7.掻破とかゆみ


遠藤薫:掻破とかゆみについて。かゆみQ&A、宮地良樹編、医薬ジャーナル社、東京、38-39、1997。


 
アトピー性皮膚炎などかゆみを伴う皮膚疾患は多数みられるが、実際そのかゆみを第三者が客観的に評価する場合、適当な手段がないことが多い。
 臨床的には、患者に問診するか、皮膚の掻破痕の程度で判断する以外にないようである。
 かゆみの測定法は、大きく次の3種類の方法に分類できる(1)。

@.C fiberの活動電位を微小電極で記録
A.患者自身による自己評価
B.掻破の分析

 Aの自己評価法には、Visual analogue scale (VAS)やPain-Trackがある。VASは100mmの線分に、掻痒の最小を0、最大を100mmとして、患者自身がその時のかゆみに応じてプロットする。
 一方、Pain-Trackは重量350gの器具で、かゆみの程度で0から6までのボタンを押すと、自動的に記録される。
 これを改良したSymtrackは、VASと同じ測定をレバ−で行い、経時的に測定時間を知らせる工夫もなされている。
 これらの欠点として、測定が患者の労力に依存していることや、目を覚ましている時間しか測定できないことがあげられる。

 そのために、かゆみの抑制の働かない夜間睡眠中において、かゆみによる掻破行動を分析する方法がいくつか報告されている。
 センサーとして、それぞれ筋電図、時計の自動巻機能、万歩計様器具、paper strain gauge、レーダーシステムを利用し、患者の腕や手の動き、あるいはベッの揺れを測定する。

 筆者自身もマイクロスウィッチや圧力センサーを用いた方法を報告している。
 欠点として、患者の一部に器具の装着によって不眠を訴えるため測定できないことがあること、掻破行動以外の動きを感知したり、掻破の種類によって感知しない場合があることがあげられる。
 ただ、かゆみを客観的数値として評価することが可能であり、治療効果の比較検討などにかなり有効な手段となりうる。

 
かゆみを掻破行動で評価する方法として、実際に患者を昼間または夜間に観察する方法もある。夜間監視システムで直接見ることは最も確実な方法であり、そのビデオ分析が報告されている。
 しかし、睡眠時間全体のビデオを見るのは相当労力と時間が必要であり、多数の患者の分析には何らかの機械的解析手段が必要と考えられる。

 乳幼児については、昼間においても掻破の抑制が働かないため、外来でも掻破行動の分析でかゆみを評価することが可能である。
 われわれは、以前乳幼児の外来における掻破行動をビデオ分析し、報告している。
 乳幼児アトピー性皮膚炎79名(0歳28名、1歳33名、2歳18名)について、脱衣直後より生じる掻破行動をビデオにとり、分析した。
 68名(86.1%)で掻破を示したが、0歳児は有意に低かった(67.9%)。掻破形式として、連続3回以上同一部位掻破するものを集合性掻破、3回未満のものを散発性掻破とすると、58.8%は集合性掻破であった。
 集合性掻破は、0歳児で有意に少なく(26.3%)、重症で多く(63.0%)、乾燥肌の患者に有意に多かった(73.1%)。
 掻破部位は79.1%で皮疹に一致していたが、皮疹のないところを掻破する患者も少なくなかった。
 掻破速度は、1.0〜1.4/sが最も多く(45.0%)、年齢とともに増加する傾向が見られた。

 成人のかゆみを測定する方法として、われわれは圧力センサーを利用したスクラッチモニターを開発した。
 これは1分ごとに掻破の回数を記録する。睡眠中の平均掻破数(回/分)は患者で6.36、健常人で0.56であった。
 掻破は睡眠前期で最も高く、中期、後期になるに従い有意に減少していた。
 この器具は患者の睡眠障害の評価に用いることも可能である。


1. Hagermark O and Wahlgren CF : Some methods for evaluating clinical itch and their application for studying pathological mechanism. J Derm Science,4:55-62,1992



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