要旨
患者:26歳、男性、公認会計士
初診:昭和63年8月16日
既往歴、家族歴:特記すべきことなし
現病歴:昭和62年1月頃、ガラス屋根の温水プールで約40分間泳いだ直後、突然体幹、四肢に紅斑と膨疹が出現した。
発疹は、衣類着用後30分ほどで消えた。
その後、同年夏に海水浴で10分程度日光を浴びたところ、紅斑と膨疹が出現した。
このときも、30分ほどで消退した。
しかし、発疹は初日のみで、2日目以降は出現しなかった。
患者は同じことを3回経験した。
なお、日常生活では発疹はほとんど出現しない。
現症及び検査成績:身長169cm、体重77kg、栄養良、喫煙歴はなく、飲酒歴はビール1本/日程度。全身所見に異常なし。尿・便・血中のポルフィリンを含めた検査所見に異常はなかった。
光感受性テスト:300Wハロゲンランプを光源とするプロジェクターランプを用いて、10cmの距離から背部に5分間、10分間照射した。いずれの時間とも、直後より著明な紅斑・膨疹が出現したため、日光じんま疹と診断した。
作用波長曲線の測定:3kWキセノンランプを光源とする日本分光のモノクロメーターを用いてMWD (Minimum wheal dose)を調べた。作用波長は320〜460nmで、320〜400nmの範囲で幅広いピークを示した。膨疹はMWDの近くでは、15〜30分遅れて出現する傾向があった。
抑制波長:抑制波長の存在を検討するために、プロジェクターランプで5分照射後、O-53、R-69の2種類のフィルターを光源の前に置き、同じ部位を続いて10分間照射した(O-53は530nm以下、R-69は690nm以下の光線を遮断することができる)。
いずれも照射直後より著明な紅斑・膨疹がみられ、抑制波長は存在しなかった。
O-53を装着して10分間照射したが、膨疹は形成されなかった。
O-53を装着して10分間照射後、同じ部位にプロジェクターランプで5分間照射すると、同様に著明な紅斑・膨疹が出現し、前照射による抑制もみられなかった。
試験管内血清照射試験:患者血清及び血漿を無菌試験管に取り、それぞれプロジェクターランプで0分、5分、10分、20分、30分、40分、60分間照射後、患者の左前腕に皮内注射した。
15分、30分、60分後に判定したが、すべて陰性であった。
被動転嫁試験、逆被動転嫁試験は行わなかった。
経過と治療:プロジェクターランプで5分間照射し、紅斑・膨疹が生じた同じ部位に、翌日同じ条件下で照射したところ、発疹のの形成がみられなかった。
これは、現病歴において、日光浴で初日のみ膨疹ができることと一致する。
検査終了後、日光じんま疹に最も有効といわれるホモクロミンを5日間投与し、プロジェクターランプ及びモノクロメーターで効果の判定を行った。
プロジェクターランプ5分間照射で、直後より照射部位に一致して紅斑・膨疹が出現したが、掻痒感は明らかに軽減していた。
また、モノクロメーターを用いて380nmでの膨疹を形成するエネルギーを求めたが、ホモクロミン投与前後でほとんど差がなかった。
考案:1904年、Merklenらは、日光によるじんま疹の一例を報告した。
その後、1963年Harberは、作用波長、被動転嫁試験、逆被動転嫁試験、及びポルフィリン体の有無から、日光じんま疹を6型に分類した。
Horioらは、1977年、試験管内血清照射試験で、患者血清中に光感作物質の存在を証明し、特にHarber分類のW型において、即時型アレルギーの関与を明らかにした。
さらに、1986年、Kojimaらは、400〜500nmに作用波長をもつ3症例から、分子量25,000〜45,000の血中抗原物質の存在を示した。
一方、1981年、長谷川と市橋は、日光照射終了後に初めて膨疹が出現することに注目し、膨疹反応を抑制する抑制波長の存在を証明した。
表1は、市橋らが、Harber分類に抑制波長と血清試験の項目を加えてまとめたものである。
表1 日光じんま疹の分類(船坂・市橋による) |
型 |
作用波長 |
抑制波長 |
被動転嫁試験 |
逆被動転嫁試験 |
血清因子 |
発症因子 |
T |
285〜320 |
? |
+ |
+ |
? |
アレルギー |
U |
320〜400 |
- |
- |
- |
+〜- |
不明 |
V |
400〜500 |
+ |
- |
- |
- |
不明 |
W |
400〜500 |
+ |
+ |
- |
+ |
アレルギー |
X |
280〜500 |
- |
- |
- |
+〜- |
不明 |
Y |
400 |
+〜- |
- |
- |
- |
ポルフィリン体 |
今回の患者は、320〜460nmに作用波長をもち、抑制波長はなく、Harber分類X型に該当する。
Kojimaらは、290〜460nmに作用波長をもつX型の2症例においても、分子量30万〜100万の抗原物質が存在することを明らかにしたが、本症例は血清試験が陰性であり、異なる結果を示した。
日光じんま疹は、20〜40歳代に好発し、性差はなく、作用波長400〜500nmのHarber分類V型とW型が多い。
抗ヒスタミン剤は多くの場合無効であるが、抗キニン作用を有するホモクロミンが著効を示すことがある。
PUVA療法の有効性も報告されているが、しばしば作用波長光の反復照射が有効である。
この患者も、既往歴及び反復照射で膨疹が抑制されたことから、反復照射が治療に有効と考えられる。
なお、Harber分類は、主として作用波長により半ば機械的に日光じんま疹を分けたものであり、今後、作用機序を加味した別の分類も検討する必要がある。
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