アトピー性皮膚炎と「ステロイド」

Q.
17歳の女子高校生です。
子供のとき湿疹がひどかったのですが、小学生以降かなりよくなっていました。
去年の夏ころからまた悪くなり、顔にもステロイドを使っていて、これでいいのか心配です。

A.
結論から先に言えば、今できている湿疹をすぐに治したいとき、ステロイドより優れたものはない。

ただ、ステロイドは抗炎症作用・免疫抑制作用によって、起きている湿疹をいわば強制的に抑えつけるだけで、原因そのものを除くわけでもなければ、湿疹ができる体質を変えるわけでもない。
さらに、ステロイドは同時にいろんな正常の免疫反応も抑制し、ときに細菌やウイルスの感染症をかかりやすくする。
また、接触皮膚炎を起こしやすくするとも言われ、化粧品や外用剤が合わなくなる一因ともなる。
長期に外用すると、皮膚がぺらぺらに薄くなったり、毛細血管の拡張や多毛も見られる。
顔につけ過ぎると、ステロイド皮膚炎を起こす場合がある。

それゆえ長い目で見れば、自然によくなるのなら、使わない方がよいとも言える。
しかし、ステロイドを使わないで湿疹がよくならないままにしておくと、かゆみのために掻爬を繰り返し、さらに湿疹が悪化することも多い。
また、手首の湿疹のために顔に湿疹が広がることがあるように、湿疹を放置しておくと別の部位に湿疹が広がることもある。
また、一度湿疹ができると、湿疹ができやすい部位として記憶され、同じところに繰り返し湿疹ができやすい。
また、湿疹が広がると、改善するためのステロイドの量は当然のことながら増えることにもなる。
ステロイドを注射(筋注、点滴)や内服で使用すると、外用剤より強い効果があるが、そのぶん全身的な副作用が問題となる

副作用のない薬は存在しないが、本来副腎皮質で合成され、生きていくためには必須のホルモンであるステロイドもまた、その例外ではない。

薬剤は使い方ひとつで毒にもクスリにもなるということだが、次回はその使い方を考えてみたい。

Q.
21歳の男子大学生です。
高三ころから湿疹が悪くなり、最近は全身に塗り薬を使っていますが、なかなかよくなりません。
これでよいか心配です。

A.
前回述べたように、ステロイドは単に炎症症状を改善するだけの対症療法にしか過ぎず、湿疹ができる原因を除くわけではない。
それでも、湿疹が広がるときには、これを使って抑える以外にないことも多い。

従って、ステロイドを使うかどうかの考え方としては、まず第一に、それを使って今ある症状を抑えた方がよいかどうかということになる。
湿疹ができても広がらず、自然によくなる傾向があるなら、しばらく外用せずに経過をみろということになる。

一方、原因がいろんな理由で除けず、放置してもどんどん広がるだけで生活にも困るとなると、外用剤を塗る以外にない。
たとえば、主婦の仕事が原因で手に湿疹ができているとき、二重の手袋その他で皮膚刺激を減らしても限界があり、結局、主婦を続けている間は多少ともステロイド外用剤に頼ることになる。

ステロイド外用剤は局所の免疫抑制作用によって、一般に5段階(最強、非常に強い、強い、おだやか、弱い)に分類されている。
当然のことながら、強いものほど湿疹を抑える効果は高く、皮膚が薄くなるような局所の副作用は強くなり、大量に使えば全身的な副作用も心配になる。
原因が除けない状態なら、強いもので完全に抑え込むよりも、むしろ少し弱めのもので経過をみることも多い。しかし、どんどん湿疹が広がるときは、ある程度強いステロイドで抑えた方がよいときもある。

湿疹の状態・部位、患者に接触皮膚炎の既往の有無、季節などで、基剤の種類(ワセリン、クリーム、ローション)が違ってくる。
ステロイドの吸収は体の部位で相当差がある。足の裏は角層が厚いために吸収が悪く、かなり強いステロイドでも大丈夫だが、顔面や陰部は吸収がよいために副作用が起こりやすい。
また、化粧でかぶれやすいような患者は、べとべとするかもしれないが、ワセリンタイプの方が無難である。

次回は、アトピー性皮膚炎に対するステロイドの使い方について述べてみたい。

Q.
2歳の男の子です。
夏場はよくなっていたのですが、秋になり体に湿疹が広がっています。
医師からステロイドの塗り薬をすすめられていますが、どうしようか迷っています。
A.
今回は、アトピー性皮膚炎でステロイドの外用剤を使うことの長所と問題点について述べたい。

確かに、ステロイドは単なる対症療法に過ぎないが、湿疹のために日常生活に困るときはこれを使うしかない。
ただ、一度使い始めたら、自然に使う量が少なくなるのはよいが、中途半端に止めない方がよい。
湿疹の原因や悪化要因が除かれていなければ、ステロイドが正常な免疫反応も抑えてしまう分だけ、使う前よりさらにひどくなることもある。

ステロイド外用剤は「最強」から「弱い」までの5段階の強さに分けられていることは前回説明した。
顔面や陰部はステロイドの吸収がよく、使うのなら「おだやか」以下のレベルに留めた方がよい。
特に顔面は長期に使っているとステロイド皮膚炎を起こしやすい。
湿疹がひどいときは作用の強いものでもよいが、よくなってくれば弱いものに変更すべきである。
いつまでも強いステロイドを使っていてよくならなければ、弱いもので経過を見ながら原因をもう一度見直すか、原因がなくなるまで時期を待つ気持ちも必要であろう。

子供はステロイドを大量に使用すると副作用が大人より起こりやすい。
特に内服すると、成長障害なども起きることがある。
睡眠に影響なければ、乳幼児は保湿剤や非ステロイド系の外用剤を併用しながら、ステロイドを外用せずに経過をみることも多い。
ただ夜間かゆみで何回も起きたり、家族がそれでいらいらするようなとき、引っ掻いてびらんがひどいときなどは、弱いステロイドを使うしかないかもしれない。

ステロイドを外用していてもなかなかそれをやめられないと、当然のことながら、いつまで続くのかと患者や家族は不安になる。
特に周囲からステロイドについて指摘されると精神的な影響を受けやすく、そっと見守る配慮も必要である。


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