4. アトピー性皮膚炎のかゆみ



遠藤薫:アトピー性皮膚炎のかゆみについて。かゆみQ&A、宮地良樹編、医薬ジャーナル社、東京、48-49、1997。

 アトピー性皮膚炎は著明なかゆみを特徴とする皮膚疾患で、しばしば抗ヒスタミン剤が有効でない場合が多い。
 われわれはスクラッチモニターを用いてアゼラスチンの効果を測定したところ、IgE1000IU/ml以上あるいはLDH450U/L未満(中等症以下)の患者には有意な抑制効果がみられたが、IgE1000IU/ml未満あるいはLDH450U/L以上(重症)の患者では有意な効果は認められなかった。
 抗ヒスタミン剤の止痒効果は、抗ヒスタミン作用よりも鎮静作用によるという意見がある。IgEアレルギーを伴っていないアトピー性皮膚炎も少なからず存在する。
 これらのことは、アトピー性皮膚炎のかゆみが単に肥満細胞や好塩基球由来のヒスタミンのみで説明できないことを示している。

 ただ、以前より、アトピー性皮膚炎患者にヒスタミンを皮内注射すると、膨疹やフレアが健常人に比べて小さく、かゆみも低下しているという意見がある。
 Histamine receptorのdown regulation が原因と言われている。
 しかし、当科の吹角が10−5g/mlのヒスタミンを皮内注射した結果では、アトピー性皮膚炎患者の方がかゆみが強く、特に皮疹部に強く、これまでの報告とは異なった結論になっている。

 サブスタンスP(SP)はヒスタミンを介してかゆみを生じるが、SPのdepletionを起こすカプサイシン(当科では0.025%又は0.0125%の軟膏を使用)を繰り返し外用すれば、治療としてかゆみの抑制に用いることができる。
 カプサイシンの外用は痒疹型に向いているが、広範囲に外用すると熱感が強く、外用法が難しい。
 カプサイシンの有用性から、アトピー性皮膚炎では、抗原の結合によって肥満細胞からヒスタミンが枯渇しているために、ヒスタミンをメディエーターとするかゆみが低下していると考えることもできる。

 アトピー性皮膚炎に白癬を合併すると、患者は「水虫の方がかゆい」と訴えることが多い。
 上原らは、DNCBによる接触皮膚炎の方がかゆく、アトピー性皮膚炎が他疾患よりかゆみが強いとは限らないと
報告している。
 これらの事実は、それぞれかゆみの質の違いを示している。

 患者を観察していると、彼らは昼間活動中はほとんどかゆくないと言う一方で、無意識に掻破している場合がある。これはかゆみによるものではなく、一種のHahituation という意見がある。
 緊張していると患者はかゆみを感じないが、ときに逆に掻破が増強することもある。
 また、患者は、血が出るほど掻破して、ようやくかゆみが止まる。
 掻破することで、かゆみが他に広がる傾向もある。
 かゆみは、交感神経の抑制を受けているが、心理的要因の影響も大きく、脳における制御系も存在すると思われる。
 本来、かゆみは、痛みと同様に無髄のC fiber を介して反対側の大脳皮質に伝えられる一方、同側の大脳皮質にも伝えられて掻破という運動を起こすと言われている。

 SPやVasoactive intestinal peptide(VIP)などの神経伝達物質は皮内注射するとかゆみを生じるが、βーendorphinなどのopioidsも同様にかゆみを起こすことが知られている。
 また、ヒスタミンは中枢あるいは末梢神経にも存在し、神経伝達物質として機能していると考えられている。

 抗ヒスタミン作用を有しないcyclosporin A、あるいはステロイド外用・内服がかゆみを抑制することから、かゆみの原因として、様々なサイトカインの関与が示唆されている。
 IL2 の皮内注射でかゆみが誘発されたという報告があるが、Th2系のIL4、IL5などにかゆみを起こす作用があるか明らかになっていない。
 臨床的には、好酸球数高値の患者にかゆみが強いことから、ECPやMBPなどの好酸球性蛋白がかゆみを生じる作用を有している可能性がある。




Copyright © 2003 Endou Allergy clinic All Rights Reserved