1.はじめに
私は大阪大学医学部を卒業し、およそ1年半、中之島の大学病院で研修医をしていました。
そのとき出会った一人の患者が、私自身アトピー性皮膚炎と深くかかわるきっかけになっています。
その患者は35歳くらいの米屋の息子で、全身に掻破痕そうはこん(ひっかききず)をともなった湿疹がありました。
特に顔面の肥厚し、硬くなって苔癬たいせん化した病変は、治りにくさと共に、アトピー性皮膚炎が彼の人生にいかに影響を及ぼしてきたかを如実に表していました。
彼は、子供のころから両親に連れられて、あちこちの皮膚科・小児科を転々としていました。
強いステロイド外用剤を大量に使ってもよくならず、私が診察したときは、かなり以前よりステロイドの内服を併用していました。
何年か前からは、ステロイドの副作用とアトピー性皮膚炎の影響が重なって、白内障と水疱性角膜症のために、両眼ともほぼ失明状態にもなっていました。
そんな彼を見て、一体全体何がこのような結果を招いたのかと今になって考えてみますと、結局は、患者自身や家族がアトピー性皮膚炎という病気について正しい知識を持っていなかったことが災いしたと思えてなりません。
病気は医者が直すものであり、患者は医者の言うとおりやっていればよいと誰もが信じ、彼や彼の家族もきっとそんなふうに思っていたのでしょう。
それだけに病気の治りにくさは、少しずつ医者不信となり、結局はドクターショッピングに陥ることになります。
アトピー性皮膚炎のような慢性の治りにくい病気の場合、結局のところ、病気を治すのも悪くするのも、患者自身です。
医者は単に薬を出すだけの存在でしかないと、気がついたときは、もはや手遅れであったのかもしれません。
なぜもっと早く、湿疹ができる原因をじっくり腰を据えて考えなかったのか悔やまれてなりません。
そうならないために患者はどうすればよいかと言えば、それは、
1.話をじっくり聞いてくれる医者を探す。
2.アトピー性皮膚炎についてある程度知識を持つ。
3.自分自身を客観的に見て、柔軟に判断する。
ことでしょう。
言うのはとても簡単ですが・・・
このマニュアルは、「アトピー性皮膚炎患者ならば、これをすれば治る」というような立場で書かれたものではありません。
一人一人、原因も何もかも違っているだけに、患者が自分を考えるための資料となることを期待して書かれています。
私は、患者には、「患者は考える患者(Thinking patient)でなければならない」と、いつも話しています。
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