抗アニサキス抗体陽性を示した慢性蕁麻疹の1例
(学会報告)
遠藤薫他:抗アニサキス抗体陽性を示し、魚制限が有効であった慢性蕁麻疹の一例。第48回日本皮膚科学会中部支部総会、1997。
症例
患者:33歳、男性
初診:平成9年2月24日
主訴:嘔気、胸部苦悶感、顔面腫脹を伴った全身の膨疹
家族歴:特記すべきことなし
既往歴:平成7年8月より高血圧(アムロジン、アルマール(1カ月前よりコナンに変更)内服中)
現病歴:平成8年11月はじめ頃、何ら思い当たる誘因なく、下肢に膨疹が出現、レスタミン内服で一時軽快した。
しかし、1週間後再発したため、内服している降圧剤を中止したが変化なかった。
その後、再び、動悸、息苦しさ、熱感、顔面腫脹、軽度の下痢を伴って全身に膨疹がみられ、近医でプレドニン5〜10mgを点滴した。
それからは、セレスタミン3錠/日、アレジオン1錠/日を内服していたが、症状が出なくなり、自己判断で中止した。
同年12月〜1月にかけて、頻回に嘔気、嘔吐が出現するため、アゼプチン、トリルダン、タガメットを投与されたものの軽快しなかった。
2月初めころから、再びセレスタミン3錠/日を内服するも症状が軽減しないため、当科初診した。
近医の検査で、IgEがやや高いが、RASTはすべて陰性であったと言われている。
なお、1月に再び降圧剤を一時中止したが、症状の改善はなかった。
(注:プレドニン、セレスタミンは副腎皮質ホルモン剤、すなわちステロイド)
検査所見
IgE 221 IU/ml,
RAST(HD0.01, Df0.02, Dp0.03, 卵白0.00, 牛乳0.00, 小麦0.00, 大豆0.01, 米0.00,
ソバ0.01, カンジダ0.01, アルテルナリア0.00, アスペルギルス0.00,クラドスポリウム0.01,
ペニシリウム0.01, ピティロスポルム0.00, ブタクサ0.03, カモガヤ0.01, スギ0.02,
犬皮屑0.00, 猫皮屑0.11, 牛皮屑0.01, 羊上皮0.00, 家兎上皮0.00, タラ0.00,
マグロ0.00, サケ0.00, サバ0.03, アジ0.02, イワシ0.04, カレイ0.04, 牛肉0.03,
エビ0.00, イカ0.00, タコ0.08, ゴキブリ0.08, ヤブカ0.08,ラテックス0.01,
カイチュウ0.26, ホウチュウ0.11, アニサキス41.59)。
GOT20, GPT34, LDH326, TP7.3, A/G2.1, GTP28, UN14.7, Crnn1.1, CRP0.3, Na143,
K3.6, Cl106, GF113,
WBC7700(Eo1%), RBC484, Hb16.8,
ASLO<200, RA(-), IgG751, IgA176, IgM128, ANA(-), T cell 73.3, B cell 10.9, CD4+42.7, CD8+35.8, CD4/8 1.19。
腹部エコーで脂肪肝。胃内視鏡でびらん性胃炎(ステロイド性?)。
入院後の経過:2月24日入院。
ザジテン2cap/日、アタラックスP2cap/日内服で特に著明な膨疹はみられなかった。
25日午後7時前(午後6時夕食)より嘔気、咽頭閉塞感、胸部苦悶感を伴って、顔面、頸部、上胸部に膨疹出現、徐々に全身に蕁麻疹が拡大。
ソリタT3でルート確保し、経過観察したが、翌日朝には軽減していた。
しかし、26日午後7時前ころより再び同様な症状が出現した。
25日夕食でサバの塩焼き、26日夕食でアナゴ巻きを食べていたため、 魚が原因と考え、以後魚制限とした。
3月2日8時と13時に同様な症状があったが、その後徐々に軽減。
3月7日内服中止した。
以後、食後に軽度の症状が見られるものの、著明 なものはなく、3月11日退院した。
退院後、以前のような強い蕁麻疹はみられないが、時々軽度の蕁麻疹を繰り返すため、ザジテン1cap/日、アタラックス1錠/日を内服している。
なお、3月4日より降圧剤を中止、退院後はエースコール1錠/日を、 3月25日以降フルイトラン1錠/日を内服している。
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昼食 |
夕食 |
2/25 |
中華風煮込み グラタン
豚肉 カボチャ
むきエビ みかん
うずら卵 いちご
チンゲサイ 漬け物
タマネギ 沢庵
みかん |
サバの塩焼き
みそ汁
肉じゃが みそ
牛肉 タマネギ
糸こんにゃく 油揚げ
ジャガイモ えのきだけ
冷ピース あおねぎ
タケノコ みぞれ和え
ニンジン 大根おろし
シイタケ 白菜 |
2/26 |
トンカツ のっぺい汁
豚肉 小芋
卵 大根
パン粉 ニンジン
ジャガイモ 厚揚げ 白ゴマ
ひじき煮 山菜和え |
穴子巻き レモン煮
焼き穴子 サツマイモ
卵 レモン
三度豆 ふりかけ
ひじき きくらげ
ニンジン えの
菊菜 |
誘発試験
3月6日、サバ塩焼き(尾部) 陰性
3月10日、カレイムニエル 陰性
アニサキス幼虫 Anisakis spp. larvae
線虫類
海獣の回虫(終宿主)
オキアミ類が第1中間宿主
海産魚(サバ、イワシ、アジなど)、エビ・カニ、イカ・タコなどに広く分布(第2中間宿主)
体長約2〜3cm
魚肉中に幼虫がコイル状にとぐろをまいているので小さく認めにくい。
イワシでは2-4月に多く見られ、他の月は少ないといわれる。
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アニサキス症 Anisakiasis
1960年、オランダのVan Thielらがherringで最初に報告した。
アジア、特に日本で報告が多い。
壮年の男子に多い。
アレルギー体質、低胃酸症が関係する。
幼虫がヒトの胃壁・腸壁に侵入する。
局所の粘膜下層に浮腫、出血、好酸球浸潤が著明となり、周囲に膿瘍を形成。
やがて、好酸球性肉芽腫を形成。
急性期には、腹痛・悪心・嘔吐など、急性腹症に類似した激しい症状を呈する。
アニサキスの抗体がある状態で、新しく生きたアニサキスが胃壁に侵入すると、強烈な胃アニサキス症とショックに近いアレルギー反応が起きる。
慢性期には、胃潰瘍・胃腫瘍を思わせる症状とじんましんを示す。
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J Allergy Clin Immunol 1995: 96: 558-60.
Case Report
A 52-year-old woman had four anaphylactic episode.
These began with intense itching in the axillary and groin folding, eyes, and vulva, which spread with generalized urticaria and facial angioedema.
These were accompanied by intense hypogastric pain with lumbar bilateral irradiation, rectal tenesmus, and abdominal cramps.
30 minutes after eating hake.
Results of skin prick testing with foods, drugs, and preservatives were negative.
Total IgE 816kU/L. Specific IgE for Anisakis simplex 90.8, Ascaris lumbricoides 4.01.
Results of skin prick testing with an extract of A. simplex (crude, heated, and boiled) were positive.
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