えられます。 経口減感作が生じるメカニズムとして、 腸管免疫を通じて抗原認識の異常が改善されるという説、 アレルギーを抑えるIgGなどの抗体(遮断抗体)ができるという説と、 大量の抗原を浴びていると常にアレルギー反応が起きているためにそれに対するヒスタミンなどが枯渇しているという説がありますが、まだはっきりしていません。 経口減感作の方法(詳細はこちらを参照)としては、主に、つぎの2種類の方法に分けられます。 1.漸増法 最初に与えるときは、必ず加工品から開始し、まず食べて症状が出ない濃度や量から始める必要があります。 アレルギー症状が心配なときは、問題となる食品の濃度を低くし(たとえば0.1%程度)、ごく微量(たとえば鼻くそ程度)から始めます。 それで症状がなければ、症状をみながら、倍々でも結構ですから、与える量や濃度を増やします。 そのうちに、口の周りや顔面、頸部などに軽いじんま疹症状が現れますが、症状が出るかでないかのぎりぎりのところまで食べさせて経過みます。 アレルギー症状が現れたときは、その前の量又は濃度に戻って、しばらく続けるか、少しくらいのアレルギー症状のときは、そのままの濃度と量で経過をみるのもよいでしょう。 そのうちに症状がなくなれば、量や濃度を増量します。 最初短期に母子入院して初回量を食べさせて症状の有無を確認し、そのまま外来や自宅で続けることも多いようです。 うまくやれば、自宅でもできます。 2.急速法 最初から大量を与えて、わざとある程度強い症状を出させるやり方です。 外来では無理で、入院が必要です。 症状が強すぎて、アナフィラキシーショックのようなものが起きる危険性や、アレルギー性腸炎の発症も報告されています。 急いで結果を出すにはよいかもしれません。 気道、鼻粘膜からタンパク質の形で直接体に入ってくるもの、たとえば、ダニや花粉、ペットの毛などについては、RAST値は一度上昇すると下がりにくい傾向があります。 しかし、毎日それを大量に浴びていると、徐々にそれに慣れてくる場合があります。 そのことは、 @.自分の家で飼っている犬はかゆくないが、よその犬はかゆい。 A.自分の部屋のほこりはなんともないが、よその家に行くとかゆくなる。 B.スギやイネ科の花粉症は飛散し始める時期に最も症状が強い。 などで示されています。 濃厚に接触しているとアレルギーがむしろ抑えられる説明は、接触しているペットやダニの抗原を食べてしまい、腸管免疫が機能しているためにトレランスが誘導されると考えられます。 このような現象は、あくまでかゆみやじんま疹・喘息などのT型アレルギーに限られます。 それで湿疹ができるかできないかは、多少とも別問題です。 実際、湿疹型の反応を起こすものについては、経口減感作を行うのは難しいかもしれません。 以前より、耳鼻科領域では、スギ花粉症やハウスダストの鼻炎の患者に対して、スギやハウスダストの抗原液を週に何回か皮内注射する減感作療法が行われています。 現在スギ花粉症に対して、スギ花粉の抗原液を用いた舌下免疫療法が治験中です。 欧米ですでに医薬品として使用されており、いずれ保険医療に登場します。 これは、スギ花粉の抗原液を食べることで、経口トレランスを誘導させ、花粉症を抑えようという試みです。 平成20年ころに、スギのアメ玉を食べて、テニスして、ショックを起こした例が報告されています。 舌下免疫療法がなかなか新しい治療法として登場しませんが、抗原液の使い方の難しさがあるかもしれません。 (平成26年6月より、シダトレンという製品名で処方されています。ただし、講習会を受けた医師のみが処方できるとのことです)(スギを英語ではcedar) アトピー性皮膚炎でも、ハウスダストを用いてこの減感作療法が行われることがあります。 かゆみに対して多少効果が認められますが、湿疹に対しては、今のところあまり良い結果は出てないようです。 むしろ悪化例の方が多いようです。 当科では、イネ科の時期(4〜6月)にアレルギー性鼻炎・結膜炎を伴って悪化するアトピー性皮膚炎に対して、経口減感作の応用として、玄米食をすすめています。 近くに生えているイネ科の植物をそのまま食べても良いのですが、そんな雑草に似たものとして玄米を選んでいます。 玄米は最初から量を多く食べるとかゆくなることがあります。 これも少しずつ増やしていくのがよいと思われます。 ダニを食べるとダニアレルギーが改善するという意見があります。 ダニでなくても、ダニに近いもの、たとえばクモを食べるといいかもしれませんが、むずかしいところです。 少し種類は遠くなりますが、昆虫類でもよいかもしれません。 イナゴやアリを食べるのは気が進みません。 ダニなどが大量についた古米がよいかもしれませんが・・・。 お好み焼き粉に増えていたダニを食べて、じんましんやアナフィラキシーショックを起こした例が多数報告されています。 いきなりダニを大量に摂取するのは危険です。 民間療法で言えば、ハチの成分をふくんだ蜂蜜やローヤルゼリー、プロポリスがそれに当たるかもしれません。 カビのついた餅やチーズを食べると、カビのアレルギーが抑えられるということかもしれません。 いずれにせよ、吸入アレルゲンについては、やはり抗原除去が最も有効な方法であることに変わりありません。 Copyright © 2003 Endou Allergy clinic All Rights Reserved |