2.成人型アトピー性皮膚炎の治療について
「人は何のために生きるのか」とそれとなく患者に問いながら、そっと患者の気持ちを思いやりつつ、半ば言い聞かせるように、「アトピーのために生きるのではない。」と語りかけることがあります。
患者の苦痛は医師の苦悩であり、患者の喜びは医師にも少なからず感動を与えます。
思いがけず自分の患者となった人に、生きる喜びを思い出させることができなければ、医師としては失格かもしれません。
それだけに、まるで人生の主役にもなってしまったアトピー性皮膚炎を主役の座から引きずりおろすことこそ、患者を診る医師の責任と考えています。
アトピー性皮膚炎を治療するとき、患者はまずそれを忘れることが必要です。
適度に忘れながら、時々思い出すくらいがちょうど良いのです。
ところが、実際のところは、これがうまくいきません。
自分が忘れようとしても、家族、同僚、同級生、ときには知らない人が何やかやと思い出させてくれます。
これをしたらどうか、あれはどうかと患者に話しかけ、あとは知らぬ存ぜぬの無責任さで、いかにも親切を絵に描いたように寄ってきます。
いつの間にか精神的ないじめにもなっていることに気がつかないで、彼らは患者にいろんなことを押しつけてくるのです。
そんな押しつけは、医師も思いがけずやっています。
病気の治療は最小限の努力で最大の効果が得られるものが望ましいと言われます。
最大限の努力して少しもよい結果が得られなければ、かえってどうしょうもない失望が広がるだけです。
そうなると、何もしない方が余程まし、という投げやりな気持ちに陥ってしまうかもしれません。
アトピーの中で生きるなと言いながら、結局はそれを人生の主役に立ててしまうことにもなります。
医師は、患者にとって、「病気については出来損ないの教師」であり、ときに「出来の悪い生徒」のようなものです。
病気の本体は、むしろ患者自身の方が身をもって経験し、様々なことを細かなことまで学んでいます。
こんなときはどうすればよいかというのは、少なくとも自分については患者の方が詳しく、医師はそれに同意を与える相談相手のようなものです。
しかし、いろんな患者の意見をまとめて、それぞれの患者に合ったことを選んでアドバイスするのは医師の仕事と考えられます。
そんなとき、医師は多少は頼りがいのある伝道師になります。
このマニュアルはそんな医師の書いた出来の悪い伝道書みたいなものです。
アトピーのために生きる患者を一人でも救い出すことができれば、こんな素晴らしいことはありません。
アトピー性皮膚炎の治療の基本はというと、次のようにまとめることができます。
アトピー性皮膚炎では、患者の症状、年齢、生活や社会条件によって用いられる薬が異なります。
全く同じ状態であっても、患者や主治医の考え方で治療方針や薬が全然違うことも少なくありません。
ただ、治療の原則はあくまで原因除去であり、薬剤は単に補助的な手段に過ぎないと考えられます。
しかし、薬剤による治療がその場しのぎの一時的な補助的手段に過ぎないというものの、湿疹がなおらないのは、湿疹があるために、引っ掻いたり、精神的に落ち込んだりして、一種の悪循環を招いている場合もしばしば見られます。
この悪循環を薬剤などを用いて取りあえず断ち切ることで、その後よい結果が得られる場合もあります。
現在の生活を正常に送るために、積極的に治療する方が望ましいと考えられる場合もあります。
「アトピー性皮膚炎に自身が逃げ込んでしまう」のは、決して好ましいことではありません。
アトピー性皮膚炎が簡単によくならない場合、あるがままに現実を受け入れる気持ちも必要です。
あるがままに受け入れると言うことは、治療を拒否するということではありません。
なんとかよくなりたいという気持ちは、正しい姿です。
それがなければ、アトピー性皮膚炎がよくなることはありません。
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